ビジネスモデル発明を特許出願する

ために必要な法的知識

弁理士 遠山 勉


 

 ビジネスモデル発明は、ソフトウエア技術を特定ビジネスに応用したものとして、既存の審査基準で審査

 すなわち、ビジネスモデル発明を特許出願するときは、現行法の枠内において、ソフトウェア関連発明の取り扱い(審査基準)に準拠して明細書を作成することになります。(ソフトウェア関連発明の審査基準は特許庁のホームページに掲載されています。)

 ここで、知っておきたいことは、

  特許法上の発明であること

  産業上利用可能であること

  新規性・進歩性を有すること

  一出願できる発明の範囲内であること(発明の単一性)

  その他

 などです。

 

 以下、順次説明します。

 

 【1】発明であること

 (1−1)発明の定義

 特許法上、発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条@)と定義されています。ここで、自然法則とは、自然の領域(自然界)において経験によって見い出される法則を言います。

 

 人間の推理力その他、純知能的・精神的活動により発見され案出された法則(数学又は論理学上の法則、例えば、計算方法、作図法、暗号作成方法)、金融保険制度、課税方法、遊技方法などの人為的取り決め、経済学上の法則、広告方法などは自然法則でないので発明ではありません。また、人間の心理現象に基づく経験則、すなわち心理法則は一般に自然法則でないと解されています。

 このようなことから、ビジネス方法自体は「発明」であるとはいえません。

 但し、ビジネス方法に特徴があるものでも、コンピュータ技術を利用することで、「自然法則」を利用したこととなり、「ビジネス関連発明」として保護対象となります。これがビジネスモデル発明ということになります。


 (1−2) 発明の種類

 なお、発明といってもの様々な種類があり、その種類に応じて明細書の書き方、権利範囲等が決まりますので、ここで発明の種類について説明します。

 ビジネスモデル発明の種類もまたソフトウェア関連発明の場合と同様に分類されます。
 

<特許法上の分類からみたソフトウェア関連発明>

 物の発明

 方法の発明

 物を生産する方法の発明

<実務上の分類>

 システム発明

 媒体特許

 伝送媒体特許

 利用発明

<審査基準によるソフトウェア関連発明の分類>

 審査基準では、ソフトウェア関連発明が産業上利用可能な発明として特許されるために、ハードウェアとどのように関わればよいかを示しております。その観点からの分類です。

【2】産業上利用可能であること(自然法則を利用していること)

 これは、ソフトウェア関連発明についての産業上利用可能性についての審査基準を参照してください。

 

【3】新規性・進歩性を有すること

 ビジネスモデル発明の場合、ビジネス方法自体が新規であれば、新規性を有することになるでしょう。ビジネス方法自体が新規でなくとも、その方法実現のための技術的手法が新規であれば、新規性を有することになります。
 すでに公知のビジネス方法を単にコンピュータに置き換えた場合、進歩性がないとされることが多いでしょう。
 ビジネスモデル関係はソフトウェア関連発明の運用指針が適用され(運用指針については、特許庁のホームページを参照して下さい。)、そこには進歩性につき以下の基準があります。

@他分野への応用
 ソフトウェア関係では、適用分野にかかわらず、機能・作用が共通する場合が多いものです。例えば、ファイル検索システムにおけるファイル検索機能を医療検索システムに応用することは、当業者が普通に考えることとして進歩性のないものとされます。
A通常のシステム化手段の付加または置換
 ソフトウェア関連発明は、コンピュータのハードウェア及びソフトウェアを用いたシステムとして構成される場合が多いものですが、その場合、システムの構成として通常用いられるものを付加したり、システム構成の一部を均等物に置換することは当業者が普通に考えることとして進歩性が否定されます。
Bハードウェアで行っている機能のソフトウェア化
 回路等のハードウェアで行っていることの機能をソフトウェア化することは当業者が普通に考えることで、進歩性が否定されます。
C人間が行っている業務のシステム化
 人間が行っている業務のシステム化が、通常のシステム分析手法(既存業務の分析→文書化)、システム設計手法(例:帳簿を記憶装置に置き換える)を用いた日常的作業で可能な範囲のことであれば、当業者の通常の創作能力の指揮にあたるとして進歩性が否定されます。
D速く処理できる、大量データを扱える、誤りを少なくできる、均一結果を得られる、等コンピュータ化に伴う当然の効果は、発明の進歩性を担保するような、通常の技術水準から予測しえないような効果ではなく、進歩性が否定されます。 他分野への応用は、当業者が容易に行うことができる場合、単なる転用として進歩性が否定されます。また、上記Cの問題が最もビジネスモデルに関係すると思います。

 

【4】発明の単一性

 特許法37条において、一出願できる発明の単一性が定められております。ソフトウェア関連発明では、その実施の形態から、コンビネーション(完成品)、サブコンビネーション(部品)型のクレームを作成することが多くなるでしょう。
 なお、発明の単一性については、「形式的特許要件と明細書(多項性)」を参照して下さい。

【5】明細書の様式

 ビジネスモデル発明を特許明細書に仕立てるにあたってあらかじめ知っておきたい様式です。

 


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