【第三章 鎮痛療法の実際(マニュアル)】


 

【3.1】「鎮痛薬使用の原則」


 

【3.1.1】「鎮痛療法を始める前のチェック項目」


 
 各科の依頼により、癌終末期における疼痛緩和療法を行うにあたっては、まず、担当医、看護師と会って話を聞き、カルテの記載を丹念に読み以下のような事柄について情報を集めることから始める。
(1)これまでの病歴
(2)癌終末期であることの確認
(3)現在の身体症状
(4)現在の精神症状
(5)食事摂取の可否
(6)夜間の睡眠の可否
(7)病名の説明の問題
(8)社会的な悩み
(9)家族関係
(10)他の患者や医療スタッフと感情のもつれなどで険悪になっていないか
 次いで患者を訪問するが、最初の訪問は担当医、看護師と同道し、紹介をしてもらう。

,がん終末期の症状コントロール(1995),,,27

 
      参照→【2.2.1】「モルヒネ服用時の患者指導」



【3.1.2】「モルヒネの開始時期」


 
 強い痛みがあるとき、あるいは非ステロイド性消炎鎮痛薬などの非オピオイド鎮痛薬やコデインなどの弱オピオイド鎮痛薬が十分な効果をあげない痛みの場合に、患者の予後の長短にかかわらずモルヒネを投与し始める。
,最新医学(1992),45,4,822

 

【3.1.3】「鎮痛の目標(まず夜間の良眠から)」


 
【3.1.3】
 癌性疼痛の治療目標は、痛みが消失した状態を維持し、患者の生活内容を出来る限り平常の状態に近づけることである。次のような段階的な目標を設定して治療を進めるのが実際的であり、治療開始にあたり患者に説明しておくことが大切である。
 1,まず、夜間の良眠を確保する。この目標は2〜3日で達成可能。
 2,次いで昼間の安静時の痛みを消失させる。これも2〜3日で達成可能
 3,最後に、身体を動かしても痛まない状態を維持する。これは3〜7日で達成可能。
これらの目標、特に目標3、は全患者で達成されるとは限らない。しかし、すべての患者に大幅な改善をもたらすことは出来る。

,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,192

 
【3.1.3】
 体動による痛みはモルヒネに反応しないことが多い。これをモルヒネでコントロールしようとするとかなり多量の投与が必要となり、患者は安静にしていると眠くなってしまう。
 そのため投与量の調節は、体動時の痛みよりも安静時の痛みの除去にむけバランスをはかりながら行う

,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,185

 
 

【3.1.4】「モルヒネ製剤の投与原則」


 
【3.1.4】
 癌患者には、ヘルペス後神経痛のようにモルヒネに反応しない痛みや、骨転移のようにモルヒネにある程度まで反応するものの、補助薬を追加しないと痛みの消失が維持しにくい痛みも発生するが、大多数の痛みはモルヒネによく反応する痛みで、癌疼痛の90%以上に有効である。この痛みにモルヒネを投与するには、次のような基本原則を守らない限り、良い除痛成績は得られない。

1.なるべく簡便な経路で投与する。経口投与を基本とし、経口投与が不可能なときは直腸内投与、それもできないときに注射とする。
2.少量(5〜10mg/回)で投与を始め、効果と副作用を見ながら、漸増し、5時間にわたって除痛が維持される量に達する。この量には著しい個人差がある。
3.時刻を決めて規則正しく投与し、頓用を避ける。
 塩酸モルヒネの散剤、錠剤、水溶液の場合は4時間ごと、MSコンチンの場合は12時間ごとの投与とする。
 これにより効果、副作用、実地上の便宜の間にバランスがはかれる。
4.効力の順に薬を選択する。非オピオイド、弱オピオイドが効果をあげないときモルヒネ(強オピオイド)を用いる。
5.副作用を計画的に防止する。
6.適応があるときには鎮痛補助薬(抗不安薬、抗鬱薬など)を併用する。

,臨床と薬物治療(1990),,58,26

#1
【3.1.4】
 (WHOの基本5原則)
(1)経口投与を基本とすること(by mouth)
(2)痛みの強さに応じた効力の鎮痛薬を選ぶこと(by the ladder)
(3)患者ごとに適量を求めること(for the individual)
(4)時刻を決めて規則正しく投与し、頓用指示をしないこと(by the clock)
(5)以上4原則を守った上で、細かい配慮(以下a〜h)を行うこと(attenntion to detail)
 a)痛みの原因と鎮痛薬についての正しい情報を提供すること
  ・除痛効果の判定者は患者であり、医療側の判断は患者の表現に基づく。
  ・治療チームの一員としての役割を患者が理解できるよう、わかりやすく説明し、
   協力を求める(インフォームド・コンセント)。
 b)患者の状態の変化を監視し、治療効果の判定を頻回に行うこと
 c)強い痛みから1つずつ対応していくこと
  ・それぞれの痛みが同じ機序で発生しているとは限らない。
  ・1つの痛みが軽くなると、他の痛みが強くなったり、新しい痛みが発生すること
   もある。
 d)鎮痛薬の副作用に対する防止策を確実に実施すること
 e)必要に応じて鎮痛補助薬を併用すること
 f)禁忌でない限り、NSAIDsを併用すること
 g)不眠の解消を図ること
 h)患者の心理面の変化にも配慮すること

,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,47
 
#2
【3.1.4】
 コデインを服用していない患者の場合、高齢者や全身状態低下例ではモルヒネ内服量10〜20mg/日から、それ以外は30mg/日から定時投薬を開始する。
 モルヒネ定時投薬によっても十分な鎮痛を得ることができないならば1日投与量を前日の30〜50%増加させる。または、1日投与量の5〜15%の臨時追加投与(レスキュー・ドーズ)を行う。
,Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000),,,54

          参照→【3.1.8】「レスキュー」

【3.1.4】
 経口モルヒネの増量順序(1日量)
 60mg/日を標準投与開始量として、高齢者や全身衰弱が強い患者、肝や腎の機能低下がある患者では30〜40mg/日ないしそれ以下とする。以降、以下に示すような形で増量する。
 30または40←60mg/日→80または90→120→180→240→360→480→600→780→960→1200→1500→1800....mg/日
,医療麻薬の利用と管理’95(1995),,,74

      参照→【2.2.1】「モルヒネ服用時の患者指導」
 
#2
【3.1.4】
(モルヒネ開始法)
 コデインなどの弱オピオイド鎮痛薬を使用せずに初めてオピオイド鎮痛薬を使用する場合はモルヒネ水溶液で少量から始めるのがよい。1回量を5mgとし、1日30 mg/分5、6-10-14-18-22時(22時に2回分)が基本的開始量である。内服後10分以内に鎮痛効果が出現し、鎮痛効果が約4時間持続するのが適切な量と考えられる。

,モダンフィジシャン(2003),23,3,327


 【3.1.4】
 モルヒネを処方した場合の最初の処方量はいまだに少なすぎることが多い。経口投与開始量は60mg/日、全身衰弱の激しい患者や高齢者では30〜40mg/日とすべきである。
,癌患者と対症療法(1995),6,1,53

 
【3.1.4】
 モルヒネの増量は一般に50%増、少なくとも33%増とする。増量しても効果があまりあがらないと、時間が無駄になるばかりか患者の信頼を失う。
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,193

#2
【3.1.4】
(少量のモルヒネで開始すると嘔気が多い)
 投与初期の少量のモルヒネで嘔気が多いことについては、比較対照試験などによる臨床的検討は行われていませんが、多くの医師が吸収の速い皮下注射でのモルヒネ投与よりも吸収のゆっくりな経口投与のときに嘔気が多いという印象をもっています。動物実験によるとモルヒネの50%有効鎮痛用量を1としたとき、消化管輸送能抑制作用、すなわち止瀉作用の50%有効用量は0.02、嘔気・嘔吐に関係すると考えられる脳内ドパミンの変化の50%有効用量は0.1で、これらの副作用はいずれも鎮痛用量よりも少ない量で発現することになります。一方、行動抑制の50%有効用量は2.6、呼吸抑制作用の50%有効用量は10.4で、これらが起こるのは鎮痛用量よりも高用量によってであり、50%致死量は357.5ともっと大量です。これらは動物実験におけるデータですが、参考になるデータです。このような説明から、モルヒネを恐れるあまり少なすぎる量で経口モルヒネを開始すると、鎮痛が少しも得られていないのに嘔気ばかりが起こり、患者に不利益をもたらすことがありうると考えられます。ガイドラインやマニュアルが指示している経口モルヒネ投与開始量30〜60mg/日よりも少ない量で開始することをできるだけ避けるべきこと、経口モルヒネ投与開始時から制吐薬や緩下薬の併用が必要とされている背景を理解しやすくさせてくれる考え方です。
,Q&Aがん疼痛緩和対策のアドバイス 第2版(2002),,,23

#2
【3.1.4】
(モルヒネ経口投与開始)
 1日量5〜10mgなど少なすぎる量で開始すると、患者が鎮痛効果を実感する前に嘔気が現れることがある。
 速放性経口用製剤は1日量を6分割して4時間ごとに投与する。投与開始後、遅くとも翌日には効果を判定する。在宅患者での効果判定は、往診時だけでなく電話なども活用して行う。(財団法人 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団)
,がん緩和ケアに関するマニュアル(2002),第4章[4.4
 
#2
【3.1.4】
 (徐放性モルヒネ製剤による嘔気の発生)
 徐放性製剤は腸管内でゆっくりとモルヒネを放出するため、lag time (服用から鎮痛効果が現れるまでの時間)が1時間以上と、速放性製剤のlag timeの数分間に比べ著しく長い。このことから、徐放性製剤の初回投与後には、鎮痛が得られる前に嘔気が起こってしまうことがあるのではないかと推測されるが、これを証明する比較対照試験は行われていない。
,がん患者と対症療法(2002),13,2,68

      参照→【第六章 モルヒネが効かない場合(痛みの分類、鎮痛補助薬)】

 
 

【3.1.5】「WHO癌疼痛治療指針について」


 
【3.1.5】
 WHO癌疼痛治療法はNSAIDs、コデイン、モルヒネを使用することは比較的広く浸透しているが、この3種類の薬剤を別々に使用するわけではなく、これらの薬剤を組み合わせて使用するように組み立てられている。すなわち、コデイン、モルヒネに必要に応じてNSAIDsを併用することが出来るようになっている。
,がんの症状マネジメント(1997),,,25

 
【3.1.5】
 WHOの3段階癌疼痛治療指針は、薬の効力によって順を追って選択するという面だけではなく、痛みの強さによって選択するという両面の原則があることを忘れてはならない。
 すなわち、癌患者で骨転移に伴う強い背部痛をもち、それまで疼痛治療を受けていないという症例の場合、NSAIDsから始める必要はなく、その痛みの強さに対応するため初回から強オピオイドであるモルヒネを使うべきである。

,Cancer Pain Symposium in Tokyo(1994) より

 
【3.1.5】
 NSAIDsからリン酸コデインへ、そしてリン酸コデインからモルヒネへという道筋は、モルヒネの投与経験が少ない研修医などが安全にオピオイド使用するための道しるべにすぎない。モルヒネに習熟したらモルヒネから始めてかまわない。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,48

 
【3.1.5】
 WHO癌性疼痛治療法で第1段階から第2段階へのステップアップする場合、各鎮痛薬の効果は、1〜3日で評価する。
,がんの症状マネジメント(1997),,,38

 
【3.1.5】
 ソセゴンを癌疼痛に使用することは、現在否定的意見が多く、WHOでも、その作用持続時間の短さから除外している。
,癌疼痛治療におけるモルヒネの使い方(1991),,23

 
 

【3.1.6】「モルヒネ増量のターニングポイント」


#1
【3.1.6】
 「WHO方式癌疼痛治療法」では経口投与量に換算してモルヒネ120mg/日を投与しても十分な鎮痛が得られない場合、鎮痛を目的として使用する第一種鎮痛補助剤(抗鬱薬、ステロイド、α2アドレナリン作動薬、抗不整脈薬、抗痙攣薬、GABAB受容体作動薬、NMDA受容体作動薬、その他)の投与を推奨している。
,オピオイド治療(2000),,,63

#1
【3.1.6】
 (WHO方式の薬物療法継続の可否を再考する基準の設定)
 モルヒネが効かない・効きにくい痛み、あるいはモルヒネによる副作用が強い痛みが、神経ブロックなどの非薬物療法の適応ならば、それまで継続してきたモルヒネを増量すべきか、新たな治療法を追加すべきなのかを再検討する(turning point)基準の設定が必要となる。
 原則として、経口投与量に換算して120mg/日のモルヒネを使用しても十分な除痛が得られない、あるいは十分な副作用対策を行ってもモルヒネの副作用のためにモルヒネを増量できない場合には、モルヒネ以外の治療法を考慮する。
 これまで本邦で報告された経口ならびに静注のモルヒネ至適投与量をみると、経口投与で100mg/日で60〜70%、200mg/日では80〜85%、静脈内投与では50mg/日で約70%、100mg/日で80%の患者の痛みがコントロールされている。
 これらの結果の検討から、日本緩和医療学会ガイドライン作成委員会では経口投与量に換算して120mg/日という投与量をturning pointとした。
 したがって、経口投与量に換算して120mg/日を越えても痛みのコントロールが不十分、あるいは副作用が強い場合には、鎮痛補助薬の追加、あるいは神経ブロックなどモルヒネ以外の鎮痛法の適応を考慮する。

,Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000),,,108

#1
【3.1.6】
 (モルヒネの効かない、または効きにくい痛み)

・WHO方式は一網打尽の鎮痛法
 癌患者の訴えるほとんどの痛みがモルヒネによって鎮痛されるので、痛みの検査などでいたずらに患者を苦しめるよりは、「まずは鎮痛薬を投与する。それでも鎮痛されなければ、躊躇なく麻薬を使用せよ」というのがWHO方式の基本概念である。すなわち、モルヒネの効かない、あるいは効きにくい痛みが含まれるのを承知のうえで、一網打尽方式でモルヒネを投与するという、通常の痛みの治療の概念を覆す素晴らしい英断である。
 そのためには「どのようにしてモルヒネの効かない痛みを判定するのか?」という明確な基準が必要となる。しかし、モルヒネの効果が少ないといえば、「モルヒネの使用量が少ないからだ。モルヒネには有効限界(ceiling effect)がないのだから、もっと増量しろ」といわれる。眠気などの副作用が強いのでモルヒネの増量をためらうと「副作用対策が不十分だ」という答えが返ってくるだけである。
 
・モルヒネによる鎮痛治療の見直し基準
 モルヒネ投与の限界として強い眠気あるいは傾眠が1つの指標とされているが、あまりにも主観的、曖昧な症状である。そこで、宮城県立がんセンターでは呼吸数縮瞳を指標としている。睡眠時の呼吸数が10回/分以下あるいは瞳孔径が3mm以下になれば警戒、呼吸数5回/分以下あるいは瞳孔径が2mm以下は中止としている。
 オピオイド投与開始時の呼吸数の減少を伴わない眠気は、除痛によるための代償性の症状と考えられるので、オピオイドを減量する必要はない。便秘、吐き気はモルヒネ投与時の必発症状なので基礎併用薬の予防的投与とともに対症療法で対応すべきで、オピオイドを減量してはならない。
,疼痛コントロールのABC(1998),,,318


【3.1.6】
 疼痛にモルヒネを使用している場合、モルヒネをさらに増量するべきか、または他の治療を併用すべきかどうかを再検討する基準(ターニングポイント)の設定が必要である。

 ターニングポイントの相対的基準として、経口投与に換算して120mg/日の時点において、モルヒネの鎮痛効果が不十分、あるいは十分な副作用対策にもかかわらず副作用が強くモルヒネを増量できない場合とする。この場合、モルヒネの増量だけではなく、モルヒネ以外の治療法の併用を考慮する。

 ターニングポイントの絶対的基準として、 呼吸数が6回/分、瞳孔径2mm以下とする(モルヒネ投与量が120mg/日以下でも)。この場合、モルヒネの限界投与量と考え、モルヒネの増量を中止すべきである。

,緩和医療(1999),1,2,65

(注:上記設定の”120mg/日”はモルヒネ投与の原則である「モルヒネを開始して数回の増量で全く効果が出ない場合は、他の治療を考慮する」を具体的に数字で表したものとも言える)


 

【3.1.7】「痛みの客観的な評価」


 
【3.1.7】
 痛みの客観的な評価法としてVAS法がある。10cmの線を用い、両端を「無痛」と「最大の激痛」にして患者に「しるし」をつけさせる。最も単純だが再現性に富み患者にも分かりやすく他の測定法ともよく相関する。スケールの中間を「中等度の痛み」とするが、患者に先入観を与えないためスケールには番号や区切りをつけない。スコアを2回め以降つけさせるときは最初のスコアと対比させて2度目以降のスコア付けをさせた方が時間がたつことによる過大評価を防ぐといわれている。<br> ,がんの「いたみ」克服の知恵(1998),,19

 
【3.1.7】
 Verbal Numerical Scale はVAS法(Visual Analog Scale)と似た方法で、”0”を無痛、”10”を最大痛として、痛みの評価を点数で患者に評価させるもの。VAS法より簡便で、しばらく使っていると患者の方が慣れてきて「今日の痛みは3です」などと答えてくれる。
,Cancer Pain Symposium in Tokyo(1994) より

#1
【3.1.7】
 痛みの評価は三次元的に考えたほうがよいと思う。
 1つは、強さの評価。強さの評価というのは、強さの変化を捉えることで、治療が有効であるかどうかが評価できる。まったくかわらなければ、それは無効であるし、少しの改善であれば、さらに治療を進めていく必要がある。薬物療法であれば、増量によってさらに鎮痛効果が認められる可能性がある。
 2番目は痛みの性質。発痛メカニズムによる痛みの性質の違いによって治療薬の選択にとても有用である。
 もう1つとても大切なことは、痛みによって患者に何が起こっているかを評価すること。一般的に痛みの評価は1番目の痛みの強さだけに偏っている。患者に繰り返し痛みの数字の強さだけを聴いていくと、患者は自分をみてくれているのか、数字をみているのかわからなくなってしまうという。1〜10の10段階評価で10の痛みを訴えた患者が、自分でトイレにいけなくて、若い看護師に下の世話までされて、とても苦痛で耐えられない、せめて下の世話だけは自分でしたいと思ったときに、痛みが7になった。痛いけれども、トイレにいけてとてもよかったと思うことができれば、それは1つ目標をクリアしているわけである。それで十分かというと、もう少し楽に洗面もしたいとか、またその次の目標が出てくる。そうしたら、新たな目標をもって生活を取り戻していくというプロセスが、治療の評価の1つになっていくだろうと考えている。単に1から10までの間の変化だけでなくて、それによる生活の変化もきちっとみなければいけない。

,非ステロイド性抗炎症薬の選択と適正使用 改訂第3版(2002),,,5

#2
【3.1.7】
(痛みの評価)
 私がいつも問題だと思っているのは、痛みの評価方法です。現在は、数字による痛みの強さばかりに評価が偏っているように思えます。
 たとえば、経験した最悪の痛みを10として、現在の痛みを数字で尋ねるNRS (Numerical Rating Scale)という方法がよく用いられますが、数値が下がれば、結構楽になったのだと感覚的に思いがちです。
 しかし、「まだ痛くて眠れない」と患者さんが言えば、治療は有効でも、その人の痛くて眠れないという一番大きな問題はまだ何も解決されていないことになります。つまり、それが数字で評価するときの落とし穴になってしまうのです。
 治療の十分さとか、痛みのために障害されている問題を解決する、問題を解決して回復に向かわせるという意味では、「痛みの影響」の評価を行なう必要があります。「痛みの影響」の評価に関する情報は、患者さんとの会話のなかにたくさん出てきます。たとえば「歩けるようになりましたか?」と尋ねたときに、患者さんが「前は痛みをがまんして歩いていましたが、ずいぶん楽になり、最近では階段も上がれます」と答えれば、「階段も上がれるぐらい痛みが改善したんだ」と確認できるわけです。こうした確認は、単に数字が8から4になったという評価とは違います。このように、痛みの強さ一辺倒の評価ではなくて、痛みによって起こっている障害がどれぐらい解決されているかを評価することも、非常に大切だと思います。

,Medical News(大日本製薬)(2003),376,,7

 
【3.1.7】
 在宅癌治療の場合、痛みの評価は生活状況の中で総合的に患者自身が判断し、痛みのない状態を目的として、本人または介護する家族に1日1回もっとも痛みの強い時を基準に記録してもらう。
,癌患者と対症療法(1995),6,1,28

#1
【3.1.7】
 (除痛効果について注意すべき点)
 患者は遠慮しがちに除痛効果を伝えるのが普通である。特に医師に対して除痛効果を過大に伝える。
 同じ患者が、医師に対して、「薬はよく効いていると思います」
 看護師に対して、「まあまあ効いているようです」
 家族に対して、「思ったほど効かないよ」という。
 したがって、除痛効果についての患者への質問は、いろいろな職種が行うべきである。
 各人に同じ答えが返ってくるのは、「痛みは、すっかりなくなりました」だけである。
,がんの痛みの鎮痛薬治療マニュアル(1994),,,40

 
 

【3.1.8】「レスキュー」



#1
【3.1.8】
 鎮痛処方としては、1日中緩やかな波を伴って持続する痛みを抑えるための「基礎となる鎮痛薬」だけでは患者の満足を得ることは困難で、ときとして襲ってくる大波(突発痛、incident pain)に対する「臨時の速効性の鎮痛薬」を、患者の判断で即刻服用できるように別途処方して、持参させておくことがきわめて大切となる。
 大波が次々に押し寄せてくるような時期(この後で痛みが一段階増強するのでbreakthrough painともいう)はもちろん、「基礎となる鎮痛薬」だけでほぼ全日にわたって痛みが緩和できているときも、患者は大波(incident pain)がいつ襲ってくるかと恐れているので、「臨時の速効性の鎮痛薬」はきちんと別途処方して持たせておくことが大切である。このように別途処方する「臨時の速効性の鎮痛薬」のことをレスキュー(お助けマン)とよぶのである。
 このように癌疼痛治療、とくに侵害受容性疼痛を主たる発痛メカニズムとする癌疼痛のオピオイド療法は、長時間安定した鎮痛効果を発揮するオピオイド製剤の定期的な服用と、速効性のオピオイド製剤の頓服の組み合わせからなると考えればよく、このどちらが欠けても、オピオイド療法は成り立たないと考えるべきである。
,臨床と薬物治療(2002),21,10,74

#1(注:レスキューは当初「投薬初期において、定時鎮痛薬の不足を補い、速やかに定時鎮痛薬の適正量を決定するための手段」として理解されていたが、それに加えて最近では「いつ来るかわからない突発痛に対する臨時の速効性鎮痛薬」の意味が強調されている。この意味ではレスキューは投薬初期のみに使う処方ではなく、常に必要なものである。また突発痛に使用した場合は、レスキュー分の翌日への上乗せ増量は、必ずしも必要ではない)

#1
【3.1.8】
 (レスキューの意義)
 レスキューの第一の意義は、突発痛に対する対処法を患者自身に持たせることで、突発痛の苦痛を素早く自力で回避することにある。患者に、自分自身が主体的に治療に参加しているという体験をしてもらうことにもなる。
 第二の意義は、レスキューの使用状況とその鎮痛効果が、痛みの指標(インディケーター)になることである。頻回のレスキューの使用は、侵害受容性疼痛がブレークスルーしつつあるか、モルヒネに反応しにくい発痛メカニズムが絡みこんできたと判断する根拠となる。
 このように、レスキューを指導して実践させ、その実践状況を把握していることは、オピオイド療法の処方設計に欠かせないものであり、患者か介護者に、レスキュードースの使用状況や痛みの程度、レスキューの副作用と思われることがらについて簡単な記録(痛み日記)をつけてもらうと非常に役に立つ。
,臨床と薬物治療(2002),21,10,77

 
【3.1.8】
 モルヒネの開始にあたってMSコンチンを使う場合はレスキュードーズ(臨時追加投与)という考え方を是非利用してもらいたい。
 MSコンチンは12時間投与のため、投与量が少ないために生じる疼痛の出現に対処できない。またこれにMSコンチンで対処しても効果発現まで2時間かかってしまう。このとき、1日量の1/5〜1/6のモルヒネ散、液、錠(速効錠)を臨時追加投与として使う。このような方法で短期間に適切な量を決定していく。
,医療麻薬の利用と管理’95(1995),,,22

 
【3.1.8】
 「痛むときだけ使う頓用」と「不足を補うための頓用」は鎮痛に対する姿勢がまったく異なる。
 癌の痛みを継続的に管理していくためには「不足を補う頓用」すなわち「レスキュー」を使いこなすことが不可欠である。「レスキュー」が「痛むときだけ使う頓用」と大きく異なるのは、1日あるいは数時間に必要としたレスキューの合計から、あとどのくらい鎮痛薬が不足しているかを予測し、患者ごとに異なる至適投与量を速やかに決定することが出来る点にある。
,がんの症状マネジメント(1997),,,73

 
【3.1.8】
 モルヒネのレスキュー投与量は1日の投与量の1/6を1回とする方法や5〜10%を1回量とする方法がある。通常は前者で問題ないが、高齢者、衰弱患者、腎機能悪化例では後者を参考にする。
,がんの症状マネジメント(1997),,,76

 
【3.1.8】
 レスキューの投与間隔とは、効果が不十分な場合、最短どれくらいの間隔で次のレスキューを使ってよいかということである。
 レスキューは基本的に、モルヒネ末(水)を用いるので、最大の効果がみられるのは投与後30〜60分以内である。したがって、1時間毎にレスキューの投与を繰り返すことが可能である。
 最大効果がみられる時間を過ぎてしまえば、その後いくら待っても鎮痛レベルの改善を期待することは出来ない。

,緩和医療学(1997),,,53

#1
【3.1.8】
 (レスキューの服用間隔)
 レスキューの服用可能な時間間隔については、2時間、4時間のほかに、塩酸モルヒネ散の最大血中濃度到達時間である1時間待ってもなお強い痛みがとれないときは再度服用可とする意見もあり、この意見はもっともなことである。しかし、オピオイド療法に慣れて患者指導に自信がつくまでは、4時間あければ再度服用可としておくほうが無難であろう。オピオイド療法に習熟し、患者指導に自信がつくにつれて、服用間隔を2時間さらには1時間と短縮すればよい。

,臨床と薬物治療(2002),21,10,77

 
【3.1.8】
 モルヒネのレスキューの使用回数は基本処方を増量するための基礎データとなるため、投与間隔は必ず指示する。使用回数に制限はない。(必要なだけ使うことが目的)
,がんの症状マネジメント(1997),,,77

#2
【3.1.8】
 レスキュー量としては内服の1日モルヒネ量の1/6を1回量とすることが原則であるが、端数が出る場合は5mg単位で用量設定することもよい。
 また、レスキューの投与間隔については、即効性モルヒネの最高血中濃度到達時間が30分と言われており、安全域を考えて1時間を空ければ次のレスキューが可能と考えられる。
 なお、レスキューによって鎮痛効果が現れず、傾眠傾向が増強する場合は、モルヒネ無効の疼痛である可能性が高い。

 
【3.1.8】
 モルヒネのレスキュー投与で、その鎮痛効果がほとんどなく、傾眠傾向ばかり増強するようであれば、モルヒネが無効である可能性が高い。このような場合は無理にレスキューを追加せず、鎮痛方法の再評価が必要である。
,がんの症状マネジメント(1997),,,77

#2
【3.1.8】
 投与開始から24時間以内に2回以上のレスキュー・ドーズ(臨時追加服用)が必要であった場合には、定時服用量を30〜50%ずつ2〜3日ごとに増量する。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,422

#1
【3.1.8】
 最近、アンペック坐剤をレスキュードーズとして使う医師がいるが、賛否の分かれるところである。
 原則としてアンペックは30分たたないと血中に現れてこない、1時間半たたないとピークに達しないので、患者から「次はいつ入れていいですか」と質問があった場合、「1時間半は様子をみなさい。 2時間たったら次の薬を追加してください」という指導になってしまう。このため筆者はアンペック坐剤をレスキュードーズに使用しない。
,ホスピスケアの実際(2000),,,153

#1
【3.1.8】
 (注射のレスキュードーズ)
 注射の場合にはワンショットにより一過性に血中濃度が上昇するため、呼吸抑制の発現に対する注意深い観察が必要であり、特に眠ったまま継続すると呼吸抑制を生じかねない。そのため、持続静注や持続皮下注の場合には、経口と同様の考え方でrescue doseを算出する危険性が指摘されている。実際には、1時間分を早送りすることが多いようである。

,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,232

 
【3.1.8】
 モルヒネの持続点滴などで鎮痛を行う場合、不足分を補うという意味で経口と同じ考えでレスキューの量を示すことは出来ない。モルヒネのワンショットやポンプの早送りを行う場合には、一定の投与速度で頓用を投与し、鎮痛が得られた時点で一時投与を中断し、その後に痛みが発現するまでの時間から持続投与量を増量していく。注射によるモルヒネの頓用投与は、連続した十分な観察が必要であり、一般的には危険である。
,がんの症状マネジメント(1997),,,80


【3.1.8】
 持続静注や持続皮下注でモルヒネ投与を行っている症例で、疼痛を訴えた場合の対処は経口の場合のレスキューとは異なる。
 仮に1日量の1/6を頓用として急速に静注した場合、大変危険である(10mgを30分で投与すると480mg/日の投与速度に相当する)。この場合、基本的には持続の投与速度を速めることで対処すべきであり、頓用は勧められない。

,ターミナルケア(1996),6,1,45

      参照→【オキシコンチン錠の概算レスキュー開始量】
 
 

【3.1.9】「モルヒネを服用後に嘔吐(坐剤挿入後に排便)があった場合の対処法」


#1
【3.1.9】
(モルヒネ水)
 モルヒネ水を服用後嘔吐した場合は、服用後約10分以内に吸収が開始されるため、それ以前に嘔吐した場合には、同量を再度服用する必要がある。
 逆に服用後30分を経過して嘔吐した場合には効果にほとんど影響はないものとして、患者に説明している。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,243
(注:散、速効錠もこれに準ずると考えられる)

#1
【3.1.9】
(MSコンチン錠)
 嘔吐によりMSコンチンを吐き出している場合は再度同量を服用する。しかし、嘔吐物中にMSコンチン錠を確認できない場合には、患者の除痛状況により再投与を検討する。
 MSコンチン錠のラグタイムから考えて、服用後1.5時間以内に嘔吐した場合には、期待する鎮痛効果が得られない可能性もあり、特に注意を要する。 MSコンチン錠のTmaxである3時間を経過した後に嘔吐した場合には、すでに疼痛コントロールの良好な患者であれば、再投与せずそのまま経過を観察し、痛みが出現した時点で同量を服用する。これ以降の服用時刻は追加服用した時間を基準に調節する必要がある。
 一方、十分なコントロールが得られていない患者であれば、モルヒネ量が不足しているため追加投与する。追加投与量は増量の基準に準じて1.5倍量とするが、副作用の発現を考慮して、嘔吐したモルヒネも100%吸収したものと考え、1回服用量の半量を基本として追加する。例えば、40mg分2服用の患者では10mg、90mg分3服用の患者では半錠にできないので30mg錠を1錠である。

(アンペック坐剤)
 挿入後約30分から塩酸モルヒネが吸収されるため、それ以前に排便した場合には同量を再度挿入する。溶出試験の結果、60分後の放出率は95%、Tmaxは1.3〜1.5時間であるが、放出された塩酸モルヒネが直ちに吸収されるわけではなく、Tmaxの後も吸収が続いていることも考えられるので、再投与を必要としなくなる時間を明確に規定できない。そのため、挿入後30分以降に排便があった場合には、痛みを再投与の判断基準とし、投与量はMSコンチン錠の場合に準じている。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,227
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,243

 
【3.1.9】
 アンペック坐剤を挿入した後30分以内に排便があった場合は、新しい同用量の本剤を挿入する。
 挿入2時間以降に排便があった場合は、再挿入する必要はない。
,がんの症状マネジメント(1997),,,70

 
 

【3.1.10】「モルヒネの減量のマニュアル」


#1
【3.1.10】
 鎮痛を目的としてモルヒネなどのオピオイドを長期にわたって反復投与すると身体依存を形成するため、たとえ30mg/日のモルヒネの内服量であっても突然の中止により退薬症候が発現する。
 そのため、モルヒネの急激な減量や中止を行わないのが原則であり、減量過程においては、退薬症候の出現と痛みの評価を同時に行いながら、慎重に漸減する必要がある。
 減量に要する期間は、患者の状態を十分に観察しながら、モルヒネの投与量が100mg/日以下の場合は最低1週間以上。100〜300mg/日の場合は2週間以上、300mg/日以上の場合は3週間以上の期間をかけた漸減法が推奨されている。

,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,214

      参照→【3.1.11】「モルヒネの退薬症状」
#1
【3.1.10】
 退楽症候を惹起しないためには、モルヒネを急激に減量・中止しないのが原則である。
 また、減量・中止の際には必ず疼痛の評価を行い、化学療法、放射線療法あるいは神経ブロック療法などが奏効し、明らかに疼痛が軽減している場合に限って行うべきである。
 実際の減量方法に関しては様々な報告があるが、一般的には、1日投与量を1/2〜2/3量に減量し、1日投与回数(投与間隔)は変更せずに2〜3日間経過観察する。この段階で疼痛が再発した場合には、最初の投与量に戻す(ただし、2回目以降の減量過程における疼痛発現時には、疼痛発現のなかった前段階の投与量に戻す)。疼痛が再発しなければ、さらに1/2〜2/3量に減量し、2〜3日間経過観察する。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,100

 
【3.1.10】
 (モルヒネの中止法)
 投与量の50%減量を2〜3日ごとに(投与間隔は変えない)、1日40mg程度まで減量したら、投与回数を半減し中止する。一度にそれまでの投与量の25%以下に減量すると退薬症状を生じる可能性がある。
,痛み治療マニュアル(1993),,,57

 
 

【3.1.11】「モルヒネの退薬症状」


 
【3.1.11】
 (ヒトにおけるモルヒネの退薬症状)
  軽 度:あくび、流涙、鼻漏、発汗
  中等度:振戦、鳥肌、食欲不振、散瞳
  強 度:落ち着きのなさ、不眠、過高体温、呼吸数増加、血圧上昇
  重 篤:嘔吐、下痢、体重減少
,癌性疼痛のコントロール(1993),,,63

#1
【3.1.11】
 (モルヒネの退薬症状)
 身体症状として、あくび、くしゃみ、めまい、掻痒感、散瞳、異常発汗、鼻漏、流涙、流涎、胃液分泌亢進、鳥肌、悪寒、悪感、熱感、発熱、高熱、下痢、腹部痙攣(腹部痛)、胸部苦悶感、食欲不振、嘔吐、頻脈、心悸亢進、不整脈、血圧低下、振戦、ミオクローヌス、身体疼痛がみられる。
 一方、精神症状として、不安感、不快感、倦怠感、抑鬱、無気力、違和感、易刺激性、興奮、不眠、せん妄、意識混濁がみられる。

 退薬症候の発現順序として、身体症状の中では頻脈、異常発汗、嘔吐などの自律神経系症状が比較的早い時期に発現し、その後にせん妄などの精神症状が発現すると頻告されている。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,99

【3.1.11】
 モルヒネの退薬症状は、早ければ投与中止後の5〜6時間後から始まり、最初の3日間が最も強く、身体症状は約1週間で軽快するが、睡眠障害、抑鬱、無気力、違和感、不安易刺激性などの精神症状は数ヶ月にわたって残存することがある。また、退薬症状の種類やその強さには個体差があり、必ずしも使用期間や使用量と関連しないとされる。
 退薬症状が疑われる場合、モルヒネの増量によって症状が改善すれば退薬症状と診断され、長期反復投与時の1/4量が投与されていれば、退薬症状の出現を防止できるとされている。

,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,237
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,268


【3.1.11】
 オピオイド耐性、依存性は、臨床的にはモルヒネ投与中止5〜6時間後から3日間が最も強く、身体症状は約1週間で軽快する。睡眠障害、抑鬱、無気力、違和感、不安、易刺激作用などは数カ月にわたって残存する。モルヒネの増量によって症状が改善されれば退薬症状と診断される。
,臨床と薬物治療(1998),17,4,83

#1
【3.1.11】
 モルヒネの退薬症状(withdrawal syndrome)
 このようなときは、減量前のモルヒネ1日量の1/4〜1/5量を注射薬換算し(例えば120mg内服していた場合は1/4量30 mgの1/3で10 mgを)30分から1時間で点滴静注あるいは皮下注すれば、すみやかに症状が消失する。
 モルヒネを減量する場合は、2〜3日かけて2〜3割という原則を必ず守るようにする。

,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,89

 
【3.1.11】
 モルヒネの注射を減量する過程で、退薬症状が疑われたら、1日投与量の1/12か1/24のモルヒネ量を早送りすると、退薬症状は消失する。同様に疼痛が出現した場合は、1時間あるいは2時間の投与量に相当するモルヒネ量を早送りして、減量前のモルヒネ投与量に戻すとよい。
,がんの症状マネジメント(1997),,,115

#1
【3.1.11】
 (モルヒネ退薬症状の対処法)
 αあるいはβ遮断薬などの自律神経遮断薬を併用する方法や国内では認可されていないが経皮的クロニジン(0.1〜0.2mg/日)を使用することにより、不安や頻脈などの自律神経系症状を軽減し得るとの報告もある。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,100

 
 

【3.1.12】「癌化学療法が疼痛管理に及ぼす影響」


 
【3.1.12】
 経口モルヒネ製剤の吸収は食事の摂取状況にも大きく影響を受ける。化学療法の開始により嘔気、嘔吐が出現するとモルヒネの吸収も下がり疼痛コントロールが難しくなる。
 また、モルヒネの吸収が下がったことにより退薬症状(頻脈、発汗、倦怠感)が出現することがある。この退薬症状を化学療法の副作用と誤認する場合もあるので注意を要する。
 このため、モルヒネによるコントロール中の患者に化学療法を開始する場合はあらかじめ投与経路を見直す必要がある。
,Cancer Pain Symposium in Tokyo(1994) より

 
【3.1.12】
 癌化学療法中の疼痛対策として、痛みが局在性で激しい痛みを可及的に除きたいときに、硬膜外モルヒネ注入法が行われる。
 モルヒネ1回2〜3mgを生食水10mLに混じ、1日2〜3回注入する。知覚障害や運動障害がなく、循環への影響が少ない。鎮痛効果は確実であり、経口モルヒネや神経ブロックまでのつなぎで、緊急避難的な使い方をすることが多い。化学療法の副作用があるときは、この方法が鎮痛方法として適している。
,薬の知識(1993),44,10,18

 
【3.1.12】
 モルヒネ内服中の患者に化学療法を行うときは、予め経口投与から直腸内あるいは点滴投与に変更すると、患者はより苦痛が少ない状態で、抗癌剤の治療が受けられる。
 モルヒネ内服中の患者が手術を受けるときには、1/3のモルヒネ量を点滴で投与すると退薬症状は出現しないし、麻酔の覚醒も遷延しない。
,終末期医療(1991),,0,17

 
 

【3.1.13】「モルヒネ注射液の配合変化」


#1
【3.1.13】
 24時間以内であればモルヒネとケタミンは混合可能と推測されるが、わが国で市販されている濃度と大きく異なるものもあるため断定はできない。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,246

#1
【3.1.13】
 アミノフィリンや炭酸水素ナトリウム、フロセミドはモルヒネと配合禁忌薬剤である。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,88

 
【3.1.13】
 ドロレプタン、セレネース、アタラックスP、トリプタノール、ウインタミン、10%キシロカイン、プリンペラン、水溶性プレドニン、プロスタルモンF、アドナは配合変化なし。メチロンは黄色澄明>。ノバミンのデータはないが経験上問題はなかった。
,がんの症状マネジメント(1997),,,93

 
【3.1.13】
 癌性疼痛及び吐き気のコントロールにモルヒネやレペタンとセレネースやプリンペランの混合注射は可能である。
,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,149
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,173

 
【3.1.13】
 セレネースの注射液は水に溶けにくく溶媒によっては結晶を作ることがあるので、モルヒネと混ぜて持続皮下注入することは避けた方がよい。点滴内投与の際は、半減期が長いので1日1回投与でもよい。
,ターミナルケア(1995),7,1,23

 
 

【3.1.14】「モルヒネにおける相互作用」

 
 
【3.1.14】
 モルヒネには、他の薬剤との間に薬理学的に厳密な意味での相互作用は少ない。少なくともモルヒネの使用を禁忌とするような相互作用はない
 しかし、併用を避けるべき薬剤としてオピオイド・アンタゴニストがある。
 その代表的薬剤であるレペタンは、癌性疼痛であっても鎮痛薬を使い始めた頃はこれだけで十分な効果を示すことが多い。しかし数回繰り返して使ううちに、鎮痛効果が不十分となり、追加してモルヒネを使うことがある。一般的な使用順序としてはこれでよいが、レペタン投与後短時間でモルヒネを投与した場合は、拮抗剤であるためモルヒネとしての効果が投与量の割に減弱される。したがって、モルヒネの初回投与量が本来は適当であったとしても、レペタン投与の直後であった場合、十分な効果を現さない。レペタンは投与後の血中濃度が6〜8時間持続するので、モルヒネの投与はこれくらいの間隔をおいて開始するのが望ましい。
 一方、モルヒネの使用中に、始めは十分に効いていたものが癌の進行にともなって鎮痛効果が不十分になったときに、モルヒネ投与後の時間が短すぎて、次回のモルヒネ投与には早すぎるとのためらいから、モルヒネの代わりにレペタンを投与する医師がいる。しかし、これは誤った選択であり、併用は避けるべきである。このような場合には、追加投与する鎮痛薬はモルヒネを選ぶべきであり、その追加量は直前のモルヒネ投与量の約30〜50%が適当である。
,臨床と薬物治療(1990),,58,76

 
【3.1.14】
 モルヒネの投与を受けている患者にレペタンを投与すると競合的に拮抗してモルヒネの作用を減弱する。長期にわたってモルヒネの大量投与を受けている患者では退薬症状を生じる可能性もあり禁忌である。
 逆にレペタンからモルヒネへの切り替えにはこのようなリスクはない。

,痛み治療マニュアル(1993),,,63

#2
【3.1.14】
(レペタンとモルヒネの相互作用)
 機序としては、モルヒネと類似のオピオイド受容体に作用し、鎮痛、中枢神経作用を発現する。鎮痛、鎮静、呼吸抑制作用が増強するために、併用が必要な場合は一方または両方の投与量を減らす。一方では、プブレノルフィンは麻薬拮抗作用を有し、高用量においてモルヒネの作用に拮抗するとされる。また、数週間にわたってモルヒネ様物質の投与を受けてきた患者では、ププレノルフィンは用量依存的に禁断症状を惹起する。通常、モルヒネとの併用は避ける方がよい。
,緩和医療と薬物相互作用(2003),,,73

 
【3.1.14】
 ソセゴンもオピオイド・アンタゴニストで軽度の癌性疼痛に対して用いられることがあるが、作用時間が短く、耐薬性が生じ易く、副作用としての精神症状が出現し易い。
 モルヒネとの併用はレペタン同様避けた方がよい
,臨床と薬物治療(1990),,58,76

 
【3.1.14】
 ソセゴンは理論的にはモルヒネと禁忌だが実際には臨床上問題ないため緊急時には使って良い。ただし作用時間や精神症状の問題があり、基本はあくまでモルヒネなので緊急時のみの使用とすべきである。
,臨床と薬物治療(1990),,58,110

 
【3.1.14】
 (モルヒネとソセゴン、スタドールの併用)
 ソセゴンは鎮痛作用時間が短いこと、数回使用しただけでも爽快感や多幸感などの精神症状を生じる傾向があるため、癌疼痛治療には適さず併用は勧められない。
 スタドールも同様に精神症状を生じる可能性があるため、癌疼痛治療には不適と考えられ、併用も勧められない。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,218
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,229

#1
【3.1.14】
 健常人10名を対象として、リファンピシンの併用がモルヒネの鎮痛効果に及ぼす影響について検討した結果では、リファンピシン600mg/日を13日間経口投与後には、モルヒネのAUCは27.7±19.3%減少し最高血中濃度も40.7±27.1%低下しており、あわせて行われた疼痛の閾値に関する検討でも、モルヒネの鎮痛効果が全く認められなかった。
 現在のところ、各種モルヒネ製剤ならびにリファンピシン製剤の添付文書には、両者の相互作用についての記載はないが、モルヒネ投与中の患者にリファンピシンを併用するとモルヒネの鎮痛効果が減弱ないし消失する可能性がある。
 逆に、リファンピシン投与中の患者にモルヒネを用いると大量投与を必要とする可能性が考えられる。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,207

#2
【3.1.14】
(モルヒネの作用を減弱させる薬物)
 リファンピシンの健常成人男性におけるモルヒネ代謝に対する影響を調べた二重盲検比較試験の報告がある。それによればリファンピシン600mg/日を13日間投与した前後でモルヒネ10mgの経口投与を行うと、モルヒネのAUC (area under the curve)は27.7±19.3%、最高血中濃度は40.7±27.1%と有意に減少することがわかった。  また、モルヒネ投与による鎮痛効果もなくなったという。
,緩和医療と薬物相互作用(2003),,,53

 
 

【3.1.15】「モルヒネ不耐性」


 
【3.1.15】
 ごく希ではあるが、種々の副作用が原因でモルヒネの使用に耐えられない患者がいる。この場合はモルヒネの使用を諦めて化学構造の異なる他のオピオイドに切り替える。

【モルヒネ不耐性】
症状 最初の処置
胃内容停滞型 胃部膨満感 マーロックス10mL、4時間毎及びメトクロプラミド10〜20mg、4時間毎
鼓腸
食欲不振
嘔気の遷延
精神症状型 強い心身違和感、幻覚 セレネース3〜5mg、就寝時
前庭刺激型 体動で嘔気、嘔吐を誘発 ホモクロミン50〜100mg、4時間毎【適応外】、またはボナミン25mg、8〜12時間毎【適応外】
ヒスタミン放出型
 a)気管支 気管支痙攣→呼吸困難 ポララミン5〜10mgの静注/筋注および気管支拡張薬
 b)皮 膚  かゆみ ポララミン4mg、1日2〜3回の内服
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,202

 
【3.1.15】
 モルヒネ不耐性において切り替えるべき薬剤は、コデイン、ペチジン、レペタンで、効力比はモルヒネ"1"に対し、それぞれ"1/12"、"1/8"、"60〜80"。ただしレペタンには有効限界がある。
,JIM(1992),2,5,380

 
 

【3.2】「各種モルヒネ製剤の使い方」


【3.2.1】「経口塩酸モルヒネ(散、水、速効錠)、オプソ」


 
【3.2.1】
 モルヒネ投与の基本原則に従ったモルヒネの経口投与では、85%の癌患者で1回30mg以下(1日180mg以下)の塩酸モルヒネ製剤の経口投与で除痛が得られるが、ときには1回量が200mg以上となる患者に遭遇する。
 この適切な投与量を求めるには、塩酸モルヒネ製剤5mgの4時間ごとの経口投与を始め、翌日、痛みが残っていれば10mg/回に、それでも痛みが残っていれば、15→20→30→40→60mg/回の順に増量する。増量のつど痛みが軽減すれば、モルヒネに反応する痛みであり、いずれかの量で痛みが消失する。同時に副作用も監視できる。
 モルヒネの体内薬物動態は線形性のため、投与量と効果がかなり平行し、投与量の調節が比較的簡単にできる。

,臨床と薬物治療(1990),,58,27

#2
【3.2.1】
塩酸モルヒネ末、塩酸モルヒネ錠、塩酸モルヒネ水(オプソ)
 塩酸モルヒネ末と塩酸モルヒネ錠は多少の差はあるものの、両剤形ともに水に溶けやすく最終的には塩酸モルヒネ水の体内動態と同様であると考えられるので、塩酸モルヒネ水を例に挙げて述べる。
 塩酸モルヒネ水の場合は服用後約10分から吸収が始まり、約30分で最高血漿中濃度に達する。その後、約3時間で血漿中モルヒネ濃度は半減する。これらの剤形は、経口剤・坐剤の中では効果発現が最も速く、突発的な痛みに対する臨時追加投与(rescue dose)として非常に有効である。ただし、鎮痛効果の持続時間も短いため、一定の血漿中濃度の維持には4時間ごと(1日6回)の投与を必要とする。こうした特徴からモルヒネの効果を検討する基準製剤として有用である。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,86

 
【3.2.1】
 塩酸モルヒネ製剤の場合、1回5〜10mgを1日4回から開始する。必ずしも4時間毎の投与でなくても良い。急激な痛みの増強の場合、10〜20mgを臨時投与すればよい。就寝前に1回量の1.5〜2倍量を投与。
 鎮痛効果と副作用を慎重に観察しながら日毎に3〜5割増を目安に徐々に増量して至適量を決める。

,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,33
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,44

#2
【3.2.1】
(オプソ開始の実際)
 高齢者や全身状態が低下している場合は、速放性塩酸モルヒネ水溶液の内服を10〜20mg/日、通常では30mg/日から開始します。オプソ内服液は1スティックが5mgまたは10mgですから、高齢者や全身状態が低下している患者さんでは10〜20mg/日とし、20mg/日投与の場合は1回5mgを1日4回6時間おきに、通常の患者さんでは30mg/日投与とし、1回5mgを1日6回4時間ごとに服用すれば良いでしょう。
,Medical Academy News(大日本製薬)(2003),871,,12

 
【3.2.1】
 モルヒネの経口投与では、日中は4時間毎(午前6時、10時、午後2時、6時)に投与し、就寝前に日中の1回量の2倍量を投与すると副作用としての眠気を利用できてよい結果が得られる。
 ただし、全身衰弱の進んでいる患者や高齢者では薬が効きすぎて麻酔をかけられたように感じたり見当識障害を示しながら夜間眠れなくなる可能性がある。このようなときは、就寝時量を2倍とせず、1.5倍とするのがよい。
 しかし2倍量投与は多くの患者にとって危険なことではない。
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,208

 
【3.2.1】
 モルヒネの経口投与(徐放製剤を除く)では4時間毎の投与が原則だが、1回の投与量が60mg以下のときは深夜の投与を省くため、就寝時に日中の1回量の50〜100%増を投与すると、翌朝まで除痛が維持され、深夜投与を省く事が出来る。しかし1回量が60mg以上のときには、深夜(午前2時)にも投与しないと痛みの再発で目覚める事が多い。
,がんの「いたみ」克服の知恵(1998),,67

 
【3.2.1】
 モルヒネの4時間毎投与では深夜の投与が必要となるが、眠っている患者を起こしてまで服薬させることは実地上多くない。
 しかし以下の場合は夜間の服薬を行った方がよい。
  1,小用、服薬などで夜間に起きる習慣を持っている患者。
  2,朝まで除痛が得られるよう服薬法を工夫したにも関わらず、深夜以降(午前3時〜6時)に
    痛みがあって眠れない患者。
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,207


【3.2.1】
 モルヒネ投与は、全身状態が悪い患者や高齢者、重度の肝障害患者では、6時間毎投与が適している。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,41

 
【3.2.1】
 モルヒネの理想的な増量の手順として、効果の判定は2時間後と4時間後の2回行う。新しく処方したモルヒネが前の薬ほど効かなかったら、2時間後に前の薬を1回分服用し、次のモルヒネ服用量を50%増とするよう指示する。または痛みが明日のこの時間になっても10%以上残っていたら、薬の服薬量を50%増量するよう指示する。
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,190

 
【3.2.1】
 モルヒネの苦みを和らげる方法として、柑橘系の果汁やジュースが比較的多く使用される。特にレモンエッセンスは処方されているモルヒネ水に服用直前に数滴入れるだけで、のど越しがすっきりする。また、日本酒や梅酒などによってモルヒネの苦みを緩和する方法もある。
,がんの症状マネジメント(1997),,,66

 
【3.2.1】
 モルヒネの水溶液は、冷所であっても2週間以上の保管は避けた方が安全である。
,がんの症状マネジメント(1997),,,75

      参照→【3.1.9】「モルヒネを服用後に嘔吐(坐剤挿入後に排便)があった場合の対処法」
      参照→【2.2.2】「製剤・投与経路によるモルヒネの効果の違い」

 
 

【3.2.2】「MSコンチン」


#2
【3.2.2】
 MSコンチンは服用後約1〜1.5時間から吸収が始まり、約3時間後に最高血漿中濃度に達する。その後、血漿中濃度は緩やかに低下し、鎮痛効果は8〜12時間持続する。そのため、1日2〜3回定時服用することにより血漿中濃度を一定に維持する投与法が適しており、疼痛時の頓用には不適である。なお、8時間ごとに1日3回投与する方がより高い鎮痛効果が得られるとの報告もある。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,86

 
【3.2.2】
 MSコンチンと塩酸モルヒネの臨床上の効果比は1:1と考えて良い。
 治療初期においては、塩酸モルヒネを使ったほうが至適用量をはやく決定できる
 効果と安全が確認された時点で、塩酸モルヒネの1日量をMSコンチンにより分2で投与する。もし、1日の投与量が奇数錠になるときは、夜間の分を1錠多くすると良い。

 最初からMSコンチンを用いるときは、1回10〜20mg(20〜40mg/日)とし、効果をみながら漸増していく。増量は1回量で、10→20→30→40→60→80→120mgとしていくとよい。


 また、腸の手術を受けて、小腸が極端に短くなっている患者では、モルヒネが十分吸収されないうちに錠剤が体外へ排出される可能性もある。
 MSコンチンは12時間ごとの投与が原則であるが、以下の場合には8時間ごとあるいは6時間ごとの投与に変更するとよい。
  1.鎮痛効果が短いとき。
  2.塩酸モルヒネからの変更において、1回量で副作用が出現したとき。
  3.投与量の多いとき。
,臨床と薬物治療(1990),,58,64
(注:MSコンチンを1日3回投与とする際は、毎食後ではなく、8時間毎とする)

 
【3.2.2】
 モルヒネの開始にあたってMSコンチンから入るというやり方でも良い効果が得られる。MSコンチンを使う場合はレスキュードーズ(臨時追加投与)という考え方を是非利用してもらいたい。MSコンチンは12時間投与のため、投与量が少ないために生じる疼痛の出現に対処できない。またこれにMSコンチンで対処しても効果発現まで2時間かかってしまう。このとき、1日量の1/5〜1/6のモルヒネ散、液、錠(速効錠)を臨時追加投与として使う。このような方法で短期間に適切な量を決定していく。
,医療麻薬の利用と管理’95(1995),,,22

      参照→【3.1.8】「レスキュー」

 
【3.2.2】
 MSコンチンは徐放錠のため、服用してもすぐには効果は現れない。しかし、患者が痛み止めを服用して我慢できるのは40分前後である。痛みが変わらないので立て続けにMSコンチンを服用したため、数時間してモルヒネの血中濃度が急上昇し、吐き気、目眩、混乱などの症状が出現し、その後MSコンチンを絶対服用しなくなった例などが報告されている。
 MSコンチンの上手な使い方は「いきなりMSコンチンを投与せず、他のオピオイドで維持量を決め、MSコンチンに移行させる」ことである。

,がん患者の痛みの治療(1994),,,6

 
【3.2.2】
 塩酸モルヒネ製剤とMSコンチンの副作用(吐き気)の違いについては様々な意見がある。同じ条件下でのトライアルでは、違いはないとの報告もあるが、実際に同量の塩酸モルヒネを3回に分割して投与したときと、MSコンチンを1回で投与したときとでは、MSコンチンの方が血中濃度のピークははるかに高い。このことからもMSコンチンの吐き気が多いということは十分に考えられる。
,Cancer Pain Symposium in Tokyo(1994) より

 
【3.2.2】
 MSコンチンを使用して鎮痛効果が12時間持続しない場合は増量する。12時間毎の投与では著しい傾眠を生じ、8時間毎の投与に変更する患者がいるが、きわめてまれである。投与回数を増やすことは投与間隔が守り難くなり、本来の利点が損なわれるのでなるべく避けるべきであるが、投与錠数が多くなり、患者が服用困難な場合には3〜4回の分服も必要である。
,痛み治療マニュアル(1993),,,60

 
【3.2.2】
 MSコンチンの投与において1日3回(8時間毎)の投与はやむを得ない場合がある。しかし、入院中には問題がなくても、在宅となると、昼の内服時間が不正確となりやすい。昼は午後2〜4時頃の服用となり、忘れてしまったりして内服時間を守りにくい。MSコンチンは投与間隔を必ず一定にしなければならない。
,がんの症状マネジメント(1997),,,62

#1
【3.2.2】
 MSコンチン錠を増量しても疼痛コントロールが不良である場合、次の2点を考慮しなければならない。
(1)モルヒネが反応しない痛みであるケース。
(2)MSコンチン錠は作用が8〜12時間持続する徐放性製剤であるため、増量しても血漿中濃度の上昇が緩やかで、鎮痛効果を患者が確認できないケース。
 以上の2点が考えられるケースでは、速効性のモルヒネ製剤を投与し、除痛効果を観察する。

,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,233

 
【3.2.2】
 MSコンチンは経口摂取が減少していたり、脱水が著しい患者では、腸管内水分量が減少するため錠剤からのモルヒネの放出が低下し、効果が不十分となることがある。このような場合は坐薬や持続皮下注に変更する。
,痛み治療マニュアル(1993),,,61

 
      参照→【3.1.9】「モルヒネを服用後に嘔吐(坐剤挿入後に排便)があった場合の対処法」
      参照→【3.2.6】「他のモルヒネ製剤の直腸内投与法」
      参照→【2.2.2】「製剤・投与経路によるモルヒネの効果の違い」

 
 

【3.2.3】「モルペス細粒、MSツワイスロン」


#2
【3.2.3】
 モルペス細粒は12時間持続性の徐放性モルヒネ製剤の1つで、わが国で開発され、2001年9月より10mgと30mgの2種類のタイプが販売開始となっている。
 この製剤の最大の特徴は、徐放性モルヒネ製剤の中で最も粒子が細かいことが挙げられる。顆粒状の徐放性モルヒネ製剤としては、先に発売されたカディアンスティックがあるが、モルペス細粒の平均粒子径は約0.25mmであり、カディアン(平均粒子径1〜1.7mm)よりもかなり小さい。
 2つ目の特徴は、モルペス細粒は徐放性粒子を芯として周囲に「甘みの層(甘味層)」を施してあるので、モルヒネの苦味がなく、飲みやすい点が挙げられる.甘味層を含めると直径は0.5mm程度になるが、この層は水に容易に溶けて本来の直径0.25mmの微細粒子となる。

【モルペス服用に使用可能な食べ物と投与までの時間】
制限時間 飲み物・食べ物の種類
10分以内 水、微温湯、40℃に加温した牛乳やお茶、飲むヨーグルト
20分以内 牛乳、ヤクルト、ヨーグルト
30分以内 オレンジジュース、アイスクリーム、ゼリー、シャーベット
 飲物を高温(60℃)で懸濁して服用すると、徐放性が保たれなくなるため、微温湯までで服用する必要がある。
,ターミナルケア(2003),13,1,23

#1
【3.2.3】
モルペス細粒の経管投与(胃瘻・経鼻)
 これまでの徐放性モルヒネ製剤は経管投与が困難であった。MSコンチンは徐放性の特殊コーティングがなされているため粉末化することができないし、カディアンスティックは粒子が大きいために懸濁されず、経管の太さによっては注入に時間がかかったり、場合によっては、閉塞する可能性もある。そのため、現実にはモルヒネ水の頻回投与やモルヒネ坐薬、モルヒネ注射液の持続点滴を選択することが多かった。
 これに対してモルペス細粒は、微細粒という性質からそのまま経管投与が容易であり、国立がんセンター東病院では経管投与における徐放性モルヒネ製剤として使用されている。
(カテーテルの選択)
 本剤の粒子は直径0.5mm以下で、水に溶解する「甘味層」を除くと、直径約0.25mmの徐放性粒子となり、8Fr以上であればカテーテルに詰まることなく経管投与が可能である。5Frおよび6Frでは、注入の仕方により稀に粒子が詰まる現象が生じるため、このサイズでは慎重に投与する必要がある。経管投与に使用するカテーテルは、その先端の形状により詰まる可能性があり、先端に排出口が、あるカテーテルを選ぶ方が望ましい。
(分散液の選択)
 経管投与に使用可能な分散液の種類と、懸濁から投与までの推奨時間を以下に示すが、できるかぎりモルペス細粒は懸濁後10分以内に投与することが望ましいとされている。

制限時間 分散液の種類(商品名)
10分以内 エレンタール、クリニミール、ツインライン、
ベズビオン、ラコール、エンテルード
20分以内 エンシュアリキッド
30分以内 エンシュアH

(注入手順)
 経管投与を実施する場合、まずモルペス細粒を分散液約20mLとコップに入れて懸濁し、この懸濁液全量をシリンジに吸入する。次に経鼻カテーテル、あるいは胃痩注入用カテーテルにシリンジをセットして、注入する。コップやシリンジに本剤の粒子が付着する場合があるため、残存がないようにコップに再び分散液を入れて、同様の操作を繰り返した方がよい場合もある。
 注意点として、経腸栄養剤全量に本剤を溶かして、一緒に時間をかけて滴下投与することは避ける。分散液に懸濁したまま長時間放置することになり、少しずつモルペス細粒からモルヒネが溶出するため本来の徐放性が損なわれ、また管内に本剤が付着してしまう。経腸栄養剤を同時に投与する際は、必ず本剤を先にシリンジを用いて投与し、その後に経腸栄養剤を投与する。
,ターミナルケア(2003),13,1,24

#2
【3.2.3】
(MSツワイスロン)
 MSコンチン錠より安価で同等の有効性と安全性を示すMSツワイスロンカプセルが2001年に発売になった。直径0.6〜1.0mmの徐放性顆粒が硬カプセル(ゼラチンカプセル)中に充填されている。徐放性顆粒は芯粒子の表面に硫酸モルヒネをコーティングし、放出制御膜でおおわれた3層構造である。この徐放膜に存在する微小な貫通孔(細孔)に消化管内の水分が吸収されることにより、pH非依存的に孔から徐々にモルヒネが放出される徐放性製剤である。MSコンチン錠がシングルユニットであるのに対して、MSツワイスロンカプセルはマルチプルユニットである。カプセル自体は徐放性とは関係ないため、カプセルをはずして服用したり、必要量に分包することは可能である。しかし、カプセルの内容物を粉砕、咀嚼しないよう患者に注意する必要がある。
,ペインクリニシャンのためのオピオイドの基礎と臨床(2004),,,44

      参照→【2.2.2】「製剤・投与経路によるモルヒネの効果の違い」
 
 

【3.2.4】「カディアン」


#1
【3.2.4】
 カディアンは服用後約40〜60分から吸収が始まり、血漿中モルヒネ濃度は徐々に上昇して服用後約8時間で最高血漿中濃度に達する。その後緩徐に低下し、服用後24時間まで安定した血漿中モルヒネ濃度を維持する。
 本剤の1日1回24時間ごとの投与における血漿中モルヒネ濃度は、MSコンチン錠の定時投与に比べ日内変動が小さく平坦な推移を示す
 本剤は、すでに安定した除痛効果が得られている患者における服用の負担を軽減するうえで有用である。長時間型徐放性製剤であるので、維持投与として定時服用に使用し、疼痛時の頓用には用いない。

,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,86
(注:カディアンは1日1回の場合、何時に投与しても構わない。)
#1
【3.2.4】
 カディアンを1日1回繰り返し投与を行ったときのモルヒネの血中濃度は、投与後6〜7時間後にピークとなり、MSコンチンの2〜3時間後と比較するとカディアンは緩徐に吸収されることがわかる。
 一方、吸収開始までの時間はMSコンチンでは60〜90分であるが、カディアンでは40〜50分程度であり吸収開始までの時間はカディアンの方が短い。
,オピオイドの基礎と臨床(2000),,,18

      参照→(モルヒネ即効製剤から徐放製剤へ変更+レスキュー)
#1
【3.2.4】
 従来のモルヒネ製剤をMSコンチン錠に切り替えたときに、嘔吐などの副作用が出現することがあるが、これは4時間ごとにモルヒネを服用していたときよりも、MSコンチン錠の方が一時的に血漿中濃度が高くなるからである。
 一方、カディアンは1日1回投与で安定した血漿中濃度を維持し、カディアン60mgを1回投与した場合、塩酸モルヒネ水を1Omg投与した場合と同程度の最高血中濃度である。
「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,95

#1
【3.2.4】
 MSコンチンで一時的に副作用が増強してしまう場合には、カディアンの1日1回投与は効果的である。また、1回投与量が増えてしまい内服自体が苦痛になる場合には、MSコンチンと同様にモルヒネ散の併用が必要となる場合がある。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,54

#1
【3.2.4】
 カディアンがMSコンチンと最も異なる点として、腸管内のpHに依存して徐放が進むため、腸管内の水分の影響を受けない、ということが挙げられる。つまり、食事摂取や飲水状況の影響は少ない。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,54

#1
【3.2.4】
 (カディアン投与法)
 モルヒネの1日投与量を外来で確定する方法として、モルヒネの静注を基にするのも一方法である。モルヒネの2〜3mgを5分おきに静注し、疼痛が消失するまでの総量を初回量とする。この初回量の4倍量が1日に必要なモルヒネの注射量であるため、経口投与はこの2倍量とし、この量をカディアンの1日量とするのである。
 この方法もとりにくい場合には、患者の年齢や状態に応じて20ないし40mgの量からカディアンの投与を開始してもよい。この場合にも、レスキューの処方は必須である。
 モルヒネ坐剤からカディアンに変更する場合には、坐剤1日量の1.5〜2倍量のカディアンに変更する。
 カディアンの服用を1日のうち、いつ行うかについてであるが、モルヒネの血中濃度が投与後約7時間で最高になるという薬物動態から考えると、朝投与するより夕あるいは夜に投与する方が有用ではないかと思われる。癌の痛みは日中よりも夜に強くなる傾向があるので、真夜中から明け方の睡眠を確保するうえからも夕あるいは夜に投与し、夜に血中濃度のピークがくるような投与を行った方が有利である。
,ターミナルケア(2003),13,1,30

#1
【3.2.4】
 (嚥下困難な場合のカディアン服用方法)

(1)ストローを使用して服用する。
 小さなコップ(底面積の小さいものが好ましい)に、水または微温湯(およそ50℃以下)を入れ、ペレットを沈めて太めのストローでゆっくり吸い上げて服用する。水や微温湯のほかに、ジュース類や経腸栄養剤を用いて服用することも可能である。カディアンはpH依存性の放出機構であるため、pHの高い食品や飲み物にペレットを入れてしまうと、モルヒネの放出性に影響を与えるため、注意が必要である。

(2)アイスクリームやヨーグルトなど、かまずに食べることができる食品の上にペレットを振りかけて服用する。
 アイスクリーム、ヨーグルト、ゼリーなどの上にペレットを振りかけ、アイスクリームなどと一緒にスプーンですくって服用する。カディアンはpH依存性の放出機構であるため、pHの高い食品や飲み物にペレットを入れてしまうと、モルヒネの放出性に影響を与えるため、注意が必要である。

(3)市販の嚥下補助ゼリーなどの上に振りかけて服用する。
 水や微温湯ではむせてしまい、服用が困難な場合には、市販の嚥下補助ゼリーなどの上にペレットを振りかけ、ゼリーと一緒にスプーンですくって服用する。

(4)オブラートを使用して服用する。
 浅めの皿に少量の水を入れ、オブラートを浮かせる。その上にペレットをのせ、ぬらした楊枝でオブラートの端を持ち上げ、ペレットを包み込み、水と一緒に飲み込む。また、袋状のオブラートを使用することで、服用方法を簡便化できる。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,236

#1
【3.2.4】
 (カディアンの服用上の注意)
 ペレットを砕いたり、かんだりすると徐放性が損なわれるため、一度に多量のモルヒネが放出されることになり危険である。そのため、どの服用方法においてもペレットを砕いたり、かんだりせずに服用することに加え、食品あるいは飲み物とペレットを接触させてから30分以内に服用することを患者に説明する必要がある。

 また、カディアンはpH依存性の放出機構であるため、pHの高い食品や飲み物にペレットを入れてしまうと、モルヒネの放出性に影響を与えるため、注意が必要である。
 海外の文献によると、食品においては、カスタード(pH6.5)、ヨーグルト(pH3.5〜4.0)、ジャム(pH3.5〜4.0)、アップルソース(pH不明)、アイスクリーム(pH不明)、オレンジジュース(pH3.6)、牛乳(nH6.6)および水に30分または60分間ペレットを接触させた後のモルヒネの放出性を検討したところ、カスタードに60分間接触させた場合にのみ若干影響があったとの結果を踏まえて、ペレットを食品や飲み物に入れてから30分以内に服用することとしている。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,237

#1
【3.2.4】
 (カディアンのチューブによる投与)
 ペレットを水中に入れてシリンジで水とともにカディアンを吸い上げる場合、プラスチック製のシリンジではペレットがシリンジ内壁に吸着し残留する傾向があったため、ガラス製のシリンジを使用することにより対処できたとの報告もなされている。また、ペレットがシリンジ内に残留しても素早くピストン運動を繰り返すことで対処できたとの報告もある。
 さらに、経験的ではあるが、ペレットの量が少ないほどシリンジ内で詰まる可能性は低くなると考えられるため、投与に際しては、1回30mg相当量の注入を繰り返し行うなどの工夫が必要である思われる。
 胃瘻チューブや鼻腔栄養チューブによる経管栄養を行っている患者に対しては、10mLくらいの水にカディアンを入れた後に漏斗を通してチューブヘ注入できるが、以下の点に注意する必要がある。
(1)16French以上のチューブを用いる。
(2)経腸栄養剤の後にカディアンを投与する場合は、フラッシングなどによりチューブ内をよく洗浄し、ペレットのチューブヘの吸着を最小限にする。
(3)チューブの先端の形状が非開放型のものは避けるべきである。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,238

      参照→【2.2.2】「製剤・投与経路によるモルヒネの効果の違い」

 
 

【3.2.5】「アンペック坐剤」


#1
【3.2.5】
 アンペック坐剤はモルヒネの直腸内投与用の製剤である。
 適応として以下が挙げられる。
 (1)内服が可能であるが、食事の量や時間が不定期で定期的な内服が困難な患者
 (2)さまざまな原因による悪心嘔吐が著しい患者
 (3)突然の激痛で経口投与が困難な患者

   逆に、適応とならない場合としては、下痢、下血が継続している患者、人工肛門を有する患者などである。  現在10 mg、20 mg、30mgのものが市販されており、基本処方として使用する場合には、1日3回投与を基本とする。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,54

#2
【3.2.5】
 アンペック坐剤は直腸内投与後、約30分で吸収が始まり、約90分で最高血漿中濃度に達する。その後、約4〜6時間で血漿中モルヒネ濃度は半減する。
 モルヒネ水の経口投与と坐剤の直腸内投与を比較した場合、坐剤の方が最高血漿中濃度は高く、吸収量の指標となるAUCも高い。すなわち、坐剤は、鎮痛力価が高く効果持続時間も長いため、強い痛みを一定時間抑えるのに有効であると考えられる。
 本剤の鎮痛効果は約10時間持続するとされており、8〜12時間ごとに1日2〜3回投与することにより一定の血漿中濃度を維持する投与法を行うべきであるが、モルヒネ水の経口投与に比べると効果発現時間は若干遅いものの、疼痛増強時の臨時追加投与に用いることもある。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,86

 
【3.2.5】
 アンペック坐剤のAUC(血中濃度時間曲線下面積)すなわち生物学的利用率は、他のモルヒネ製剤に比べて高い。このため、内服で痛みがコントロールされている患者の除痛法をアンペック坐剤に変更する場合は、1日に必要なアンペック坐剤のモルヒネ投与量は内服量の約半分で良い。
 もちろん、アンペック坐剤を投与して、2時間後に除痛が得られなければ(最高血漿中モルヒネ濃度に達する時間が過ぎている)、すぐにアンペック坐剤を追加投与して、早期除痛に努力する。
 なお、アンペック坐剤から経口モルヒネに変更する場合も上述の手順を逆に行うと良い。

,Cancer Pain Symposium in Tokyo(1994) より
(注:アンペック坐剤は最高血中濃度が高いのでモルヒネの初回投与に選択すると過量投与になる場合がある。また坐剤であるが故に、実際に使用できる数が限られる。コントロールの状況によっては持続静注や持続皮下注を選択する。)

#1
【3.2.5】
 モルヒネの経口剤と坐剤の切り替え時消化管機能が低下している場合には、経口投与と比較して直腸内投与の方がモルヒネの吸収が良好であるため、変更の際に十分注意する。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,96

#1
【3.2.5】
腸管からの分泌液が少量の場合には、ストーマへアンペック坐剤を直接挿入しても良い。
,Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000),,,59

 
【3.2.5】
 アンペック坐剤は経口投与が不可能な患者が適応とされているが、Cmaxが高いことを利用してMSコンチンでコントロールされているが夜間に痛みが強くなる患者に、就寝前のみ坐薬を投与する、あるいは放射線治療や検査時に強い痛みがある患者に1時間ほど前に坐薬を投与するなどの使用方法が最も本剤の特徴を生かせると考えられる。
,痛みの臨床(1996),,,108

#1
【3.2.5】
 (アンペック坐剤の注意点)
 アンペック坐剤を使用する場合においては、次の事項に注意するべきである
(1)直腸内のみに投与すること。
(2)できるだけ排便後に投与すること。
(3)水溶性基剤の坐剤(インテバン坐剤等)との併用は、血漿中モルヒネ濃度が低下する。
(4)油性基剤の坐剤(ボルタレン坐剤等)との併用は、血漿中モルヒネ濃度が上昇する。
(5)モルヒネの吸収がよく最高血中濃度も高いので、投与初期には呼吸抑制の発現に注意する。
(6)下血があると直腸粘膜がコーティングされた状態となり、モルヒネの吸収が悪くなる。
(7)ウイテプゾールW-35を基剤に用いた院内製剤品よりも効果が2〜3倍強力である。
(8)堅固な便秘状態の患者に投与する場合、基剤が溶けにくいことがあり、モルヒネの吸収に影響が生じる。

,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,90
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,87

#1
【3.2.5】
 (持続注射から坐剤への切り替え)
 持続静注も持続皮下注もモルヒネの吸収は同じといわれており皮下注から静注へは同量のモルヒネを投与すればよい。
 また、持続注射からアンペック坐剤に切り替える場合には、注射の半量をアンペック坐剤に変更し、他の半量はそのまま注射で投与する。アンペック坐剤の投与量は、切り替えるべき注射全量の半量の2〜3倍のmg数を日安とする。その後、疼痛の程度をみて、全量をアンペック坐剤に切り替える。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,96

 
【3.2.5】
 経口モルヒネからアンペック坐剤に変更する場合は2/3から1/2に減量して投与する。初回投与時は呼吸抑制(回数の低下)がないことを確認する。人工肛門内への挿入は、溶解して排泄されてしまうことが多く、十分な効果は期待しにくい。
,緩和医療学(1997),,,49


【3.2.5】
 モルヒネの直腸内投与は免疫力の低下あるいは好中球減少を生じている患者には用いてはならない。小さな傷が出来ても、それが原因で肛門周囲の蜂窩織炎を起こすからである。
,がんの痛みからの解放 第2版(1996),,,32

      参照→【3.1.9】「モルヒネを服用後に嘔吐(坐剤挿入後に排便)があった場合の対処法」
      参照→【2.2.2】「製剤・投与経路によるモルヒネの効果の違い」
      参照→【3.1.8】「レスキュー」

 
 

【3.2.6】「他のモルヒネ製剤の直腸内投与法」


 
【3.2.6】
 塩酸モルヒネ水溶液も直腸内投与が可能である。この場合は溶液が大量にならないように濃度を高めにする必要がある。
 また、必要があれば院内製剤として塩酸モルヒネ坐剤を製造することも可能である。これらの場合の投与量と投与間隔は経口の塩酸モルヒネとほぼ同様と考えてよい。
,痛み治療マニュアル(1993),,,58

#1
【3.2.6】
 モルヒネ注腸の具体的な方法として、薬液を1回量10mLとなるような濃度に調製し、注入には体温に温めた必要量の薬液を注射器に吸い取り、6〜10号ネラトンを接続して肛門内に7〜8cm挿入して静かに注入する。最後に少量の空気を送り込み、ネラトン内に薬液が残らないようにする。直腸内に便が溜まっている場合には、あらかじめ排便させておく。通常、下痢や下血、人工肛門は適応にならないが、緊急時には人工肛門に注入することも可能である。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,239

 
【3.2.6】
 MSコンチンの直腸内投与については有効とする方法もあるが、排便などで錠剤が長時間直腸内にとどまることが困難であり、鎮痛効果も作用時間も不安定になりやすい。したがって、この方法は緊急時のみ選択されるべきである。
 経口投与が困難になり直腸内投与にする場合には、1日量をモルヒネ水に変更して5〜6回に分割投与する。
,緩和医療学(1997),,,48

#1
【3.2.6】
 MSコンチン錠をそのまま直腸内に挿入した際の検討では、経口投与時と比較してAUCには有意差は認められなかったものの、Tmaxの延長とCmaxの低下が認められている。また、除痛に必要なMSコンチン錠の投与量が安定している癌患者を対象としたcross over法による検討では、MSコンチン錠の経口投与時と直腸内投与時との間で、除痛の程度や副作用の発現率に差異はなかった。経口投与時のTmaxは平均2.5hrであったのに対し、直腸内投与では平均5.4hrと吸収の遅延が認められ、Cmaxについても経口投与時には平均10ng/mLであったのに対し、直腸内投与時には6ng/mLとやや低下が認められている。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,240

 
【3.2.6】
 モルヒネの直腸内投与は免疫力の低下あるいは好中球減少を生じている患者には用いてはならない。小さな傷が出来ても、それが原因で肛門周囲の蜂窩織炎を起こすからである。
,がんの痛みからの解放 第2版(1996),,,32

      参照→【2.2.2】「製剤・投与経路によるモルヒネの効果の違い」

 
 

【3.2.7】「モルヒネ持続皮下注入法」


#2
【3.2.7】
 安定した鎮痛効果を得るためには,注射液の場合も一定量のモルヒネを持続的に投与することが必要である。
 モルヒネを注射剤で投与する場合、以下の理由により筋注やone shot静注は避けて持続静注または持続皮下注を選択するべきである。
 
1.筋注は、注射部位からのモルヒネの吸収が筋肉内の血流状態の影響を受けて大きく変動する。さらに、痛みを伴うことや最大効果発現までに30分以上を要することから、がん患者の疼痛治療には適さない。
2.one shot静注では、血漿中濃度が急速に上昇するため、鎮痛作用とともに呼吸抑制などの危険な作用が投与直後から発現する。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,88

#2
【3.2.7】
 (塩酸モルヒネ注射液)
【効能・効果】

〔皮下および静脈内投与の場合〕
激しい疼痛時における鎮痛・鎮静
激しい咳嗽発作における鎮咳
激しい下痢症状の改善および手術後等の腸管蠕動運動の抑制
麻酔前投薬、麻酔の補助
中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛

〔硬膜外およびくも膜下投与の場合〕
激しい疼痛時における鎮痛
中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛

【用法・用量】

〔皮下および静脈内投与の場合〕
通常、人には塩酸モルヒネとして1回5〜10mgを皮下に注射する。また、麻酔の補助として、静脈内に注射することもある。なお、年齢、症状により適宜増減する。 中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛において持続点滴静注または持続皮下注する場合には、通常、成人には塩酸モルヒネとして1回50〜200mgを投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

〔硬膜外投与の場合〕
通常,成人には塩酸モルヒネとして1回2〜6mgを硬膜外腔に注入する。なお、年齢、症状により適宜増減する。 硬膜外腔に持続注入する場合は、通常、成人には塩酸モルヒネの1日量として2〜10mgを投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

〔くも膜下投与の場合〕
通常、成人には塩酸モルヒネとして1回0.1〜0.5mgをくも膜下腔に注入する。なお、年齢、症状により適宜増減する。

【用法・用量に関連する使用上の注意】

〔皮下および静脈内投与の場合〕
200mg注射液(4%製剤)は、10mgあるいは50mg注射液(1%製剤)の4倍濃度であるので、1%製剤から4%製剤への切り替えにあたっては、持続注入器の注入速度、注入量を慎重に設定し、過量投与とならないように注意して使用すること。
〔硬膜外投与の場合〕
  (1) 200mg注射液(4%製剤)は硬膜外投与には使用しないこと。
  (2) オピオイド系鎮痛薬を使用していない患者に対しては、初回投与時には、24時間以内の総投与量が10mgを超えないこと。
  (3) 硬膜外投与で十分な鎮痛効果が得られず、さらに追加投与が必要な場合には、患者の状態(呼吸抑制等)を観察しながら慎重に投与すること。

〔くも膜下投与の場合〕
  (5) 200mg注射液(4%製剤)はくも膜下投与には使用せず、原則として10mg注射液(1%製剤)を使用すること。
  (6) 患者の状態(呼吸抑制等)を観察しながら慎重に投与すること。
  (7) 原則として追加投与や持続投与は行わないが、他の方法で鎮痛効果が得られない場合には、患者の状態を観察しながら、安全性上問題がないと判断できる場合にのみ、その実施を考慮すること。

,塩酸モルヒネ注射液添付文書より


【3.2.7】
 モルヒネの血中濃度は持続点滴静注法と持続皮下注入法に有意差はないため、持続点滴静注法の投与原則は持続皮下注入法に準じる。
,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,35
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,37
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,47

 
【3.2.7】
 (モルヒネ持続皮下注入法について)
 
(適応)
・強い痛みがあり、嘔気、嘔吐が続く場合
・嚥下困難を伴う場合
・経口投与できないほど全身衰弱が強い場合
・消化管からの吸収が悪い場合(まれ)

(利点)
・除痛が一貫して同程度得られるので安心感と信頼感が確保される。
・起座、歩行が可能
・1日1回の薬液補充ですむ
・嘔気・嘔吐が少なくてすむ
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,24

 
【3.2.7】
 (モルヒネ持続皮下注入法について)
 
(経口投与に比べて)
・経口摂取できない患者にも実施可能
・頻回の内服が不要
・症状に応じて投与量を微調節できる
・持続的効果が得られる
・薬剤の血中濃度が安定し副作用が出現しにくい

(持続点滴に比べて)
・投与方法が簡単で装置が小型
・患者の行動が制限されない
・針の刺入抜去が簡単で苦痛が少ない
  (一時的に抜去し入浴・清拭が可能)
・不慮の適量投与や全身感染を起こしにくく安全
・在宅療法が可能である
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,222


【3.2.7】
 (モルヒネ持続皮下注入法開始マニュアル)
 モルヒネによる持続皮下注入法を行う際には、本法の施行に先行して行われていた鎮痛法を検討することから始める。
 以下は、それぞれの場合における開始法のマニュアルである。

(1)WHO方式癌疼痛治療法の第1段階が行われていた場合は、モルヒネ5mg皮下あるいは筋肉内に注射して、引き続いて10mg/日の持続皮下注入を開始する。

(2)WHO方式癌疼痛治療法の第2段階が行われていた場合は、コデインの1日内服量(mg)の1/15量(mg)のモルヒネを1日量として持続皮下注入を開始する。この際も注入開始に先立って、モルヒネ5mgを皮下あるいは筋肉内に注射する。
 コデインの代替剤としてレペタンの坐剤が用いられていたときは、1日坐剤与薬量(mg)の25倍量(mg)のモルヒネを1日量として、持続注入法を開始する。
 レペタンの内服が用いられていたときは、1日内服与薬量(mg)の10倍量(mg)のモルヒネを1日量として、持続皮下注入を開始する。
 いずれの場合も注入開始に先立って、モルヒネ5mgを皮下あるいは筋肉内に注射する。

(3)WHO方式癌疼痛治療法の第3段階が行われていた場合は、モルヒネ内服与薬量の1日量の1/2〜1/3量のモルヒネを1日量として持続皮下注入を開始する。注入開始に先立って、モルヒネ5mgを皮下あるいは筋肉内に注射する。

(4)ソセゴンスタドールレペタンといった拮抗性鎮痛薬の頓用注射を受けていた患者は、鎮痛効果を安定したものにするためにレペタンあるいはモルヒネの持続皮下注入法にした方がよい。この場合の初期投与量はどの程度の量の鎮痛薬を用いていたかによって異なるが、一応の目安としては、モルヒネ5mgの皮下注射に引き続いてモルヒネを1日量として10〜20mg持続皮下注入する。

(5)ペチジンオピスタン)、モルヒネといった麻薬性鎮痛薬の頓用注射を受けていた患者では、モルヒネ5mgの皮下注射に引き続いて、モルヒネの前日使用総量を1日量として持続皮下注入を開始する。
 ペチジンを用いていた場合は、その1/10量をモルヒネの与薬量とする。

,癌の痛みハンドブック(1992),,185
(注:浮腫の場合は、皮下からの吸収が少ないので持続皮下注は避ける)
#1
【3.2.7】
 (経口剤と持続注射の切り替え)
 血漿中モルヒネ濃度の推移からみると、モルヒネ60mg/日を内服している患者の濃度は10〜20ng/mLであり、これはモルヒネ10mg/日を持続静注した場合の血漿中濃度に相当する。
 したがって、経口剤から持続注射への移行は、経口投与で全く痛みのない場合は経口でのモルヒネ1日総投与量の1/6を持続注射1日総投与量として切り替えればよい。
 しかし、経口投与時に時々痛い時間がある場合には、変更量は経口1日総投与量の1/3とすべきである。
 また、経口投与時に常に痛みがある場合には1/2量のモルヒネを1日投与量として持続注射への変更を行う。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,96

#1
【3.2.7】
 モルヒネを持続注射から経口投与に変更する場合には、まず、持続注射1日総投与量の半量を経口投与に変更し、残りの半量はそのまま注射して痛みの様子をみる。経口投与量は切り替えるべき注射1日総投与量の半量の2〜3倍のmgとする。痛みが生じなければ残りの半量を経口投与量に換算して経口1日総投与量として、完全に経口投与に切り替える。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,96

 
【3.2.7】
 癌性疼痛にはじめてモルヒネを持続皮下注するときは1日10〜20mgで開始する。すでに経口や直腸内に投与されている場合はその量の半分の量から開始する。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,46

#1
【3.2.7】
 (モルヒネ持続注射における増量)
 投与量は1日量の1/24(1時間分)とし、早送りして効果を判定する。痛みが軽減するならば、モルヒネが効く状態であると判定し、痛みが消失するまでモルヒネを早送りする。モルヒネの至適量が決まるまでは1日量の1/24(1時間分)をrescue doseとして、持続皮下注の場合は10分ごとに、また、持続静注の場合には5分ごとに早送りする。鎮痛が得られた時点で一時投与を中断し、その後に痛みが出現するまでの時間から持続投与量を増量していくのがよい。

,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,98

 
【3.2.7】
 持続注入器が手に入らないときは、注射器に24時間分の薬液をいれて翼状針をつなぎ刺入しておき、4時間毎に1/6の量を注入しても良い。
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,24

 
【3.2.7】
 (モルヒネの持続皮下注入法)
 ポンプの性能などにも左右されるが、最高量モルヒネの注射薬(10mg/A)で300mg(30mL)/日くらいまでは可能。刺入部位としては、体動時に動きが少なく、針の自己刺入出来る部位として、針先を胸骨として、2〜3日毎に差し替えている。注入量が増えると皮下脂肪の少ない部位では局所の反応性変化が見られる場合もあると言われているので、1mL/時を超えたら腹壁にして、しかも毎日刺入部位を変えた方が良いと思われる。また、注入量/日の最高例として500mgの報告もある。
,痛みの薬物療法(1990),,,209

 
【3.2.7】
 モルヒネ持続皮下注開始時に痛みが強い場合は3〜5mgをまずワンショットで注入する。経験によれば、痛みが増強してモルヒネを増量(15〜20A/日)するにつれて、刺入部の発赤やテープかぶれも起こりやすくなるので、1週間に1回またはそれ以上の針の刺し替えが必要になる。
,癌患者と対症療法(1995),6,1,29

 
【3.2.7】
 モルヒネ持続皮下注入法において注入量には個人差がある。0.5mL/hr程度では問題ないが0.8mL/hrぐらいになると皮膚が発赤する患者が出てくる。その場合には2ルートにする。または、スプラーゼを5mL/日を超えたら1A混ぜる。10mL/日以上の場合は2A。これを混ぜると、皮膚からの吸収が促進される。注入速度が0.5mL/hrを超えている場合には、持続皮下注入の場所をこまめに変えることも必要。
,がん疼痛緩和とモルヒネの適正使用(1995),,,90

 
【3.2.7】
 モルヒネ持続皮下注入法において、モルヒネの皮膚への反応で発赤が出た場合は、リンデロンを10mL中0.1mLを混入する。それを使っても発赤が出る場合は2〜3日ごとに刺し替えるか、他の投与経路を検討する。
,がん疼痛緩和とモルヒネの適正使用(1995),,,99

 
【3.2.7】
 モルヒネ持続皮下注入法を行っていると、モルヒネのヒスタミン遊離作用によると思われる蕁麻疹や発赤や硬結が局所に出現することがある。1日量として0.5〜1mgのデカドロンかリンデロンを添加するとたいてい消失する。
,がん終末期の症状コントロール(1995),,,49

#1
【3.2.7】
 従来、モルヒネ注射剤は濃度がともに1mL=10mgに調製されている10mg/1mL と50mg/5mLの2種類の製剤のみであったが、2001年8月1日に高濃度の塩酸モルヒネ注射液(200mg/ 5mL)が発売された。高濃度製剤の発売に伴い、高用量投与でも患者への水分負荷を減らすことが可能となり、1日の吸収量に制限のある持続皮下注がより簡便になると考えられる。ただし、高濃度製剤は1℃にて結晶が析出することがあるので保管には注意を要する。また、その際には手でアンプルを加温して速やかに結晶を溶解した後、使用する。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,84

      参照→【2.2.2】「製剤・投与経路によるモルヒネの効果の違い」

 
 

【3.2.8】「モルヒネ持続静注法」


 
【3.2.8】
 モルヒネの血中濃度は持続点滴静注法と持続皮下注入法に有意差はないため、投与原則は持続皮下注入法に準じる。
,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,35
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,37
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,47

 
【3.2.8】
 (モルヒネ持続静注法開始マニュアル)
(1)モルヒネの投与がなされていなかった患者に初めてモルヒネ持続静注法を導入する場合は、モルヒネ2〜5mgを約5分間隔でIVHルートの側管より、患者が疼痛を訴えなくなるまで注入する。その総量を初回量とし、1日の維持量は初回量の4倍とした。

(2)モルヒネの経口投与がなされていた患者に導入する場合は、除痛が完全に保たれていた経口量の1/2を維持量とし、最終のモルヒネ服用と同時に持続静注法への変換を開始する。

(3)持続静注から経口投与への移行は、持続注入が終了する2時間前より持続静注投与時の1日のモルヒネ維持量の2倍量を内服の1日投与量として経口投与を開始する。

(4)持続静注中に疼痛が増強したときには、1時間のモルヒネ量を約5分間隔で疼痛が消失するまで早送りをする。1日に数回の早送りが必要なときは、維持量を1.5倍に増量する。

,日本病院薬剤師会雑誌(1994),30,2,43

 
【3.2.8】
 疼痛対策が不十分で痛がっている患者に、モルヒネ持続静注法を開始するとき、初回量が20mgを越える場合は呼吸抑制に注意しなければならない!
,今月の治療(1996),4,4,26

 
【3.2.8】
 モルヒネの注射から経口に変更する時は、まずモルヒネ以外の薬を経口投与に切り替える。次いで持続皮下注や持続点滴を経口投与に切り替えるときには、まず注射量の半量を経口投与に変更し(経口換算は2〜3倍)、半量はそのまま注射とする。次いで全量を経口投与に変更する。
,終末期医療(1991),,0,16

 
【3.2.8】
 モルヒネの内服から持続静注法への移行の場合、維持量は内服量の半分だが、全身状態が急速に悪化して経口不能に陥った場合は内服量の1/3を維持量とする。
,今月の治療(1996),4,4,26

 
【3.2.8】
 モルヒネ持続注入法にて疼痛コントロール中、疼痛時頓用でモルヒネを追加投与する場合、患者の目の前で持続注入器の"早送り"を用いるのは危険である。なぜなら夜間に患者が自殺目的に大量注入したことがあったからである。これらを防ぐにはPCA用の持続注入器を用いるのがよいが、高価な機械で操作も慣れが必要なため、全症例に用いるのは難しい。そこで頓用のモルヒネは原則として別の注射器を用いて三方活栓から注入するか、患者から見えないように機械を操作するなどの配慮が必要である。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,61

 
【3.2.8】
 モルヒネ持続点滴静注法の場合、シリンジポンプを使用する。持続点滴のボトルやバック内にモルヒネを入れると微量の調節や臨時投与がし難いので淀川キリスト教病院ホスピスでは行っていない。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,37
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,47

 
【3.2.8】
 癌性疼痛に対するモルヒネの持続静注投与量
 モルヒネは2.5〜5mgを急速静注した後に、24mg/日から開始しているが、副作用が予想される場合はこの半量から開始。副作用への予防的な対応が必要な場合は、生食やプリンペランで2倍に希釈し6mg/日から開始。
 またレペタンで有効限界に達してからモルヒネに移行した場合は36mg/日から開始。増量法は24-36-48-72-96-144-192mg/日としている。疼痛時は2.5mgを急速注入。
,がんの症状マネジメント(1997),,,88

#2
【3.2.8】
(モルヒネ静脈内注射による患者ごとの適切投与量の検索法)(by Twycross)
「前提条件」
 数値による痛み評価法で、痛みは5/10ないしそれ以上の強さで、モルヒネに対して完全にもしくは部分的に反応する可能性のある痛み
「方法」
 1.翼状針で静脈路を確保する
 2.まず、必ずメトクロプラミドを静脈内注射する
 3.モルヒネの15mgを希釈して10mLとして注射器(10mL)に入れる。モルヒネl.5mgを10分ごとに静脈内に注入する。これを痛みが消えるか、眠気を訴えるまでくり返す
 4.嘔気が起こったら、メトクロプラミド(プリンペラン) 5mgを静脈内に追加注射する
「経口投与への変換」
 静注投与量が決定したら、静脈内注射で必要であったモルヒネ量と同効の経口モルヒネを4時間ごとに処方するが、1日量は5の倍数にもっとも近いmg数とする。例えば、得られた経口投与量が3〜6mgであれば補正して5mgとする。経口投与量の最少量は5mgとなり、これを4時間ごとに投与する。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,44

      参照→【2.2.2】「製剤・投与経路によるモルヒネの効果の違い」
 
 

【3.2.9】「モルヒネの硬膜外投与法」


 
【3.2.9】
 硬膜外モルヒネ注入法の適応として、激しい痛みの除痛のほか、以下のものが考えられる。
  (1)モルヒネの投与で高度な副作用が出現したとき。
  (2)多種の薬剤投与で疼痛管理が混乱したとき。
  (3)消化器系の副作用が強く出現したとき。
モルヒネの内服あるいは点滴から硬膜外モルヒネ注入法に変更したときのための匹敵モルヒネ量はそれぞれ1/10〜1/20、1/3〜1/5である。
,終末期医療(1991),,0,44


【3.2.9】
 硬膜外オピオイド投与は薬剤が脊髄オピオイドレセプター自体に高濃度で投与されるので、より上質の鎮痛が得られる。投与するオピオイドの一日必要量が少なくて済むので、過剰な鎮静作用と副作用の出現が少ない。欠点として呼吸抑制が数時間後に遅れて出現する。これはオピオイドを以前から使用している患者では問題ない。またかゆみが出現するため、ジフェンヒドラミンで治療するか他のオピオイドに変更する。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,111

#1
【3.2.9】
 硬膜外へ注入されたモルヒネは硬膜、くも膜を透過して脳脊髄液(CSF)中に浸透し脊髄内に到達するため、皮下注や静注の約1/5の量で十分な効果が得られる。投与されたモルヒネは脊髄内まで到達するのに時間がかかり最大効果を得るまでに1〜3時間を要するが、CSF中からのモルヒネのクリアランスは低く、血漿中モルヒネ濃度の100〜200倍のまま経過するため、その効果は12〜24時間持続する。
 一方でこの高いCSF濃度に由来する掻痒感吐き気などの副作用が発現しやすい。また、投与されたモルヒネの約60%は全身循環に入るため、経口投与や持続注入と同様の副作用を生じる。この方法は、薬剤を硬膜外という非常に狭い空間に投与するため、感染や出血などがあると脊髄が間接的に圧迫されてしまう可能性がある。こうした理由から腰椎転移のある患者に用いるべきではないとされている。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,89

#1
【3.2.9】
 硬膜外、くも膜下投与は強度の痛みの出現や鎮痛薬の副作用が継続するときなどに用いる。少量で長時間効果が持続。呼吸循環系への抑制が少ない。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,47

#1
【3.2.9】
 モルヒネを硬膜外およびくも膜下投与すると、経口モルヒネの薬物力価を1とした場合、それぞれ10倍、100倍の力価となり、鎮痛時間も経口投与(4〜6時間)と比べ、約2倍(8〜12時間)、約3倍(12〜18時間)と飛躍的に延びる。このような効果は、フェンタニルなどの他のオピオイドでは見られないため、硬膜外、くも膜下投与するときの基準薬(Gold-Standard)として、モルヒネは広く臨床使用されている。
 モルヒネ硬膜外投与、くも膜下投与は、癌性疼痛管理の分野では、経口投与と比べ、意識低下や嘔吐、便秘などの副作用は少ないが、痒み、尿閉などの副作用が多く、投与開始時の侵襲や点滴治療などと同様に日常生活を制限されること、鎮痛効果とQOLの面でも著明な差がないこと、また、長時間行うと感染症などの合併症の危険性が増大するなどの理由で、敬遠されることが多かった。
 癌性疼痛管理で、硬膜外およびくも膜下投与法が適応となるのは、「悪性腫瘍の硬膜外脊髄転移による難治性疼痛」「人工透析患者の癌性疼痛管理」「モルヒネの大量投与でも十分な疼痛管理ができず、疼痛管理の質の向上とオピオイドの減量が必要になった場合」の3つとされている。
 悪性腫瘍の硬膜外脊髄転移による難治性疼痛は、神経原性の疼痛で、オピオイド療法や放射線治療が無効あるいは適応外である場合で、多くの場合、硬膜外鎮痛法も無効なため、くも膜下鎮痛法が行われる。
 経口投与でモルヒネ500mg以上を超えると、経口投与が困難となるため、経静脈投与を併用して、患者のQOL向上をはかることが必要であるが、このような治療を行っても、モルヒネ総投与量が1000mgを超え、しかも十分な疼痛管理が行えないことがある。文献での大量投与は、6500mgという報告がある。著者はモルヒネの総投与量が1000mgを超えた場合、硬膜外およびくも膜下鎮痛法を開始してオピオイド減量を考慮する目安とすると考えている。

,オピオイド治療(2000),,,56

 
【3.2.9】
 モルヒネを投与していて、経口や静脈内投与により副作用(嘔気、眠気、幻覚)が出たとき硬膜外投与にすればこれを回避できる

(経口投与から硬膜外投与への変更)
 一般的には、経口1日投与量の1/10〜1/15を硬膜外投与1日量とし1日2回投与とする。経口投与量が少ない症例(40mg/日未満)では、習慣的に2〜3mgのモルヒネを1日2回硬膜外投与するため、経口投与量の1/5程度の硬膜外投与量となる。

(経静脈内投与から硬膜外投与への変更)
 点滴1日量の1/3〜1/5を硬膜外投与1日量とし1日2回投与とする。点滴投与量の多い場合(100mg/日以上)は、硬膜外1回投与量が多くなること、十分な効果持続時間が得られないことがあるので、硬膜外持続投与が望ましい。
,癌疼痛治療におけるモルヒネの使い方(1991),,195

 
【3.2.9】
 経口投与を中止して硬膜外投与に変更するときモルヒネ量は約1/10に減る。このとき退薬症状についての疑問が出るが、現実には退薬症状はでない。原因として腸管運動の抑制によりモルヒネの全量が吸収されていない可能性があることと、硬膜外投与により脳内モルヒネ濃度が保たれているためと考えられる。静脈投与からの変更についても同様である。
,癌疼痛治療におけるモルヒネの使い方(1991),,197

 
【3.2.9】
 硬膜外でのモルヒネの注入は長期にはできない。硬膜外カテーテルの維持管理の問題のため、せいぜい数カ月が限度である。予後が数年も予想される患者には不向きと考えるべきである。また、維持管理、疼痛コントロールがうまくいった場合でもカテーテルを留置したままでは患者自身のQOLの向上は難しい。
,癌の痛みハンドブック(1992),,161

 
【3.2.9】
 モルヒネの持続硬膜外腔注入法の適応として至適量で維持中の急激な痛み、精神症状の強い症例、多種薬剤使用時の効果判定などが挙げられている。しかし、本法は硬膜外ブロックと硬膜外腔モルヒネ注入を同時に成立させられるからこそ、患者に対する侵襲もADLの低下も大きいにもかかわらず、他のモルヒネ投与法に比較して利点があると思われる。したがって、次のような症例が狭義の適応と考えられる。
 神経破壊薬による神経ブロックの適応とならない局所的な痛み、特に腰・下肢痛あるいは上肢の痛みに対して局麻薬の鎮痛効果の増強・延長を目的としている。
 癌性腹膜炎あるいは消化管の圧排などで偽イレウス症状をきたしており、他の投与ルートではイレウス症状を増悪させる危険が考えられる場合には局麻薬・モルヒネの硬膜外腔注入により鎮痛とともに腸管運動の亢進も期待できる。
 脊椎転移による横断麻痺が完成するまでの激しい痛みでは、モルヒネの鎮痛必要量が硬膜外腔投与で100mg/日を超えることがあるが、このようなときにはくも膜下腔にカテーテルを留置し硬膜外腔注入量の1/5〜1/10量を注入するのがよい。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,68


【3.2.9】
 1日に数百mgのモルヒネを皮下注射していたような場合でも、硬膜外に朝夕、10mgを注入すれば十分な疼痛コントロール効果がある。また、皮下注入量が多い場合に起こる混乱や嘔気などの副作用は、より少量の硬膜外投与への切り替えで消失するだろう。モルヒネに加えてリドカインやマーカインなどを硬膜外投与すれば、さらに効果的にモルヒネを減量できる。その場合、時に下肢の脱力、知覚鈍麻が起こるので注意する。
,疼痛コントロールQ&A(1998),,,63


【3.2.9】
 オピオイドや局所麻酔薬による持続硬膜外注入は、通常、全身のオピオイド投与量を減ずることが可能であるが、数日から数週間以内に硬膜外オピオイドに対する耐性が生じる。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,14


【3.2.9】
 オピオイドの硬膜外またはくも膜下注入は耐性が比較的急速に生じる
 また、呼吸抑制の危険が高い。皮膚掻痒が非常に問題となる場合がある。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,24

 
【3.2.9】
 モルヒネ持続硬膜外腔注入法は、癌性疼痛の治療として一時広く行われていたが、特殊な手技が必要なこと、本法特有の遅発性呼吸抑制排尿障害掻痒感などのために最近では減少しており、現在は主として術後の鎮痛法として行われている。しかし、除痛の質の高さ、局麻薬の併用による硬膜外ブロック効果、精神症状や便秘が発生しにくいなど多くの利点もあり、適応を選べば非常に有効な方法である。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,67

 
【3.2.9】
 (モルヒネの持続硬膜外腔注入法の至適量の決め方)
 多くの場合、疼痛コントロールが不十分なので、2.5mgのモルヒネを0.5%マーカイン5mLに溶解してbolusで硬膜外腔へ注入し、疼痛再発時に同量を追加投与して1日至適量を決めている。
 経口投与である程度痛みがコントロールされている症例では経口1日至適量の1/10〜1/15、皮下・静注法では1/3〜1/5量を目安とする。この場合、従来投与していたモルヒネを急に中止して硬膜外腔注入に切り替えても、特に退薬症状の出現などの支障をきたすことはない。
 ただし多くの部位の痛みがあって皮下・静注投与モルヒネが大量に使用されているような症例では、部位選択的な硬膜外腔鎮痛法では完全な除痛は得られない。したがって全身投与量を減らすことによって副作用を少なくする目的で、とりあえず最も痛みの強い部位を指標にカテーテルを留置して、全身投与の1/2量を硬膜外腔投与量に換算して移行させるのがよい。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,68

 
【3.2.9】
 モルヒネ持続硬膜外注入法は、疼痛範囲がある程度局限して硬膜外カテーテルの挿入が可能であり、ほかの鎮痛方法より効果が優れている場合にのみ適応となる。
 鎮痛効果が強力で、交感神経系の痛みのも有効で、眠気はほとんど問題とならない。胸部及び腰部硬膜外の穿刺では、痛み増強に対してモルヒネを増量しても眠気はないが、薬液が頸部硬膜外腔へ広がる場合は、頭がボーッとすることがある。
,ターミナルケア(1995),7,1,28

 
【3.2.9】
 硬膜外腔に投与するモルヒネは、同じ量でも持続注入法に比較して1回注入法のほうが鎮痛力も強く持続時間も長い。一方、局麻薬の持続注入法は低血圧が起こりにくい。そこで全身状態が悪い患者や在宅医療では、モルヒネ・局麻薬混合溶液を持続注入するのではなく、局麻薬を硬膜外腔持続注入として、生食で溶解したモルヒネを1〜2回/日定時に用いるのが安全である。
,痛みの臨床(1996),,,110


【3.2.9】
 オピオイドの経口投与量がだんだん多くなると患者の精神運動面が鈍化することがある。このようなときには、知覚系への影響が少ない硬膜外注入がよいという意見がある。
 体性痛や内臓痛硬膜外モルヒネによく反応する。しかし、神経損傷による痛みに対する効果には限界がある。
,緩和ケア実践マニュアル(1996),,,54

      参照→【2.2.2】「製剤・投与経路によるモルヒネの効果の違い」

 
 

【3.2.10】「くも膜下オピオイド投与」



【3.2.10】
 くも膜下オピオイド投与は硬膜外オピオイド療法の利点のうちの大部分がそのままあてはまる。硬膜外オピオイド療法より少ない量のオピオイドですむ。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,112

#1
【3.2.10】
 くも膜下腔注入は硬膜外注入のできない腰椎転移のある患者にも投与が可能である。硬膜外注入に比べ、硬膜の透過を回避できるため、より少量で長時間の疼痛コントロールを可能にする。そのため、長期にわたるときにはくも膜下注入の方がよいという意見もある。
 最大効果を得るまでには60分程度を要する。投与量は硬膜外注入の1 /10といわれていた時期もあるが、癌疼痛に対する明確な投与量の指針はないのが現状である。
 脳脊髄液中濃度は硬膜外注入時よりも高くなるため中枢性の呼吸抑制が発現しやすく、0.2〜0.6mgの範囲で用量依存的に呼吸抑制が認められている。また重篤な感染を引き起こす可能性もあるため注意が必要である。具体的な投与方法には硬膜外、くも膜下ともにカテーテルを通じた1日1〜2回の分割投与と持続注入があるが、鎮痛効果や副作用に差はない。投与が長期に及ぶ場合は、携帯用ポンプを使った持続注入法がよいとされている。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,89

#1
【3.2.10】
 (くも膜下オピオイド鎮痛法)
 モルヒネは、くも膜下投与すると、経口モルヒネの薬物力価を1とした場合、100倍の力価となり、鎮痛時間も経口投与(4〜6時間)とくらべ、約3倍(12〜18時間)に飛躍的に延びる。このような効果は、フェンタニルなどの他のオピオイドではみられない。
 モルヒネ全身投与に抵抗する疼痛の代表として、悪性腫瘍の神経浸潤による神経因性疼痛がある。これは難治性疼痛で、1日のモルヒネ静脈内投与量を300〜400mgに増やしても十分な鎮痛が得られないことがある。鎮痛補助薬としてリドカイン、ケタミン、カルマゼピンを併用したり、放射線治療を行っても無効あるいは適応外である場合に、くも膜下鎮痛法を行うと良好な疼痛管理が可能となり注目されている。
,鎮痛・オピオイド研究最前線(2002),,,36

#1
【3.2.10】
 (くも膜下鎮痛法)
 くも膜下腔にモルヒネと局麻薬を注入すると非常に強力な除痛効果があり、難治性の癌疼痛治療に対する有効な方法として報告された。局麻薬の濃度や量を調節すれば歩行も可能であり、硬膜外鎮痛法を含めて他の鎮痛法では管理ができない症例には期待される方法である。皮下埋込み方式で長期管理も可能である。
,緩和ケアテキスト(2002),,,69

#1
【3.2.10】
 悪性腫瘍の硬膜外脊髄転移による難治性疼痛は、神経原性の疼痛で、オピオイド療法や放射線治療が無効あるいは適応外である場合で、多くの場合、硬膜外鎮痛法も無効なため、くも膜下鎮痛法が行われる。
,オピオイド治療(2000),,,56

      参照→【2.2.2】「製剤・投与経路によるモルヒネの効果の違い」

 

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