ワシントン・オペラの1999ー2000年シーズンの最後の出しものはヴェルディの「オテロ」でした。オテロ役は最近、若手のテナーの中でドミンゴの後継者と評判のホセ・クーラ。デズデモーナはヴェロニカ・ヴィラロエル、イアーゴはジュスティーノ・ディアス。そして指揮はワシントン・オペラの音楽監督、プラシド・ドミンゴ。私が行った晩(3月1日)は初日でも最終日でもなかったのですが、ドミンゴが登場するだけで他の指揮者の時よりずっと長い拍手。今回は20世紀のオテロ役の中でも最も適役と言われて25年この役を歌ってきたドミンゴが指揮に回って、ドミンゴが目にかけているクーラがオテロを演じると世代交替のドラマもありました。ドミンゴの指揮はまだあまり上手くないので、時々、リズムが乱れたのですが、きっと歌手引退後は指揮に勤しむようになると思われるので多少はうまくなるのでしょうかね。
クーラはまず、胸をはだけた長いマントを着て登場。この人は昨年はサムソン役でワシントン・オペラに初登場したのですが、本当にカリスマティックで舞台でとても存在感がある歌手です。私はバリトンやベースが好きで、テナーはあまり好きではないのだけど、この人だけは○印。声も深みのあるテナーで、ドミンゴに似ている声質です。オペラ歌手になる前はアスレティック教室のトレーナーをしていたというだけあって、あまりぶよぶよしていないし、何といっても演技力がある。歌い方はまだちょっと粗いので今後、もっとお勉強して欲しいものです。但し、この人は割と傲慢であまり、アドバイスに耳を傾けないという話ですから粗さが改まらないと問題ですね。クーラのファンクラブのホームページによるとオテロ役は97年にトリノでクラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルの演奏でデビューしたそうです。
さてこのファンクラブはロンドンに本部があり、日本にも支部長さんがいて、ファン達で世界中のオペラハウスにおっかけをしているようです。会長は何とクーラ自身。自分で自分のファンクラブの会長を務めるというのはあまり聞いたことがないように思いますが?批評もよいことしか掲載しておらず、実は1999~2000年シーズン幕開けの所謂Cav/Pagで、ドミンゴがカニオ役だった「道化師」と一緒に「カヴァレリア・ルスティカーナ」のトゥリッドゥ役でメトロポリタン・オペラにデビューし、歌い方がコントロールできていないとNYタイムズには酷評されたのですが、そんなことは勿論、一言も載っていません。(ファンクラブというのは愛の鞭とは無関係で所詮、盲目的にファンになるものなのですね。)
さて、ヴェロニカ・ヴィラロエルのデズデモーナですが、この歌手もドミンゴのお気に入りで2シーズン前のワシントン・オペラのオープニングにはドミンゴと「道化師」で共演。今シーズンはメトロポリタン・オペラで私の大好きなサミュエル・レイミー様とボイトの「メフィストフェレ」でエリザベート役で共演していました。声量はあまりないのだけれど、とても演技力があり、例の「柳の歌」もとても哀れに歌い、拍手喝采。
このプロダクションはアルゼンチン出身のクーラ、チリ出身のヴィラロエル、プエルトリコ出身のディアス、メキシコ生まれのドミンゴと中南米出身者ばかりとなり、リハーサル中はスペイン語が飛び交っていたに違いありません。
最後のカーテンコールでは拍手がなりやまず、まるで最終公演のような印象を与えました。シーズンの最初と最後の出しものがよいと、とてもよいシーズンだったような気がして今シーズンのワシントン・オペラには大満足。