今シーズンのドミンゴ主演のワシントン・オペラはパルシファル。数年前にメトでドミンゴのパルシファルを観た時は若者役ということでブルマーをはかせられていて、ころころした体から足がにょっきり出ていて何だか足がはえたダルマのようだったが、今回は床まである長い衣装でホッとした。
準備期間中にロイヤーズ・コミッティー向けのリハーサルをボックスから観たが、休憩中にドミンゴは観客席まで来てボックスを見上げ"Do lawyers approve?"などと聞いてサービス精神を発揮していた。何でも今回のプロダクションは歌手のラインアップのせいでワシントン・オペラでは一番、お金がかかっているとのことだった。それと言うのもドミンゴの他、グルネマンツはワシントン・オペラ初出演のマティ・サルミネン、クリングゾールはセルゲイ・リファカスだったのだ。
このワーグナーの最後の作品については事前にレクチャーを聞いたり、ワーグナーに関する本を読み多少、いつもよりは念入りに予習をして、資金不足だったワーグナーが仕方なくルードヴィヒ二世からヘルマン・レヴィが指揮するという条件で宮廷楽団を貸りたが、ユダヤ人だったレヴィに初演の直前にキリスト教の洗礼を受けさせようとして拒否され、仕方なくレヴィに指揮させた話とか、そもそもワーグナーが物語を作った時にアムフォルタス王がクンドリに心を動かした時にクンドリから聖槍で傷つけられたのはtesticlesだったのだけれど、それでは舞台で演技するのに都合が悪いので脇腹に変えたという話をレクチャーで聞いた。
さて、肝腎の舞台だが、ドイツものが得意のハインツ・フリック(元ベルリン国立オペラの音楽監督)は何とこのオペラを2つの休憩を入れて4時間半位で終えてしまう速さで、しかし急いでいるという印象を与えずに重厚に指揮したのだった。何かいつも体力と集中力との勝負みたいになるワーグナーの作品をこうトントンと進めてくれると私は嬉しい。
サルミンネンはある意味では一番、重要なグルネマンツの役を立派な体躯、そして何と言っても素晴らしいバスで圧倒的な存在感を示してくれた。ドミンゴは段々高音が厳しくなってきているのだが、それでもパルシファルをちゃんと歌い、演じ切って、まだまだ健在だった。この初日、聖金曜日にモンサルヴァート城に戻って来たシーンで、舞台の上段にヘルメットを置き、それにたてかけた聖槍が下段に落ちてしまい、一瞬拾うべきかどうか躊躇していたが、見た目がよくなくなるので拾ってちゃんと元の配置にしていた。リファカスは悪役をやらせると本当に上手だが、あのちょっと金属的な声はどうも生理的に好きになれない。クンドリ役はカレン・ハッフストッドでソプラノにしてはスマートで美人。マグナ・ペカトリックスがキリストの足を髪で拭く場面を思い出させるパルシファルの足を髪で拭くシーンなど、長く豊かな栗色の髪を活用していた。でもちょっと声量とコントロール不足。ドミンゴ主催のコンクール「オペラリア」で98年に優勝した森マキは騎士と花の乙女とちょい役で出ていた。