ひとりあそび p.1
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「引っ込み思案な子で」とも「愛想のない子で」とも言っているのを聞いたことがある。(そんな、いつもヘラヘラ笑ってられるわけないじゃん。)とチカは心の中でつぶやくと、(・・・なおちゃんみたいに。)と付け加えた。
チカが一人っ子なのに、なおちゃんは一つずつ、歳の離れた弟と妹がいる、お姉ちゃんだ。 おかあさんがよそのひとに、チカのことを話しているとき、いつも困ったような顔をしている。全部の意味はわかんなくても、おかあさんは、チカのことを暗い子だと思っているんだ。おかあさんは、チカがなおちゃんみたいな子だといいんだ。なおちゃんはいつもにこにこして、呼ばれると大きな声でお返事する。なおちゃんは、いつも、弟や妹を遊びにつれてくる。チカだったら、せっかくかいた絵にいたずら書きしたり、すぐ泣きわめくような、ちっちゃい子と遊ぶなんて絶対にいやだ。 なおちゃんは、弟や妹にいじわるなんかしたことがない。 大人のひとが、何かくれたとき、なおちゃんは「ありがとうございます。」って、大人の人がいうみたいに、お礼をいうんだ。チカだったら、「どうも。」とか、ぺこりと頭を下げるくらいしかできない。 だって、恥ずかしいじゃない。なんで、なおちゃんは恥ずかしくないんだろ・・・なんでいつも、笑ってるの。 でも、なおちゃんみたいなハキハキしたいい子だったら、お母さんはチカのこともほめてくれるのかな。 今日も、なおちゃんと一緒に遊んだ。めずらしく、なおちゃんはひとりで、チカのうちに遊びにきた。人形で遊ぼうといったら、なおちゃんはリカちゃんと、人形の着替えの入った小さなバックを持ってきた。 チカが好きなのは、ホテルごっこと人形のファッションショーだ。 ベッドやふとんを空き箱と、ハンカチで作って、いく通りもの部屋を用意する。ひとりがお客さんになって、すきなへやに入って、遊ぶ。これがホテルごっこ。 ファッションショーは、ハンカチ、タオル、ひも、をいっぱいそろえて、人形たちに、布をまきつけて、結んだり縛ったりしてドレスにする。 服を着せ終わって、準備ができたら、ステージを用意する。テーブル、段ボール、座布団・・・広くて平らなところだったら何でもいい。 そこを、リカちゃん人形たちに歩かせる。くるりと回らせてお辞儀をする。 もちろん、服の解説付きだ。「・・・ピンクのレースがかわいい、ドレスです。赤いリボンと膨らんだスソがポイント・・・」みたいに。
「旅行ごっこがいいよ。」なおちゃんがめずらしく、チカとは別のことをいった。 「だって、このバック買ってもらったんだ。」 なおちゃんは、赤くて金の刺繍がはいった小さなバックをうれしそうに付きだして見せた。 「チカはバックないよ。」 「わたしが旅行するから、チカちゃんがホテルのひとやって。」 「・・・いや。」 「そうなの?じゃあ、帰る」 「えっ」 ほんとになおちゃんは、そのまま帰ってしまった。 怒った?なおちゃん。でも、そのまま帰るってないじゃない。みんなが思っているようなイイ子じゃないよ、なおちゃんは。すました顔して、いじわるなんだ。 その次の日、近所に住んでいる、エライ画家の先生のお家で、お祝い事があった。その先生がなんか賞をとったらしい。町内の人が、20人ぐらい集まって、ご馳走がたくさん並べられている。 こどもはチカとなおちゃんの2人だけ。 エライ先生は、上座というところにアグラをかいて、座っていた。 大人たちはお酒を飲んで、ご馳走を食べていたけど、チカとなおちゃんはお膳の前で、もぞもぞしてた。昨日のことがあったから、チカはなおちゃんの方を見ないようにしていた。 「こっちへ来て。ほら、ここに座って。」 お酒を飲んでいた、先生がなおちゃんを呼んで、自分の右膝の上に抱き寄せた。 先生の左側がぽっかり空いている。 いつものチカだったら、もじもじして逃げちゃうけど、なおちゃんには負けたくない・・・ 「チカちゃん・・・」先生がそう言いかけたとたん、チカは先生の左膝を目掛けて飛び込んだ。 「おっほおー。元気がいいねえ。」 チカはチラと両親の方に目を走らせた。 (ねえ、いつものチカとちがうでしょ。自分からいったんだよ。) お母さんは知らん顔をしていた。 お父さんの口が「こら。」というように動いたように見えて、チカは思わずうつむいて、お父さんの顔から目をそらしてしまった。 |
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