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争点の解説

4 安全配慮義務違反について

 安全配慮義務は、企業に対するものと国に対するものがあります。従来の判決は、いずれに対しても、被害者が強制連行されたという点を重視して、被害者は企業、国と契約類似の関係にはないとして否定していました。しかし、企業の安全配慮義務違反については、広島地裁西松判決で認めて以来、京都地裁大江山判決、新潟地裁判決、福岡高裁三井判決と認める判決が続き、企業に関するこの問題は一定の流れを形成しつつあります。


企業の安全配慮義務

 京都地裁大江山判決は,「原告ら六名と被告会社との関係は,被告会社が労務提供のため指定した作業場所で,そこに設置されている設備もしくは器具等を使用し,その指示の下に原告ら六名が就労させられていたものである。そして,本件移入政策上は原告ら六名と雇用契約を締結することが予定されていることを,被告会社は十分に承知していたにもかかわらず,契約の締結を待つまでもなく労働関係が設定できると考えて,ことさら契約関係を結ばなかったために,両者間に契約等の法律関係が生じなかったものである。したがって,被告会社は,契約を締結することなくして,原告ら6名との間で,同人らが被告会社のために継続的に労務に服すべき労働関係を設定したものというべきである。そうであれば,被告会社は,故意の不法行為によって上記労働関係を形成,維持したものであるから,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入ったといわなければならず,したがって原告ら六名に対して安全配慮義務を負うものというべきである」と判断しました。
 広島地裁西松判決は,「被告(西松建設)は,安野事業場に移入された中国人労働者との間に,直接の契約関係はないが,被告と華北労工協会との間の上記契約によって,被告の設定した労働現場において,被告の設置管理に係る設備機器等を提供し,他の雇用関係ある日本人一般労働者と役割分担の上,中国人労働者を指揮監督し使役するとともに,その生活全般等をも監視し,管理掌握する関係にあったことが明らかであるから,被告と中国人労働者の関係は,同協会を介在させた特殊な雇用契約類似の法律関係というべきものである。」との判断を示し,使役企業である西松建設との間の安全配慮義務の成立を認めました。
 安全配慮義務を認める上で前提となる点は、本件における安全配慮義金が通常の労働災害を問題としている事件ではなく,「生命健康保障義務」と呼ぶのが適切な義務の不履行を問題としていることにあります。こうした内容を前提として検討すれば、企業の義務違反は認められるべきです。


国の安全配慮義務

 問題は、国の安全配慮義務違反を認めるかどうかです。現在、国の違反を認めたものは、新潟地裁判決一件だけです。
 強制連行・強制労働に関するものではないですが,二〇〇三年七月二二日の東京高裁アジア太平洋戦争韓国人補償判決は,「安全配慮義務の成立の前提となる『特別の社会的接触関係』は,当事者間に直接的な契約関係ないしこれに準ずる法律関係が存在しない場合であっても,事実上,施設管理や当事者間に直接具体的な指揮,監督等による労務の支配管理性が存在する関係がある場合には,これに応じた関係を認めることができ,当事者間にはこの具体的な状況や事実関係に応じた特定の内容の安全配慮義務関係を認めることができるというべきである」とし,国が,「慰安婦の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負う場合があり得たことは否定できない」としました。
 国の義務違反を検討する点で注目されるべき点は、需会社法,軍需会社充足令によって設定された法律関係の存在です。
 一九四三年一〇月には,軍需会社法が制定されました。そして,軍需省・陸軍省・海軍省・運輸通信省告示によって,多くの企業が軍需充足会社に指定されました。
 軍需会社法によれば、中国人労働者は,国家総動員法四条,国民徴用令によって徴用された日本国民と全く同じ立場にあることになるか、ほぼ同様の立場にあったとみることができます。
 さらに、国家総動員体制の下では国家と企業との関係は企業の「国家化」ともいえる関係問題となります。
 軍需会社の性格を一言でいうならば,「国家の要請によって国家の必要とする生産を責任をもって遂行する国家の一機関」ということになります。軍需会社の労務管理の特徴を一言でいうならば,国と企業の労務管理が完全に一体化しているということです。これによれば、国の機関である生産責任者,生産担当者,国の行政担当者,究極的には主務大臣が強制連行された中国人労働者の衣食住等の労働環境の整備を行っていたとみることができ、この点からの国の安全配慮義務違反がさらに検討されるべきです。

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