8月10日の実質合意を経て、9月18日にイランとアメリカは「捕虜交換」(本質は、限られた金額の在外イラン凍結資金へのアクセスとイランの核活動自粛のバーター)に関する取引(以下「捕虜交換取引」)を完成しました(9月25日「コラム」)。アメリカのメディアを含め、これがきっかけとなって、2018年にトランプ政権が一方的に脱退したイラン核合意(JCPOA)の復活のための国際交渉が再び開始されるのではないかとする希望的観測を行う向きもあります。しかし、結論から言えば、交渉本格再開の可能性は限りなく小さいと言わざるを得ません。第一に、イランとアメリカの相互不信は極めて強く、…

9月18日、ホワイトハウスは「5人のイラン人に対する恩赦及びイランの制限付き口座への60億ドルの移転を見返りとして、イランに拘留されていた5人のアメリカ人が解放された」と発表しました。
私が、今回のイランとアメリカの第三者(主としてカタール)を介した間接交渉の経緯を追いながら連想したのは、朝鮮半島非核化をめぐるいわゆる6者協議でした。米伊間の今回の交渉が曲がりなりにもまとまったのは捕虜交換とイランの凍結資産解除という限られたテーマに関してであり、イラン核合意(JCPOA)の復活といういわば本命に関しては、米伊の相互不信は根強くかつ強烈なものがあって、この本命を切り離したからこそ… 

アフリカに対するロシアと中国の認識・政策は基本的に一致しています。ロシアは、レーニンの時代から、民族解放運動を反帝国主義の闘いの不可分の一部と捉え、これを支持・支援する方針・政策をとってきました。ソ連の後継を自認するプーチン・ロシアにおいてもこの方針・政策に変更はありません。中国の場合、自らが長い間帝国主義諸勢力によって半植民地化された歴史を持っており、中国共産党政権は一貫して植民地主義反対を旗幟鮮明にしてきました。
 ただし、アフリカを含む途上諸国・地域に対する支援の実績という点では、1980年前後~1990年代初期(中国の改革開放とソ連崩壊)を境にして、ロシアと中国の立場が逆転… 

7月26日、西アフリカのニジェールで政変(クー・デター)が起こりました。当初はあまり気にとめていなかったのですが、アメリカの主要3紙(ニューヨーク・タイムズ(NYT)、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)、ワシントン・ポスト(WP))、ロシアのロシア・トゥデイ(RT)、スプートニク通信、中国メディアが大きく取り上げているので,念のため、関連記事を収集してきました。約一ヶ月が経った時点で収集してきた記事をまとめ読みした結果、3大国メディアが関心を寄せるのも「むべなるかな」と実感し、分析作業に取りかかりました。私としては久方ぶりに「オープンな情報を丹念に読み込むことで情勢分析を行う」という外務省時代を思い出しながらの楽しい(?)作業となりました。キッシンジャーがオープンな情報で95%以上事実関係が分かるという趣旨の発言を行ったことがありますが、私も… 

 7月30日に、アメリカの独立系ウェブ・メディアのグレイゾーン(Grayzone)は、シカゴ大学教授であるジョン・ミアシャイマー氏に対するインタビュー記事("Ukraine war is a long-term danger")を掲載しました。ウクライナ戦争の原因・現状・見通しに関するミアシャイマーの分析は透徹したもので、深い感銘を受けました。私がたまたま知らなかっただけで、彼は早くからウクライナ問題に関するアメリカ主導の西側の政策(ウクライナのNATO加盟促進)に警鐘を鳴らし、この政策を自国の安全保障に対する脅威と捉えるロシア・プーチン政権の強烈な反発を招き、最悪のケースでは核戦争に至る深刻な事態となることを警告していました。今回のグレイゾーンでのインタビューは、事実関係に関する深い把握に裏付けられた、ウクライナ戦争に関するミアシャイマーの深刻な問題意識とバイデン政権の愚かさの極みに対する…

8月12日に日中平和友好条約締結(以下「条約」)45年を記念する集会でお話しする機会がありました。集会を主催した「村山首相談話を継承し発展させる会」事務局長の藤田高景氏、鳩山由紀夫元首相、呉江浩駐日大使が日中・中日関係の重要性を力説した後に、私が「日中平和友好条約締結45年-バイデン・岸田対中対決政治は清算しなければならない-」というタイトルでお話ししたのですが、私の言わんとしたことが正確に参加者に伝わったか,受け止められたか、について心許ない気持ちになりました。お三方は、条約及び日中共同声明(以下「声明」)という原点を日本(岸田政権までの歴代自民党政権)が遵守しないことが日中関係悪化の原因であるとする立場から、声明・条約に立ち返ることの重要性を力説しました。しかし、私が言わんとした最大のポイントは、… 

  「第一の結合の科学的産物である毛沢東思想は中華民族の文化的主体性を深く体現し、第一の結合の基礎の上に実現した第二の結合の科学的産物である習近平思想(=習近平新時代中国特色社会主義思想)は新時代という高みにおいて,さらに力強く、さらに自覚的に中華民族の文化的主体性を体現している。」これは、6月7日付けの中国社会科学網(中国社会科学院ウェブサイト)が掲載した、中国社会科学院哲学研究所所長・張志強執筆の「中華文明発展法則を把握し、中華民族現代文明建設に全力を尽くす」(原題:"把握中华文明发展规律 奋力建设中华民族现代文明")の一節です。私は、7月24日のコラムで…

ウクライナ版「天下分け目の関ヶ原」と目された、ウクライナによるロシアに対する反転攻勢は当初の4月という予想から大幅に遅れ、6月4日にようやく開始されました。しかし、早くも4日後の8日にCNNがアメリカ当局者の話として、ウクライナ軍は「相当な」(significant)損失を被ったと報じた(ロシア側は5000人の犠牲者と指摘)ように、米西側の大きな期待(ウクライナ軍による被占領地奪回・ロシア軍敗退→米西側・ウクライナの要求をロシアに呑ませる内容での政治解決。それはプーチンの失脚、ロシアの空中分解につながるだろう)とは真逆の形で戦況が進行し、今や、「長期戦を覚悟しなければならない」(ミリー統合参謀本部議長)という判断が…

5月29日のコラムでマイケル・ハドソンの『文明の運命-金融資本主義、産業資本主義、または社会主義-』(原題:"The Destiny of Civilization: Finance Capitalism, Industrial Capitalism, or Socialism")を紹介しましたが、最近になって読み終えました(もう一つの著作『超帝国主義-アメリカ帝国の経済戦略-』(原題:"Super Imperialism: The Economic Strategy of American Empire")はこれからです)。
私はこの本を読むことで、中国に対する理解・認識を深める上での新たな視角を教えられた感覚を得ました。とりわけ、習近平がとりわけ強調する「中国特色社会主義思想」「中国式現代化」の本質と意義に関する理解を深める手がかりを得たと思いました。そのことを確認したく、…

近刊(三一書房)のご案内

新年のご挨拶(コラム)の中で触れましたが、年明けからほぼ4ヶ月余をかけて取り組んできた原稿がある程度形をなし、出版の目途が立ってきましたので、ご案内を始めることにしました。

新著のタイトル(まだ確定ではありません)は、『日本政治の病理診断 -丸山眞男:執拗低音と開国-』です。出版社は三一書房、刊行予定日は8月15日です。「私の考えを本にまとめてみないかというお誘い」(1月1日コラム)に即し、今のところ、以下の章立てとなっています(編集過程で変更があるかもしれません)。

一 個人的体験
(一)「執拗低音」との出会い
(二)外務省勤務時代の体験
(三)大学教員時代の体験
(四)外務省の「親米」体質
(五)歴史教科書検定と中曽根靖国公式参拝
二 執拗低音
(一)丸山眞男の問題意識
(二)石田雄の批判
三 開国
(一)丸山眞男の日本政治思想史の骨格
(二)「開国」の諸相
四 「普遍」と「個」
(一)「普遍」
(二)「個(尊厳)」
五 日本の「開国」への道のり
(一)精神的「開国」
(二)物理的「開国」
(三)強制的「開国」
六 21世紀国際社会と日本
(一)21世紀国際社会について正確な認識を持つ
(二)国際観を正す
(三)「脅威」認識を正す
(四)国家観を正す
(五)国際機関に関する見方を正す