【第六章 モルヒネが効かない場合(痛みの分類、鎮痛補助薬)】



【6.1】「モルヒネが効かない場合にまず考えること」


#2
【6.1】
 モルヒネががん疼痛に期待したほどの効果を上げないとき、以下の点について、まず検討してください。
  1.痛みの強さや治療による痛みの消長について患者が感じていることに耳を傾けること
  2.投与量が適切かとの再検討
  3.確実な副作用対策の実施
  4.患者が抱える心理的な問題や社会的な問題
  5.モルヒネが無効な痛み

,Q&Aがん疼痛緩和対策のアドバイス 第2版(2002),,,31

#2
【6.1】
「痛みの強さや治療による痛みの消長について患者が感じていることに耳を傾けること」
 痛みは患者だけに感じられる症状であり、除痛効果も患者だけに感じられるものです。したがって、治療開始前の痛みの強さや治療によって軽減した程度について患者が感じるところを十分に聞く必要があります。それに基づいて処方を改訂していくべきです。その際、患者が伝えてくれることを信じ、そのまま受け止める姿勢が必要です。もし医療側の考えているところと大きな差がある場合には、その理由は医療側にあるのではないかと検討すべきで、安易に「大げさな訴えの患者」と独断すべきではないのです。
 処方内容をどう改訂したかも患者に知らせ、その結果の除痛状態を翌日必ず患者に聞くことを心がけます。これが面倒だという患者はいません。こうして得られる情報が鎮痛薬の種類や投与量を決める尺度となるのですから、患者との対話を省略してはならないのです。治療を受けている患者には医療側に痛みについての情報を伝える役割があります。この役割のため、患者も治療チームの一員であると考えるべきです。このような患者の役割を無視して図式的に鎮痛薬を処方しても望ましい成果は得られません。

,Q&Aがん疼痛緩和対策のアドバイス 第2版(2002),,,31



【6.1.1】「モルヒネは十分に投与されているか」



【6.1.1】
 モルヒネの効果が十分に上がらない理由の多くは、過小量投与あるいは個別的至適量の無視である。モルヒネの至適量には大きな個人差がある。したがって、モルヒネの一定量をすべての患者に処方すると全体的な除痛効果は低下する。必ず患者ごとに至適量を求めて投与すべきである。

 モルヒネはWHO癌疼痛治療ラダーの第三段階に位置する強力な鎮痛薬である。しかし、モルヒネでも鎮痛困難な疼痛は存在する。このような種類の疼痛では、モルヒネを増量しても患者は疼痛を訴え続け、傾眠傾向ばかりが増強してくる。このような場合、NSAIDsの併用が意外なほど効果を発揮することがある。とくに、骨転移痛などの疼痛では、モルヒネ単独では鎮痛困難な場合でも、優れた効果が現れることが多い。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(痛み)=(モルヒネが効く痛み)+(NSAIDsが効く痛み)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

,今月の治療(1996),4,4,115
(注:ここでは痛みは(モルヒネが効く痛み)+(NSAIDsが効く痛み)と表現されているが、実際には、これ以外に(ニューロパシックペイン)や(筋攣縮痛)その他の痛みがある。)

 
【6.1.1】
 消化器系の癌の場合は内服したモルヒネが吸収されていない場合もあるため注意する。
,臨床と薬物治療(1990),,58,109

      参照→【6.1.2】「疼痛の分類(モルヒネの効かない痛みがある)」
      参照→【3.1.4】「モルヒネ製剤の投与原則」
      参照→【3.1.6】「モルヒネ増量のターニングポイント」

#2
【6.1.1】
(WHOの除痛ラダーを見直す)
 緩和ケアの情報が拡大するなかで、聞きかじりの知識でNSAIDsの前に最初からキシロカインが選択されたり、モルヒネの評価がしっかりとなされないままにケタミンが投与されたり、といったことが起こっていないだろうか。薬剤の選択に困ったら、まずラダーに戻り、NSAIDsが投与されているか、ステップのどこにあるのか、そのステップのオピオイドは至適量が使用されているか、副作用対策はとられているか、いつも除痛ラダーを頭に描きながら、考えていくことが大切である。

,薬の知識(2003),54,6,5

#2
【6.1.1】
(モルヒネが効果を上げないとき)
 モルヒネの増量調整が面倒だという医師に遭遇することがありますが、これも理解不足に原因が求められます。痛みの除去が不十分なままの患者への対応を続けるほうがよほど面倒なのではないでしょうか。こんな対応をしなくてすむ医療環境は、容易に実現できるのです。

,Q&Aがん疼痛緩和対策のアドバイス 第2版(2002),,,33

 
 

【6.1.2】「疼痛の分類(モルヒネの効かない痛みがある)」


 
【6.1.2】
 モルヒネを使用して3〜4回の増量でまったく効果がなければ、モルヒネの効かない痛みの可能性がある。痛みの性状について再検討をする。
,モルヒネの副作用対策(1990),,2
,最新医学(1990),45,4,823

 
【6.1.2】
 現在の痛みがモルヒネが効く痛みかどうか判定するには、モルヒネの内服治療が行われている場合、1日のモルヒネ量の1/6のモルヒネ水を追加で内服させるか、1/30〜1/20量のモルヒネを注射して、痛みの推移を観察する方法がよい。
 モルヒネ持続注射を行っている場合は、1/24〜1/12のモルヒネ量を単回注射して、痛みが軽減するか否かを観察する。

,がんの症状マネジメント(1997),,,111

#2
【6.1.2】
(オピオイドが効きにくい痛み)
 モルヒネ(オピオイド)が有効な痛みと無効な痛みがある。モルヒネが効きにくい痛みは、投与開始または増量で鎮痛効果が得られず、眠気が増していく。この場合、鎮痛補助剤を併用していくことが基本だが、オピオイドが有効と思える痛みの場合には、オピオイドローテーションすることで、疼痛緩和する場合もある。
 鎮痛補助薬に関しても、モルヒネと同様に無効な痛みに増量を行うと眠気が強くなる(抗鬱薬、抗痙攣薬、ケタミンなど)。このような場合は中止し、ほかの鎮痛補助剤に変更することが原則である。ただし、鎮痛補助薬は決められた投与量まで増量しないと効果が出ないので投与量には注意する。

#1
【6.1.2】
 全身投与したオピオイド鎮痛薬の効き方の程度からも癌患者の痛みが分類できる。しかし、これはオピオイド鎮痛薬の全身投与したときの臨床経験に基づく分類であり、全身投与では効かなかったが、硬膜外投与や髄腔内投与では効果があがったとの報告があるので、全身投与時にのみ考慮すべき分類である。
,オピオイドのすべて(1999),,,22

 
【6.1.2】
 全身投与したモルヒネの効果から癌患者の痛みは次の4つに分類される。

(1)モルヒネによく反応する痛み
   内臓転移痛
   軟部組織への浸潤による痛み

(2)モルヒネにある程度反応する痛み
   骨転移痛(NSAIDsやステロイドを加える。放射線局所照射も有用)
   神経圧迫による痛み(ステロイドを加えたり、神経ブロックを併用する)
   頭蓋内圧亢進による痛み(ステロイドを加える)

(3)モルヒネに反応しない痛み
   筋攣縮痛(ジアゼパムを使う)
   痛覚求心路遮断による痛み(三環系薬や抗痙攣薬を使う)
   交感神経系が関与した痛み(交感神経ブロックを使う)

(4)モルヒネに反応するが使うべきでない痛み
   胃膨満痛(抗鼓腸薬を使う)
   大腸収縮による痛み(腸蠕動刺激薬を使う)
   便秘による痛み(浣腸、緩下剤を使う)


,医療麻薬の利用と管理’95(1995),,,83

 
【6.1.2】
(1)骨への浸潤
 痛みの機序は末梢性でプロスタグランディンの遊離によるものと考えられている。したがって、疼痛治療には、インドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症鎮痛薬をモルヒネと併用すると有効である。

(2)末梢神経.神経叢.脊髄への直接浸潤
 モルヒネに抗鬱薬、抗痙攣薬、向精神薬を併用するとよい場合がある。カウザルギーや交感神経の破壊を伴う場合は交感神経ブロックが著効を示す場合がある。

(3)内臓への浸潤
 内臓痛の病態はいろいろあるが、一般的には経口投与が困難であり、モルヒネ坐薬や点滴あるいは硬膜外投与が必要になる。
 ときに内臓神経支配に一致した関連痛を生じ、腹腔神経ブロックが非常に効果的なことがある。

 内臓痛より体性痛の方が鎮痛薬ははるかに多量を要する。癌の痛みにも鎮痛法は種々用意して、その適正な組み合わせをするべき。

,治療(1992),74,01,176

#1
【6.1.2】
 ごく少数の癌患者には交感神経が巻き込まれた痛み(sympathetic-maintained pain)が起こる。動脈分布領域に一致して起こるのが特徴で、薬が効かず、交感神経ブロックのみが効果をあげる痛みである。
,がん看護(1998),3,4,271

#1
【6.1.2】
 交感神経系が関与した痛みsympathetic-maintained painの特徴は、交感神経系の支配に依存した痛みで、動脈支配域に一致して起こる。灼熱的な痛みが多く、知覚障害を伴い、交感神経ブロックで除痛される。痛覚求心路遮断による痛みとの鑑別が必要であるが、鑑別がむずかしいことがある。癌患者での発生は少ない。
,がんの痛みの鎮痛薬治療マニュアル(1994),,,11

#1
【6.1.2】
 体性痛と内臓痛を合わせて侵害受容性疼痛とよび、これらは癌による組織破壊から出た発痛物質が痛覚線維を刺激することにより引き起こされる。
 体性痛の例としては、「うずく、刺し込む、鋭い」といった表現がなされ、痛みが比較的限局しており、壁側腹膜、胸膜、骨膜などに癌が浸潤した場合や、作動により悪化する痛みの場合などが該当する。神経支配領域に知覚障害を伴っていることも参考となる。
 一方「締めつけられる、局在のはっきりしない、鈍い」と表現される痛みは、C線維を介した内臓痛を疑わせるもので、入浴などで暖まると楽になる、という事実も大いに診断、治療の際に参考となる。オピオイドの投与効果、選択する神経ブロックの種類などに違いがあるので、体性痛と内臓痛とは分けて理解すべきである。
,臨床と薬物治療(2002),21,2,11

#1
【6.1.2】
 オピオイド鎮痛薬が効くが使うべきでない痛みとして、消化管の疝痛がある。急性の疝痛にはオピオイド鎮痛薬が使われるが、オピオイド鎮痛薬を繰り返して使うと消化管の平滑筋の収縮を強めることになるからである。代わって使うべき薬は臭化ブチルスコポラミンなどの鎮痙薬である。
,オピオイドのすべて(1999),,,23

#1
【6.1.2】
 最近は、癌の痛みの大きさをVASなどで追跡すると同時に、癌の発痛メカニズムを患者の訴えなどから探り出して、その発痛メカニズムに応じた処方設計をしていこうというように、大きく流れがかわってきていると思われる。WHOが1996年に出した第2版はその流れに洽っていると思われるが、癌の発痛メカニズムを大きく4つに分けて考えるのが一般的である。
 1番目は、侵害受容器を物理的あるいは化学的に刺激して起こっている、いわゆる侵害受容性疼痛
 2番目は、神経系の異常によるもの。以前は、末梢神経の損傷ということが非常に注目されたが、今は末梢神経の損傷がきっかけになって、中枢神経を含めた疼痛認知機構の過敏性が亢進することが注目されて、そして、それをどう制御するかという問題になってきている。
 3番目は、交感神経がなんらかの形で痛みを維持している、あるいは交感神経がなんらかの形で痛みに関与している疼痛。交感神経の求心路に着目している人は、SMP(sympathetically mediated pain)と言っているが、もっと広い意味で、交感神経が痛みを維持するのに一役かっているといういい方をする人は, sympathetically maintained pain、両方ともSMPであるが、いずれにしても、交感神経がなんらかの形で痛みに介在している、ないしは痛みの増強に関わっているというのが3番目の発痛メカニズムである。
 4番目は、平滑筋あるいは骨格筋の攣縮による疼痛。骨格筋の攣縮というのは、要するに同じような体位で長いこと臥床していれば、どうしても非常に強いコリが生じる。そういう骨格筋の痛み。平滑筋の痛みというのは、腸閉塞のときの腸管のスパスムの痛みとか、そういうものが入る。
 それゆえ、侵害受容性疼痛、神経因性疼痛、それから交感神経が関与する痛みあるいはSMP、そして筋の攣縮による痛み、この4つの発痛メカニズムが想定されるが、慣れてくると患者の訴えから、ベッドサイドで大体読み取れるので、それに基づいて処方設計をしていくということになる。
 かなり大ざっぱなお話であるが、4種類の発痛メカニズムによる痛みをベッドサイドでどう鑑別するかと言えば、患者の訴えをていねいに聴けば、あらかたわかる。痛みで顔が歪んでいるような患者に質問をする場合、ともかくまず最初は、「現在の痛みは、あなたが小さいころからこれまでに経験してきたさまざまな痛みと似たような痛みですか。要するに、転んだときに手足を擦りむいたような痛みとか、指先をとげで刺したり、刃物で切ったりしたときの痛みとか、そういうものに近いですか」と聴いて、「ああ、そうです」という答えがパッと返ってくれば、少なくとも侵害受容性疼痛がメインだということになる。
 「そんな痛みとはちょっと違う。とてもうまくいいあらわせない」というような話になってくると、次には、「ひょっとしたら、やけどを思わせるような、あるいは日焼けしたとかに感ずるような、ヒリヒリ、ピリピリ感を伴った痛みで、ときとき電気が走るような鋭い痛みを伴った痛みですか」と聴いて、「それに近いです」となると、神経因性疼痛がメインか、少なくとも神経因性疼痛が絡まっている痛みだなと考える。
 それから、SMPは、虚血痛の痛みがSMPの痛みの代表なので、長いこと正座していたときにしびれとも痛みとも表現できないような不快な鈍痛が生ずるときがあるが、それに近いと答えれば、SMPのファクターがはいっていると判断する。
 あとは、いわゆる差し込み、胆石の痛みとか膀胱結石あるいは尿路結石の痛み。私たちはそういうのはよく見慣れているが、それを連想させるような痛みを訴えられたりする場合は、内臓の消化管の攣縮が関与している痛みを考える。あるいは、背中が非常に凝って痛い。これはこちらから聴かないと、コリがあるということは普通は言わないので、「凝っていますか」と話しかけると、「凝って、凝って大変なんです。ときどき、首筋から後頭部が痛くなって、そのまま額や目の奥まで痛くなってくるんです」という話をしばしば聴くことになる。こんなときは、これは長いこと同じような体位を強制されていることによるコリの痛みがメインかと考える。発痛メカニズムが想定できると、それに対する初期治療法は経験的・理論的にすてにぼば確立しているので、あとは、それぞれに対して処方設計ができるということになる。

,非ステロイド性抗炎症薬の選択と適正使用 改訂第3版(2002),,,3

 
 

【6.1.2.a】「モルヒネの効きにくい痛み」


#1
【6.1.2.a】
 痛みのなかには、オピオイドがまったく無効であるか、効きが非常に弱いものがある。
 オピオイドに反応しにくい痛みの代表は、三叉神経痛、糖尿病性神経障害による痛み、帯状疱疹後神経痛、遷延性術後痛、反射性交感神経性萎縮症、幻肢痛、癌疼痛のうち癌が神経を圧迫、浸潤、破壊したときに生ずる痛みなどである。これらはすべて神経の器質的あるいは機能的な異常によっで生ずる痛みで、神経因性疼痛(neuropathic pain)と総称される(神経自体に原因のある痛み)。
 また、腸管がれん縮したときの痛みや、長期臥床に伴って必発する筋筋膜性疼痛や筋緊張性頭痛もオピオイドに反応しない(筋の攣縮に伴う痛み)。
 腫瘤が動静脈を圧排したりリンパ還流を障害したときの、末梢循環不全と浮腫を伴った不快な絞り上げられるような痛みも、オピオイドにほとんど反応しない(虚血や交感神経の関与する痛み)。

,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,75

 
【6.1.2.a】
 モルヒネの効きにくい痛みとして以下の3つが上げられる。
(1)骨転移による体動時痛:鎮痛補助剤の投与、放射線療法、理学療法士の介入
(2)神経因性疼痛(ニューロパシックペイン):鎮痛補助剤の投与
(3)死亡直前期の重篤な疼痛(消化管穿孔、腹腔内出血):鎮静の考慮

,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,60
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,70

#1
【6.1.2.a】
 急性痛のなかで、モルヒネが効きにくいかどうかをチェックする前に調べる必要があるものは、(1)病的骨折、(2)脳圧亢進時の頭痛である。これらに対してモルヒネはほぼ無効であり、(1)に対しては固定、または緊急に手術を行う必要がある。(2)に対してもモルヒネは無効であり、高浸透圧利尿剤、ステロイドを早急に投与する必要があるため、早期の診断、治療が重要である。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,117

 
【6.1.2.a】
 モルヒネの経口または持続皮下注入で90%の患者を完全除痛できるが、残りの10%に疼痛は軽減できても完全除痛できない症例がある。これらは骨盤内腫瘍(直腸癌、子宮癌)、Pancoast型肺癌などの神経直接浸潤例や、腰椎転移による体動時痛例である。報告では、モルヒネ経口4200mg/日や持続皮下注入1536mg/日の大量投与でも完全除痛できない症例もある。こういった症例にはモルヒネに固執することなく、早期より硬膜外ブロックや、くも膜下フェノールブロックなどの神経ブロック療法や放射線療法を考慮しなければならない。また、トリプタノールなどの抗鬱薬やカタプレスが有効との報告もある。
,臨床と薬物治療(1990),,58,82

#1
【6.1.2.a】
 パンコースト症候群の痛みのように神経障害性の痛みが交感神経が関与して起こった痛みを混在していることもある。交感神経が関与した痛みには交感神経ブロックしか有効でなく、薬のみの治療は無効であったが、最近になって薬による治療が検討されている。今でもパンコースト症候群の痛みを薬のみによって治療したときには痛みは軽減するが、完全消失がほとんど実現していない。
,オピオイドのすべて(1999),,,22

#1
【6.1.2.a】
 モルヒネが効きにくい痛みとして、以下が上げられる。
 経口モルヒネ1日量が200〜300mgを超え、約15%のレスキューモルヒネに反応しない痛み。やけるような、突き刺すような、などの痛み。皮膚の異常感覚。運動麻痺を伴っている領域の痛み。

,今月の治療(2000),8,3,57

#1
【6.1.2.a】
 多くの時間をベッド上で週ごすようになる癌終末期には、脊柱起立筋は絶えず体位性の負荷を受けることになる。これに、さまざまな不安や葛藤が加わると、頸部や腰背部の筋に強いこり(筋スパスム)が生ずる。このこりは筋の虚血と発痛物質の産生をもたらし、侵害受容器を刺激して不快感や痛みとして意識されるようになる。この痛みのインパルスは脊髄後根神経節内の一次ニュ−ロン(偽双極細胞)により脊髄後角に入力するが、ここで同部位を遠心性に支配する交感神経や運動神経の二ューロンと接続すると、当該部位の筋緊張はさらに強まり、ここに悪循環が形成され、しだいにぬき差しならぬほどの痛みとなって患者を悩ます。癌が脊椎に転移し、転移巣周辺に炎症が生ずると、近傍の筋にこりが生じ、これが上記のメカニズムでしだいにコチコチのこりになることもある。このような痛みを筋筋膜性疼痛(myofascial pain)といい、終末期の患者を非常に苦しめる。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,44

 
 

【6.1.2.b】「骨転移痛」


#1
【6.1.2.b】
 癌細胞が血行性に骨に移転して増殖し、初期には骨に分布する神経を剌激して痛みを起こす。そのため、単純X線検査で所見が出る前に痛みが先行するので注意が必要である。また、痛みの出現頻度は血清カルシウム値やアルカリ性フォスファターゼ値の上昇よりも頻度が高いとされており、これらの検査値の異常がないからといって安心はできない。さらに癌細胞が増殖すると神経系や血管を圧迫して新たな痛みが起こる。体動時の痛みが出現してくれば病的骨折の発生が疑われる。
,がん患者の訴える痛みの治療(2001),,,37

#1
【6.1.2.b】
 (骨転移に伴う体動時痛)
 体動時に急激に増強する疼痛のマネジメントは、ときに難渋する。体動時に疼痛が出現しないようにモルヒネを増量すると、安静時に強い眠気が出現し患者の (QOL)を著しく低下させてしまうことがある。
 このような場合には、体動的にモルヒネのrescue dose (臨時追加投与量)を処方するのがよい。1日投与量の1/4〜1/6のモルヒネを速効性製剤で投与するか、1時間投与量のモルヒネ注射薬を緩徐に投与するのがよい。
 しかし比較的日常生活動作(ADL)の保たれている患者においては頻繁にrescue dose が必要になり、完全な疼痛マネジメントは困難になることがある。また、体性痛とともに骨転移が脊髄や根神経を圧迫することによって、神経因性疼痛が同時に出現していることも多い。このような場合、鎮痛補助薬の投与が有効である。また、生命予後から判断し放射線治療が可能であれば、有効なことがある。

,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,61
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,70

 
【6.1.2.b】
 骨転移による体動時痛は一般的にはWHO方式とNSAIDsの投与で、安静時の疼痛は比較的コントロールは簡単である。
 しかし、体動時に急激に増加する疼痛のコントロールは時に難渋する。このような場合は体性痛とともに骨転移が脊髄や神経根を圧迫することによって、神経因性疼痛が同時に出現していることが多い。従って、鎮痛補助剤の投与が有効な場合がある。

,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,70

 
【6.1.2.b】
 痛みを伴う検査や体位交換時に痛みを予防する目的でNSAIDsや鎮痛薬を前もって投与することは意味がない。なぜなら、自発痛には鎮痛薬・麻酔薬のいずれも有効だが、体動時痛のような痛み刺激による疼痛を完全に抑えることができるのは麻酔薬だからである。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,101

 
【6.1.2.b】
 モルヒネはWHO癌疼痛治療ラダーの第三段階に位置する強力な鎮痛薬である。しかし、モルヒネでも鎮痛困難な疼痛は存在する。このような種類の疼痛では、モルヒネを増量しても患者は疼痛を訴え続け、傾眠傾向ばかりが増強してくる。このような場合、NSAIDsの併用が意外なほど効果を発揮することがある。とくに、骨転移痛などの疼痛では、モルヒネ単独では鎮痛困難な場合でも、優れた効果が現れることが多い。
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(痛みの全体)=(モルヒネが効く痛み)+(NSAIDsが効く痛み)
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,今月の治療(1996),4,4,115

 
【6.1.2.b】
 ケタミンは、神経因性や骨転移の強い痛みに1〜2mg/kg/日を持続皮下注や持続静注で投与し、眠気もほとんどなく良好なコントロールが得られる。
,ターミナルケア(1995),7,1,29

 
【6.1.2.b】
 癌の進行期の患者の痛みの訴えは信用した方がよい。たとえそこに骨シンチの集積像を見ないときでも、骨転移と考え、MSコンチンを念頭において、疼痛コントロールを開始したほうがよい。やがて患者の訴えを追うようにして骨シンチは描かれていく。
,JIM(1992),2,6,497

#1
【6.1.2.b】
 骨転移痛には非オピオイド鎮痛薬の投与が基本であるが使用量に上限があり、オピオイド使用でも十分効果が得られない場合、副腎皮質ステロイドの使用を考慮する。
,Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000),,,83

(注:骨転移痛に関しては、以下の各章を参照して下さい)
      参照→【6.2.4】「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)」
      参照→【6.2.5】「アセトアミノフェン」
      参照→【6.2.6.b】「エルシトニン」
      参照→【6.2.6.a】「ビスホスホネート(アレディア、ビスフォナールなど)」
      参照→【6.2.7】「ホルモン療法」
      参照→【6.2.11】「ケタミン」
      参照→【6.2.12】「ステロイド」
      参照→【6.4.1】「神経ブロック療法」
      参照→【6.4.2】「放射線療法」

 
 

【6.1.2.c】「ニューロパシックペイン(神経因性疼痛)」


#1
【6.1.2.c】
 WHO方式癌疼痛治療法を正しく用いることにより7〜9割の患者では良好な鎮痛が得られる。しかし、癌による疼痛を有する患者ではその3割に神経因性疼痛(neuropathic pain)を合併し、これらはモルヒネに抵抗性を示すことが知られている。
,緩和ケアテキスト(2002),,,60

#1
【6.1.2.c】
 (ニューロパシックペインの臨床的特徴)
 a.あきらかな組織損傷がなくても痛みがある。
 b.灼けるよう、ひりひりする、しびれを伴うなどと表現され、持続的、ときに電撃的な痛みである。
 c.普通では痛みを起こさないような刺激(たとえば軽く触れるなど)によって痛みが発現する(allodynia:アロデニアという)。
 d.非ステロイド性抗炎症性鎮痛薬やモルヒネが効きにくい。
 e.疼痛部位に一致して知覚障害を認めることがある。

,緩和ケアテキスト(2002),,,60

#1
【6.1.2.c】
 ニューロパシックペインにおいては、損傷された末梢神経の後根神経節にコレシストキニン(cholecystokinine)が大量に発現する。この物質は内因性モルヒネ拮抗性物質として働き、モルヒネの作用を抑制する。ニューロパシックペインを治療するには通常の約10倍の量のモルヒネが必要とされるが、最近ではモルヒネが有効なニューロパシックペインの存在も確認されている。
,緩和ケアテキスト(2002),,,61

#1
【6.1.2.c】
 Portenoyらはニューロパシックペインを以下を3つの種類に分類した。
1)持続的な不快な異常感覚
2)刺されるような、または突発的な痛み
3)交感神経が関与した痛み

   いずれもまず抗鬱薬の投与を行うこと推奨している。
 それに加えて1)ではメキシチールまたエルシトニンを、局所への薬剤としてカプサイシンクリーム、局所麻酔薬を含んだクリーム、NSAIDsを含有する軟膏を推奨している。
 2)に対してはテグレトール、フェニトイン、デパケンなどをはじめとしてランドセン、ギャバロン、ピモジドを推奨している。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,36

#1
【6.1.2.c】
 (ニューロパシックペインへの対応)
 ファーストチョイスとして、抗痙攣薬ではランドセンを、抗鬱薬では短時間で効果が出る点でアモキサンを使う医師もいる。トリプタノールは効果発現に時間がかかる。
,今月の治療(2000),8,3,18

#1
【6.1.2.c】
 (ニューロパシックペイン)
 痛みの性質で間欠的な痛みに対しては抗痙攣薬、持続的な不快な痛みには抗鬱薬を投与するという考え方が一般的であるが、鎮痛効果発現期間も考えると、即効性が期待できる抗痙攣薬をまず投与することが有効である。モルヒネの鎮痛効果の増強も期待することができる。それでも効果が薄い場合には、モルヒネに抗痙攣薬、抗鬱薬を併用する。ニューロパシックペインは、治療が困難であることが多く、鎮痛補助薬の一種類だけ併用するのみでは不十分であることが多い。このほかに抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬を重ねていくことも必要であることがある。

,ターミナルケア(2002),12,6,452

 
【6.1.2.c】
 ケタミンはニューロパシックペインに有効である。しかし、ニューロパシックペインと明確に診断できない病態でも、モルヒネの効果が悪いときにケタミン併用を試みてもよい。
,がんの症状マネジメント(1997),,,130

#2
【6.1.2.c】
(骨盤内転移からくる神経因性疼痛)
ステロイドホルモン
 腫瘍自体のサイズの縮小は望めませんが、腫瘍周囲の腫脹を緩和するためにステロイドホルモンを使用します。
  ・サクシゾン300mg+生食20mL、静注
  ・リンデロン2mg+生食1OOmL。点滴静注
  ・2%キシロカイン200mg+生食1OOmL、30分から1時間で点滴静注 1日3〜4回実施 総量1500mgまで可
静注用ケタラール点滴静注
  ・静注用ケタラール250mg+生食250mL、4〜8mL/hr持続点滴静注
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,43

#2
【6.1.2.c】
(神経因性疼痛)
 しばしば抗鬱薬としてのトリプタノール10〜50mgが有効です。就寝前に投薬しますが、量が多くなると、朝と就寝前の2回に分けます。
 また、就寝前にアナフラニール1V(25mg)+生食1OOmLで点滴してみても有効です。
 リボトリール0.5〜2mgも有効です。
 このほか、発作的な痛みには、2%キシロカインの点滴静注が有効です。
 いろいろと治療しても痛みが取れない場合は、ドルミカムを点滴で使用してみることもあります。 ドルミカム1V+生食1OOmL、 10〜20mL/hr
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,39

#2
【6.1.2.c】
 一般に、表在性の焼けつくような痛みやアロディニア(衣類が触れたなどの刺激で誘発される異常な痛み)には三環系抗鬱薬が有効であり、突然起こる刺すような鋭い痛みの成分には抗痙攣薬が有効です。これら2つの痛みがあるときには、まずどちらかの薬を用い、効果不十分のとき両者を併用します。効果がなければ抗不整脈薬を使用しますが、抗不整脈薬を最初から使用する医師もいます。ただし、抗不整脈薬と抗鬱薬はともに不整脈を起こすことがあるので併用は避けます
,Q&Aがん疼痛緩和対策のアドバイス 第2版(2002),,,63
 
(注:ニューロパシックペインの対処法に関しては、以下の各章を参照して下さい)
      参照→【6.2.2】「鎮痛補助薬選択法」
      参照→【6.2.11】「ケタミン」
      参照→【6.2.10】「抗不整脈薬」
      参照→【6.2.8】「抗鬱薬」
      参照→【6.2.9】「抗痙攣薬」
      参照→【6.4.1】「神経ブロック療法」

 

【6.1.2.d】「疝痛」


 
【6.1.2.d】
 疝痛は、有腔臓器の内腔の狭窄や閉塞による平滑筋の強い収縮によって引き起こされる痛みである。間歇的な痛みであることが多い。このような痛みにはブスコパンなどの鎮痙薬が有効である。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,21
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,93

#1
【6.1.2.d】
 (腸管における疝痛)
・治療可能な便秘を治療し、除外する。
・放射線治療や化学療法による腸管刺激の場合、ロペミンを考慮する。
・胆汁による場合、クエストランを始める。
・薬剤による場合、投与量を減らすか中止する。
・腸の不完全閉塞に対しては、緩下剤を強力バルコゾルに変更し、ブスコパンを舌下または経口で使用する。
・腸の完全閉塞で手術不可能な場合、ブスコパンの持続皮下注また同時に消化管閉塞の治療を行う。

,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,9

#1
【6.1.2.d】
 (膀胱における疝痛)
・治療可能な感染症と尿の流出障害を治療し、除外する。
・不安定膀胱に対してトフラニールまたはプロバンサイン。
・腫瘍による膀胱刺激に対して0.25%マーカイン20mLを10分間膀胱内へ注入する。
,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,9

#1
【6.1.2.d】
 (尿管における疝痛)
・治療可能な感染症を治療し除外する。
・下部の閉塞に対して、ステントを考慮する。
・他のやり方として大量デカドロン投与を考慮する。
,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,9

      参照→【7.11.1】「腸閉塞による疼痛(疝痛と内臓痛)」

 
 

【6.1.2.e】「筋攣縮痛」(こむらがえりなど)



【6.1.2.e】
 セルシン(ホリゾン)は筋痙攣による痛みが原因の場合にきわめて有効である。筋の攣縮に伴う痛みはそれほど多くみられないが、著しい脱水状態の患者などでは電解質異常などによって神経−筋の被刺激性が亢進し、筋の攣縮や身の置き所のない全身の不快感を生じることがある。
,緩和医療(1999),1,2,62

#2
【6.1.2.e】
(有痛性筋攣縮)
 有痛性筋攣縮とは痛みを伴う筋攣縮であり、数秒から数時間、ときに数日間持続することがあるが、10分間を超えて痛みがあるときは疼痛性筋硬直とする意見もある。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,299

#2
【6.1.2.e】
(有痛性筋攣縮)
 進行がん患者で有痛性筋攣縮が反復して続く場合、第一選択薬はジアゼパム5〜10 mg の就寝時服用であろう。代わりの方法として、バクロフェン10〜20 mg の1日2〜3回の服用がある。2つの薬ともGABA(γ-アミノ酪酸)の中枢神経抑制作用によって筋緊張を低下させて効果を発揮する。ジアゼパムには筋弛緩作用と精神的緊張緩和作用があり、不安の強い患者には、この2つの作用が効果を現わす。
 ダントロレンは骨格筋に直接作用するので眠気を起こすことが少ない。第三の選択薬であり、必要に応じてジアゼパムやバクロフェンと併用する。初回投与量は1日1回25 mg、 1週間に25 mg ずつ増量し、最大100mgを1日4回内服する。標準量は75 mg 1 日3回の服用である。緩和ケアで用いるときは、できる限り早く症状を緩和する必要があるので、速いペースで増量する。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,302

 
 

【6.1.2.f】「疼痛性障害(心因性疼痛)」


#2
疼痛性障害(pain disorder)
 一言でいうと、従来診断では、いわゆる「心因性疼痛」のこと。近年、精神科領域でも明確な診断基準が定められるようになり、それとともに一部の従来診断名が変更された。疼痛性障害もその一つである。
1)原因:
 体性感覚の過剰あるいは増幅があるともいわれるが、詳細は不明。ストレス度の高い出来事を契機として発症することが多い。
2)症状:
 身体の特定部位に激しい痛みが、持続ないし出没する。痛みは、1ヵ所の場合もあれば複数の部位にわたることもある。また、痛みの位置が日によって移動することも珍しくない。ところが、種々の検査によっても激しい痛みの原因となるような異常所見は認めないのである(!)。医師からは、「検査で異常ないから心配ない」として鎮痛薬などを処方されるが、激しい痛みにはそれほど効果がみられない。
3)治療:
 検査で証拠が出てこないのに痛むのは、患者自身の「痛覚神経の過敏性」も痛みの発生に関わっている可能性を説明し、それを軽減する目的で抗けいれん薬のvalproic acid (デパケン、バレリン)400〜1200mg/日、あるいはclonazepam (ランドセン、リボトリール)0.5〜4mg/日を分2〜3で内服投与する。抗鬱薬も悪くないが、すでに内服の経験のある患者が多い。これらが無効の場合には、副作用のごく少ない抗精神病薬quetiapine(セロクエル)も試用してみる価値がある。また、患者の疼痛に関わる行動は、周囲からの注目を集める形で強化されているため、患者本人が痛みの解決に対して他力本願になっていることが多い。そこで医療スタッフは、何でもよいから痛み以外の生活上の事柄に目を向けるよう、患者に指示するとよい。その結果として患者自身の積極的な生活態度が少しでもみられたらおおいに称賛し、さらに重ねて指示を強化していく、という認知行動療法的アプローチの併用も一定の効果がある。
4)まとめ:
 がん性疼痛のある患者に疼痛性障害が併発することもしばしばある。証拠の明らかでない疼痛の持続するがん患者に対しては、オピオイドの増量に加えて、上記のような治療的アプローチの追加も考慮することが必要である。

,ターミナルケア(2003),13,3,233

      参照→【7.24】「痛みの訴えが多い鬱状態の患者」
 
 

【6.2】「鎮痛補助薬」


 

【6.2.1】「鎮痛補助薬について」


 
#1
【6.2.1】
 日本緩和医療学会の作成したEvidence-Based medicineに則ったがん疼痛治療ガイドラインでは鎮痛補助薬を、鎮痛目的で使用する第1種鎮痛補助薬と、それ以外の緩下薬や制吐薬などの第2種鎮痛補助薬に分類している。
 このうち第1種鎮痛補助薬は「オピオイドよリ鎮痛作用の確実性が劣り、副作用があるため、オピオイドを至適投与量まで増量しても鎮痛効果が得られないときに使用を考慮する」とされ、その使用開始の目安は「モルヒネ経口投与で120mg/日を越えたとき」である。
 WHO編「がんの痛みからの解放」第2版で鎮痛補助薬の使用が明言される以前は、鎮痛が得られるまで増量することでモルヒネ投与量が1000mg/日を超える症例も少なからず経験した。しかし、鎮痛補助薬に関する知見が蓄積されるにつれ、鎮痛の主体であるモルヒネなどのオピオイド投与量はむしろ減少傾向にある。前述の目安量も今後、鎮痛薬に関する基礎的研究が進み、癌性疼痛治療の選択肢が広がるにつれ変更はありうるであろう。
,ペインクリニック(2002),23,12,1641

#1
【6.2.1】
 (癌性疼痛への鎮痛補助薬使用の原則)
 (1)必ず鎮痛薬と併用する。慢性疼痛と異なり、癌性疼痛への単独使用はない。
 (2)鎮痛補助薬開始後も鎮痛薬を中止してはならない。ただし鎮痛効果増強による結果的な減量はある。
 (3)鎮痛補助薬の選択は疼痛機序を推測して行う。
 (4)多剤併用を避け、単剤に対し効果判定と副作用の監視を繰り返し行う。

   鎮痛補助薬と併用される鎮痛薬は基本的にはオピオイドだが、痛みの性質によってはWHO鎮痛ラダーのすべての段階が適応される。
 癌性疼痛への薬物治療は多剤併用に陥りやすく、効果判定なしでは患者の苦痛と薬物治療への不信につながる。鎮痛補助薬も同時に多剤を開始せず、単剤を効果の得られるまで増量する。増量後の効果判定には血中濃度安定までの十分な期間(薬物半減期の4〜5倍以上)をとリ、有効性が確認できないか副作用が強ければ投与を中止する。抗痙攣薬や抗不整脈薬では至適投与量の推測と副作用予防に血中濃度測定が一助となる。鎮痛補助薬が有効な場合でも、併用する化学療法や放射線治療、外科的治療が奏効すれば、鎮痛薬同様に減量、中止が可能である。
 鎮痛補助薬の投与の継続は、常に患者のQOLに寄与するかどうかの相対的な評価で決定される。これまでに報告された鎮痛補助薬の有効率は薬物選択が適切としても8割を超えない。効果に過大な期待をしてはならず、漫然と投与すべきではない。しかし、治療者の選択肢に鎮痛補助薬があるかないかで、癌性疼痛冶療の質は大きく異なる。

,ペインクリニック(2002),23,12,1642

 
#2
【6.2.1】
【鎮痛補助薬の特徴】
薬剤の分類 薬剤名(商品名) 投与量/日 投与経路 投与時間・方法 特 徴
抗鬱薬 アミトリプチリン
(トリプタノール)
10〜75 mg 経口 眠前(分3) 皮膚表面の
違和感に効果
抗痙攣薬 カルバマゼピン
(テグレトール)
100〜   
  800mg
経口 眠前(毎食後) 電気が走るような痛み、
刺すような痛みに効果
クロナゼパム
(リボトリール)
0.5〜1mg 経口 眠前 ミオクローヌスに著効
ステロイド ベタメタゾン
(リンデロン)
2〜4mg 経口
静注,皮下注
朝・昼食後
点滴内
持続注入器内
食欲増進,倦怠感の
改善に効果あり
ヒドロコルチゾン
(ソル・コーテフ)
500〜   
  1000 mg
静注 点滴 神経圧迫に効果,
3〜5日投与し漸減
抗不整脈薬 メキシレチン
(メキシチール)
150〜300 mg 経口 毎食後 副作用は少ない,
発疹に注意.
重篤な副作用に移行
リドカイン
(キシロカイン)
500〜   
  1000mg
静注,皮下注 持続 副作用は少ない
NMDA受
容体拮抗薬
ケタミン
(ケタラール)
50〜300mg 静注,皮下注 持続 眠気、悪夢の副作用
に注意
 1日投与量の左端は開始量であり,右端は最大投与を示している.どの薬剤も少量から開始し,効果・副作用を慎重に評価しながら,漸増していくことが重要である
,臨床緩和ケア(2004),,,109

#2
【6.2.1】
 オピオイド、NSAIDsに加えて、鎮痛補助薬(抗鬱薬、抗けいれん薬、抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬)を使用する。
 聖路加国際病院の緩和ケア病棟では、Twycross Rによる鎮痛補助薬のラダー(参照→【6.2.2】(鎮痛補助薬ラダー))を推奨しているが、施設により使い方は異なっている。
 一般的にレスキューとしての効果の即効性はない
,薬の知識(2003),54,7,28

#2
【6.2.1】
(神経因性の痛みに対する鎮痛補助薬)
 鎮痛効果とは、完全除痛か、まったくの無効かだけではない。つまり、All or Nothing ではない。まず最初の重要な第一歩は、夜間の良眠の確保である。第2は、昼間の痛みの強さとアロジニアを軽減して耐えられる程度に緩和することである。最初のうちは得られる鎮痛の程度に日内変動があることがある。最悪の痛みを24時間にわたり減らすことよりも、痛みが消失した時間、あるいは痛みが少ない時間が少しでも良くなることを目標にしていく。
 患者には、睡眠の改善はすぐ得られるが、最大の鎮痛効果が得られるまでには1週間あるいはそれ以上かかると伝えておくべきである。副作用は治療を制約する因子になる。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,62

 
 

【6.2.2】「鎮痛補助薬選択法」


#1
【6.2.2】
「国立がんセンター中央病院鎮痛補助剤選択法(4段階ラダー)」
 国立がんセンター中央病院では鎮痛補助薬を必要とする痛みの治療に、病院独自のガイドラインを作成することで対応している。
 鎮痛補助薬の選択基準を、WHOの提示する癌疼痛治療法の3段階ラダーにならい下記の4段階としている。さらに、各段階での薬剤を固定することで鎮痛補助薬の使用を積極的に行えるようにしている。
  第1段階 クロナゼパム【適応外】
  第2段階 アモキサピン【適応外】またはノルトリプチリン【適応外】
  第3段階 メキシレチン【適応外】またはリドカイン【適応外】
  第4段階 ケタミン【適応外】

   第1段階として、他の薬剤に比べ使用制限の少ないクロナゼパムを使用する。
 クロナゼパムは血液障害などの重篤な副作用が少なく、また、心疾患や緑内障、排尿障害などを意識せずに使用できる。投与初期は夜間の睡眠障害にも有効で、除痛効果の発現も早い。クロナゼパムが有効な症例では、投与初日から痛み、しびれの軽減がみられることが多い。当院では、1回0.5mg(就寝前)を初回量とし、症状の改善を観察しながら徐々に増量し1回0.25〜1mgを1日3〜4回まで増量している。特に日中の服用においては、1回0.25mg位の増量にするとめまい、ふらつき、運動失調などの副作用が少ない。
 クロナゼパム単独で十分な効果が得られない場合、第2段階としてアモキサピンまたはノルトリプチリンを単独またはクロナゼパムとの併用で投与する。
 アモキサピンは三環系抗鬱薬の中では抗コリン作用が軽度で、作用発現も投与後2〜3日と早い。 50mg/分2/日から投与を開始し、通常50〜75mg/分2〜3/日で効果が得られるが、必要により150mg/分3/日まで増量できる。アモキサピンが使用できない場合にはノルトリプチリンを使用する。ノルトリプチリンはアミトリプチリンに比べ鎮静作用や抗コリン作用、心毒性が少ない。投与法・投与量については前述の抗鬱薬に準ずる。当院の経験では、開胸後痛症例のほぼ80%に、第2段階までの薬剤投与により患者からの満足を得ている。
 第3段階の薬剤はメキシレチンまたはリドカインを使用している。
 メキシレチンは抗不整服薬のなかで比較的安全に使用できる薬剤であり、2000年7月に「糖尿病性神経障害に伴う自覚症状(自発痛、しびれ感)の改善]の適応が追加されている。眠気、便秘の副作用がなくモルヒネとの併用には好都合であるが、効果発現に高用量を必要とすることも多いため第3段階で使用している。当院での投与量は、150mg/分3/日から投与を開始し、必要により600mg/分3/日まで増量している。
 メキシレチンの投与でもコントロールできない場合、第4段階としてNMDA受容体格抗薬であるケタミンを患者の状況により持続静脈投与、持続皮下投与または経口投与で使用している。
 鎮痛補助薬としての投与量は麻酔量の1/5程度で、持続静注での投与量は0.1〜0.2mg/kg/hrである。経口投与では200mg/分4/日が効果的である。副作用として注射では眠気、ふらつき、めまい、悪夢、混乱などが、経口では吐き気、ふらつき、浮遊感、非現実感などがみられることがある。

,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,161

#1
【6.2.2】
 (鎮痛補助薬の選択)
 淀川キリスト教病院ホスピスの経験では、オピオイドが投与されている末期癌患者では、副作用である眠気が出現しにくい抗不整脈薬を第一選択としている。それが不十分なときには、ケタミン、抗痙攣薬、抗鬱薬を用いる。また、予後との関係をみてコルチコステロイドを併用する。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,59

#1
【6.2.2】
 (ニューロパシックペインに対する鎮痛補助剤の考え方)
 痛みの性質で間欠的な痛みに対しては抗痙攣薬、持続的な不快な痛みには抗鬱薬を投与するという考え方が一般的であるが、鎮痛効果発現期間も考えると、即効性が期待できる抗痙攣薬をまず投与することが有効である。モルヒネの鎮痛効果の増強も期待することができる。
 それでも効果が薄い場合には、モルヒネに抗痙攣薬、抗鬱薬を併用する。ニューロパシックペインは治療が困難であることが多く、鎮痛補助薬の一種類だけ併用するのみでは不十分であることが多い。このほかに抗不整脈薬、NMDA受容体拮抗薬を重ねていくことも必要であることがある。
 そして、それでも不十分なとき、局所に限定されている場合には神経ブロック療法を組み合わせていくべきである。ポイントとしては、同じ作用機序を持つもの、同じ受容体に働く薬剤は併用しないことも重要である。

,ターミナルケア(2002),12,6,452

#2
【6.2.2】
(神経因性の痛みに対する鎮痛補助薬)
                    (ステップ 5)脊髄鎮痛法
                    
               (ステップ 4)NMDA受容体チャネル拮抗薬
               
          (ステップ 3)三環系抗鬱薬と抗痙攣薬b)
          
     (ステップ 2)三環系抗鬱薬または抗痙攣薬b)
     
(ステップ 1)コルチコステロイドa)

 がん自体による場合は、非ステロイド性消炎鎮痛薬と強オピオイド鎮痛薬の併用処方に効果がみられない場合にのみ使用する。
 a)下肢に脱力がある場合には、コルチコステロイドの試用が重要である。
 b)ある医療センターでは、抗痙攣薬の代わりに、メキシレチン、局所麻酔薬、ナトリウムチャネル拮抗薬である抗心性不整脈薬を使用している。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,61

#2
【6.2.2】
(鎮痛補助薬ラダー)
               (ステップ 4)硬膜外麻酔
               
          (ステップ 3)抗不整脈薬orケタミン
          
     (ステップ 2)抗けいれん薬and抗鬱薬
     
(ステップ 1)抗けいれん薬or抗鬱薬

,薬の知識(2003),54,7,28


 

【6.2.3】「ドラッグチャレンジテスト」


 
【6.2.3】
 モルヒネが効く痛みかどうかはモルヒネの1mgテスト静注がよい。30分〜1時間後に痛みの変化を聞いてみて、痛みが軽減、消失するならモルヒネに反応する痛みであるので、通常の手順でモルヒネを投与してゆけばよい。1mgでは重篤な副作用が起きる事は皆無である。
,平賀先生(国立がんセンター病院)講演より

 
【6.2.3】
 モルヒネが効果のある痛みであるかどうかの判定はモルヒネの1mg静注テストがよい。
 このとき、仮に1時間の除痛が得られたとすると、単純計算では1日24mgの静注モルヒネ量でよいことになり、経口に要するモルヒネ量は約60mgとなる。だいたいの場合、これで正解である。
,Cancer Pain Symposium in Tokyo(1994) より

#1
【6.2.3】
 強い痛みの際の対処法としては、ドラッグチャレンジテストでモルヒネ量を決定するやり方がある。
 塩酸モルヒネ20mg+生理食塩水18m1溶液を作製し、2 mg/mLずつ静注し、 VASが3以下になるまで、5分ごとに繰り返す。嘔気、呼吸抑制(10回以下/分)がみられたらその時点で中止する。要したモルヒネ総量の4倍を1日あたりに注入する量として、持続注入(静注、皮下注)を開始する。

,臨床と薬物治療(2002),21,2,12

 
【6.2.3】
 現在の痛みがモルヒネが効く痛みかどうか判定するには、モルヒネの内服治療が行われている場合、1日のモルヒネ量の1/6のモルヒネ水を追加で内服させるか、1/30〜1/20量のモルヒネを注射して、痛みの推移を観察する方法がよい。モルヒネ持続注射を行っている場合は、1/24〜1/12のモルヒネ量を単回注射して、痛みが軽減するか否かを観察する。
,がんの症状マネジメント(1997),,,111


【6.2.3】
 癌の痛みはモルヒネの有効な侵害性疼痛やモルヒネに抵抗性のニューロパシックペインがある。その疼痛発生機序や、疼痛維持の機序が鑑別診断されればそれに見合った治療法も選択的に適応できると考えられる。
 このような場合、鎮痛に関する薬物を少量ずつ静脈内に投与し、疼痛の消長を観察することによりその疼痛の機序を推察し、治療法に応用しようとする薬理学的検査がドラッグチャレンジテストである。モルヒネに抵抗を示す痛みの治療方針を決定する際に補助となる診断法である。

・(ドラッグチャレンジテストの意義)
 用いられる薬物には、フェントラミン、バルビツレート、ケタミン、リドカイン、モルヒネがある。これらの薬物を用いる意義を簡単に述べる。

(1)フェントラミン:αアドレナージック受容体拮抗薬であるので、痛みに交感神経や循環しているカテコラミンが関与しているかどうかの判定に用いる。

(2)バルビツレート:痛みに中枢性または心因性機序があるかどうかの判定に用いる。

(3)ケタミン:NMDA受容体が痛みの発生、維持に関与しているか、または中枢性機序があるかどうか調べる。

(4)リドカイン:損傷された神経繊維や、その神経細胞における異所性異常活動を調べる。

(5)モルヒネ:痛みが侵害性疼痛かどうかを調べる。

・(方法)
a.手順
(1)適当な輸液剤で静脈を確保する。テストは1日1薬物とする。

(2)各薬物投与前にプラセボ効果を見るため生理食塩水を薬物と同量2回静脈内投与し、生理食塩水投与1分後、5分後に痛みの程度を10段階で記録する。

(3)その直後にテスト薬物を5分間隔で追加投与し、投与1分後、5分後のVAS(視覚的アナログ評価尺度)を記録する。

(4)痛みが0にならない場合は追加投与。

 薬剤の投与量はフェントラミンは1回5mg、チアミラールナトリウム(バルビツレート)は1回50mg、モルヒネは1回3mg、ケタミンは1回5mgをそれぞれ3回まで用いる。

・リドカインテスト
 リドカインテストは生理食塩水を2回投与した後、まず1mg/kgを単回静脈内投与し、引き続いて1mg/kgの量のリドカインを30分かけて点滴静注しつつ、多の薬物と同様な時間間隔で痛みの程度を調べる。

・モルヒネテスト
 モルヒネテストに反応した例では最終判定の5分後にナロキソン0.2mgの静注を行い痛みが再発することを確認する。

b.判定
 テストの結果の判定は、鎮痛効果を薬剤投与開始の痛みを10としたペインスコアで表し、それが0〜2になったものを++、3〜6になったものを+、7から9になったものを±とする。

c.結果とその後の治療法の選択
 これらのテストの主な目的は、テストの結果を治療に反映させることであり、各テストの陽性例に対する治療法、適応薬物は以下の通りである。

フェントラミンテスト:交感神経節ブロック、局所静脈内交感神経遮断法
チアミラールテスト :ラボナの内服、脊髄・脳電気刺激療法
ケタミンテスト   :ケタミン持続点滴療法、デキストロメトルファンの内服、脊髄・脳電気刺激療法
リドカインテスト  :リドカイン点滴療法、メキシチール内服
モルヒネテスト   :オピオイドの内服、知覚神経ブロック、消炎鎮痛薬の内服

,緩和医療(1999),1,2,42(,疼痛治療の現状と展望(2000),,,32の内容により一部改変)

(注:ここでは、デキストロメトルファンの内服を勧めているが、この薬剤による鎮痛効果はあまり高くなく、鎮痛効果を現す量を服用すると、副作用が現れてしまうという報告や、ケタミンの内服により鎮痛効果が得られたとする報告もある)

#1
【6.2.3】
 ドラッグチャレンジテストのうちモルヒネテストにおいて、以前は最後にナロキソンを使用して、痛みが再び増強することを確認していたが、モルヒネ投与後、時間をおいてさらに疼痛軽減の得られる症例の多いことから、最近ではナロキソンを投与していない。
,オピオイドの基礎と臨床(2000),,,50

 
 

【6.2.4】「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)」


#1
【6.2.4】
 (癌緩和医療におけるNSAIDsの意義)
 癌疼痛は、侵害受容性疼痛・神経因性疼痛・交感神経の関与する痛みなど、さまざまな発痛メカニズムの集合体であるが、その主軸は末梢の侵害受容器が化学的(炎症)あるいは物理的(圧迫)に刺激されて生ずる侵害受容性疼痛である。この侵害受容性疼痛は、NSAIDsの末梢性鎮痛とオピオイドの中枢性鎮痛の“ダブルブロック”により効果的に鎮痛を得ることができ、これがWHO方式の基本的な戦略でもある。
 したがって、癌緩和医療におけるNSAIDsの第一の意義は、末梢性発痛メカニズムが関与している侵害受容性の癌疼痛の緩和におけるNSAIDsの有用性にある。これは海外での大規模臨床試験でほぼ実証されている。固形癌は必ず炎症と炎症性浮腫を随伴しており、これが侵害受容器に炎症性の化学刺激と圧迫刺激を与えていると思われるが、とくに骨転移巣では炎症が強く、骨転移痛に対してNSAIDsは、適切なオピオイド療法と併用することで効果的な鎮痛がもたらされるという報告が多い。
 NSAIDsを癌疼痛治療に用いる意義として、オピオイドの減量効果(とそれによるオピオイドの副作用の軽減)は以前より報告されており、その意義を認めるにやぶさかではない。しかし、オピオイドの副作用対策は長足の進歩を遂げており、筆者は、癌疼痛治療におけるNSAIDsは、オピオイドと併用して鎮痛効果を強化するとともに“鎮痛の質(quality of analgesia)の向上”をもたらす薬物としてこそ大きな意義があると考えている。
 オピオイド単独療法では「痛みは楽にはなったが、今ひとつジクジクした鈍い不快感があってすっきりしない」(患者さんの言葉)という状態が、NSAIDsを併用することで「すっきりと切れ味よく痛みが軽くなった」(患者さんの言葉)という患者さん自身の評価を数多く得ている。

,臨床と薬物治療(2002),21,2,56

#1
【6.2.4】
 (癌緩和医療に用いるNSAIDsの条件)
 癌終末期では、全身状態が日々緩やかに(ときには急速に)悪化していくことから、癌緩和医療に用いるNSAIDsの条件としては、全身状態の悪い人にも安全に用いることができ、消化器あるいは腎臓に対する副作用が少ないことがあげられる。
 癌緩和医療領域におけるNSAIDs選択に際しては、各NSAIDsの鎮痛・抗炎症・解熱の三作用のバランスに注目する必要がある。全身状態の悪い人や高齢者で、解熱作用の強力なNSAIDsを多めに用いたとき、循環系が非常に不安定になったり、ときにはショック状態(低体温性ショック)に陥ることは臨床現場ではよく知られていることである。したがって、鎮痛・抗炎症には効果的だが、解熱作用についてはむしろ強すぎないか弱いものが、癌緩和医療において使いやすいNSAIDsの重要な要件である。

,臨床と薬物治療(2002),21,2,56

#1
【6.2.4】
 NSAIDsを使用する場合は胃腸障害の少ないレリフェンまたはハイペンのいずれかをベースとして、疼痛増強時ボルタレン25 mg坐剤を適宜併用する。
 いずれを処方する場合でも、NSAIDsを使用する際には、必ずNSAIDsによる胃粘膜障害の予防薬として、サイトテック(ミソプロストール1錠200μg)3錠分3(毎食後)あるいは4錠分4(毎食後と寝る前)を併用する(サイトテックはPG製剤であり、子宮収縮作用により流産することがあることと、下痢をきたしやすいという副作用がある)。

,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,62

#1
【6.2.4】
 (非オピオイド(NSAIDs)使用上の注意事項)
(1)軽度から中等度の癌性疼痛に対しては非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAIDs)かアセトアミノフェンを使用する。
(2)NSAIDsには有効限界(ceiling effect)があるため、最大投与量以上に増量したり、複数のNSAIDsを併用すべきではない。
(3)NSAIDsは、炎症を伴う疼痛、皮膚転移痛、骨転移痛などに有効で、オピオイドとの併用により相加的効果以上の鎮痛効果が得られる。
(4)経済的で簡単な経口投与を基本とし、それが困難な場合には坐薬や注射投与も考える。
(5)NSAIDsの投与に際しては、胃腸粘膜障害、血液凝固抑制、肝障害などの副作用に充分注意する。消化性潰瘍などの粘膜障害に対する予防としては、H2阻害剤、プロトンポンプ阻害剤、misoprostolが有用である。

,緩和ケアテキスト(2002),,,43

 
【6.2.4】
 非ステロイド性鎮痛薬の坐薬をアンペック坐剤と同時に使う場合は、油脂性基剤のものを選ばないとアンペック坐剤の効果が落ちる。(ボルタレン坐薬は油脂性だからよいが、インダシン坐薬は水溶性のためモルヒネの吸収が落ちる)
平賀先生(国立がんセンター病院)講演より

 
【6.2.4】
 非ステロイド性消炎鎮痛薬には天井効果(増量しても鎮痛効果は増加せず、副作用のみ増加すること)があるので、臨床的にはアスピリンで1日4gまで、ボルタレンでは1日100mgまでとする。
,今月の治療(1996),4,4,14


【6.2.4】
 癌患者に骨転移痛があるときの緊急な痛みのコントロール法として、アスピリン 300〜900mgを4〜5時間毎(1日最大4gまで)、またはナイキサン500mgを1日2回、またはメナミンの徐放錠200mgを1日2回使用する。
,緩和ケア実践マニュアル(1996),,,32


【6.2.4】
 NSAIDsの選択基準として、経済性からブルフェン、強さからナイキサン、インダシン、消化管障害はレリフェン、オステラック。腎障害にはレリフェン、クリノリル、皮膚障害(発疹以外)が現れたらフェルデン、アスピリンを選択する。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,35

#1
【6.2.4】
 NSAIDsは、炎症を伴う疼痛、皮膚転移痛、関節痛、骨転移痛には特に有効であると考えられているが、最近内臓痛にも効果があることが報告されている。
,Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000),,,41


【6.2.4】
 複数のNSAIDsを組み合わせることで、一種類あたりの投与量を減らし、副作用を軽減することはできない。NSAIDs同士の多剤併用はかえって鎮痛効果を減弱させると考えられ、副作用発現率も高くなる可能性が高い。仮に頓用であっても、経口投与に坐剤や注射剤のNSAIDsを併用することも同様であり避けるべきである。
,ターミナルケア(1996),6,1,8


【6.2.4】
 骨転移の痛みでは、特定のNSAIDsがより有効であることが証明されていない。しかし、さまざまな薬剤を組み合わせても十分な鎮痛が得られない場合、NSAIDsの種類の変更が有効な可能性はある。
,ターミナルケア(1996),6,1,8


 

【6.2.4.a】「レリフェン」


#1
【6.2.4.a】
 リウマチ学や整形外科学領域でのevidenceを援用して、ナブメトン(レリフェン)が、癌緩和医療においては適当ではないかと結論づけた。
 その理由は、まず、副作用が非常に少ない。特に胃腸障害に関して少なくて、他の従来型のNSAIDsに比べれば1/10から1/30程度で、コキシブ(COX-2 specific inhibitor)の胃腸障害の程度に相当するという豊富なevidenceが出ている。
 また、2番目には腎に対する副作用も少ない
 それから、3番目としては、従来型のNSAIDsは通常dose dependent に胃腸障害や腎障害が増えるが、ナブメトンに関しては、この点でのdose dependencyがない。それは、多施設のメ夕アナリシスのデー夕からも、ラットとかマウスを使った動物実験でもハイレベルのevidenceが出ている。
 それともう1つは、全身状態のよくない癌患者では、鎮痛と抗炎症作用というのはきちんと出してほしいが、解熱作用はあまりほしくない。ナブメトンの鎮痛・抗炎症・解熱のバランスをみると、解熱作用が非常に弱い。これは、癌患者にかかわらず、全身状態のわるい人にとってはとても大切なポイントで、たとえばジクロフェナクのような、非常に強力な鎮痛作用をもちながら、同時に非常に強い解熱作用をもっている薬を使うと、循環動態ががたがたになってしまったり、あるいは低温性ショックといわれている状態になる。
 そういう意味で、鎮痛・抗炎症・解熱のバランスがとても大切で、ともかく鎮痛と抗炎症はそこそこに、しかし解熱は少なく、なおかつ長期間副作用なく安心して用いることができる、そういうNSAIDsの選択を進めたところ、ナブメトンが第一選択で、エトドラクが第二選択になるかというのが現在の考えである。

,非ステロイド性抗炎症薬の選択と適正使用 改訂第3版(2002),,,13

#1
【6.2.4.a】
 レリフェン(ナブメトン)は、リウマチ治療領域においてではあるが、連用しても胃腸障害が非常に少なく(セレブレックスと同程度)、増量しても他のNSAIDsのように用量依存性に副作用の頻度が増加することなく、かつ高齢者にも安全性が高いという点においてハイレベルのエビデンスを有する唯一のNSAIDsであり、従来、そして今日も欧米で高く評価されている。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,62

#1
【6.2.4.a】
 癌緩和医療におけるNSAIDsの条件(消化器、腎に副作用が少なく鎮痛・抗炎症に比し解熱が弱い)をナブメトン(レリフェン)についてみてみると、ナブメトンは鎮痛作用を1とすると、抗炎症作用はその4.48倍と高く、解熱作用は0.84倍と弱いことを示す報告がある。穿孔、潰瘍、出血といった重大な胃腸障害の発現率については、従来型のNSAIDsと比較して有意に低いことが報告されている。また、ナブメトンはプロドラッグで、製剤自体は非酸性である。さらに、腸肝循環がほとんどないため消化管粘膜に直接障害がないという特徴を有する。消失半減期が20時間程度であるため1日1回ないし2回の内服で安定した効果を期待できるので、服薬コンプライアンスがよい。これらの製剤学上の特徴に、先に述べたエビデンスを合わせ考えると、全身状態に不安のある癌終末期の人に対しても、内服可能な限り安心して長期にわたり連用可能なNSAIDsであると筆者は評価している。
,臨床と薬物治療(2002),21,2,56

#1
【6.2.4.a】
 箕面市立病院・緩和ケアセンターでは、ナブメトンの有する特徴ならびに最近4年間の使用経験に基づき、癌緩和医療におけるNSAIDsの処方として、内服可能な人には「適切なオピオイド療法に加え、ナブメトン1600mg/日を朝夕2回に分けて与薬し、この際、NSAIDsによる胃腸障害の既往のある人にはミソプロストール(サイトテック)を併用する。ナブメトンの代替薬としては、エトドラク(ハイペン、オステラック)400mg/日を朝夕2回分服」というプログラムを実施している。
 また、オピオイド療法のレスキューと同様の考えから、痛みの増強時には速効性で短時間作用性のジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)をレスキューとして別途頓用で処方している。ジクロフェナクナトリウムはNSAIDsのなかでは最強の鎮痛作用を有し、かつ速効性ではあるが、解熱作用も非常に強力であるので、全身状態に応じて少なめに処方している(25mgまたは12.5mg坐剤、あるいは25mg錠)。

,臨床と薬物治療(2002),21,2,57

#1
【6.2.4.a】
 平均的日本人成人に対して、教科書通りのハイペン(200mg)2錠、レリフェン(400mg)2錠/日、分2は絶対的に量が不十分である。最初から3錠分3または、眠前2錠+朝食後1〜2錠の分2にすることを勧める。
,麻酔科診療プラクティス 4癌性疼痛管理(2001),,,22

 
 

【6.2.4.b】「ロピオン」


#2
【6.2.4.b】
 NSAIDs唯一の注射剤。静注後5分で最高血中濃度となり半減期は約5時間です。通常は、生食を点滴しながら、側管から静注してゆきます。 2〜3分以上かけてゆっくりと静注します。痛みが出現してから使用することもありますが、内服できない場合に、1日2〜3回、時間を決めて使用する場合もあります。
  ロピオンをIVHで使用する場合は、本品が脂肪乳剤であるため、フィルターの目詰まりを起こす可能性があるため、注意が必要です。またアルブミン製剤との配合変化を来たします。
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,65

 
【6.2.4.b】
 骨転移の痛みに対してはロピオンの注射が非常によく効く。ヴェノピリンと同等か、もう少し効果があると思われる。
,がん疼痛緩和とモルヒネの適正使用(1995),,,87

 
【6.2.4.b】
 小児・老人などのプアリスク患者に対する処方として、ロピオン(50mg)2Aを生理食塩水100mLで希釈し25mLずつ1日4回に分けて点滴静注するという方法がある。
,今月の治療(1996),4,4,29

 
【6.2.4.b】
 NSAIDsが効く疼痛であるかどうかの判断にはロピオンのワンショット静注がいい。
,今月の治療(1996),4,4,74

 
【6.2.4.b】
 ロピオンは従来の注射剤に比べて、血圧低下は少ないとされている。静注時、特有の臭いや味を訴える場合があり、そのようなときには生食20〜50mLに溶解して投与すると良い。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,26
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,38


【6.2.4.b】
 ロピオンによる嘔気・悪寒などの発現は、投与速度よることが大きい。また、アルブミン製剤と凝集を起こすので、同一カテーテルを介して注入する場合も注意を要する。
,ターミナルケア(1996),6,1,20


【6.2.4.b】
 脂肪乳剤にロピオンを3〜4アンプル混入させたものをIVHの側管から24時間かけて点滴投与する方法も、発汗が少なく鎮痛効果が安定しているので、患者に好評である。
,ターミナルケア(1996),6,1,37

 
 

【6.2.5】「アセトアミノフェン」


 
【6.2.5】
 非オピオイド鎮痛薬にはNSAIDsとは別にアセトアミノフェンもあげられている。この薬剤には解熱鎮痛作用はあるが、抗炎症作用はほとんどない。また、胃への障害は生じないが、用量依存的に肝機能障害を生じるため注意が必要。
 日本バプテスト病院ホスピスでは1500〜2000mg/日を標準投与量としている。本剤は鎮痛効果がある程度投与量に依存するため、投与量の増量が可能である。
,がんの症状マネジメント(1997),,,37

#2
【6.2.5】
 アセトアミノフェンは能書などによる投与量は極めて少なく(1日最大1500mg)、また投与間隔も作用時間に比べて不十分である(6〜8時間毎)。最大投与量(1回投与量、1日投与量とも)については、国内外の資料で差が大きいが、副作用に関する日本人と欧米人の人種間に差があるとする報告はない。アセトアミノフェンは1回投与量300mgに比べて500〜600mgの方が明らかに鎮痛効果が強まるが、1000mg以上では必ずしも効果は増強しない。アセトアミノフェンの有効作用時間は4〜6時間であり、適切な鎮痛には4〜6回、4〜6時間毎の投与が必要である。
,緩和ケア(2000),,,197

#1
【6.2.5】
 NSAIDsは血小板減少症や止血機能異常のある患者には投与すべきではない。アセトアミノフェンには、この作用はないため代替薬として使用できる。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,40

#1
【6.2.5】
 アセトアミノフェンは内服4時間後の血中濃度が200μg/mL以上の時に、重篤な肝障害を引き起こすことがある。本剤は腎障害を引き起こすことは極めて希である。
,Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000),,,42

 
【6.2.5】
 アセトアミノフェンは末梢性鎮痛作用と解熱作用に関してはアスピリンに匹敵するが、胃腸障害を起こさないので使用しやすい。非ステロイド系消炎鎮痛薬とは異なり抗炎症作用はない。
,がん疼痛緩和とモルヒネの適正使用(1995),,,79

 
【6.2.5】
 特別な場合として、ナプロキセンで安静時の痛みがほとんど消失したが、体動時の痛みがごくわずかに残る程度の痛みの場合に、アセトアミノフェンを追加投与することがある。
,がんの症状マネジメント(1997),,,38


【6.2.5】
 他のNSAIDsと比較した場合のピリナジンの長所は、血小板に対する影響がないことで、血小板減少症の患者にも使いやすい。また、相対的に安価である。
,癌性疼痛治療のガイドライン(米公式)(1998),,,42


【6.2.5】
 ピリナジンでは消化性潰瘍を生じない。アスピリンのような出血時間の延長はなく、尿酸の排泄に影響しない。アスピリン喘息患者に対する交差反応は少ない。鎮痛作用機序は不明であるが、炎症部位ではなく中枢レベルでの作用が考えられている。
,ターミナルケア(1996),6,1,21

 

【6.2.6】「高カルシウム血症治療薬」


#1
 以前より、エルカトニンの骨転移痛の除痛効果は種々報告され、臨床的にも応用されてきたが、最近は、ビスホスホン酸塩の除痛効果が注目され、臨床応用され始めている。エルカトニンも、パミドロン酸ニナトリウム、インカドロン酸ニナトリウムも特段の副作用がなく、状態のよくない人にも安心して使用できる。
 破骨細胞抑制薬に反応する人では、安静時痛と同時に体動時痛も緩和するのが特徴的である。その鎮痛メカニズムは今のところ不明であるが、筆者は、破骨細胞を抑制することで破骨細胞が誘導するさまざまなケミカルメデイエータの産生を抑制することと、骨の不安定性を改善することによると想像している。
,臨床と薬物治療(2002),21,2,68


 

【6.2.6.a】「ビスホスホネート(アレディア、ビスフォナールなど)」


#2
【6.2.6.a】
 ビスホスフォネートは破骨細胞を抑制するため、鎮痛薬、放射線照射±整形外科的治療にもかかわらず持続する骨転移痛を緩和する目的で使われる。文献的には、乳がんと骨髄腫に関する報告が主であり、バミドロン酸(アレディア)とクロドロン酸が使用可能である。その他のがんの場合にも有効性が認められている
 50%の患者で通常7〜14日後には効果がみられ、2〜3か月持続することが多い。効果が2回目の投与後にみられることもあるが、2回目以降に効果がないときには、それ以上の使用も無効である。効果があった患者では、有効な限り、頓用方式で使用を続ける。骨転移の合併症を長期にわたり軽減するという予防目的でビスホスフォネートを使用する場合には、バミドロン酸(アレディア) 60〜90mgを3〜4週ごとに静脈内注射するか、クロドロン酸 1600mg を経口投与する。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,28

#2
【6.2.6.a】
 アレディア骨転移痛、特に溶骨性変化や破骨性変化が強い症例に使用し、著効を示すことがあります。通常使用して1〜2週間以降から効果があることが多い印象があります。
 全身の骨転移を来たしやすい前立腺がんや乳がんの患者に使用できます。最近では多発性骨髄腫の予後の改善に寄与している可能性も指摘されています。
 30mgを生食5OOmLに溶解して、3〜4時間以上かけてゆっくりと点滴します。全身状態が悪い末期がん患者にも安全に使用できます。輸液量を増やしたくない状況下では、1OOmLに溶解して1時間くらいで使用しても重駕な副作用はないようです。1ヵ月に1回使用してゆく方法で、外来でも使用できます。
 副作用としての軽度の発熱は10%から20%の頻度でみられますが、通常2〜3日で落ち着きます。
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,66

#2
【6.2.6.a】
(アレディア)
効能又は効果
1. 悪性腫瘍による高カルシウム血症
2. 乳癌の溶骨性骨転移(化学療法、内分泌療法、あるいは放射線療法と併用すること)

用法及び用量
1. 悪性腫瘍による高カルシウム血症
通常、成人にはパミドロン酸二ナトリウム(無水物)として30〜45mgを4時間以上かけて、単回点滴静脈内投与する。なお、再投与が必要な場合には、初回投与による反応を確認するために少なくとも1週間の投与間隔を置くこと。
2. 乳癌の溶骨性骨転移
通常、成人にはパミドロン酸二ナトリウム(無水物)として90mgを4時間以上かけて、4週間間隔で点滴静脈内投与する。

,アレディア添付文書 2004年11月改訂(第7版)

 
【6.2.6.a】
 アレディア【適応外】(注:2004年11月より「乳癌の溶骨性骨転移」に適応)は、ホルモン療法、化学療法ないし放射線療法などの抗腫瘍治療と異なり、腫瘍細胞に直接作用するのではなく、骨病巣部における腫瘍細胞の増殖環境に影響を与えて、疼痛抑制効果及び抗腫瘍効果を発揮するという特性を有する。本療法は副作用も少なく、全身状態不良な末期癌患者にもまったく問題なく施行可能な治療法である。
,癌性骨疼痛に対するパミドロネート療法(1997),,,5

#1
【6.2.6.a】
 骨転移痛、中でも乳癌、多発性骨髄腫での骨破壊性骨転移痛に対してはアレディアで有用性が認められている。
,Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000),,,80

#1
【6.2.6.a】
 米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology)の乳癌に対するビスホスホネート療法のガイドラインは、画像検査上骨破壊像が証明され、同時に限局性の痛みがあればパミドロネート90 mgを3〜4週ごとに静注することを推奨し、ビスホスホネートの鎮痛補助薬としての位置づけを明確にした。これによると、一度開始したビスホスホネート投与は全身状態(performance status)の明らかな低下をきたさないかぎり継続してよく、骨転移症状の改善や増悪は投与期間を規定する因子ではない。
,ターミナルケア(2001),11,6,436

#2
【6.2.6.a】
(骨転移に対するビスホスホネート)
 パミドロン酸の骨転移に対する有効性が多施設共同臨床試験で報告されている。それらによると骨病変進行までの期間、骨痛、骨折、などの骨転移関連症状の発現が改善されている。
,PharmD(2001),3,1,41

#1
【6.2.6.a】
 パミドロン酸ニナトリウム(アレディア)【適応外】(注:2004年11月より「乳癌の溶骨性骨転移」に適応)は、1週間ごとに30mgを100mLの生理食塩液に混入して30分間で点滴静注するか、2週間ごとに45mgを45分間で点滴静注している(点滴速度は1mg/分)。
 インカドロン酸ニナトリウム(ビスフォナール)は、2週間ごとに10mgを100mLの生理食塩液に混入して30分間で点滴静注している。
 パミドロン酸ニナトリウム、インカドロン酸ニナトリウムともに1ヵ月目くらいから除痛効果が現れるようである。欧米からもわが国の施設からも多数の奏効例の報告があり、とくにパミドロン酸ニナトリウムに関しては、乳癌の骨転移に伴う骨合併症の予防効果とともに、除痛効果についても有意に効果的であるとするハイレベルのエビデンスを有する研究報告が出ているが、今のところ筆者らは、ビスホスホン酸塩についてある程度の除痛効果は確認しているが、奏効したと思える事例は少数にとどまっている。現在、30例程度試行しているが、副作用は今のところ経験していない。

,臨床と薬物治療(2002),21,2,68

 
【6.2.6.a】
 報告によると、4例の骨転移痛のため麻薬の投与を受けながらも寝たきり状態の患者にアレディア45mgを2週間に1回、効果発現後は1ヶ月に1回投与を行った。疼痛改善までの期間は1〜3ヶ月であった。中にはオピオイドの投与を必要としないほど、疼痛の改善が見られた症例が含まれており、モルヒネでコントロールできない場合に期待できる薬物療法と思われる。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,236
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,265

 
【6.2.6.a】
 アレディアの初回投与は30mg/bodyないし、45mg/bodyが適当である。基本的には、15〜45mg/body/weekが骨転移ないし骨浸潤による癌性疼痛に対し疼痛軽減効果が期待できる至適投与量である。欧米では90mg/bodyの1ヶ月毎投与が標準的となりつつある。投与速度は、7.5〜15mg/hourが基本とされていたが、現在は1mg/分の投与速度が頻用されている。アレディアは500mLの生食に溶解して点滴静注するのを基本とするとよい。しかし、末期癌患者で500mLの容量負荷が多すぎると思われる症例や短時間での投与を望む症例には、100mL程度の生食に溶解して投与してもかまわない。
,癌性骨疼痛に対するパミドロネート療法(1997),,,33

 
【6.2.6.a】
 アレディアは溶骨性病変のみならず、造骨性病変を主体とする骨関連病巣に対しても有効である可能性が高い。とくに造骨性病変を好発する前立腺癌では、その有効性が広く認められている。
,癌性骨疼痛に対するパミドロネート療法(1997),,,55

 
【6.2.6.a】
 高カルシウム血症の有無によるアレディアの疼痛軽減効果には差は見られない。
,癌性骨疼痛に対するパミドロネート療法(1997),,,61

 
【6.2.6.a】
 末期癌患者において病的骨折が発生した場合、QOLの低下は著しい。このため、下肢長管骨に溶骨性病変が存在する場合には、疼痛が存在しない場合(頻度は少ない)やモルヒネ剤で疼痛制御が良好に得られている場合でもアレディアを使用する意義は大きい。
,癌性骨疼痛に対するパミドロネート療法(1997),,,76

 
【6.2.6.a】
 アレディアは代謝を受けずに腎を唯一の排泄経路とする。しかし、本剤の投与によって明らかな腎機能障害が発生したとの報告はこれまでない。さらに高カルシウム血症に対しての臨床治験データでは、高カルシウム血症の改善と相俟って血清クレアチニン値が低下し、逆に腎機能が改善したとの結果が得られている。それゆえ、腎機能障害患者では、初回投与時のみ若干投与速度を遅く(4時間程度)して注意を払う必要はあると思われるが、腎機能障害の存在そのものが本療法の適応の是非を判断する因子とはなり得ない。
,癌性骨疼痛に対するパミドロネート療法(1997),,,43

 
【6.2.6.a】
 アレディアを長期に継続しても、カルシウムホメオスターシスには影響が生じないことが判明している。また、ダイドロネルで指摘されていた石灰化阻害(骨軟化症の発生)は、アレディアの場合、骨吸収抑制作用を発揮する投与量と石灰化抑制作用を発揮する投与量が近接していないため、危惧する必要はない。
,癌性骨疼痛に対するパミドロネート療法(1997),,,44

 
【6.2.6.a】
 アレディアの副作用としては、発熱、無症候性低カルシウム血症が最も一般的である。発熱の頻度は約10〜20%とされている。
,癌性骨疼痛に対するパミドロネート療法(1997),,,41

#1
【6.2.6.a】
 ビスホスホネート投与における低Ca血症の発症率は、本邦の治験ではpamidronate 30 mg、45mgにてそれぞれ7.3% (3/41)、14.0% (8/57)であったが、PTHによる代償機構が働くため、ほとんどが無症候性であり問題とならない。血中Ca濃度が正常な骨転移例などへの投与においても、多くの場合、血清Ca濃度は正常下限以内にとどまり、著明な低Ca血症の発症はまれである。
,ターミナルケア(2001),11,6,445

 
【6.2.6.a】
 アレディアの主な副作用としては、軽度の発熱(投与後24〜36時間以内に出現し、約20%の患者で2日程度持続する)、悪心、嘔吐、低リン血症、低マグネシウム血症などの電解質異常、不整脈(短時間の投与で起こりやすい)などが報告されている。
,ターミナルケア(1997),7,2,126

 
【6.2.6.a】
 アレディアには肝機能障害の副作用が存在するため、肝硬変を合併する患者や肝臓転移を併発している患者にアレディアを投与する場合には、若干の注意を払うべきであるが、実際にはほとんど問題となることはないと思われる。
,癌性骨疼痛に対するパミドロネート療法(1997),,,17

 
【6.2.6.a】
 アレディアの最も問題となる副作用としては、非常に頻度は少ないものの、耳鼻科的障害があげられる。本剤を投与された耳硬化症患者に不可逆的な難聴、耳鳴りが一例ずつ報告されている。
,癌性骨疼痛に対するパミドロネート療法(1997),,,45

 
【6.2.6.a】
 アレディアとエルシトニンを比較した場合、エルシトニンにはエスケープ現象が必発であり、また疼痛軽減の効果持続時間が短い。エルシトニンには抗体産生の可能性があり、臨床的にもショックの発現が認められているが、アレディアにショックの報告はない。高カルシウム血症是正の効果発現の時間はエルシトニンの方が短い。
,癌性骨疼痛に対するパミドロネート療法(1997),,,99

#1
【6.2.6.a】
 多発性骨髄腫の痛みにアレディアを点滴静注するとよい結果が得られることがある。高カルシウム血症の治療と言うより骨髄腫の予後の改善ということで注目している。
,今月の治療(2001),9,3,11


【6.2.6.a】
 報告によると、9例の骨転移痛の患者にダイドロネル【適応外】を経口投与した。9例中5例は5mg/kg/日から投与を開始し、約3週間で良好な除痛が得られ、骨転移痛はすべての患者で緩和された。中にはオピオイドの投与を必要としないほど、疼痛の改善が見られた症例が含まれており、モルヒネでコントロールできない場合に期待できる薬物療法と思われる。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,236
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,264

 
 

【6.2.6.b】「エルシトニン」


 
【6.2.6.b】
 エルシトニン【適応外】は悪性腫瘍の骨転移による痛みの軽減に使われる。疼痛に対し50〜60%の改善率を示し、放射線、鎮痛薬投与によりコントロールできなかった症例にも70%の有効率がある。
,癌の疼痛治療(1989),,,52

 
【6.2.6.b】
 エルシトニンは、機序不明ながら癌の骨転移痛に著効を示すことがあり、これといった副作用がないこともあり、最近よく用いられている。40〜80単位を連日筋注あるいは点滴静注する。1週間連用して効果がなければ、中止する。
,がん終末期の症状コントロール(1995),,,112

#1
【6.2.6.b】
 エルカトニンは、80単位/日を午前と午後の2回に分け、各40単位を50〜100mL生理食塩液ピギーバッグに入れて30分同程度で連日点滴静注する。効果があるときは2〜3日目から、遅くとも10日目くらいで痛みが軽減することが多い。とりあえず10日間連用し、効果があればときおり休薬期間をおきながら続行、効果がなければ中止する。筆者らは奏効したと思われる症例を10数例観察している。副作用としては、ときに微熱をみるくらいである。
,臨床と薬物治療(2002),21,2,68

      参照→【6.2.6.a】「アレディアとエルシトニンの比較」

 

【6.2.7】「ホルモン療法」


 
【6.2.7】
 乳癌のホルモン療法は抗腫瘍効果とは別に、骨転移に対する除痛作用(3〜4割の奏効率)もあり、副作用も少ない。具体的には閉経前の患者では卵巣摘出が一般的に行われている。閉経後患者ではノルバデックス(20mg/日)が第一選択である。卵巣摘出あるいはノルバデックスが無効となれば、次には、ヒスロンH(800〜1200mg/日)を第2選択のホルモン療法として用いる。ヒスロンHが無効となれば、次は化学療法へと移行していく。
 ホルモン療法としてノルバデックスを投与すると初期(1〜2週間)に痛みが悪化する場合があるが、このまま継続すると癌の退縮がみられる。良い兆候なのでやめてはならない。ヒスロンHも同じ。

,癌の痛みハンドブック(1992),,197


【6.2.7】
 乳癌ではヒスロンHが骨転移による痛みに長期の緩和をもたらす。反応する患者は、1〜2週以内に改善が認められ、1ヶ月以内に最大となる。腫瘍拡張の時期には、他の手段による充分な鎮痛を与えるべきである。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,13


【6.2.7】
 骨転移痛のホルモン療法は、特に前立腺癌乳癌などに有効な場合がある。ホルモン療法に対し過去に良好な反応を示した乳癌患者は、2回目にも良好な反応を示しやすい。ホルモン療法は、結果を得るために数週間を要し、その間、鎮痛薬のカバーが必要である。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,254


【6.2.7】
 広範な骨転移を示す乳癌に対するホルモン療法の開始後2週間以内に、一過性の高カルシウム血症を示す場合がある。ホルモン療法の開始後数日以内に血清Ca値の上昇と骨痛の増強を認める場合がある。通常、ホルモン療法に対する患者の良好な反応を示唆する。高カルシウム血症が是正されるまで、ホルモン療法を一時的に中止する。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,262

 
 

【6.2.8】「抗鬱薬」


#1
【6.2.8】
 (神経因性疼痛に対する抗鬱薬の使用)
 代表的な抗鬱薬としてアミトリプチリン(トリプタノール)【適応外】がある。開始量は10mg/日で、漸増法で75mg/日までが目安。就寝前1回投与が原則。就寝前1回投与でかなり有効であれば、昼間でも投与することができる。
 またはアキキサピン(アモキサン)【適応外】を50 mg/ 日、2回投与で開始し、150 mg/日を目安に使用する。

,ホスピスケアの実際(2000),,,117

#2
【6.2.8】
(鎮痛補助薬としての抗鬱薬)
・痛みの種類:「しびれ」「しめつけ」、「つっぱり感」、「チリチリ痛む」などの持続的な異常感覚の痛みに対して有効。 
・選択薬剤:アミトリプチリン(トリプタノール)初回量1日10mg、就寝時にゆっくりと倍量で増量。 
・作用機序:神経終末におけるノルエピネフリンやセロトニンなどモノアミンの再取り込みの抑制。 
・副作用:眠気、ふらつき、めまい、抗コリン作用(口渇、便秘、排尿障害など)
,薬の知識(2003),54,7,28

#1
【6.2.8】
 神経因性疼痛に対する三環系抗鬱薬【適応外】の開始量は低用量が適切とされており、高齢者(65歳以上)で就寝前10mg/日、成人で25mg/日の投与が提唱されている。その後、効果が認められず、かつ、副作用がなければ開始量と同量を数日ごとに増量し、症状が改善した時点で以後の増量は中止する。通常の治療量(50〜150mg/日)まで増量可能であるが、この量まで増量した後は、1週間ほど症状を慎重に観察する。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,159

#1
【6.2.8】
 (ニューロパチックペインへの対応)
 抗鬱薬は持続性の正座の後のしびれ感のようなものによく効くが、動作でしびれ感が変わるような状況のものにはあまり効きにくい。抗鬱薬は十分な投与量でないと効いてこない。少量を長く投与していても効くことはないと思う。
,今月の治療(2000),8,3,19


【6.2.8】
 三環系抗鬱薬の有効性の高い疼痛は”焼けるよう””しめつけられる””つっぱる””しびれる”と表現される持続性の疼痛である。一方、疼痛が間欠的であったり、体位や動作によって誘発されたり、短期間に増強しているような場合には無効である場合が多い。
,緩和医療(1999),1,2,59

#1
【6.2.8】
 抗鬱薬は非癌性の神経障害性疼痛には一定の効果が認められているが、癌疼痛に関する研究は少ない。持続性神経障害性疼痛のときに使用を考慮する第一選択薬とされ、三環系抗鬱薬のアミトリプチリンは多く評価されている。鎮痛機序は不明。
 アジア系人種はコーカソイド系人種に比し、クリアランスが1/2とされ、欧米の文献の投与量は過量である可能性がある。
,緩和ケアテキスト(2002),,,55

 
【6.2.8】
 求心路遮断性疼痛(Deafferentation pain)
 痛覚伝導路遮断による痛みで癌による神経浸潤、ビンクリスチン、シスプラチン神経症の痛みがこれに含まれる。治療困難で長期にわたって患者を苦しめる。この痛みにモルヒネは効果がない。比較的トリプタノール【適応外】が有効なことが多いが副作用も多く使いにくい。トフラニールでは、1回10mgを1日3回投与から開始する。トリプタノールでは1回10mgを就寝前に投与する。効果と眠気や抗コリン作用などの副作用を見ながら数日ごとに増減していく。25mgぐらいでは効果はないが100mg以上の投与を必要とする事は少ない。また、異常感覚痛にはトリプタノールが有効といわれる。

,癌の疼痛治療(1989),,20
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,34
,癌疼痛治療におけるモルヒネの使い方(1991),,213

 
【6.2.8】
 トリプタノール、トフラニール、アナフラニールのいずれも力価は等しい。三環系抗鬱薬の鎮痛効果は鬱病の治療量より少量で認められ、効果も早く現れる。また患者の気分の変化を伴わずに鎮痛効果があり、抗鬱作用と鎮痛作用は必ずしも関連しない。したがって、抗鬱薬が有効であったからといって、精神的な痛みであったと考えることは短絡的である。
,がんの症状マネジメント(1997),,,122

 
【6.2.8】
 抗鬱薬が鎮痛補助薬として有効なのは合併している抑鬱状態の改善によるものではない。通常、鬱病の治療よりも少ない量で鎮痛効果はみられ、その発現も4〜7日とより早い。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,53
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,63

#1
【6.2.8】
 神経因性疼痛に対して抗鬱薬は量が多いと効果が出るかもしれないが、年寄りの男性などでは排尿障害、あるいは口渇などの副作用を経験する。それを考えるとアモキサンはそのような副作用が少ないと思われる。たとえば1日50mg分2という量では一日中眠ってしまうという副作用は少ないようなので、安全域であると思っている。
,今月の治療(2000),8,3,20

 
【6.2.8】
 神経因性疼痛に対して三環系抗鬱薬では60mg以上投与しても、痛みの性質、強さとも変化がない場合にはそれ以上増量しても効果がないことが多い。
,がんの症状マネジメント(1997),,,123

 
【6.2.8】
 抗不整脈が不整脈を誘発することがあり得るので、フレカイニドないし、メキシチールを三環系抗鬱薬と併用することは推奨されていない。
,がんの痛みからの解放 第2版(1996),,,35

#1
【6.2.8】
 近年、抗鬱薬として、三環系抗鬱薬以外にSSRIsが導入されてきている。三環系抗鬱薬に比べ、SSRIsは口渇感や便秘などの副作用が少ないため、神経因性疼痛治療に対して応用されるようになってきている。しかしながら、SSRIの神経因性疼痛に対する有効性は、三環系抗鬱薬とのcrossover trialによると、diabetic neuralgia ・ 帯状疱疹後神経痛のいずれの疾患でも三環系抗鬱薬より劣っていた。また、randomized control trialでは、SSRIsはプラセボ程度の効果しか示さなかった。
,オピオイド治療(2000),,,180


 

【6.2.8.a】「トリプタノール」


#1
【6.2.8.a】
 神経因性疼痛に対してトリプタノール【適応外】は、25mg錠1錠眠前より開始し、効果をみながら、25mg錠2錠分2(朝食後と眠前)、25mg錠3錠分2(朝食後1錠、眠前2錠)という具合に漸増する。トリプタノールは、抗コリン作用が強<、口渇と便秘がときに非常に強く現れ患者を悩ませる。あらかじめ説明しておくことは必須である。抗コリン作用が強すぎて連用困難なときは、他の三環系抗鬱薬に変更してみる。例えば、weakトリプタノールとも称されるプロチアデン(ドスレピン)などである。この場合、用量は同様である。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,77

 
【6.2.8.a】
 トリプタノールは鎮痛補助薬としての抗鬱薬としては、最も強力であるといわれている。不安・焦燥の強い抑鬱状態もそのよい適応である。眠気が強く出現することがあり、就寝前に投与するのがよい。トリプタノールは欧米の成書には1日25〜75mgを初期投与量とされているが、末期癌患者では副作用のため増量は難しいことが多い。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,54
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,63

 
【6.2.8.a】
 神経因性疼痛に対してトリプタノールでは効果発現量は約40mg、最大効果は約60mg程度であった。効果発現は投与開始から5日以内、最大効果は10日以内に認められる。有効率は疼痛の性質により異なるが、持続的な症状での有効率が高く、突発的な痛み、体動に伴う痛みには無効であった。
,がんの症状マネジメント(1997),,,123

#1
【6.2.8.a】
 調査によると、神経因性疼痛に対するトリプタノールの効果発現量(「少し楽になった」)は40mg。かなり楽になったという維持量は平均60mg。量を増やした翌日には患者さんが自覚できる効果が出てくるので、少しずつ量を増やす必要がある。
,今月の治療(2000),8,3,19

 
【6.2.8.a】
 疼痛に対するトリプタノールの初期投与量は経口で10〜25mg就寝前、高齢者は10mg。その後、1〜4週間で約50〜125mgまで増量。
 鬱状態に対応するために150〜300mgまで増量する必要もある。十分な鎮痛効果に達するまで1〜4週間かかる。
,がんの痛み治療のすべて(1996),,,168


【6.2.8.a】
 トリプタノールは三環系抗鬱薬の中では最も効果が強いと考えられている。鎮痛のために100mg以上必要なことはまれで、効果がないまま同じ投与量を長時間維持していても効果は期待できない。また、60mg以上増量しても効果のない症例では無効である可能性が高い。
,緩和医療(1999),1,2,59


【6.2.8.a】
 トリプタノールは全身状態が著しく低下している患者において、眠気のために増量が困難であることがある。口渇はほぼ全例に認められ、増量により増強する。白虎加人参湯の有効な場合がある。緑内障患者では禁忌とする意見もあるが、ピロカルピンの点眼の併用で投与可とする意見もある。心疾患のある患者では血圧の変動や不整脈の出現に十分な観察を行う必要がある。
,緩和医療(1999),1,2,59

 
 

【6.2.8.b】「パートフラン」


 
 しびれ感などの異常感覚が主の場合はパートフラン【適応外】(25mg)2〜3錠、分2〜3がある。三環系抗鬱薬の中で鎮静作用が少ない。
,今月の治療(1996),4,4,35

 

【6.2.8.c】「ノリトレン」


#1
 ノル卜リプチリン(ノリトレン)【適応外】
 錠剤:1回25mg 1日2〜3回。アミトリプチリンの代謝物であり、比較的眠気が少なく使用しやすい。緑内障、心筋梗塞の回復初期、尿閉のある患者では禁忌である。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,64

 
 

【6.2.9】「抗痙攣薬」



【6.2.9】
 抗痙攣薬は神経細胞の異常な興奮を抑制するもの(テグレトール)と、発作の広がりを抑えるもの(フェニトイン)、GABA受容体に作用し、脳内抑制系を賦活するもの(デパケン、ランドセン)などに分けられる。一つの薬剤が無効であっても、ほかの薬剤への変更が有効である場合もある。
,緩和医療(1999),1,2,60


【6.2.9】
 抗痙攣薬は、安静時に発作的に繰り返されるような疼痛が適応である。患者の訴えとしては”電気が走る””痛みが走る””鋭い痛み””指すような痛み”などが”突然来る”と表現される性質の疼痛に有効である。しかし、特定の体位や体動によって誘発される疼痛では、同じような性質の疼痛であっても効果が期待しにくい。鎮痛に必要な投与量は抗痙攣作用を期待する場合と差がないと考えられている。
,緩和医療(1999),1,2,60

#2
【6.2.9】
・選択薬剤:クロナゼパム(ランドセン)初回量1日O.3mgを1日1回、0.3mgずつゆっくり増量またはカルバマゼピン(テグレトール)初回量1日lOOmgを1日2回、lOOmgずつゆっくり増量 
・作用機序:正確には判明していないが、神経伝達物質の異常発射やその広がりを抑制し、神経の過剰な興奮を抑制 
・副作用:眠気、ふらつき、めまい、悪心など
,薬の知識(2003),54,7,28

 
 

【6.2.9.a】「ランドセン」


 
【6.2.9.a】
 神経系の痛みに対しランドセン【適応外】は通常、1日に2回、0.5mgの投与から開始する、その後徐々に増量し、1日に4回1mgまで増やす。十分な効果に達するまで数週間かかる。
,がんの痛み治療のすべて(1996),,,173

#1
【6.2.9.a】
 神経因性疼痛に対する抗痙攣薬の使用
 最近は、リボトリール(ランドセン)をよく使う。 0.5mg/日から始め、2.0 mg/日までが目安。ただ、めまいや眠気などの副作用を伴うので、効果がみられない場合はデパケンに切り替えることもある。

,ホスピスケアの実際(2000),,,116

 
【6.2.9.a】
 ランドセンは刺すような痛みを伴うニューロパシックペインにも効果的であることが報告されている。また、モルヒネによるミオクローヌスに有効である。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,143
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,154

#2
 ランドセンは、通常の抗痙攣薬としての用量よりも少ない量で効果が現れます。通常は、0.5〜1.Omgから開始します。
 ,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,70


【6.2.9.a】
 疼痛に対しランドセンは0.5mg就寝前1回投与で、4〜6日ごとに副作用に注意しながら0.5mgずつ増量する。増量後は投与回数を2〜3回にする。副作用としては鎮静作用、疲労感が投与初期に半数程度でみられるが反復投与では改善することが多い。唾液や気道分泌の亢進が問題となることがある。
,緩和医療(1999),1,2,61

#1
【6.2.9.a】
 ランドセンは0.5mgを就寝前に使っている限りは大きな副作用はまず起きない。夜間に使えば夜眠れるようになる。だんだんにいろいろな病棟で示しながら普及させていくことが重要と思われる。
,今月の治療(2000),8,3,20


 

【6.2.9.b】「テグレトール」


 
【6.2.9.b】
 神経因性疼痛に対して抗痙攣薬を使用する場合、1つが無効でも、種類を変更すると効果がある場合がある。有効な場合は増量に伴って痛みの発作が減り、痛みの強さも軽減する。増量によって一気に症状が軽減するような効果の現れ方が多い。体動によって生じる電撃痛には無効な場合が多く、安静時に発作的に繰り返される痛みには極めて有効である。
 テグレトール【適応外】を用いた場合、これらの痛みには70%以上で有効であり、効果発現は200mgで最大効果は平均400mgである。投与開始後1〜2日で効果発現することが多い。

,がんの症状マネジメント(1997),,,121

 
【6.2.9.b】
 テグレトール、アレビアチン、デパケンは、神経の異常発射を抑制する作用がある。Deafferentation painにみられるような刺すような痛みや電撃痛テグレトールが有効といわれる。
 テグレトールの開始量は1日100〜200mgで様子を見ながら3〜4日ごとに100mgずつ増量する(最高600mg/日)。具体的には、睡眠補助をかねて、就寝前1錠(200mg)を内服させ、日中の眠気がなくなるか軽減したら、朝100mg、昼100mg、就寝前200mgに増量し、さらに600mg分3へと増量する。副作用としては、悪心、嘔吐、運動失調不安定感、眠気、混乱があり、もし出現すれば減量または中止する。また、骨髄抑制があるので、放射線、化学療法の患者には慎重に投与する。

,癌疼痛治療におけるモルヒネの使い方(1991),,213
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,34
,癌の痛みハンドブック(1992),,115

 
【6.2.9.b】
 テグレトールの神経因性疼痛に対する投与量に関してWHOでは、開始量を100mg1日2回として2〜3日ごとに200mgずつ増量する方法を示している。このように低用量から投与し、問題となる副作用が出現せず、また、血漿中濃度がてんかん発作の有効治療域の上限を超えない限りは、良好な効果が現れるまで増量し、最高1200mg/日まで増量可能とされている。ただし、十分に増量しても効果がない場合、長期的に維持しても症状が軽減することは少ない。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,139
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,150

 
【6.2.9.b】
 テグレトールは投与初期や増量直後にはふらつきで転倒などが生じやすいのであらかじめ指導する。
 直腸内投与(細粒)は経験上、経口投与と同レベルの血中濃度であった。三環系抗鬱薬を併用する場合には、投与量を減量(300〜400mg以下)する必要がある。
,がんの症状マネジメント(1997),,,121

 
【6.2.9.b】
 テグレトールは三環系抗鬱薬との併用で代謝が遅延することが報告されているので、併用する場合には双方の投与量を減量するか投与間隔をあけることが勧められている。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,139
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,151

#1
【6.2.9.b】
 テグレトールは、他剤との相互作用も多い薬剤であり、例えば、メトクロプラミドとの併用で、カルバマゼピンの血漿中濃度が急激に上昇し、中毒症状(眠気、嘔吐、めまい等)が現れることがある。また、フェニトインとの併用により、各々の薬物血漿中濃度は影響を受けるといわれており、注意が必要である。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,151

#1
【6.2.9.b】
 テグレトールの問題となる副作用は、白血球減少症と血小板減少症で、約2%の患者に発症しており、再生不良性貧血も報告されているため、重篤な血液障害のある患者には投与しない。治療を開始する前にあらかじめ血球数を測定し、治療開始2週間後と4週間後に再度測定し、その後は3〜4ヵ月ごとに観察を行うことが勧められる。白血球数が4000/mm3以下では、通常、本剤の投与は禁忌と考えられており、投与中に3000/mm3を下回った場合は本剤の投与を中止する必要がある。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,151

 
【6.2.9.b】
 鎮痛補助剤としてのテグレトールは眠気や運動失調などの副作用が多く、モルヒネと併用するとさらに副作用がまして使いにくい。最近は抗不整脈薬(メキシチール、タンボコール、キシロカイン)をよく使う。
,がん疼痛緩和とモルヒネの適正使用(1995),,,94

 
 

【6.2.9.c】「デパケン」


 
【6.2.9.c】
 デパケン【適応外】は血中半減期が長く鎮静作用がある。神経因性疼痛に対して夜1回の投与とし通常は500mg、高齢の場合200mgで開始し3〜4日ごとに増量し1000mg〜1500mgとする。蓄積が起こりうるのでそのときは減量する。
,癌疼痛治療におけるモルヒネの使い方(1991),,213
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,34
,癌の痛みハンドブック(1992),,115

 
【6.2.9.c】
 電撃様疼痛などの発作痛が主の場合、デパケン(200mg)2〜6錠、分2〜3がある。
,今月の治療(1996),4,4,36

 
【6.2.9.c】
 デパケンは疼痛に対し通常、250mgの投与から始め、1日に1回あるいは2回投与する。増量して500mgを1日3回まで増やす。効果が頂点に達するまで1〜4時間かかり、傷みが緩和されるまで1〜3週間かかる。
,がんの痛み治療のすべて(1996),,,172

 
【6.2.9.c】
 デパケンは刺すような痛みを伴うニューロパシックペインにも有効であることが報告されている。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,143
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,154

 
 

【6.2.9.d】「アレビアチン」


 
【6.2.9.d】
 アレビアチン【適応外】は神経因性疼痛に対して1日100mgで開始し、25〜50mgずつ徐々に増量し1日250〜300mg以下とする。副作用はテグレトールと同様であるが投与中止を要するような副作用が出ることはまれである。
,癌疼痛治療におけるモルヒネの使い方(1991),,213
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,34
,癌の痛みハンドブック(1992),,115

 
【6.2.9.d】
 アレビアチンは電撃痛で刺すような症状を特徴とするニューロパシックペインに対しても効果的であることが報告されている。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,142
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,151

 
 
 

【6.2.10】「抗不整脈薬」


 
【6.2.10】
 鎮痛補助剤として抗不整脈薬が非常に有効である。メキシチール、フレカイニド、キシロカインの持続点滴、持続皮下注を第一選択にして、それが不十分なときに抗鬱薬、抗てんかん剤、また予後との関係を見て慎重にステロイドを使用していきオピオイドと併用することでオピオイドの効きにくい痛みもかなりコントロールされるようになってきた。
,がん疼痛緩和とモルヒネの適正使用(1995),,,77

#1
【6.2.10】
 抗不整脈薬はオピオイド抵抗性の持続性神経障害性疼痛に対し、三環系抗鬱薬に次ぐ第二選択薬であり、電撃様神経障害性疼痛に対しては抗痙攣薬、バクロフェンに次ぐ選択薬であるが、癌疼痛への効果には一定の見解がない。
,Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000),,,80

【6.2.10】
 抗不整脈が不整脈を誘発することがあり得るので、フレカイニドないし、メキシチールを三環系抗鬱薬と併用することは推奨されていない。
,がんの痛みからの解放 第2版(1996),,,35


【6.2.10】
 抗不整脈薬は、必ずしも神経因性疼痛でない場合でも、大量のモルヒネ投与によっても鎮痛効果が不十分な場合などにも、併用によって優れた鎮痛効果を期待できることがある。投与量は不整脈治療に用いる量以下で十分と考えられる。投与速度が速まったり、1日投与量が多くなりすぎると、難治性の嘔吐や不穏状態などの局麻薬中毒の症状が出現しやすくなる。
,緩和医療(1999),1,2,61

#2
【6.2.10】
・痛みの種類:電撃性の剌すような痛みと持続的な痛みの両方に有効(心不全のおそれのある患者には使用しない)。 
・選択薬剤:a)メキシレチン(メキシチール)初回量1日 50〜150mgを1日3回、50mgずつゆっくり増量
 b)リドカイン(キシロカイン)内服困難な場介に有効、30〜40mg/時で開始(中毒濃度6〜10μg/mL)
,薬の知識(2003),54,7,28

 

【6.2.10.a】「キシロカイン」


#1
【6.2.10.a】
 リドカイン【適応外】は神経因性疼痛の治療薬として、持続静注、持続皮下注による全身投与が試みられており、鎮痛に必要な血漿濃度は1.0〜3.0μg/mLといわれている。
,ペインクリニックで用いる薬100+α(2002),,,44

#1
【6.2.10.a】
 リドカイン(キシロカイン)神経因性疼痛に対して
注射剤(10%):30〜50mg/時、持続皮下注または持続点滴

,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,61

#1
【6.2.10.a】
 (リドカイン持続皮下注入法)
 神経因性疼痛に対する持続注入量としては30〜80mg/時間で有効となることが多いと報告されている。橋本らは鎮痛効果と血中濃度との有意な相関はなかったものの、平均投与量47mg/時間(中央値40mg/時間、血中濃度は約4μg/mL)で有効率67%であったと報告している。

,緩和ケアテキスト(2002),,,62

#1
【6.2.10.a】
 神経因性疼痛へのリドカイン投与に関するガイドラインは確立されていないが、リドカインの治療域は1.5〜5μg/mLであり、5μg/mL以上では副作用発現率が高く、9〜10μg/mL以上は中毒域と考えられる。したがって、リドカイン持続皮下注療法は、神経因性疼痛に対して有用であるが、治療域は狭く、適量投与を避けるために、血漿中濃度をモニタリングし、血圧や心電図を連続的にモニターする必要がある。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,157

#1
【6.2.10.a】
 神経因性疼痛に対してリドカイン・テストを行うことによって、効果をある程度予測できる。リドカイン・テストとは、リドカイン2mg/kgを生理食塩液50mLに溶解し、ゆっくりと15分間かけて静注して効果を確認する方法である。しかしリドカイン・テストが無効であってもリドカインの持続皮下注入法が有効なことがある。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,61


【6.2.10.a】
 リドカインの疼痛に対する臨床使用に際しては、投与前の心電図と肝機能検査を行う。静脈内リドカインテスト投与は、経口リドカイン製剤の有効性を評価するために行われる。静脈内カテーテルを留置し、患者を十分観察しながら1〜2mg/kgのリドカインを10〜15分で注入する。VASをテスト前、中、後に調べる。多くの場合、患者は耳鳴りや口囲のしびれ、口内の金属味、めまいをテスト中に経験する。疼痛が50%以上軽減する場合、経口リドインを試みる価値がある。
,MGHペインマネジメントの手引き(1997),,,96

#1
【6.2.10.a】
 リドカインは神経因性疼痛に対してメキシレチンやフレカイニドの経口投与が無効、あるいは困難な場合に適応となる。副作用の出現が疑われるときには、血中濃度の測定が必要である。リドカインの有効血中濃度は1.5〜5μg/mLであり、6μg/mL以上では副作用の発生頻度が次第に増加し、9μg/mL以上では明らかな中毒量と考えられる。
 リドカイン・テストを行うことによって、効果をある程度予測できる。リドカイン・テストとは、2 mg/kg の静注用2%リドカインを非常に緩徐に静注して痛みが軽減するかどうか確認する方法である。しかし、リドカイン・テストが無効であっても、10%リドカインの持続皮下注入や持続点滴が有効なことがある。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,123

#1
【6.2.10.a】
 神経因性疼痛の患者40名にキシロカイン持続皮下注入法を使用したところ有効率は50%であった。維持投与量は41.4±7.6mg/時間であった。副作用として重篤なものは認めなかった。キシロカインで副作用の出現が疑われるときには血中濃度の測定が不可欠となる。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,61

#2
【6.2.10.a】
 リドカイン(キシロカイン)は神経因性疼痛、特に体動時の痛みによく効きます。
 2%キシロカイン200mg+生食1OOmL、30分くらいで点滴静注します。1日量200〜1500mg使用します。持続皮下注でも効果があります。
 神経因性疼痛以外にも、例えば腸皮膚瘻の痛みがん性腹膜炎の痛み骨軟部への転移の痛みなどにもよく効きます。

,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,70

#2
【6.2.10.a】
 経験的には、リドカインが有効であっても、メキシレチンが有効とは限らない場合や、その逆の場合もみられる。
,緩和ケア(2000),,,202
 
 

【6.2.10.b】「メキシチール」


#1
【6.2.10.b】
 メキシレチン(メキシチール)【適応外】は抗不整脈薬の他の2剤に比較すると安全性の高い薬剤であり、副作用として吐き気や嘔吐はあるが、食後に服用することにより軽減することができる。また、一般的な副作用として、振戦、痙攣、不安定感、感覚異常などがあり、 40%以上の患者は、これらの副作用が原因で治療を中止するとの報告もある。まれに、肝障害や血液疾患、皮膚粘膜眼症候群などの重篤な副作用を生じる。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,156

#1
【6.2.10.b】
 メキシチールは心臓の刺激伝達系に作用する薬品であり、事前に心電図検査を行う。連用中も定期的に心電図をチェックする、またキシロカインと近似した構造をもち強力な局所麻酔作用ももっているので、局麻薬に対する過敏症の既往を聴取することは必須である。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,77

#1
【6.2.10.b】
 神経因性疼痛に対するメキシチール療法は、劇的といってよい効果を示すこともある半面、まったく効果のないこともある。まず、メキシチール注(1A125 mg)の2 mg/kg(成人で1A)を生理食塩水100mLピギーバッグに混入して30分以上かけて点滴静注して反応をみる(チャレンジテスト)。これで痛みの緩和が得られたらメキシチールカプセル(1C100mg)2〜4C分2〜4内服を処方する。内服困難な場合は、メキシチール注2〜4 A/day を持続静注する。しだいに効果が減弱することが多いが、上記の最大量(1日4カプセル、あるいは4A)以上は用いないこと。その際は、他の治療法に変更することを考える。
 筆者らの経験では、パンコースト症候群の肩・上肢痛、骨盤腔内再発癌の腰下肢痛、化学療法中の末梢神経炎によると思われる腹痛、癌終末期に持病の糖尿病性末梢神経炎が急性増悪した四肢の痛みなどに、メキシチール療法が奏効している。いずれも、神経因性疼痛に分類できる痛みである。

,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,78

 
【6.2.10.b】
 メキシチールは1b群に属し、心抑制作用および刺激伝導抑制作用は弱く、心電図波形への影響はほとんど示さず、安全性の面で優れている。神経因性疼痛に対する投与量は低用量から開始し、通常は150mg/日とするが、良好な効果が現れるまで、また、問題となる副作用が起きるまで数日ごとに同量を増量し、最大投与量は900mg/日と報告されている。WHOは1回150mgを1日2〜4回投与することを示している。増量中は心電図をモニターする必要があり、増量時にはメキシチールの血漿中濃度の測定も考慮するべきである。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,144
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,155


【6.2.10.b】
 メキシチールは最も副作用が少なく、最も使用されている経口麻酔薬である。神経因性疼痛に対して本剤は就寝時150mg経口投与から開始し、約一週間投与する。耐えられれば150mgを1日3回に増量する。疼痛緩和が不十分な場合は、最大投与量の1200mg/日まで緩徐に(5〜7日ごと)増加させる。この方法により、著しい疼痛緩和が得られる場合がある。副作用には不整脈や失神、低血圧、運動失調、振戦などが含まれる。
,MGHペインマネジメントの手引き(1997),,,96

#2
【6.2.10.b】
(メキシチールの副作用)
 消化器症状として、嘔気と嘔吐などがある。神経症状として、振戦、失調、耳鳴り、眼振などがある。特に本剤のようにCYP2D6で代謝される薬剤は、1〜7%の人が遺伝的に著しく酵素活性が低下していることから、低用量から投与開始した方がよい。
,緩和医療と薬物相互作用(2003),,,168

#2
【6.2.10.b】
 経験的には、リドカインが有効であっても、メキシレチンが有効とは限らない場合や、その逆の場合もみられる。
,緩和ケア(2000),,,202
 
 
 

【6.2.10.c】「タンボコール」


 
【6.2.10.c】
 タンボコール【適応外】(1回50〜100mg、1日2回)はメキシチールより強力で持続性が高い。しかし、陰性変力作用が強く、高齢者や心疾患のある患者、肝・腎機能が低下している患者に投与する場合には注意を要する。心筋梗塞の既往がある場合は禁忌。また、投与開始後は心電図で徐脈やQT延長などがないか確認する必要がある。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,51
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,60


【6.2.10.c】
 タンボコールは作用がメキシチールと比較して、より強力であり持続性がある。神経因性疼痛に対してメキシチールで効果が不十分なときに適応とするのがよいと考えられる。投与量は、1回50〜100mgを1日2回投与とする。
,最新緩和医療学(1999),,,66

 
 

【6.2.11】「ケタミン」


#1
【6.2.11】
 ケタミン(ケタラール)【適応外】神経因性疼痛に対して
 注射剤(5%):100〜500mg/日、持続皮下注入または持続点滴で。
 経口投与:1回12.5〜50mg(注射剤を使用)、1日4回。
 ケタミンの経口投与も報告されており、淀川キリスト教病院ホスピスにおいても有効性を検討中である。筋注用5%ケタミン注射剤(50mg/mL)の必要量を、常水に加えて1回量5〜10mLになるように作成している。特有の苦味があるので、適宜、甘味のある飲み物とともに内服することを指導している。少量から開始する。

,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,64

#2
【6.2.11】
NMDA (N-methyl-D-aspartate : 中枢神経系の興奮性アミノ酸伝達物質)受容体拮抗薬 
・痛みの種類:モルヒネの効きにくいneuropathic painに有効
・選択薬剤:a)ケタミン(ケタラール)1日50mgから開始(持続皮下か持続静注)、24時間後に効果判定、痛みが残っていれば1日25〜50mgずつ増量
b)デキストロメトルファン(メジコン)初回量1日45mgを1日3回
,薬の知識(2003),54,7,28

#2
【6.2.11】
 ケタラールは体表面の痛みや腹膜転移の痛みにもよく効きます。持続皮下注でも効果がありますが、注射部位の硬結や発赤が高い頻度で出現しますので使用しにくいと思われます。成人ではカラフルな夢をみることもあります。
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,71

#2
【6.2.11】
 ケタミンは、体性痛や神経因性痛に有効性が高いが、内臓痛にも有効とする報告もある。ケタミンは短期間の投与で無効であっても、中枢神経の過緊張を抑制することが知られており、1〜2週間の投与後に効果がみられる可能性もある。
 投与法は、1日量50〜100 mg程度から開始し、必要に応じて加減する。開始量が200 mg以上の症例では、めまいや眠気などの訴えが出現しやすい。ケタミンの持続静注や持続皮下注では、悪夢などの覚醒反応が問題になることはない。
,緩和ケア(2000),,,202
 
#1
【6.2.11】
 (ケタラールに対応する痛みの性質)
(1)アロディニアと異常感覚を伴う痛み:火傷様の灼熱痛(電撃様疼痛や重苦痛には無効例か多い) 
(2)耐性形成によりオピオイド効果が減少したとき、耐性や身体依存を抑制する。
(3)鎮痛薬としても術後痛や腹部膨満痛、体表のみの体性痛などに有効。

 (鎮痛補助剤としてのケタラールの投与法)
注射薬の経口での効果は静注の1/5以下。皮下注ではやや刺激性。
0.1〜0.15mg/kg/hrで持続投与する。いったん中枢の脱感作、オピオイド耐性の減弱がなされれば投与中止が可能。

 (ケタラールの副作用)
少量でも精神作用(傾眠、不快感、身体異和感、夢・幻覚)が出現することがあり、症状の強い場合は先にやドロペリドールを少量併用する。

,麻酔科診療プラクティス 4癌性疼痛管理(2001),,,56

 
【6.2.11】
 モルヒネを増量しても眠気や吐き気が強くなるだけで鎮痛効果が変わらない場合に、ケタミン2〜5mg/kg/日(意識レベルが下がらない量)を併用するとよい。本剤は体性痛に有効な麻酔薬なので、ニューロパシックペインよりは体動時痛など体性痛に有効と考えられる。
 しかし、NMDAレセプター拮抗薬であるケタミンはモルヒネへの耐性を回復させ、ケタミンの投与中止後もその効果を持続させる作用も示唆されているので、これにこだわることなくモルヒネを増量しても鎮痛効果が少ないときには、まず1mg/kg/日で開始して効果があるようならば増量し、眠気の増強などの副作用が強くなるようならば中止するのがよい。

,痛みの臨床(1996),,,112

#1
【6.2.11】
 ケタミン以外のNMDA受容体拮抗薬は癌性疼痛への有用性は確認されていない。ケタミンはオピオイドの鎮痛作用との相乗効果、および、脊髄レベルでのオピオイド耐性予防と形成された耐性への拮抗の目的で、はとんどの癌性疼痛に対して使用可能である。オピオイドの副作用への耐性は上脊髄レベルで形成され、ケタミンでは拮抗されない。また、ケタミン自体、鎮痛薬として腹部膨満痛や体表痛などに有効である。
,ペインクリニック(2002),23,12,1648

#1
【6.2.11】
 本剤は神経因性疼痛に対して、眠る量の1/5程度で効果が見られる。0.1〜0.2mg/kg/時で持続静注。200mg/分4で経口。
,今月の治療(2000),8,3,60

 
【6.2.11】
 (神経因性疼痛に対するケタミンの使用)
 ケタミン持続皮下注入法
 例えばケタミン100mg/日より開始するとき、充電式小型シリンジポンプを使用する場合は、筋注用ケタミン(50mg/mL)を2mL+生食8mLで全量10mLとし、0.4mL/時で持続皮下注する。ディスポーザブル・インフューザーポンプを使用する場合は、筋注用ケタミンを2mL+生食10mLで全量12mLとし、0.5mL/時で一日分となる。インフューザーには5日分の60mLが入る。
ケタミン50〜100mg/日より開始し、24時間後の効果を判定しながら、25〜50mg/日ずつ増量し、最大300mg/日までであれば、ケタミンの副作用がほとんど現れずに鎮痛効果が得られる。モルヒネを内服しているときは、そのまま継続しながらケタミン併用を開始し、効果が不十分なときには、モルヒネ2〜3割増量とケタミンの25〜50mg/日ずつの増量を、効果を判定しながら交互に行うのがよい。

 ケタミン持続静注法
 24時間持続の静脈ラインがある患者では、その側管より持続皮下注と同様のケタミンを持続注入すればよい。たとえば、モルヒネ60mg/日の静注で除痛不十分でケタミンを併用するとき、0.5mL/時、5日間タイプのインフューザーに、モルヒネ6mL+筋注用ケタミン2mL+ドロレプタン1mL+生食3mLで合計12mL/日とし、この5倍量、5日分を充填し側管に接続する。ドロレプタンは制吐薬として著効を示すが、ケタミンによる不穏、せん妄などの精神症状の副作用予防としても有用である。

 ケタミン使用にあたっての注意点
(1)モルヒネと併用し鎮痛補助薬として使うこと
(2)除痛が不十分のまま長い時間経過するとニューロパシックペインの病態が悪化(固定化)するためケタミンの開始時期は早い方がよい。
(3)ケタミンでチャレンジテストを行うときは極めて少量の2.5mg程度の静注で行うのがよい。これ以上では不快な精神症状や心悸亢進などの副作用が生じて患者に嫌がられることがある。また、テストで有効性が不明でも、モルヒネと併用の24時間持続投与で有効な場合が多く、癌疼痛治療におけるケタミンの使用開始にあたっては必ずしもテストを行う必要はないように思える。
(4)持続皮下注ではほとんどの症例で皮膚の発赤や硬結が出る。生食やモルヒネを混入してケタミン濃度を希釈することと、刺入部位を1日おきくらいに替えることが必要である。
(5)ケタミンを併用しても効果がない症例は躊躇せずキシロカインを試みる。

,がんの症状マネジメント(1997),,,133

#1
【6.2.11】
 ケタミンにより意識を保ったまま鎮痛を図る場合(長期間の注入療法時)
 輸液剤500mLにケタミン250mgもしくは500mgを混じ、ケタミン0.05〜0.1%溶液としたものを微量点滴セット(60滴=1mL)により輸液コントローラを通して点滴注入する。ケタミンによる精神症状を軽減させるため、この輸液剤内にメジャートランキライザーのドロペリドールをlOmg〜20mg混じることがある。本法開始時にはケタミン20mg/hrの速度で投与し、その後は鎮痛の程度を観察しながら調節する。(疼痛ある場合は30mg/hr、ない場合は10mg/hr)
 合田らは、66名のニューロパシックペインを合併する癌疼痛患者に50〜600mg/日(中央値150mg/日)のケタミンとモルヒネの併用を3〜240日(中央値27日)続け、約90%の有効率を示したと報告している。

,緩和ケアテキスト(2002),,,63

#1
【6.2.11】
 ケタミンによるパルス療法(ニューロパシックペイン自体への治療を目的とする場合)
 癌疼痛に合併するニューロパシックペイン自体の治療に用いる場合にはケタミンの麻酔量を用い、2時間の持続睡眠を起こすパルス療法を行う。
 手術室にてケタミン点滴法開始前のVASを記録後、通常の全身麻酔に準じたモニター(血圧計、心電図、パルスオキシメータなど)を装着する。マスクにて30%程度の酸素吸入下でドロペリドールO.1mg/kg、ミダゾラム0.15mg/kg、ケタミン1mg/kgを順次静脈内に単回注入し、以後ケタミンを1mg/kg/hrの速さで2時間持続注入する。

,緩和ケアテキスト(2002),,,63


【6.2.11】
 慢性疼痛に対してケタミンは、5〜10mgの静脈内テスト投与を行い、効果がある患者に使う。投与方法は本剤1mg/kg、ドロレプタン0.1mg/kg、ドルミカム0.1mg/kgを末梢静脈路より投与し、その後ケタミンを1mg/kg/時の速度で持続投与を行う。この方法を週に1〜2回程度行う。本剤の経口投与も試みられており、90〜240mg・分3で服用させる。
,臨床と薬物治療(1997),16,10,9

 
【6.2.11】
 ケタミンは静注をすると幻覚が出てくるため、テスト投与がしにくい。
,今月の治療(1996),4,4,71

#1
【6.2.11】
 慢性疼痛に対してケタミンテストが著効あるいは有効でも、実際に使用すると無効であったり、副作用に耐え難いこともあり、また逆にやや有効であっても良い効果を得ることもある。しかしケタミンテストと実際に投与した場合の有効性は、ほぼ一致する。
,ペインクリニックで用いる薬100+α(2002),,,140

#1
【6.2.11】
 最近の研究により、強力な鎮痛効果をもつ静脈麻酔薬(筋注や短期間ならば持続皮下注入もできる)としてすでに長い臨床経験をもつケタラ−ル(ケタミン)と、中枢性非麻薬性鎮咳薬として日常頻用されているメジコン(デキストロメトルファン)に、NMDA受容体の拮抗作用があることが判明している。
 ケタラールの比較的少量与薬が癌疼痛を緩和することは以前より注目され、筆者もモルヒネがあまり効かない痛みに対し、モルヒネとしばしば併用してきたが、従来はその鎮痛効果はケタラ−ルの鎮痛効果そのものであり、モルヒネの鎮痛効果と相加的に働いていると解釈していた。しかし、近年の疼痛学の知見によると、ケタラールは中枢の痛みの閾値低下を回復することでモルヒネの鎮痛効果を回復させているようである。この目的でのケタラールの使用量は、麻酔量よりはるかに少なく、ほとんど精神作用も生じない程度の量(subanesthetic dose)ですむ。
 [処方例]ケタラ−ル5mgを静注して、鎮痛効果を認めた場合、筋注用ケタラール(50mg/cc10mLvial)を1回量10mLの甘味をつけた水薬として1日3回8時間毎に内服させる(院内製剤)。初回量90 mg分3から開始し、300 mg分3まで増量する。
 この量では、軽いもうろうとした感じや胃部不快感が出る以外、大きな副作用はない。効果は1週間以内で発現するから、2週間連用して効果のないときは中止する。効果があったときは、1か月間連用して、しばらく休薬し、痛みの増強があれば、再び1か月間の連用を行う、効果はときに劇的である。しかし、まったく効かないことも多い。
 内服ができないときは、 0.1〜0.2 mg/kg/hrの注入速度で、持続皮下注入か持続静注を行う。持続皮下注入では、ケタラール単剤では発赤や硬結が生じやすいために、これを防止するため、デカドロンを1〜2 mg/day 混入して用いるが、実際には、大量のモルヒネ・デ力ドロンに微量のケタラールを加えてカクテルとして持続皮下注入することが多いので、皮膚症状が問題になることはほとんどない。

,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,79

#1
【6.2.11】
 神経因性疼痛に対するケタミン投与方法としては、皮下注が17例(71%)、点滴静注が7例(29%)で、平均投与量は133.7mg/日。ケタミンの麻酔の作用が出るのは500mg/日とされてるので、少量でもケタミンの鎮痛効果がある。投与期間は30日以内が大半。末梢神経損傷では、83%の患者に有効性がみられ、痛みがほとんどなくなるか、かなり軽減した。中枢神経損傷には62%、体性痛(大半は骨転移)に対しては75%の患者に有効で、全症例の改善率は75%という成績だった。ただ、体性痛に対しては評価がなかなか難しいと思われる。
,ホスピスケアの実際(2000),,,119

#2
【6.2.11】
(持続皮下注入における推奨投与量)
 ケタミン(ケタラール)は刺激性が高いので、可能な限り多めの生理的食塩水で希釈する(Grasebyの持続注入器を用いるときには、ケタミン18 mL を30 mL に希釈して注射器に入れ、12〜24時間かけて注入する)。ケタミンは、デキサメタゾン(少量)、ヘロイン、ハロペリドール、レボメプロマジン、メトクロプラミド、ミダゾラムと混合できる。
 開始量は1時間あたり0.1〜0.5mg/kg、 よく用いられる量は24時間あたり 150〜200mg である。24時間あたり50〜100mgずつ増量する。報告されている最大投与量は24時間あたり2.4g。
 注入部位の炎症には、1%ヒドロコルチゾンクリームの局所塗布か、デキサメタゾン(デカドロン)0.5〜1.0mgを注入液中に加えること(5〜10mLの生理的食塩水に加えてから、ケタミンを加える)のいずれかが役立つ。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,63

#1
【6.2.11】
 近年、鎮痛補助薬として注射用ケタミンを内服することにより持続皮下注入を行わずに、同様の効果があるとの報告もある。この場合、bioavailabilityの問題から、注射投与量の5〜10倍の投与量が必要であるといわれている。
,オピオイドのすべて(1999),,,117

#2
【6.2.11】
(ケタラールの経口投与)
 推奨投与量にはばらつきがあるが、ケタミン(ケタラール)は少量の経口投与で開始する。舌下投与もできる。ケタミンは、皮下投与量よりもかなり少ない経口投与量ですむことは、他の薬の場合と異なっている。精神面の副作用がよく起こるが、ハロペリドール(セレネース)、ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)、ミダゾラム(ドルミカム)で治療できる。ケタミンは、フェンタニルやミダゾラムとの併用で、治療抵抗性の痛みや興奮を治療するために静脈内注射されてきた。
 患者に目盛りのついた1mL用注射器と2本の針(1本は空気抜き用)を渡し、ケタミンのバイアル瓶の蓋に刺す。内服するので注射時のような清潔性の必要はない。10mg/mL、または20mg/mL を内服する。50mg/mLとすると、にが味が強すぎる。長期投与の成功率、すなわち除痛が得られ、耐えうる最少の副作用ですむ率は、20%以下から約50%にわたっている
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,63

#2
【6.2.11】
(経口投与における推奨投与量)
 注射用バイアル内の液をそのまま、あるいは50mg/5mL に希釈して使用する。
にが味を和らげるため、患者が好む味付けをする。
 開始量は2〜25mgの1日3〜4回の内服。頓用を加えることもある(皮下注射 0.4〜5mgと同効)。
 6〜25mgずつ増量する:報告例の最大経口投与量は200mg の1日4回。
 精神症状や眠気が起こり、オピオイド鎮痛薬を減量しても消失しないときには、ケタミンの1回量を減らし、投与回数を増やす。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,63

#2
【6.2.11】
(ケタラール内服)
 苦くて飲みづらいので工夫する。例えば、筋注用ケタラール3mL+シロッブ12mL (筆者は、明治屋のかき氷用シロップにしている)で全量を15mLとして、1回5mL1日3回内服。
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,33

#1
【6.2.11】
 ケタミンカプセルは、購入した塩酸ケタミン粉末を市販のカプセルに封入すればよく、ケタミンとして25mgと50mgのものがある。舌下錠は薬剤部で溶解性や味覚を考慮して調剤した後、ケタミン25mgを含有した錠剤としている。矢島らによる、ある患者のケタミン血中濃度のシミュレーション、およびわれわれの臨床経験からもケタミン舌下錠25mgと、ケタミンカプセル50mgがほぼ等価で, bioavailability (生体利用率)は、舌下錠22%、カプセル13%である。そうであれば、舌下錠に統一した方がよいように思えるが、実際には舌下錠により、より急激な血中濃度の上昇があり、副作用を訴える患者がいるので、カプセルも欠かせない。
 投与法としては、まずケタミンカプセル(25mg)を、1週間程の間に、1回1カプセル、1〜3カプセル試させる。副作用が強いとその時点で脱落する。患者が受容できれば、ケタミンカプセル(25mg)を1日1〜3カプセル投与する.効果が認められない場合、50mgカプセルに変更する。それでも効果がない時には、 25mgケタミン舌下錠に変更する。最も投与量の多い患者では25mgケタミン舌下錠を1日20錠、最も少ない患者では1日に、25mgケタミンカプセルを1カプセルと、25mgケタミン舌下錠を1/2錠使用している。通常の使用法であればケタミン中止による問題はないので、中止する必要があれば、いつでも中止できる。
 ケタミンカプセルやケタミン舌下錠を作製できない施設では、筋肉内あるいは静脈内投与用塩酸ケタミンを利用してケタミン水、ケタミンジュース、あるいはケタミンチョコレートなどを作製し、患特に投与している。効果としては、ケタミンカプセルと同等と考えてよい。また、米国などにおいては、ケタミン点鼻が費用もかからず、有効であるということで使用されている

,ペインクリニックで用いる薬100+α(2002),,,143

#1
【6.2.11】
 ケタミンの副作用としては、眠気、ふらつき、めまい、悪夢、せん妄、刺入部の発赤(持続皮下注入)などがあるが、比較的投与量が少ない場合は問題となることは少ない。ケタミンの経口投与も報告されており、淀川キリスト教病院ホスピスにおいても経口投与を行い、有効性を検討中である。筋注用5%ケタミン注射剤(50 mg/mL)の必要量を、常水に加えて1回量5〜10 mL になるように作製している。特有の苦味があるので、適宜、甘味のある飲み物とともに内服することを指導している。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,125

#1
【6.2.11】
 (ケタミン内服による副作用)
 嘔気を感じる症例がかなりの割合で存在するが、使用を重ねるうちに慣れが生じる症例も多い。その他、陶酔感、すなわち浮遊感、非現実感、時間感覚の欠如、周囲の環境に対する違和感、思考不能などの精神症状が出現する。健康成人において、ケタミン血中濃度50〜200ng/mLでは、血中濃度と精神症状の程度に正の相関がみられるので、必要最少量を投与する。
 副作用の出現には個体差が大きい。25mgケタミンカプセル1個を服用しただけで気分が悪くなる症例もあれば、25mgケタミン舌下錠4〜5個を使用しても副作用がみられない症例もある。われわれの経験では、ケタミン経口投与による副作用は、適切に使用すれば、それほど問題とならない。
,ペインクリニックで用いる薬100+α(2002),,,146

#1
【6.2.11】
 ケタミンでは投与量が増えると幻覚なども生じることがある。一般的には持続静注で使用される。しかし、ケタミンの経口投与は代謝産物であるノルケタミンを介して質の高い鎮痛効果を発揮するという報告もあり、経口モルヒネと経口ケタミンを組み合わせた鎮痛法は最善の組み合わせとなるかもしれない。
,オピオイド治療(2000),,,52

#1
【6.2.11】
 ケタミン乱用の報告がある。患者は不安、胸痛、動悸を訴え重度かく乱、横紋筋融解を合併する。ケタミンを定期的に投与する場合には、医師と患者の信頼関係が必要であり、使用状況を掌握しておくことが重要である。
,ペインクリニックで用いる薬100+α(2002),,,146

#1
【6.2.11】
 ケタミンの副作用予防のためにセレネースの2〜4mg/日の投与が勧められる。
,Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000),,,86


【6.2.11】
 モルヒネが効きにくいといわれる骨転移の痛みに対して、ケタミンの併用により、速やかに除痛されることがある。近年、ケタミンの薬理作用が明らかとなり、脊髄後角の中枢性感作を抑制することや、モルヒネの耐性や依存性の形成を抑制するという研究報告がなされている。ケタミンでひとたび痛みが緩和されるとケタミンは離脱することができ、その後鎮痛効果が持続する。
,ターミナルケア6月増刊号(1999),9,,22


【6.2.11】
 ケタミンはモルヒネ耐性を予防したり、できてしまったモルヒネ耐性を回復させる作用がある。このため、モルヒネの効果が良好になり、ケタミンを中止できる場合もある。
,ターミナルケア6月増刊号(1999),9,,39


【6.2.11】
 ケタミンは体性痛や神経因性疼痛に有効性が高いが、内臓痛にも有効とする報告もある。本剤は短期間の投与で無効であっても、中枢神経の過緊張を抑制することが知られており、1〜2週間の投与後に効果がみられる可能性もある。
,緩和医療(1999),1,2,61


【6.2.11】
 疼痛に対するケタミン投与法は、1日量50〜100mg程度から開始し、必要に応じて加減する。開始量が200mg以上の症例では、めまいや眠気などの訴えが出現しやすい。ケタミンの持続静注や持続皮下注では、悪夢などの覚醒反応が問題になることはない。持続皮下注では、刺入部周辺の皮膚の発赤がみられ、2〜3日ごとに刺しかえが必要なことが多い。
,緩和医療(1999),1,2,61

 
【6.2.11】
 ケタミンは、神経因性や骨転移の強い痛みに1〜2mg/kg/日を持続皮下注や持続静注で投与し、眠気もほとんどなく良好なコントロールが得られる。
,ターミナルケア(1995),7,1,29

#1
【6.2.11】
 東大病院で慢性疼痛に対し、ケタミン静注療法を施行した症例で、1週間前後の疼痛緩解を得た症例は数例あるが、疼痛が完治あるいは長期緩解した症例はない。
,ペインクリニックで用いる薬100+α(2002),,,141

 
【6.2.11】
 塩酸ケタミンの持続静注法はモルヒネによっても充分な鎮痛が得られない症例、特に夜間に不穏状態を呈する場合に有効である。注入開始からまもなく鎮痛と睡眠が同時に得られ、注入を中止すると覚醒する。同じ量で持続注入すると、量が少ない場合は寝付きが悪かったり、あるいは逆に量が多い場合は日中に残存する場合がある。そこで、就寝時の量を多くして、途中で半分に減量し、4時に注入を停止している。この方法では寝付きもよく、日中への残存効果もない。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
薬液の組成:塩酸ケタミン    500mg
      ジアゼパム     50mg(orドロレプタン 20mg)
  + 生理食塩水(or5%糖液)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                50mL
   ジアゼパムは析出物が現れる場合があるため、ドロレプタンでもよい。
   また、ジアゼパムよりドルミカムの方が使用し易いように思われる。
   使用量はセルシン1A=ドルミカム1Aでよい。

投与方法:持続注入器にて側管から注入(20:00→4:00)
     (持続モルヒネ静注中は併用)
   1. 20:00〜 24:00・・・1.0mL(深い眠りに導入)
   2. 0:00〜 4:00・・・0.5mL(日中の残存効果減少)

試験的投与として上記の量で開始し、効果と副作用を見て、1/2量/晩の増減をする。静脈路が確保されていないときは、皮下注でもよい。
 副作用として不快な浮遊感を経験することがあり、このために本法を拒否する症例が1/3ほどある。そのほかには気管、口腔内分泌物の増加が見られることがあるので呼吸抑制に注意する必要がある。
,痛みの薬物療法(1990),,,209

 
【6.2.11】
 終末期にモルヒネによっても充分な鎮痛が得られない場合に対するケタミン・ドルミカム持続投与法の至適量は、鎮静・睡眠状態や副作用を参考にケタミン・ドルミカムの比率はそのままにして投与量の増減で調節する。不快な浮遊感が強いときはドルミカムを、疼痛が強いときはケタミンの増量が効果的なので、症状に応じてケタミン、ドルミカムの比率を変えても良い。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,78

 
【6.2.11】
 塩酸ケタミン持続点滴法の利点は呼吸.循環が安定し、意識レベルは点滴速度により調節できる。副作用に過度の鎮静、分泌物増加に注意する。
,癌の疼痛治療(1989),,,8

#2
【6.2.11】
N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗薬(NMDA受容体拮抗薬)
 神経因性の痛みが標準的な鎮痛薬と抗鬱薬や抗痙攣薬を併用しても反応しない場合にNMDA受容体拮抗薬を使用する。次のような薬がある。
 ・メサドン
 ・ケタミン(ケタラール)
 ・アマンタジン(シンメトリル):100mgの1日2回の経口投与
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,62


【6.2.11】
 メサドンは日本では使用できないが、作用時間が非常に長く、安価で、投与経路も多彩であり、恍惚感がないため、社会的には問題を起こすことが少ないとされている。
 NMDA受容体拮抗薬のみとして働くことがわかっており、ケタミン、メジコンよりも強力な薬剤として期待されている。
,ターミナルケア(1998),8,5,409

#2
【6.2.11】
 メサドンはオピオイド・アゴニストであることに加えて、NMDA(N−メチル−D−アスパラギン酸)受容体チャネルブロッカーであり、また、シナプス前セロトニン再取り込み阻害薬でもある。血中半減期は8〜80時間と幅が大きい。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,431

#2
【6.2.11】
(メサドンの適応)
メサドンを次のようなさまざまな場合に使用する。
 ・ある医療センターでは、モルヒネの代わりにメサドンを強オピオイド鎮痛薬の第一選択薬として使っている
 ・ある医療センターでは、腎不全のある患者の痛みにメサドンを強オピオイド鎮痛薬として好んで使用している
 ・非ステロイド性消炎鎮痛薬、モルヒネ、三環系抗鬱薬、抗痙攣薬からなる定型的な処方に反応しない神経因性の痛みのとき
 ・モルヒネの副作用、例えば、鎮静、幻覚、不快感、せん妄、ミオクローヌス、アロジニア、痛覚過敏などが投与量に関係なく耐えがたいとき
 ・モルヒネを増量しても痛みが除去されず、むしろ耐えがたい副作用が多くなったとき
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,431


 

【6.2.12】「ステロイド」


 

【6.2.12.a】「疼痛に対するステロイドの使用」


#1
【6.2.12.a】
 (ステロイドに対応する痛みの性質)
(1)頭蓋内圧亢進による頭部全体の重苦しくしめつけられるような痛み。
(2)骨転移、神経・脊髄圧迫などによる重苦しい痛みや鈍くうずく痛み(体動で増強し、放散痛や痺れを伴うこともある)。

,麻酔科診療プラクティス 4癌性疼痛管理(2001),,,56

 
【6.2.12.a】
 脳腫瘍ないし癌の脳転移による頭痛にたいしては、モルヒネ単独よりも大量のステロイド剤を併用することが効果的である。
 癌による随伴性炎症が疼痛の原因になっている場合にも、モルヒネとステロイド剤の併用は非常に有効である。

,臨床と薬物治療(1990),,58,76

#2
【6.2.12.a】
 骨盤内がん、頭部頸部がんのようながんの場合、がんによる周囲への圧迫により痛みが出現して難治性です。このような時に、ベタメタゾン(リンデロン、デカドロン)を使用します。 0.5mg〜2mg/日
 がんによる神経圧迫や頭蓋内がんによる脳圧亢進症状に対しては、多量投与し、漸減します。
 1回4mgを1日2〜4回使用し、数日経過した後に漸減します。維持量は2〜4mgです。
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,67

#1
【6.2.12.a】
 ステロイドのよい適応は、オピオイドに反応しにくい痛み全般、脊椎転移や硬膜浸潤による脊髄圧迫の痛み、気道が腫瘍により閉塞しかかっているときの呼吸困難感などであり、また、癌終末期のステロイド療法には、気分の改善、食欲不振の改善、全身倦怠感の改善などの非特異的な効果も経験的に認められているので、このような効果を期待して用いることもある。ステロイドの使用量については定説はない。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,81

#1
【6.2.12.a】
 (ステロイドの投与法)
 神経圧迫の痛みに対してはプレドニゾロン15〜30mg、デキサメタゾンないしベタメタゾン2 〜 4 mgで開始し、1週ごとに漸減して最小限の維持量とする。少量の場合は朝1回投与とする。効果がなければ1週間で中止する。疼痛軽滅後に中止しても症状緩和が維持されることもある。脊髄圧迫や頭蓋内圧亢進に対してはデキサメタゾンないしベタメタゾン8〜20mgを短期間投与する。

,麻酔科診療プラクティス 4癌性疼痛管理(2001),,,56

 
【6.2.12.a】
 急激な神経圧迫のような痛みにはソルメドロールを1日500mgか1000mgで、3日から5日使って、漸減していく形を取る。予後が1、2ヶ月ならそのまま続けるが、半年から1年と考えられる場合は漸減して切る。
,今月の治療(1996),4,4,72

 
【6.2.12.a】
 ターミナル前期の後半からターミナル中期では、ステロイドは腫瘍周囲の浮腫や炎症の減少、周辺組織の圧迫軽減など鎮痛補助薬としても有効で、その適応範囲は非常に広い。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,6
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,23

 
【6.2.12.a】
頭蓋内圧亢進、神経圧迫、脊髄圧迫の場合の初回投与量及び維持量

  初回投与量          維持量
神経圧迫    4mg1日2回    2〜4mg/日、または減量
頭蓋内圧亢進 4mg1日2〜4回       多様
脊髄圧迫    6〜8mg1日4回  多くの場合放射線治療後に減量
(ときに100mg/日もある)
必ず成功するとは限らないが、まず処方を試みる。5〜10日後に見るべき改善がなければ3〜4日かけて減量し、中止する。
(注)フェニトインと併用するときはデキサメタゾンの代謝を亢進させるためデキサメタゾンの増量が必要。プレドニゾロンは影響を受けない。
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,32
,癌の疼痛治療(1989),,52

 
【6.2.12.a】
 肝腫瘍や骨盤内腫瘍、頭頸部腫瘍などのように限られた空間内で腫瘍が増大するときに、なんともいえないような圧迫感や緊満感が出現することがある。このような痛みには、ステロイドの投与が必要になってくる。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,21

 
【6.2.12.a】
 神経圧迫による痛みにはプレドニン20〜40mgかデカドロン4〜6mgを1日量として用い、1週間後までに漸減して維持量とする。維持量とは痛みが緩和するのに必要な量である。プレドニンの維持量は15mgほど、デカドロンは2mgほどとなることが多いが、時には十分な効果を維持するのにもっと多い維持量が必要となることがある。
,がんの痛みからの解放 第2版(1996),,,38

 
【6.2.12.a】
 頭蓋内圧迫による痛みの場合には、最初の1日量をデカドロンの8〜16mgとするとよい。1週間たったら漸減して維持量に至る。脊髄圧迫による痛みでは、施設によりもっと多量、例えば初回1日量100mgを用いている。これを減量して放射線照射中には1日量16mgを維持量としている。
,がんの痛みからの解放 第2版(1996),,,38


【6.2.12.a】
 骨転移による病的骨折を起こした場合、メドロール80mg+0.5%ブピバカイン10mLの骨折部注入は、数日間の疼痛コントロールをもたらす場合がある。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,256

 
 

【6.2.12.b】「疼痛以外の症状に対するステロイドの使用」


 
【6.2.12.b】
 コルチコステロイドはモルヒネ等の鎮痛薬と共に用いることによって単独使用時よりも優れた除痛が得られ、また副作用を軽減させる鎮痛補助剤としての役割と非特異的ないわゆる全身症状の改善を目的とする役割を持っている。
末期癌患者に以下の適応でコルチコステロイドが使われる。

(適応)

1.非特異的な使用
食欲増進、自覚的な元気さの増進、体力の改善

2.鎮痛目的の使用
頭蓋内圧亢進、神経圧迫、脊髄圧迫、転移性関節痛(骨転移痛)

3.鎮痛以外の特異的な使用
高Ca血症、対麻痺の初期、癌性ニューロパチー、上大静脈閉塞、癌性リンパ管炎、喀血、閉塞(気管支、尿管、小腸)、癌性心膜炎、直腸からの分泌物(坐剤)、発汗、内分泌療法、放射線照射による炎症の緩和、巨赤芽球性貧血

,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,32
,癌の疼痛治療(1989),,52

 
【6.2.12.b】
 (初回投与量及び維持量)
 多くの適応例ではデキサメタゾンを1日1回4mg投与し10〜14日後に維持量2mgに減量する。
必ず成功するとは限らないが、まず処方を試みる。5〜10日後に見るべき改善がなければ3〜4日かけて減量し、中止する。

(注)フェニトインと併用するときはデキサメタゾンの代謝を亢進させるためデキサメタゾンの増量が必要。プレドニゾロンは影響を受けない。
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,32
,癌の疼痛治療(1989),,52

 
【6.2.12.b】
 ステロイドは、その適応となる症状が出現し、かつ予後が数ヶ月と思われる場合に、投与を開始する。
 淀川キリスト教病院ホスピスでは以下の理由からリンデロンを使用している。

1.作用が強力(プレドニゾロンの7倍)
2.生物活性の半減期が長い(36〜54時間)
3.塩類代謝の副作用がない。
4.錠剤が非常に小さく飲みやすく、投与量を調節しやすい。

 リンデロンの投与量は1日1〜2mgの少量から開始し、効果を見ながら必要に応じて徐々に増量していく。

 ただし、頭蓋内圧亢進症、脊髄圧迫、上大静脈症候群、消化管閉塞などの病態やターミナル中期(予後が数週間)の場合は、症状の程度に合わせて始めから大量(1日4〜16mg)に投与する(漸減法)。

,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,164
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,215

      参照→【7.32】「脊髄圧迫」

#1
【6.2.12.b】
 疼痛が緩和され、その他の症状もある程度コントロールされている患者でも確実に衰弱は進行する。ステロイドがこのような患者の強い倦怠感に有効であることがある。すべての患者に有効であるとはいえないが、残された時間が少なくとも1ヵ月以上あり、血液検査にてCRPの上昇をきたしている症例で効果があることが多い。効果があると比較的短期間で食欲の増加、「元気のよさ」がみられるようになる。しばらくの間効果は持続するが(多くは1ヵ月から3ヵ月)、効果が切れ強い全身倦怠を訴えるようになると比較的短期間で臨死期を迎える。当院では「ステロイドハネムーン」とよんでいる。また、成書やマニュアルの多くではステロイドはリンデロンやデカドロンがより効果的とあるが、経験上プレドニンでも充分効果はある。
,がんの在宅医療(2002),,,32

#1
【6.2.12.b】
 ベタメタゾン(リンデロン)は、癌末期に出現する全身倦怠感や食欲不振に対して、一時的に効果があったのを含めて、全体としては高い有効率がみられる。しかし症状が進行し生存期間が短くなると投与量を増加しても、その有効率は低下する。特に予後が1週間未満になるとコルチコステロイドの効果はほとんど認められない。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,218

 
【6.2.12.b】
(癌患者におけるデカドロンの投与法)

 化学療法や放射線療法後の食欲不振や衰弱のある患者で、まだ長期の予後(1年を超える)を期待できる場合は0.5〜1mg/日を1〜2週間使用する。全身状態が改善されれば早期に漸減、離脱する。

 有症状で予後が6ヶ月前後と見込まれる場合は、躊躇することなく症状に併せて思い切って使用する。単なる食欲不振だけでは0.5〜1mg/日、転移による痛みや消化管の通過障害、呼吸不全や頑固な咳の場合4〜10mg/日を初期投与とする。数日以内で改善がみられれば漸減し維持量とする。
,臨床と薬物治療(1992),73,188


【6.2.12.b】
 生命予後が1ヶ月以内でステロイドを投与した方がいいような症状、具体的には全身倦怠感がある場合には躊躇しないで使っていい。しかし、生命予後が2ヶ月以上ある場合にはステロイドを使わないで症状緩和することが望ましいと思われる。
,ホスピス・緩和ケア白書(1998),,,28


【6.2.12.b】
 癌悪液質に対するステロイド投与は、全身倦怠感や食欲不振に効果がある。しかし、病状が進行し生存期間が短くなると、投与量を増加してもその有効率は低下する。特に予後が1週間未満になるとステロイドの効果はほとんどなく、鎮静などの他の方法を考慮する必要があると考えられた。
,最新緩和医療学(1999),,,88

 
【6.2.12.b】
 欧米の報告ではステロイドとしてはデカドロンの使用が多い。理由は、高力価であること、ミネラルコルチコイド活性がほとんどないこと、作用時間が長く1日の投与回数が少なくてよいこと、食欲亢進作用が他のステロイド剤に比べて強いこと、などがあげられる。
,ターミナルケア(1995),5,4,264

 
【6.2.12.b】
 ステロイドは、末期状態による食欲低下に対し非常に有効な食欲増進剤となる。ターミナル中期であれば躊躇せず使用する。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,76
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,83

 
【6.2.12.b】
 癌による腸管内腔狭窄は必ず炎症性浮腫を伴い、これが狭窄を強める。癌終末期では癌自体にはもはや治療に反応しないことが多いが、炎症性浮腫には副腎皮質ホルモンが奏効することがあり、時に狭窄の程度を軽減し、自覚症状を緩和する。デカドロンかリンデロン8〜12mg/日を連日1週間使用し、以後漸減する。H2ブロッカーを必ず使用する。
,がん終末期の症状コントロール(1995),,,114

 
【6.2.12.b】
 ステロイドは各種炎症を抑え気管・気管支の狭窄、腫瘍周囲の浮腫を軽減させて呼吸困難を改善させる。リンデロン、1回1〜4mg、1日1回朝または2回朝昼。
,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,101
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,115
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,120

      参照→【6.2.12】「ステロイド」
      参照→【7.35】「鎮静」

 
 

【6.2.12.c】「ステロイドの問題点」


 
【6.2.12.c】
 ターミナル患者におけるステロイドの副作用を以下に示す。

(1)口腔カンジダ症
 コルチコステロイド使用患者の約30%にみられる。ミコナゾール(フロリードゲル)やアムホテリシンB(ファンギゾンシロップ)の口腔内塗布が有効である。難治性の場合や口腔ケアが困難な場合、フルコナゾール(ジフルカン)を1回50〜100mg、1日1回の静注投与が有効である。
(2)皮下出血斑
 出現頻度は比較的高い。特に治療法はなく、患者に「心配するものではない」と説明することが重要である。
(3)満月様顔貌
 美容上問題となる場合があり、事前に説明しておく必要がある。長期になる場合は、コルチコステロイドを減量せざるをえない場合がある。
(4)気分高揚
 数パーセントの患者にみられる。症状としては気分高揚の他に、不眠、不安、焦燥、抑鬱、離人症(自己の身体や精神が自分でないように感じたり、現実感がピンと感じられないという現象)などの感情や行動の変化がみられる。
 可能であれば、コルチコステロイドを減量もしくは中止する。また、コルチコステロイドの種類を変更すれば(ベタメタゾン→プレドニゾロン)、改善することもある。必要に応じてハロペリドール(セレネース)などを投与する。
(5)高血糖
 糖尿病の既往のある患者に出現しやすい。コルチコステロイドを減量するか、血糖降下薬や少量のインスリンを併用する。
(6)ミオパチー
 コルチコステロイドにより、体幹部を中心に筋力の低下と筋萎縮を認める病態である。頻度は低いが、投与早期から出現することもあり、患者の日常生活動作(activities of daily living : ADL)をきわめて低下させることがある。
 コルチコステロイドの減量以外に有効な治療法はないが、フッ素基を持つコルチコステロイド(ベタメタゾン、デキサメタゾン)からフッ素基を持たないもの(ブレドニゾロン、メチルプレドニゾロン)に変更すれば有効との報告がある。
(7)感染
 感染の徴候がみられれば、抗生剤を使用する(予防的投与は不要)。
結核の既往がある場合は再燃に気をつけ、必要であれば抗結核薬であるイソニアジド(イスコチン400〜600mg/日)を併用する。
(8)消化管出血
 数パーセントの患者にみられる。H2ブロッカーの使用によって予防できる場合がある。非ステロイド系抗炎症薬の併用が原因であることが多く、コルチコステロイドの投与のみで出現することは比較的稀である。
 したがって、併用する場合にはH2ブロッカーなどを予防投与することが勧められる(ただし、保険適応はない)。
(9)骨粗鬆症
 高齢者や長期投与の患者に出現しやすい。ビタミンD製剤の投与が予防に有効であるとの報告がある。高齢者の場合、特に長期投与にならないように予防することが第一である。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,167
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,219

 
#2
【6.2.12.c】
(ステロイドによるせん妄、倦怠感)
 予後がある程度残されている時期にはステロイドはきわめて有効である。しかし、死亡時期の迫り、悪液質が相当に進行した状態では、ステロイド継続投与は、かえってせん妄や耐えがたい倦怠感を増強させてしまう可能性を、今後の課題として提案したい。いくつかの限界はあるが、当院の結果から推測されることとして、ステロイドをある時期から減量・中止することは、持続的な鎮静を最小限にして自然な最期を迎える援助につながると考える。

,ターミナルケア(2003),13,6,465

#2
【6.2.12.c】
(ステロイドによるせん妄)
 ステロイドが終末期の過活動型せん妄の促進因子であることは同定されており、ステロイドの過剰投与が鎮静を促進している可能性はある。鎮静とはやむなく行うlast resortであり、鎮静を必要とする苦痛(特に、呼吸困難、過活動型せん妄)を生じさせない手段についていっそうの努力と研究が必要である。

,ターミナルケア(2003),13,6,470

【6.2.12.c】
 在宅癌治療の場合では、モルヒネとステロイドの使い方が地域にまだ広まっていない。ステロイドで食欲不振がせっかくよくなってもホスピスから帰ると、地域の医師がステロイドを危険視して服用を止めさせてしまうことがある。
,癌患者と対症療法(1995),6,1,14

 
 

【6.3】「その他の鎮痛補助薬」


#1
【6.3】
 「アンプラーグ」【適応外】
 アダラートやケタンセリン(5-HT2A抵抗薬、わが国では市販されていない)などの末梢循環改善薬が、ときに反射性交感神経性萎縮症やカウザルギーの頑固な痛みに有効であるとの報告がある。この報告を受けて、ケタンセリンの同系薬であるアンプラーグのペインクリニック領域での臨床応用が始まっていて、良い結果が報告されている。筆者も遷延性術後痛、帯状疱疹後神経痛、反射性交感神経性萎縮症、癌疼痛などのいわゆる難治性疼痛にアンプラーグを用いて良い感触を得ている。
 アンプラーグの臨床上の最大の利点は、副作用がほとんど見られない安全な薬品であるということである。上述した鎮痛補助薬には、患者のQOLにかなりの悪影響を及ぼす副作用があり、これによってときに拒薬されるが、アンプラーグはこれがない。現在は、神経因性疼痛の因子がからんでいると思われる痛みには、反応を見ながら積極的に使用している。アンプラーグが難治性疼痛の鎮痛補助薬として位置づけられるかどうかは、今のところ症例数が少なく何ともいえないが、筆者はその副作用の少なさは臨床上非常に重要であると考えており、最近は鎮痛補助薬の第一選択薬としている。アンプラーグ 3錠分3毎食後。効果は1週間以内で発現することもあるが、1か月くらいかかることもある。1か月以内に効果を認めたら、定期的に肝機能などをチェックしながら数か月以上連用する。1か月で何ら効果を認めないときは中止する。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,80

#1
【6.3】
 日本ではアンプラーグが臨床使用に供されるとともにその慢性疼痛に対する有用性について臨床報告がなされてきた。その後、慢性疼痛に対するセロトニンの役割が注目されてその作用が明らかにされつつある。慢性疼痛に対しては、閉塞性動脈硬化症と同様に日本人では1日300mg毎食後投与が一般的である。この投与法におけるrandomized study でニューロパシックペインに対する鎮痛効果が確認されている。
 アンプラーグによる慢性疼痛の治療については多施設での用量試験もなされており、150mg、300mg、450mgの投与においては、投与量の増大に伴って効果も良い傾向にあるようである。交感神経系が関与した疼痛に対しては、交感神経ブロックと併用または単独で投与する。初回投与量から一定でよいが、大体3ヵ月を目安に投与し、それ以上の投与については効果をみて判断すべきである。3ヵ月投与で効果が全くない場合には、投与を中止して他の治療法を選択する。効果がある場合は6ヵ月程度まで投与期間を延長する。また必ずしも交感神経が関与しているとは考えられない疼痛に対する効果も報告されているので、今後適応となる疼痛疾患は増加する可能性がある。使用上、特に一般的な注意点と変わるところはなく、軽度の消化器行状が副作用としては主である。
,ペインクリニックで用いる薬100+α(2002),,,115

#1
【6.3】
 ノイロトロピン(ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液)は、痛みの伝達の下行性抑制系を賦活することで鎮痛作用を生ずるという仮説もあるが、その作用機序は不明である。さまざまな鎮痛薬に抵抗性の難治性疼痛に、ときに奏功することがある。副作用がほとんどないので筆者もしばしば用いているが、作用機序の解明が待たれる。
 ノイロトロピン(1錠4.0ノイロトロピン単位)4錠分2(朝食後と夕食後)
単独で用いることは少なく、NSAIDsに併用して用いている。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,61

#2
【6.3】
(ソセゴンとノイロトロピンの相互作用)
 鎮痛薬の作用を増強することがあるため、鎮痛薬の減量等慎重投与が必要となる。マウスにおいて、ペンタゾシンとノイロトロピン併用により、鎮痛効果の協力作用が認められ、鎮痛作用の持続時間が延長したと報告されている
,緩和医療と薬物相互作用(2003),,,75

#1
【6.3】
 テルネリン【適応外】は、中枢性筋弛緩作用を有するα2アドレナリン作動薬である。筋弛緩薬として分類され、臨床では経口投与薬として使用されているが、動物実験では、くも膜下腔投与により運動神経に対する影響を示さずに強力な鎮痛作用を示すことが知られている。
,疼痛治療の現状と展望(2000),,,41

#1
【6.3】
 最近、脳代謝改善薬イフェンプロジル(セロクラール)【適応外】がNMDA受容体のポリアミン部位での拮抗作用とα受容体遮断作用を持つとして注目されている。ケタミンと同様にモルヒネの鎮痛作用を増強し、耐性や精神依存、身体依存の形成を抑制するが、イフェンプロジル自体に依存形成能や精神症状はない。経口製剤があるため用いやすく、すでに癌性疼痛以外の痛みに対しては、経口投与60mg/日での臨床報告がなされている。癌性疼痛への使用報告が待たれる。
,ペインクリニック(2002),23,12,1648

#1
【6.3】
 ニューロパシックペインに抗鬱薬、抗痙攣薬が効かないとき、ギャバロン(中枢性筋弛緩薬)【適応外】を使う場合もある。
,今月の治療(2000),8,3,79

#2
【6.3】
バクロフェン(ギャバロン)の特徴
 脊髄後角における痛みの入力抑制と下行性抑制系の増強作用が示唆されている。また、脊髄におけるサプスタンスPの放出抑制作用がある。最近では、バクロフェンの経口投与では改善の得られない重篤な痙性や疼痛に対して、バクロフェンのくも膜下投与の有効性が報告されている。バクロフェン50〜100μgのくも膜下単回投与により10〜24時間の疼痛の軽減が得られている。
,緩和医療と薬物相互作用(2003),,,165

#2
【6.3】
バクロフェン(ギャバロン)の使用法
 癌性疼痛(神経因性疼痛)に対する確立された投与法はない。カルバマゼピン、フェニトインなどに抵抗性を示す三叉神経痛、舌咽神経痛などに対しての投与法が参考になる。バクロフェン1日量10〜15mgから開始し、症状に応じて1日にlOmgずつ増量する。投与間隔は1〜3回に分けて経口投与する。
,緩和医療と薬物相互作用(2003),,,165


【6.3】
 アタラックスP【適応外】は制吐や抗不安、軽度の鎮静、内因性の鎮痛作用を有する抗ヒスタミン薬である。単独で用いられるか、またはNSAIDsやオピオイドと併用される。ペリアクチン【適応外】も難治性慢性疼痛の治療において時に試みられる。アタラックスPは肝臓でほとんど代謝される。開始量は25〜50mg経口または筋注で、4〜6時間毎、あるいは適宜とする。150mg上では明らかな天井効果が認められ、新たな鎮痛効果を生じない。
,MGHペインマネジメントの手引き(1997),,,97

#1
【6.3】
 カタプレス【適応外】は慢性疼痛患者のわずかにしか反応しないことが示されているが、反応する患者には優れた鎮痛が示されている。一般的には第一選択薬とはなり得ないが、難治例には考慮される。副作用としては口渇と鎮静があり、低血圧を生じうるため慎重に投与する。
,疼痛管理シークレット(2001),,,242

#1
【6.3】
 非癌性神経障害性疼痛に対し、比較対照研究結果により0.1〜0.3mg/日のカタプレス経口投与が1/4の患者に効果があった。癌性神経障害性疼痛では、カタプレス0.3μg/時の14日間、硬膜外腔投与により、45%の患者でオピオイドを減量できた。
 α2アドレナリン作動薬の適応はオピオイド不応性疼痛であり、特に神経障害性疼痛に勧められる。投与経路は脊髄内投与の報告が多いが、経口、経皮投与も可能である。経口は低用量の0.1mg/日からはじめ、2mg/日まで増量可能である。
,Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000),,,84


【6.3】
 カタプレスはオピオイドによる鎮痛の増強とオピオイド投与量の減少のために、鎮痛補助薬として用いられる。難治性のニューロパシックペインには本剤を試みるべきである。初回に経口投与量は0.1mg投与1日2〜3回程度にすべきである。2、3日ごとに0.1〜0.2mgずつを増量しながら調節する。増量は、副作用が生じるか最大投与量2.4mg 1日2〜3回まで数週間かけて行う。本剤は脊髄における鎮痛効果を期待してオピオイドと併用する場合もある。
,MGHペインマネジメントの手引き(1997),,,99


【6.3】
 笑気吸入は、全身痛、特にオピオイド増量に反応しない場合または、体動時痛に。通常、重度の疼痛のために鎮静が生じることはなく、実際、患者の覚醒レベルが高まる場合がある。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,14


【6.3】
 ヒルナミン【適応外】は鎮痛作用を有する唯一のフェノチアジン(15mg筋注はモルヒネ10mg筋注と等鎮痛)。非オピオイド受容体機序。便秘や呼吸抑制がない。副作用として鎮静が望ましい場合に用いる。強力な制吐作用を有する。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,11

#2
【6.3】
 セルシン(ホリゾン)筋痙攣による痛みが原因の場合にきわめて有効である。筋の攣縮に伴う痛みはそれほど多くみられないが、著しい脱水状態の患者などでは電解質異常などによって神経−筋の被刺激性が亢進し、筋の攣縮や身の置き所のない全身の不快感を生じることがある。 ,緩和医療(1999),1,2,62

      参照→【6.1.2.e】「筋攣縮痛」(こむらがえりなど)
 
 

【6.4】「その他の鎮痛療法」


 

【6.4.1】「神経ブロック療法」


#1
【6.4.1】
 (神経ブロックの評価)
 まず、相反する評価を明らかにして、神経ブロックの役割や適応を統一する必要がある。
 神経ブロックの適応を制限する代表的な意見の根拠は、 (1)神経ブロックの効果に関して信用に足る報告が少ない、 (2)神経ブロックを行える熟練した術者や医療機関が少ない、(3)薬物療法のみでも、ほとんどの癌疼痛に対応できる、の3点と考えられる。一方、長年にわたって神経ブロックによる癌性疼痛の治療を行ってきた本邦のペインクリニック医の中には、神経ブロックを先行させ、神経ブロックの適応とならない痛みにWHO方式を用いるのがよいとの意見もある。
 さらに上記の学問的な評価とは別に、とりあえず硬膜外ブロックを行うだけで、その後の継続的な治療を怠るペインクリニック医や、神経ブロックに対する充分な知識や経験もないまま、徒に神経ブロックの侵襲性と副作用のみを強調する医師の存在など社会的な要因も神経ブロックの評価を二分する大きな要因の1つである。 WHOの3段階に加えて、4段階目としてspinal analgesiaなどの神経ブロックの手技を用いる4段階方式も提唱されてしているが、薬物療法を第1選択とし、充分な鎖痛が得られない場合に神経ブロックを考慮するWHO方式に組み込まれた神経ブロック療法の役割を確立するのが望ましい。
,緩和ケアテキスト(2002),,,65

#1
【6.4.1】
 (神経ブロックの適応となる痛みの基準)
 モルヒネの増量よりも神経ブロックを優先すべき痛みの1つは温暖や入浴により軽減し、寒さやクーラーなどの寒冷刺激により悪化する痛みで、交感神経(節)ブロックの適応が考えられる。
 2つ目が安静時には痛みがないが体を動かすと痛みが起こる体動時痛で、知覚神経ブロックの適応が考えられる。
 寺内は、神経ブロックの適応を痛みの強さの変動因子、特に入浴による変化を指標としている。そこで入浴により軽減する痛みを交感神経ブロックの適応とした。
 体動時痛は、WHOの癌疼痛治療指針でもモルヒネが効きにくい痛みとして位置付けられているが、鎮痛と麻酔の相違を考えれば、侵害刺激によって起こる体動時痛には局所麻酔法と同じ神経ブロックの方がモルヒネより有効なのは当然である。いかに強力とはいえ鎮痛薬であるモルヒネは体動時痛を軽減させることはあっても完全に抑えることは不可能である。

,緩和ケアテキスト(2002),,,66

#1
【6.4.1】
 (神経ブロックの適応と条件)
 (1)局所性の痛み:
 限られた部位の痛みである。
 (ただし、散在性でも1ヵ所の痛みが、他の部位の痛みを大きく上回っている場合は適応)
 (2)モルヒネの投与結果からの判定:
 モルヒネ120mg/日以上でも痛みのコントロール不良。
 (または呼吸数6回/分でも鎮痛不充分例はモルヒネ120mg/日以下でも適応)
 (3)痛みの特徴からの判定:
 入浴で痛みが軽減する場合は交感神経ブロック
 体動で痛みが起こる場合は知覚神経ブロック
 (交感神経ブロック、特に腹腔神経叢ブロックはモルヒネ120/mg以下でも適応があれば行うべきである)
 (呼吸や排便・排尿に伴う痛み、あるいは治療や処置に伴う痛みなど、新しく加えられる刺激によって起こる痛みを総括して体動時痛とする)
 (4)神経ブロックの条件
  1.患者の同意と協力が得られること
  2.出血傾向がなく、ブロック針刺入経路に感染巣や腫瘍・転移巣がないこと
  3.全身状態と予後から神経ブロックの有効性が見込めること
  4.局麻薬による神経ブロックが有効(末梢性の痛み)であること

,緩和ケアテキスト(2002),,,66

【6.4.1】
 癌疼痛治療は薬物療法から開始するのを原則とすべきであるが、腹部内臓癌、とくに膵臓癌に起因する上腹部・背部の痛みには、早期に腹腔神経叢ブロックを行うことを考慮すべきである。
,緩和医療(1999),1,2,65

#2
(腹腔神経叢ブロック)
【6.4.1】
 腹腔神経叢ブロックは、腹腔内臓器がんに起因する上腹部痛、背部痛に著効を示すため、本邦のガイドラインでは、WHO方式による鎮痛投与に先行して行うべき除痛法と考えられている。
,ペインクリニシャンが関わる緩和医療(2002),,,56

#1
【6.4.1】
 WHO方式では、モルヒネの効果が期待できない癌性疼痛が神経ブロックの適応とされている。モルヒネの増量より神経ブロックを先行させるべき痛みとして、2つの痛みをあげたい。1つは温暖、入浴によって軽減・消失し、寒冷やクーラーによって悪化する痛みである。もう1つは、じっとしているときには痛みはないが、動くと痛みが襲う体動時痛である。このなかには排便、排尿、深呼吸時の痛み、あるいは治療や処置時の痛みなど、新たに加わる痛み刺激によって起こる痛みはすべて含まれる。このような痛みに難渋する場合、特に入浴により軽誠、消失する腹部痛では、たとえ120mg/ 日以下でも、速やかにペインクリニックに紹介した方がよい。
,疼痛コントロールのABC(1998),,,319

#1
【6.4.1】
 モルヒネの増量よりも神経ブロックを優先させるべき痛みとして、多少乱暴な感もあるが、入浴やhot-packなどの温暖刺激により軽減・消失する痛みと、安静時には痛みがないが体を動かすかと痛みが出現する体動時痛の2つをあげたい。体動時痛とは、動作時や体位交換のときの痛みのほか、特定の体位や排便、肋骨骨折による深呼吸時の痛み、あるいは処置・治療時の痛みなども含まれる。
,がん看護(1998),3,4,306

#1
【6.4.1】
 (神経ブロックの適応)
 経ロモルヒネとして1日120 mgまでの投与で、約70%の患者が痛みから解放されるが、数100 mg以上投与されても痛みが消えないこともある。モルヒネが効きにくい痛み、あるいは十分な副作用対策にもかかわらずモルヒネの副作用が強く、経口投与に換算してモルヒネの1日投与量が120 mgを超えた場合で、その痛みの部位が局在性であり、(1)入浴(温暖)によって軽減し、寒冷によって増悪する痛み、(2)体動時痛(排便時痛も含む)がある場合には、(1)に対しては交感神経ブロック、(2)に対しては知覚神経ブロックの適応を考慮する。ただし、神経ブロックができる施設においては、膵臓癌など腹部臓器癌による上腹部痛・背部痛には薬物投与に先行して腹腔神経叢ブロックを施行する。腹腔神経叢ブロックはWHO方式癌疼痛治療指針でも、神経ブロックの中で最も有効な方法とされ、手技も確立されており、ペインクリニック医にとって難しいブロックではない。

,がん患者の訴える痛みの治療(2001),,,112

 
【6.4.1】
 (癌疼痛治療における神経ブロックの利点)
(1)患者の全身状態や意識、精神活動に直接的な影響を与えない。
(2)適応を守って行えば完全な無痛が得られる。
(3)一度の処置で、週もしくは月単位の長く続く鎮痛が得られる。
(4)神経そのものの遮断なので鎮痛の程度が高い。
(5)鎮痛薬の定期的使用から解放されることが少なくない。

,終末期医療(1991),,0,32

 
【6.4.1】
 癌疼痛治療において神経ブロックを行うに当たり、基本的な適応条件は以下の4点である。
(1)患者の訴える痛みが癌自体による物理的、器質的な痛みであること。
(2)試験的ブロックが有効であること。
(3)消炎鎮痛薬の常用量で制御できなくなった時期に行うこと。
(4)全身状態がブロックに耐えられること。

,終末期医療(1991),,0,31

 
【6.4.1】
 (緩和的神経ブロックの適応)
(1)モルヒネ、鎮痛消炎剤無効の疼痛:(骨転移痛、神経原性疼痛、帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛、肩関節周囲炎、筋・筋膜性疼痛、骨粗鬆症による圧迫骨折など)
(2)モルヒネ大量投与しても満足すべき疼痛管理が行えない場合(モルヒネ経口投与量に換算して100mg/日以上)
(3)WHO方式癌疼痛治療による疼痛管理中に疼痛が増強し、睡眠障害や日常生活に支障をきたした場合
(4)モルヒネなどの副作用により疼痛管理の質的低下が問題になったとき
,緩和医療学(1997),,,82


【6.4.1】
 局在した部位の痛みで、しかも、(1)入浴(温暖)によって軽減、寒冷によって増悪する痛み、(2)体動時(排便時痛など新たに加わる刺激によって起こる痛みを含む)が主たる場合には、(1)に対しては交感神経ブロック、(2)に対しては知覚神経ブロックの適応を考慮する。ただし知覚神経ブロックは知覚障害のみならず運動神経の障害を伴う場合もあるので、その利点と弊害について十分に検討する。
,緩和医療(1999),1,2,65

#1
【6.4.1】
 入浴などの温暖効果で軽減・消失する痛みは交感神経ブロックの適応である。交感神経ブロックは知覚・運動神経にはなんの障害もない。
,がん看護(1998),3,4,306

 
【6.4.1】
 従来、癌性疼痛に対する神経ブロックは知覚神経ブロックが主流だったが、モルヒネを使用している場合には、交感神経ブロックの鎮痛効果が著しい。それは必要モルヒネ投与量の減少、あるいはブロック後のモルヒネの過量投与によると思われる副作用がみられるので、今後は交感神経ブロックが主流となると考えられる。
,痛みの臨床(1996),,,115


【6.4.1】
 消化器癌の増大・腹腔内転移痛への対処として、ある程度強い痛みがあり、あるいはさらに増大する恐れがある場合、腹腔神経節ブロックが第一選択である。このブロックが奏功すると、多くの患者が死亡まで痛みから解放され、在宅移行も容易になる。
,臨床と薬物治療(1999),18,3,14


【6.4.1】
 脳循環改善剤や、血栓溶解剤など抗凝固作用のある薬物治療中には、ブロックによる血腫形成の危険がある。出血・凝固時間が延長している場合には神経ブロックは禁忌となる。
,臨床と薬物治療(1997),16,10,14


【6.4.1】
 神経ブロックによっては血圧低下(硬膜外ブロック、腹腔神経叢ブロック)、心拍数変動、筋力低下(硬膜外ブロック、腰神経根ブロック)を来すものがある。高齢者や合併症(とくに虚血性心疾患)のある患者では注意が必要。
,臨床と薬物治療(1997),16,10,14


#2
【6.4.1】
(頭痛に対する神経ブロック療法)
 悪性腫瘍の頭頸部への転移による頭痛の場合は疼痛部位をよく確認して支配領域の知覚神経ブロックを施行することがほとんどであり、患者のQOLを考慮したうえで神経破壊薬によるブロックも積極的に施行する。
,今月の治療(2003),11,6,93

 
 

【6.4.2】「放射線療法」


#2
【6.4.2】
(癌性疼痛における放射線治療の対象)
 緩和的放射線治療の目的は腫瘍のmass effectによる疼痛などの諸症状の改善にあり、病変部位が特定できれば治療は可能といえる。とくに骨転移、骨盤内再発、脊髄圧迫、上大静脈症候群、気道狭窄、脳転移などが良い適応である。しかし、緩和的治療は症状の改善や予防という明確な目的をもって行うべきであり、目的がはっきりしない漫然とした治療はむしろ全身状態を悪化させ、QOLの低下を招く可能性がある。

,ペインクリニシャンが関わる緩和医療(2002),,,100

 
【6.4.2】
 骨転移を直接または間接の原因とする痛み、または神経圧迫による痛みには放射線治療を考慮するとよい。放射線治療による骨転移痛の軽減や消失は90%以上の患者で、再石灰化は80%で認められる。ただし、一般に予測生存期間が短い場合(2週間以内)には、放射線治療の実施が適切でないことが多い。
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,30


【6.4.2】
 骨転移の疼痛の特徴である体動などによって急激な一過性の増悪を示す突発痛の抑制を鎮痛薬で行うのは大変困難である。放射線治療はこの突発痛の軽減にも有用である。
 一般的に放射線治療による除痛効果は、照射開始4〜8週後に最大になると報告されている。脊椎の骨転移に対しては除痛効果が四肢骨に比べて得られにくいという報告がある。これは脊椎が荷重部位であると同時に神経症状を伴うことが多いためと考えられる。

,ターミナルケア(1999),9,2,149


【6.4.2】
 骨転移痛に対する放射線療法は90%の患者に痛みの軽減、消失がみられる。奏功率は線量によってあまり変わらない。20Gy/1W、30Gy/2W、50Gy/5Wなど、いずれも有効である。余命が長そうなときはゆっくり、状態の悪いときには早くすむ方法で治療するとよい。病的骨折が起こりそうなときは、固定をしてから照射する。広範囲な転移に、半身照射を勧める人もいる。乳癌、前立腺癌などではホルモン療法が有効なことがあるので、広範な転移ではその使用をまず検討する。脊髄損傷の危険がある部位では、1回2Gyなら50Gyを越さないこと。1回3Gyなら40Gy程度にとどめること。
,ターミナルケア医学(1989),,,104


【6.4.2】
 骨転移痛に対し放射線療法は非常に効果的な治療手段で、全体では、反応率が70〜80%におよぶ。骨転移は、その疼痛症状よりゆっくり縮小する傾向があり、疼痛は1回照射後24時間以内に消失しうる。すなわち、骨転移痛の緩和と骨の腫瘍縮小には相関が見られない。一方、神経や軟部組織の腫瘍浸潤による疼痛も放射線療法により治療されるが、高い線量を必要とする場合が多く、疼痛緩和と腫瘍縮小が相関する傾向がある。
,MGHペインマネジメントの手引き(1997),,,354

#1
【6.4.2】
 (骨転移痛に対する放射線治療成績)
 なんらかの疼痛寛解は80〜90%に、また疼痛の完全消失も30〜70%に得られている。疼痛の寛解期間は12〜25ヵ月であり、照射部位の骨転移の増悪は約30%前後にみられる。疼痛寛解率は原発巣や組織型および骨転移の部位に関係しないと考えられている。
 骨転移の予後は原発巣や他部位転移の有無等により異なるが、生存期間の中央値で3〜12カ月である。乳癌の骨転移は5年生存率17%との報告もあり、症例によっては対症的治療には終わらず、骨転移といえども根治的治療の1つとして放射線治療が有用である可能性がある。

,緩和ケアテキスト(2002),,,74

 
【6.4.2】
 (骨転移に対する放射線治療)
 一般に疼痛寛解は通常分割法で30Gy/3週の放射線治療で得られる。米国のRTOGの報告によると、照射法による疼痛寛解率に差はなかったが、15〜20Gy/1週の照射法が疼痛寛解までの期間が短く、少量短期照射法がより効果的であると述べている。
 一方、疼痛寛解率は総線量によって異なるという報告も認められ、Arcangeliらは40Gy以上の照射例に完全寛解率が高く寛解期間も長かったと報告し、他臓器転移がなく骨転移も軽度な症例にはより根治的な照射が望ましいと述べている。さらにRTOGの報告でも多分割大量照射法の方が寛解期間の分析からは有用であると分析している。したがって予後が短く早期の疼痛寛解を目的とした場合は、1回線量を増やした短期照射法が有用であり、予後が1年以上であり疼痛寛解期間が長期にわたることが期待される場合は40〜50Gyの多分割照射が望ましい。

,緩和医療学(1997),,,155

#1
【6.4.2】
 (癌骨転移痛に対する放射線照射療法)
(1)1回分割線量2Gy、週5回照射の標準的照射法では、除痛効果の現れる最小線量は20Gyである。すなわち、この線量に達するには10回の照射、週5回照射法では2週を必要とすることになる。
(2)これに対し、1回分割線量を2Gyより大きくした(3〜5Gy)非標準的照射法では、10Gyで半数以上の症例に除痛効果がみられ、前記標準的照射法と比較したとき、総線量で10Gy、照射期間で1週間の差があることがわかった。
(3)痛みがほぼ完全に消失する線量をみると、標準的照射法で40〜50 Gy、非標準的照射法で30〜40Gyであり、治療期間は前者で4〜5週、後者で2〜3週となった。したがって総線量で10Gy、治療期間で1〜3週の差があることがわかった。
重篤な副作用が出ない1回大線量を、可能なかぎり短期間に照射することにより、すばやく除痛が得られる可能性が示唆された。
,がん看護(1998),3,4,303

#2
【6.4.2】
(骨転移の緩和的放射線療法)
 骨転移に対する放射線治療の目的としては@疼痛緩和、A骨折対策、B神経症状対策があり、このうち疼痛の軽減を目的とすることが最も多い。放射線治療の除痛機序はまだよくわかっていないが、有痛性転移に対しては80〜90%の疼痛緩和率が得られ、そのうちの50%に疼痛の完全消失を認めるとされる。外照射が選択されることが最も多いが、放射線治療の至適スケジュールはいまだ確定していない。 Short Term Palliation としては30Gy/10回分割が選択されることが多いが、ヨーロッパを中心として1回照射の有用性が臨床試験で検討され、8Gy/1回照射における鎮痛効果が明らがとされている。長期生存が考えられる症例ではRadical Palliationとして50Gy/25回分割による治療も行われる。
【緩和的放射線治療の目的と対象】
治療対象 治療目的 対象(例) 必要な対応 必要なケア
骨転移 @疼痛・コントロール
A骨折
B神経症状(麻痺)
薬剤による疼痛緩和が困難な場合
荷重骨・溶骨性転移
脊髄圧迫
薬剤による疼痛対策
骨折.予防(装具など)
荷重軽減(歩行器・杖など)
危険防止・転倒対策
荷重軽減のためのアドバイス
症状に合わせた介助の検討
脳転移 @神経症状
A脳圧亢進
麻痺・歩行困難・感覚障害・複視・視野欠損・失調など
頭痛・吐気・複視・意識障害など
痙攣対策
脳圧亢進対策
(ステロイト・浸透圧利尿薬)
危険防止・転倒対策
症状に合わせた介助の検討
気道狭窄 咳嗽
呼吸困難
肺炎
気管
気管支
鎮咳剤・去痰剤
酸素
肺炎対策

血管狭窄 SVC症候群など 上大静脈 酸素
浮腫対策

疼痛 腫瘍増大
神経浸潤

薬剤による疼痛対策
通過障害 腫瘍増大・浸潤 食道の通過障害
尿路の通過障害
腸管の通過障害
食事の工夫・経管栄養
尿路の確保
ドレナージ

出血 腫瘍増大・浸潤 頭頚部の病巣よりの出血
食道・消化管よりの出血
気道よりの出血
尿路・膀胱よりの出血
子宮よりの出血
薬剤による出血対策(アドナ・トランサミンなど)
圧迫止血

,がん患者と対症療法(2003),14,1,50


【6.4.2】
 有痛性骨転移の放射線治療を行うと半数以上の患者が1〜2週以内に疼痛の軽減を認め、4〜8週後までは週を追うごとに緩和効果が進む。半身照射では24〜48時間で効果が出現し、早期に疼痛の軽減が得られる。鎮痛効果の持続期間は半年程度であるが、効果と予後は相関するというデータがある。1年以上生存した患者の半数以上が1年間は疼痛緩和が持続する。照射後に疼痛緩和された部位に再度疼痛が再燃した場合には、再照射に反応することが多い。
,ターミナルケア6月増刊号(1999),9,,16

 
【6.4.2】
 放射線治療等により癌の痛みがなくなった場合、続けてモルヒネを服用するとそれまでなかった眠気が出現するので、減量の目安となる。
,癌疼痛治療におけるモルヒネの使い方(1991),,266

#2
【6.4.2】
(骨転移の緩和的放射線療法と副作用対策)
 副作用としては、倦怠感や食欲低下、嘔気などといった放射線宿酔症状が四肢を除き治療範囲が広い場合などで出現しうる。照射部位に応じて、照射野に一致した皮膚炎または脱毛、咽頭痛、食道炎などの粘膜の症状、および骨髄抑制が生ずる(以下の表参照)。
 治療開始前にあらかじめ、照射部位に応じて生じうる副作用の内容と、その対処方法について本人および看護やケアにあたる周囲の人々に知識をもっていただくことが重要である。放射線治療に関する副作用の出現時期としては、放射線宿酔は治療開始後の比較的早い時期に出現するが、その程度には個人差が大きい。皮膚炎や粘膜炎などは治療開始後2週間程度を経て徐々に現れてくる。関与する因子として、化学療法・糖尿病の有無や、喫煙や飲酒などの嗜好が考えられる。
【緩和的放射線治療の副作用とその対策−@全ての部位に共通した副作用とその対策】
副作用 症状 対策 必要なケア 備考
皮膚炎 Grade 1 :
 淡い紅斑または乾性落屑
Grade2 :
 中等度または鮮明な紅斑、
 または斑状の湿性落屑、
 中等度の浮腫
Grade 3 :
 直径≧1.5 cmで間擦部に
 限局しない融合性の湿性
 落屑、圧痕浮腫
Grade 4 :
 真皮全層の皮膚壊死また
 は潰瘍、外傷や擦傷によ
 らず自然に生じた出血
照射部位の説明
(皮膚マークの位置
が照射部位とは
限らない)
軟膏処置
ステロイドの適切な
使用
皮膚の保護と刺激防止
清潔の確保
クーリング
間擦部の保護
Radiation recall
reaction
照射想起反応
(化学療法後、以前放射
線を照射した部位に、
追加照射がなくても
生じる)
粘膜炎 Grade 1 :
 粘膜の紅斑
Grade 2 :
 斑状の偽膜性反応
 (一般に直径≦1.5cmで
 融合しない斑状病変)
Grade 3 :
 融合した偽膜性反応
 (一般に直径>1.5cmで
 融合する斑状病変)
Grade 4 :
 壊死または深い潰瘍、小
 さい外傷または擦傷に
 よらない出血
照射部位の説明
含嗽
粘膜保護剤
疼痛コントロール
含嗽指導
清潔の確保
刺激を避ける工夫
食事の工夫
排泄の工夫

血液への影響 白血球減少
血小板減少
貧血
適切な間隔での
血液検査
感染対策
出血対策
放射線治療のみでは、
高度な減少となること
は少ない
放射線宿酔 倦怠感
食欲低下
嘔気
静脈内輸液
経管栄養
経静脈栄養
適度な安静と気分転換
摂取しやすい食事の工夫
治療終了後長期に
持続することは
少ない

【緩和的放射線治療の副作用とその対策−A頭部および頭頸部に共通した副作用とその対策】
副作用 症状 対策 必要なケア 備考
脱毛
照射部位の説明 清潔の確保
頭皮の保護
刺激の少ない洗髪は可能
外耳炎 紅斑または乾性落屑
湿性落屑
耳漏や乳様突起炎の合併
照射部位の説明
ステロイドの適切
な使用
刺激を避けるように指導
清潔の確保
頻回の耳掻きは避ける
中耳炎 聴力低下を伴わない中耳炎,
滲出性中耳炎
感染の合併,自覚的聴力低下
耳漏や乳様突起炎の合併
感染対策
耳鼻料受診
症状の早期発見 放射線治療のみでは,
高度な症状を生ずること
は少ない
結膜炎
ステロイドの適切
な使用
(点眼・軟膏)
刺激を避けるように指導
眼脂対策
清潔の確保

口内炎 Grade 1 :
 疼痛がない潰瘍,紅斑または
 病変を特定できない軽度
 の疼痛
Grade 2 :
 疼痛がある紅斑、浮腫、潰瘍、
 摂食・嚥下可能
Grade 3 :
 疼痛がある紅斑、浮腫、潰瘍、
 静脈内輸液を要する
Grade 4 :
 重症の潰瘍、経管栄養、経静
 脈栄養または予防的挿管を
 要する
照射部位の説明
含嗽
粘膜保護剤
疼痛コントロール
含嗽指導
清潔の確保
刺激を避ける工夫
食事の工夫
放射線治療のみでは,
高度な症状を生ずること
は少ない
口内乾燥 唾液の減少
味覚の変化
含嗽 含嗽指導
口内の清潔の確保
う歯に注意する

【緩和的放射線治療の副作用とその対策−B胸部に共通した副作用とその対策】
副作用 症状 対策 必要なケア 備考
食道炎 Grade 1 :
 通常の食事が摂れる軽い嚥下困
 難
Grade 2 :
 粥食や軟らかい食事または流動
 食を要する嚥下困難
Grade 3 :
 経管栄養や静脈内輸液または
 高カロリー輸液を要する嚥下困難
Grade 4 :
 完全閉塞(唾が飲み込めない)、
 小損傷や穿孔によらない
 出血性潰瘍
照射部位の説明
咀嚼の重要性の説明
粘膜保護剤
疼痛コントロール
経管栄養
静脈内輸液
高カロリー輸液
粥食や軟らかい食事
咀嚼の重要性の説明
放射線治療のみ
では、高度な症状を
生ずることは少ない
肺の
炎症
Grade 1 :
 症状がないまたは軽度の症状あ
 り(乾性咳)、軽度のX線異常陰影
Grade 2 :
 中等度の症状(重症の咳)のある
 肺線維症または肺臓炎、
 軽度の発熱、斑状のX線異常陰影
Grade 3 :
 重度の症状のある肺線維症また
 は肺臓炎、濃いX線異常陰影
Grade 4 :
 重症の呼吸不全/持続的酸素
 吸入/補助換気
適切なX線検査
ステロイドの適切な
使用
呼吸状態や発熱の確認 照射容積および
線量によりリスクが
異なる
腋窩の
皮膚炎
上腕骨・肋骨や腋窩リンパ節の
照射時
照射部位の説明
 (皮膚マークの位置
が照射部位とは限らない)
軟膏処置
ステロイドの適切な
使用
皮膚の保護と刺激防止
清潔の確保
クーリング
間擦部の保護


【緩和的放射線治療の副作用とその対策−C腹部および骨盤部に共通した副作用とその対策】
副作用 症状 対策 必要なケア 備考
下痢 Grade 1 :
  冶療前に比し<4回/日の排便回数
 増加
Grade 2 :
 治療前に比し4〜6回/日の排便回数
 増加または夜間排便
Grade 3 :
 治療前に比し≧7回/日の排便回数
 増加または失禁または脱水に対する
 静脈内輸液を要する
Grade 4:
 集中治療を要する病態または循環
 動態の虚脱
適切な止痢剤の使用
補液
肛門の保護
清潔の確保

膀胱炎 頻尿
排尿痛、残尿感
血尿
照射部位の説明
疼痛コントロール
外陰の清潔の確保
刺激を避ける工夫
排泄の工夫
長期に導尿中の場
合は,粘膜の炎症に
特に注意する
直腸炎 Grade 1 :
 時折の血液付着や直腸不快感を伴
 う排便回数の増加(痔を含む):
 薬物治療を要さない
Grade 2 :
 出血,粘液排泄,直腸不快感を伴
 う排便回数の増加: 
 薬物治療を要する、肛門裂創
Grade 3 :
 静脈内輸液を要する排便回数の増加
 /下痢、輸血を要する直腸出血、
 パッドを要する持続性粘液排泄
Grade 4:
 外科的処置を要する穿孔、出血、
 壊死(例、人工肛門造設)
照射部位の説明
軟膏
疼痛コントロール
肛門の清潔の確保
刺激を避ける工夫
排便コントロール
排泄の工夫
肛門の症状にも
注意が必要
,がん患者と対症療法(2003),14,1,51

#1
【6.4.2】
 脳転移に対する放射線治療は頭痛、嘔気、嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状や神経症状の改善に有用である。
,Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000),,,118

#1
【6.4.2】
 (放射線治療の副作用、欠点)
 放射線治療による除痛効果は比較的良好であるが、照射によっては急性期障害や晩発障害などの有害事象も発生する場合がある。急性期障害は照射期間中が主であり、可逆性の障害である。しかし、患者にとってはこの障害が身体的苦痛になってしまうことも多い。放射線宿酔に対しては、メトクロプラミド、ドンペリドン、ステロイドなどが有効である。 5-HT3受容体拮抗型制吐剤も有効である。通常、急性期障害は照射終了後2〜4週で回復することが多いので、この旨を患者によく理解してもらう必要がある。晩発障害は照射後数カ月以降に出現してくるもので不可逆的障害が多い。一度出現すると、難治性であり、障害で生命を奪われることも稀にある。したがって、長期間の予後が期待できる場合は、線量分割には注意が必要である。
,がん患者の訴える痛みの治療(2001),,,110

#1
【6.4.2】
 ゾフランカイトリル腹部への放射線照射に続く嘔吐には効果があることが証明されているが、セレネースナウゼリンなどの治療で効果を上げられなかった嘔気、嘔吐に対しては、さほどの効果がないことは分かっている。
,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,20

 
 
 
 
 
 

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