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野口整体と禅

野口整体 気・自然健康保持会

主宰 金井省蒼

     

3、文化の違いは体の違いから

『月刊MOKU』2007年8月号
身体感覚と自己の成長(身体感覚が自己を成長させる)
その三 日本人の心を取り戻す「坐の生活」
V11(最終バージョン)より

  

 身の周りにある道具は、使う人が使いやすいように作られています。例えば「鋸(のこぎり)」。日本の鋸は引いて切れるように出来ていますが、西洋の鋸は押して切れるように出来ています。
 この違いは相撲とボクシングに見ることができ、日本人は引くことで力が出、西洋人は押すことで力が出る体なのです。欧米人が椅子とテーブルで、ナイフとフォークを持って食事をし、対話の時に椅子で足を組んだ姿が美しく見えるのは、「椅坐
(いざ)」が彼等らしさと、その特性を活かす「型(かた)」として身に付いているからです。このように、生活文化もその民族の体に合ったスタイルで洗練され、それぞれの「型」ができているのです。

  

 体の違いを無視して、徒に海外の文化を模倣し、教育の場で強制することが、どれほど日本人としての伝統的な精神を歪めてしまったかは、戦前の「直立不動」の姿勢による軍国主義教育により明らかです。今でもその名残りで、良い姿勢というと胸を張ってしまう人がいますが、この姿勢は思考を停止させてしまうものです。

 身体精神現象の観点からいうと、硬直した身体から生まれるのは硬直した心であり、決して自由な、見通しの良い思考は生じてきません。特に日本人は「腰・肚」を得意としており、胸を張ると重心が上がって頭が冷静な働きをしません。これにより戦前の軍部が見通しのない戦争に突入したと言ってもよく、冷静な判断が出来なくなったのが軍人でした。「直立不動」は「上実下虚(じょうじつかきょ)」を招き、それは武士とは全く違う体の「型」でした。「上虚下実(じょうきょかじつ)」でこそ、よく頭が働き、「真理」に達することが出来るのです。

 体の違いから生まれる「文化の違い」を考え直し、今や明治以来の西洋化、戦後のアメリカ追従の舵を切り直すことが、今後の日本人にとって重要なことであると思います。

 

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