新規性・進歩性
発明が特許されるために、新規性、進歩性が必要である。
新規性とは、出願時において、日本国内で、公然知られていないこと、公然実施されていないこと、日本国内及び外国で頒布された刊行物に記載されていないことをいう。
進歩性とは、出願時の公知事実に基づいて、その発明の属する技術分野において通常の知識を有する者(以下、当業者という)が、容易に発明できたものでないことをいう。
明細書においては、従来技術を掲げ、その問題点をどのように克服したか、前記新規性、進歩性を考慮しつつ記載することが必要である。
より具体的には、課題認識の新規性、課題解決の困難性、構成の新規性・進歩性、新たな効果の主張等を考慮する必要がある。
ソフトウェア関連発明が特許されるために新規性・進歩性を有しなければならないのは他の発明の場合と同様で、これら判断は、機能・作用の異同を中心に行われます。特に進歩性の判断については、ソフトウェア特有の特徴があります。
- <ソフトウェアと新規性>
ソフトウェアの開発過程においては、新規性に関連して以下の点を注意する必要がありましょう。
- @開発前のマーケティング段階
プログラム開発前に、自らの企画しているソフトウェアが、市場の要求を満たす機能を実現しているのか調査する場合があります。
このような場合、調査の仕方によっては開発しようとしているソフトウェアの内容が不特定多数に知られる場合があるので注意を要します。
- Aいわゆるベータ版の配布
開発が一応終了し、ベータ版が完成し、ビジネスショウなどで公表した場合、その機能が開示される限り、新規性は喪失したとされると思われます。
- BCD-ROM等によるプログラムの配布とHELP機能
CD-ROM等によりプログラムが配布された場合、そのような媒体は「刊行物」として新規性を喪失するとみてよいでしょう。また、HELP機能はソフトウェアの機能を説明していることが多いので、その限りでソフトウェアの新規性を喪失させるものといってよいでしょう。
- <ソフトウェア関連発明の進歩性>
ソフトウェア関連発明の進歩性が否定される場合について説明します。
- @他分野への応用
ソフトウェア関係では、適用分野にかかわらず、機能・作用が共通する場合が多いものです。例えば、ファイル検索システムにおけるファイル検索機能を医療検索システムに応用することは、当業者が普通に考えることとして進歩性のないものとされます。
- A通常のシステム化手段の付加または置換
ソフトウェア関連発明は、コンピュータのハードウェア及びソフトウェアを用いたシステムとして構成される場合が多いものですが、その場合、システムの構成として通常用いられるものを付加したり、システム構成の一部を均等物に置換することは当業者が普通に考えることとして進歩性が否定されます。
- Bハードウェアで行っている機能のソフトウェア化
回路等のハードウェアで行っていることの機能をソフトウェア化することは当業者が普通に考えることで、進歩性が否定されます。
- C人間が行っている業務のシステム化
人間が行っている業務のシステム化が、通常のシステム分析手法(既存業務の分析→文書化)、システム設計手法(例:帳簿を記憶装置に置き換える)を用いた日常的作業で可能な範囲のことであれば、当業者の通常の創作能力の指揮にあたるとして進歩性が否定されます。
- D速く処理できる、大量データを扱える、誤りを少なくできる、均一結果を得られる、等コンピュータ化に伴う当然の効果は、発明の進歩性を担保するような、通常の技術水準から予測しえないような効果ではなく、進歩性が否定されます。
- <新規性・進歩性を否定する引例について>
ソフトウェア発明は、「機能」を命とするもので、その機能を実現するために、既存のプログラム言語を使用し、既存のプログラム開発モジュールを使用するのが通常です。そして、上記のように機能を開示しただけで、新規性を失う可能性が大きいと思われます。
このような点を考慮すると、出願されたソフトウェア関連発明であって、単に機能実現手段を特定しただけのクレームである場合、すでに同一機能のソフトが市販されているなら、その存在をもって、拒絶すべきものといえましょう。
但し、機能を実現するためのアルゴリズム自体が新規であり、そのようなアルゴリズムを用いた機能実現手段としてクレームを限定するならば、公知のソフトに同一機能が単に存在するからといって、拒絶されるものではないでしょう。
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