初心者のための
ディベートQ&A
<第5版>

抜粋

はじめに

(1)なぜディベート教育を受ける必要があるのか?

ディベートは、主に欧米社会で発展した、大勢の人に関わる公的な事項を判断するために行われる議論の一形態です。第三者が判断するという性質上、きちんとした根拠を必要とし、また、説得的なプレゼンテーション能力が必要とされます。このため、判断が透明で、かつ理性的に行われることから、民主的で公正な判断方法として、議会、裁判、科学論争等幅広い場面で使用されています。

公的な事項に限らず、どのような判断においても、合理的で理性的な判断が必要とされます。これを効果的に実現するためには、議論の参加者、判定者ともに、一定の議論の訓練を受けていることが必要です。

ディベートは、他の議論形態にも多く共通する部分を持ち、かつ、大きくスタンスを変更することなく徹底した議論を行う等の特徴を持っています。また、一つの論題について、肯定と否定の正反対の立場からそれぞれ論ずることが求められます。このため、偏りのない事実認識や合理的な意志決定のための議論のトレーニングとして最適であるとして、米国等幅広い国々でディベートを使った議論教育(教育ディベート)が実施されています。

(2)なぜ、教育ディベートは競技として行われるのか?

教育ディベートは、ディベート能力を効率的に獲得するために設定された試合形式の競技です。なぜ試合の形態をとるかといえば、それが実態に即しているとともに、参加者のモチベーションを高めるためです。勝つためにみんな努力し、競い合う中で自らの能力を向上させていくからです。

しかし、参加者が、議論教育としての教育ディベートの本分を忘れ、ただ試合での勝利のみを追い求めることになれば、たくさんのトロフィーはあってもディベート能力は得られていないという本末転倒の状況になりかねません。あくまで「ディベート能力の獲得」を目指す必要があります。

(3)「ディベート能力」の獲得のためにどうしたらいいのか?

では、一体どうしたら、「ディベート能力」を獲得することができるのでしょうか。残念ながらこの問に対する答えは簡単なものではありません。ディベート能力は実践的なスキルであることから、その修得には、たくさんのディベートを体験することが必要です。しかし、スポーツのトレーニングをするときに我流でいくら練習してもうまくならず、むしろ変な癖が付いてしまうように、ディベートも、経験豊富な指導者の下で、一定の理論、基礎知識を学びつつ、実践的トレーニングを行うことが必要です。

(4) 「基礎知識」を学ぶことが第一歩

本書は、この教育ディベートの「常識」としての基礎理論、考え方、ノウハウなど、とりあえず知らないとディベートにならない「知識」の修得を目的としています。身近に経験を積んだ指導者がいない場合でも、教育ディベートのトレーニングを全く受けていない人や、学びつつある人が、ディベートの基礎的知識をわかりやすく学習できるように配慮されています。

(5) 本書の特徴

本書には、次の特徴があります。

(6) 本書の構成

本書の構成は、次のとおりです。

第1部 総論
第2部 教育ディベートの基礎
第3部 論証、分析、測定
第4部 教育ディベートの技術
第5部 教育ディベートの諸理論

第1部から第3部までは、教育ディベートに関わりのない一般の方々にも役立つ内容となっています。第4部と第5部は、教育ディベートを実践している方々を想定した内容となっています。本書をお読みになる目的に応じて、使い分けていただければと思います。

(7) 本書で学習された後に

ディベート能力は、本を読むだけでは決して獲得できません。基礎知識を学び、それを試合等で実際に体験するうちに真のディベート能力は身に付いていきます。本書を読まれたみなさんも、セミナー、大会等で、一回でも多く教育ディベートを実践されることを強くおすすめします。道は決して平坦ではありませんが、歩けないほど険しいわけでもありません。本書をきっかけに、ディベートをしっかり学んでいってください。

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