初心者のための
ディベートQ&A
<第5版>

抜粋

1.6 ディベートで必要となる技術や能力とは?

 カオリとケンジが、気候変動を防ぐための二酸化炭素削減について議論しているとき、カオリが「学食で割り箸を使うのをやめるべきよ。使い捨てのために森林資源を無駄使いしているんだから」と主張しました。ケンジは、「つまり、割り箸のために森林の伐採が行われているということ?」と確認しました…
 ディベートを行うために必要な(ディベートによって身に付く)能力(技術)は、主に、以下の4点とされています。

(1) 理解力

議論の大前提として、論題の背景について理解すること、相手の発言内容、意図を理解することが必要です。相手の議論を理解せずに、自らの主張を繰り返すことは、単なる主張であって議論といえません。理解力には、相手の主張を適切に聞き取るリスニング能力、それをメモに取る技術なども必要となります。上の例のように、発言内容がよく分からなければ、きちんと確認する必要があります。

(2) 分析力(批判的思考力)

 ケンジは、「それは違うんじゃないかな?割り箸と森林資源の伐採は、因果関係が逆と思うよ。森林を健全に育成するためには、木を適当に間引き(間伐)する必要があって、その間伐材を有効活用するために割り箸を作って売っているんだ。つまり、割り箸を買うことは、森林の維持管理の費用に役立つんだ」と説明しました…

 相手の主張の内容を理解した後で、それに「なるほどな」と思ってしまえばそこで議論は終了します。しかし、よくよく相手の主張を吟味してみると、いろいろ誤りがあったり、矛盾があったり、つじつまが合わないことがわかることがよくあります。

 このため、まず、相手の主張を無条件に受け入れるのでなく、その内容を吟味して、その論証が十分な根拠を有しているか等を客観的に分析する能力が必要です。これを批判的思考力と呼びます。常に「それって本当?」、「何を根拠に?」という健全な疑問を持ち続けることが大切ということです。

 さらに、相手の論証が十分な根拠を有しているかを分析するのみならず、相手の主張と自らの主張との一致点と相違点を明確にし、相違点についてなぜそのような相違が発生するのかを分析し、自らの主張を正当化できる能力、また、これらを可能とする知識を得るための調査能力も必要となります。

(3) 構成力

 カオリは、「使い捨ては良くないのよ。リユースを進めるために、マイ箸を持ち歩くべきよ」と主張を繰り返しました。ケンジは、(a) 割り箸の使用は森林の保全に役立つ。(b)森林は、光が届くようにするため、適度に木を間引く(間伐)する必要がある。間伐材は細いため、建材などに用いることができないので、割り箸が主要な用途となっている。(c)昨年の統計では、国産の割り箸のほぼ全てが間伐材を用いていた。(d)割り箸禁止は、森林保全に逆行しかねない」と説明しました…
 相手の論証が十分な根拠を有しているか、自分と相手の主張の相違点と自らの主張の優位性をわかりやすく伝えるためは、自らの発言内容をわかりやすく、説得力があるように構成する能力が必要となります。上の例のケンジのように、(a)見出し、(b)見出しの説明、(c)証拠資料、(d)まとめ、という形で議論を提示するとわかりやすくなります。構成力には、議論の組み立て方、並べ方のほか、表現の選択、時間配分等を適切に行う能力も含まれます。

(4) 伝達力

 カオリは、反論のためにものすごい早口でしゃべりだしました。ケンジは、「すごく早口でよくわからないんだけど、君の主張はこういうこと?」と聞いたところ、カオリは「違うわよ。ちゃんと聞いてよ」と言い返しました…

 どんなに構成が優れていても、それを早口で棒読みしたり、相手が理解できているかを確かめもせずに一方的にしゃべったりしても、結局、その内容を関係者に伝えることはできません。「しゃべった内容」と「相手が理解した内容」は、基本的に一致しないと考えた方がよいでしょう。

 上の例のように、相手が自分の発言内容を確認してくれるとは限りません。そうなると、いつまでも議論が進まないことになります。ディベートでは、聴衆に判断を求める立場上、発言者は、自らの考えを関係者全てに効率良く伝達するプレゼンテーション能力が求められます。説明を相手が良く理解できなかったときに、「ちゃんと聞いていないからだ」と聞き手を責める人がいますが、関係者に判断をゆだねる立場上、「わかるように説明できなかった方が悪い」という認識を持つべきです。

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