QアンドA07
 発音の表記に一考を


『熱帯語』では日本語とシンハラ語の単語を比べて「同じかどうか」などと言われていますが、それはそれで宜しいのですが、本の中でのシンハラ語表記がカタカナでされているのはどうかと思います。国際音声字母で正確に表す必要があるのではないでしょうか。また、カタカナでのシンハラ語表記が正確にシンハラ語を表せるものかどうか、ここのところも検討が要るかと思います。(T.N)
 


No-07 2004-**-** 


ご指摘の通りです。
  以下、ご指摘が正しいことを認めた上での言い訳をさせていただきます。言い訳というのは、ご質問の趣旨が私の言う「日本語でシンハラ語が話せる」とはかけ離れてしまっているという事です。普通の人にとって訳のわからない発音記号を出してみても「外国語への拒絶」が起こるだけです。

  『熱帯語』でも触れさせていただきましたが、シンハラ語のカタカナ表記には無理があります。カタカナでは書き表せない音がシンハラ語には沢山あるからです。それを承知でカタカナを使いました。
 その理由は、カタカナであれば誰でも読める、ということにもっとも大きな理由があります。「そんなことしたら、発音が違ってしまうぞ」とお叱りを受けそうですが、発音が違ってしまうのは承知の上です。でも、多少の違いがあっても、カタカナ表記のメリットのほうが初心者には大きいのです。
 
 これも、また、『熱帯語』で触れたところですが、カタカナ表記で絶対の無理があるのは母音の”あ”です。シンハラ語には”あ”が沢山ある。日本語には、一つしかない。このことはもう、どうしようもない。つまり、発音記号で様々な”あ”の音をどう表そうが、様々な”あ”の響きを日本人は知らないから発音できないのです。これは表記以前の問題です。日本人の面子をたてて言えば、複数の”あ”音に接した日本人なら「この”あ”は別の音です」と簡単に添えておけば、このことをスウゥと分かってくれます。でも、大抵の日本人は日本語の”あ”以外には接していないし、言ったこともありません。言語の研究者だって色々な”あ”を、たとい職業柄で理解はしていても、或る言語に特有の”あ”音を実際には言えないということだって、現実には多いにある。あるんです。
 でも、それでもネイティブの人には通じる。通じるんです、実際に。
 なぜ通じるかと言うと、それは発音の体系が日本語と似ているからです。「あいうえお」が発音の基本だと言うことでは日本語もシンハラ語も変わりがないのです。また、単語一つ、音一つで会話をするようなことはまずないからです。会話は文で構成されますから、こちらの言う文意がだいたい通じると相手に聞こえない音があっても相手は自らそれをフォローして聞き取ってくれるんです。会話は言葉のキャッチボールですから、こちらが投げたボールに合わせて相手はグラブを動かします。そうしたことを聞く側は自動的にしてしまうのです。細かな発音の差に目くじらを立てるのは、職業アナウンサーには大切なことでも、会話で自らの意思を伝えたいと思っている人に対しては野暮なお節介なのです。

  『熱帯語』で「四つのアタ」のお話をさせていただきましたが、日本人が言う「アタ」は四つのアタ,四つのアタ、その文字
のどれに当るかシンハラ人には分かりません。でも、いいんです。なぜなら、話しの流れでそれとわかるからです。わからなければ相手は聞いてきます。「なんて言ったの?」って。それが会話なんです。ここからシンハラ語会話がもう始まっているんです。


 『熱帯語』では英和辞典にあるような発音記号を随所に入れました。本文に始めて出てくるシンハラ単語で大切だと思われる言葉にはカタカナ表記の後に発音記号を(野暮なお節介で)入れています。カタカナ表記だけでは足りない部分が確かに出てくるからです。もっとも注意すべきは母音のA音、子音のT音、D音、L音とR音です。ta tha da dha la ra の6音節
 日本人は大体みんなが中学校で英語を学んでいますから、英語の読みを教える時に使う発音記号をこうした注意すべき音が現れるとき入れたというわけです。


 私が『熱帯語』に挿入したタイプの発音表記は1960年代のスリランカでも使われています。シンハラ語を国の言葉と決めたとき、シンハラ語が話せない国内のシンハラ人にために英語で書かれたシンハラ語独習書が何冊も出されました。そこに『熱帯語』で使った発音記号が使われています。ですから、この慣用で使われる発音記号なら普通の日本人にも、シンハラ人にも読みやすいと思います。この点、ご指摘の国際音声字母は今のところ、ひどく一般的ではありません。大体、誰もが読めないでしょう。私の『熱帯語』は一般の方を読者として想定して書かれた本ですから、一般の方が読めないものを出してもなんの意味もないんです。

 さて、『熱帯語』の読者の方には、シンハラ語の音の感じがなんとなくイメージできて、さらにワン・ステップ上の音の感覚に近づきたいという方がおられることでしょう。ここをクリックすればシンハラ語のその音は英語でどう言うかということが分かります。スリランカ大使館が出しているシンハラ語ニュースを電話で聞くという手もあります。このページで音を流せばいいのですが、そうしたことに私のホームページ作成技術がまだ追いつかないというウラミがあります。ごめんなさい。
 『熱帯語』では日本語とシンハラ語の単語対応を個々に扱いましたが、それらの単語を
一覧表(ここをクリック)まとめたものがあります。日本語とシンハラ語の単語対応表ですが、シンハラ単語を楽に覚える時にとても役立ちます。とてもよく似ていますから。慣用の発音記号を併記しましたのでご参照ください。