1.1 ディベートって何?
カオリは、ケンジに聞きました。「ディベートって最近よく聞くけど、ふつうの議論とどう違うの?」ケンジは、「どう違うって言われても…」「それに、そもそも何のためにディベートってやるわけ?」「うーん」
ディベートの定義を明確に理解することは、非常に大切です。学ぼうとする対象を明確に理解することでディベートを学ぶ上でも頭の整理になりますし、ディベートに対するさまざまな誤解をとくこともできます。しかし最も大切なことは、ディベートがそもそも何を目的としたコミュニケーション技法であるかを理解する一助になることです。これによって、ディベートをすべきであるときにディベートをし、ディベートすべきでないときにディベートしない、という適切な応用ができるようになります。ただやみくもにディベートの技術を学ぶのではなく、何のための技術なのかを常に意識しながら学ぶことが大切です。
ディベートには他のコミュニケーション形態と異なる明確な特徴がいくつかあります。まずそれをみていきましょう。
カオリは、ケンジに、「ディベートって最近よく聞くけど、そもそも何なの?」ケンジは、「ディベートってもともと英語でしょ?辞書引いたらいいんじゃない?」そこでカオリは辞書を引いてみた。
“debate: a formal argument or discussion of a question, for example, at a public meeting or in Parliament or Congress, with two or more opposing speakers, and often ending in a vote.” - Oxford Advance Learner’s Dictionary, 5th ed.
(ディベート:疑問に関するフォーマルな議論又はディスカッション。例えば、公的な集会又は国会、議会において、2つ以上の対立する発言者によってなされ、しばしば、投票によって終わるもの。)
この辞書の定義では、ディベートでの代表的な特徴が例示で示されています。その特徴とは、
①集会や議会等の公共的(public)な議論を行う場において、何らかの論点、課題について、
②対立する複数の発言者によって議論がなされ、
③多くの場合、議論の採否が議論を聞いていた第三者による投票によって判定される
の3点に集約されます。ここから、そもそもディベートというものは、一定の場面-公共的な意志決定-で行われるものであることがわかります。公共的な意志決定についてもう少し詳しく見ていきましょう。
目次
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第1部 総論
第1章 ディベートとは
第2部 教育ディベートの基礎
第2章 教育ディベート(academic debate)
第3章 肯定側が論証すべき事項
3.1 肯定側は何を論証すればよいの?
3.2 プランってどういうもの?
3.3 肯定側は、利益をどのように論証するの?
3.4 重大性(significance/impact) ってどういうもの?
3.5 問題解決性(solvency)って何?
第4章 否定側が論証すべき事項
4.1 否定側は何を論証しなければならないの?
4.2 利益に対する反論(ケースアタック)ってどうやるの?
4.3 弊害(disadvantage)って何?
4.4 リンク(link)って何?
4.5 弊害の固有性ってなに?
第3部 論証、分析、判定
第5章 論証(proof)
5.1 論証(proof)って何?
5.2 論証がきちんとされているか、どうやって確認するの?
5.3 因果関係による論証にどうやって反証するの?
5.4 相関関係による論証にどうやって反証するの?
5.5 専門性による論証にどうやって反証するの?
5.6 限られた経験的事実に基づく論証へはどのようにして反証するの?
5.7 誤謬(FALLACY)による論証へはどのようにして反証するの?
第6章 分析手法
6.1 確率分析(risk analysis)の手法にはどういうものがあるの?
6.2 固有性の有無が問題となる確率分析とは?
6.3 敷居値(threshold)がある場合の確率分析とは?
6.4 リスクの線形的増加(linearity)がある場合の確率分析とは?
6.5 ターンアラウンド(turn around) って何?
6.6 リンク・ターン(link turn)って何?
6.7 インパクト・ターン(impact turn)って何?
6.8 弊害への反論にターン を使う場合とは?
第7章 判定(judgment)
7.1 ジャッジって何をするの?
7.2 システム・アナリシス(systems analysis) って何?
7.3 どうやって判定を下すの?
7.4 判断基準(decision criteria) って何?
7.5 証明責任(burden of proof)って何?
7.6 全てのことを論証する必要があるのか?
7.7 判定理由書(バロット)はどう書けばよいの?
第4部 教育ディベートの技術
第8章 教育ディベートの基本技術
8.1 各スピーチでは何をすればいいの?
8.2 わかりやすいスピーチの構成とは?
8.3 証拠資料(evidence)はどのような形で提示するの?
8.4 フローシート(flow sheet)はどうやってとるの?
8.5 準備時間(preparation time)の効果的な使い方は?
第9章 質疑応答(反対尋問)の技術
9.1 質疑応答(反対尋問)はどうやってやるの?
9.2 相手の主張の弱点を指摘する質問とは?
9.3 相手の論理を利用して相手を攻撃する質問とは?
9.4 応答するときに心がけるポイントは?
9.5 ダメージを最小限にとどめる応答の方法は?
第5部 教育ディベートの諸理論
第10章 論題充当性
10.1 論題充当性(topicality) って何?
10.2 論題の解釈はなぜ必要なの?
10.3 解釈の基準(standard)ってどういうもの?
10.4 論題充当性はどうやって反論するの?
10.5 妥当性(reasonability)と比較妥当性(better interpretation)って何?
第11章 カウンタープラン、フィアット
11.1 カウンタープラン(counter-plan) って何?
11.2 カウンタープランの3要件(3 requirements) って何?
11.3 競合性(competitiveness)ってなに?
11.4 パーミュテーション(permutation)って何?
11.5 フィアット(fiat)って何?