さて「コシ」を楽しんだ後、リンカーン・センターの向かいの「ローサ・メヒカーナ」という新しいレストランでスパイシーなニュー・メキシカンで腹こしらえ。ここはテーブルで好みの辛さにワカモレを作ってくれるのだが、とても美味なのでお勧めします。眠くならないようにマルガリータもワインも我慢し、いよいよ待望の「イタリア女」。
ムスターファ役はレイミー様。いつも渋い役か悪魔を演じている彼のオペラ・ブッファを観るのは初めてだが、いやはや何とも張り切ってコメディアンをしていた。皆で踊ってもレイミー様は一番、リズム感があるし、お声は抜群の響き。そしてロッシーニを歌いこなす抜群のテクニック。これでワシントンから来た甲斐があった。第一幕の最後には入浴シーンがあり、腰巻きをつけて自慢の裸体を披露していた。60歳には見えない肉体だが、ちょっとサービスし過ぎ?これは殆ど露出狂の域だ。パパタッチになるシーンではスパゲッティを手掴みで食べたり大奮闘。このプロダクションが終わったら暫くスパゲッティは見るのも嫌になるのではないかと心配してしまった。
イザベラ役はジェニファー・ラーモア。CDのジャケットなどで想像していたよりちょっとコロコロしているが、この人も抜群のテクニックでとても柔軟なメゾを披露してくれた。コメディー役もぴったり。
リンドロはマシュー・ポレンザーニというアメリカ人だったが、音ははずすし、声は出ないし、はっきり言ってヘタクソ。こういう人をメトに出さないで欲しい。今回の「椿姫」「コシ」といい、最近、若手の上手なテナーが不足しているとつくづく感じる。
プロダクションとセットは故ジャン=ピエール・ポネルだが、セットチェンジはなくても窓をカーテンや格子に変えて、場所の移動を示すには十分だった。幕開けと同時にかんがん達がおたふくのようなお面をして、ぽっこりとお腹を出してコーラスしながら刺繍をしているのがとてもユーモラスだった。それにしても「コシ」のアルバニア人といい、アルジェリアのトルコ人といいその風刺ぶりといったらまったくpolitically incorrectだ。
さて、この晩は日本からやってきたレイミー様大ファンのMさん(彼と同年齢)と一緒だったので、終演後で楽屋に挨拶に行こうと誘ってみた。ずっと舞台、コンサート関係の仕事をしてきたMさんは普段は押しの強い女性だと思っていたのだが、何と恥ずかしがって遠慮されてしまった。私だって一人で行くのは恥ずかしいので、これぞチャンスと思っていたのだが残念。因みに我々にとっては3年前のワシントン・オペラの「ボリス・ゴドゥノフ」初演後のキャスト・パーティーでレイミー様と一緒に撮った写真がドミンゴと撮った写真よりも何よりの宝になっている。Mさんは「イタリア女」前の食事中、1000万円を残して置くのでレイミー様を自分のメモリアル・サービスに招聘して、コンサートをしてもらいたいと言う話をし始め、皆で選曲を考えるなど多いに盛り上がった。