フォーレ:ラシーヌ讃歌

作成日:1998-06-05
最終更新日:

1. 概説

作品番号11のこの合唱曲は、フォーレ初期の作品のなかでよく知られている。 彼が18歳の学生の頃の作である。 「ラシーヌ賛歌」、「ラシーヌの頌歌」、「ラシーヌの雅歌」など、複数の表記がある。 原題である Cantique de Jean Racine は、 フランスの作家であるジャン・ラシーヌの宗教的な詩についてつけられた宗教歌、という意味である。 どこから見ても均整のとれた和声で作られていて、何度聞いても飽きない。

2. 個人的体験

私が一時期ある合唱団で歌を歌っていたのは、もとはといえば、 私がフォーレ好きなのを知っているある友人に 「合唱団でラシーヌをやるから伴奏をしてください」と頼まれたからである。 ほいほいとのって伴奏をした。 本当に楽しかった。その後、歌い手が足りないから歌に回れと言われて、言われるままに来てしまった。

ところで、このラシーヌをやったときのプログラムでは、 ラシーヌの雅歌のあと中田喜直童謡集が続いた。 聞きに来てくれた友人から「フォーレのあとにめだかの学校かよ」と何度もからかわれたものだった。 伴奏を私に頼んだ友人はもう合唱に加わらなくなって久しく、聞きに来てくれた友人はもうこの世にない。

その後、自分が所属する合奏団で弦楽とピアノのために編曲して弾いたりしている。

あるとき、フォーレのピアノ五重奏曲の1番と2番が連続して演奏される機会があり、聴きに行った。 アンコールとして演奏されたのが、このラシーヌ讃歌であった。

この曲は冒頭と中間部で長いオルガン(ピアノ)ソロが入る。中間部のソロの後は短調が支配して、 やがて山場を迎える。その山場が次の楽譜のところである。 楽譜ソフトが使いこなせないので見づらいだろうが、ご容赦願いたい。

このテナーが「キーラー」と歌い出すと、ベースがこれを受けて「キーラー」と答える。 女声もアルトからソプラノへ受け渡されるので「キーラーキーラー」と聞こえる。 このキラキラ感がたまらなく心にしみる。ここの歌詞はフランス語で次の通り (楽譜ソフトでは à のアクサングラーブが表記できなかった)

qui la conduit à l'oubli de tes lois

日本語に訳すと、「あなたの掟(おきて)を忘れさせるような」となる。 これが修飾しているのは前で歌われている sommeil であり、 これは眠り、眠気、無気力、惰眠、などとなる。ここに掲げていない前のことばと合わせると、 「衰弱した魂は無気力となり、あなたの掟を忘れてしまうほどだ。そんな魂を無気力から放ちたまえ。」 ここで、あなたとはさらに前のことばを探すと、救い主であることがわかる。 歌詞の詳細は各種ホームページをご覧になってほしい。

ついでにいうと、このキラキラは空虚5度の連なりであり、 フォーレの晩年のピアノ五重奏曲第2番第1楽章の結尾、 ソドソの連鎖を思い起こさせる。

3. 演奏

私はベルナール・テトゥ指揮、レ・ソリスト・ドゥ・リヨン・ベルナール・テトゥの演奏や、 クロード・トンプソン指揮、 クロード・ボードワン(ハルモニウム)トロワーリヴィエール少年聖歌隊の演奏で聞いている。 他にもあると思うが、さほど演奏の巧拙は気にしなくてよい曲のように思える。

まりんきょ学問所 フォーレの部屋合唱曲 > ラシーヌ讃歌


MARUYAMA Satosi