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活動交流と情報のコーナー 2008~2007年の記事

交通事故絶滅をめざし、交通犯罪を告発し、クルマ社会を問い直す

2008/11/17 北海道新聞夕刊
交通事故 撲滅を願って 被害者側が報告 札幌でフォーラム

世界各国で一斉に交通事故の撲滅を考える「世界道路交通犠牲者の日」の十六日、「交通死ゼロへの提言」をテーマに掲げた札幌フォーラムが、札幌市中央区のかでる2・7で開かれた。(堂本晴美)交通事故調書の開示を求める会(事務局・横浜)の主催で、約五十人が参加。ジャーナリストや研究者、道内の被害者らが「運輸業界の規制緩和」「交通事故調書の早期開示」などをテーマに報告や講演を行ったほか、パネル討論で意見を交わした。被害者による報告では、二〇〇三年に長女がトラックにはねられ亡くなった空知管内南幌町の白倉裕美子さんが「公判が始まるまで被害者は警察の調書を見ることができず、警察は加害者の説明に頼った事故処理を行った」と指摘。起訴前に被害者に調書を開示するよう制度改正の必要性を訴えた。
【写真説明】交通事故撲滅に向けた課題が報告された札幌フォーラム

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2008/10/19 北海道新聞
近づく裁判員制度 公判前整理手続き「被害者側の参加を」
交通死遺族らが訴え 札幌でフォーラム

十二月に始まる被害者の刑事裁判参加と、来年五月からの裁判員制度について、交通事故被害者の視点で考える「公開フォーラム・交通事故2008」が十八日、札幌市中央区のかでる2・7で開かれた。裁判員制度に先立ち〇五年に導入された「公判前整理手続き」に被害者側の参加を求めるなど、死亡事故被害者の遺族から、捜査と裁判の透明性向上を願う切実な訴えが相次いだ。(平畑功一)北海道交通事故被害者の会(前田敏章代表)の主催。約七十人が参加した。
公判前整理手続きは、裁判を迅速化させ、裁判員制度による国民の負担を軽減する目的で導入された。初公判前に検察側、弁護側、裁判所が証拠や争点を非公開で整理する。被告は参加する場合があるが、被害者の参加は認められていない。
フォーラムでは事故被害者や遺族、弁護士の五人が登壇。このうち〇三年に当時十四歳だった長女がトラックにはねられて亡くなった空知管内南幌町の白倉裕美子さんは、同手続きが適用された裁判を振り返りながら「知らないところで裁判の流れが決められる密室裁判だった。被告に有利な制度であり、公判前整理手続きに被害者の参加を認めるべきだ」と訴えた。さらに、起訴前の段階で調書などの捜査資料を被害者に開示し、事故当時の状況を被害者側が詳しく把握できるような制度改善を求めた。
青野渉弁護士は、刑事裁判への被害者参加を生かすためには、被害者への情報開示が必要と強調。「海外では事故後一、二週間で実況見分調書を開示する例もある。日本でも問題はほとんどないはずだ」と指摘した。【写真説明】交通事故被害者と家族から、捜査と裁判の透明性向上を訴える声が相次いだフォーラム

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朝日新聞 2008/10/19
交通事故被害者が司法の課題を報告  札幌でフォーラム

交通事故被害者や遺族らでつくる「北海道交通事故被害者の会」(前田敏章代表)が18日、札幌市中央区で「公開フォーラム・交通事故2008」を開いた。5月の裁判員制度実施を前に、公判前整理手続きや捜査記録開示をめぐり、被害者から見た司法制度の課題を報告した。長女を交通事故で亡くした空知管内南幌町の白倉裕美子さんは、裁判の争点や立証方法を絞り込む公判前整理手続きについて問題点を指摘。被告が出席できる一方、被害者は出席できないため「密室の協議で不公正だ。

裁判員制度で公判が短縮されれば、その分被害者が得られる情報量が減る。出席を求めるべきだ」と訴えた。札幌弁護士会所属の青野渉弁護士は、交通事故の実況見分調書など捜査記録の開示について問題点を報告。現在は捜査段階では記録の開示が一切認められておらず、「記録を見て捜査の疑問点が見つかっても、すでに裁判が始まり手遅れのケースが多い」と指摘。「交通犯罪に関しては、捜査段階で開示しても捜査への支障は少ない。むしろ警察の捜査に対するチェックという利点がある」と述べた。

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北海道新聞 2008年7月24日
交通事故の調書、捜査中も開示を  法相に要望書

「北海道交通事故被害者の会」(札幌、前田敏章代表)など道内外四団体が二三日、法務省を訪れ、捜査段階で事故調書などを被害者や遺族に開示するよう求める要望書を鳩山邦夫法相に手渡した。鳩山法相が五月の衆院法務委員会で開示に前向きな発言をしたのを受け、各団体が申し入れた。前田代表ら道内関係者三人を含む九人が大臣室で法相と約三十分間面談。要望書を受け取った鳩山法相は「開示に近づけるよう努力したい」と述べた。面談後、空知管内南幌町の農業白倉博幸さん(37)、裕美子さん(38)夫妻は十四歳の長女を亡くした五年前の事故を振り返り、「最初は倒れていた場所さえ捜査上の秘密として教えてもらえなかった。加害者の証言だけで事件が組み立てられるのはおかしい」と話した。

毎日新聞 7月24日
<交通事故>捜査書類を捜査段階で開示を 遺族らの4団体

交通事故遺族らでつくる4団体の代表が23日、鳩山邦夫法相と面談し、実況見分調書などの捜査書類を捜査段階で開示するよう要望した。交通事故の捜査書類は、容疑者が起訴された場合は初公判後に、不起訴の場合は不起訴決定後に一部が開示される。このため、不起訴後に実況見分調書の開示を受けた遺族らが「加害者の一方的な言い分だけで不起訴にされた」と訴えるケースが多い。
この日は、「交通事故被害者遺族の声を届ける会」(川崎市)や「TAV交通死被害者の会」(大阪市)などが「遺族が捜査を検証できるようにするため、早期に実況見分調書を開示してほしい」と訴えた。鳩山法相は「できる限り事実関係をお知らせして、被害者遺族のご意見を少しでも反映するようにしたい。被害者が亡くなって『死人に口なし』とされ、加害者が適当な言い逃れをするようなことがあってはならない」と述べた。

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2008/6/4 北海道新聞
「生命は宝物」亡くした子への思い 遺品、オブジェに込め6日から「メッセージ展」 札幌で6年ぶり

札幌市北区の札幌エルプラザで六日から開かれる「生命(いのち)のメッセージ展」。交通事故や事件でわが子を亡くした市内や近郊の親たちが、開催の準備を進めている。「命はたった一つしかない宝物。どうか大切にしてほしい」。親たちは、展示する子どもの等身大オブジェや遺品に、そんなメッセージを込めている。(本庄彩芳)同展が札幌で開かれるのは六年ぶり。初めて参加する江別市の高石弘さん(47)、洋子さん(46)夫妻は二〇〇三年、長男で野幌高校一年だった拓那(たくな)さん=当時(16)=を飲酒運転によるひき逃げ事件で亡くした。拓那さんは、新聞配達のアルバイトの途中だった。

夫妻は飲酒運転の厳罰化を求める署名運動に取り組むなど、拓那さんの死を無駄にしない活動に積極的に取り組んできた。しかし、メッセージ展には、なかなか参加できずにいた。「息子を、発泡スチロールのオブジェにしてしまうことに、抵抗があって…」事件から五年がたち、気持ちの整理がついたことから、今回の参加を決意した。オブジェは高さ百八十センチある。拓那さんは中学、高校とバレーボール部に所属。亡くなる一カ月ほど前、洋子さんが「背が伸びたんじゃない?」と話しかけると、「一八〇センチを超えたよ!」とうれしそうに答えた。洋子さんは初めてオブジェを前にした時、「拓那はこんなに身長が高かったんだなぁ」と、あらためて生前の姿を思い出し、涙が止まらなかった。洋子さんは言った。「拓那は、もうこの世にいません。でもメッセージ展では、メッセンジャーとして、新たな命を吹き込まれるんです」

札幌市北区の松尾剛史さん(57)は〇一年、札幌西高一年だった長男の翔平さん=当時(15)=を、別の高校一年の少年による暴行事件で亡くした。加害少年は交際していた女性が翔平さんと親しくなったと邪推し、翔平さんの顔を殴り、死なせた。「うまくいかないことがあったら、暴力で解決しようとする考えは許せないし、なくしたい」。剛史さんの静かな口調に、強い決意がにじむ。メッセージ展では、亡くなった当日、履いていたスニーカーとオブジェを並べる。同展は六日午後四時に開幕。八日まで、全国百三十二人のオブジェや遺品を展示する。道内の出品者はこのうち十一人。だれもが「相手は誰でもよかった」と起こる殺人事件や自殺など、命を粗末にする風潮に「どうして」と心を痛めている。「命はかけがえのないものだと、一人でも多くの人に伝えたい」

【写真説明】わが子の「生命のメッセージ」を伝えたい-。高石洋子さん(前列右から2人目)や松尾剛史さん(後列右から3人目)ら、開催準備を進める遺族ら

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11月19日 読売新聞
交通事故調書の開示を、被害者団体がシンポジウム開催

交通事故・事件の被害者遺族らで作る「交通事故調書の開示を求める会」(事務局・東京)が18日、東京都港区でシンポジウムを開き、参加者らは、被害者が真実を知ることができるよう、捜査記録の早期開示を可能にする制度の整備を求めた。
同会は2004年、捜査の経緯が分からない状況に疑問を持った遺族らで設立。この日は、05年に国連が「世界交通事故犠牲者の日」として決議した11月の第3日曜日にあたり、これにちなんだ初のシンポジウムを開催した。参加者は、「目撃者が証言していない内容まで調書に書き込まれていたことが後に判明した」などと述べ、捜査中は調書が開示されない現行制度に疑問を投げかけた。
04年にダンプカーとの衝突事故で長男(23)を亡くした埼玉県宮代町の真砂佳典さん(58)は、「調書の非開示が前提だからずさんな捜査がまかり通る。被害者への公開を念頭に置けば、手抜きはできないはず」と訴えた。交通事故・事件の捜査に詳しい青野渉弁護士も、「捜査情報は公益にあたるとして調書を開示する米国やドイツと比べ、日本の制度は被害者側の視点が欠けている」と指摘した。シンポジウムの最後に、被害者らを追悼し、献花も行われた。

2007/11/18  産経ニュース
交通事故調書の早期開示を 遺族らがシンポで訴え

刑事裁判が始まるまで見ることができない交通事故調書の早期開示を求める被害者遺族らのシンポジウムが18日、東京都港区で開かれた。危険運転致死傷罪や自動車運転過失致死傷罪など加害者の厳罰化が進む一方で、加害者の言い分に沿った調書が作成されることも多いとされ、遺族らは警察や検察のずさんな捜査で苦しめられた“二次被害”の実態を訴えた。
シンポでは、被害者遺族や弁護士が、目撃証言や車両の状況と矛盾する調書で不起訴となった事例などを紹介。ジャーナリストの柳原三佳さんが「見せないことを前提とした調書が独り歩きしてしまう。一般公道で起きる事故を秘密裏に捜査する意味があるのか」と非開示に疑問を呈した。
平成16年10月、息子の晃さん=当時(23)=を交通事故で亡くした埼玉県宮代町の真砂佳典さんは「航空機や電車のように、車両事故でも専門の調査委員会を作ってほしい」と要望。交通事故問題に詳しい青野渉弁護士は「情報開示がないと、真実が分からなくなる。被害者にも加害者にもマイナスだ」と、調書の早期開示が真相解明につながると強調した。

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2007/10/17, 北海道新聞
加害者は直接の謝罪を」被害の家族 体験談語る 札幌でフォーラム

事故被害者の救済や事故防止策をテーマに、北海道交通事故被害者の会(前田敏章代表)によるフォーラムが十六日、札幌市中央区のかでる2・7で開かれた。
家族が事故に遭った経験を持つ会員二人が、市民ら約七十人を前に自身の体験を語った。二○○三年八月、速度超過の車にはねられ、娘=当時(20)=を亡くした旭川市の教員米沢透さん(58)は、事故を起こした男性や家族から裁判後は直接の謝罪がないとし、「一生償うと言いながら対応がおかしい」と話した。また、同年六月、車にはねられ、意識不明のまま今も入院している息子(10)がいる稚内市の会社員米内隆俊さん(49)は「事故後に(法的な)知識がないと何もできない。相談できる場所が必要」と訴えた。このほか、常磐大大学院の諸沢英道教授(被害者学)が講演し、事故被害者への法的支援制度が整いつつある現状に触れ、「事故後の救急活動と同じで、被害者対策にも迅速に応じられる機関が必要」と強調した。【写真説明】フォーラムで事故の悲惨さを訴える米内さん

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※この項の事件については、7月12日から7月20までの一連の道新記事をまとめて掲載します。

2007/07/12, 北海道新聞
道央道にキツネ、死亡事故 管理責任どう判断 札幌地裁、明日判決

苫小牧市内の道央自動車道で、飛び出したキツネが元で死亡事故が起きたとして、野生動物をめぐる高速道路の安全管理が問われた損害賠償請求訴訟の判決が十三日、札幌地裁で言い渡される。付近では、車と動物の衝突が多数確認されており、道路管理者の責任をどうみるか注目される。訴えているのは室蘭市白鳥台四、無職高橋雅志さん(67)、利子さん(62)夫妻。道路を管理する東日本高速道路(旧日本道路公団)と、高橋さんの長女真理子さん(当時三十四歳)の乗用車に追突した札幌市東区(当時)の男性会社員(38)を相手取り、合わせて九千五百万円の賠償を求めている。
訴状などによると、真理子さんは二○○一年十月八日夜、苫小牧市糸井の道央道で、路上を横切ったキツネに驚き、中央分離帯に衝突して停車。そこへ、二台後ろの会社員の乗用車が追突し、頭の骨を折るなどして亡くなった。
高橋さん夫妻は、現場付近では、通行車両とキツネの衝突事故が続発していたなどと指摘し、動物侵入に伴う事故を予想できたのに、必要な侵入防止策を取らなかったと主張。これに対し、東日本高速道路は道内の高速道路の総延長は約五百四十キロあり、動物が侵入する場所、時間を予測できないと反論。真理子さんにも、減速するなど安全措置を取らなかった過失があると強調している。動物の侵入と高速道路の管理をめぐっては、札幌高裁が一九九九年、小樽市内の札樽自動車道で起きたエゾシカとタクシーの衝突事故について「道路の設置管理に落ち度があったとは認められない」との判断を示した。事故前、現場周辺では、エゾシカと車の接触の報告が皆無だったという。東日本高速道路道支社によると、動物と車の衝突は全国の高速道路で年平均三万四千件、道内では同千八百件(二○○○-○四年)を数える。道外では、シカ、イノシシ、タヌキなどとの接触や避けようとしてハンドル操作を誤る事故が後を絶たず、車内の人が死傷するケースも少なくない。【写真説明】故高橋真理子さん

2007/07/14 北海道新聞
旧公団に責任なし 札幌地裁が賠償請求棄却 キツネ避け道央道事故死

道央自動車道に飛び出したキツネを避けようとして事故死した女性の両親が、道路を管理する旧日本道路公団(現東日本高速道路)などを相手取り、総額八千九百万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が十三日、札幌地裁であり、坂本宗一裁判官は旧道路公団の責任を認めず、訴えを退けた。坂本裁判官は「中小動物の侵入防止用の柵を設置したり改修したりしなかったからといって、道路の安全性を欠いているとはいえない」と旧公団の過失を否定。旧公団が事故の十年以上前に動物侵入対策の研究成果をまとめながら、それを事故現場付近で実施していなかった-との原告の主張に対しては、「標準的なものとして、普及しているとは認められない」と指摘した。女性の乗用車に追突し業務上過失致死罪が確定している札幌市内の会社員(38)については、千九百万円の賠償を命じた。
判決後、原告の室蘭市白鳥台四、無職高橋雅志さん(67)、利子さん(62)夫妻は地裁内で会見し、控訴する意向を明らかにした。
雅志さんは「旧公団に何も責任がないと、どうして言えるのか。まったく不当な判決」と憤りをあらわにし、利子さんは「このままでは、娘の死が無駄になってしまう。旧公団は動物の侵入防止策を取ってほしい」と涙を浮かべて訴えた。一方、東日本高速道路道支社は「私どもの主張が認められたものと考えております」などとのコメントを発表した。判決などによると、高橋さん夫妻の長女真理子さん=当時(34)=は二○○一年十月、苫小牧市糸井の道央道で、路上に出てきたキツネを避けて、中央分離帯に衝突。二台後ろを走っていた会社員の乗用車に追突され、頭の骨を折るなどして亡くなった。【写真説明】悲しみと憤りの表情で会見する原告の高橋さん夫妻

2007/07/19, 北海道新聞
娘の声を聞きながら ある交通死の裁判 上

高速道への動物侵入「旧公団は対策怠った」

小さな遺影をハンカチにくるんで胸に抱いた。手首には、あの子が海外旅行の土産に買ってくれた腕時計をしていた。これまで二十回の裁判もずっと、そうやって一緒に見つめてきたのだ-。 十三日午後、室蘭市の無職高橋雅志さん(67)と妻利子さん(62)は札幌地裁七階の法廷にいた。

*最期見てやれず

裁判官が判決主文を早口で読みあげる。「原告らのその余の請求を棄却する」。二人が飲み込めないと思ったのか、裁判官は「旧公団の責任は否定しました」と念を押すように言った。二人の長女真理子さん=当時(34)=の車に追突した会社員には賠償を命じるが、道路を管理する旧日本道路公団(現東日本高速道路)の責任は認めないという意味だった。事故が起きたのは、二○○一年十月八日夜。判決によると、午後七時五十一分ごろのことだ。真理子さんは実家から、看護師として働いていた札幌に戻るため、道央自動車道を乗用車で走っていた。苫小牧市糸井にさしかかったとき、突然、前方にキツネが飛び出してくる。避けようとして、急ハンドルを切る。車は横滑りして中央分離帯にぶつかり、車体を横にして追い越し車線に止まった。二分後、そこへ、二台後ろを走っていた会社員の車が突っ込んできた。「娘はたった一人で逝きました。私も看護師をしていましたから、患者さんが亡くなる時はたいてい、家族に見守られて旅立つのを知っています。でも、私たちは最期を見てやれなかった」「あの子はなぜ、命を奪われなければならなかったのか。いつも考えています。せめて、娘のためにできることをしよう、その死を無駄にすまいと思いました」雅志さんと利子さんが旧道路公団を提訴したのは、事故からおよそ三年後、二○○四年九月だった。その訴えはこうだ。時速百キロ前後で車が行き交う高速道路にキツネが入り込めば、事故が起きることは予想できたのに、十分な対策を取らなかった。安全管理を怠った。これは、「動物が出てくる高速道路は危険だ」という当たり前の感覚が出発点になっている。

*有識者委も提言

訴訟代理人を任された青野渉弁護士(36)=札幌市中央区=は精力的に証拠を集めた。旧公団に情報公開請求したところ、真理子さんが亡くなった道央道の苫小牧東-同西インターチェンジ間では、車とキツネの衝突が多発していた。旧公団が死体を回収した分だけで、一九九九年二十五件、二○○○年三十四件、事故があった○一年に六十九件、○二年には五十三件と、月平均二件以上を数える。なにより、旧公団は真理子さんの事故のずっと以前に、有識者六人による特別委員会を設けて、六年がかりで高速道路への動物の侵入防止策を検討し、八九年に「高速道路と動物」という冊子にまとめていた。そこでは、キツネのような土を掘る小動物に対して、目の細かい金網型の柵を、地面とのすき間なしに設置したり、地面をコンクリートで固めたりする方法を示している。しかし、事故の翌年、現場付近で行われた対策工事には、真理子さんの犠牲がありながら、それらが一切生かされなかった。雅志さんと利子さんは旧公団の考え方が理解できなかった。

高速道路で娘を失った両親の裁判の軌跡を追った。
(編集委員 村山健)【写真説明】旧日本道路公団に対する賠償請求が棄却され、無念の表情で会見する高橋さん夫婦と青野渉弁護士(右)=13日、札幌地裁弁護士控室で

2007/07/20 北海道新聞
娘の声を聞きながら ある交通死の裁判 下

旧道路公団の反論 人間味ない姿勢に憤り

亡くなった娘のことを繰り返し言い立てられ、そのたびに、親としての後悔と悲しみがよみがえり、しかも、裁判はいつ終わるか知れない-。室蘭市の高橋雅志さん(67)と妻利子さん(62)はこの民事訴訟を起こすとき、そうした理由で「つらい思いをしますよ」と弁護士に言われたことを覚えている。二人は三年前、旧日本道路公団(現東日本高速道路)の管理責任を問う裁判を始めた。

*過失責任を指摘

長女真理子さん=当時(34)=が二○○一年十月、道央自動車道でキツネを避けようとして事故死したのは、旧道路公団がキツネの頻繁な侵入も、その防止策も知りながら、放置していたからだと訴えた。旧公団は初めから、まったく責任がないと反論してきた。高橋さん夫婦を苦しめたのは、真理子さんにこそ、過失があるという旧公団側の言い分だった。それは表現を変えて、何度も指摘された。彼らの最終準備書面には、こうある。「減速など基本的措置をしなかったのは、危機回避の判断と行動に過失があったといわざるを得ない」「安全運転義務を怠る者までも、完全な道路施設の整備によって救済しなければ、管理瑕疵(かし)(欠陥)が問われるようなことがあってはならない」真理子さんをとがめる、そんな文章を読むたびに、二人は「あの晩、娘を引きとめればよかった、もっと話を聞いてあげればよかった」と次々にわき起こる悔恨で胸が張り裂けそうになった。そして、真理子さんは二度と戻らないという事実に打ちのめされた。旧公団はそれでも、「反撃」の手を緩めない。準備書面で、こんな主張を繰り返した。道内の高速道路は延長約五百四十キロ、上下線で千キロを超え、地形や動物なども多種多様だから、どんな動物がいつ、どこに出てくるかを予測するのは不可能だ。それを防げというのは過大な要求だ。もし、侵入防止策を道内全線で行えば、三十九億五千万円かかり、全国に広げると、「極めて莫大(ばくだい)な額に上る」。

*札幌高裁に控訴

さらに、「本件事故の損害賠償責任を負うとの判例が確立されたならば、膨大な類似の訴訟が提起されることは必至であり、賠償金額も莫大なものとなるであろう」とまで言い切った。旧公団の人間味のない姿勢を、高橋さん夫妻は事故直後から感じていた。彼らは四十九日が明ける前に、真理子さんがキツネを避けて切ったワイヤの修理代を電話で請求してきたし、夫妻が事故の目撃者を探すため、パーキングエリアにポスターを張らせてほしいと頼んでも、「前例がない」と三カ月も認めなかった。二人は、そんな旧道路公団に変わってほしいと願う。「私たちはいつも、亡き娘の『声』を聞きながら、裁判をやってきました。人間の命も野生動物の命も守って、という声です。札幌地裁は聞き入れてくれませんでしたが、真実の訴えです。命のための高速道路ができるまで、私たちの裁判は終わりません」
夫妻は来週にも、札幌高裁に控訴する。(編集委員 村山健)
【写真説明】刑事裁判から数えて4年余り。山のように集まった資料を読み返す高橋雅志さんと妻の利子さん

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2007/07/09 北海道新聞夕刊
妊娠中に交通事故 帝王切開で数時間生きたが…「胎児は人か」揺れる司法
加害者の過失 札幌立件できず、静岡では有罪判決

妊婦が交通事故に遭い、帝王切開で生まれた後に赤ちゃんが亡くなった場合、事故の加害者に対し胎児への過失致死罪は問えるか。四年前に札幌市東区で起きた事故では「胎児」は「人」と認められず、昨年三月に起きた静岡県内での事故では、赤ちゃんへの過失致死罪が認められた。刑事裁判に国民が参加する裁判員制度の導入を控えて、司法判断が注目されている。「これが人ではないと言えますか」。陳述書に添付された写真は、医療機器に囲まれているものの、小さな赤ちゃんが眠っているようにみえる。「亡くなった桜子です」。札幌市内に住むファイナンシャルプランナー細野雅弘さん(33)は、二○○三年十二月、妊娠八カ月の妻(32)と買い物帰りに事故に遭った。対向車が雪でスリップし、細野さんの車と衝突した。車は大破し、助手席の妻の腹部にシートベルトが食い込んだ。妻が搬送された病院で緊急の帝王切開手術が行われ、桜子ちゃんが生まれた。重症仮死状態だった。「最後に抱っこしてあげてください」。医師に言われたが、妻は手を骨折して抱くことができず、細野さんがそっと抱き上げる中で呼吸器が止められた。体重一四○○グラム。温かかった体がさーっと冷たくなっていき、「命がこぼれていくように感じた」。急いで妻のおなかに桜子ちゃんをのせた。「いい子ね、ごめんね」。妻が動く右手でわが子を抱きしめた。桜子ちゃんが亡くなったのは生後十一時間後だった。

*夫婦のみ傷害罪

細野さん夫妻は業務上過失致死での立件を訴え続けたが、札幌地検は夫婦への業務上過失傷害罪だけで起訴。細野さんは桜子ちゃんの写真を添付した陳述書を提出、法廷でも「子ども一人が死んだのに夫婦だけの傷害罪だけでいいのか」と訴えたが、○五年十一月、加害者に業務上過失傷害罪で有罪判決が出された。細野さんは「事故に遭わなければ今、桜子と暮らしていた。せめて業務上過失致死で立件し、人として生きた証明をしてあげたかった」と話す。細野さんの刑事裁判の判決から約三カ月後。静岡県袋井市で居眠り運転の乗用車が、三日後に予定日の杉山真寿美さんの車に正面衝突。杉山さんは胎盤剥離(はくり)を起こしていたため、帝王切開で男児を出産したが約三十時間後に死亡。母親への業務上過失傷害容疑で加害者は逮捕されたが、地検が罪状を切り替え、昨年六月、静岡地裁浜松支部は、胎児への業務上過失致死罪を認定する画期的な有罪判決を言い渡した。

*水俣判決と同じ

当時、静岡地検浜松支部の支部長だった検事は「男児は生まれた後に事故が原因で死亡しており、母親への傷害だけではおかしいと検討した。決め手は医者が『(死産ではなく)生産(せいざん)です』と言ったことだった」と振り返る。これに先立ち、一九八八年に熊本の水俣病刑事訴訟で胎児性水俣病患者に業務上過失致死罪を認めた最高裁判決があったことも理由に挙げる。検事は「胎児の時に受けた影響で水俣病になり、生まれた後にその影響で死亡したということを認めた水俣判決とまったく同じ構図。生まれたからには人だという普通の判断をした」と話した。道内では○四年十二月、室蘭市で夫婦の車がワゴン車に衝突され妊娠中の妻が重傷を負い、胎児が死亡する事故が起きた。この事故をめぐり、札幌地裁室蘭支部は○六年一月、胎児は「人」ではなく「母親の体の一部」とする判決を下している。刑法が適用される人の定義は何か。元最高検検事の土本武司・白鴎大法科大学院長は「長年、胎児への傷害罪は適用できないとされてきた。水俣訴訟で流れが変わったとはいえ、胎児への傷害罪や過失致死罪をどうするかという議論が進まないまま現在に至る」と説明する。ただ「現在の発達した医療のもとでは帝王切開で臨月前に人工的に出産した低体重児でも生存の可能性が高い。胎児でも一定時期以降は母体から独立した『人』として法律上認める方向も模索しつつ議論するべきだ」と指摘する。

*胎児が出生後に死亡(傷害含む)した事故と判決例

2002年9月 鹿児島県内で乗用車が妊娠中女性の車と衝突。生まれた女児に後遺症。03年9月、胎児への業務上過失傷害罪で有罪 03年6月 三重県内で妊娠8カ月の女性の車にトラックが追突。帝王切開で女児が生まれたが5時間後に死亡。同年9月、胎児含む業務上過失致死傷罪で加害者を起訴、その後、有罪
03年12月 札幌市で妊娠31週の女性の乗った車とトラックが衝突。女児は11時間後に死亡。05年11月、夫婦への業務上過失傷害罪で有罪
04年12月 室蘭市で2週間後に出産予定の妊婦の車が追突される。胎児は生後15時間後に死亡。06年1月、母親への業務上過失致傷罪で有罪
06年3月 静岡県内妊婦の乗用車が衝突。生まれた男児は約30時間後に死亡。同年6月、胎児含む業務上過失致死傷罪で有罪
06年8月 長崎県内で妊娠中の女性の車に対向車が衝突。生まれた男児は7日後に死亡。07年2月、胎児への業務上過失致死傷罪で有罪
【写真説明】事故現場に立ち、「せめて、業務上過失致死で立件し、桜子の人として生きた証しを残したかった」と話す細野雅弘さん=6月、札幌市

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2007/6/20/ 読売新聞
「被害者参加制度」関連法成立、被害者の会が喜び語る

犯罪被害者が刑事裁判で被告人質問や求刑を行える「被害者参加制度」の関連法が20日午後、参院本会議で可決、成立した。この制度の基礎となった試案を作成した全国犯罪被害者の会(あすの会)のメンバーが成立を受けて記者会見し、喜びを語った。「これまで、被害者は裁判の『証拠品』として扱われ、苦しんできたが、これで苦しみは相当軽減される」。2000年の同会設立以来、代表幹事として運動の先頭に立ってきた岡村勲さん(78)は、感極まったように話した。

かつては日本弁護士連合会の副会長まで務めたが、1997年に妻を殺害されたことで、被害者の地位向上に取り組み始めた。「冷たい弁護士だった。ただただ恥じ入るばかり」。事件前は、被告の権利擁護しか頭になかったという自分を、そう振り返る。「妻のために、何か一つ、大きなものを残してやりたい」と考え、自ら提唱した今回の制度。「重罰化につながりかねない」などとして反対する日弁連を“敵”に回すことになったが、国会では圧倒的多数の賛成で成立した。「『今日は泣くかもしれないから会見には出たくない』と岡村さんは言っていた」。会見でメンバーの一人が明かすと、上を向き、あふれそうになる涙をじっとこらえていた。

刑事裁判に被害者参加、改正刑訴法が成立

刑事裁判で、犯罪被害者・遺族が被告や証人に質問したり、求刑の意見を述べたりすることを可能にする「被害者参加制度」の新設を柱とした刑事訴訟法改正案などの関連法案が20日午後、参院本会議で可決、成立した。来年12月までに施行され、被害者は、被告や検察官と同じ当事者に近い立場で公判に参加できるようになる。翌2009年5月までには裁判員制度も実施され、刑事裁判の在り方は大きく転換する。被害者参加制度では、被害者が裁判官の許可を得て、審理に出席し検察官の横に座ることができ、被告人質問のほか、情状に関する証人尋問、事実関係に関する意見陳述、求刑などを行える。殺人や強姦(ごうかん)、業務上過失致死傷などの重大事件が対象となる。

また、同制度では、被害者が自分の弁護士と一緒に参加することもできる。この場合、資力のない被害者に公費で弁護士を付ける制度を導入するかどうかについて、政府は年内に方針を決める見通しだ。民主党は、裁判員制度で一般市民が判断に加わることを念頭に、「被害者の求刑が裁判員らの感情に訴え、量刑が過度に重くなる恐れがある」として、求刑の規定を除外した修正案を参院法務委員会に提出したが、19日の同委で否決された。一方、この日成立する関連法案により、〈1〉刑事裁判を担当した裁判官が被害者の賠償請求に対する決定も出す「付帯私訴制度」の導入〈2〉被害者による刑事裁判記録のコピーの制限緩和――などが実現する。

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2007/06/14  北海道新聞夕刊
酒類提供者に罰則 同乗者も 改正道交法成立へ

飲酒運転の厳罰化などを柱とした改正道交法が十四日午後、衆院本会議で可決、成立する。酒類や車両の提供者とともに、同乗者に対する罰則を新設し、ひき逃げの罰則も強化した。九月にも施行される。同法は、酒酔い運転の罰則上限を現行の「懲役三年または罰金五十万円」から「五年、百万円」とし、酒気帯び運転は「一年、三十万円」を「三年、五十万円」に引き上げる。飲酒運転者への車両提供は、運転者と同等の罰則とし、酒類提供は運転者が酒酔い運転をした場合は「三年、五十万円」、酒気帯びは「二年、三十万円」。同乗者は、運転者に同乗を要求、依頼した場合に、酒類提供者と同様の罰則とする。
ひき逃げは「五年、五十万円」を「十年、百万円」に引き上げ。飲酒検知拒否は「三カ月、五十万円」で、懲役刑を新設する。このほか、七十五歳以上の高齢者に認知機能検査と高齢者標章「もみじマーク」の表示を義務付け。聴覚障害者には車両へのワイドミラー装着を条件に、普通免許取得を認め、障害者用の標識表示を義務付ける。
後部座席のシートベルト着用も義務化し、子供などの歩道での自転車通行を認める。飲酒運転などの厳罰化は二○○一年六月の同法改正(○二年六月施行)以来、六年ぶり。今国会では、自動車運転過失致死傷罪を新設した改正刑法も成立している
◇<表>道交法の飲酒運転の罰則(省略)

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2007/6/6 「読売新聞」社説
運転致死傷罪 悲劇をなくすための「厳罰化」だ

重大な事故を起こして、「うっかりしていた」では済まされない。相応の刑事責任を負うのは当然だろう。自動車運転過失致死傷罪を新たに設ける改正刑法が成立、今月12日に施行される。
厳罰化やシートベルト着用の効果などもあって、交通事故の死者は年間6000人台まで減ってきた。だが、歩行者と自転車の死者が全体の45%を占める。こうした交通弱者の犠牲を減らす基本は、ハンドルを握る人のモラルと注意力にある。法改正を機に、一人一人が安全運転への自覚を新たにすべきだ。交通人身事故を起こした人には、普通は鉄道事故や労働災害、医療事故の場合と同様に、刑法の業務上過失致死傷罪が適用されてきた。最高懲役は5年だった。今後は自動車運転過失致死傷罪に問われ、最高懲役も7年と重くなる。2001年には、刑法に危険運転致死傷罪が設けられた。これに続く交通事故に対する厳罰化だ。故意に危険な運転をした者に対する危険運転致死傷罪と違い、前方不注意などが原因で、年間約90万件も起きている人身事故のほとんどに適用される。
改正のきっかけは、埼玉県川口市で昨年9月、保育園児の列に車が突っ込み、園児4人が死亡、17人が重軽傷を負った事故だ。カセットプレーヤーのテープを替えようとしての脇見運転だった。これほど痛ましい事故だったにもかかわらず、地裁判決は業務上過失致死傷罪の上限の懲役5年にとどまった。遺族らは最高で懲役20年の危険運転致死傷罪の適用を求めた。しかし、この罪の適用要件は、正常運転が困難なほど飲酒していたとか殊更に赤信号を無視したなど、極めて限定されている。その壁を超えることができなかった。
裁判長も「危険性や悪質性は際立っているが、法定刑の上限に張り付くほかはない」として、業務上過失致死傷罪の刑が軽すぎることに言及していた。遺族などには、懲役を2年引き上げる程度の改正では不十分だとする意見がある。危険運転ではなく不注意運転が原因だとしても、失ったものの大きさを考えれば当然の思いでもあるだろう。
政府は今国会に道路交通法の改正案も提出している。成立すれば酒酔い運転の懲役は最高3年から5年に、酒気帯び運転も1年から3年になる。改正刑法と併せ、酒気帯び人身事故では懲役が最高6年から10年へ格段に厳しくなる。道交法は2002年改正に続く厳罰化だ。今度こそ飲酒運転による悲劇を絶つ契機としなければならない。

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2007/05/18, 北海道新聞
「運転致死傷罪」を新設 最高懲役7年に引き上げ 改正刑法成立

悪質な運転行為による交通事故の罰則を強化するため「自動車運転過失致死傷罪」の新設を柱とする改正刑法が十七日午後の衆院本会議で可決、成立した。改正刑法は、現行の業務上過失致死傷罪から交通事故に関する規定を独立させ、最高刑を懲役五年から同七年に引き上げた。二輪車による事故も対象。施行は公布から二十日後となっており、六月中旬からになる。悪質な事故をめぐっては、二○○一年の刑法改正で危険運転致死傷罪(最高刑は致死懲役二十年、致傷同十五年)が新設され、罰則強化された。

しかし、飲酒や薬物で正常な運転が困難な状態だったことや赤信号を故意に無視したことが立証されなければならず、適用のハードルが高い。このため適用例が少なく、業務上過失致死傷罪との開きを埋める立法措置を被害者らが要望していた。今回の法改正では、自動車の運転に限られていた危険運転致死傷罪の適用対象に二輪車を加えることも盛り込んだ。今国会では、飲酒運転の罰則を引き上げる道交法改正案も成立する見通し。両法の改正で、酒酔い運転中の過失致死傷の最高刑は懲役七年六カ月から同十年六カ月に、酒気帯び運転中は懲役六年から同十年に強化され、厳罰化が進むことになる。

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「北海道新聞」2007/03/26 (夕刊)
<今日の話題>スロードライブ

十二年前、十七歳の長女千尋さんを交通事故で失った千歳高校の前田敏章教諭が「スローライフ交通教育」を実践している。長女をはねた運転者は銀行に午後六時までに着けば振込手数料を節約できる、などと急いでいた。時刻を確かめるのにカーラジオの操作に気をとられたという。風雨の中、歩道のない道を赤い傘をさして歩いていた千尋さんは、五メートルも跳ね飛ばされた。「急いでいた」せいで起きる交通事故が多い。私も、冬道の下り坂で追い越して、対向車線のわだちにはまり、あわや正面衝突の体験をした。スローライフ交通教育は、主に総合学習の時間に、交通死の具体例から遺族らの気持ちを伝え、車の停止距離や免許制度を考えさせる。命の尊厳の観点から「車優先社会」を問い直す。前田さんはこの七年間に、道内の高校などで百十一回講演した。車の有用性に対する考えを変えることを訴えている。

車は「速く格好よく走る物」という認識から「ゆっくりだが、雨風をしのぎ、荷物も積んで、ドアからドアへ移動できる便利な物。子供や高齢者、病人、障害者に特に必要な物」への転換だ。車に限らず、先を急ぐ風潮が日本に広がっていないだろうか。注意深く相手の意向を探り合い、互いに受け入れられるまで何度も確認して、新しい方法や取り決めを考え出す。そんな「間」をとることを大事にする文化が失われていないか。 被害者や遺族の声は車社会、ひいては急ぎすぎる社会への警告かもしれない。(上村英生)

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「北海道新聞」2007/03/15
札幌で輪禍死障害者の両親「逸失利益ゼロは不当」加害者らを提訴へ

交通事故で死亡した自閉症の長男=当時(17)=の逸失利益を「ゼロ円」と算定したのは不当だとして、札幌市内の両親が、加害者の運転手と事故当時、長男を介護していたヘルパーらを相手取り、同年代の健常者と同じ逸失利益約四千二百万円を含む約七千三百万円の損害賠償を求め四月上旬、札幌地裁に提訴することが十四日、分かった。これまで、重度の障害者に健常者並みの逸失利益を認めた判決はなく、逸失利益の見直しを求める訴訟は全国でも異例だ。

両親らによると、重度の自閉症だった長男は二○○五年八月、ヘルパーに付き添われ、初めて路線バスを利用して札幌市内の公園へ行った。バスが公園内の停留所で停車し、ヘルパーが運賃を支払っている間に、長男は道路へ飛び出し、乗用車にはねられ死亡した。事故の数カ月後、加害者の代理の損害保険会社が、男性の両親に賠償額の見積もりを提示。長男が受け取るはずの障害者年金を将来の収入と認めず、逸失利益をゼロと算定し、賠償額の総額は慰謝料など千六百万円とした。逸失利益は、被害者が生きていれば将来得られたはずの収入で、同じ年代の健常者でも、職種などによって数千万円の差が生ずることもある。一般的に、障害者は仕事に就きにくいため、収入予想額を低く算定され、障害が重度になるほど逸失利益は低くなる。
両親は「障害者だからといって、命の対価と考えられる逸失利益がゼロ円なのは明らかな差別で、人権を無視している」と訴える。両親の代理人を務める児玉勇二弁護士(東京)は「重度の障害者でも発達の可能性はあり、逸失利益に差をつけるのは不合理。少なくとも、法律で定められた最低賃金をベースに算定するべきだ」と話している。道内関係では、旧上磯町(現北斗市)の知的障害児施設で入浴中に死亡し、逸失利益を「ゼロ円」と算定された男性=当時(16)=の青森県に住む両親も、近く同様の訴訟を青森地裁に起こす。

(同37面)逸失利益ゼロ訴訟 同じ命 なぜ格差
「障害者だから…無念」遺族*賠償額算定を疑問視

「息子には、生きている価値がなかったということでしょうか」。重度の自閉症だった長男=当時(17)=を交通事故で失い、逸失利益を「ゼロ」と算定された札幌市の両親は、就労による将来の収入を基本とした、損害賠償額算定の考え方を疑問視する。道内では、この両親のほかにも事故で死亡した障害者の親が、賠償額見直しを求めて提訴するケースが増えており、遺族の訴えは「『命の対価』に差はあるのか」という根源的な問題も投げかけている。

札幌の両親は、損害保険会社から「逸失利益はゼロ円」と言われた後、複数の弁護士に相談した。弁護士は保険会社から算定の根拠を聞いた上で、両親に「逸失利益がゼロでも仕方ないですね」と言ったという。それでも、両親は「愛する子供を失った上に、『息子の命はゼロ円』と言われて納得する親がいるでしょうか」。障害者の逸失利益は低いため、裁判になれば通常の慰謝料に三百万円程度を上乗せして、健常者との差をわずかに縮めるのが一般的だ。損害賠償論に詳しい吉村良一・立命館大法学部教授(民法)は「子供を失った親の悲しみに差はない。賠償額は逸失利益ではなく、親に対する慰謝料を中心に考えるべきだ」と指摘する。

札幌地裁小樽支部で二月、車にはねられ死亡した吉川博記さん=当時(26)=の両親が加害者の運転手に損害賠償を求めた訴訟の判決があった。同年代の大卒男性なら一億円をゆうに超えるはずの逸失利益は、判決では五百六十万円しか認めなかった。博記さんが受け取っていた障害基礎年金を収入とみなし、将来の予想額から生活費などを控除して算出した金額だ。母親(59)は月に一度、博記さんが戻ってくる夢を見る。知的障害で言葉が話せず、服を着るにも介助が必要だった。「赤ん坊と同じで、人の世話にならないと生きていけない。親が死んでも、人にかわいがられる子になるよう、愛情を込めて育てたのに」とくやしさをにじませる。父親(63)も「障害者ということで金額が低いとなったら、あの子はさぞ無念だろう」と、唇をかみしめた。逸失利益の算定について、日本損害保険協会は「健常者の場合、算定方法を定めた法律に従って支払いをしている」とした上で、「障害者には明確な基準はなく、保険会社各社が判断している」と話している。写真説明】小樽市内の自宅で博記さんの仏壇を見つめる母親。「あの子が寂しくないように、夜も豆電球をつけておくの」

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2007/1/18 毎日新聞
交通事故全般の厳罰化を

「北海道交通事故被害者の会」副代表で弁護士
内藤裕次さん
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2007/1/18 毎日新聞夕刊(大阪)
「交通死軽視の風潮変えたい」
業禍致死傷罪の最高刑、遺族「10年以上に」要望へ 法務省も面会受け入れ

交通事故で家族を亡くした遺族でつくる3団体が29日、法務省を訪ね、業務上過失致死傷罪の最高刑(5年)を10年以上に引き上げるよう要望する。警察庁が昨年12月、飲酒運転やひき逃げの厳罰化を柱とする道路交通法改正試案を発表したが、遺族らは「飲酒やひき逃げは重大事故のごく一部。交通死を軽視する風潮自体を変えなければ事故は減らない」と主張。被害者支援のあり方が模索される中、遺族会が連携して求めた面会を法務省側が受け入れた。3団体は▽「交通事故被害者遺族の声を届ける会」(事務局・川崎市、15家族)▽「TAV交通死被害者の会」(同・大阪市、156家族)▽「北海道交通事故被害者の会」(同・札幌市、107家族)。

68年、業務上過失致死傷罪の最高刑が3年から5年に引き上げられ、交通事故死傷者数は一時半減したが、その後再び増加。各団体に呼び掛けた「声を届ける会」の森本祐二さん(52)=兵庫県川西市=は「10年以上に引き上げれば、多くの命が救える」と主張する。TAVは交通事故の起訴率向上なども求める。法定刑引き上げを長年訴えてきた遺族らは、同じような悲しい思いをする人が増えないようにと約1時間、訴える。【林田七恵】

【 関連続報 】2007/01/30北海道新聞朝刊

交通事故厳罰化求め 法務省に要望書提出 道被害者の会など

北海道交通事故被害者の会(札幌市、前田敏章代表)など、交通事故で家族を失った人たちでつくる全国三団体が二十九日、業務上過失致死傷罪の法定刑の最高を現行の懲役五年から同十年以上に引き上げるよう求める要望書を法務省に提出した。同会と、川崎市、大阪市にそれぞれ事務局を置く二団体の計十二人が、同省刑事局の法制担当職員と面談。同省は、同罪の法定刑の最高を懲役七年に引き上げることを検討しているが、三団体は「七年では、最高で懲役二十年の危険運転致死傷罪に比べて軽い」と、さらなる厳罰化を求めた。
 要望書提出後、前田代表は「法体系上、急激な引き上げは難しいとのことだったが、被害者をなくすために、さらに厳罰化に踏み込んでほしい」と話した。

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