スカルラッティ:ソナタ練習経験

作成日:1999-07-20
最終更新日:

はじめに

ドメニコ・スカルラッティのソナタを聴いたり弾いたりした経験を述べる。 カークパトリック番号順に記述する。ゆくゆくは、全曲を解説したい。 あのスコット・ロスによる全曲録音版の解説でさえ、全曲は解説されていないのだ。 なお、K.1 のロンゴ番号を誤ってL.159と表記していた。正しくは L.366 である (2005-02-20) 。

解説を一部訂正するとともに、abcjs による楽譜を掲載した。 楽譜を掲載しなかった解説はいったん削除した (2019-05-18) 。

解説を復活させるとともに、楽譜を冒頭のみ可能な限り掲示するようにした。 なお、楽譜には速度記号のないものがある。これは、私がぬかしている場合と、原典版にない場合の両方がある。 また、メトロノームで速度が指定されているものもあるが、これは MIDI で再生する場合の目安であり、 原典版にはもちろん書かれてはいないことを注意する (2020-04-06)。

解説だけではつまらない方のために、私の(字義通り)拙い、電子ピアノによる演奏を YouTube にアップロードすることにした。 演奏とあるリンクをクリックすると YouTube に行く。くれぐれも、演奏の聴取および閲覧の際は注意をされんことを。 YouTube での曲紹介の前に、必ず次の注意書きを入れている。

Atentu! : Ti ĉiu ludo eble perdios vian sanon. 
Caution!: This play will injure your health. 
注意!:この演奏はあなたの健康を害するおそれがあります。 
Domenico Scarlatti : Sonata K.xxx ( L. yyy ) Z (major|minor) 
ドメニコ・スカルラッティ:ソナタ K.xxx ( L. yyy ) Z (長調|短調)

K.1 (L.366) d-moll

私がスカルラッティにひかれるようになったのは16歳のころである。 それまでもNHK「ピアノのおけいこ」のテキストの中にのっていたのがあった。 この曲や K.159 であったが、そのときは特に気をつけて見ていなかった。
後に K.427 に惹かれるようになり、スカルラッティのソナタを探したところ、昔弾いたことのあるこの曲を見つけた。
この曲は年を経るにつれて好きになって来た。しかし、うまく弾けない。
まず、左と右とでとる同音連打(7小節め)がすっきり弾けない。私の家のピアノはアップライトだから切れが悪い。 しかしピアノがアップライトだからという理由にしてはいけない。腕の問題が大きい。 そして、左手の跳躍。2オクターブが未だに当たらない。

K.2 (L.388) G-dur

冒頭はヘンデル風である。たとえば、同じト長調であるヘンデルの合奏協奏曲 Op.6-1 を思い出す。

K.3 (L.378) a-moll

下降する旋律的音階と、半音階、減7の分散和音の組合せが新鮮だ。

K.4 (L.390) g-moll

上昇する3度の分散音は、スカルラッティのソナタに頻出する(例:K.445 など)。 彼の手が自然に動いたのであろう。 サビの部分で3回同じ音型を繰り返すのは、 これまた彼ならではのしつこさだ。

K.5 (L.367) d-moll

わりあいおとなしめの曲だが、走句の入れ方に工夫を要する。 なお、楽譜では5小節から21小節途中までずっと、手が交差したままで左手が高音部を奏するのだが、 ちょっとこれはやりすぎのような気がする。

K.6 (L.479) F-dur

冒頭は何の変哲もないソナタにみえる。しかし、5小節め以降の3連符を勢いよく弾くと、 ヘミオラの威力で旋風が巻き起こる厳しい曲に早変りする。

K.7 (L.379) a-moll

なんでもないカノンから、左右の手による6度の平行進行になったと思うと、 6度を右手だけにして左手がオクターブの跳躍をするという、何とも奇想天外な曲だ。

K.8 (L.488) g-moll

付点音符主体の、厳しく古風な曲である。

K.9 (L.413) d-moll

スカルラッティのソナタの中で、有名な曲である。 スカルラッティには牧歌を意味するパストラーレという副題のついた曲がいくつかあり、 この K.9 もそのうちの一つだ(ただし原典版にはパストラーレの名前はない)。 両手で3度の音階を合わせるところなど、左右の音量のバランスに気を付けること。 左手の 11 度跳躍などがこの曲の練習ポイントだ。 ホ短調になって編曲されているものもある。 特に、デュエットとしての編曲が多い。アサド兄弟のギターに名演奏がある。


K.10 (L.370) d-moll

分散和音からなる16分音符とポリフォニックに添えられる8分音符からなる 3/8 拍子の音楽。 これだけみるとごく普通だが、サビの部分に出てくるオクターブバッテリーと32分音符による急速な下降音階が、 スカルラッティの作であることを物語っている。


K.11 (L.352) c-moll

これもスカルラッティのソナタの中で、有名な曲である。 K.1 から K.30 までは手の交差により左手が高音部を取る曲が多いが、これもその一つ。 ギターの爪弾きのような効果があり、かつ速度は要求されないので理にかなっている。 スカルラッティの入門用としてもよいと思う。


K.12 (L.489) g-moll

カノンで始まる導入部を抜けると、執拗な前打音と執拗な音型と同音を執拗に維持する音型が続き、 緊張が否が応でも高まる。


K.13 (L.486) G-dur

アリシア・デ・ラローチャなど、多くのピアニストがこの曲を好んで弾いている。 カノンが爽やかな冒頭部、きびきびしていて、手の交差を伴う同音連打部、 トリルを伴う短調への転調、継留音の見事な使い方など、 前半部だけでも魅力に溢れている。 後半部はおもに前半部の調を変えた繰り返しだが、 さらに工夫が加わっていて楽しい。


K.14 (L.381) G-dur

ところどころに入る急速な音階が曲を引き締めている。


K.15 (L.381) e-moll

歯切れよく始まったあと、奏でられるメロディは左手が奏するように指定されている。 しかも、前半、後半とも32小節連続である。こういう理不尽な交差にも従うべきなのだろうか。


K.16 (L.397) B-dur

スカルラッティの曲によく出てくる素材が多く出てくる。 この曲で特徴的なのは、前半のみに出てくる短二度のトリルをわざと遅くしたようなバッテリーだろうか。


K.17 (L.384) F-dur

3連符が小気味よく回転する。スカルラッティの明るさがよく表れている。


K.18 (L.416) d-moll

半音階の刻みと、内声を伴う付点音符が切迫感を生み出している。


K.19 (L.383) f-moll

こちらも手の交差があるが少しテンポが速いのと頻度が多いので難しい。 音型を保ったまま転調によってニュアンスが変わっていくのがスカルラッティ一流の芸である。

K.20 (L.375) E-dur

速度記号 Presto が似合う、溌剌とした曲。 3度の音階の上下など、 右手と左手が並行して運動する。 ピアニストには、音の粒を揃えることが求められる。

K.21 (L.363) D-dur

この曲でも、理不尽なほどの交差の継続や交替する同音連打など、 スカルラッティの特徴がよく表れている。前半後半の終結部の7thに13th に入っているのも憎い。

K.22 (L.360) c-moll

聞いている限りはわかりにくいが、 奏者としては、 左手の素早い2オクターブの跳躍や左手の交差など弾き難い箇所が続出する。 たとえば上の楽譜では、符幹(おたまじゃくしの棒)が下向きになっているのが右手で、上向きになっているのが左手でとるよう指示がある。 このト音記号からヘ音記号に変化する、 2オクターブ直下の C の音を素早く弾かないといけない。

そして、右手と左手が並行する運動もK.20と同様にある。 聞き手は、その当りの事情は詮索せず、 ひたすら音の流れに身を委ねていたい。

K.23 (L.411) D-dur

冒頭は、ヘンデルの合奏協奏曲で同じニ長調の調性をもつ Op.6-5 の楽章に似ているが、 細かな音形のせり上がりや、低音部の躍動するトリル状の動きなどは、間違いなくスカルラッティ独自のものである。

K.24 (L.495) A-dur

速度指定が Prestoで、同じ音型に固執して突進する曲である。しかも冒頭は K.39 と同じである。 両手による高速同音連打や右手の3度の連続、高速音階、頻繁な手の交差など、難度が高い。

K.25 (L.481) fis-moll

バッハの2声のインベンション風で始まる無窮動。ときどき挿入される 32 分音符の鋭さや、 交差した左手による上声の動き、右手に頻出するバッテリーなど、難易度は高い。

K.26 (L.368) A-dur

K.1 から K.30 までのいわゆる Essercizi では交差した左手で延々とメロディーを奏する曲が多く、 これもその一つである。その他、同音連打や不協和音などが現れる。スカルラッティのソナタの一つの典型といえる。

K.27 (L.449) b-moll

Allegro 表示があるが、少し遅く弾いたほうがよさそうだ。 ロ短調のもの憂げな表情が似合う。 右手の分散和音を中心として、 手を交差させながら左手が低音と高音を点景のように置いていく、美しいソナタである。

K.28 (L.373) E-dur

一拍目に細かな音符でアクセントが入るとともに、左手が高音と低音を自由に動く楽しい曲。

K.29 (L.461) D-dur

右手と左手の交差がもっとも激しい曲。右手を押し退けて高音部を左手でとるように、 スカルラッティはあちこちで指示している。 ピアニストがその緊張感をもって弾くと最高に楽しい。

K.30 (L.499) g-moll

通称「猫のフーガ」。 冒頭が G-B-Es-Fis-B-Cis-D のように不協和分散和音で始まる。 まるで猫が鍵盤の上に踏んで出た音のように聞こえたことからこの名がある。 その後の展開はごく穏当であるが、バッハほどの対位法を駆使せず、 むしろ和声の響きを押し出している。


K.31 (L.231) g-moll

マッシブな和音で始まり、アルペジオもちりばめられた重厚な曲、と思いきや、 軽い部分もありつかみどころがない。


K.32 (L.423) d-moll

メヌエット風の小品。スカルラッティの初期の作品と思われる。


K.33 (L.424) D-dur

大学1年のときに人前で弾いた。 最初 K.432K.54K.487 をこの順番に弾く予定としていたが、 ホロヴィッツのレコードを聞き、この曲もかっこいいと思って追加した。左手の2オクターブの跳躍が当たらない。また、 左と右とでとる同音連打が当たらない。この書き方、K.1 と全く同じだなあ。
演奏 (www.youtube.com)


K.34 (L.S.7) d-moll

K.32 と同じく、メヌエット風の小品。こちらはさらに簡素で、和音がほとんどなく、 2声の書法に徹している。これならばバイエルを卒業せずとも弾けると思う。


K.35 (L.386) g-moll

書法はどこかヘンデルを思わせる(たとえば、組曲ト長調 HWV 441 の Aria 参照)。


K.36 (L.245) a-moll

メヌエットの香りが漂う Allegro である。16 分音符で動く高音部を 8分音符の低音部で支える箇所が多いが、 そのうち交差を伴う、すなわち左手で高音部を弾くように指示されているのが半分近くを占める。 合理的とはいえないが、何かわけがあるのだろうか。なお、ギター編曲でも知られている。


K.37 (L.406) c-moll

ヴィヴァルディの協奏曲を思わせる作りである。この場合、独奏楽器はヴァイオリンだろうか、 それともチェロだろうか、と想像してみるのは何とも楽しい。

実際に協奏曲に仕立てた演奏もある。 エイヴィソンの『ドメニコ・スカルラッティのソナタに基づく12の合奏協奏曲』 の第3番の第2楽章がそれである。 http://www.youtube.com/watch?v=1xYnxNEApT4 の1:28 あたりから始まる。


K.38 (L.478) F-dur

音階とアルペジオからなる、徹底した線の書法からなる小品。オクターブは数か所出てくるだけなので、 このオクターブを単音でも済ますことにすれば手の小さい人でも弾けるはずだ。 ただし、速い音階や指の跳躍があるので、気は抜けない。それから、 両手による同音連打をうまく処理するコツも必要だ。ここで、両手による同音連打というのは、 左手が8分音符を叩いたあとで、右手が16分音符(3連符も含む)で同じ音を時間差で叩くことであり、 スカルラッティではよく見られる(K.1 にもある)。これには、最初に叩いた手を素早く逃がすことが必要である。


K.39 (L.391) A-dur

冒頭は K.24 と同じである。K.24 に見られる高速音階はこちらにはなく、 同じ音価のパッセージが軽やかに疾走する。


K.46 (L.25) E-dur

冒頭のテーマは分散和音でかっこいいが、例によってすぐ捨てられる。 その後いろいろなテーマが出てきては繰り返される。ピアノ弾きにとって難しいのは、 左手の跳躍と直後のトリルをうまく組み合わせることで、 ここがうまくいけば活力溢れる気分をうまく表現できる。

K.49 (L.301) C-dur

ハイドンのソナタを思わせる、明るく、素直な曲想。展開部と再現部の間に音階のカデンツァが置かれている。

K.52 (L.267) d-moll

Andante で、厚い書法で書かれている。ペダルつきチェンバロを想定して書かれたのではないかという説もある。

K.54 (L.241) a-moll

大学1年のときに人前で弾いた。 この K.54 は繰り返しが多いので、ペダルの掛け方や装飾音の入れ方をくり返しごとに違えるなどして工夫した。 また手の交差が頻繁に起こり、かつ、左手が右手より高い音を弾いてからすぐにまたいで低い音を弾く個所が多くあり、 その間の取り方に苦労した。

あるとき(1995年ころだろうか?)ある調律師さんの別荘に招かれた。ピアノが2台あった。 1台はベーゼンドルファー、もう1台は旧東ドイツ?かどこかの古風な音がするタイプだった。 好きなものを弾いてみてはといわれたので、 古風な音のほうでこのソナタを弾いてみた。ピアノがいいこともあって、 弾きながら一つ一つの音を確かめながら味わうことができた。

ということで昔はよく弾いていて、スカルラッティの曲を弾くように求められたときはこれを選んでいたが、 今はまったく弾けなくなった。


K.59 (L.71) F-dur

スカルラッティにしては稚拙な作りがする。特に前半の終結で短調で終わるとみせて長調で終わるのは、 個性というよりは技法の不慣れというべきだろう。どこがスカルラッティらしくて、 どこがスカルラッティらしくないのかを探求する意味では貴重な作品だ。


K.60 (L.13) g-moll

この曲を弾いて感じたことは K.59 と似ている。 まだスカルラッティの作品らしさが固まっていないような気がする。
演奏(www.youtube.com)


K.61 (L.xxx) a-moll

スカルラッティのソナタには珍しい、変奏曲形式である。計12小節の主題が提示されたあと、 主に装飾音符の付加によって変奏が加えられていく。 あまりスカルラッティらしさは見られない。


K.63 (L.84) G-dur

CAPRICCIO と題された陽気なソナタ。長調で始まるがナポリの六度を経て短調で終わる。 これはスカルラッティのソナタでは稀であり、類例は K.140しか知らない。


K.64 (L.58) d-moll

GAVOTTA という表題を持つ。速さは K.63 より気持ち遅めがいいだろう。 スカルラッティ固有の不協和音の導入として恰好のソナタだと思う。
演奏(www.youtube.com)

K.66 (L.496) B-dur

助走をつけて下降アルペジオで飛び込むのは、スカルラッティの他のソナタにもみられる。 両手による同音連打や3度平行音階なども楽しい。

K.67 (L.32) fis-moll

スカルラッティにしてはお堅い印象がある。非和声音がほとんどないアルペジオによる、 2声の厳格な対位法によるものだからだろうか。練習曲としてよいだろう。
演奏(www.youtube.com)

K.69 (L.382) f-moll

4声の対位法で始まるが、いつのまにかサビでは和音とアルペジオによる詠嘆に変化している。 不思議な魅力がある。 なお、冒頭は16分音符のアウフタクトだが、この音価ではせわしないので、 8分音符のアウフタクトでいいと思う。
演奏(www.youtube.com)


K.70 (L.50) B-dur

細かな音の動きはあるが単純明快で、しかも他のソナタに出現するパッセージも多く出てきているので、 入門用としてよい曲だと思う。原典版にも p と f が明示してあるが、 これは二段チェンバロを使うことを前提としているのではないか。
演奏(www.youtube.com)


K.71 (L.81) G-dur

比較的短い曲ながら、スカルラッティのエキスがところどころにちりばめられている。
演奏(www.youtube.com)

K.72 (L.401) C-dur

K67 よりさらに徹底していて、 冒頭5小節は右も左も C-dur のトニカの分散和音だけである。その後は非和声音も交えた旋律も出てくるが、 全体としてはアルペジオの練習曲風だ。

K.74 (L.94) A-dur

2音だけの同音連打と短い高速音階の練習曲。
演奏(www.youtube.com)

K.75 (L.53) G-dur

気分はメヌエットであるが、速度記号は Allegro なので少し速く弾くのがいい。 その場合、1拍めの3連符の末尾の音符と2拍めの音符の隔たりがうまくとれるよう、 指使いを工夫する必要がある。 音楽書法は少しスカルラッティから遠ざかっているようにみえる。
演奏(www.youtube.com) (2020-04-28)

K.76 (L.185) g-moll

繰り返される節回しはスカルラッティならではのものだ。二部形式のそれぞれの終結部は、 両手にわたる高速下降音階が披露される。

K.77 (L.168) d-moll

右手はヴァイオリンのメロディーのようで、左手は通奏低音のラインをなぞっている。 普通、スカルラッティのソナタは左手もよく動くから、これは過渡期の作品だろう。 K.78 と同じくメヌエットがついているが、K.78 のものよりは長い。

K.78 (L.75) F-dur

ジーグという表題がある 2/4 拍子だが、実際は1拍は3連符主体なので、6/8 拍子ととるべきだろう。 スカルラッティの中では一番易しい曲だが、いくら練習してもミスが出ていやになってしまう。 ミスが出てくるのは、右手に出てくる16分音符のパッセージおよびその前後(左手も含む)である。 おまけのようについているメヌエットは、ジーグよりもさらに易しい。しかし、 自分が練習したときは何度も間違えた。まったくいやになってしまう。 演奏(www.youtube.com) (2020-04-28)


K.80 (L.なし) G-dur

メヌエットという指示がある。 K.78 よりさらに易しいかもしれない。 それでもミスが出ていやになってしまうのは K.78 と同じである。 これは半音階の処理が私の思っている慣れと異なるからだろう。


K.84 (L.10) c-moll

速度記号の表示はないが、おそらく Allegro だろう。フラメンコを思わせるキビキビとしたリズムが楽しい。 スコット・ロスの全曲盤の解説では、実験的作品と評されている。

K.85 (L.166) G-dur

合奏協奏曲風の明るいソナタ。ヘンデルの合奏協奏曲 Op.3-1 などと比べてみるとおもしろいだろう。


K.86 (L.403) C-dur

シンコペーションが曲全体の駆動力となっている。


K.87 (L.33) h-moll

4声からなる繋留音の美しいソナタ。速度記号はないが Andante 程度でいいだろう。 この曲の右手部分は同じロ短調のバッハの平均律第1巻第24番の前奏曲につながるだろう。 また、やはり同じロ短調で、フォーレの夜想曲第13番の冒頭部や回帰部と比べてみるのもおもしろい。

K.88 (L.36) g-moll

就職してしばらくすると、ヴァイオリンを弾く同僚がいることがわかった。 その同僚と話をしていて、「スカルラッティのヴァイオリンソナタがあるんだけれど、一緒に弾かないか」 と誘いがかかった。そのソナタがこれだった。 K.88からK.91までは鍵盤楽器のみのソナタではなく、 通奏低音つき旋律楽器のソナタ(組曲)である。 同僚から借りたエアチェックテープを聞き取って楽譜に起こした。 しばらく練習していたのだが、お互い忙しくなってしまって 止めてしまった。めったにない機会だったので残念である。


K.90 (L.106) d-moll

拍子の異なる4部からなる組曲。当時のヴァイオリン協奏曲をほうふつとさせる。 難しくはないが、メロディーが鍵盤楽曲風ではないのでてこずるかもしれない。


K.91 (L.176) G-dur

拍子の異なる4部からなる組曲。やはり当時のヴァイオリン協奏曲をほうふつとさせる。 音数が少ないので易しいが、物足りなさも残る。 ヘンデルの合奏協奏曲風だから、弦楽合奏に編曲するともっと楽しいだろう。


K.92 (L.362) d-moll

付点音符が荘重な雰囲気を醸し出す。4声体で書かれているが、 ポリフォニックというよりはホモフォニックである。

K.93 (L.336) g-moll

ヘンデル風かつバッハインベンション風の無窮動。2声から4声のかけあいが楽しい。

K.94 (L.なし) F-dur

半音進行が怪しい魅力を放つ、ごく短いメヌエット。

K.95 (L.358) C-dur

伴奏形はハイドン以降の古典派を思わせる、手の交差の練習曲でもある。


K.96 (L.465) D-dur

冒頭の狩のホルン模倣音形、執拗な同音反復、短調と長調の頻繁な交代、左手の交差跳躍など、 スカルラッティの面目躍如という曲である。 冒頭のトリルが3度で重なり、5度で重なるところがあるが、これを三重トリルにしたら面白い。 ただ、左をうまく使わないといけない。誰か挑戦してみませんか。

K.97 (L.なし) g-moll

前曲とはえらい違いである。スコット・ロス全曲集の解説には、 「自信をもって偽作といえる」という意味のことが書いてある。 実際聞くと稚拙なので笑ってしまうほどだ。

K.98 (L.325) e-moll

サビに出てくる両手による3度が印象的だ。

K.99 (L.317) c-moll

ときどき聞こえる旋法的な響き(旋律的短音階の上行形を下降形でも用いる)と、 右手の分散和音を乗り越えて左手が奏する高音部の流れに特徴がある。 終止は Am のトライアドがすべてなっている。これはスカルラッティのソナタとしては珍しい。

K.100 (L.355) C-dur

さらさらと流れる12/8拍子が、音階や分散和音となり、彩を添える。 とはいっても、左手が右手を乗り越える交差と右手の3度の重音が頻出するので練習が必要。

K.101 (L.494) A-dur

繰り返しが多いが、突然素早いアルペジオや音階が割り込んでくるので侮れない。

K.102 (L.89) g-moll

音域は狭く、また繰り返しも多いので弾きやすい。とはいえ、私の演奏はミスが多い。
演奏(www.youtube.com)

K.103 (L.233) G-dur

比較的弾きやすいが、下降音階の素早い動きを拍の中に収めるようにするのがポイントだ。

K.104 (L.442) G-dur

スカルラッティの 3/8 拍子のソナタの典型。右と左のトッカータ風の連打、右手を超える交差を含む左手の敏速な跳躍など、 技巧が盛りだくさんである。


K.105 (L.204) G-dur

スカルラッティの曲の中における難易度は中間であろう。極端な難しさはないが、非和声音の連打、 オクターブの進行、トリルの挿入、オクターブを超える跳躍など、 スカルラッティならではの技巧が盛り込まれている。

K.106 (L.437) F-dur

1拍に三連符と普通の16音符の4連符が混在する(ただし同時には弾かない)、 面白い曲。左手の跳躍もあるが、 右手でとるずるい方法もある。速くないので左手の跳躍の練習と割り切る手もある。
演奏(www.youtube.com)


K.107 (L.474) F-dur

16 分音符主体の 3/8 拍子と思いきや、32分音符からなるパッセージが怒涛のようにおし寄せる。 3度重音も連続するのでかなりの練習が必要だ。


K.108 (L.249) g-moll

オクターブの同時打鍵と指移動、そして左手の交差、3度と6度の音階などが絶えず要求される。 ただそれほど速さは必要ないので、落ち着くことが第一だ。


K.109 (L.188) a-moll

Adagio の指定と合わせて、技術的に難しいところはあまりない。 トリルを正確に入れること、右手と左手の三連符を合わせること、 ゆっくりとした左手と右手の交替をきちんととることなどに気を付ければ、 スカルラッティの入門編としてよいのではないか。


K.113 (L.345) A-dur

スカルラッティのソナタの中で、よく取り上げられる。 左手が頻繁に跳躍する楽しさは、スカルラッティ一流の芸である。 私も好きで何度も練習しているが、 なかなか上達しない。
演奏(www.youtube.com)


K.114 (L.344) A-dur

低音の付点音符によるリズムカルな動きを経て、左手の和音連打+右手の細かな動きが現れる。 ときに数小節にもわたるトレモロが出てきたり、ヘミオラのトリルが出てきたりで聴く側は翻弄される。


K.118 (L.122) D-dur

Non Presto という表示は珍しい。冒頭の両手3度による印象的な下降音階に続いて、 トリルの連続で音階を奏する旋律がこの曲の特徴だ。左手による手の交差も現れる。


K.119 (L.415) D-dur

スカルラッティの面目躍如という作品。奔放な跳躍、同音連打の嵐、高速な手の交差、 音数が増していく不協和音のクラスターなど、魅力満載、かつ演奏の至難な曲である。


K.123 (L.111) Es-dur

どこかおとぼけの表情があるおおらかなソナタ。 後半にはしゃれた短調がある。もちろん、オクターブ以上の跳躍もあるから気は抜けない。


K.124 (L.232) G-dur

3拍子に3連符が組み合わされたリズムが支配する。右手もメロディーを奏するのでけっこう難しい。


K.125 (L.487) G-dur

3拍子で軽やかに駆け抜けていく爽快なソナタ。3度のバッテリーが右手左手どちらにも現れる。 同じト長調であるK.427 の3拍子版というところだろうか。


K.126 (L.402) c-moll

スペイン色の濃厚なソナタ。下降アルペジオと右手の3度および6度の重音が異国情緒を醸し出す。


K.127 (L.186) As-dur

1980年代だろうか、ある友人が「ホロヴィッツ復活コンサートを見てたら、 スカルラッティの曲いくつかやっとったよな。何か弾ける?」と尋ねてきた。 私も同じコンサートを見ていたのだが、 何か弾けるものがあるやら、ちょっと考えてこの変イ長調のを弾いてみた。われながらよく弾けたのは、 やはりホロヴィッツというおまじないがあったからに違いない。

そのときはうまく弾けたつもりだったが、今はよれている。
演奏(www.youtube.com)


K.128 (L.296) b-moll

前の K.127 と冒頭が瓜二つだが、こちらは短調だ。装飾音、特に前打音が頻出する。


K.132 (L.457) C-dur

速度記号はなく、Cantabile とのみついている。 スカルラッティの作品で Cantabile と名前がついているソナタは、 たいてい伸びやかで、しなやかで、好きにならずにはいられない曲ばかりだ。 この曲もそうだ。そして、単に伸びやかなだけでなく、 和声の推移部に緊張度の高い音を取り入れたり、 トリルを長くのばしたりと、遊び心も満載である。


K.140 (L.107) ニ長調 D-dur

スカルラッティのソナタの中ではK.175 についで難度が高い。 至難な部類に入る。3度の連続に加えて6度の連続が苦しく、 左手の跳躍に続いて右手の跳躍が連続で入る。 末尾は短調で終わる。このような曲は K.63 と同じで、スカルラッティの曲では稀な部類に入る。


K.141 (L.422) ニ短調 d-moll

同音連打と不協和音から始まるこの曲は「トッカータ」の別称があるほどスカルラッティのなかでも五指に入る有名曲で、 ピアノリサイタルのアンコールなどにもってこいだ。 左手の跳躍も練習しないといけない。 アルヘリッチは、目にもとまらぬ速さで弾いている。

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1148068596

というページでスカルラッティ K.141に似ている曲を探している方がいる。 その割には注文があって連打はあまりはいらない方がうれしいとか、 増3和音がないほうがうれしいということを言っている。

対してある回答者は次のようにあげている

上記の回答曲のうち、シューマンの2曲はきらいで、あとは好きだ。 だが、似ているという思い方が違うのだろう。

私などは、この K.141 から連打をとったら魅力が半減すると思うのでいい答がない。 似ているというだけなら冒頭のニ音の連打と盛り上がりという点だけでプロコフィエフのトッカータを挙げる。


K.146(L.349) G-dur

メヌエット風の歩みに高速なアルペジオと両手でとるトリルが挟まれ、小粋な印象を与える。


K.147(L.376) e-moll

最初は4声の厚い対位法だが、いつのまにやら左手が跳躍を伴うアルペジオになり、 その後16分音符の細かな動きが導入され活気を帯びる。


K.148(L.64) a-moll

静かな出だしに印象的な付点のリズムがアクセントを添える。 この付点リズムは曲の終わりまで、あるときは執拗に、あるときは忘れられた時にそっと、奏でられる。


K.149(L.149) a-moll

メロディーも伴奏も、ヴィヴァルディの「調和の幻想」に出てきそうな曲である。 また、ところどころ出てくる。同音連打が印象的だ。一種のトッカータといってもいいかもしれない。

K.159(L.104) ハ長調 C-dur

NHK「ピアノのおけいこ」にあった曲の一つ。ハ長調、6/8拍子のこれぞスカルラッティという曲である。 スカルラッティなど目もくれないような大曲難曲びしばし弾きまくり野郎でも、 この曲を知っているということがよくあった。

この間、(1998年夏)ひさしぶりにピアノ独奏を人前でしたときに、この曲を最初に持って来た。 さほどいい出来ではなかったが、弾き終わったら拍手がきた。これほど安心したことはなかった。

どういうわけか、この曲を練習しているとブルグミュラー25の練習曲の「舟歌」を思い出す。 6/8拍子であること、右手が歌って左手が伴奏をすること、その伴奏でSUS4があったこと、 それぐらいしか共通項がないのだが、なぜなのだろう。

なお、この曲を短調にしてさらに豊かに展開した曲に、K.444(ニ短調) がある。ぜひともチャレンジしてほしい。

K.162(L.21) ホ長調 E-dur

落ち着いたメヌエット風の導入から、4拍子の快活でリズミカルな楽想が躍動する。

K.173(L.447) h-moll

何気ない導入から3度の重音を経てカノン風の推移部が美しい。私の好きな曲だ。

K.175(L.429) a-moll

スカルラッティのなかで5指に数えられる難曲であるとともに、 不協和音の魅力がたまらない一曲。のっけからAmに11の音である D が加えられ、 2小節めではAm9, E7 11が来る。そのあと、 テンションノートがあちこちで挿入される経過句に驚いたあと、 今度はトニックとドミナントのみの明るい踊りの音楽に変わる。この踊りは、 左手の跳躍が3オクターブ近くあり、難儀である。 このあたりは楽譜と MIDI で体感してもらいたい。

K.179 (L.177) g-moll

スカルラッティの 3/8 拍子のソナタにみられる典型である。 ただ、他のソナタより動きは激しくなく、また短めなので、入門用としてはよいと思う。


K.180 (L.272) G-dur

明るく爽やかなソナタ。左手の2オクターブ跳躍など、控えめではあるが技巧も必要。


K.181 (L.194) A-dur

左の不協和音が控え目だが特徴的に使われている。装飾音も効果的。


K.182 (L.139) A-dur

比較的音数は少ないが動きが楽しめる。左手と右手の連携が頻出する。


K.183 (L.473) f-moll

2声の対位法のように始まるが右手の鋭いトリルが出てきて、右手と左手の六度が印象的なフレーズに至る。 このフレーズは、どこかチェルニー40番練習曲(Op.299)の21番を思い出させる。


K.184 (L.189) f-moll

ホロヴィッツ命の先輩が私に向かって「何かスカルラッティ弾いて」というのだった。 私がもじもじしていると、先輩はこれを弾き出した。それまで聞いたことのない曲だったが、 出だしから「あー、これいい」とうなってしまった。 スカルラッティの曲の中ではさして緻密ではないだろう。しかし、好きなものは好きである。 後半など、どこか胸がキュンとなってしまう。なぜなのだろう。

ほかに胸がキュンとする曲にK.448がある。


K.201 (L.129) G-dur

威勢のいい曲。右手の動きのあるテーマが次々と繰り出され、それらのテーマのほとんどを左手がエコーとして受け止めるという、 おもしろい構成だ。


K.203 (L.380) e-moll

冒頭は何気ないトリルと大きなアルペジオの組み合わせから始まるが、3声で流れる下降音型を経て、 驚愕のヘミオラに至る。これだけではなく他にも多くの要素が現われるこの曲は、 もっと知られてよいと思う。もっとも、 怪しいスカルラッティ本はこの曲について大胆な意見を述べているがここでは割愛。


K.208 (L.238) A-dur

モデラート以下の遅さのスカルラッティの曲は全体の 1/5 以下だろうが、 その中にあってこの曲はよく知られている。メロディーは息が長いが音符は細かく、 歌のメリスマという感じがする。


K.209 (L.428) A-dur

スペインの踊りという気分が横溢する。 63 小節のアウフタクトからのリズムは聞くだけでは少し混乱してしまうのは私だけだろうか。


K.211 (L.133) A-dur

落ち着いた出だしだが左手の跳躍アルペジオに続き、トッカータ風の同音連打が接続される、 少し分裂した感じを楽しむ曲だ。


K.212 (L.135) A-dur

音階の上下動と6度のトレモロ(バッテリー)からなる滑らかな個所から左と右が協力するオクターブ音型が楽しい。 後半は和声学に違反した進行が随所に出てくる。


K.213 (L.108) d-moll

スカルラッティのソナタの中でも、おセンチな部類に入るだろう。 スコット・ロスの全曲盤の解説では、 スカルラッティソナタの全曲ラジオ放送をロスがしていたときのテーマ曲がこれだったという。 タイによるシンコペーションが、後をずるずる引く感情につながるのだろうかと邪推する。


K.214 (L.165) D-dur

いきなり主和音のアルペジオで降り来るのは、スカルラッティの得意技。 その後はトリルをちりばめながらダイナミックな動きへと向かう。終結部は K.159 と類似している。


K.225 (L.351) C-dur

バッハの2声のインベンション風第5番(ホ長調)のリズムを思わせるはじまりだが、 その後の細かな動きは舞曲のようでもある。


K.238 (L.27) f-moll

付点音符主体からなるこの曲は、少しいかつい印象を受ける。しかし、 3度や6度が平行して動く付点のリズムは、いかつい中にもはにかんだ印象を受ける。 なお、冒頭は「ミラシド」である。


K.246 (L.260) cis-moll

たえず滑らかに動くが、どことなく静かな感じを受けるのは気のせいだろうか。 それとも、次の曲と比べると繰り出される筋がおとなしめだからだろうか。

K.247 (L.256) cis-moll

前に引き続き、嬰ハ短調のこの曲は、静かな中に動きを表現した名品である。 意想外の転調のあと、爆発するかのようなアルペジオが突然現れ、テーマが再現される。


K.259 (L.103) G-dur

優雅なメヌエット。冒頭のメロディーが打ち捨てられるのは他の曲と同様。 途中のメロディーが美しく浮かび上がる。ハンス・フォン・ビューローが校訂という名目の編曲をしたことでも知られる。


K.263 (L.321) e-moll

最初はおとなしくカノンで始まるが、直に16音符のパッセージが曲全体を占めるようになる。 この 16 分音符のパッセージが Andante で引き立つように、最初のテンポを決めたい。

K.264 (L.466) E-dur

中間部でテンションが入った和音が打ちならされるようすは、いかにもスペインという感じがする。


K.299 (L.210) D-dur

スカルラッティのソナタの中で、最難曲である。最高19度の跳躍、 3度から6度を含む重音など、現代のピアニストを震撼させる。 この曲は、純粋に技巧を楽しむためにできている。


K.309 (L.454) C-dur

見通しのよい、すっきりしたソナタ。速度さえ問わなければ初級者にも向いている。 トリルをうまく入れるのがポイント。


K.318 (L.31) Fis-dur

次の曲と並んで嬰へ長調という、スカルラッティには珍しい調性だ。 前半は耳に心地よく、後半は意外な転調とリズムの交錯が楽しい。


K.319 (L.35) Fis-dur

嬰へ長調という、スカルラッティには珍しい調性だ。 この黒鍵主体の調性でかつ音階が主なフレーズの中心になっている。 途中で高速な音階が出てくるが、黒鍵が多いということで指には優しい曲である。


K.322 (L.483) A-dur

少しかわいらしく登場するが、8分音符*2+4分音符が現われて、 音楽が流れていく。この音型は、 原博の24の前奏曲とフーガから第7番の前奏曲につながっているようだ。


K.366 (L.110) F-dur

人懐こいソナタだが、同音連打や6度重音、オクターブのトレモロなど、技巧に長けた人でないと足をすくわれる。


K.367 (L.172) F-dur

音階とアルペジオの練習曲、といってしまえばそれまでだが、スカルラッティの曲だとなぜか楽しくなる。 右手と左手で反行する音階の組み合わせは他のスカルラッティの曲(例:K.461)でも多くみられる。


K.380 (L.23) E-dur

スカルラッティのソナタとくれば筆頭に来るのがこれ。ホ長調、3/4拍子で典雅に流れる。 疾風怒濤系のソナタとは違う味がある。

スカルラッティのページを掲げているくせに、 この曲も弾けないのでは情けないと私はつねづね考えていた。、 そこにある機会があってこの曲の練習を始めた。 学生時代からの友人 KOIKE 総統が、 イタリアレストランでピアノを弾くという。まるやまもついでに弾け、という命令である。 何を弾いたらよいか少し迷ったが、 スカルラッティはイタリアで生まれ育ったから、別にかまわんのではないかと思ったのである。 私が弾いた結果は、酒のせいもあり 多少もつれたものの「やっぱりこの転調はいいなあ」という、ごく当たり前なものだった。

K.381 (L.225) E-dur

カークパトリックによれば、この一つ前のソナタと一対になっている。 したがって、前の有名な曲の後で、 この疾風怒涛系のアレグロと対比させるといいだろう。 アルペジオと音階、わずかなヘミオラ、気まぐれな転調など、 スカルラッティの魅力が溢れている。


K.394 (L.275) e-moll

前半は特に特徴がないが、後半いきなり右手によるアルペジオがカデンツァ風に挿入される。 そのあと、スカルラッティ固有の「ズンズン進行」により転調が繰り返されたのち、 最後は前半で披露されたサビが再現する。


K.395 (L.65) E-dur

冒頭は左手の音階練習から始まり、3度のバッテリーと重音奏法で盛り上げる。


K.402 (L.427) e-moll

スカルラッティの音楽の典型。特に、とつぜんの転調が効果的だ。


K.403 (L.470) E-dur

6/8拍子でアルペジオがよく動く。左手が最低音を打ってジャンプしたあとの両手のアルペジオが印象的だ。


K.405 (L.470) A-dur

K. 525 と流れがよく似ているが、K.525 とは違い「爆弾」はない。 全体的にさらさらと流れる弾き心地のいい作品だが、後半には手ごわい転調が控えている。


K.415 (L.S. 11) D-dur

PASTORALE(パストラーレ、牧歌) と名前がついた曲だが、K.446K.513など、 他のパストラーレに比べるとあまり知られていない。 左手が拍の頭を打ち、右手が残りの拍を埋めるという単純なリズムで前半は構成されている。 後半の初めは左手と右手の役割が交替するが、その後は前半と同様の役割に戻る。


K.417 (L.462) d-moll

スカルラッティのなかでは K.30 などとならぶ、数少ないフーガ。末尾近くなって、 バッハの平均律第1番ロ短調のフーガの回遊部と同じフレーズとコード進行が出てくる。 単なる偶然だろう。なお、楽譜の拍子は C| (Cに縦線)であるが、4/2 拍子である。 また、短調で始まるが長調で終わる、ピカルディーの長3度が現れるのが、スカルラッティにして珍しい。


K.420 (L.S.2) C-dur

冒頭のリズムがしばらく続くと、3度のバッテリー上昇音型+休符を長くとった合いの手が入る。


K.421 (L.252) C-dur

ほとんどが同音連打のバリエーションである。トッカータを練習する前に、 この曲で事前準備をするのがいいかもしれない。


K.426 (L.128) g-moll

全体的に少し陰鬱な印象がある。後半の転調が心に響く。


K.427 (L.286) G-dur

アンドラーシュ・シフの来日初公演のアンコールをラジオで聞いていて、 そのなかの一つがスカルラッティのこのト長調ソナタだった。1980年頃だろうか。 それ以来病み付きになっている。 これが弾きたくて小田急町田店の楽譜売り場で春秋社のスカルラッティ集を探したのだった。 運良くこの曲が載っていたので買ってきてそれから練習しているけれど、一向にうまくならない。 特に、速いパッセージが続いていく中、いきなり割り込む和音、 まさにパンパカパーンと聞こえるあの和音がかっこいいのだけれど、 いざ自分で弾いてみると決まらない。

大学に入り、あるピアノサークルに入ったときの話。歓迎会に出てみると 上級生がピアノで何か弾けという。覚悟を決めた。
最初「踏み切りの警報」と称してAとBの短二度を同時に数回叩いてみた。思いのほか受けたようだった。 次に「救急車のサイレン」と称してAとBの短二度とFとGesの短二度を交互に数回叩き、 その後この交互の音をそれぞれ半音ずつ下げて叩いた。 叩き終わって「今のがドップラー効果です」としゃべったらこれも受けたようだった。 その後でおもむろにこのK.427を弾いたのだが、こちらは感心していないようだった。
その証拠に、未だに「踏み切りと救急車」のことは覚えてくれる先輩や同輩はいるのだが、 スカルラッティの話を出す人はいない。そして、私が入った年の新人名簿には、各自が弾いた曲の名前が 必ず記されていたのに、私の分だけ、それがない。

露出系ピアニストのユジャ・ワンも、この曲を取り上げている(2020-04-06)。

K.430 (L.463) D-dur

かわいらしいバレーの音楽。リズムはほぼ一定で、エコーのような合いの手がおもしろい。


K.431 (L.83) G-dur

スカルラッティのソナタの中でもっとも演奏時間が短い。前半8小節、後半8小節の計16小節しかない。 おそらく、♩ = 120 程度と仮定すると、繰り返しなしで 24 秒しかからない。 難しくはないが、音の跳躍もあるので甘く見てはならない。


K.432 (L.288) G-dur

セルジオ・オダイルのアサド兄弟によるギターによる演奏を FM 放送のライブで昔聞いて、 そのセンスに驚いたことがある。 CD で出ているかどうかわからないが、あるのなら手に入れてぜひとも聞いてみたい、と思っていた。

その後、やはり出てきたので聞いた。やはりすごい。

大学1年のとき人前で弾いた。ト長調、3/4拍子の無窮動である。いきなり音が飛ぶところもあり、 そこは弾きにくい。


K.435 (L.361) D-dur

同音連打のもっとも激しいソナタは K.141 であろう。この曲は 同音連打の様々なバリエーションが楽しめる。2回連打、3回連打、4回連打、 そして7回連打が、どのように使われているか、ぜひとも弾いてみてほしい。 後半では同音連打の進行がモーツァルトの「魔笛」序曲の入りを思い出させる。


K.436 (L.109) D-dur

冒頭の3度と6度でせりあがって、楽しい3拍子の踊りが繰り広げられる。 ベートーヴェンの「エリーゼのために」で出てくるDis-Eのトリルが、 ここでは上下に分散して現れる。その後のリズムはいかにもスペイン音楽風だ。 ニ長調の楽しい 3/8 拍子の代表だろう。 スペイン色豊かな3拍子だが、これより難しいソナタは K.96 だろう。


K.437 (L.278) F-dur

バッハのテーマに見られる、下降と同音連打のモチーフが、 ここでは明るく落ち着いて処理されている。


K.444 (L.420) d-moll

スカルラッティからかっこいいソナタを挙げればそのうちの十指に入る。 6/8 拍子の特性を十全に生かした滑走するリズムと、 同主調で頻繁に転調する緊張感の高さを、ぜひとも弾いて体験してほしい。 有名なハ長調の K.159 をさらっておくと、この曲が弾きやすくなると思う。 なお、この曲は短調で始まるが長調で終結する。 このような例はスカルラッティでは珍しく、現在調査している。 長調が短調で終わるソナタは、私の調査では、 K.63 G-durと、 K.140 D-durの2曲がある。


K.445 (L.385) F-dur

スカルラッティの手癖である、3度分散の上りで幕を開ける(K.4 も参照。)。 下りはモーツァルトのピアノソナタイ短調K.331の中間部を想起させるが、スカルラッティの扱いは徹底して乾いている。


K.446 (L.433) F-dur

K.513と同様、 パストラーレ(Pastorale、牧歌)という名前がついている。 ソナタの中では有名な一品。 ゆるやかで全体にのんびりした雰囲気であるが、左手は2オクターブ音が飛ぶ箇所があるし、 トリルの入れ方も巧拙が出るこわい曲でもある。


K.447 (L.294) fis-moll

最初のメロディーが、低音部のシンコペーションを伴って提示されるが、 実はその先に出てくる右左による3度+2オクターブ跳躍と 右だけの3度のトリルが主眼である。 この曲の3度トリルを取り出してさらに昇華させたのが、 後のショパンの練習曲Op.25-6であろう。(2005-02-20)

K.448 (L.485) fis-moll

K. 184とともに胸がキュンとなる一曲。 小節いっぱいの主音と減七の分散和音も印象深いが、 低音の下降音階に載る付点音符になぜか胸が締め付けられる。 後半の転調も緊張感に満ちている。(2005-02-20)

K.450 (L.338) g-moll

スコット・ロスの全曲録音版によれば、一種のタンゴとある。 カークパトリックの研究本では、 後のラフマニノフ前奏曲ト短調に通じるものがあるという。 いずれにせよ、リズムのしつこい追求には脱帽である。 (2005-02-20)

K.451 (L.243) a-moll

分散和音を基調にしたカノンで始まるが、後半は音階によるカノンも出てくる。 指の独立性が要求される、流麗な作品である。 (2005-02-20)


K.454 (L.184) G-dur

伸びやかな出だし、K.380 を思わせるリズムの歩み、 急に出てくる音階や分散和音など、ゆっくりしたなかにスカルラッティの魅力があふれている。


K.455 (L.209) G-dur

この曲を聞くと、朝早くから鳴き出す鶏を思い出す。 どうしてかはわからない。 同音連打の勢いが楽しい。


K.456 (L.491) A-dur

無名ではあるがどういうわけか好きな曲というのが皆さんにもあるだろう。 私にもある。 そして、スカルラッティはそのような無名だけれど好きになってしまう曲が多くある。 この曲など、その典型だ。開始部のテーマは打ち捨てられて、 印象に残るサビの部分が繰り返されること、 後半はスカルラッティの手癖だけで勝手に転調することなど、 スカルラッティの典型的な様式といえる。そして、曲を練習する度に思うのは、 音階も和音も実によくはまっているということだ。 一オクターブに(古典的な)音階の音が7つになっていることさえ、 スカルラッティの発明のように聞こえる。そのくせ、手癖なのか、頭脳による意図なのかわからない、 前半と後半のずれに悩むところがある。 サビの部分、前半では左手の短調の下降音階が和声的全音階のみであるのに対し、 後半では短調の下降音階が和声的全音階と旋律的全音階を交互に使い分けている。 この意味があるのか、よくわからない。 それから、ドミナントにセブンスが入ったり入らなかったりするのも悩ましいことでもあり、 また面白いことでもある。 もう少し、詳しく調べてみた結果もある。


K.460 (L.324) C-dur

クレメンティのソナチネアルバムを思い出させるリズムから始まるが、あとはどんどん難しくなる。 前半に多くのフレーズが出てくるが、 後半に出てくる要素は一部である。それでも、分散オクターブのアルペジオ、シンコペーション、音の跳躍など、 スカルラッティの刻印があちこちある。難度は高いほうに属する。


K.461 (L.8) C-dur

前半は、右手の上昇音階と左手の下降音階が同時に奏されるパッセージが主体である。 後半は規模が大きくなり、低音のアルベルティバスと高音の複数連打によって和声の移り変わりが中心となるが、 後に前半の要素も復帰する。技術的には、先に挙げた音階の粒をそろえることが鍵だろう。


K.466 (L.118) f-moll

抒情的なソナタ。スカルラッティは、このようなソナタも多くある。 ただし、途中で現れるクロスリズムはスカルラッティにしては珍しい。 ここでいうクロスリズムとは、四分音符分の1拍に、八分音符2個と三連音符3個が同時に奏される技法で、 リズムをあれだけ操ったスカルラッティがクロスリズムをなぜこの曲だけに採用したのか、 なぜほかの曲に採用しなかったのかは謎である。


K.467 (L.476) f-moll

サビの部分は、前後を含めて、和声的短音階や3拍目に変化のあるフレーズの繰り返しが頻繁に現れ、 強迫観念が生じる。


K.468 (L.226) F-dur

ダグテュロスのリズムとオクターブを交えたバッテリー、急激なグリッサンドに近い音階など、 音の運動を楽しむ作品だ。

K.469 (L.431) F-dur

分散和音を主体としているためか、乾いた印象がある。右手に出てくるオクターブのバッテリーには要注意。


K.470 (L.304) G-dur

長調と短調の交替を経て、空虚5度上での勇壮なメロディーや、 ベース音下降を伴う8分音符の定型音程の繰り返しなど、 いろいろな要素が盛り込まれている。


K.471 (L.82) G-dur

速度記号はなく、代わりに Menuet という表示がある。踊りの感覚で弾けばよい。 途中の三連符は急がずに落ち着いて。唯一の難関が左手と右手の交差だが、 速度はそれほどでもないので練習すれば克服できるだろう。


K.474 (L.203) Es-dur

優美な3拍子に、ときどきはさまれる32分音符が風味を添える。


K.475 (L.220) Es-dur

休符をはさんだ上昇音型や7度のバッテリー、延々と続く3連符の音階が楽しい。


K.478 (L.12) D-dur

前打音を含んだアルペジオがあちこちで登場するところに特徴がある。


K.479 (L.S.16) D-dur

多くの素材がどんどん出てくるおもちゃ箱のような作品。


K.485 (L.153) C-dur

3連符のゆったりしたあゆみのまま、6度やオクターブの重音が披露され、高速音階が締める。


K.486 (L.455) C-dur

遅い同音連打と速い同音連打の対比がとぼけた味わいを出している。

K.487 (L.205) C-dur

大学1年のとき人前で弾いた。ハ長調、3/8拍子で転調の妙と左手オクターブの跳躍が聞き所。 左手オクターブ12度の跳躍はうまく決めないと恥ずかしい。最後のグリッサンドで締めるあたり、 スカルラッティはよく考えている。あるいは即興だからこそできた技かな。 カークパトリックは、この曲はハ長調以外には考えられないといっている。


K.490 (L.206) D-dur

付点音符を含むゆったりとした歌に急速な音階が添えられ、趣のある舞曲が奏でられる。 テンポは、急速な音階が拍に収まる程度に定めるのがいいだろう。 この曲と次の2曲を合わせた3曲を一緒にすると演奏効果がより高まるとカークパトリックは言っている。 私も同感である。


K.491 (L.164) D-dur

K.490 と K.492 の間にあるこの曲はきびきびとした3拍子が小気味よい。 技術としては右手の3度重音と、右手左手ともに見られる幅の広いアルペジオが克服すべき壁であろう。


K.492 (L.14) D-dur

K.490 と K.491 を受けた最後のこの曲は快速なプレストが似合う。 この曲も高速音階が出てくるので、テンポはこの音階が収まるように選ぶこと。 特に音階の冒頭は休符があるので意識すること。


K.493 (L.S.24) G-dur

行進曲風で、ときどき現れる付点音符が全体を引き締めている。2音の連打音と2オクターブ跳躍が、 技術的な難所である。


K.494 (L.287) G-dur

左手の平行三度が上行と下行をくり返しながら右手が合いの手を売ったり、アルべジオで降りてきたりする。 いつの間にか左手は短調になったり6度になったり、後半でいきなり転調したり、まったく不思議な曲である。 弾くのは例によって難しい。平行3度や平行6度の練習はもちろん、トリルの入れ方、2オクターブの跳躍など、 難関が多い。
演奏(www.youtube.com)


K.497 (L.146) h-moll

同音連打はスカルラッティの得意技だが、ここでは短音の連打のあとオクターブトレモロで繰り返しているのがおもしろい。

K.498 (L.146) h-moll

冒頭のアルペジオからヘミオラの軽いジャブがあり、しばらくすると出てくる3度と6度の重音が楽しい。

K.499 (L.193) A-dur

明るいマーチ。細かな動きは主にアルペジオの三連符が担う。

K.500 (L.492) A-dur

サビの三度音階の繰り返しが、踊りを盛り上げているようだ。

K.511 (L.314) D-dur

スカルラッティの奔放な面がよく出た一曲。疾走する8分音符のパッセージが心地よい。 後半は意表を突く転調が続き、疾走に低音部で再現するがこれに対する高音の合いの手が前半と微妙に違うのがまたおもしろい。 私の好きな曲。

K.512 (L.339) D-dur

サビで短調がふと出てくるところが印象的。それほど難しくはない。

K.513 (L.S.3) C-dur

K.415K.446 と同じように、パストラーレという表題が与えられている。 この標題が表すように、最初はゆったりと、流れるようなリズムで始まる。 そののち、Molto allegro で速くなり、活気が生まれる。後半は Presto となり、拍子も 3/8 と切迫し、 完全な運動系となる。


K.516 (L.S.12) d-moll

拍の頭に置かれたトリルが前半では頻出するが後半は影を潜め、そのかわりに和声の移り変わりが支配する。 速度の遅い同音連打が出てくるので注意。


K.517 (L.266) d-moll

冒頭からは高速音階が、そしてサビではアルベルティ・バスが主役を担う。 下降音型を支配する、8度-3度のバッテリーは、スカルラッティの他の作品、 例えば K.427 でも多用されている。


K.518 (L.116) F-dur

さまざまなテーマが並置され、それぞれの特徴が生かしあう名曲。技術的には他のスカルラッティの曲と同じ程度だが、 左手の倚音を伴うオクターブ跳躍がやりにくいかもしれない。


K.519 (L.475) f-moll

ベース音が持続して打ちならされ踊りのエネルギーが高まるという趣がある。 長調への転調が効果的。技術的には中程度の難しさだ。右手で割り込まれる32分音符と、 左手の幅広い減7のアルペジオ+オクターブ音階がポイントとなる。


K.525 (L.188) F-dur

昔 FM ラジオで、セルジオ・オダイルのアサド兄弟による、 スカルラッティのギター演奏が3曲放送された。 2曲は確実に覚えているのだが、3曲めがはっきりしない。 たぶん、これだったような気がする。 カノンが続く中で、いきなりの高音部と低音部に飛ぶ和音が楽しい。 最近人気の漫画「のだめカンタービレ」の第11巻で、 主人公の野田恵(のだめ)が初見で苦労している曲でもある。 (2005-02-20 記)

そういえば、 未音亭日記(plaza.rakuten.co.jp)の、 よく聞くと、どこか似ているかも? という記事に、この曲(K.525)が、ベートーヴェンの交響曲第7番イ長調の第3楽章(スケルツォ)に似ている、 情報を見つけた。未音亭日記のご主人がどの本でこの情報を得たかは定かではないが、 私も言われてあっと気づいた。お恥ずかしい。 ついでに、この音型はスカルラッティのお気に入りと見えて、 イ長調のソナタ K.405 でも冒頭から出てくる。

K.527 (L.458) C-dur

簡素な書法で書かれているが、サビで、あと打ちの三度のトリルがわさびのように効く。


K.531 (L.430) E-dur

前半はアルペジオで降りてくる形だが、途中でスカルラッティの手癖ともいえる音型が頻出する。 後半ではこの音型で転調が繰り返され、風景が変わっていく。スカルラッティの魔法が味わえる。

K.532 (L.223) a-moll

右手メロディーが同じ音型を繰り返すのに対し、中声の音が変わったり、バスが音階に変わったりと、 スカルラッティの奔放さにあふれた曲。途中でヘミオラが繰り出されるのも面白い。

K.533 (L.395) A-dur

スカルラッティにしては平凡だが、その平凡さが私の心を虜にする。好きな曲だ。

K.537 (L.293) A-dur

冒頭の下降アルペジオの後のヘミオラが、 3拍子に4拍子を埋め込む珍しいヘミオラだ。 技術的には、右手の三度重音や六度重音が難しい。


K.544 (L.497) B-dur

K.545 の前に置いて組で演奏すると両者の美質がより映えると思う。 技術的には難しいところはないが、トリルを正確に入れるとことと、4声の独立を保つことが肝要である。 私の演奏は例によって粗雑である。
演奏 (www.youtube.com)


K.545 (L.500) B-dur

スコット・ロスの全曲演奏版を買って聴いてみたなかで、気に入ったのがこの曲。 明けても暮れてもこの曲を弾きたいと思っていた。 春秋社版にはなかったが、カークパトリック版に載っていることに気がつき、 楽譜を買ってけっこう練習した。 会社の先輩(男性)の結婚式でこの曲を弾くことにした。弾く前に前口上を述べた。 「新郎の趣味はお馬さんときいております。お馬さんのように疾走する曲を聴いてみて下さい。」
後に新郎から聞いたのだが、「嫁さんや嫁さんの家族には競馬をやっていることを内証にしていたんだけど、 あれでばれて、みんなにいやな顔をされたよ。もう、なんともないけれどね。」

それから数十年後に弾いてみた。当時もいいかげんだったが、今は更にまとまりに欠ける演奏になった。 楽譜は、カークパトリックが校訂した版を用いている。注意すべき2点について述べる。

第1点めは、カークパトリック版では、8小節第1拍が f-g-es-a となっていて、 10小節第1拍の f-g-f-a と異なるということである。 ギルバート版は、どちらも f-g-f-a である。ロンゴ版はどちらも f-g-es-a である。 なお、ファディーニ版はまだ見ていない。
演奏はどうかというと、YouTube などにアップロードされている演奏はすべて8小節第1拍も f-g-f-a である。 スコット・ロスの全曲盤演奏も同様である。ただし、 おもしろいことにカークパトリック自身の演奏はどちらも f-g-es-a である。

第2点めは、ロンゴ版では、カークパトリック版における第14小節と第18小節が脱落している、 ということである。これはカークパトリック版の指摘による(ギルバート版は脱落なし。ファディーニ版は見ていない)。 YouTube ではロンゴ版によるものがあるので注意されたし。

演奏(www.youtube.com)


K.546 (L.312) g-moll

冒頭、3連符+2拍のパターンがサビの部分でも繰り返し(くどいぐらい)登場する。 乾いた悲しさがある。

K.547 (L.S.28) G-dur

導入部のあと、左と右とがかみ合った8分音符の動きが面白い。 前半、後半の終結分は K.545 と酷似している。


K.550 (L.S.42) B-dur

線的書法による簡素なソナタ。両手の三度はきれいに入れたい。


K.551 (L.396) B-dur

冒頭の2小節+3小節でのフレージング、2オクターブの順次跳躍、六度重音、 急速なアルペジオ、付点を伴うトリル、ヘミオラなどが前半に現われ、後半はさらに手慣れなズンズン進行の転調と、 スカルラッティの好き放題にした結果が現われている。


K.555 f-moll

K.525を短調にした趣がある。半音階で上昇するパッセージが印象的だ。


まりんきょ学問所スカルラッティの部屋 > ソナタ練習経験


MARUYAMA Satosi