《その1》

野口整体とは何か

野口整体 気・自然健康保持会

主宰 金井省蒼

《その1》

 

1-1「野口整体 気・自然健康保持会」について

 野口整体 気・自然健康保持会を主宰しております金井と申します。静岡県熱海市にて「身体文化教育道場」を運営しています。
 私の出身は野口晴哉師
(1911〜1976)が創立した整体協会(文部省体育局認可〈1956〉の社団法人)というところです。最近までその会長を野口先生の奥様がされていましたが、亡くなられてからは奥様の甥である細川護煕氏が会長を務めておられます。
 私は1967年、師・野口晴哉の弟子となりました。師亡き後は数年のうち(78年頃)に協会を離れ、以後迷った時期も長くありましたが、98年には自らの会を起こしました。

(詳しくは「プロフィール」をご覧下さい)

    

1-2 野口晴哉先生【1911(明治44)年〜1976(昭和51)年】について

『ブッククラブ回』
2002年夏49号 人物評 より

 野口晴哉は、明治44年、東京の下谷に生まれた。父は下町職人だったが、赤ん坊の頃、ジフテリアにかかった後遺症で言葉を話せなかった晴哉は、子供のいない針灸師の伯父の家にあずけられた。この伯父の元で、おおらかに育てられたらしい。彼は子供の頃から、その特異な才能の片鱗を見せていた。人の体の悪いところが黒く見え、そこに自然と手を当てたくなってしまったそうだ。しかし、彼が天才として目覚める大きな契機となったのが、関東大震災である。当時、12歳であった晴哉は、震災に直撃された東京で、傷つき、死んでゆく夥しい人々の姿を目の当たりにした。震災後、東京は上下水道が壊滅し、赤痢やチフスが急激な勢いで蔓延した。晴哉は、下痢などに苦しむ人々を、手を当てるだけで次々に治していった。以来、人間の体と自然の接理、治療に関する晴哉の探求は、生涯にわたって続くことになる。

 「手当て」という治療法は、世界各国で古来から使われてきた。たしかに晴哉は、生来の感覚と天才的能力を持っていた。評判を聞きつけた人々は、若き彼の元に治癒を求めて集まった。しかし、晴哉の本当にすごい所は、〈治療〉というフェーズを飛び越えて、人間と自然の全体的なメカニズムを見出した事だろう。潜在意識や自律神経の働き、性の機能、気の力。それら全てを統合した野口整体は、他の東洋医学より何歩も先を行っていた。〈健康〉とは、病気を対処療法的に治したり、理想的な体格に整えたり、栄養を取ることではなく、むしろ常に変化し続ける体、敏感で柔軟な感覚を育てること。様々な療法を試した後、結局は野口整体に行き着くという人が多いのも、そのような根源的な思想を超えるものが他に無いからかもしれない。

 

1-3「整体である」とは

 野口先生という人が始めた整体ですから野口整体といいます。先生五十年余の歴史の中で、初めは治療でしたが後には教育的な「体育」として完成したものです。
野口整体で言う「体育」とは、体力発揚を目指すもので、それは実生活の場で「溌剌と自らの能力を発揮する」ことにほかなりません。
 一般に、「体育」はスポーツと同一視されていますが、本来の「体育」とは「人間に内在する能力のすべてを活かす」ことが目的であり、また、そのための手段でなくてはなりません。能力を発揮するためには先ず、「生命の自発性」が何より大切です。生命の自発性に支えられ、自らの心と体を使いこなして生活するために、体を育てることを「体育」と言っているのです。
 一般の整体では施術を「整体」と呼んだりしますが、「持てる能力をきちんと発揮できる体」、それは「整っている体」でこれを「整体」というのです。

 

野口晴哉 『風声明語』(全生社)

健康の原点は自分の体に適うよう飲み、食い、働き、眠ることにある。

そして、理想を画き、その実現に全生命を傾けることにある。

どれが正しいかは自分のいのちで感ずれば、体の要求で判る。これが判らないようでは鈍っていると言うべきであろう。

体を調え、心を静めれば、自ずから判ることで、他人の口を待つまでもあるまい。旨ければ自ずとつばが湧き、嫌なことでは快感は湧かない。

楽しく、嬉しく、快く行なえることは正しい。

人生は楽々、悠々、すらすら、行動すべきである。

 

1-4 金井が行っている「整体指導」とは

 私の仕事は「整体指導」というもので、整体操法という技術を使って行います。この時、「気」が重要になりますが、「気」によって捉えている対象がこれまでの「治療」という一般的な概念とはまるで異なります。
 「気」には様々な解釈がありますが、野口先生は「気は心と体をつなぐもの」であると言われました。「気」は呼吸とともに体の内と外を循環しているのですが、体に気の滞りができると心身の不調の元となります。その「気」の流れ、動きを観ることで、心と体がどのように動いているかを観るのです。特に「気」によって心を観るというのが野口整体では重要なのです。

(詳しくは野口晴哉著『整体入門』〈ちくま文庫〉をお読みください、また拙著『野口整体 病むことは力』(春秋社)もあります。)

 

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