昨年(2023年)7月24日のコラムで、アメリカのマルクス主義経済学者マイケル・ハドソンの著作を紹介し、「この本における主題は新自由主義的金融資本主義・アメリカと社会主義的産業資本主義・中国の対決」であることを指摘するとともに、「この本を読むことで、中国に対する理解・認識を深める上での新たな視角を教えられた感覚を得ました」という読後感を付け加えました。このときのコラムでは、ハドソンの指摘に触発されて、習近平が強調する「中国特色社会主義思想」と「中国式現代化」について、その本質と意義に関する中国側文献を紹介しました。
 ハドソンは、geopoliticaleconomy.comで、重要なテーマについて時々発言しています。私は7月5日のコラムで、中国社会主義市場経済をテーマとしたハドソンを含む専門家による鼎談の内容を紹介しました。
 日本は、アメリカの強い影響・支配のもとで新自由主義金融資本主義の道を歩んでおり、その結果、様々な病理現象(不動産バブルは氷山の一角)が噴出していますが、個々の病理現象を問題視するものはあるとしても、病理現象の根本原因である新自由主義金融資本主義そのものを問題視するのはごく一部に限られます。しかし、「中国の特色ある社会主義」の道を堅持する習近平・中国は、金融政策においても「中国の特色ある金融発展の道」を模索しています。3月に出版された中共中央党史・文献研究院編纂の『習近平金融工作論述ダイジェスト』(原題:《习近平关于金融工作论述摘编》。以下『ダイジェスト』)は、中国の金融政策の本質・特徴を理解する上での必読文献と言えます。編纂元である中共中央党史・文献研究院は4月15日付人民日報で、「金融の質の高い発展によって強国建設及び民族復興という偉大な事業をサポートする (副題) 『習近平金融工作論述ダイジェスト』学習」と題する文章を発表しました。
 この文章は、①党の全面的領導のもとで金融強国建設を目指す(加强党对金融工作的全面领导,加快建设金融强国)、②「人民中心」の価値観のもと、金融は実体経済に対するサービス提供を主旨とする(坚持以人民为中心的价值取向,把金融服务实体经济作为根本宗旨)、③金融に対する監督・管理を強化し、金融リスクを防止・除去する(全面加强金融监管,有效防范化解金融风险)、④金融の質の高い発展を推進して、経済社会の発展に対して質の高いサービスを提供する(推动金融高质量发展,为经济社会发展提供高质量服务)という、4つの標題で構成されています。この標題を見るだけでも、「中国の特色ある金融発展の道」は「前人未踏の新機軸の道であり、現代金融発展の客観法則に準拠しながらも、それにも増して中国の国情にマッチするという際立った特徴を備える」という点で西側金融モデルとは本質的な違いがある、とするこの文章の指摘を首肯しないわけにはいきません。中国の金融政策を理解する第一歩として、この文章の大要を翻訳紹介します。経済・金融の門外漢の訳であることをお酌み取りの上、判読ください。

 金融は国民経済の血脈であり、中国式現代化の全局に関わる。18回党大会以来、習近平以下の党中央は戦略的全局に立って金融政策に対する全面領導・全体計画を強化し、新しい時代における金融発展の法則を積極的に探究し、中国の特色のある社会主義的金融の本質に関する認識を不断に深め、中国の特色ある金融発展の道を徐々に歩み始めることとなった。  習近平の一連の論述は、金融政策に関わる本質的法則及び発展の道に対する党の認識を高めるものであり、金融問題に関するマルクス主義政治経済学の重要な革新的成果、習近平経済思想の金融編である。『ダイジェスト』は10のテーマからなり、習近平の324の論述を収録している。

<党の全面的領導のもとで金融強国建設を目指す>

 『ダイジェスト』の第一及び第二のテーマは習近平の重要論述を集中的に取り上げている。

(金融政策に対する党中央の集中的統一的領導を堅持する)

 「理財を語らざる者、天下を治平すること決して能わず」(浅井:出典は明・李贽《四书评·大学》)。党の領導は、中国の特色ある金融発展の道におけるもっとも本質的な特徴であり、中国金融発展における最大の政治的制度的優位性である。改革開放の40年以上にわたり、中国が経済の快速発展、社会の長期安定を維持し、金融危機を発生させることがなかったことは、世界の大国の中では唯一のケースである。特に第18回党大会以来、党中央の領導のもと、金融システムは経済社会発展を力強くサポートし、重大リスクを防止解消し、小康社会全面建設という目標実現に重要な貢献を行ってきた。習近平曰く、金融工作に対する党中央の集中的統一領導を強化することは金融工作の根本的保証である。金融工作に対する党中央の集中的領導を強化し、中国の政治的制度的優位性を金融ガヴァナンスにおける効率に転化し、金融事業が正しい方向に沿って前進することを確保しなければならない。
 党中央が中央金融委員会及び中央金融工作委員会の成立を決定したのは、金融工作体制に対する党領導を改善する上での重要な布石である。中央金融委員会は党中央の領導のもとで金融工作を行う指揮部である。(その役割・業務は)金融の安定及び発展に関する頂層設計、全面推進及び実行督促並びに、重要問題の検討判断、重要政策制定及び重大リスク対応、金融工作における中央と地方の協力等に関する統括・協調である。習近平は、党建設の成否は金融システムの結束力及び戦闘力に関わり、金融事業の成否を決定すると述べている。中央金融工作委員会の機能を発揮させるカギは金融システムにおける党建設強化である。党の各分野における建設を全面的に強化し、企業ガヴァナンス、経営管理の全てのプロセスにまで入り込むべきである。
 地方党委員会金融委員会及び金融工作委員会の役割を発揮させるカギは属地責任の実行である。各省及び条件を満たす市における金融委員会、金融工作委員会及び政府金融監督部門は「三位一体」を実行し、工作重心を党建設強化、リスクの防止及び処理、金融機構の日常監督管理に置き、特に属地リスク処置及び安定維持責任を担うことによって質の高い発展に資する金融生態学を創造する。

(金融は「国家の最大事」であり、中国式現代化の全局に関係する)

 金融は「国家の最大事」であり、中国式現代化の全局に関係する。国家の興衰には、金融が責めを負う。現代世界において、金融は大国の競い合いにおいて争いが必然の分野であり、強国建設に対する金融の役割は突出している。習近平は、金融は国家の重要な核心競争力であると指摘する。歴史の経験から見ても、大国の勃興は強大な金融システムの支え抜きにはあり得ない。中国式現代化を推進するためには、中国金融の質の高い発展を推進する必要がある。
 習近平は次のように強調する。金融工作の政治性、人民性を把握し、金融強国建設加速を目標とし、金融の質の高い発展の推進を主題とし、金融のサプライ・サイドの構造改革を主線とし、金融隊伍の純潔性、プロフェッショナリズム、戦闘力を支えとし、リスクに対する監督管理及びその解消を重点とし、穏中求進を総基調とすることで、発展と安全を統括し、システム的な金融リスクを発生させないというボトムラインを堅守し、中国の特色ある金融発展の道を確固として歩み、中国の特色ある現代金融システムの建設を加速し、経済社会発展及び人民大衆の増大する金融的需要を満たし、新時代金融工作の新局面を切り開く。

(中国の特色ある金融の道を確固として歩む)

 第18回党大会以来、党中央はマルクス主義金融理論と中国の具体的現実及び中華優秀伝統文化とを結合させ、中国の特色ある社会主義金融の本質に対する認識を不断に深め、各国の金融発展における経験に学び、新時代における金融発展の法則を把握し、中国金融事業の実践創新、理論創新、制度創新を推進し、中国の特色ある金融発展の道を開拓してきた。その基本的要諦は、金融工作に対する党中央の集中的統一的領導を堅持すること、人民を中心とするという価値観を堅持すること、金融は実体経済にサービスするという根本的主旨を堅持すること、リスクの防止及びコントロールを金融工作の永遠の主題として堅持すること、市場化及び法治化の軌道上で金融の創新発展を推進することを堅持すること、金融のサプライ・サイド構造改革を堅持すること、金融の開放と安全の統括を堅持すること、穏中求進という総基調を堅持すること、である(強調は浅井。以下同じ)。
 習近平は次のことを強調する。中国の特色ある金融発展の道は前例のない創新の道であり、現代金融発展の客観的法則に準拠しながらも、それにも増して中国の国情に適合するという鮮明な特色を備え、西側金融モデルとは本質的に区別されるものであり、世界観を備えるとともに方法論をも備えており、弁証法的統一に基づく有機体を構成している。我々は自信を打ち固め、実践の中で改善を探究していく。

(中国の特色ある金融システムの構築及び金融強国の建設を速める)

 中国はすでに金融大国ではあるが、総体として大にして不強である。金融強国建設には長期的な努力を必要としている。習近平は中央金融工作会議で金融強国建設加速という目標を提起した。金融強国とは何か。習近平は次のように指摘した。金融強国は、強大な経済的基礎に立脚し、世界をリードする経済的実力、科学技術的実力及び総合的国力を備え、同時に一連の核心的金融ファクターを具備している。
 一連の核心的金融ファクターとは、①強い通貨を備えることにより、国際貿易投資及び外為市場で広く流通し、グローバルな備蓄通貨の地位を備えること、②強大な中央銀行を備えることにより、通貨政策によるコントロール及びマクロ管理を行い、システム的リスクを適時に有効に解消解決する能力を持つこと、③強大な金融機構を備えることにより、業務効率が高く、リスク耐性が強く、グローバルな展開能力と国際競争力を持つこと、④強大な国際金融センターを擁することにより、グローバルな投資家を引きつけ、国際価格決定システムに影響力を持つこと、⑤強大な金融監督管理を備えることにより、金融上の法治を健全化し、国際金融ルール制定に関して発言権と影響力を持つこと。⑥強大な金融人材隊伍を擁すること。
 習近平は、金融強国を建設するためには、中国の特色ある現代金融システムの構築を加速しなければならないと強調する。具体的には、①科学的かつ安定した金融調整管理システム、②合理的に組織された金融市場システム、③分業と協力による金融機関体制、④完全かつ効果的な金融規制システム、⑤多様かつ専門的な金融商品とサービスシステム、⑥独立した、制御可能な、安全かつ効率的な金融インフラ・システム、である。

<「人民中心」の価値観のもと、金融は実体経済に対するサービス提供を主旨とする」>

 金融が活性化すれば経済も活性化し、金融が安定すれば経済も安定する。習近平は、金融工作は金融の本質を正しく把握し、人民を中心とする価値観を堅持し、経済社会の発展及び人民大衆の需要を満足することを堅持することを強調する。『ダイジェスト』の第三及び第四のテーマはこれらの問題に関する習近平の論述を集中的に扱っている。

(金融工作においては人民の立場に軸足を置く)

 「天地の大、黎元(浅井:人民)を本とす」(出自:唐太宗李世民所作《晋宣帝总论》)。人民の幸福を謀り、民族の復興を謀る。これが党の現代化建設領導の出発点であり、基本的スタンスである。習近平は、我が党が領導する金融事業は、詰まるところ、人民に福をもたらすことであり、他の国々におけるように、金融は資本に仕え、少数の資産家に仕えることを本質とすることとは明らかに異なる、と指摘する。西側現代化の最大の病理は、資本が中心であって人民が中心ではないこと、資本の利益の最大化を追求して最大多数を占める人民の利益に仕えるのではないこと、かくして貧富の格差拡大、両極分化の極大化をもたらすことである。中国金融事業は、人民大衆の生活向上に対する期待に順応し、発展は人民のためであり、発展は人民に依拠し、発展の成果は人民が享有することを堅持し、人民全体が共同富裕に向かって着実に前進するようにする

(実体経済に服務することは金融の天職である)

 実体経済は金融の土台であり、金融は実体経済の血脈である。実体経済に服務し、経済社会発展の需要を満足させることは金融の本分かつ根本的主旨である。習近平は、金融と実体経済とは共生共栄の関係にあると強調する。強健な実体経済のサポートがない金融的繁栄は「バブル」に過ぎない。金融は、実体経済に服務する中でのみ自らの健康な発展を実現できる。自己循環と自己拡大にのみ熱心であれば、金融は源なき水、根のない木となり、早晩、危機を招くことになる。古今中外、金融が実体経済から乖離することに起因する危機の実例は枚挙のいとまがない。
 習近平は、中国金融は実体経済に服務するという本分を守り、質の高い発展を推進し、脱実向虚であってはならない、と指摘する。実体経済に服務することに根を下ろし、消費者及び投資者の需要に適応して金融創新を進めるべきである。実体経済の需要から乖離し、監督管理を回避するような「創新」はあってはならず、盲目的に金融機構を拡張することがあってはならず、大規模な資金の内部循環を行ったり、資金をリアルからバーチャルに流用したりしてはならず、ましてやポンジ・スキームを行うことがあってはならない。

(実体経済に服務する金融の効率とレベルを全面的に引き上げる)

 我が国の金融機関には幅広いカテゴリーがあり、カギはそれぞれが独自の職位を発展させ、彼我の優位性で補完し合い、実体経済に服務する上でそれぞれの役割を果たし、それぞれの長所を活かすことである。習近平は、金融業発展の法則と特徴を結合させ、新発展理念を貫徹すべきだと強調する。具体的には、質優先、効率至上の理念を確立し、内包的発展に転換するべきである。現代金融機構及び市場体系を構築し、実体経済に資金が流入するルートを円滑化するべきである。融資構造体系を改善し、実体経済発展に適合した金融チェーンを構築するべきである。国家重要戦略の実施を積極的に支持し、国家重点建設項目の資金需要を優先するべきである。
 習近平は、各金融機関は初心を堅守し、本源に回帰し、主業を優先し、専門に特化し、競争力及びサービス能力を強化し、実体経済及び人民大衆の様々な金融サービス需要に応えるべきことを強調する。すなわち、顧客の需求を第一とし、サービスによって価値を創造し、高リターン追求を転換してリスク制御可能な条件の下で合理的リターンを追求し、大量・大規模ニーズに応える方針から個別化、差別化、カスタマイズされたニーズをより重視する方向に転換し、経済社会発展に服務する中で価値及び利潤を創造するべきである。

(科学技術金融、グリーン・ファイナンス、インクルーシヴ金融、養老金融、デジタル金融)

 習近平は、中央金融工作会議及び省部級主要領導幹部金融高質量発展専題研討班において金融系統に対し、科学技術金融、グリーン・ファイナンス、インクルーシヴ金融、養老金融、デジタル金融の5分野を重視するように要求した。
 習近平は次のように指摘した。
 科学技術金融に関しては、困難に立ち向かって前進し、重点に照準を合わせるべきである。金融機関を指導してインセンティヴと抑制のメカニズムを健全化し、株式、債券、保険等の手段を統括的に運用することで、科学技術型企業にフル・チェーン、フル・ライフサイクルの金融サービスを提供し、製造業強化をサポートする。
 グリーン・ファイナンスに関しては、勢いに乗じて前進し、新産業の確立を進めたうえで、古いものを淘汰するべきである。グリーン・ファイナンスの政策、スタンダード及び製品体系を改善し、炭素排出量取引市場を拡大し、クリーン・エネルギーの研究開発、投資、宣伝と使用を支持し、石炭のクリーンかつ効率的利用を引き続き促進し、新しいタイプのエネルギー・システム建設及びエネルギー企業転換プロセス中におけるリスクを防止・解消し、国家エネルギー安全保障を確保し、カーボンビーク及びカーボンニュートラルを形成するためのサポート・システムを形成する。
 インクルーシヴ金融に関しては、雪中に炭を送り、民生に服務するべきである。中小零細企業及び民営企業に対する金融支援政策体系を引き続き改善することにより、融資が困難で、融資コストが高いという問題を改善する。郷村振興に対する金融的投入を高めることにより、食料の安定を支持し、郷村産業の発展を支援し、農民の増収致富を促進する。金融機関のサービス方式を改善することにより、安全性、収益性、流動性を備えた金融製品が一般家庭に入り込むようにする。
 養老金融に関しては、システムを健全化し、福祉を増進するべきである。ヘルス産業、養老産業、銀髪経済に対する財税金融政策上の支持を拡大することにより、ピンポイント型の養老金融製品の供給を豊富にし、第三の柱となる養老保険を積極的に発展させ、日増しに多元化する養老金融上の需要に応える。
 デジタル金融に関しては、チャンスを捉え、安全を重視するべきである。金融機関はデジタル化への転換を加速させ、金融サービスの利便性及び競争力を高め、必要とされる現金等の伝統的金融サービス方式を維持するべきである。金融監督管理においては、金融科学テクノロロジーを応用し、デジタル化監督管理能力及び金融消費者保護能力を向上するべきである。デジタル人民元を積極的かつ着実に推進する。
 習近平は次のように強調する。良好な通貨金融環境の造営に力を入れ、通貨政策ツールにおける総量及び構造の二重機能を発揮させることにより、実体経済なかんずく中小零細企業、科学技術創新、グリーン開発に対するサポートを拡大するよう金融機関を誘導するべきである。

<金融に対する監督・管理を強化し、金融リスクを防止・除去する>

 金融リスク特にシステム的な金融リスクの発生を防止することは金融工作の根本的任務である。習近平は、リスクの防止コントロールを金融工作の永遠の主題とすることを堅持し、危機感を強め、リスクの防止コントロールに長じ、金融システムのレジリエンスを強化する、と強調する。『ダイジェスト』の第五テーマは、習近平の金融リスクの防止コントロールに対する深謀遠慮及び体系的計画を扱っている。

(金融リスク防止解消:質の高い発展を実現するために乗り越えなければならない関門)

 金融リスクは隠蔽性、突発性、伝染性が特に強く、処理を誤れば社会リスク、政治リスク等を誘発する可能性がある。金融上の安全を維持することは、中国経済社会発展の全局に関わる、戦略的、根本的な大問題である。18回党大会以来、習近平は繰り返し次のことを強調してきた。すなわち、金融リスクの防止・管理を重視し、システム的リスクを発生させないというボトムラインを堅守し、一連の措置によって金融に対する監督管理を強化し、金融リスクを防止・解消し、金融の安全と安定を維持することによって発展の大勢を掌握する。習近平は次のことも指摘している。すなわち、金融リスクの防止解消は国家の安全、発展という全局、人民の安全及び財産に関わり、質の高い発展を実現する上で克服しなければならない関門であり、敗北が許されない戦役である
 政治的大局から出発し、戦略的計画を念入りに制定し、堅塁攻略戦に断固勝利を収めるべきである。発展と安全の統括を堅持し、チャンス及びリスクの意識を強め、リスクと競争するという意識を強め、ボトムライン思考と問題志向を堅持し、全面的金融工作の基礎の上で金融改革深化に着手し、金融の監督管理を強化し、科学的にリスクを防止し、安全能力の建設を強化し、抜け穴を塞ぎ、ウィーク・ポイントを強化し、先手を取ることで主導的闘いを行い、金融業の競争力、リスク抵抗能力、持続的発展能力を不断に向上し、社会主義現代化事業の順調な前進を確保する。
 習近平は、金融は管理機能とリスク分散機能を備えると同時に、リスク遺伝子をも内包している、と強調する。金融リスクを防止解消する上では、人、カネ、制度という三つのカギを抑え、「人を管理し、資金を保全し、堅固な制度的ファイアウォールを構築する」ことが必要である。「人を管理する」とは、金融機関、金融監督管理部門の主要責任者及び中間職を管理し、彼らに対する教育監督管理を強化し、金融分野における腐敗防止力を強化することである。「資金を保全する」とは、現代的科学技術手段及び支払い及び決算メカニズムを運用し、オンライン及びオフライン両面で国内外の資金の流れをリアルタイムで動態的に監督管理し、全ての資金の流れを金融監督管理機関の監視の下に置くことである。「堅固な制度的ファイアウォールを構築する」とは、金融就業人員、金融機関、金融市場、金融オペレーション、金融ガヴァナンス、勧誘監督管理、金融調整コントロール・システムを改善し、金融オペレーションをルール化することである。

(金融リスク特にシステム的リスクの防止解消)

 中国の金融サイズ及びその複雑さの程度は今や昔日とは比べものにならず、リスクのシステム的関連性も大幅に強まっている。システム的リスクが発生すれば、現代化プロセスもしばしば遅滞を余儀なくされ、ひいては中断に至る。習近平は、システム的リスクを防止解消することはリスク防止・管理における最重要課題であると指摘する。重点領域におけるリスクを防止解消し、システム・コンセプトを堅持し、現象と原因をともに正すことを堅持し、不動産、地方債務、中小金融機関等のリスクを統括的に解消し、財政と金融の安定的オペレーションを維持し、システム的リスクを発生させないというボトムラインを断固として守り抜く。
 習近平は、金融リスクを防止解消するに当たっては、「大局安定、統括協調、分類施策、正確処理」の方針を堅持し、次の三つの関係を把握する必要があると強調する。第一は権限と責任の関係である。金融権限は中央に所属するという基本原則を堅持し、中央と地方の職責分担を明確にし、権限と責任が一致し、インセンティヴと規制とがマッチしたリスク処理責任メカニズムを健全化する。第二は迅速と安定との関係である。局部的または個々の機関で金融リスクが急速に爆発し、損失が拡大し続ける時は、迅速な消火を優先しなければならない。地域的リスク、特に長期的に蓄積された問題に関しては、大局安定の前提の下、タイミングと深刻度を掌握して着実かつ穏当に解消を図る。もっとも重大なのはシステム的リスクの防止であり、適時かつ強力な措置を講じ、違法犯罪及び腐敗行為は断固取り締まり、モラル上のリスクは厳しく防止する。第三は防止と処置の関係である。主動的に防火し、治療し、兆候を把握し、リスクに対して早期識別、早期警戒、早期摘発、早期処理で臨む。厳しい制約を伴う金融リスク早期修正メカニズムを健全化し、金融機関の主体的責任、金融管理部門の監督管理責任及び地方政府の属地責任を実行する。現象を透視して本質を把握し、金融の混乱、一般化(generalization)を萌芽段階で処理し、野放図な成長を許さない。不法金融活動に対しては集団的予防と集団的治療が必要であり、適時に発見認定し、果断に対策を講じ、早期に手を打って小さいうちに処理し、根こそぎ根治する。

(金融管理監督の改善強化)

 金融は監督管理をもっとも必要とする分野であり、金融監督管理システム及びその能力は中国金融システムの発展の要求に適応する必要がある。習近平は、現代金融管理監督を強化改善し、金融安定保障システムを強化し、様々な金融活動を全て法的監督管理下に納め、システム的シスクを発生させないというボトムラインを守り抜くべきであると指摘する。資本市場の機能を健全化し、直接融資の比重を高める。反独占、反不当競争を強化し、地方的保護及び行政的独占を打破し、法律に基づいて資本の健康な発展をルール化し、誘導する。組織的監督、行動的監督、機能的監督、浸透的監督、継続的監督を全面的に強化し、発展を重視して監督管理を弱めるという風潮を正し、監督管理の空白及び盲点を除去する。市場化改革という方向性を堅持し、現代金融の特徴にマッチした、強力かつ効果的な現代金融管理監督フレームワークの構築を加速する。関連法制の建設を加速し、監督管理放棄の不備を補い、金融混乱を正し、金融秩序をルール化する。監督管理の協調を強化し、マクロ健全管理とミクロ行動監視の双方を堅持する。金融管理資源を統括し、基層レベルの金融監督管理力を強化し、地方の監督管理責任を強化し、小さいうちに速やかに掌握し、小さいうちに断ち切る。
 習近平は、金融の監督管理には総合施策が必要であり、死角があってはならず(浅井:習近平:"長牙帯牙"、有棱有角)、確実に有効性を高める必要がある、と強調している。全局意識を確立し、金融管理監督を隅々に至るまで実現する。金融監督管理と金融創新の関係を適切に処理し、監督管理に優れた金融創新について一時的に掌握できない時には、まず局部的に試点によるテストを行ってもよい。監督管理に関する科学技術の運用を強化し、監督管理の貫通力を強化し、監督管理における千里眼と地獄耳を形成する。事前及び進行中の監督管理を強化し、早期に関与して是正し、小事が大事に至り、大事が昂じて爆発する事態を防止する。能力の建設を強化し、金融監督管理隊伍の建設を強化し、監督管理における不正に対しては厳しく責任を追及する。金融監督管理はシステム・エンジニアリングであり、金融監督管理の強化においては集中統一、協調連携がマストであり、勝手な行動はあってはならない。

<金融の質の高い発展を推進して経済社会の発展に対して質の高いサービスを提供する>

 第20回党大会は、質の高い発展は社会主義現代国家の全面建設における主要任務であることを明確にし、金融サービス向上に対して方向と目標を指し示した。習近平は、質の高い発展と高レベルの安全を統括し、穏中求進、以進促穏、先立後破、突出重点、把握関鍵を堅持し、経済の行穏致遠を実現することを強調している。『ダイジェスト』の第六~第十テーマは、習近平の関連論述を集めている。

(市場化・法治化の軌道上での金融創新発展の推進)

 創新は発展を牽引する第一の原動力である。習近平は、発展は創新、創造、創意にますます依存するという趨勢に適応し、金融の改革創新に力を入れ、金融サービスのメイクアップ及びクオリティの転換を推進する必要があると指摘する。金融の安全は制度に依存し、活力は市場にあり、秩序は法治に依存する。法人のガヴァナンスを健全化し、中国の特色ある現代金融企業制度を改善し、国有金融資本の管理を改善し、銀行資本金を補充するチャンネルを広げ、産業及び金融のリスク分離を徹底する。政府と市場の関係を明確にし、金融資源配分においては市場に決定的役割を発揮させるとともに、政府の役割に関してはマクロ管理を強化改善し、市場ルールを健全化し、紀律性を強化する。市場規律メカニズムを改善し、金融資源の配置効率を高めるべきであり、この点についての動揺は許されない。統一ルール、監督管理協調の金融市場を構築し、金融インフラの統括企画を強化し、市場における資金の流れに対するモニタリングを強化し、市場秩序を体系化する。
 習近平は、金融法治建設強化の根本目的は金融業発展を護衛することであると強調する。十全な金融法律体系と市場ルール体系を構築し、有禁必止・違法必究に基づいて金融市場の健全なオペレーションを保障する。最悪、極限の事態を想定して、国家の金融安全を守る法律ツールを健全化する。タイミングを誤らずに金融重点分野及び新興分野の立法を推進し、定期的法律改正制度を作り、金融発展の実際的要請に不断に適応する。金融法制執行を強化し、違法違反行為に対してはゼロ・トレランスで臨む。金融系統の各級領導幹部及び従業人員は法治意識を確立し、自覚的に尊法、学法、守法、用法するべきである。

(サプライ・サイド金融構造改革)

 サプライ・サイド改革は経済工作における主軸であるとともに、金融工作における主軸でもある。習近平は、合理的で健康的な金融構造は金融が健康的に発展し、実体経済に効果的なサービスを提供する上での前提であると指摘する。金融のサプライ・サイド構造改革を深化し、間接融資と直接融資、エクイティ・ファイナンスとデット・ファイナンスの関係を整理し、金融システム構造を最適化し、金融インフラを改善し、金融サービスの質と効率を高める。質の優先を堅持し、金融業の発展を経済社会発展とマッチさせる。金融システム構造の調整と合理化を重点とし、融資構造並びに金融に関わる機構体系、市場体系及び製品体系を適正化して、実体経済の発展に対してより質の高い、より効果的な金融サービスを提供する。
 習近平は、融資構造を適正化し、安全、標準、透明、開放、活力、レジリエンスを備えた資本市場の建設を加速するべきだと強調する。組織の位置づけを改善し、大中小結合を堅持し、金融市場の公平な競争を促進し、合理的な金融システムを形成する。銀行システムの改革推進を加速させ、国有商業銀行の改革を深め、国有大型金融機関の優良化と強大化を支持し、市場ルールを遵守し、総合的なサービス・レベルを向上し、実体経済サービスの主力とし、金融安定の安定装置とする。中小金融機関に対しては、参入資格及び監督管理要件を厳格にし、統合再編を推進し、中小金融機関の減量と質の向上を実現し、現地に立脚した特化経営を行う。農村信用協同組合の改革を深め、多くのチャンネルを通じて中小金融機関の資本金を補充し、農村金融機関の本源回帰を推進する。政策金融機関の改革を推進し、国家戦略に対するサービス提供を軸とし、政策金融機関としての職能的位置づけを強化する。金融機関の専門化を推進し、本業を重視し、優先する。通貨政策における伝達メカニズムを円滑にし、製造業に対する中長期融資を増やし、民営及び中小零細企業の融資難、融資高という問題を解決緩和する。

(金融の開放と安全の統括)

 歴史上及び今日の金融強国を通観する時、高度に開放しているという特徴を備えている。金融対外開放の段階的拡大はグローバル資源のさらなる利用に有利である。習近平は、金融業の対外開放を拡大することは中国の対外開放の重要分野であると指摘している。「導入」と「進出」の両立を堅持し、制度型開放を重点として金融の高いレベルの対外開放を推進し、金融資源配置の効率と能力を向上し、国際競争力とルール影響力を強化する。開放順位を合理的に順序づけることは、消費者の権益保護、金融の秩序ある競争力強化、金融リスク防止分野の推進加速に有利である。参入後制度型開放を着実に推進し、国際的高標準の経済貿易協定中の金融分野の関連ルールを基準として、制限的措置を削減し、開放政策の透明性、安定性及び予測可能性を高める。金融市場の開放と資本勘定の交換可能性を統括的に推進し、人民元為替レート形成メカニズム改革を深め、着実に人民元の国際化を推進し、資本勘定の交換可能性を着実に実現する。
 習近平は次のように指摘する。金融の対外開放に当たっては国家の金融上及び経済上の安全を確保しなければならず、我を以て主としなければならず、開放のペースと程度を掌握し、金融の監督管理能力を確実に向上させ、高いレベルでリスクの防止コントロールを保障することによってより高レベルの金融開放を行う。制度的不備を補い、資本管理監督、行為管理監督及び効能監督管理の方式を改善し、監督管理能力と対外開放レベルとがマッチし合うことを確保する。国際金融管理監督改革に積極的に参与し、グリーン・ファイナンス、デジタル金融などの新興分野における国際ルール制定を推進、牽引し、国際金融ルール・スタンダード制定における中国の発言力と影響力を高める。

(穏中求進、以進促穏、先立後破の堅持)

 経済オペレーションは動態プロセスであり、政策調整及び改革推進に当たってはタイミングを把握する必要があるのであって、先立後破、穏扎穏打を堅持する。習近平は、穏中求進という基調方針は中国の治国理政上の重要原則であり、経済工作における方法論でもある、と述べている。「穏」の重点は経済オペレーションの安定にあり、成長、就職、物価に大きな変動を出現させないことを確保し、金融においては地域的システム的なリスクが起こらないことを確保する。「進」の重点は経済構造調整及び改革開放深化にあり、経済発展モデル変革及びイノベーション主導型発展戦略において新たな成果を得ることを確保する。中国の特色ある金融の道を歩み、金融強国の建設を加速するに当たっては、穏中求進の基本方針を堅持し、穏中求進、以進促穏、先立後破という要求を貫徹しなければならない。
 習近平は、「穏」と「進」が相互に促進し合うべきであると強調する。穏は大局及び基礎であり、穏健な予測、安定的な成長、安定した就職を導く政策として現れ、収縮抑制措置を打ち出す。進は方向及び動力であり、立てるべきは積極的に立て、破るべきは立という基礎の上で断固として破り、特に、方式を転換し、構造を調整し、質量を高め、効果・利益を増やす点において積極的進取的であり、穏中向好の基礎を打ち固める。マクロ政策におけるカウンター・サイクリカル及びインター・サイクリカルな調整を強化するに当たって、積極的な財政政策と穏健な金融政策を継続実施し、政策ツールの創新と協調的組み合わせを強化する。

(中国の特色ある金融文化の育成と発揚)

 習近平は次のように指摘する。金融の質の高い発展を推進し、金融強国を建設するためには、法治と徳治の結合を堅持し、中華優秀伝統文化を大いに発揚し、中国の特色ある金融文化を積極的に育成し、中国の特色ある現代金融システムの根と魂を守るべきである。
 第一は誠実にして信を守り、越えてはならない線を越えないこと。金融業は信用を基礎としており、契約精神を堅持し、市場ルール及び職業的モラルを堅守すべきである。
 第二は義を以て利を取り、利を貪らないこと。金融は機能性及び営利性という二重の属性を持ち、金融業は社会的責任を履行することが要求され、金融と経済・社会・環境との共生共栄を実現することが要求される。
 第三は穏健にして慎重、眼前の利益を求むるに急ではないこと。金融業は正しい経営観、業績観及びリスク観を樹立するべきであり、経営に当たっては穏健慎重、眼前を見るとともに、それ以上に遠くを見ることが求められる。
 第四は守正にして創新、実を脱して虚に向かわないこと。金融におけるカギは誰に奉仕し、何故に創新するかという問題である。実体経済に服務し人民大衆の利を謀ることのみのために創新を推進するべきであり、エセ創新、乱創新の類いはあってはならない。
 第五は依法にして合規、乱行悪事の類いは行わないこと。金融機関及びその従業者は厳格に規律に従い法を守り、金融監督管理の要求を遵守し、監督管理の許可範囲内で自覚的に法に基づく経営を行うべきである。