シリーズ部落差別 5

 

狭山事件と部落差別

 全面的な差別捜査に踏み切った警察  続

 逮捕は全く不当なもので、アリバイがない(正確にはアリバイを証明できないということ、後に石川さんの証言に基づいて部落解放同盟が検証した)ということに目をつけた警察の暴挙だ。不当逮捕、取り調べ、「自白」の強要による犯人へのでっち上げの一連の「捜査」のすべてが部落差別である。警察が「決め手」と称した筆跡鑑定なるものは、ほとんど文字が書けない石川さんの「弱み」につけ込んで、「上申書」なるものを書かせて「鑑定」したものであり、はじめに「犯人」という結論ありきで「鑑定」とは名ばかりの客観的検証に耐えられるものではなかった。「石川=犯人」というためにのみ作りされた代物だ。石川さんが文字を書けないことは、まさに部落差別である。石川さんが育った1950年代の狭山市の部落は、「橋のない川」に描かれた1920年頃の農村部落とほとんど変わらない実態だったのだ。まさに部落差別の現実だ。警察はこうした部落の実態を知り尽くし、それにつけ込んで部落差別を強行したのだ。

 石川さんが後に語っている「自白のきっかけ」とは、刑事に「兄貴を逮捕するぞ」といわれたことだ。石川さんは、一家の大黒柱である兄が逮捕されれば、一家が立ちゆかなくなり皆路頭に迷ってしまうと恐れた、という。まさに部落差別のまっただ中に置かれている一家の現実が石川さんにのしかかったのだ。頑として否認を続ける石川さんに警察が部落差別の牙をむきだして襲いかかったのだ。「自白」した石川さんは差別に負けたのだろうか。ある意味ではそうだとも言える。だから一審判決が出るまで「自白」を維持したのだとも言える。

だが、一審判決後だまされたと気づき弁護士にも相談せずただ一人で石川さんは猛然と決起した。二審冒頭の法廷での出来事だった。そのことを見るとき、差別に負けてはいなかったとも言えるのだ。

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