スカルラッティソナタK.456 |
作成日:2003-11-25 最終更新日: |
スカルラッティには有名なソナタもあれば無名のソナタもあり、 出来がいいのもあれば悪いのもある。 このソナタは無名であり、出来もそれほどいいとは思えない。 しかし、憎めない。そんなソナタである。
右手が指ならしのように入り、左手が追随する。スカルラッティのソナタにはよくあるタイプである。 そしてこの冒頭のメロディーは二度と使われることはない。これもよくあるタイプである。 とはいえ、リズムは後のサビで生き残る。
最初は単なる指ならしであったが、すぐにスカルラッティは左手を跳躍の練習対象とする。
なんでもないようだが10小節と11小節の間、左手はほぼ2オクターブある。 プロのピアニストは練習によって確実に当てるが、 私レベルでは祈ることによって当たる確率を高めるしかない。
ちなみに、和声はここまで、主和音(トニック)のイ長調と属和音(ドミナント)のホ長調しか出ていない。 次の経過句では、同じイ長調とホ長調の和音を使っているが、 ホ長調の和音が主和音に、イ長調の和音が下属和音(サブドミナント)になっている。
そして、サビが出てくる(スカルラッティのサビとは何か、後で定義しないといけない)。 最初はホ長調で提示されるが、23小節からはホ短調で登場する。左手は和声的短音階である。 (図は23-24小節) ここの楽譜の24小節目の1拍裏、右手はE-Hで、左手はDis-Cの動きである。 つまり短9度と増7度が平行する。ここを弾いてしっくりこないと思っていたが、 理由はこの妙な進行である。しかし、弾いて行くうちに、ここはこれでいいのだ、 と感得してしまうのだった。
後半部分の右手はサビのリズム、左手は適当な分散和音で進む。和声は、ホ長調、嬰へ短調、 嬰ト短調、嬰ニ短調、嬰ハ短調と変わる(本当は、これらの主和音の分散和音が和声となっている、 という意味)。ここから先が、すごい。スカルラッティは自分のやりたいようにやっている。 以下は49小節から59小節までである。
55、56小節の、右手のDisと左手のEが微妙なきしみを感じさせる。 和声学からいえばありえない進行だろうが、このような破調がスカルラッティの魅力でもある。
スカルラッティは、やりたいことをやった後で前半部をなぞって始末をしている。 しかし、その始末の仕方もひと味違う。次は65〜66小節である。 なぜ、65小節の左手がGisなのに、66小節の左手はGなのだろう。 前半でここに対応する個所はどちらも65小節と同じ、和声的短音階だった。 だから先に指摘した増9度-短7度の響きはない。そのため聞きやすくなっているが、 なぜそのように変えたのだろうか。 でも、私の素直な思いでは、同じ響きより違う響きを楽しみたいから、これでいい。
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