映画に使われたフォーレ

作成日 : 1998-05-09
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1. はじめに

古典音楽が映画に使われる例はけっこう多いだろう。 ただフォーレの作品は渋いためかめったに出てこないのではないか。 そこで映画に関係したフォーレのページを作ってみることにした。

2. 田舎の日曜日

1987年あたりだろうか、 私に負けず劣らずのフォーレ好きの知人から、フォーレの曲が出てくる映画がありますよ、と言われた。その映画が 「田舎の日曜日」である。 フォーレ晩年の3作品が聞ける貴重なフランス映画だ。 この3作品とは次の通り。

演奏はユボーによる全集からとられている。

映画そのものはたんたんとしていて、題名のとおりである。一番盛り上ったのが、電話口で女性が恋人に向かってなじる場面であるほどだ。

演奏はそれぞれ一度だけ、楽章の冒頭から展開部にかけてあたりまでが使われる。見た当初はなぜ最後まで使わないのかといぶかしく思った。しかし、映画の語法においては同じ音楽で長い時間使ってはいけないのかもしれない、と考え、自らを納得させている。

以下は余談です。

映画を紹介してくれた知人はピアノが達者で、 そのうち五重奏曲をやりましょうといってメンバーを集めたのだが (私はターヘなチェロ弾きとして参加)事情があってとりやめになってしまった。残念である。

最近弦楽四重奏曲に関するある本が出版された。 その訳者のうちの一人が好きな弦楽四重奏曲にフォーレのそれをあげていた。 しかしその本のなかにはフォーレのは取り上げられていなかった。残念である。

とあるフランス語入門の本にこんな会話があった。

3. ヴィクトリー

私宛に次のメールが届きました(1999 1/27)。

ジョセフ・コンラッド原作の映画で[ヴィクトリー/邦題]という映画があります。 ウィリアム・デフォー、サム・ニールが共演しています。映画はまあまあなのですが、 そのタイトルに使われた曲がフォーレでした。(ヒロインがその曲をバイオリンで弾く場面がでてくる) 音楽が凄く気に入ったので、サントラを探しましたが、 すでに廃盤になっていました。僕は色々な人にその歌を歌ってタイトルと作曲家を教えてもらおうとしました。 するとある日、テレビでその曲が流れました。 東芝フィルハーモニーだかなんかのCMでした。手がかりはこれしかありません。(後略)

メールのやりとりで曲は「ペレアスとメリザンド」であることがわかりました。 しかし、残念ながら私は見たことがありません。 この映画がビデオになっているのならぜひとも手に入れたいものです。

4. シモーヌ

アル・パチーノが、タランスキーという売れない映画監督役に扮した映画「シモーヌ」を、 2003年12月20日に見た。タランスキー監督は「芸術」映画を作るといって、 コンピュータグラフィクスで女優を誕生させて自分の映画の主演女優にしてしまうが、 その「芸術」映画で使われていた曲が二つあった。そのうちの一つがフォーレの「レクイエム」から、 「楽園にて(イン・パラディスム)」と「ああ、イエズスよ(ピエ・イエス)」であり、 この順番に出てきた。「芸術」映画の断片を見る限り、美的趣味に走っていて娯楽的でなく、 その意味でまさしく芸術的に私には見えた。そして、そのような現実離れした映像に付けられた、 フォーレのレクイエムは、まさしく適切であった。 フォーレは、「音楽とは、この世に存在しない、高みに登るためにある」と言っていたのだから。

5. テルマエ・ロマエ

2012 年に公開された映画「テルマエ・ロマエ」では、 ヴェルディやプッチーニの曲がふんだんに使われている。 これはわかるのだが、なぜかこの中で一曲だけフランスの曲が使われている。それが ラシーヌ讃歌である。 上記の事実は、映画の公式サイトを見て知ったのだが、 映画は見に行こうかどうしようか、思案している。(2012-05-03)

その後、見に行った。感想は上記リンク先を参照してほしい。(2012-10-28)

6. ボーイ・ソプラノ ただ一つの歌声

ボーイ・ソプラノ ただ一つの歌声という映画を見た。 題名からわかるように、主人公はボーイソプラノの美しい声をもつ少年である。 少年は態度の悪いガキであるが、縁あって国立少年合唱団の訓練生になり、寄宿舎で厳しい授業を受けるようになる。

そんなある日、少年は、たまたま聴いたある曲に驚く。 「この曲は?」ある団員が答えた「(フォーレの)レクイエムのピエ・イェズだよ」。 それから少年はこのピエ・イェズを一所懸命に練習する。

その後、少年は正団員になるための面接を受ける。このとき、どうやら課題曲A,Bがあったらしい。 面接者から「歌うのはAか、それともBか」 と尋ねられるが、少年は「いや、(課題曲にない)ピエ・イェズを歌う」と答え、 アカペラで歌った。少年は合格した。

この映画を見ていて気づいたのは、少年が自発的に曲を知りたくて仲間に尋ねたことはこの場面だけであったことだった。 また、面接官の前であえて課題曲とは異なる曲を歌う自我の強さを積極的な意味で出していたのもこの場面だけだった。 他の合唱曲を聴いたり歌ったりしているときに、少年はこのような積極的な意思と自我の強さは見られなかったように思う。 俺がフォーレをひいきしているからかもしれないが、それだけこの曲の印象は強いのだ。

ところがだ。この映画のチラシを見てみると、「こんな曲があります」という欄には「ヘンデルのメサイア」とか「わらべうた―ほたるこい」とかが 挙げられているだけで、フォーレの「ピエ・イェズ」がなかった。こんなひどいことがあるだろうか。(2016-05-29)

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MARUYAMA Satosi