コンピュータプログラムでは数学又は論理学上の法則を扱うことが多いので、従来、ソフトウェア関連発明については、自然法則を利用したものでないことを理由に一律に保護しない立場がありましたが、近年、これを特許で保護する傾向が高まり、その出願も多くなっています。なお、コンピュータプログラム自体は自然法則を利用したものではないので発明として保護されず、著作権法で保護されます。
　但し、ソフトウェア関連発明を積極的に保護するようになった今日でもソフトウェア関連発明は、自然法則を利用していないとされる場合が他の発明に比較して多いと思われます。数学上の解法、論理学上の法則、例えば、計算方法などを単にコンピュータで演算するだけでは、自然法則を利用しているとはいえません。
　以下、審査基準による、ソフトウェア関連発明の「自然法則の利用性」の判断基準について説明します。審査基準によれば、以下の（�T）、（�U）のいずれかを満たすとき、自然法則を利用したものといえます。

• （�T）ソフトウェアによる情報処理に自然法則が利用されていること
  　すなわち、ソフトウェアによる情報処理が、対象の物理的性質又は技術的性質（構造上の性質を含む）に基づいてなされている場合は、自然法則を利用しているとされます。
  
  • (1)ハードウェア資源に対する制御又は制御に伴う処理を行うもの
    　　 ハードウェア資源に対する制御＝通常、制御対象の物理的性質又は技術的性質に基づく自然法則が利用されている。
    　
    • �@コンピュータにより制御を行うもの
      
      • 　例１　自動車用空気調和方法及び装置
        　車内温度と外気温度との差に基づいて車内空気吹出空気温度調節手段を制御する。（コンピュータ外に存在する外在的ハードウェアを制御）
        
      • 例２　内燃機関の空気吸入量制御装置
        　外気温、気圧等に基づいて内燃機関の空気吸入量調節手段を制御する。（外在的ハードウェアを制御）
        
      • 　例３　電子制御ミシンの模様縫い速度制御装置（外在的ハードウェアを制御）
        
    • �Aコンピュータ自体のオペレーションに関するもの
      
      • 　例１　マルチプログラミング実行制御方法
        　（タスクの待ち行列を用いてタスク単位にＣＰＵ、メモリ等の処理装置を効率的に割り当てる方法）（コンピュータ内に存在する内在的ハードウェアを制御）
        
      • 　例２　仮想メモリ制御装置（内在的ハードウェアを制御）
        
  • (2)　対象の物理的性質、技術的性質に基づいて情報処理を行うもの
    　この場合は、ソフトウェアによる情報処理に自然法則が利用されている。（制御対象としてハードの存在があまり意識されない）
    
    • 　例１　コンピュータによる画像処理装置（スキャナで読み取った画像データにつき、フィルタリング（演算による）によってぼけのある画素を改善する処理は、画像データに対する物理的性質を利用している）
    • 　例２　デジタル信号の電送エラー検出方法
    • 　例３　円発生表示方法（円の方程式の解に対応するビットマップマップメモリ上のビットをＯＮにすることで、円を表示する場合、表示対象をドット単位（ビット）で表示する技術的性質を利用している）
      
• （�U）ハードウェア資源が利用されていること
  　ハードウェア資源が利用されていれば自然法則を利用したものといえる。但し、「ハードウェアの単なる使用」は自然法則の利用とはいえない。ハードウェアを使用していても、何らかの形でハードウェア資源を使用することを明示したこと以上の内容を有していない場合は自然法則を利用したとはいえません。
  
  • ＜ハードウェアの単なる使用の例＞
    　「・・・データを入力し、演算装置で演算し、記憶装置に記憶して、出力装置から出力する。」ことは、コンピュータを使用することによって必然的に生じる限定であり、コンピュータによる情報処理であること以上の内容を明示しない。
    
  • ＜ハードウェアの単なる使用ではない場合＞
    • 例１　階層的メニュー選択によるコマンド入力方法
      　ハードウェア資源として、表示装置、入力装置、記憶装置、コンピュータを有し、記憶装置には複数のメニューを階層的に関連付けて記憶させると共に、メニューとコマンドとの対応関係を記憶させ、これらのハードウェア資源を組み合わせることにより、記憶装置から順次階層メニューを読み出して編集し、表示し、コンピュータに対するコマンド入力を行う。
      
    • 例２　かな漢字変換方法
      　かなに対応する同音異議語の格納場所を示すアドレスリストを含むリスト記憶部を設け、入力されたかなを用いてリスト記憶部を検索し、アドレスリストのアドレスから目的の漢字を漢字記憶部から検索し、選択された漢字のアドレスをアドレスリストの先頭にくるようアドレスリストを書き換えることにより、選択された漢字が次回から最初に選択しうるようにする場合にあっては、ハードウェア資源であるリスト記憶部、漢字記憶部という論理的構成により処理を行っており、ハードウェア資源の単なる使用ではないので自然法則を利用している。