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  和平復興関連 No.94


2005‐7‐29
すべてはペラヘラのあとに
スリランカ最高裁、P−TOMSを一部停止の波紋

 スリランカで津波復興支援を行っているボランティアが「スリランカ最高裁、津波支援金をLTTEに配分することを違憲と判断。和平は遠のく」という書きこみを掲示板にしている。弱者を気遣い、戦争を危惧する思いから投稿されたものと察するが、LTTEへの支援金配分が違憲というそのニュースの読みこみかたは事実とちょっと違うようだ。スリランカ南部に入った津波復興支援の方にはスリランカ南部に顕著な本質的な、あるいは古代史的なタミル嫌悪が、時にヤカー(悪魔)が乗り移ったかのようにうかがえることがある。15日のP‐TOMSに対する最高裁の一時的な決定とその内外での報道の波紋を追った。

スリランカ以外の報道は---
読売・BBC・CBC・ABC/RAの場合

 スリランカ最高裁の今回の(15日)P-TOMS協約一部違憲という判断を日本語で報じたのは読売新聞ニューデリー発の短い記事である。あまりに短い記事であったため、また、記事が今回の提訴をした団体名を明確に記さなかったことから、読む人にとっては違憲判断の重さとLTTEへの恐怖だけを奮い立たせるような結果を生んでいる。
 記事そのものには誤謬がない。ただ、「復興活動の大幅な遅れが懸念される」というショート・フレーズの、この部分だけ行間上下1行空けになっていることと、文の舌足らずなこととが意味深げな効果を生んでしまった。
 P-TOMSに関する最高裁の一時的な審理を各国のマスコミは次のように報じている。

 BBCは15日の審理を「最高裁、P-TOMSを一時停止」と、同日、報じた。また、読売が避けた提訴者を当然ながら実名でJVPと記した。この提訴がP-TOMSに反対し政権を離脱したJVPによって起こされたものであることを記した。また、P-TOMSの政府とLTTEの双方による合意を基本的に合憲としたことも記している。最高裁は政府とLTTEの協約の一部に憲法違反の疑いがあるため、その執行を一時停止するというのが記事の体裁だ。BBCの記事は読売に較べると表現に慎重であり正確である。
 記事の視点も読売とは大きく異なる。BBCの記事が訴えたのは最高裁のP‐TOMS協約一時停止より、シンハラ地区をLTTEが通行する時にLTTEに対し自衛のための武装を認めることを彼らLTTEが政府に求めているという点だ。武装を認めれば今現在、タミル地区で起こっている爆破や銃撃という混乱がシンハラ地区にも広まる懸念を記事で問いかけている。

 CBCの同日の報道は記述がより具体的である。
 最高裁はチャンドリカ大統領がLTTEとの協定を結ぶことを合憲としたことにまず触れ、その上で協定の4項目において憲法に抵触する部分があると指摘したとCBCは報じた。また、最高裁の今回の一時的な決定はノルウエーが主導する和平交渉を進展させ、同時に津波被害援助活動に支障がでないよう配慮した賢明な判断であると、より積極的な評価を与えている。
 CBCの記事は津波被害の3分の2がタミル・レベルの支配地域であるスリランカ北部東部に集中していることと、スリランカ政府とLTTEとがLTTE支配地域への援助を今年初めから検討していたことを報じた。

 18日のラジオ・オーストラリアは、また、違った見方をする。最高裁が共同機構P-TOMSをストップさせた後、LTTEは独自に、また直接に津波復興資金を世界から集める方向へ動き出したというのである。
 世界中の津波援助国は政府とLTTEが共同機構を作ればそこに援助資金を投入するとしていたが、それはLTTEが援助国によってテロ組織と認定されており、テロ組織には資金提供が出来ないための迂回案であるとしている。LTTEが政府と一体になればタミル地域への資金援助が可能となり、同時に双方の和平交渉も進展すると判断したと報じた。
 総額30億ドルという津波復興資金は合衆国と日本がその大きな提供国だが、この2国がP-TOMS共同機構設置のおぜん立てを図ったとラジオ・オーストラリアは報じている。
 
スリランカでの報道は---
コロンボページ・タミルネット・ランカートゥルース

 こうした西側援助国マスコミの多様な見解に対して、当事者であるスリランカ国内での報道はどうか。それがいたって冷静である。
 例えばコロンボページは23日、スリランカ政府が最高裁のP-TOMS協約一時留保の決定を受け入れると表明したことを報じている。また、今後、最高裁の最終決定がどのように出されても民主国家としてのスリランカはその決定を受け入れると政府筋の表明をを報じている。

 タミル・ネットは15日、「最高裁、P-TOMSに停止命令」というタイトルでこう報じている。
 停止命令の根拠は、援助資金の管理に関する問題、キリノッチに委員会を置くという設置場所の問題、復興計画の策定と実施を地域委員会に置くという意思決定の分化に生じる憲法問題にあると説明している。この訴訟がシンハラ・マルキストのJVP(民族開放戦線)とシンハラ民族主義仏教徒JHUによって起こされ、両党はP-TOMSが無効であり、破棄するべきと主張しているという点にまで言及しているのはタミルネットだけだ。また、最高裁のこの一時決定は9月12日に再審議されると報じられているが、審議の次の日程を記しているのはこのタミルネットと15日のAFPだけであった。この日程はスリランカの一大宗教イベント・ペラヘラ巡行が終了した後であることを意味する。

 17日のランカー・トゥルースは「最高裁、P-TOMSを裁定」というタイトルで、タミルネットの報道を更に詳しく掘り下げて報じている。
 それは例えば、MOU(協定覚書)7章の資金管理に対しての裁定で、憲法は149条に外国から受け取る資金はコンソル資金に預け入れなければなららいと規定しており、その管理も憲法とその準拠法に寄らなければならないとしているがMOU7章はそれに違反している、という指摘である。また、提供された資金の収支は憲法154条によって会計監査院の承認が必要であり、こうした処理によって健全で透明性のある資金管理が保証されるがこれも憲法に抵触する記述がMOUにあると指摘している。 


解説・かしゃぐら通信

 この覚書協定一部保留の一時的な決定が最高裁によって為される以前に、すでに米国と日本はP−TOMSへの融資を行わないとの表明を各大使館から出している。→探検隊No091
 これは9月12日の最高裁の審議を待つまでもなく、米国と日本にとってはP−TOMSへの資金融資が想定外になっているということだ。ただし、こうした状況の中でも、日本はこの24日、バドゥッラ地区の灌漑計画に9万ドルの開発援助を提供すると発表している。米国は個別に小額の津波復興資金をスリランカに供与しているが、この25日には5700万ドルの使途を限定しない国際開発局の包括的な資金を提供する。米国からの派遣ではないがクリントン元米国大統領は国連特使としてスリランカに何回となく足を運び、スリランカ東部北部復興に乗り出し、相応の資金提供を約束している。→探検隊No084
 スリランカ北部東部は米国がテロ組織の温床としている地域であり、先の津波災害が起こった直後、インドネシアから駆けつけた米国海軍が上陸調査を試みた地域でもある。このようにノルウエーが主導する方向とはまったく別の次元と方法で、さまざまな角度からの、時に唐突なまた計画的なスリランカの復興開発援助シンハラ人の言うプロジェクトが西側諸国の援助によって進められている。

 スリランカ政府は津波復興支援金の受け入れ口の名称をこの半年ほどの間に二転三転させている。政府がLTTEとの間に共同窓口を設置するたびに国内のシンハラ民族主義団体JVPなどから反対の意見が表明されるためだ。これでは資金受け入れが出来まいと危惧されるのだが、実際は、シンハラ地区においては被害世帯に対する一時金の支払い、住宅復興などが相次いで実施されており、津波に飲みこまれた鉄道もいち早い中国からの支援で復旧が進められた。日本もスリランカ南部の港湾の被害を調査し修復工事に必要な額を算定しているようだ。
 西側からの復興資金も政府調達や民間団体の援助などで潤沢に流入している。問題はクリントン国連特使が表明しているようにその使途の透明性と公平性の確保なのだ。
 カンディ会議で算盤がはじかれた30億ドルという復興資金の見積もりさえも、スリランカ政府が驚くほどの高額が西側諸国から提案されたもので、スリランカ政府がそれだけの資金を消化できるという見こみはない。さらに津波被害の3分の2はスリランカ北部東部に集中し、それはタミルとモスリムの居住地域であるということがここに至って明らかにされている今、復興支援が立ち遅れているのは、北部東部だということが明確になっている。スリランカ北部東部の行政権を掌握しきれないスリランカ政府には、自国でありながら手出しの出来ない援助復興先詰まりの状態が実際に生じている。
 こうしてみればチャンドリカ政権がLTTEとサインして発効させた協約は政治的に十分な意味を含んだものであることが覗ける。チャンドリカ大統領がUNPのラニル首相不在の時、軍を動かし一夜にして政権を奪取した出来事は記憶に新しい。タミルのテロで父を失い、また、爆破テロで片目さえ失ったチャンドリカ大統領の熟達した政治手腕は最高裁のP−TOMS一時停止というどっちつかずの裁定を条件なく受け入れ、9月の審理結果も受け入れると表明した。西側援助留保の意味がそこにある。
 すでに動きはある。25日、大統領官邸に東京会議の共同議長国4ヶ国の代表が集まった。ここでスリランカ政府は東京会議の決定に従い武装グループの解除に努力をしたことを述べると、大統領はLTTEの武装解除説得を進めるよう議長団4ヶ国の代表に要望した。自分たちは責務を果たした。西側諸国も東京会議の約束を履行してLTTEへの武装解除圧力を進めるべきと、やんわり諭したのである。この集まりには内閣の切れ者で雄弁なカディルガマル外相が同席したが、米国大使、英国高等弁務官、ノルウエー大使館代表、日本大使館代表の4氏はスリランカ政府の論に圧倒されたであろう。6月14日にワシントンのレイバン・ハウス・オフィス・ビルディングで行われたスリランカ復興援助国会議ではカトリ‐ヌ・ロッカが基調演説をし、双方の分断政策・信頼の欠如がスリランカ政府とLTTEの和平交渉成立を阻んだ、われわれ支援国は共同機構を断固支持すると述べたが、米国のその方針はすでに揺らいでいるからだ。

 JVPはかつての武装蜂起を思わせる熱烈なマルキスト民族主義を燃やして北部東部に対する憎悪を燃やしている。これに対して政府にはタミル地区とスリランカ政府支配地区に明確な線引きをするというかつての分割案を再び持ち出す様子がある。こうした変革の予兆の中で26日、マヒンダ・ラージャパクシャ首相が出身地盤であるハンバントータへの津波復興資金配分に827千ドルを不当に振り分けたとの疑惑で5時間、警察当局の聴取を受けたことをAP通信が伝えている。動きが加速している。

 チャンドリカ大統領は来月末、中国に1週間滞在する。中国に国賓として招かれ第10回北京女性会議への参加と上海視察が日程に組まれているが、目的はそれだけではあるまい。中国首脳との会談が目白押しである。
 8月の暑い夏を越えた時、TVを駆使した彼女の国民への語りかけがまた、聞かれるかもしれない。すべてはペラヘラのあとに始まる。 


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