プロコフィエフの「賭博者」は今シーズン、メト初上演。ヴァレリー・ゲルギエフ指揮でゲルギエフが96年に録音したのと同じキーロフ・オペラのメンバーをメインキャストに上演された。この作品はロシア革命直前の1916年に25歳だったプロコフィエフが作曲した最初のオペラ。完成直後もプロコフィエフが亡命後の20年代にも上演されることなく、91年にキーロフ・オペラがプロコフィエフの生誕百年に因んで初演したことで、75年目にして初演となった作品だそうだ。メトはキーロフのセットをそのまま使った。
ストーリーの原作はドストエフスキーが1867年に出版した小説でルーレテンベルグというドイツの架空の都市でのギャンブルにまつわる人間模様が描かれている。ドストエフスキーがドイツでギャンブルで大損した時の体験に基づいて書いた小説とのことだ。
ストーリーは次の通り。中年の退役将軍は若い金目当てのブランシュに夢中で、冷酷な侯爵から高利子で金を借りてルーレテンベルグに滞在している。将軍の養女のポリーナは自分を愛している家庭教師のアレクセイに宝石を質に入れさせ、ギャンブルさせるがアレクセイはその金を全部、失ってしまい、侯爵に借金返済ができなくなってしまう。将軍はモスクワにいるポリーナの大金持ちの祖母が死んだら、遺産相続してブランシュと結婚しようと考えている。ところが大病だと思っていた祖母が突然、ルーレテンベルグに元気な姿を見せて、皆が自分の死を心待ちにしていることを見抜く。祖母はギャンブルで大金を失い、皆を落胆させる。手持ちの金がなくなった祖母はモスクワに帰る。ポリーナはアレクセイに自分を愛しているなら、侯爵に返済する金を手に入れるようにと挑戦する。アレクセイはルーレットで幸運にも大金を儲けてポリーナに渡すが、ポリーナは金をアレクセイに投げ付けて拒否する。
何しろ小説がそのままオペラになったような作品で台詞の多いこと!「ドラマとしてのオペラ」という定義が相応しい。メトに数年前から「メト・タイトル」という前座席の背中に英訳のリブレットが出るようになってこのオペラ程、助かったことはない。このドラマの台詞がエキスプレッショニストな音楽にのって唄われるのだが、アレクセイ役など2時間、舞台に出たままの大役。出演者ほぼ全員、ロシア人で歌唱力も演技力もあった。
エネルギッシュなゲルギエフは来シーズンからワシントンにもキーロフ・オペラを連れて来ることになったので普段はあまり観れないロシアの作品にお目にかかれるようになるかも知れない。