初心者のための
ディベートQ&A
<第5版>

抜粋

1.3 対立する論点からの議論はなぜ必要なの?

 カオリとケンジとゼミのみんなが、明日のゼミのレクリエーションで何をしようかと相談しています。ケンジが、「今度新しいアミューズメントパークができたから、行こう」と提案しました。カオリは、内心、「明日は雨が降りそうだし、あそこのアミューズメントパークは屋外型だから、行きたくないな」と思いましたが、とりあえず、「みんながよければそれでいいよ」と答えました。ヒロミは、「あのパーク、一度いったけど、大したことないよ」と内心思いつつ、「ケンジとカオリがいいならいってもいいよ」といいました。それを聞いていたみんなは、「3人がそう言うなら、それでいいんじゃない」といいました。

 出かけたゼミのみんなは、激しい雨にずぶぬれになり、おまけにアミューズメントパークのアトラクションも大したことがなく、がっかりして帰ってきました。帰ってきてからカオリが、「実は、雨が降りそうだから行きたくなかったんだ」というと、ヒロミも、「実は、一度行ったことがあって、たいしたことないからあまり行きたくなかったんだ」といいました。これを聞いて、ケンジは、「あれえ、僕はカオリが行きたがっていると思って提案したんだけど…」

(1) 対立する論点から議論する意義

 対立する主張を導入することで、はじめてその論題について多面的な検討が可能となり、適切な意志決定が可能となります。誰しも一度は上の例のような経験があるのではないでしょうか。友達への遠慮や配慮、思いやり、権威への追従、孤立したくないという思いなどなど、様々な理由でこのような誰も喜ばない意志決定は発生します。もし、誰かが一人でも、「あのアミューズメントパークはやめた方がよい、なぜなら…」という主張を行っていれば、意志決定は大きく異なったでしょう。相対立する主張を比較検討する中で、それぞれのもつメリット、デメリット、あるいはその価値などが検討されていきます。これらの検討の結果は、意志決定を行う人に対して、重要な判断材料を提供することができ、それによって適切な意志決定が実現する可能性が高くなります。

(2) 公共的な意志決定での重要性

 意志決定者に判断材料をたくさん提示することは、議会等の公共的な意志決定では特に重要です。議論を実際行っている人以外に上下関係のない多数の関係者の利害が絡む話であり、論題についてより慎重な判断が求められます。このため、いきなり結論だけ示すのではなく、選択肢を示し、関係者に広く判断材料を提供する必要があるからです。

 このため、実社会で何かの検討を行う際に、だれも反対意見を述べない場合、誰かが、実際はその意見に賛成であっても検討のためにあえて反対の立場をとって議論をすることも時として必要な場合があります(devil’s adovocate)。

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