理想のピアニスト(第15回、「のだめ」は理想のピアニストになれるか)

作成日:2004-09-20
最終更新日:

のだめカンタービレのこと

まりんきょのはなれを運営していたときに、 パパゲーノ川崎さんから、「のだめカンタービレ」という漫画のことを教わった。 2005年5月12巻まで出ている。人気があり、いくつか特集サイトもある。 主人公である野田恵(通称のだめ)がピアニスト目指して成長していくという筋なのだが、 これにかこつけて、「のだめ」が理想のピアニストになれるか、 独断と偏見で述べてみたい。

第1巻

のだめは初見が苦手、耳からのコピーに才能を発揮する、という設定が明かされる。 このマンガによれば最初に定量譜に挑んだのは、 モーツァルトの2台のピアノのためのソナタニ長調である。 のだめは最初の2小節から間違えている。 千秋は「これは付点休符(注:正確には付点八分休符)!ンなもの間違えるな!」とのだめを叱っている。 しかし、どう間違えたのだろうか。抜かしたのだろうか。それともカウントを間違えたのだろうか。 休符は音を演奏しないだけにかえって難しい。まだ、のだめは理想のピアニストには遠いところにある。 (2013-07-15)。

第11巻

パリの音楽院に入った「のだめ」は、初見でスカルラッティのソナタを弾かされる。 「のだめ」は初見が苦手という設定になっていて、 事実このソナタは弾けず、先生に大いに叱られている。 私に言わせれば、これぐらい初見で弾けなければおかしい。 アサド兄弟のギターデュオでも有名だから、 「のだめ」はスカルラッティに関する素養に、 そして音楽に関する素養に欠けているといわざるを得ない。 なお、楽譜を見る限りその曲はK.525である。

パリでふと入ったレストランで、のだめが勝手にピアノを弾いたため、 店主に追い出されそうになる場面がある。 このとき、店主はある歌の伴奏の譜面を渡し、のだめに弾けと命じる。 のだめは初見が苦手で断った。 この時、たまたま、のだめの同僚の生徒がその場にいた。 その生徒は渡された伴奏譜を初見で弾ききり、自信を取り戻した。

この歌とは、 ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」の「私は街の何でも屋」という、 知る人ぞ知るバリトンのアリアである。 私はたまたま、バリトンが歌う機会に居合わせたことがあったが、 超絶技巧のバリトンを支えるピアノ伴奏は、 無理難題をこなさなければならない大変な役回りだった。 だから、これを初見で弾けなかった「のだめ」には同情する。 (2005年9月)

追記:その後の「のだめカンタービレ」の人気はご存知の通りである。 パパゲーノ川崎さんの眼力には恐れ入るばかりである。 他の巻も買ったのだが、ここに書くようなネタは見いだせなかった。 全巻読む機会があれば、突っ込んでみたい(2016-03-26) 。

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MARUYAMA Satosi