ヘミオラ

作成日:1998-07-16
最終更新日:


1. ヘミオラとは

ヘミオラ(hemiola)とは、ある種の拍子の取り方である。 ある音価における3拍子の曲(下図の上段)が、途中で連続した2小節を合わせて1小節と考えたときに、倍の音価の3拍子となる(下図の中段)ことをいう。 下図の場合、3拍子の基準音価は四分音符であるので、3/4 拍子の曲が 3/2 拍子のように聞こえることになる。 ヘミオラと認識される、すなわち連続した2小節が合わさって1小節のように認識されるきっかけは、 書かれた音型によることがふつうであるが、演奏の方法によることもある。 なお、基準音価は変わっていないと認識される場合は、2拍子の曲が3小節間続くように聞こえることになる(下図の下段)。

上記記述について、以前は「3 拍子の曲の連続した2小節が、あたかも 2 拍子の曲の 3 小節であるかのような音型や弾き方のことをいう。」 と書いていたがこれは不明瞭な表現であったので、より正確な表現となるように追加・修正した(2015-10-25, 2015-10-28)。

ヘミオラの語源はギリシャ語の ἡμιόλιος (hemiolios) で、 ἡμι (ヘミ, hemi)が半分、 όλιος (オリオス, olios) (←ὅλος )-が全体の、という意味である。 hemi は、英語でも hemisphere (半球) などに名残を留めている。 また、オリオスのもとであるホーロスは、holism (ホーリズム, 全体論) のもととなっている。 以前は 1/2 + 1 と説明していたが、1 は数詞の 1 というより、 全体としての意味があるので、説明を変更した(2010-05-22)。

2. ヘミオラの実例

典型例は、英語版 Wikipedia の hemiola (en.wikipedia.org) にある。 モーツァルトのピアノソナタからの引用であり、非常によくわかる。

また、日本語版 Wikipedia の ヘミオラ (ja.wikipedia.org) にある。 こちらは、シューマンのピアノ協奏曲の第3楽章(第2主題)が例示されている。 ただこちらは、第2主題のかなりの部分がこのヘミオラで貫かれているため、 もとの3拍子の対比が弱くなっている。

第1主題と第2主題をそれぞれ掲げる。
第1主題

第2主題

3. ヘミオラではないもの

上記英語版 Wikipedia の解説によれば、 音楽家はリズムが 3:2 であればヘミオラということばを使うが、 必ずしも正しくない場合もあるということである。 そして、バーンスタインの「アメリカ」の例を挙げて、 この曲は 6/8 拍子と 3/4 拍子が交替するけれど、 これは厳密な意味ではヘミオラではないとする。

それからいくと、私は誤った例を出していたことになる。 というのは、 私はショパンのスケルツォ第4番やワルツ「大円舞曲」を引合に出して、 ヘミオラを説明していた。しかしこれら2曲は、 6/8 拍子と 3/4 拍子の交替によるリズムを言っているので、 厳密な意味でのヘミオラではない。ここでお詫びする。

その後、Wikipedia のページを見てみると、「アメリカ」の例はヘミオラではない、という記述は消え、 かわりに「水平ヘミオラ」(horizontal hemiola) という名称が当てられていた。 この水平ヘミオラと対比して小節をまたがるヘミオラを「垂直ヘミオラ」(vertica hemiola)としている。

もっとも別のページを見てみると、 6/8 と 3/4 の交替によるリズムの変化を陽ヘミオラ(Hemiola Major)、 複数小節にまたがるヘミオラを陰ヘミオラ(Hemiola Minor)とよぶ、 という記述もある。この述語に従えば、陽ヘミオラは必ずしも厳密なヘミオラではない、 というのが en の Wikipedia に書いてあることである。 ここでは特記なき限り陰ヘミオラを書いているが、陽ヘミオラの場合は言及する。

なお、私に言わせればHemiola Major は小節内ヘミオラ(内ヘミオラ)、 Hemiola Minor は小節外ヘミオラ(外ヘミオラ)ということばを当てたい。(2012-07-22)

4. 作曲家のヘミオラ

以下、楽譜が一部表示できないのが残念である。一部は著作権の問題もあるが、主な理由は私の怠慢である。

ウィリアム・バード

ヴァージナル曲の「セリンジャーのラウンド」は 6/4 拍子であり、 これを 3/4 拍子 * 2 と捉える。このとき、 1箇所、ヘミオラが出現する。

アルカンジェロ・コレルリ

コレルリ(コレッリ、コレリとも綴る)は、 多くの合奏協奏曲を作っている。 その中で有名な「クリスマス協奏曲」(合奏協奏曲 Op.6-8)の、 冒頭の5小節から6小節が、典型である。

ドメニコ・スカルラッティ

ホ短調のソナタ(K.203, L.380)の第2主題が、驚愕のヘミオラである。

ゲオルク・ヘンデル

ヘンデルは常套句のようにヘミオラを使っている。

ヘンデルの有名な曲で「水上の音楽」から「アラ・ホーンパイプ」がある。ここの 9 小節から 10 小節がヘミオラとなる。 全体は 3/2 拍子であるから基準の音価は二分音符である。ここで 9 小節の最初の2拍が付点二分音符と四分音符に分割され、 この単位が全音符として意識される。この付点の単位は、アルト声部とテナー声部で小節をまたがるタイで第2の単位となり、 さらにソプラノ声部のタイによって第3の付点単位が現れる。ここでヘミオラとして作られたことがわかる。

もう一つの例を挙げる。下の譜例は、合奏協奏曲Op.6-4 イ短調から最終楽章の一部である。 下の譜面で4小節から5小節がヘミオラだ。

ヨハン・ゼバスチャン・バッハ

バッハのヘミオラは、曲数からすると少ないように思える。よくあげられるのがインベンションニ短調の例であるが、 私が一番気に入っているのは、ブランデンブルク協奏曲第4番第一楽章の終止部である。79 小節から 82 小節までがヘミオラである。 パートごとに見てみると前半 2 小節はベースを除く全パートがヘミオラを意識したリズムになっていて、 後半 2 小節はリコーダー(Rec)だけのヘミオラが意識されているという面白いヘミオラだ。

ヨーゼフ・ハイドン

シンコペーションを伴わない、軽いヘミオラであれば、 メヌエットの楽章に多く見られる。 有名な弦楽四重奏曲「ひばり」のメヌエットにもある。 トリルで強調された形のヘミオラは、Op64-3 のメヌエットに、 次のところがある。

ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン

交響曲第3番の第1楽章の展開部で、力強い和音が、 ヘミオラの威力を増している。

また交響曲第7番のスケルツォのトリオに、それらしい個所があったと思う。

ローベルト・シューマン

交響曲第3番「ライン」の冒頭がヘミオラである。 ピアノソロの編曲ではそのように聞こえる。

また、先の例にもあったように、ピアノ協奏曲第3楽章の ホ長調の第2主題が、ヘミオラであるように聞こえる。

フレデリック・ショパン

陰ヘミオラ(小節間ヘミオラ)

意外なほど少ない。私が記憶の底から引き出せるのは、 スケルツォ第2番で、中間部の盛り上がりを引き出す、 F7の下降分散和音を両手でとる個所で、 3拍子との対比が明確ではない。

マズルカでは、第15番ハ長調 Op.24-2 の冒頭が印象的だ。音形だけのヘミオラなので、どう解釈するか難しい。

同じマズルカの第16番変イ長調 Op.24-3 は左手伴奏がヘミオラであるが、右手をどうするか悩ましい。譜例の2番カッコのあとに着目してほしい。

陽ヘミオラ(小節内ヘミオラ)

陽ヘミオラであれば、多く用いられている。 たとえば、Op.25-2 は作曲者の意図としてはヘミオラを意識しているが、 右手の三連符は普通流れるように弾かれ、あまり三連符のように聞こえない。 これがショパンの意図したことだったのか。

また、陽ヘミオラの例では、ワルツ第5番変イ長調Op.42(いわゆる大円舞曲) が序奏のすぐあとで早速登場する。

陽ヘミオラで私には馴染みが深いのが、 スケルツォ第4番ホ長調Op.54 のロ長調に転調した部分である。 なお、スケルツォ第4番に関しては、 ヘミオラも含めて hasida 氏のページにある 4. スケ4上手くなりたい (www.katch.ne.jp)が詳しい。

課題

陽ヘミオラ、陰ヘミオラとも、おそらくマズルカで良く出現するのではないかと思うが、 わたしはマズルカをほとんど知らない。これからの研究課題である。

イサーク・アルベニス

組曲「イベリア」第 2 巻「ロンデーニャ」は右手、左手とも「アメリカ」タイプの 6/8 + 3/4 である。

また同じく第2巻の「アルメーリア」の冒頭も同様であるが、左手のみ 6/8 + 3/4 である。

組曲「イベリア」第4巻では、「マラガ」の終結部間近で、 矛を納めるかのような部分で使われている。上段右の ff から下段の B-dur に解決するまでの個所である。

フランツ・リスト

メフィストワルツ第1番の後半部、 変ニ長調 Un poco meno mosso(come prima)の個所から一部、 右手のオクターブ跳躍が出てくるが、 ここで薬味のように使われている。 その後譜面上ハ長調になって、右手がヘミオラ、 左手が3拍子になる個所が下記である。

ヨハネス・ブラームス

楽譜で確認できたのは、次の曲のみ。 弦楽六重奏曲第2番Op. 36 第1楽章、 319 小節から 326 小節。このヘミオラにより切迫感が増している。

陽ヘミオラであれば、おそらく多くあるだろう。 たとえば、クラリネット五重奏曲ロ短調にも印象的な場面で使われている。

4つの小品 Op.119

試しにピアノ曲「4つの小品 Op.119」を比べてみた。それぞれのヘミオラが興味深い。

第1曲「間奏曲」の 17 小節からを下に掲げる。21 小節から徐々に盛り上がり、ヘミオラの最後の24小節で頂上に至る。 ブラームスらしい使い方だ。

第2曲も同じ「間奏曲」という表題だ。 28 小節からの推移を見るとわかる通り、 33小節から34小節までが、典型的なヘミオラである。 同時に注目したいのが、29小節から31小節の左手進行だ。これらの16分音符は明らかに隣接する3音符が一塊としてとらえられており、 これも一種のヘミオラといえる。

第3曲は、 ウィキペディア(ja.wikipedia.org)によれば、次のように解説される。

主題のフレーズは12小節の長さをもち、6つずつに分割できる。 最初の6小節は、2つの3小節のかたまりとして聞こえるが、 次の6小節はむしろ3つの2小節のかたまりとして聞こえる。すなわち、2つ目の6小節はおおきなヘミオラとして機能しているととらえうる。

これは、6 小節を最初は 3小節 * 2 の形で提示していたのを次には 2 小節 * 3 の形に変えたことをヘミオラとみているのである。 楽譜を出せば次のようになる。すなわち、主題のフレーズはA と B にわかれ、A は A1 と A2 に、B は B1 と B2、B3 と分けられる。 私の意見では、リズムの見地からはwikipedia のように分かれるが、和声の見地からは必ずしも分けられないのではないか、と思う。

アントン・ドボルザーク

スラブ舞曲 Op.48-8 ト短調は、ヘミオラが交錯する楽しい音楽だ。

ガブリエル・フォーレ

典型例は、ヴァルス・カプリス第4番の341小節から348小節までの右手。 また 381 小節から 400小節までも同様。 左手は小節頭に低音とアクセントがあるので効果は少ない。 ブラームスの例とは異なり、 音価を冒頭フレーズの倍に伸ばすヘミオラである。

しかし、同じ曲の417小節からは、両手を合わせた完全なヘミオラである。

その他のヴァルスカプリスも、 部分的に用いられている。 第1番の246小節から、および423小節からの内声部、 第3番の中間部、変ニ長調の冒頭部などがある。

五重奏曲第2番 のヘミオラについては、リンク先を参照してほしい。

また、三重奏曲にも耳を混乱させるようなヘミオラが使われている。

典型例である、組曲ドリーでは、第3曲「キティ・ヴァルス」の中間部後半、 それから第5曲「優しさ」の中間部の一部に使われている。 「優しさ」では、これにカノンが組み合わされている。

ピョートル・チャイコフスキー

弦楽セレナーデのワルツ2楽章で、 第1と第2のヴァイオリンの合わせは、次のようだ。

クロード・ドビュッシー

ドビュッシーはリズムを天性のひらめきで操ったから、ヘミオラが意識される作品は少ない。 初期の代表作「ベルガマスク組曲」の第2曲「メヌエット」の 5 小節目から、拍単位が二分音符ではなく全音符になるヘミオラ、 言い換えれば拍単位あたりの拍子が4拍子になる、極めて珍しいヘミオラが出てくる。

晩年の練習曲「和音のために」で、ヘミオラが出てくる。 冒頭 3/8 で始まり 3/4 に交代するヘミオラだが、 徐々に 3/4 部分が長い時間を占めるようになる「逆ヘミオラ」というべき現象がみられる。

モーリス・ラヴェル

ピアノ曲「ソナチネ」の第2楽章の前半と後半の終結部がヘミオラとなっている。 ソナチネという形式自体が擬古的であるからか、 ヘミオラの扱いも古風である。

フリッツ・クライスラー

有名な「愛の喜び」の冒頭は、ヘミオラの典型例である。 また、「愛の悲しみ」や「美しきロスマリン」でも、ヘミオラがうまく使われている。

グスタフ・ホルスト

セント・ポール組曲の第2楽章は、 いかにも耳の錯覚を起こさせるようなヘミオラが聞ける。

ルロイ・アンダーソン

「舞踏会の美女」の導入部は、 これぞヘミオラという、かっこいい使い方がなされている。 また中間部でも、中音域の隠し味的なヘミオラが聞こえる。

5. 3:4 のヘミオラ

5-1. 夢想花

円広志の「夢想花」だろう。∥が1小節の区切り、|が半小節の区切りであると考えると、こうなる。

∥とんでと|んでとん∥でとんで|とんでと∥んでとん|でとんで∥とんで・∥
∥まわって|まわって∥まわって|まわーー∥るーーー|----∥・・・・|・・・・∥

上の行は「とんで」が9回に半拍の休みが入っている。時間にすれば3*9+1=28である。 これは、半小節単位で勘定すると7回あるので、4*7=28と一致する。 これは3と4のずれを生かした広義のヘミオラといえる。 そして驚くべきことに、初出はカール・フィリップ・エマニエル・バッハの作品にまでさかのぼるという。

5-2. トリプティーク

もう一つ、芥川也寸志の弦楽合奏のための三楽章(別名「トリプティーク」)の第1楽章から引用する。 ソロヴァイオリンが4拍子、伴奏(特にチェロ、コントラバス)が3拍子である。

補足など

このページを参照してくださる方がいる。ヘミオラの感じ方はさまざまで、たとえば、最初の定義のところで、私は なお、基準音価は変わっていないと認識される場合は、2拍子の曲が3小節間続くように聞こえることになる(下図の下段)。 としたが、この説明に納得できない方が複数いる。それもそうだと思うが、私には事実そのように聞こえるので、むりやり残している。

また、ヘミオラが認識されるのは、まず初めに明瞭な標準となる 3 拍子の拍節感があったあとで、その後2倍の 3 拍節間に聞こえるときではないか、 という人もいる。そうなると、シューマンの交響曲「ライン」第1楽章に見られる冒頭のヘミオラは本来のヘミオラというには弱いという見解になる。 私もそれには同意するが、そういうヘミオラもあっていいと思う。私が思うに、 ヘミオラの使い手の名手はフリッツ・クライスラーとルロイ・アンダーソンであろう (2016-03-26) 。

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MARUYAMA Satosi