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中野 聡
「南方」占領基本政策の推移1.南方占領地行政実施要領(1941.11.20.大本営政府連絡会議決定) 第一 方針 占領地ニ対シテハ差シ当タリ軍政ヲ実施シ治安ノ快復、重要国防資源ノ急速獲得及作戦軍ノ自活確保ニ資ス 占領地領域ノ最終的帰属並ニ将来ニ対スル処理ニ関シテハ別ニ之ヲ定ムルモノトス 第二 要領 一 軍政実施ニ当タリテハ極力残存統治機構ヲ利用スルモノトシ従来ノ組織及民族的慣行ヲ尊重ス 二 作戦ニ支障ナキ限リ占領軍ハ重要国防資源ノ獲得及開発ヲ促進スヘキ措置ヲ講スルモノトス 占領地ニ於テ開発又ハ取得シタル重要国防資源ハ之ヲ中央ノ物動計画ニ織リ込ムモノトシ作戦軍ノ現地自活ニ必要ナルモノハ右配分計画ニ基キ之ヲ現地ニ充当スルヲ原則トス 七 国防資源取得ト占領軍ノ現地自活ノ為民政ニ及ボササルヲ得サル重圧ハ之ヲ忍ハシメ宣撫上ノ要求ハ右目的ニ反セサル限度ニ止ムルモノトス 八 米、英、蘭国人ニ対スル取扱ハ軍政実施ニ協力セシムル如ク指導スルモ之ニ応セサルモノハ退去其ノ他適宜ノ措置ヲ講ス....原住土民ニ対シテハ皇軍ニ対スル信倚観念ヲ助長セシムル如ク指導シ其ノ独立運動ハ過早ニ誘発セシムルコトヲ避クルモノトス 九 作戦開始後新ニ進出スヘキ邦人ハ事前ニ其ノ素質ヲ厳選スルモ嘗テ是等ノ地方ニ在住セル帰朝者ノ再渡航ニ関シテハ優先的ニ考慮ス 一〇 軍政実施ニ関連シ措置スヘキ事項（略） 同上、別冊第一 其三 財政、金融、通過、貿易 十六 軍政施行ノ当初ヨリ貿易及為替管理ヲ実施シ特ニ石油、護謨、錫、タングステン、キナ等ノ特殊重要資源ノ対敵流出ヲ防止シ経済戦ノ遂行ヲ容易ナラシム 其四 資源ノ開発取得 十九 押収セル工場、事業場中必要ナルモノハ差当リ軍ニ於テ之ヲ管理スルモ成ルヘク速カニ民間業者ノ経営ニ委スルモノトス 二十 重要資源ノ地域別開発取得規模別紙ノ如シ （別紙抜粋）比律賓 開発取得目標：○マンガン50、○クロム50、○銅100、取得目標：△鉄300、マニラ麻75、コプラ150／英領馬来 開発取得目標：△ボーキサイト100、○マンガン30、△鉄500、取得目標：錫10、生ゴム100....／英領ボルネオ 開発取得目標：○石油500／蘭領印度 開発取得目標：○石油600、○ニッケル100、△ボーキサイト300、○マンガン20、取得目標：錫10、生ゴム100、キナ皮1、キニーネ0.1....［単位：千屯、○印ハ...最大限ニ開発シテ国内ニ輸送ス、△印ハ船腹ニ余裕ヲ生シタル場合増額 其七 宗教 二十七 既存宗教ハ之ヲ保護シ信仰ニ基ク風習ハ努メテ尊重シ民心ノ安定ヲ図リ我施策教化ニ協力セシム 其八 宣伝 二十八 原住民族ニ対シテハ先づ皇軍ニ対スル信倚観念ヲ助長セシムルニ努メ逐次東亜解放ノ真義ヲ徹底シ我作戦施策ニ協力セシメ資源ノ確保敵性白人勢力ノ駆逐等ニ利用ヲ考慮ス （「南方の軍政」、91-95頁）
2.大東亜政略指導大綱 (1943.5.31.御前会議決定) 第一 方針 一 帝国ハ大東亜戦争完遂ノ為帝国ヲ中核トスル大東亜ノ諸国家民族結集ノ政略態勢ヲ更ニ整備強化シ以テ戦争指導ノ主導性ヲ堅持シ世界情勢ノ変転ニ対処ス 政略態勢ノ整備強化ハ遅クモ本年十一月頃迄ニ達成スルヲ目途トス 二 政略態勢ノ整備ハ帝国ニ対スル諸国家民族ノ戦争協力強化ヲ主眼トシ特ニ支那問題ノ解決ニ資ス 第二 要領 一 対満華方策（略） 二 対泰方策（概要：相互協力ノ強化、マライ失地回復、国境ノ調整） 三 対仏印方策 既定方針ヲ強化ス 四 対緬方策 昭和十八年三月十日大本営政府連絡会議決定緬甸独立指導要綱ニ基キ施策ス 五 対比方策 成ルヘク速ニ独立セシム 独立ノ時期ハ概ネ本年十月頃ト予定シ極力諸準備ヲ促進ス 六 其他ノ占領地域ニ対スル方策ヲ左ノ通定ム 但シ(ﾛ)(ﾆ)以外ハ当分発表セス （イ）「マライ」、「スマトラ」、「ジャワ」、「ボルネオ」、「セレベス」ハ帝国領土ト決定シ重要資源ノ供給源トシテ極力之ガ開発並ニ民心ノ把握ニ努ム (ロ）前号各地域ニ於テハ原住民ノ民度ニ応シ努メテ政治ニ参与セシム （ハ） ニューギニア等（イ）以外ノ地域ノ処理ニ関シテハ前二号ニ準ジ追テ定ム （二） 前期各地ニ於テハ当分軍政ヲ継続ス 七 大東亜会議 以上各方策ノ具現ニ伴ヒ本年十月下旬頃（比島独立後）大東亜各国ノ指導者ヲ東京ニ参集セシメ牢固タル戦争完遂ノ決意ト大東亜共栄圏ノ確立トヲ中外ニ宣明ス （「南方の軍政」、49頁）
日比関係(1935-41)3.宇垣大臣「ケソン」比島大統領会談要旨 1938.7.8. 於 大臣官邸
大臣....唯一言茲ニ申述度キハ、比島カ完全ナル独立ヲ為ス暁ニ於テハ中立保障ノ問題モ漸ク世ノ中ノ問題トナルヘク、其ノ際日本ハ極メテ好意的考慮ヲ加ヘテ善処シ度キ所ナルニ付、此ノ点ハ十分御含ミ置ヲ戴キ度シ
大統領....今回ノ旅行ノ結果日比間何等恐ルルモノナキヲ知リ甚タ愉快且ツ満足ト考フル次第ナリ....大統領任期終了(＊註：1941年、実際には同年11月選挙で再選された)後ハ一比島市民トシテ自己ノ個人的勢力ヲ以テ日比親善関係ノ基礎ヲ固ムルニ終世ヲ捧クル心組ナリ.... （外務省記録L.1.3.0.2-9）
4.内山清マニラ総領事発・有田外務大臣宛電報 (1936.11.4.) 外国人入国取締ニ籍口セル外国労働者入国禁止案カ議会ニ提出サレテ以来本官ト大統領トノ交渉及木原ノ対議会内面工作ニ関シテハ随時電報セル通リニシテ....対議会対策ハ「オプス」予算委員長ノ木原トノ内話ニ基キ先ツ労働移民委員長ヲ抱込ミ....成功謝礼ノ授受ニハ諸隈（＊註：諸隈弥作。太田興業社長）ヲシテ当タラシメ不取敢「ダバオ」土地問題対策資金中諸隈保管ノ分ヨリ１万２千「ペソ」ヲ内密ニ支出セシメタルカ.... （外務省記録A.6.0.0.1.33-1.）
5.内山マニラ総領事発・広田外務大臣宛電報 (1937.10.16.)／本官発「ダバオ」宛電報 「ラウレル」ハ其ノ職責上大審院外ニ於テハ絶対ニ意見ヲ発表シ得サルコトトナリ居ルコトハ御承知ノ通リニ付公信等ニ同氏ノ名前ヲ現ハシ又同氏ノ意見ナリトシテ館外ニ発表スルコトハ出来得ル限リ避クル様致度ク従テ今後ハ電信ニモ単ニ「ラ」ト記載スルコトト致度シ 大臣ヘ転電セリ （外務省記録S.10.1.1.0.18.）
6.木原（次太郎）マニラ総領事代理発 有田外務大臣宛電報(1938.11.14.) 「キンポ」ノ敗戦及「アキノ」、「ロハス」、「オシアス」ノ議会引退ニ依リ我方関係ノ議員四名ヲ失ヒタルカ新ニ「パレデス」及「ブアメンメ」ヲ得又「サビド」、「オプス」、「ベンカミノ」、「マガロナ」、「ヴイリヤヌエガ」、「ベラ」等再選セラレタルニ付続キ利用スルコトト致スヘク「ソト」ハ相当我方ヲ理解シ居ルト現在唯一人ノ労働党ニテ中央ニ於テ何等勢力ナキヲ以テ「ダ」問題等ニハリヨウスルモ効果少カルヘク.... （外務省記録A.6.0.0.1.33.1.）
「南方」占領の中の「比島」占領・独立付与政策7.対南方施策要綱 (1941.6.6.大本営陸海軍部決定) 一 大東亜共栄圏建設ノ途上ニ於テ帝国ノ当面スル対南方施策ノ目的ハ帝国ノ自存自衛ノ為茲ニ総合国防力ヲ拡充スルニ在リ.... 三 前号施策遂行ニ方リ下記事態発生シ之ガ打開ノ方策ナキニ於テハ帝国ハ自存自衛ノ為武力ヲ行使ス....
8.帝国国策遂行要領 （1941.11.1.大本営政府連絡会議決定） 一 帝国ハ現下ノ危局ヲ打開シテ自存自衛ヲ完ウシ大東亜ノ新秩序ヲ建設スル為此ノ際対米英蘭戦争ヲ決意シ.... （「南方の軍政」、36頁）
....フィリピンが南方攻略作戦に含まれたのは政治・経済上の理由からではなく....純粋に戦略上の考慮、とくに海軍のそれによる....1941年前半に南方作戦の研究が行われたとき、陸海軍は当初フィリピンを攻略目標に入れるかどうかをめぐり合意していなかった....英米不可分との海軍の強い主張に陸軍が説き伏せられたことで陸海軍は合意に達したのである。（ＧＨＱ戦史部インタビュー、1947.9.3.）
10.参謀本部第一部研究班「占領地統治要綱案」綴(全１５冊、1941.3.31.)より 六 対米作戦ニ伴フ比島処理方策案 第一 方針 一、比島作戦ハ比島ニ於ケル米軍ノ根拠地覆滅ヲ主トシ、比島ノ物資獲得ヲ重視セス 二、作戦遂行並ニ物資ノ獲得ヲ容易ナラシムル為比島現政府ヲ敵側ニ立タシメサル方策ハ之ヲ講スルモ縦ヒ敵側ニ立ツ場合ニ於テモ作戦軍ハ米軍根拠地覆滅ノ為ニ米軍ト一丸トシテ其ノ抵抗ヲ排除スル外所謂「比島戡定」ノ為ノ作戦ヲ行ハス謀略其ノ他ノ手段ニ依リ徐ニ其ノ自壊ヲ待ツ 三、孰レノ場合ニ於テモ作戦軍ハ作戦行動ニ関係スル事項並ニ比島ノ新経済体制樹立ニ関スル比島政府指導援助ノ外直接統治ニ干与スルコトナシ 第二 諸対策 其ノ一 比島政府対策 四、比島現政府ノ懐柔若クハ其ノ崩壊ヲ企図スル謀略ニハ帝国亡命中ナル抗米戦当時ノ巨頭「リカルテ」ヲ利用シ又後者ノ為ニハ先ヅ現政府財務長官タル「ロハス」ヲ対称トス 五、帝国ニ反抗セサル政府比島ニ存スル場合ハ作戦軍ハ其ノ主権ヲ尊重シ統治ニ干与セスシテ作戦行動並ニ駐軍ニ必要ナル行政事項ニ就キテハ軍司令官比島政府ト協定スルモノトス 比島政府カ敵性ヲ示シアル場合作戦軍ハ其ノ行動圏内ニ於テ必要トスル軍政ヲ布ク其ノ方式ハ現況ニ即応シ簡易ヲ旨トシテ治安ヲ維持スレハ足ルモノトス 其ノニ 財政、金融、通貨対策（略） 其ノ三 産業並ニ貿易対策 一、比島新経済体別樹立ノ為軍司令官ハ方面軍司令官ノ指示ニ基キ比島政府ヲ指導援助シ産業並ニ貿易ノ新体系ヲ整ヘシム ニ、帝国ノ比島ニ期待スル物資ハ鉄、銅並ニ麻ニシテ其ノ増産ニ努メシムルト共ニ....金鉱並ニ....銅鉱ヲ調査シ有望ナル鉱山ノ採掘権ヲ比島政府ヨリ獲得シ方面軍ノ指示スル資本ニ依リ採集ニ従事セシメ要スレハ之カ直接援護ヲナスモノトス 三、東亜共栄圏ニ於テ比島ノ過剰生産品トナルヘキ砂糖並ニ煙草ノ生産ハ之ヲ制限シ主食品並ニ麻ヲ増産スル如ク指導ス（以下略）
七 対米作戦ニ伴フ比島処理方策案説明書 （第一 方針） 一、比島生産品ノ主ナルモノハ砂糖、コプラ、ココ椰子、麻、煙草ノ類ニシテ其ノ他帝国ニ産出額ノ殆ト大部ヲ輸出シアル約百万瓲ノ鉄鉱石ト別ニ着目スヘキモノトシテ現在ノ産額僅少ナルモ増産ヲ期待シ得ルモノニ金及銅ヲ有スルニ過キス....而シテ比島ノ輸入品ハ鉄鉱及同製品、綿布、綿製品、紙同製品、小麦粉、ガソリン及燃料油、ゴム及同製品等主位ヲ占ム 故ニ需給関係ヨリ見テ比島ヲ我カ経済圏ニ加フルハ戦争資源トシテ獲得スルトコロ甚タ僅少ナルニ反シ比島カ現ニ対米通商ニ依然シアル関係上自存ノ為ニ市場ヲ必要トスル砂糖、コプラ、椰子油煙草ノ如ク東亜共栄圏内ニ於テ消化困難ナルモノ多ク、輸入ヲ要スルモノノ多クハ右ノ圏内ニ求メ難キ品種ニ属ス。従テ比島ハ之ヲ手ニ収ムルモ獲ルトコロ僅少ニシテ却テ係累ヲ増スモノナルカ故ニ物資獲得ノ為ナラハ必需資源トシテ麻及銅ヲ貴重トハスルモ作戦ヲ実施シ全島ヲ征服スル迄ノ価値ナキモノトス 唯比島ニハ米軍根拠地覆滅ナル絶対的要求ヨリ作戦ヲ実施スル以上資源獲得ヲモ併セ行フモノニシテ資源ノ為ニ戦フニアラサル主義ヲ明確ニスル要アリ ニ、（略） 三、作戦軍カ占領地ノ統治ニ無関心ナル能ハサルハ畢竟資源確保ノ為ナリ。従ヒテ所得物資僅少ナル比島ノ統治ニハ毫モ重大関心ヲ示ス要ナキト其ノ政府カ我ニ従属スル場合ニハ政府ハ既ニ十分自治ノ機能ヲ有スルカ故ニ軍ノ自存ト比島ヲ作戦地域ノ統制経済環境ニ加フル為ニ必要ナル指導援助ノ為ノ外内政ニ干渉ノ要ヲ認メサルモノトス 第二 諸対策 其ノ一 比島政府対策 四、「リカルテ」ハ「ケソン」大統領ノ今ニ至ルモ先輩トシテ畏敬シアル人物ニシテ、又「ロハス」ハ才能ヲ以テ中堅官吏ノ信頼ヲ集メ「ケソン」ニ敬遠セラレアル境遇ニテ「ケソン」ヘノ対抗勢力ノ首領トシテ目下求メ得ル最適人者トナス 五、前段「主権ヲ尊重スル」ハ政府ノ軍ニ対スル依存排撃ノ遁辞ナリ 後段ハ政府ノ屈従スル迄一時的ノモノナルヲ以テ当座ノ便宜ニ従フヲ可トスレハナリ （中略） 其ノ三 産業並ニ貿易対策 一、従来米国ヲ対称トセシ生産並ニ貿易ヲ東亜共栄圏ニ転換スル為ニハ急速ヲ期シ得スシテ当分直接救済手段ヲ講スル要アルヘシ南方全般ヲ一丸トセル計算ニ基キ恒久的計画ヲ樹テ且臨機ノ処置ヲ講スルモノトス 二、帝国カ比島ニ獲ルトコロ少クシテ財政的補助ヲモ辞セス取リ返シ得ル見込ハ一ニ銅及金ノ産出ニ存スルヲ以テ軍トシテ最善ノ努力ヲ傾注スヘキモノトス....（以下略） （防衛研究所、南方軍政資料62）
11.対米英蘭蒋戦争終末促進ニ関スル腹案(1941.11.15.連絡会議決定) 三 （対米戦意喪失策） （一）帝国ハ左ノ諸方策ヲ執ル 比島ノ取扱ハ差シ当リ現政権ヲ存続セシムルコトトシ戦争終末促進ニ資スル如ク考慮ス.... （杉山メモ、上、524頁）
二、大東亜ノ建設ニ当リマシテハ大東亜防衛ノ為必要ナル地域及必要ナル事項ニ関シテ、帝国自ラ之ヲ領有措置シ其ノ他ノ地域及事項ニ関シテハ各民族ノ伝統、文化等ニ応シ各民族ヲシテ各々其ノ本性ヲ発揮セシメ戦局ノ進展ニ伴ヒ夫レ夫レ適応ノ処置ニ出ヅル考エデアリマス.... 而シテ比島ニ関シマシテハ将来同島ノ民衆ニシテ帝国ノ真意ヲ解シ東亜新秩序ノ一翼トシテ協力シ来ルニ於テハ帝国ハ欣然トシテ之ニ独立ノ栄誉ヲ与ヘントスルモノデアリマス 尚蘭印、ビルマ等ニ就キマシテモ帝国ノ企図スル所ハ之ニ異ナル所ガナイノデアリマス.... （杉山メモ、下、5頁）
(二）比律賓 将来帝国ノ強力ナル指導把握ノ下ニ独立セシムヘキコトアル場合ヲ考慮シ諸般ノ施策ヲ行フモノトシ差当リ左記ノ方針トシ経営ヲ進ム （イ）国防ハ将来ニ於テモ帝国之ヲ把握ス （ロ）重要資源ハ将来ニ於テモ帝国之ヲ掌握シ重要資源ノ一部補給源トシテノ機能拡充ニ遺憾ナカラシムル （ハ）重要交通ハ帝国ニ於テ之ヲ把握ス （ニ）自活ノ為ノ物資交流ハ逐次南域経済ニ依存セシムル如ク施策ス （ホ）速ニ欧米依存観念ヲ一掃シ大東亜ノ一翼タラシムル如ク指導ス （「南方の軍政」、110頁）
14.占領地帰属腹案ノ説明(1943.1.14.連絡会議決定) ニ、比律賓 比律賓ハ夙ニ独立ノ要望強ク自治能力アリ米国ハ１９４６年７月４日ヲ以テ独立ヲ認ムヘキコトヲ既ニ約シ居ル等ノ政治的経緯アリ一方之ヲ帝国ノ領土トシテ帝国自ラ統治ノ任ニ当ルトキハ帝国ノ負担煩累ヲ著シク増スコトトナルヘク又実質的ニ帝国ノ勢力下ニ在ラシムルコトハ領土ニ編入セストモ其ノ地理的地位等ニ鑑ミ実際上可能ナルヘキヲ以テ適当ノ時期及条件ノ下ニ帝国ニ於テ之カ独立ヲ許容スルコトハ大東亜戦争遂行上及大東亜建設上得策ト認メラルルニ依リ将来之ヲ独立国タラシムルヲ適当トス而シテ帝国トノ関係ニ付テハ軍事、外交、経済ニ関スル提携協力ノ外特ニ「ミンダナオ」島ニ付テハ同島ノ軍事的、経済的重要性ニ鑑ミ帝国ノ把握強化ニ付特別ノ措置ヲ執ルコトアルヲ保留スルコト必要ナリ （「南方の軍政」、46頁）
15.比島独立指導要綱(1943.6.26.連絡会議決定) （別冊） 第一 建国ノ理念 一 大日本帝国ヲ盟主トスル大東亜共栄圏ノ一環トシテ道義ニ基ク新比島ヲ建設シ以テ世界新秩序ノ創造ニ寄与ス.... 第二 日比関係ノ大綱 六 帝国ノ対比施策ノ要ハ比島ヲシテ努メテ比島人ノ創意ト責任トニ依リ真ニ大東亜共栄圏ノ一環タル独立国トシテノ名実ヲ備ヘシムルニ在リ 八 帝国ハ比島政府内ニ所要ノ期間必要ナル顧問ヲ配置シ之カ指導ニ任セシム 九 「ミンダナオ」島ニ就テハ其ノ軍事的経済的重要性ニ鑑ミ特別ノ措置ヲトルコトアリ （「南方の軍政」、52-53頁）
占領者とエリート16.宇都宮直賢（比島軍政監部総務部長、1942.9.-1943.10.）の回想 オランダの施政とアメリカの施政を比較検討するならば、インドネシア人はオランダを不倶戴天の敵と見ていたが、フィリピン人はアメリカを憎い敵なぞと少しも思っていなかった、又フィリピン人はインドネシア人に比べてその民度が比べものにならぬくらい高かったと云える。これが両者の軍政に大きな違いを生じた所以を銘記すべきだ････われわれの軍政は、この従来向米一辺倒だったフィリピン人を結束させて、少しでも日本側に協力させようとするのだから、元より彼らのご機嫌なぞとるのではないが、求めて過酷な施策をやって彼らの心を益々アメリカ恋しとの心情へ走らせてはならなかったので
ある。（宇都宮、53頁）
17.比島要人の本間司令官宛返書（1942．1．23．） We beg to inform Your Excellency
that, in compliance with your advice, and having in mind the great ideals,
the freedom and happiness of our country, we are ready to obey to the best
of our ability and within the means at our disposal the orders issued by
the Imperial Japanese Forces for the maintenance of peace and order under
the Japanese Military Administration. Consequently, we have constituted
ourselves into a provisional Council of State and we are immediately proceeding
to draft our Articles of Organization in line with Your Excellency's advice...
（Tribune, January 25, 1942）
ニ、比島中央行政機構ノ編成ニ就テ １．軍は左記ノ通１月２３日、ホルヘ・ビ・バルガスヲ行政長官ニ任命シ残存比島中央行政機関ノ統一編合ヲ命セリ。 左記 一、貴殿ハ中央行政機関ノ長官トナリ速カニ残存比島中央行政機関ヲ統一編合シ大日本軍最高指揮官ノ指揮命令ヲ承ケ行政ノ実施ニ任スベシ.... 四、中央行政機関各部ノ長官ハ貴殿ノ推薦ニ基キ大日本軍最高指揮官之ヲ任命ス.... 六、行政ノ実施ハ大日本軍ノ要求充足ヲ最優先トシ先ツ速カニ治安ヲ快復スルヲ主眼トシ行政長官及各部長官ハ重要事項ニ関シテハ大日本軍最高指揮官ノ命令ニ依ルヘシ ２．１月２６日左ノ如ク行政府各部長官及大審院長ヲ任命セリ 左記 ベニグノ・エス・アキノ内務部長官 アントニオ・デ・ラス・アラス財務部長官 ホセ・ピ・ラウレル司法部長官 ラファエル・アル・アルナン農商部長官 クラロ・エム・レクト教育厚生部長官 キンテイン・パレデス土木交通部長官 ホセ・ユーロ大審院長 （防衛研究所、陸亜密、昭17、9号、1頁）
ガナップ・マカピリ問題方針 結党否認ノ態度ヲ堅持シテ解党セシムルモ帝国ニ協力スル思想ヲ保有スル個人ハ努メテ好意的ニ処理シ之ヲ利用ス 五、軍隊ハ「ガナップ」党ト絶縁シ苟モ之ニ利用セラレザル如ク戒ム （憲政、陸亜密62、1942、No.3）
20.宇都宮の回想 いよいよ米軍の対比侵攻が切迫し、日本軍の比島防衛に対する比島民の協力就中労力提供が不十分となるや、ガナップ党首ラモスは....軍首脳者の交代を契機として....山下軍司令官、武藤参謀長等の信頼を克ち得ることに成功した。私は....「軍がガナップを余り重用することは、比島政府との関係もあり、好ましからざる結果を招来するだろう」と司令官を前にして参謀長に意見具申したが、「比島人の大部が日本軍に協力しない時、この様な人間を重用することに決して遠慮すべきでない」と厳しく反駁された。比島の状況は日本軍をして将に、「鹿を追う者山を見ず」という気運に向かわしめつつあった。 （宇都宮、153-155頁）
21.村田省蔵｢対比施策批判｣より ガナップ党はマニラ市及其付近の地区に限られ主として市井無頼の徒を党員とする小政党なり。ケソン政府に好意を有せず常に抗争的態度をとり僅かに此存在の意義を保てり。偶々我軍の比島侵攻に際し、ガナップは独り皇軍に対し、犬馬の労をとる、我軍之を徳とし一時起用せしもガナップは久しからずして其馬脚を露わし軍の名を借りて良民を苦しむること明かなるに及び、遂に軍は此関係を絶ちたり。而してラモスは其党首たり....然るに此後軍の幹部にして実践面に携わるもの人を代ふる毎にラモスの虚偽の大言に迷され、彼を揚げて比島政府を抑えん とせること一再ならず。甚だしきはラウレル大統領 は陸軍の指導により選挙せられたるものとしてラモス、ドュランの輩を以て之に代へんと秘かに企図せ るものすらあり。事は表面化されざりしも、比島政 府をして此等分子のクーデター出現を懼れしめたる に至ては言語同断なりと云ふ可し。(村田省蔵、703頁)
22.重光大東亜大臣発 村田駐比大使宛(1944.9.25.) 対比政策（要領）に関する件 一 ラウレル大統領の政治力の強化を図るため （イ）ラウレルを飽迄信頼し其政府に対し強力なる支援を与ふる態度を明にす （ロ）ラ政府以外の親日分子に付てはラウレルの希望を尊重し現政府に包摂せしめ政府を支持せひむる如く誘致す （ハ）所謂親米派と目せらるる要人に付ても為し得る限り之を排除せず寧ろ之との接触を密にし此の機会にラウレル支持及対日協力の態度を闡明せしむるに努む.... (村田省蔵、168頁)
フィリピンにおける宣撫・宣伝政策第一方針 軍ノ戡定作戦ハ概ネ順調ニ進捗シテ今ヤ防衛態勢ニ移行シ軍政ハ茲ニ比島建設ニ本格的ニ邁進スルノ新段階ニ到達セリ。即チ軍報道部ハ軍政施行ヲ容易ナラシムル目的ヲ以テ重点ヲ比島民衆ニ対スル教化宣伝ニ指向シ軍政部並ニ各地警備隊ト密ニ連携シツツ之ニ専念スルト共ニ併セテ対外宣伝並ニ国内報道業務ヲ実施ス
其ノ一方針 軍ノ実施スル宣伝宣撫ハ....（昭和18年）3月末日ヲ目途トシ敗残兵ノ帰順工作並ニ討伐地域ノ比島民衆ノ宣伝工作ニ重点ヲ指向シ比島人ヲシテ大東亜戦争ニ対スル帝国ノ必勝ヲ確信セシメ自主積極的ニ大東亜共栄圏ノ一環トシテノ我軍政下新比島ノ建設ニ協力スル如ク比島民衆ヲ啓蒙教化スルヲ以テ方針トス 一 方針 六月末日ヲ目途トシ実施セラルル軍ノ積極果敢ナル討伐ニ膚接シ同ジク六月末日ヲ目途トシテ比島行政機関ノ実施スル緊急紙幣ノ回収工作ニ連携シツツ宣伝ノ重点ヲ「ビサヤ」地区敵兵匪蠢動地域ノ住民ノ宣撫ニ指向シ治安ノ快復軍政ノ浸透ヲ促進セントス ニ 実施方針 一、匪民分離工作並ニ敵兵匪宣伝（略） ニ、対民衆宣伝（治安確立セル地方）
一 方針 軍ノ実施スル宣伝宣撫ハ18年度宣伝計画ニ基キ第一線兵団ノ討伐ニ膚接シ一二月末日ヲ目途トシ比島独立後ニ於ケル民心ノ把握安定ニ関スル報道宣伝ニ重点ヲ指向シ治安ノ確保ニ資セントス （第14軍軍宣伝班宣伝工作史料集２）
治安の悪化 ....治安ノ迅速ナル快復確立ハ軍政実施ノ基底ヲ為スモノニシテ諸施策ハ之ニ依ツテ初メテ浸透徹底スベシ然ルニ比島ノ現状ハ必ズシモ未ダ満足スベキ程度ニ至ラズ敗残兵其ノ他ノ横行其ノ跡ヲ絶タザルノミナラズ犯行ノ動機・手段・方法逐次悪化ノ傾向ニアルヤニ看取セラルルハ甚ダ遺憾トスルトコロナリ然レドモ之等ノ不逞ノ徒ト雖モ支那又ハ満州ニ於ケル職業的匪族ト其ノ趣ヲ異ニシ且強固ナル後援ヲ有セズ今次比島敗戦ニ基ク一時的局地的ノモノタルベキヲ以テ迅速ニ之ガ掃滅ヲ図リ以テ其ノ匪族化ヲ防止シ禍根ヲ萌芽ノ中ニ掃滅セザルベカラ
ズ....（憲政、陸亜密大日記39,1942,No.74)
25.宇都宮直賢の回想：山下司令官の怒り 山下大将は第14方面軍司令官として19.10.6.夕マニラ郊外ニコルソン飛行場にその一歩を印せられた。暫くたったある日、私を司令官室に呼ばれた大将は、「比島の治安がこんなに悪化していようとは夢想だにしなかったよ。これは軍政時代に和知（参謀長）と君が比島人をすっかり甘やかしたせいだ。わしはシンガポールで華僑を含むゲリラとその容疑者を徹底的に掃滅させたため、マレイ地区の治安に太鼓判を押すことができた」と大変なお冠で、「君も大尉時代はなかなか立派な男だと思っていたが、どうしてそうダラ幹になってしまったのかね」と苦 言を呈せられてびっくりした。（宇都宮、98-99頁） 国防資源取得問題26.フィリピン鉱山開発の概要・宇都宮の回想 フィリピンの鉱山は大部分アメリカの鉱山会社又はフィリピン財閥会社が経営していたので、軍がこれを管理して日本の主要会社に委託経営させる方法をとった。日本内地への還送物資である銅、クローム、マンガンに重点を指向し、戦前盛況を呈していた金鉱業は戦時物資としては緊急でないので、一時その採鉱を中止した....「マンカヤン」銅山（三井鉱山が担当....）は（昭和）17.5.わが軍が之を占領するに当り、精錬所を破壊して逃げたのでバギオ金山の諸施設や資材をここに移設することにした、又「アンチケ」銅山は頻繁にゲリラの妨害を受けるなどの困難があったが担当会社（＊註、石原産業）の非常な努力で日本政府の物動計画の割当に対して十分応えることができた....ザンバレス州「マシンロック」鉱山（古河鉱業）は世界最大の単一クローム鉱床で、軍は17.3.これを占領し、その後順調に開発を進め日本の需要に応ずることができた....マンガン鉱床は全国各地に散在していたが、主要な鉱山はブスアンガ島....の３カ所だった。昭17.9.ブスアンガ島在住邦人の大部がゲリラに殺害される災厄があったが、 復旧を急ぎ日本の要 求に応ずることができた....（鉄鉱は）「カラン バヤンガン」鉱山のみ採鉱に着手（石原産業）し た。しかし船舶不足のため折角の鉄鉱も港頭に空し く野積されたままに終った。（宇都宮、70-72頁） 27.ジャワ軍政・斉藤鎮男の回想 「軍政を施行するということの主な目的は戦争目的に役立てるということですからね。占領はしたがその資源とある程度ファシリティズがちゃんとしているジャワというものを壊してしまっては何にもならない。だから、できるだけ現状のまま占領して、それを現状のまま維持していくということが基本でした。しかし、初めはそうだったんだけれども、戦争がひどくなるにつれて、産業の転換、、産業構造の転換をやったわけですね....ジャワが補給基地になってしまうんですね。つまり、初めはジャワの経 済的な必要性というのは、石油とかボーキサイト、 すずという鉱物資源の取得にあったんですが、戦争の進展に伴って新しい要求に向けられてきたんで す。一つは食糧、一つは労務ですね。この２つのた め、一部の人たちに言わせると、日本軍政は現地人 に大きな負担を与えたもので、要するに悪であった、と言うんだけれども....」 （文化摩擦インタビュー、1978.1.24.）
28.「軍政縦横談」ジャワ軍政監部総務部長 山本茂一郎 ジャワは軍政当初から物の生産といふ点に非常に重点をおいてやつて来た。然も最近の情勢は内容的に見てもまた客観的に見ても物の生産といふ意味は非常に変化を来してゐる。この点は明確に覚悟をして貰はなければならぬ。何故さうであるかといふ問題に就ては立入って説明することは出来ないが、近頃よく言はれる自活といふ言葉から進んで、軍政の各種の面に於る自戦といふところまで任務が前進してゐるのである。然もこの自戦はジャワ島内に於る問題のみならず、南方全域を対照とした自戦態勢である。殊にジャワの物の増産といふ問題が最大のものとなつて現はれて来た....。（新ジャワ１号、1944年10月、6-7頁）
占領下のフィリピン地方社会パナイ島 29.「パナイ」島「アンチケ」州「サンホセ」付近一般民情ニ就テ（人見報道隊、1942.12.20.) 一「アンチケ」州治安悪化ノ原因 当初皇軍「サンホセ」上陸以後ノ善政....ハ克ク民心ヲ収攬シ....至厳ナル軍紀ト相俟テ一般民衆ノ対日感情ヲ著シク好転セシメ治安ノ向上見ルヘキモノアリタルモ八月中旬以降概ネ左記ノ如キ原因ノ累積ニ依リ一般民衆ハ著シキ対日恐怖感ト憎悪感ニ導入セラレ敗残兵ノ暗躍ト相俟テ治安ハ急転シテ悪化シタルガ如シ １捕虜取扱ニ関シ生ジタル一般ノ誤解 七月下旬ヨリ八月上旬ニ亘リ実施セラレタル投降工作ノ結果約二〇〇名ノ投降者アリ此等投降者ハ兵器弾薬ヲ返納スルト共ニ登録ヲ終了シタルモノハ逐次仮釈放セラレ一時帰宅ヲ許可セラレアリタル所八月五日「サンホセ」市ニ於テ訓辞ヲ行フニ付集合スヘシトノ命ヲ受ケ病欠六名ヲ除ク全員ハ所定ノ時間ニ所定ノ場所ニ集合ヲ了セリ、然ルニ予期ニ反シテ集合者ハ直チニ自動貨車ニ乗車セシメラレ「イロイロ」ニ送達収容セラルルニ致レリ....本件ハ残存米比兵ニ強烈ナル刺激ヲ与エ一般人民ニ与ヘタル打撃深刻ナルモノアリ敵側逆宣伝ノ好餌トシテ日比離
間ニ利用セラレ治安悪化ノ一素因トナリタルハ遺憾ナリ
２石原産業ニ於ケル労働者ノ取扱上ノ不適切ニ基因スル対日反感ノ激成 石原産業ニ於テ使用シアル日本人ノ比人労働者ニ対スル取扱苛酷ニシテ著シク比人労働者ノ反感ヲ買ヒ且其ノ事ヲ見聞スル者ニ大ナル対日恐怖感憎悪感ヲ与ヘタリ 即チ イ ....日本人監督ノ素質不良ニシテ横打暴行事件続発ス特ニ平手打多シ.... ロ 労働者強制徴発ノ強行 労働者募集ニ当リ一部ニ於テ強制徴発ノ止ムナキニ到レリ之ガ為一地方人ニ過ギザル日本人ニ依テ場合ニ依テハ拳銃ヲ○シテ恐迫シ拉致同様ニ引致労働ニ○サシメラレタリ ハ 不良日本人ノ暴行 比人労働者ヲ虐待スルノミナラズ米野菜等ヲ騙取掠奪ス 為之石原産業ナカンスク下級日本人職員ニ対スル反感ハ益々高揚セラレ当初其ノ背後ニアルべキ軍ヲ恐レ表面化セザリシキ逐次内訌シ為ニ新労働者ノ獲得ハ益々困難ノ度ヲ加ヘ出働率ハ逐次低下シ遂ニハ逃亡者続出ヲ見ルニ到レリ 本件ハ此ノ種間隙ニ着目セル敗残兵ノ銅山付近進出労働者扇動ト相俟ツテ益々増大シ蓄積ハ対日反感ニ成長シ遂ニ治安悪化ノ直接動因トナリ「アンチケ」州ニ於ケル対日反抗ノ気運ハ石原産業ノ中心地「ビリヤル」及「アンチケ」銅山付近ニテ激成セラレ発端セリ （第14軍・軍宣伝班宣伝工作史料集１）
30.状況報告 於北イロコス州バドツク(奈良兵団配属人見宣伝隊、1942.8.9.) ....当地区敗残兵ノ大部ハ当地区出身ナリ....南部即チ南「イロコス」州「アブラ」州「ラ、ユニオン」州等ヨリ不良敗残兵ノ北上当地区流入ニ当リ彼等不良敗残兵ノ暴虐ヨリ当地区一般良民ヲ保護スルノ役目ヲ果シ且戦後ノ混乱状態ニ於テ唯一ノ警察権執行者トシテ治安維持、良民ノ保護ニ任ジタルヲ以テ一般民ト当地区敗残兵トノ関係ハ極メテ密接ニシテ我等ノ予想スル如ク感情的ニ離反シアル等ノ事実ハ全クナシ.... （第14軍・軍宣伝班宣伝工作史料集１）
31.軍政実施概況報告第9号(第14軍司令部、1942.4.18.) ヌエバ・エシハ州カバナツアン軍政支部報告 （治安状況について）....敗残兵等ノ逃避所乃至連絡ノ為ニ東北一帯ノ山地利用セラレアリテ全般ノ治安ノ回復容易ナラザルモノト認ム 殊ニ本州ハ共産党ノ盛地ニシテ現知事首領タル為メニ居住地パパヤガパンカビアオ道路即チ南部アラヤット山東西道一帯ハ武器ノ納付ヲ拒ミ密ニ隠匿シテ対米依存ヨリ脱却セズ。三月末モ共産党ノ転向親日ノ挙式ノ後百数十名ノ共産党残兵等ガ町長及医師宅ヲ襲撃死傷者ヲ出ス等現ニ反皇軍ノ行動ヲナスモノアル等許スベカラザル地方タリ為メニ皇軍ニ特米ヲ提供シ或ハ進ンデ親日ノ陣頭ニ起タントスル知名ノ士ノ心中同情ニ堪エズ.... 32.中部ルソン農民の回想 （ヌエバ・エシハ州の米作農村サン・リカルドの）ひとつの驚くべき経済的変化は、米が相対的に豊富になったことであった。私が、日本軍占領下当時の米価はどうだったかと村人に訊ねると、人々は一様に驚いたような顔をしてこう答えた、「そう、安かったよ、というのも米はみな十分にあってね、売り買いすることもなかったんだ。もし誰かが米が必要なら、ちょっと隣や親戚の所に行って簡単に借りることができたんだ」....ある老人は、誇らしげに「あそこの箪笥を見てごらん」と、芸術的に彫刻され、綺麗な取っ手のついた四つ引出しのあるマホガニー製の箪笥を指さした。「私はあれを 1943年にカバナツアンの商人から籾米0.5カバン (約22kg)で貰ったのさ」。 (Kerkvliet, The
Huk Rebellion,pp.75-77.)
フィリピン政府の管理下に入ると配給は乱れ、ヤミが横行し、フィリピン政府からの要請もあり、日本軍の輸送（自動車隊）が米の産地からマニラへの運搬にたびたび協力してきたのですが｢昭和19年5月には米一袋800ペソ。6月には2000ペソ。10月には6000ペソ（約千倍）に暴騰していたのです（皇睦夫による）」。飢餓に迫られた市民は家財道具類を水牛車などに載せて炎天下をのろのろと国道筋を農村地帯に疎開する姿が9、10月頃よく見られました。（集録ルソン17号、199-200頁）。 昭和19年の暮れに近く、中部ルソンでは新米の収穫が始まり12月中旬には日本軍の支援による米の集荷がはじめられたが、ゲリラの妨害により殆ど集荷不可能な地域がある一方で、マニラの深刻な事態を理解し、集荷に協力的な農民もいて集荷が順調な地域もあった。産地→マニラ間の端が爆破され、1月10日以降はマニラへの米の供給は全く絶望に近い状況になった。（集録ルソン48号、234頁）。
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