私は、NK問題の調停役としてOSCEミンスク・グループ(MG)という国際的に公認された調停役が存在するにもかかわらず、実際にはMGに加わってもいないEU(EU理事会のミシェル議長)が調停役としてパシニャン首相及びアゼルバイジャン・アリエフ大統領との直接交渉に当たってきたこと、また、パシニャンとアリエフが最近までミシェルの調停に「素直」(?)に応じてきたことに違和感を覚えました。EU(及びアメリカ)の調停については、…

コーカサス山脈の南側に位置するジョージア、アルメニア及びアゼルバイジャンの3ヵ国は、モスクワ在勤時代に訪れてみたいと思いながら果たせなかった魅力を感じる国々です。それだけに、2020年9月に起こったアルメニアとアゼルバイジャンとの間の軍事衝突にショックを受けるとともに、戦争勃発の原因(ナゴルノカラバフ問題)について理解したいと思い、それ以来、関連情報をファイルしてきました。本年(2023年)9月19日にアゼルバイジャンがナゴルノカラバフ(以下「NK」)を全面支配する軍事行動を決行したことで大勢が決した感があります。この機会にNK問題の歴史的経緯特に国際的含意について理解を深めてようと思い立ち、溜めてきたファイルを…

「東方外交」にシフトを切ったロシアにとって、シベリア・極東の経済開発は重点中の重点国策の一つであり、極東・シベリアと朝鮮との経済関係を発展させることはロシアにとって重要課題の一つであることは疑いの余地がありません。したがって、安保理制裁決議の「縛り」から朝鮮を解放することは、露朝経済関係の発展を展望する上での大前提です。
 しかし、ロシアは中国とともに制裁決議成立を主導したアメリカに同調した「共犯者」であり、制裁決議はロシア(及び中国)の今後の朝鮮政策に対する「縛り」にもなっています。金正恩の今回のロシア訪問において安保理制裁決議問題はどのように扱われたか。私の関心が…

8月10日の実質合意を経て、9月18日にイランとアメリカは「捕虜交換」(本質は、限られた金額の在外イラン凍結資金へのアクセスとイランの核活動自粛のバーター)に関する取引(以下「捕虜交換取引」)を完成しました(9月25日「コラム」)。アメリカのメディアを含め、これがきっかけとなって、2018年にトランプ政権が一方的に脱退したイラン核合意(JCPOA)の復活のための国際交渉が再び開始されるのではないかとする希望的観測を行う向きもあります。しかし、結論から言えば、交渉本格再開の可能性は限りなく小さいと言わざるを得ません。第一に、イランとアメリカの相互不信は極めて強く、…

9月18日、ホワイトハウスは「5人のイラン人に対する恩赦及びイランの制限付き口座への60億ドルの移転を見返りとして、イランに拘留されていた5人のアメリカ人が解放された」と発表しました。
私が、今回のイランとアメリカの第三者(主としてカタール)を介した間接交渉の経緯を追いながら連想したのは、朝鮮半島非核化をめぐるいわゆる6者協議でした。米伊間の今回の交渉が曲がりなりにもまとまったのは捕虜交換とイランの凍結資産解除という限られたテーマに関してであり、イラン核合意(JCPOA)の復活といういわば本命に関しては、米伊の相互不信は根強くかつ強烈なものがあって、この本命を切り離したからこそ… 

アフリカに対するロシアと中国の認識・政策は基本的に一致しています。ロシアは、レーニンの時代から、民族解放運動を反帝国主義の闘いの不可分の一部と捉え、これを支持・支援する方針・政策をとってきました。ソ連の後継を自認するプーチン・ロシアにおいてもこの方針・政策に変更はありません。中国の場合、自らが長い間帝国主義諸勢力によって半植民地化された歴史を持っており、中国共産党政権は一貫して植民地主義反対を旗幟鮮明にしてきました。
 ただし、アフリカを含む途上諸国・地域に対する支援の実績という点では、1980年前後~1990年代初期(中国の改革開放とソ連崩壊)を境にして、ロシアと中国の立場が逆転… 

7月26日、西アフリカのニジェールで政変(クー・デター)が起こりました。当初はあまり気にとめていなかったのですが、アメリカの主要3紙(ニューヨーク・タイムズ(NYT)、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)、ワシントン・ポスト(WP))、ロシアのロシア・トゥデイ(RT)、スプートニク通信、中国メディアが大きく取り上げているので,念のため、関連記事を収集してきました。約一ヶ月が経った時点で収集してきた記事をまとめ読みした結果、3大国メディアが関心を寄せるのも「むべなるかな」と実感し、分析作業に取りかかりました。私としては久方ぶりに「オープンな情報を丹念に読み込むことで情勢分析を行う」という外務省時代を思い出しながらの楽しい(?)作業となりました。キッシンジャーがオープンな情報で95%以上事実関係が分かるという趣旨の発言を行ったことがありますが、私も… 

 7月30日に、アメリカの独立系ウェブ・メディアのグレイゾーン(Grayzone)は、シカゴ大学教授であるジョン・ミアシャイマー氏に対するインタビュー記事("Ukraine war is a long-term danger")を掲載しました。ウクライナ戦争の原因・現状・見通しに関するミアシャイマーの分析は透徹したもので、深い感銘を受けました。私がたまたま知らなかっただけで、彼は早くからウクライナ問題に関するアメリカ主導の西側の政策(ウクライナのNATO加盟促進)に警鐘を鳴らし、この政策を自国の安全保障に対する脅威と捉えるロシア・プーチン政権の強烈な反発を招き、最悪のケースでは核戦争に至る深刻な事態となることを警告していました。今回のグレイゾーンでのインタビューは、事実関係に関する深い把握に裏付けられた、ウクライナ戦争に関するミアシャイマーの深刻な問題意識とバイデン政権の愚かさの極みに対する…

8月12日に日中平和友好条約締結(以下「条約」)45年を記念する集会でお話しする機会がありました。集会を主催した「村山首相談話を継承し発展させる会」事務局長の藤田高景氏、鳩山由紀夫元首相、呉江浩駐日大使が日中・中日関係の重要性を力説した後に、私が「日中平和友好条約締結45年-バイデン・岸田対中対決政治は清算しなければならない-」というタイトルでお話ししたのですが、私の言わんとしたことが正確に参加者に伝わったか,受け止められたか、について心許ない気持ちになりました。お三方は、条約及び日中共同声明(以下「声明」)という原点を日本(岸田政権までの歴代自民党政権)が遵守しないことが日中関係悪化の原因であるとする立場から、声明・条約に立ち返ることの重要性を力説しました。しかし、私が言わんとした最大のポイントは、… 

近刊(三一書房)のご案内

新年のご挨拶(コラム)の中で触れましたが、年明けからほぼ4ヶ月余をかけて取り組んできた原稿がある程度形をなし、出版の目途が立ってきましたので、ご案内を始めることにしました。

新著のタイトル(まだ確定ではありません)は、『日本政治の病理診断 -丸山眞男:執拗低音と開国-』です。出版社は三一書房、刊行予定日は8月15日です。「私の考えを本にまとめてみないかというお誘い」(1月1日コラム)に即し、今のところ、以下の章立てとなっています(編集過程で変更があるかもしれません)。

一 個人的体験
(一)「執拗低音」との出会い
(二)外務省勤務時代の体験
(三)大学教員時代の体験
(四)外務省の「親米」体質
(五)歴史教科書検定と中曽根靖国公式参拝
二 執拗低音
(一)丸山眞男の問題意識
(二)石田雄の批判
三 開国
(一)丸山眞男の日本政治思想史の骨格
(二)「開国」の諸相
四 「普遍」と「個」
(一)「普遍」
(二)「個(尊厳)」
五 日本の「開国」への道のり
(一)精神的「開国」
(二)物理的「開国」
(三)強制的「開国」
六 21世紀国際社会と日本
(一)21世紀国際社会について正確な認識を持つ
(二)国際観を正す
(三)「脅威」認識を正す
(四)国家観を正す
(五)国際機関に関する見方を正す