#2
【5.1.1】
オピオイドローテーションは、オピオイドの種類の多い欧米諸国ではじまった概念で、あるオピオイドで副作用が強く出たために痛みに応じた増量ができなくなったときなど、1つのオピオイドをより好ましい反応を得るために他のオピオイドに置換することとして定義される。欧米では必ずしもローテーションとは呼ばず、changing opioids、 switching opioids、やopioid substitutionという呼び方をする場合もあり、統一されていない。
現在、本邦には徐放性の強オピオイドに硫酸モルヒネ徐放剤、経皮吸収型フェンタニル貼付剤、オキシコドン徐放剤の3種類があり、これらのオピオイドを変更することを「オピオイドローテーション」として一般的な呼び名になっている。
,ペインクリニシャンのためのオピオイドの基礎と臨床(2004),,,194
#1
【5.1.1】
オピオイドローテーションの適応には、疼痛コントロールが不良であり、(1)オピオイドの毒性による強い副作用がある、(2)急速な耐性の出現がみられる、(3)難治な疼痛がある、などが挙げられる。
オピオイドローテーションの必要は40%前後の患者に生じ、その効果は約70%で得られるとされ、オピオイドローテーションを行った理由の内訳は、認知障害39%、幻覚症24%、疼痛コントロール不良16%、ミオクローヌス11%、嘔気9%との報告がある。
,ターミナルケア(2003),13,1,7
#1
【5.1.1】
(オピオイドローテーションの概念)
わが国では癌疼痛治療に使用できる強オピオイドがモルヒネのみであるという時期が長く、モルヒネの効果が少ないと思われる疼痛には、NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)の併用から始まり、抗痙攣薬、抗鬱薬などの鎮痛補助薬をコルチコステロイドも併用して使う、多剤併用の傾向がある。鎮痛補助薬の使用の仕方は、施設間格差がある。鎮痛補助薬が適切に使われれば、疼痛がコントロールされる前に、オピオイドの副作用のみが強く前面に出ることも少ない可能性が考えられる。強オピオイドの選択肢が少ないわが国では、選択肢の多い国と同じ概念からなる「オピオイドローテーション」が成り立つとはいえない。
今後、わが国で使用可能な強オピオイドとしては、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルが挙げられる。オピオイドの投与を開始する際、オキシコドンで開始し、注射剤が必要な時にモルヒネに変更する、腎不全患者でモルヒネによるせん妄、呼吸抑制が出たらフェンタニルに変更する、あるいは経口摂取が困難な患者にフェンタニルパッチを使用するといった選択肢は考えられる。しかし、メサドンのような「切り札」となるオピオイドがない現状では、いずれのオピオイドを使用するにしても、複数の鎮痛補助薬と併用する多剤併用の形を取らざるをえない。強オピオイドの副作用を避け、よりよい鎮痛を得るという「オピオイドローテーション」の基本的な考え方は同じであるが、多数の強オピオイドの選択肢をもつ欧米の「オピオイドローテーション」とは異なったものにならざるをえないであろう。
今後、オピオイドローテーションという言葉が、わが国でも多用されると思うが、現在欧米で提唱されている「オピオイドローテーション」とはその内容においてかなり異なることを念頭において使う必要があると考える。
,ターミナルケア(2003),13,1,9
#2
【5.1.1】
欧米では、メサドンをはじめ複数のオピオイドを患者の病状、オピオイドの反応性、副作用の発現により使い分けており、オピオイドローテーションとよばれている。わが国においては、まだ使用できるオピオイドにも限界があり、欧米ほどの選択肢はないが、使用可能な薬剤でオピオイドローテーションを行う必要がある。
ただし、ここで強調したいのは「基本であるモルヒネを使いこなすことなく、安易に他剤を使用しない」ことである。モルヒネの標準的な副作用対策を施行する前に他剤に変更したり、至適濃度を見つける前にモルヒネを無効としたりしてしまわないよう、注意してほしい。
筆者は、オピオイドはモルヒネを中心とし、副作用が出現し軽減できない場合、または腸閉塞、腎機能障害など副作用が予想される場合、フェンタニルを選択している。また、モルヒネやフェンタニルでも副作用が回避できない場合は、エプタゾシンを使用している。
,薬の知識(2003),54,6,7
#2
【5.1.1】
便秘や嘔気などの鎮痛作用以外の薬理作用の予防策を十分に行わないまま他のオピオイド鎮痛薬に切り替えることが、必ずしも解決につながるわけでないことも知っておく。
,がん患者と対症療法(2002),13,2,68
#2
【5.1.1】
専門家が示すところでは、モルヒネを経口投与したとき副作用対策を適切に行うかぎり、他のオピオイドに切り替えざるをえないことは数%にすぎないそうです。副作用対策が不十分な状態で他のオピオイドに切り替えることを優先しても、望ましい成果が得られるとは限らないようです。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,70
#2
【5.1.1】
(オピオイドローテーションを検討するタイミング)
オピオイドローテーションは、可能なかぎり副作用対策を行い、それでも改善しない場合に検討すべきである。副作用対策に使用される薬剤にも程度があるため、それを理解することも重要である。
副作用発現の時期としてはオピオイド投与初期、オピオイド投与後の安定期である。安定期のオピオイドの副作用は、全身状態の変化、痛みの変化などによって起こると考えられる。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,37
【5.1.2】
オピオイドの副作用のため、オピオイドの変更をする場合、相互耐性の欠如を計算に入れ、新しいオピオイドは20〜30%減量する。これはオピオイド間の相互耐性が完全ではないからである。たとえばある患者があるオピオイドで、眠気に対する耐性を獲得しても、相当する量の別のオピオイドに変更するとその患者は再び眠気を経験する。
,エドモントン緩和ケアマニュアル(1999),,,26
#2
【5.1.2】
(大量のオピオイドをローテーションする場合)
大量のオピオイドをローテーションする場合、一度に全部をローテーションすると思わぬ副反応が出現する可能性もあるため、数回に分けてローテーションを行う。段階的に行うことで換算比の微調整もしやすい。
#2
【5.1.2】
(モルヒネ大量投与時の切り替え法)
・強オピオイド鎮痛薬の鎮痛効力比は概数値であり、すべての患者に適用できるとは限らない。そのうえ、これらの鎮痛効力比は通常の投与量にのみ適用されるべきものである。しばしば用いられている量である経口モルヒネ1日600 mg までの量に適用されるもので、それ以上の多量に適用できることは少ない。
・鎮痛効力比があてはまらないことがあるのは、チョークとチーズを対比できないのと同じような事実による。言い換えれば、各オピオイド鎮痛薬がすべての面でモルヒネと同じ性質の薬ではなく、しばしば異なった特性を持っていることによる。
・モルヒネの1日投与量が2gを越える大量になると、増量するにしたがい鎮痛効力比があてはまらなくなる。その理由の1つはモルヒネの主な中間代謝産物であるモルヒネ−3-グルクロネートの体内蓄積が、モルヒネの鎮痛効果を減少させるためでる。したがって、モルヒネの大量投与時に、モルヒネを他の強オピオイド鎮痛薬に切り替えるには、鎮痛効力比で得られた量の1/2ないし1/4の量とするとよい。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,426
#2
【5.1.2】
【オピオイドローテーション時の等鎮痛用量換算表】
オキシコンチン錠 | 硫酸モルヒネ徐放剤 | フェルタニルパッチ |
20〜60mg/日 | 30〜90mg/日 | 25mcg/時(2.5mgパッチ) |
60〜100mg/日 | 90〜150mg/日 | 50mcg/時(5.0mgパッチ) |
100〜140mg/日 | 150〜210mg/日 | 75mcg/時(7.5mgパッチ) |
等鎮痛に必要な用量比(モルヒネを1としたとき) |
2/3 | 1 | 1/100 |
,緩和医療学(2005),7,1,26
#2
【5.1.3】
(嘔気・嘔吐に対するオピオイドローテーション)
嘔気・嘔吐はモルヒネの投与初期において、オピオイドの偏見を増悪させる最も大きな要因である。吐き気止めを使用したが嘔気が治まらないので何とかしてもらいたい、という依頼が多いが、その中にメトクロプラミド、ドンペリドンなど吐き気止めの作用としては弱いものしか使用していない場合がある。プロクロルペラジン(30mg/分3)やハロペリドール(1.5mg/分2)などの向精神楽を時間通りに十分に使用し、それでも調整できない場合がオピオイドローテーションを考える時期としている。
安定期に嘔気が出現する場合には、患者の全身状態の変化によるものであることが多い。もちろん消化管の狭窄、閉塞ではないことを可能なかぎり確認することが必要ある。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,37
#2
【5.1.3】
(便秘に対するオピオイドローテーション)
モルヒネは通常、腸管の運動抑制などにより便秘を起こす。これは末梢モルヒネ受容体に対する直接的な作用であり、経口投与においては特に重症となる。便秘は耐性がつかないため、投与開始から末期に至るまでマグネシウム製剤による便の軟化、センナなどの刺激性下剤などにより薬剤を組み合わせて量を調節していく方が効率が良い。
増量していても反応がみられず、腹部膨満感が強くなる場合、消化管運動への影響を考えてオピオイドローテーションを行うことが多い。オキシコンチンは便秘に関してはモルヒネとほぼ同等と考えられているが、フェンタニル投与に変更することにより、重症な便秘は改善することが多い。
消化管閉塞をチェックすることが重要である。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,37
#2
【5.1.3】
(眠気に対するオピオイドローテーション)
眠気はモルヒネの投与初期に多くみられる副作用である。通常は経過をみるだけで数日のうちになくなってくることが多い。眠気の減少が少ない場合には、メチルフェニデートを20mg/分2(朝、昼)で開始することでほとんどの眠気が消失するため、眠気でオピオイドローテーションを行うことは少ない。
しかし、安定期に突然悪化してくる場合には全身状態の変化であることが多く、オピオイドローテーションを行う適応となる。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,37
#2
【5.1.3】
(痒みに対するオピオイドローテーション)
モルヒネによる痒みも投与初期にときどきみられる副作用である。抗ヒスタミン薬の投与がまず行われるが、眠気が強くなる程度の量を投与する必要があるとも言われている。鎮痛効果を拮抗しない程度の低用量のナロキソンの投与が有効であるという報告がある。
抗ヒスタミン薬が効かない痒みを有効にとる方法はないため、痒みであっても重篤な場合にはオピオイドローテーションを検討すべきである。
高ビリルビン血症、腎不全によるものは除外すべきである。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,37
#2
【5.1.3】
(排尿障害に対するオピオイドローテーション)
モルヒネによる排尿障害もときどき出現する。多くはα−ブロッカーであるハルナールなどで対応することが可能である。それでも改善しない場合にはオピオイドローテーションの適応を考える。もちろん癌による物理的な圧迫によるものは除外すべきである。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,38
#2
【5.1.3】
(せん妄に対するオピオイドローテーション)
モルヒネ単独で起こることは少なく、電解質異常など改善可能なことは改善すべきである。ハロペリドールによる対応も必要である。モルヒネの開始時にも、モルヒネを投与後しばらくしてからも起こる。
末期のせん妄を除き開始時のものはオピオイドローテーションを行うと改善することが多い。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,38
#2
【5.1.3】
(ミオクローヌスに対するオピオイドローテーション)
ミオクローヌスはモルヒネ投与量が大量になると出現することが多い。クロナゼパムなどが投与される。難治性のものに対してはオピオイドローテーションが行われる。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,38
#2
【5.1.3】
(Paradoxical painに対するオピオイドローテーション)
Paradoxical painは日本ではあまり認識されていないが、モルヒネ投与量が大量になってくると逆に痛みを起こすものである。くも膜下投与で多いが全身投与でも起こるとされている。欧米ではこれによるオピオイドローテーションも行われている。代謝産物のM3Gが原因と考えられている。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,38
#2
【5.1.3】
(食欲不振、全身倦怠感、ふらつきに対するオピオイドローテーション)
モルヒネの副作用と考えてしまうことが多い症状である。多くはモルヒネ以外の原因を検索する必要がある症状である。患者はがんによる苦痛症状がでているときでも、モルヒネを服用している場合、モルヒネのせいと考えてしまう。これもモルヒネに対する偏見の1つであるが、オピオイドローテーションを検討する以前に症状がモルヒネによるものであるかどうかを確認する必要がある。モルヒネ以外のものに変更することが目的となることは避けるべきである。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,38
#2
【5.1.3】
(その他の副作用に対するオピオイドローテーション)
痛みの性質が変化(モルヒネに対する反応性の低下)した場合、剤型の変更が有利に働く場合、薬物の相互作用(代謝酵素の阻害)を避けたい場合、モルヒネの偏見を避けたい場合、オピオイドの服薬コンプライアンスを高めたい場合(フェンタニルパッチなどへ)などもあるが、最後の2者は本来、オピオイドローテーションで解決するよりも患者教育によって解決すべき問題であろう。オピオイドローテーションには絶対的な適応、相対的な適応がある。相対的な適応によって患者のQOLの向上を考えローテーションを行うことは仕方がないが、一度ローテーションを行った後には、日本では次に変更する選択肢がない場合が多いことも認識すべきである。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,38
#2
【5.1.4】
(オピオイドローテーションを考盧すべき患者の状態の変化)
モルヒネの投与が開始された後、副作用を調節し、安定したにもかかわらず新たに副作用が出現する場合がある。痛みが明らかに減少するような状況がある場合(神経ブロック後、放射線療法後、化学療法後、神経麻痺後)にはモルヒネの減量で対応するが、腎機能障害、肝機能障害、経口投与不能、消化管閉塞などの場合にはオピオイドローテーションを検討する。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,38
#2
【5.1.4】
(腎機能障害に対するオピオイドローテーション)
モルヒネの場合、活性代謝産物は腎から排泄され、腎機能障害時には眠気、だるさ、嘔気・嘔吐、せん妄などが出現しやすくなる。腎機能の悪化が予測される場合、悪化してきている場合で上記の症状が軽度でもみられる場合には、早急にオピオイドローテーションを行うべきであろう。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,38
#2
【5.1.4】
(肝機能障害に対するオピオイドローテーション)
モルヒネを使用している場合、肝機能障害はグルクロン酸抱合に関してはぎりぎりまで影響を与えないと考えられている。肝機能障害の検査データでも予防的にオピオイドローテーションする必要はないと考えている。しかし、モルヒネ以外のオピオイドは多くの場合、肝臓のチトクロームP450で代謝されるため、肝機能障害、もしくはそれらの酵素の阻害剤によって効果、副作用が影響を受ける可能性がある。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,39
#2
【5.1.4】
軽度〜中等度の肝機能障害患者のデータから、オキシコドンおよびノルオキシコドンの最高血漿中濃度は、健常被験者よりもそれぞれ50%および20%、AUCはそれぞれ95%および65%高いことが示されている。オキシモルフォンの最高血漿中濃度およびAUCは、30%および40%低い。こうした差は一部の薬物作用の増強を伴うが、増強されない作用もある。これらの肝機能障害患者では、消失半減期が2.3時間長い。したがって、通常用量の1/3〜1/2で治療を開始し、タイトレーションを慎重におこなう必要がある。肝機能障害に応じた用量調節の必要性は、モルヒネなどの経口bioavailabilityが低いオピオイド鎮痛薬よりオキシコンチン錠では少ないと考えられる。
肝機能障害患者に対する経皮吸収型フェンタニルに関してはエビデンスが整っておらず、使用を推奨できる段階ではない。
,緩和医療学(2005),7,1,6
#2
【5.1.4】
(経口投与不能に対するオピオイドローテーション)
頭頸部がんの患者の場合、病気の進行によって経口摂取が不能となる。また、放射線治療中においても経口投与ではモルヒネの投与が不能となる。この場合、オピオイドの投与経路の変更でほとんど対応可能であり、オピオイドローテーションを行う必要はないが、フェンタニルパッチで対応する場合も多い。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,39
#2
【5.1.4】
(消化管閉塞に対するオピオイドローテーション)
消化管のがんの場合は最終的に消化管閉塞となる割合の頻度が高い。経口オピオイドは中止せざるをえないが、これもフェンタニルパッチで対応可能であることもある。レスキュー投与が必要であるかどうか安定するまではフェンタニルの持続皮下注を使用し、レスキューもそれで行うことが可能である。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,39
【5.2】
フェンタネストはモルヒネと同等の鎮痛作用を持ち(鎮痛作用に有効限界はない)、モルヒネに比較すると便秘、吐き気、めまいなどの副作用が少ないといわれている。現在は、副作用が強くモルヒネでうまく除痛が得られない症例にしか使われていない。印象としてモルヒネより副作用は少ないが、鎮静が強いように思われる。臨床上はフェンタネストはモルヒネの65倍くらいの力価と考えられているので、アンプル数にしてモルヒネの1.5倍のフェンタネストを目安にしている。通常、モルヒネの持続皮下注は20mgで開始しているが、フェンタネストで開始する場合には300μg/日となる。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,71
#2
【5.2】
(フェンタニルとモルヒネの相違点)
フェンタニルによる癌性疼痛治療がモルヒネと最も異なる点は副作用が極めて少ないということにつきる。フェンタニルはμ1受容体に対して選択性の高い作動薬であり、そのためモルヒネのようなμ2受容体を介して生じる消化管運動の抑制作用(便秘など)を生じにくい。モルヒネによる便秘のコントロールには複数の下剤を組み合わせて継続的に使用する必要があり、内服薬の量が多くなってしまうことが問題であった。フェンタニルは便秘を生じにくいため、内服する下剤の量も抑制することができる。そのため、フェンタニルパッチは、便秘や吐き気などのモルヒネの副作用や、そのための薬剤の多さに問題を感じていた多くの医師に受け入れられ、きわめて急速に普及が進んでいる。
また、フェンタニルの代謝物であるノルフェンタニルなどには活性がないと考えられており、活性代謝物の濃度が高いモルヒネにくらべて眠気などの副作用が生じにくい。モルヒネ製剤からフェンタニルパッチヘの変更を受けた患者の多くが、「眠気がなくなった」「頭の中がスッキリした」と評価している。この差は腎機能が低下した症例ではさらに顕著になり、モルヒネ投与中の終末期患者ではしばしば傾眠が間題になりやすいのにくらべて、フェンタニルでは腎機能障害のある症例でも問題なく投与を継続することができることが大きな違いである。
,緩和医療学(2004),6,1,6
#2
【5.2】
(モルヒネとフェンタニルの相違点)
モルヒネはμ、κ、δそれぞれのオピオイド受容体に親和性をもっているが、フェンタニルはμ受容体選択性が高くκやδ受容体にはほとんど親和性を示さない。さらにμ受容体にはμ1とμ2のサブタイプがあり、モルヒネはこの両方に作用するのに対し、フェンタニルはμ1受容体にしか作用をもたないという研究がある。消化管運動を抑制するμ2受容体に作用が少ないことがフェンタニルで便秘になりにくい理由の一つではないかと推測されている。また、フェンタニルは脂溶性が高く脳血液関門を容易に通過するため中枢神経系に移行しやすい。
フェンタニルの脳内濃度は血漿中の10倍であると報告されている。代謝は主に肝臓で行われ、代謝産物のノルフェンタニルには薬理活性がない。そのため腎不全の患者にも問題なく使用可能である。
,モダンフィジシャン(2003),23,3,329
【5.2】
モルヒネで副作用がコントロール困難な場合にフェンタネストが有効である。ただし、モルヒネに比して若干鎮痛効果が弱く、またモルヒネ鎮痛以外の付加的な作用としての呼吸困難、腹満感などの治療効果はモルヒネに比して弱い印象がある。フェンタネストで一時的に副作用が回避できた場合、再びモルヒネに変更することもある。また、レペタンの副作用のコントロールが困難な場合に変更するとの報告もある。
,がんの症状マネジメント(1997),,,90
#1
【5.2】
フェンタニルはペチジン同様フェニルピペリジン系の合成麻薬である。主としてμアゴニストであり、鎮痛作用はモルヒネの50〜200倍の強さを持つとされる。薬理作用はモルヒネとほぼ同様だが、催眠効果は少なく、ヒスタミンの遊離作用もほとんどない。内分泌機能および代謝を亢進する作用もない。また心抑制がなく、血圧を低下させないため循環動態がきわめて安定しており、心臓外科手術における麻酔によく用いられる。麻酔量(50〜100μg/kg)のフェンタニルは著明な筋硬縮を起こすが、これは線条体におけるドパミン神経伝達に及ぼすオピオイドの効果の結果として起こるらしく、ナロキソンによって拮抗される。
フェンタニルの呼吸抑制作用は、モルヒネ同様呼吸数の減少が主でありCO2に対する感受性も低下するが、回復はペチジンより早い。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,69
#1
【5.2】
フェンタニルの鎮痛力価はモルヒネの100倍程度といわれているが、同程度の鎮痛が得られることを基準にモルヒネからフェンタニルヘの変更を行ったところ、筆者の臨床経験では50〜60倍(たとえば、モルヒネ120 mg/日の持続静注であれば、フェンタニル2.0〜2.4 mg/日の持続静注)で同等の鎮痛効果が得られた。
モルヒネ不耐症や副作用コントロール困難な場合にモルヒネから他のオピオイドヘの変更以外に手段がないことがある。とくに、腎機能が低下した症例ではモルヒネ代謝産物であるmorphine -6- glucuronide (M-6-G)が蓄積し、傾眠傾向などの副作用の頻度が著しく高くなる。フェンタニルは代謝物に活性がないと考えられており、その際にモルヒネの代替薬として有用なオピオイドである。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,84
#2
【5.2】
(フェンタニルの持続静注・持続皮下注)
フェンタニル注射液の持続皮下注入、持続静注における検討で、安全係数も含めてフェンタニルをはじめて投与する患者においては、モルヒネ10mgに対してフェンタニル150〜200μgを投与することが適切としている。
,緩和医療学(2002),4,2,6
【5.2】
(癌性疼痛に対するフェンタネストの持続静注)
フェンタネストは0.0125〜0.025mgを急速注入したのち、0.06〜0.12mg/日から開始。
モルヒネからの変更は、モルヒネ1A=フェンタネスト1Aで換算する。増量法は0.12-0.18-0.24-0.36-0.48-0.72-0.96mg/日である。疼痛時は0.0125mgを注入している。有効限界はないと考える。
,がんの症状マネジメント(1997),,,92
【5.2】
麻酔におけるフェンタニルの利点は強力な鎮痛作用と循環非抑制作用、短時間作用性である。他の麻薬との違いとして副作用に鉛管現象(躯幹の筋肉の緊張状態)をみることがある。迷走神経刺激による徐脈作用も特徴といえる。本剤は肝臓で代謝され、尿中に排泄される。代謝物に薬理学的活性はない。分子量は小さく、脂溶性が大きいという特徴から貼付剤として利用可能である。
,ターミナルケア(1998),8,2,125
【5.2】
モルヒネによって痛みの取れない患者でもフェンタニルに変更することによって痛みが軽減することがある。呼吸抑制は癌疼痛患者においてはモルヒネと同様に問題となることは少ない。便秘は経口モルヒネより軽度。他の副作用はモルヒネと比べて差がない。ただし、傾眠傾向はモルヒネより軽度。腎機能低下患者ではモルヒネ代謝物による傾眠の傾向が心配となるが、本剤はその心配が少なく有利である。
,ターミナルケア(1998),8,2,125
#1
【5.2】
モルヒネによる傾眠はフェンタニルへの変更によって著しい改善が見られることが多く、QOLの改善に貢献できる可能性が高い薬剤である。
フェンタニルの使用による副作用は、過去100例以上の臨床応用によっても、重篤な呼吸抑制が見られた症例はなかった。フェンタニルは麻酔導入時などに大量投与によって筋硬直や換気困難が生じることが知られているが、癌疼痛治療のためにフェンタニルの持続静注や持続皮下注を行った結果からは、これらの副作用も認められていない。
,オピオイドの基礎と臨床(2000),,,21
【5.2】
モルヒネやレペタンの副作用対策が困難な45例にフェンタネストの持続皮下注を行ったところ56%の症例で副作用の改善が得られ、鎮痛効果は有効率で65%であった。フェンタネストの副作用は少なく、特に、嘔気、嘔吐や混乱の出現はごくわずかであった。
,ターミナルケア(1995),7,1,46
#1
【5.2】
モルヒネと同様に、フェンタニルの副作用として、吐き気・嘔吐や便秘、眠気、呼吸抑制および混乱などが現れる可能性がある。一方、モルヒネと異なる副作用として、迷走神経剌激による徐脈が現れること、筋硬直がみられること、ヒスタミンの遊離が認められないことが挙げられる。
フェンタニルで下剤の使用量が明らかに少なかったこと、モルヒネ皮下注に比ベフェンタニル皮下注で便秘が明らかに少なかったことから、便秘の程度は弱いと考えられる。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,257
#1
【5.2】
(フェンタニルの副作用)
フェンタニルはμ2受容体への親和性が低いため、モルヒネに比べて便秘を生じにくい。したがって、モルヒネからフェンタニルヘの変更時に、緩下剤の調節を行わないと下痢を生じることが多い(モルヒネからの変更時に、動悸、発汗異常、激しい下痢などを伴う退薬現象を生じたとする報告もある)。したがって、モルヒネによる便秘が重症化し、食欲低下や嘔気・嘔吐、あるいは麻痺性イレウスなどを生じるような場合には、フェンタニルは効果的な代替薬の候補になる。
フェンタニルのおもな代謝物はノルフェンタニルであり、代謝物はほとんど薬理学的な活性を持たない。したがって、癌疼痛を伴う腎機能低下や透析患者において、フェンタニルの代謝物が蓄積しても、モルヒネの代謝物のような傾眠が問題になることはほとんどない。モルヒネからフェンタニルの持続皮下注への変更例では、57例中46例で眠気や傾眠の改善が認められた。モルヒネが原因と考えられたせん妄患者19例のうち、15例でもせん妄の改善を認めた。
,ターミナルケア(2003),13,1,11
#1
【5.2】
(フェンタニルの過量投与と治療)
フェンタニル過量投与時の治療に関しては、モルヒネ過量投与時の治療に準じる。
参照→【4.5】(モルヒネの過量投与)
#1
【5.2】
フェンタニルの鎮痛力価はモルヒネの100倍前後と考えているが、癌疼痛治療でモルヒネからフェンタニルへの変更を行った臨床調査結果からは50倍程度でモルヒネと同等のVASを維持することが可能であり、通常考えられている力価の半分である。
,オピオイドの基礎と臨床(2000),,,21
#1
【5.2】
急激な癌疼痛に対してはフェンタニルの口腔粘膜への投与も有用であり、フェンタニルパッチとの併用でより良好なペインコントロールが可能となる。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,85
#1
【5.2】
フェンタネスト注射液を希釈して経口できる。
開始量0.2mg4時間毎分6または分5(眠前2回分)。理論上は6〜8時間毎の投与でも良い。緩和ケア病棟以外では請求にあたっては症状(使用の理由)併記が必要。
,今月の治療(2000),8,3,76
#1
【5.3.1】
わが国では2002年3月から72時間有効の経皮吸収型製剤のフェンタニル貼付剤(デュロテップパッチ)が薬価収載され、がん性疼痛治療に使用可能となっている。
モルヒネと比較した場合、嘔気・嘔吐、便秘の発現が少ないことや主代謝物であるノルフェンタニルが活性を持たないため腎機能低下患者にも安全に使用できること,貼付剤であることなどから、使用される機会が増している。デュロテップパッチはわが国ではモルヒネからの切り換えでしかがん性疼痛の保険適応が認められていない。有効血中濃度に達するまでに12〜24時間程度を要するため、それまで使用していたモルヒネの効果が切れて痛みや退薬症状を生じさせないためにデュロテップパッチ使用開始時には、それまでのモルヒネの投与法に応じた特殊なモルヒネ投与を最初に行わなければならない。(参照→【モルヒネからデュロテップ切り換え時のモルヒネ併用方法】)
また半減期が17時間と長いため、投与中止後も長く効果が持続する。
安定した痛みには有効であるが即効性がないため、レスキューにはモルヒネ速放剤が必要となる。このため、切り換え初期におけるタイトレーションは必ずしも容易ではない。
,薬局(2005),56,2,13
#1
【5.3.1】
フェンタニルパッチの最大の特徴は、効果が72時間持続することである。作用発現は緩徐(1〜2時間を要する)で、最大効果発現までには17〜48時間を要し、24〜72時間で定常状態になる。フェンタニルパッチの吸収率は皮膚温や末梢血流の影響は受けにくいが、皮膚温40°C以上では吸収率が30%程度増加する。このため、入浴などの際には貼付部を温めないように注意する。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,85
#1
【5.3.1】
Payneらは、フェンタニルパッチの適応に関するガイドラインを発表している。フェンタニルを選択する基準としては、オピオイドが有効である痛み、突然起こる痛みが少ない患者が適応であるとしている。
癌の痛みには持続的な痛みと間欠的な痛み、そして予測がつかないときに突然、出現するbreakthrough painと言われる痛みがある。長時間作用性のオピオイドは安定した痛みには非常に有効であるが、概して効果発現時間は遅く、逆に短時間作用性の薬剤は効果時間が短い反面、服用後に即効性があり痛みの調整性としてはよい。長時間作用性の鎮痛薬は、鎮痛効果持続作用は強いが、痛みの調節性に関しては悪いと現状では考えてよい。
,緩和医療学(2002),4,2,108
#2
【5.3.1】
(適応)
モルヒネの切り替え薬として承認されているので、モルヒネの副作用が強い場合に適応となる。ただしここで大切なのは、あらかじめ投与されているモルヒネの副作用対策が十分に行われていることである。なぜならフェンタニルパッチの使用にあたってはレスキューとしてモルヒネを使いこなす必要があり、フェンタニル自体の副作用が発現する可能性もあるからである。さらに疼痛コントロールに迅速さが要求される状態では短時間作用型のモルヒネ製剤での用量調節が必要とされる。したがって、モルヒネの標準的な副作用対策を施行せずに安易にフェンタニルパッチを使用するべきではない。
明らかにモルヒネによると思われる場合だけでなく、がん末期や高カルシウム血症など病状に起因する精神症状に対してもフェンタニルパッチに変更し改善が得られる場合がある。また、オピオイドの一部のみをフェンタニルパッチに変更するだけで副作用が軽減する場合も経験している。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,49
#2
【5.3.1】
肝機能障害患者に対する経皮吸収型フェンタニルに関してはエビデンスが整っておらず、使用を推奨できる段階ではない。
,緩和医療学(2005),7,1,6
#2
【5.3.1】
まずモルヒネできちんとコントロールして、それが安定した患者さんには在宅などでフェンタニルを使用するのが重要ですが、モルヒネを使いたくないため、フェンタニルならよいだろうということで使用しているケースがあるのだと思います。モルヒネに対する偏見が先にあって、副作用が少ないという理由でフェンタニルに走ることには、本当に注意しなければいけないと思います。
,がん患者と対症療法(2003),14,1,76
#2
【5.3.1】
(フェンタニル・パッチの禁忌)
治療不十分な激痛を適切量へと緊急的に増量調整しながら治療する必要がある場合、フェンタニル・パッチは禁忌である。モルヒネが無効な痛みには、フェンタニルも無効である。迷いを感じたときには、フェンタニル・パッチを使用する前に専門医に意見を聞く。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,427
#1
【5.3.1】
神経障害性疼痛に対しては、これまでオピオイドの有効性は低いとされている。しかし、フェンタニルパッチの投与によって、悪性でない神経障害性疼痛に対して58%の改善がみられたとする報告もある。この点に関しては今後も検討していく必要がある。
,鎮痛・オピオイド研究最前線(2002),,,151
#2
【5.3.1】
(デュロテップとクラリスロマイシンの相互作用)
フェンタニルパッチを貼付中に気管支炎などの感染症を起こし、クラリスロマイシンを投与された場合、クラリスロマイシンがCYP3A4活性を阻害し、フェンタニルの血中濃度が高まる。特にがんの進行に伴う全身状態の低下がみられ、フェンタニルの投与量が多い場合は急激な血中フェンタニル濃度の上昇による眠気や呼吸抑制などの副作用の発現に留意することが大切である。
,緩和医療と薬物相互作用(2003),,,61
#1
【5.3.1】
フェンタニルは、脂溶性が高いので、脂肪の多い患者の腹部などは避ける。また、パッチはその貼付部に密着していないと薬剤放出が安定しないので、痩せた患者の肋骨部なども避け、通常は前胸部に貼るとよい。平均生体利用率は92%である。
パッチを剥がしたあとは緩徐にフェンタニルの血中濃度が低下し、その半減期は13〜25時間と比較的長い。
副作用には、嘔気・嘔吐、眠気・傾眠、便秘を認めるが、モルヒネに比べて軽度である。貼付部に皮膚のかぶれ、かゆみなどがみられることがある。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,85
#1
【5.3.1】
デュロテップパッチを貼るのに適した場所は胸、腹、上腕、太ももなど平らな面が好ましいとされている。血流を考えて、腰よりも上に貼ることを推奨している報告もある。体毛がある場所に貼る場合は体毛を処理する必要がある。その際に注意する点は、皮膚ぎりぎりに体毛をはさみなどで切ることであり、決してかみそりなどで毛をそってはいけない。また、貼付部位には傷のある場所、過敏になった場所(炎症部位など)を選択しないことが重要である。
,緩和医療学(2002),4,2,107
#1
【5.3.1】
経皮吸収型製剤の利点としては、(1)静脈内投与のように侵襲を伴わない、(2)一過性に高い血中濃度のピークを形成せず副作用の発現が少ない、(3)経口投与のような肝臓による初回通過効果の影響を受けない、(4)薬物の効果時間の持続性から投与回数を減らすことができる、等が挙げられる。
フェンタニルパッチの貼付によって過度の鎮静や呼吸抑制が起こり、薬物の投与の中止を目的にすぐにパッチをはがしたとしても12〜24時間(半減期17時間)は効果が持続することにも注意する必要がある。
,ペインクリニック(2002),23,12,1660
#2
【5.3.1】
・体温が上昇すると、フェンタニルの吸収率が上がる。発熱患者では毒性が現われ、眠気を主体とする副作用がみられることがある。パッチの直上に電気毛布や湯たんぽなどの熱源があると、同じ理由から吸収が促進する。このことを患者自身に説明して注意を促しておく必要がある。パッチを貼付したままシャワーを浴びることはできるが、浴槽にはつかるべきではない。
・パッチの貼り替えは72時間ごとに行う。新しいパッチは部位を変えて貼付する。貼付後の皮膚は3〜6日間は使用せずに休ませる。
・パッチ貼付部の皮下には、吸収されたフェンタニルが蓄積されている。パッチを剥がした後も、24時間ないしそれ以上の間、かなり高い血中濃度を維持する。これは、フェンタニルパッチを中止したときの唯一の注意事項である。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,427
#1
【5.3.1】
フェンタニルパッチからのフェンタニル吸収量は、体中または体外からの熱によって増加することが知られている。40℃で1/3量増加すると報告されている。熱の上昇時には投与量の調節、副作用のモニターが重要である。したがって、長時間の入浴、暖かいウォーターベッドでの睡眠、パッチの上への過熱などは吸収されるフェンタニルの吸収量を増加させるので避ける必要がある。
同様に、皮膚上の傷からの吸収も高まるため注意が必要である。
,緩和医療学(2002),4,2,109
#1
【5.3.1】
発熱している患者でのデュロテップパッチ過量投与の報告はないが、過鎮静や呼吸抑制などの副作用が出現する可能性があることを念頭に置く必要がある。
,ターミナルケア(2003),13,1,20
#1
【5.3.1】
フェンタニルパッチは3日に1回の貼り替えですみ、使用方法も簡便でかつ副作用も少ないことから、とくに在宅患者にとって非常に有用な疼痛緩和手段であると考えられる。
ただし欠点としてはレスキューをモルヒネでおこなわざるを得ないこと、微量の調節がむずかしいことがあげられる
,緩和医療学(2002),4,2,135
#1
【5.3.1】
もし、貼っているデュロテップパッチがはがれた場合には一度はがれると粘着力が低下するため、すべて剥がし新しいものを貼付しなおす必要がある。
周囲だけがめくれている場合には周囲を次回までテープで補強しておくのもよい。一度貼付するとその後に皮膚の炎症を残す場合があるため、貼付部位はそのたびごとに変更していく必要がある。
,緩和医療学(2002),4,2,107
#2
【5.3.1】
使用したパッチをはがすと皮膚に残る粘着層をきれいに除去するには、ストマの粘着剤を除去する粘着剥離剤〔リムーバーパッド、ビー・ブラウン社、標準価格52円〕が悪臭もなく(オレンジの香りがついている)効果的であることを当病棟の看護師が見出している(未発表データ)。
,緩和医療学(2004),6,1,32
#2
【5.3.1】
(デュロテップパッチの貼り替え忘れ防止策)
パッチ採用直後は定期貼り替えを忘れるアクシデントが数件あった。そこで病棟でたてた貼り忘れ防止策をまとめる。第一に使用開始前から患者本人と家族に3日ごとの貼り替えが必要であることを理解していただく。第二に貼付時、製品についている小さな紙製シールに貼付日時を書き入れパッチの表面に貼り、回診時などに貼付後の経過時間を確認する。と、ここまでは当然であり各施設も実施されていることと思う。さらに、第三としてナースステーションにパッチ使用患者の一覧表を作成し、4回分の貼り替え予定期日と予定用量を記入できるようにして、とくに看護チームのリーダーはその確認を日常業務の一つとした。第四にカルテの検温表(いわゆる「温度板」)のうちの3列を用いて、貼付予定日には「用量」・「予定時刻」を、貼付後には「実施者の署名」を記入するようにした。さらに貼り替え予定時刻が準夜帯や深夜帯の場合、貼り替えが忘れられることが多かったので、第五に当病棟では入院患者の場合、統一して午前10時(頃)に貼り替えることとした。
,緩和医療学(2004),6,1,31
#1
【5.3.1】
パッチに傷がついて、介護者または患者がパッチ内のゲルに触れた場合には、まず大量の水で流すことが大切である。その際、石鹸、アルコールなどを使用すると薬剤の吸収を高めてしまうため、使用すべきではない。
,緩和医療学(2002),4,2,109
#1
【5.3.1】
フェンタニルパッチは、麻薬扱いなので、使用後のパッチは麻薬の空アンプルと同様に、薬剤部で回収され、確認後に破棄される。また、破損して薬剤貯蔵層からフェンタニルが漏れ出した場合には、漏れた薬剤を拭き取ったものといっしょにして、パッチを薬剤部に返却する。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,85
#2
【5.3.1】
【主要各国のフェンタニルパッチの承認年月と適応症】
承認年月 | 国名 | 適応症 |
1990年 8月 | 米国 | 癌性を含む慢性疼痛 |
1991年12月 | カナダ | 癌性を含む慢性疼痛
|
1993年 3月 | 香港 | 癌性を含む慢性疼痛 |
1994年 3月 | 英国 | 癌性を含む慢性疼痛 |
1994年 8月 | 韓国 | 癌性を含む慢性疼痛 |
1994年10月 | インドネシア | 癌性を含む慢性疼痛 |
1994年12月 | ドイツ | 癌性を含む慢性疼痛 |
1995年 9月 | シンガポ‐ル | 癌性を含む慢性疼痛 |
1996年 6月 | タイ | 癌性を含む慢性疼痛 |
1996年 7月 | フィリピン | 癌性を含む慢性疼痛 |
1997年 2月 | 台湾 | 癌性を含む慢性疼痛 |
フランス | 癌性を含む慢性疼痛 |
1997年 7月 | マレーシア | 癌性を含む慢性疼痛 |
1997年10月 | オース卜ラリア | 癌性を含む慢性疼痛 |
1998年 5月 | ニュージーランド | 癌性を含む慢性疼痛 |
1999年 3月 | 中国 | 癌性を含む慢性疼痛 |
1999年11月 | インド | 癌性を含む慢性疼痛 |
2002年 3月 | 日本 | 癌性疼痛のみ |
日本以外の国では非癌性疼痛も含んだ「慢性疼痛」が適応疾患となっている
,緩和医療学(2004),6,1,34
#2
【5.3.2】
フェンタニルパッチはモルヒネ使用患者にのみ適応があり、モルヒネの使用量から換算してその開始量を決める。また、モルヒネを投与して軽減する痛みに対して使用すべきであり、モルヒネに反応しない痛みには選択すべきではない。したがって、現在モルヒネにより痛みがコントロールされている症例が適応になるが、モルヒネで疼痛コントロールに難渋している症例には勧められない。
,緩和医療学(2004),6,1,18
#1
【5.3.2】
(経口モルヒネからデュロテップパッチヘの切替え方法)
(1)朝に切替える(貼付後12時間は血中濃度が安定しないため呼吸抑制などの重篤な副作用が出現する可能性があるので念のため)。
(2)貼付後6時間までは今までと同じ方法でモルヒネ製剤を投与する。具体的には、
モルヒネ水・末・即効錠:朝のモルヒネ水・末・即効錠内服と同時に貼付開始。その4時間後に今までと同量のモルヒネ水を投与。
MSコンチン:朝のMSコンチンの内服と同時に貼付開始。
アンペック坐剤:朝のアンペック坐剤の挿肛と同時に貼付開始。
モルヒネ皮下注射or持続静脈注射:貼付開始後6時間までは持続投与を継続する。
※カディアン:カディアンだけは例外的で、通常のカディアン内服の12時間後に貼付開始する。
(3)必ず疼痛時臨時内服量(レスキュードーズ)を指示する。フェンタニルパッチのレスキューには今のところモルヒネを使用することになっているため、レスキュードーズには先行モルヒネ投与量の6分の1(注射の際は1時間量)のモルヒネを投与することとする。
(4)貼り替えは3日に1回。必ず貼付時に開始日時と交換日時をパッチに油性ペンで記載。
,緩和医療学(2002),4,2,139
#1
【5.3.2】
(モルヒネからデュロテップパッチへの変更)
(1)硫酸モルヒネ徐放錠からパッチヘの変更の注意点として、モルヒネ徐放錠60mg/日を朝9時30mg、夜9時30mgで、1日2回定期的に服用している場合には、フェンタニルパッチ2.5mgパッチを翌朝9時に貼付開始、それと同時にモルヒネ徐放錠30mgを併用しておく。もちろんモルヒネ水をレスキューとしておく。
(2)塩酸モルヒネ注射薬を60mg/日で持続投与されている患者では、フェンタニルパッチを5mgパッチを翌朝9時に貼付、持続点滴は貼付後6時間後まで持続投与しておく。
(3)硫酸モルヒネ徐放製剤60mg/日投与中の患者では、前日の夜9時に徐放製剤を投与し、翌朝9時に2.5mgパッチを貼付する。
(4)塩酸モルヒネ(水、錠、末)60mg/日で投与されている患者は、翌朝6時にパッチを貼付し、6時とその後の10時に塩酸モルヒネ(水、錠、末)を投与する。
(5)塩酸モルヒネ坐剤を60mg/日で1日3回投与している患者は、翌朝の6時にパッチを貼付、同時に塩酸モルヒネ坐剤を投与しておく。
,鎮痛・オピオイド研究最前線(2002),,,150
#2
【5.3.2】
(投与量)
フェンタニル・パッチの投与量は、経口モルヒネの1日量の総mg数を3で除した数値に最も近い〔μg/時間〕の数値のパッチを選ぶ。
(投与量選択の別法)
モルヒネとの鎮痛効力比100(ドイツ方式)で換算し、最も近い容量のパッチを選ぶ
[例えば、120mg(モルヒネ1日量)÷100=フェンタニル・パッチ1日量1.2 mg、 1.2mgX3日間=4.5 mg、したがって、5.Omg (50μg/時間)のパッチを選ぶ]。
(貼付部位)
上腕や体幹の乾燥した皮膚に貼付する。体毛の多い部位、放射線照射部位、炎症のある部位を避ける。体毛があれば、ハサミでのカットにとどめ、カミソリによる剃毛は避ける。パッチの付着補強にはマイクロポアテープを用いるとよい。
(他の強オピオイド鎮痛薬からの切り替え)
フェンタニルの血中濃度は通常12時間以内に最高値に達する。
したがって、他の強オピオイド鎮痛薬からの切り替えは次のように行う:
・4時間ごとの経口モルヒネから:パッチ貼付後も4時間ごとの定時服用を12時間後まで継続して服用する
・12時間作用の徐放性モルヒネ製剤(MSコンチン錠)から:パッチ貼付時に等力価の徐放性モルヒネ製剤1回分を服用する
・24時間作用の徐放性モルヒネ製剤(カディアン)から:最後の徐放性モルヒネを服用してから約12時間後にパッチを貼付する
・持続注入器使用:パッチ貼付後、持続注入器を12時間作動させる
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,427
#2
【5.3.2】
【モルヒネからデュロテップ切り換え時のモルヒネ併用方法】
硫酸モルヒネ徐放錠 (MSコンチン) | 貼付開始と同時に1回量を投与 |
塩酸モルヒネ坐剤 (アンペック坐剤) | 貼付開始と同時に1回量を投与 |
塩酸モルヒネ水・錠・末 (オプソ内服液) | 貼付開始と同時および4時間後に1回量を投与 |
塩酸モルヒネ注射 | 貼付開始6時間後まで継続して持続点滴 |
硫酸モルヒネ徐放顆粒 (カディアン) | 投与した12時間後に貼付を開始 |
,薬局(2005),56,2,14
#2
【5.3.2】
経口モルヒネ製剤からのローテーションでは必ず2.5mgパッチが必ず1枚存在するようにしている。以下の図のように、ローテーションするときに7.5mgパッチが適していると考えられた場合は、5mgパッチと2.5mgパッチを貼付する。予期せぬ過敏投与となった場合には2.5mgパッチを1枚剥がすことで5mgパッチに減量でき。過少投与で10mgに増量しなくてはならないと考えたときは追加で2.5mgパッチを加えるか、次回貼り換える時に7.5mgパッチ+2.5mgパッチに変更すればよい。タイトレーションができて安定したら適量のパッチを貼付する。
「換算表から7.5mgパッチが必要と判断」 |
↓ |
「7.5mgパッチをすぐ貼るのではなく・・」 |
↓ |
↓ →増量が必要なら →(7.5mgパッチ)(2.5mgパッチ) |
→(5.0mgパッチ)(2.5mgパッチ)→そのまま継続なら→(7.5mgパッチ) |
→減量が必要なら →(5.0mgパッチ) |
,緩和医療学(2004),6,1,15
#2
【5.3.2】
(投与量、初回投与時の注意)
モルヒネは急速な減量により、動悸、発汗異常、下痢などの退薬症状を生じる。モルヒネからフェンタニルパッチヘの変更により、2〜10%で退薬症状がみられるという報告があり、症例報告も散見される。筆者らは過去に、腸閉塞の患者において塩酸モルヒネ30mg (持続静脈内注入)を一度にフェンタニル注射剤に変更したところ、腸蠕動の亢進による疝痛が出現した経験がある。この経験から、モルヒネからフェンタニルパッチヘの切り替えも段階的に行うようにしており、今までのところ退薬症状は経験していない。特にモルヒネ投与量が多い場合や腸閉塞の患者では、緩下薬の調整をしたり、段階的に切り替えるなど、退薬症状に配慮する。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,50
#2
【5.3.2】
モルヒネからフェンタニル・パッチに切り替えると、約10%の患者にオピオイドの離脱症状が現れる。原因不明の下痢のような症状があり、数日間続く。症状が強いとき、レスキュー・ドーズとしてモルヒネを投与すると症状が軽減する。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,429
#1
【5.3.2】
【モルヒネ1日使用量に基づくデュロテップパッチの推奨貼付用量換算表(添付文書)】
フェンタニル 貼付用量 |
2.5mg (25μg/時×72時間) |
5.0mg (50μg/時×72時間) |
7.5mg (75μg/時×72時間) |
モルヒネ 経口剤 (mg/日) |
45〜134 |
135〜224 |
225〜314 |
坐 剤 (mg/日) |
30〜69 |
70〜112 |
113〜157 |
注射剤 (mg/日) |
15〜44 |
45〜74 |
75〜104 |
,デュロテップパッチ添付文書より
#2
【5.3.2】
(モルヒネからフェンタニルパッチへの換算)
【安全性を重視した換算】
経口モルヒネ量 (mg/日) | 45〜135 | 135〜225 | 225〜315 |
フェンタニルパッチ | 2.5mg | 5mg | 7.5mg |
【鎮痛効果を重視した換算】
経口モルヒネ量 (mg/日) | 30〜90 | 90〜150 | 150〜210 | 210〜270 | 270〜330 |
フェンタニルパッチ | 2.5mg | 5mg | 7.5mg | 10mg | 12.5mg |
,今月の治療(2004),12,9,68
#2
【5.3.2】
【硫酸モルヒネ徐放剤、オキシコンチン錠、フェンタニルパッチ貼付時の概算レスキュー開始量】
徐放製剤 | レスキュー製剤 | レスキュー製剤 | レスキュー製剤 |
| モルヒネ速放剤(塩酸モルヒネ錠、末、内服液) | ivモルヒネ(塩酸モルヒネ注射薬) | ivフェンタニル(フェンタニル注射薬) |
硫酸モルヒネ徐放剤 1日量 | 1回: 1日量の1/6 q2hr | {徐放剤1日量÷2}÷24 | − |
オキシコンチン錠 1日量 | 1回: モルヒネ換算 1日量の1/6 | {モルヒネ換算1日量÷2}÷24 | − |
フェンタニル貼付薬の用量 | 2.5mgパッチ(600mcg/日) | 10mg/回 q2hr | 1.25mg/回 q10min | 25mcg/回 q1Omin |
5.0mgパッチ(1200mcg/日) | 20mg/回 q2hr | 2.5mg/回 q10min | 50mcg/回 q10min |
7.5mgパッチ(1800mcg/日) | 30mg/回 q2hr | 5.0mg/回 q10min | 75mcg/回 q10min |
10.0mgパッチ(2400mcg/日) | 40mg/回 q2hr | 7.5mg/回 q10min | 100mcg/回 q10min |
(1)モルヒネ換算1日量=オキシコンチン錠1日投与量×1.5倍
(2)経口レスキューはフェンタニルパッチの経ロモルヒネ換算量の中央値を参考にその1/6を1回量とする.
(3) ivモルヒネレスキュー量は、経ロモルヒネ換算量の中央値の1/2量をivモルヒネ1日量と考え、その1時間量をレスキュー1回量に設定する。
(4) ivフェンタニルレスキュー量は、フェンタニルパッチの1時間投与量をレスキュー1回量とする。
q2hr:2時間間隔を空けて q1Omin:10分間間隔を空けて
,緩和医療学(2005),7,1,26
#2
【5.3.2】
(モルヒネからデュロテップパッチへの換算)
用法・用量にモルヒネからの換算表があり、これからパッチサイズを選ぶことが推奨されている。しかし、この換算でパッチを選択した場合は、約半数で鎮痛不十分となると報告されている。つまり、この換算表は安全性を重視し、経口モルヒネ45〜134 mg の中央値90 mg/日が2.5 mgのパッチに相当(90 : 2.5=36:1)という換算比を基本として作られているため、モルヒネ量に比較してパッチサイズが小さすぎる可能性がある。
一方、ドイツの換算表では経口モルヒネ60 mg/日に対して2.5mgのパッチ(60:2.5=24:1)という換算比が基本になっているほか、米国では経口モルヒネ量:パッチサイズは約20:1というコンセンサスがある。そのためわれわれの施設では20〜30:1を目安としてパッチを選んでいる。具体的には、現在「モルヒネで疼痛コントロール良好の場合」はその経口モルヒネ量を30で割った数に近いパッチサイズ、「不良の場合」には20で割った数に近いパッチサイズを選んでいる。
このように推奨されている換算と実際の鎮痛効果とはズレがあることを考慮してパッチサイズを選ぶ必要がある。この傾向はモルヒネ量が大きくなるほど強まるため、デュロテップヘの変更はモルヒネ量が少ないうちに行うほうがよい。
,モダンフィジシャン(2003),23,3,330
#2
【5.3.2】
(モルヒネからデュロテップパッチへの換算)
「簡単な投与量の目安」
経口モルヒネ60mgがフェンタニルパッチ2.5mgと等鎮痛用量である。この比率に近い量のパッチを経口モルヒネ量から簡単に選ぶために、経口モルヒネ量をパッチのフェンタニル含有量で割った値24 (60÷2.5=24)に注目している。つまり、経口モルヒネ量を24で割った値がパッチの相当量となる。しかし、パッチは2.5mgごとのサイズしかないため、幅をもたせて考える必要がある。そこで実際には20ないし30で割って近い値を選ぶ方法が適当である。さらにわれわれは現在の痛みの状況も考慮にいれて、現在のモルヒネ量で痛みがある場合は20で割る、痛みがない場合は30で割る方法を採用している。
-------------------------------------------------------
・現在、痛みがある場合→20で割る
例)経口モルヒネ200mg÷20=10 → 10mgのパッチ
・現在、痛みがない場合→30で割る
例)経口モルヒネ200mg÷30=6.6 → 7.5mgのパッチ
-------------------------------------------------------
海外では簡単な投与量の目安として経口モルヒネ量を2ないし3で割る方法がある。海外ではフェンタニルパッチの量の表記のしかたがμg/hr(含有量のmgを用いた表記の10倍)なので、結果的にこれは20ないし30で割るのと同じことである。
,緩和医療学(2004),6,1,19
#2
【5.3.2】
(モルヒネからデュロテップパッチへの換算)
それまでのモルヒネ投与量から換算表をもとにして初回貼付量を決めるのが原則である。現在一般的に用いられている換算表では、経口モルヒネ45〜134mg/日(中央値90mg)をフェンタニルパッチ2.5mgに換算することになっている。中央値90mg/日から2.5mgへの換算比はモルヒネ:フェンタニル=150 : 1であり、鎮痛効果よりも切り替え時の安全性を重視した設定となっている。実際、半数以上で疼痛の増強がみられたという報告もあり、欧米では100 : 1 としている国もある。筆者は、これまでモルヒネ製剤からフェンタニル注射剤の持続投与への切り替えを行ってきた経験から、当初より経口モルヒネ60mg/日をフェンタニルパッチ2.5mgに変更(この換算比は100 : 1)してきた。その結果、切り替え前後での鎮痛効果および副作用の点において、この換算比で満足する結果を得ている。フェンタニルパッチの投与量が十分でない場合、モルヒネのレスキューの使用回数が多くなり、モルヒネの副作用が出現することも懸念される。十分な鎖痛効果の得られる換算比の適用が望まれる。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,50
#2
【5.3.2】
(モルヒネからデュロテップパッチへの換算)
添付文書の用法・用量にはモルヒネからの換算表があり、これをもとに開始量を決めることが推奨されている。これによると1日経口モルヒネ量が45〜134mgの患者で2.5mgのフェンタニルパッチを選択することになる。つまり、この換算表は経口モルヒネ45〜134mgの中央の値の90mgがフェンタニルパッチ2.5mg (25μg/hr=600μg/day)に相当する。すなわちモルヒネとフェンタニルの1日量で計算すると150 :1(90mg : 600μg)という換算比をもとに作られている。しかし、この換算にしたがって投与量を決めた場合は。約半数で鎮痛が不十分になることが報告されている。なぜなら、この換算は安全性を重視して設定された開始量であり、鎮痛効果の換算ではないからである。
一方、経口モルヒネ60mgとフェンタニルパッチ2.5mgが等鎮痛用量であり、鎮痛効果の換算比は100 : 1 (60mg : 600μg)と考えられている 。つまり、推奨されている換算表と鎮痛効果の換算にはズレがある。そのためこの換算表にしたがった選択では投与量が不足しがちであり、タイトレーションに時間がかかる場合がある。
われわれは終末期の患者が対象であるため、できるだけ短期間で症状マネジメントをおこないたいと考えている。そこで、100 : 1 の換算でも安全であると報告されていること、さらに100 :1の換算比による換算表が採用されている国もあることから、鎮痛効果を重視した換算比を用いている。
,緩和医療学(2004),6,1,19
#1
【5.3.2】
(経口モルヒネからデュロテップパッチヘ換算 36・45の法則)(筆者はサブロー予後の法則と覚えている)
フェンタニルパッチの規格は2.5mg、5mg、7.5mg、10mgである(フェンタニルの時間あたり放出量はそれぞれ25μg/hr、50μg/hr、75μg/hr、100μg/hr)。それぞれに対応する経口モルヒネの量は、「フェンタニルパッチの規格(mg)」×36±45mg=「1日経口モルヒネ量」で簡便に算出できる。
ちなみにわが国では10mg製剤のモルヒネからの切り替え治験がおこなわれておらず、初回の投与量は7.5mg(経口モルヒネにして270±45)までしか対応がむずかしい。また、同様に1日のモルヒネ量が45mg以下の患者に対しても治験がおこなわれておらず、1日経口モルヒネ量が45mg以下の患者に対しては使用が推奨されていない。換算表(注:添付文書の換算表)は、安全にフェンタニルパッチに変更するための初回用量を示しているものであり、2回目貼付以降は、鎮痛効果が得られるまで各患者ごとに用量の調節をおこなう。
,緩和医療学(2002),4,2,139
#2
【5.3.2】
(モルヒネからデュロテップパッチへの換算)
「モルヒネ持続注射からの投与量の目安」
モルヒネ持続注射からフェンタニルパッチヘの換算はモルヒネ注射量と経口量の換算とモルヒネ経口量からフェンタニルパッチヘの換算をもとに考えている。モルヒネ注射量はモルヒネ経口量の1/2から1/3である。また前述したようにフェンタニルパッチは経口モルヒネ量の20ないし30で割った値に近い量である。これらのことを合わせて考慮すると、モルヒネ注射量を10で割った値に近い量が簡単な投与量の日安となる。
-------------------------------------------------------------
経口モルヒネ→→→→→→1/20〜1/30→→→→→フェンタニルパッチ
〃 →1/2〜1/3→注射モルヒネ→1/10→ 〃
-------------------------------------------------------------
緩和ケア病棟ではモルヒネ持続皮下注射からフェンタニルパッチヘ切り替えることも多い。手順としてはフェンタニルパッチ貼付から6時間後に注射速度を1/2に減量し、12時間後まで継続する。その後、持続投与は中止して疼痛時の早送りにのみ対応し、24時間後に症状が安定しているのを確認して皮下注針を抜去する方法を採っている。
,緩和医療学(2004),6,1,19
参照→【5.1.2】(大量のオピオイドをローテーションする場合)
#2
【5.3.2】
腸閉塞とか、内服が困難になる可能性がある場合は、モルヒネが少ない用量のときにフェンタニルパッチに切り替えておくといいと思われる。腸閉塞が起こってから切り替えると時間不足からコントロール不十分になりやすい。
,がん患者と対症療法(2003),14,1,78
#1
【5.3.2】
フェンタニルパッチからモルヒネに変更(”戻し”)する時、フェンタニルパッチヘ変更後に増量していない場合は、変更前のモルヒネ量で開始する。
フェンタニルパッチヘ変更後増量している場合、換算表に基づいてモルヒネヘ変換すると過量投与となる可能性があるため、1ランク下のモルヒネ量から開始し、レスキュードーズを併用して増量するのが安全である。
,ターミナルケア(2003),13,1,22
(注:フェンタニルパッチからモルヒネに変更(”戻し”)をすることは、換算量の幅が広すぎて、通常は危険である)
#2
【5.3.2】
(デュロテップパッチからモルヒネヘの戻し方)
疼痛コントロールが困難な場合、あるいは病気の進行により呼吸困難が出現した場合はフェンタニルパッチを中止し、モルヒネに戻している。フェンタニルパッチからモルヒネヘの変換法に関しては推奨された方法はない。注意しなければいけないのは用法・用量の換算表はモルヒネからフェンタニルパッチの量を決める際に安全に作られたものであり、逆にフェンタニルパッチの量からモルヒネ量を決めるのに使用した場合はモルヒネが過量になる可能性があることである。換算の目安としては前述の100 : 1の換算比を基本に考えている。つまり2.5mgのパッチでは60mg、5.0mgのパッチでは120mgの経口モルヒネということになる。
モルヒネ持続注射に切り替える場合は、フェンタニルパッチの量を10倍した値が注射の1日注射量の目安となる。
しかし等鎮痛用量でもモルヒネはフェンタニルにくらべ眠気が強くでる可能性があるため、移行は慎重におこなう必要がある。また、フェンタニルパッチは剥がした後も皮下にフェンタニルが蓄積していて血中濃度が半減するのに半日以上を要する。われわれはモルヒネの持続皮下注射に切り替える場合は目安の半分の量から開始し、症状にあわせてタイトレーションをおこなっている。
モルヒネ内服に戻す場合、とくに投与量が多い場合にはモルヒネ水溶液などの即効性製剤で4時間ごとの内服とし、量を調節してから徐放性製剤に換えるなどの方法を採っている。
,緩和医療学(2004),6,1,20
#1
【5.3.3】
(レスキュー)
フェンタニル貼付薬のような長時間作用型オピオイドは、鎮痛のベースをつくる薬剤であり、痛みの急性増悪(incident pain、あるいはbreakthrough pain)が生じたときは、別途処方して携帯させる速効性モルヒネ製剤(塩酸モルヒネ散、塩酸モルヒネ水)を躊躇せずに服用するようあらかじめ十分に患者指導を行う必要がある。これをレスキュー(rescue)といい、レスキューの実践は本剤のような長時間作用型オピオイドでは死活的に重要となる。
,臨床と薬物治療(2002),21,2,60
#1
【5.3.3】
(レスキュー)
フェンタニルパッチは長時間作用性であり、服薬コンプライアンスはこれまでの徐放性オピオイドにくらべて著しく高い。しかし、長時間作用性の薬物の使用上のコツを知ったうえで使用することが望ましい。一般的に、長時間作用するオピオイドを使用するにあたってのコツは、その薬物動態を考えて投与することである。長時間作用する薬物は、効果が出るまでに時間がかかることを知っていなければならない。
フェンタニルパッチでは、効果が出るまでに約12〜18時間かかるとされている。したがって、そのあいだは短時間作用性の効果がすぐに現れる薬剤を併用していく必要がある。
短時間作用性オピオイドとしてはモルヒネ水のレスキューが代表である。モルヒネの徐放錠をフェンタニルパッチに変更するときにはモルヒネの血中濃度の低下とフェンタニルパッチから吸収され血中に移行したフェンタニル量の増加がオバーラップし、痛みが出現しないように貼付開始と同時にモルヒネ徐放錠の1回分を併用するなどし、フェンタニルの血中濃度上昇までの期間の鎮痛効果を補う必要がある。その後、短時間作用性モルヒネ(モルヒネ水のレスキュー)を適宜使用することが重要である。
,緩和医療学(2002),4,2,107
#2
【5.3.3】
(レスキュー)
フェンタニルパッチは作用時間が長く72時間の貼付が基本であるため、鎮痛が十分でない場合に短時間での増量がむずかしく、痛みの持続する患者にとっては至適量に至るまでにかえって時間がかかることが問題である。貼付後1日経過しても痛みが持続したままであれば患者にとっては効かない薬剤と判断し、改善を求める。フェンタニルパッチを使いはじめた多くの主治医がこの問題に直面し、対策を求められたはずである。その結果、レスキュードーズが見直され、フェンタニルパッチの使用に際して多くの医師がレスキューを不可欠なものとして認識するようになったと考えられている。
,緩和医療学(2004),6,1,9
#1
【5.3.3】
デュロテップパッチで治療中においても疼痛の一時的増強が起こることがある。その際には本剤使用前に用いていたモルヒネ製剤、あるいは即効性モルヒネ製剤による治療が必要である。
そのような場合には原則として、1回レスキュー投与量として、前治療が経口剤もしくは坐剤の場合は1日量の1/6量を、注射剤の場合は1 /12量を目安に投与する。
,鎮痛・オピオイド研究最前線(2002),,,125
#2
【5.3.3】
(レスキュー)
一般的にレスキューの量は、オピオイド1日量の1/6量程度、注射剤では1 /10〜1/24量程度とされている。基本的には換算表で該当するモルヒネ投与量の中央値から算出し、鎮痛効果と副作用の観察を行い適切な量に調節し、フェンタニルパッチの増量に伴いレスキューも増量する。当科ではフェンタニルパッチ2.5mgにつき、塩酸モルヒネ錠10mg/回(注射剤では3〜5 mg/回)程度のレスキューとしている。ほぼ適切なレスキュー量と思われるが、患者の状態により、これより少なめから設定する場合もある。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,51
#2
【5.3.3】
【デュロテップパッチのレスキュードーズの目安】
フェンタニルパッチ | 2.5mg | 5.0mg | 7.5mg | 10mg |
(換算モルヒネ1日量) | (60mg) | (120mg) | (180mg) | (240mg) |
塩酸モルヒネ経口剤 | 10mg | 20mg | 30mg | 40mg |
,緩和医療学(2004),6,1,21
#2
【5.3.3】
【レスキュードーズの目安】
パッチサイズ | 経口塩酸モルヒネ1回量 | アンペック坐薬1回量 |
2.5mg | 10mg | 10mg |
5.0mg | 20mg | 20mg |
7.5mg | 30mg | 30mg |
10mg | 40mg | 40mg |
根拠は2.5 mg のパッチは鎮痛効果では経口モルヒネ量60 mg/日に相当し(24:1)、その1/6の10 mg が2.5mgのパッチのレスキュードーズであるというものである。これはあくまでも目安であり、投与後の効果や眠気などをみて、再びレスキュードーズを調節する必要がある。
,モダンフィジシャン(2003),23,3,331
#2
【5.3.3】
(デュロテップパッチの増量と貼り替え)
タイトレーション中の増量は3日ごとの貼付が原則となっているが、貼付から18時間後にはフェンタニルの血中濃度は十分上昇しているのでこの時点で強い痛みがあれば3日を待たなくても増量可能である。
症状の落ち着いている安定期では、レスキュードーズの回数が1日3回以上を増量の日安としている。用法・用量では2.5mgずつの増量としているが、増量は25〜50%ずつ可能であるとされている。よって、われわれはフェンタニルパッチの量が小さい時は2.5mgずつ増量し、15mg上では5mgずつ増量している。
血中濃度は72時間維持され、貼り替えは3日ごとが原則である。しかし、貼付後48時間は痛みがコントロールされているにもかかわらず、48時間から72時間で痛みが増強する患者も存在する。そのような患者では、まずは増量を考慮するが、それでも同様の現象が続く場合は2日ごとの貼り替えをおこなっている。
,緩和医療学(2004),6,1,21
#2
【5.3.3】
(増量)
増量は25〜50%ずつとされていて、サイズが小さい時は2.5 mgずつであるがサイズが大きい場合は5mgずつ増量することができる。
張り替えは3日ごとが原則ではあるが、なかには2日ごとの張り替えが必要となる患者もいるため、3日目にのみ疼痛が増強する場合には、2日ごとの張替えも考慮する。
,モダンフィジシャン(2003),23,3,331
#2
【5.3.3】
(増量)
パッチの問題点の一つは添付文書に1回2.5 mgずつしか増量できない点にある。簡単な算数でも、2.5mg製剤を使用中の患者に2.5mgを増量して5mg製剤を使用すれば100%増となるが、総計25 mgを使用中の患者に2.5mgを増量しても10%増にしかならない(この場合おそらく患者は増量の効果を実感できない)ことがわかる。そこで除痛不十分の場合のパッチ増量法に関して前回値の25〜50%増を基本とする主張、あるいは用量15mg以上の場合には5mg単位での増量という主張もある。
,緩和医療学(2004),6,1,35
#2
【5.3.3】
デュロテップパッチ
「2日目に1枚追加貼付したとき」
痛みのコントロールがつかずに2日目に1枚上乗せで貼付した場合は、次回貼り替えるときは必ず全部いっせいに交換することが望ましい。リスクマネージメントの面からも1枚1枚貼り替える日が異なるような複雑な方法は避けるべきである。
,緩和医療学(2004),6,1,15
#2
【5.3.3】
フェンタニルの血中濃度が安定するまでに36〜48時間を必要とする。
フェンタニル・パッチ貼付後3日間、とくに最初の24時間はレスキュー・ドーズを十分に行う必要がある。レスキュー・ドーズは、フェンタニル・パッチの1時間容量数の約半量にmgを付して速放性モルヒネで投与する[例えば、50μg/時間のフェンタニル・パッチの場合、モルヒネによるレスキュー・ドーズの1回分は20〜30 mg]。
フェンタニル・パッチ貼付後48時間以内にレスキュー・ドーズとして速放性モルヒネを1日2回以上必要とした場合、25μg/時間の容量のパッチを1枚増量する。製薬会社による推奨投与量での貼付開始では、約50%の患者が初回貼付後3日以内にパッチを増やしている。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,427
#1
【5.3.3】
(フェンタニルパッチの減量・中止)
神経ブロックによる急激な疼痛の改善によって、フェンタニルパッチの投与を中止する場合、退薬現象の出現を予防するため1/4〜1/2ずつ減量する。
,ターミナルケア(2003),13,1,21
#2
【5.3.3】
(デュロテップパッチ減量)
がんの治療が効果をあげればがん性疼痛も軽快・消失することは日常的に経験されることである。ある量のパッチを使用していて、体動時痛・突発痛がまったくない状況がつづき患者の了解を得られた場合、われわれはパッチを2.5mg減量している。もちろん、減量の結果、疼痛が再燃・増悪する場合には前の用量に戻す。こうした試行錯誤の結果、用量2.5mgのパッチを使用していて疼痛の消失が継続したので、パッチ使用を終了できた患者をわれわれの施設では6例経験した。2.5mgのパッチの使用を終了する際に少量のモルヒネなどを補充していないので、オピオイドの退薬現象が生じるかと危惧したが6例とも退薬現象は観察されなかった(うち1例は疼痛が再燃し、ただちにパッチ2.5mgを再開した)
,緩和医療学(2004),6,1,35
#1
【5.3.3】
フェンタニルパッチの貼付によって過度の鎮静や呼吸抑制などが起こり、投与を中止する必要がある場合に注意する点は、パッチをはがしただけではすまないことである。皮下にフェンタニルが残存しているため、フェンタニルをはがした後も血中に移行しつづけていくため副作用が継続していくからである。実際にフェンタニルの血中濃度が50%低下するためには17時間もかかるといわれている。したがって、緊急でナロキソンによって拮抗する必要がある場合には、しばらくのあいだ、ナロキソンを持続投与によって継続していく必要がある。
,緩和医療学(2002),4,2,109
#1
【5.3.3】
通常のオピオイド投与の場合にはオピオイドを突然に中止することは禁忌であるが、本薬剤に関しては皮下に残存するフェンタニルが投与後にも血中へ移行するため、フェンタニルパッチをはがしても突然に退薬症状が起こるまでには通常のオピオイド徐放薬にくらべてかなり時間がかかる。しかし、時間がかかっても一定以上のフェンタニル濃度の低下によって退薬症状は出現する可能性が十分にあるため、処方枚数および残薬の枚数などに関してつねにチェックをするなど、説明が必要である。
,緩和医療学(2002),4,2,108
#1
【5.3.4】
(副作用)
嘔気・嘔吐の頻度はモルヒネより少なく、10%前後の患者で嘔気・嘔吐が出現したという報告がある。しかし、フェンタニルパッチを急激に増量する場合や、レスキュードーズのモルヒネを使用する場合には、嘔気・嘔吐が生じやすいと考えられるため、制吐剤を併用する。嘔気・嘔吐がなければ、2週間前後で制吐剤を漸減する。
鎮痛量での便秘の発現はモルヒネより少なく、下剤が必要な患者は約50%になり、必要量も減少するという報告もある。癌患者は長期臥床、栄養障害、薬剤の影響など、便秘になりやすい要因を持っていることが多いため、薬物治療が必要な場合が多い。
眠気の発生頻度は少なく、約4%という報告もある。モルヒネで強い眠気を訴えた患者でフェンタニルに変更したところ、眠気の改善が認められ、患者のQOLの改善に有用であると考えられる。
フェンタニルパッチによる呼吸抑制は、頻度は少ないが、常に念頭に置き、その対応を熟知しておくべき副作用である。フェンタニルパッチでは、フェンタニルの血中濃度が上昇するまでに時間がかかるため、呼吸抑制は遅発性であることが多い。パッチを外した後も皮下に貯留したフェンタニルが徐々に吸収されるため、遷延しやすい。特にフェンタニルパッチ開始後や、急激な増量中は注意が必要である。フェンタニルの作用は「鎮痛→鎮静→呼吸抑制」の順でみられ、傾眠が強くなったり、呂律が回らない、表情がうつろになるなどの症状が経時的に増強する場合には、これらの症状に続いて呼吸抑制が出現する可能性があるため、フェンタニルパッチをはがして経過観察する。
フェンタニルによる呼吸抑制はμ1受容体を介して起こると考えられているため、覚醒時の呼吸が8回/分未満の場合には、麻薬拮抗薬のナロキソンを使用する。通常量のナロキソン投与で激痛や退薬現象が生じる可能性があるため、1回10〜20μg (1/20〜1/10 A)ずつ、呼吸回数が10回/分以上になるまで投与する。ナロキソンの作用時間は30〜60分と短く、呼吸回数が一度回復しても再度減少するようであれば、繰り返し投与する。フェンタニルの作用は、呼吸抑制→鎮静→鎮痛の順に拮抗されるため、呼吸回数が回復し、かつ鎮痛作用を拮抗しない状態を維持するように投与する。貼付剤除去後12時間は厳重に監視を行い、傾眠などがみられなくなった時点でフェンタニルパッチの投与を再開する。
,ターミナルケア(2003),13,1,19
#1
【5.3.4】
モルヒネ-フェンタニル貼付剤換算表で、まず目をひくのは、フェンタニル貼付薬各製剤に対応するモルヒネ製剤の1日使用量の幅が非常に大きいことである。この理由は、ひとえにフェンタニル微量持続与薬法の副作用の少なさにある。
モルヒネ製剤では、増量とともに鎮痛効果は増大するが、同時に三大副作用(嘔気・嘔吐、便秘、眠気)もパラレルに増強する。
一方、フェンタニル貼付薬では、増量とともに鎮痛効果は確実に増大するが、三大副作用の増強はほとんどみられないか軽微である。
塩酸モルヒネ散を1日量で90mg増量すると、三大副作用は相当に増強する。フェンタニル貼付薬は、「72時間貼付して4日目に前日のレスキュー使用量がモルヒネ経口剤換算で45mg以上のとき、2.5mg増量して貼り替えていく」という方法で使用する。モルヒネ製剤と異なり、72時間ごとに2.5mg(換算表によればモルヒネ経口剤90mg増量に相当)増加しても、鎮痛作用は確実に強まるが、通常副作用の増強はないか軽微である。
,臨床と薬物治療(2002),21,2,60
#2
【5.3.4】
(副作用:嘔吐)
フェンタニルはモルヒネと比べ嘔気・嘔吐が少ないことがわかっている。しかし一方で、フェンタニルパッチにおいてはモルヒネと比べ変わらないとする結果と少ないとする結果の双方が報告されている。筆者の経験では、先行オピオイドなしでフェンタニルパッチを貼付した患者8例に、予防的に制吐薬としてプロクロルペラジンを投与していたが、このうち3例でフェンタニルによる嘔気が出現した。
1例は過量投与によるものと考えられ、1例は制吐薬の追加、1例は投与初期のみで自然に消失した。この経験から、フェンタニルパッチにおいてもモルヒネと面様、制吐薬を予防的に使用することにしている。特に先行オピオイドなしでフェンタニルパッチを貼付する場合には嘔気・嘔吐の耐性が形成されていないため、注意が必要であると考えられる。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,52
#2
【5.3.4】
フェンタニルはモルヒネに比べて便秘を起こしにくい。フェンタニル・パッチ開始時に投与する緩下薬はモルヒネのときの半量で開始し、患者ごとに適量へと調整していく。ときに下痢を起こす患者がいる。下痢が強いときにはモルヒネを頓用させ、緩下薬を中止する。
フェンタニルの催吐作用はモルヒネと比べて軽度であるが、必要に応じてハロペリドール(セレネース) 1.5mgを直ちに、ついで就寝時ごとに服用させる。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,427
#2
【5.3.4】
フェンタニル・パッチ(デュロテップ)はモルヒネに比べ便秘を起こすことが少ない。したがって、モルヒネからフェンタニル・パッチ(デュロテップ)に切り替えた場合には緩下薬量を半量にし、必要に応じて徐々に適切量へと再調整すべきである。
ある患者では、経口モルヒネからフェンタニル・パッチ(デュロテップ)へ変更すると、良好な鎮痛が得られたにもかかわらず、疝痛、下痢、嘔気、発汗、不穏などを伴う離脱症状を起こすことがある。この離脱症状は数日後に改善するが、それまでの間は、モルヒネのレスキュー・ドーズで治療する。
フェンタニル(デュロテップ)は、患者の死亡時まで継続使用可能であるが、その投与量は必要に応じてさまざまである。レスキュー・ドーズは通常のモルヒネ(または他の強オピオイド)で継続する。患者が薬を内服できなくなった場合にもっとも重要な投与経路となるのは、直腸内投与または持続皮下注入などの非経口的投与である。フェンタニル・パッチを他の製剤に変更する必要はなく、適切量のヘロイン(イギリス)もしくは他の強オピオイド鎮痛薬のレスキュー・ドーズを継続することが重要である
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,52
#2
【5.3.4】
(フェンタニルパッチの過量投与と治療法)(参照→【5.2】「フェンタネスト(フェンタニル)」)
フェンタニルパッチの貼付によって過度の鎮静や呼吸抑制などが起こり、投与を中止する必要がある場合に注意する点は、パッチをはがしただけではすまないことである。皮下にフェンタニルが残存しているため、フェンタニルをはがした後も血中に移行しつづけていくため副作用が継続していくからである。実際にフェンタニルの血中濃度が50%低下するためには17時間もかかるといわれている。したがって、緊急でナロキソンによって拮抗する必要がある場合には、しばらくのあいだ、ナロキソンを持続投与によって継続していく必要がある。
,緩和医療学(2002),4,2,13
参照→【5.3.3】(デュロテップパッチの減量・中止)
#1
【5.4】
オキシコドンは、阿片からコデインとモルヒネを製造する過程で生じるテバインから合成される。オキシコドンの鎮痛効果は投与経路によって異なり、静注ではモルヒネの1/2〜3/4程度であるが、経口投与ではモルヒネの1.5〜2倍程度の鎮痛効果と考えられている。経口投与されたオキシコドンはその構造上、初回通過効果を受けにくく、代謝されずに体循環に入る割合が高いことによる。経口投与による生体内利用率が、モルヒネが24%なのに対してオキシコドンは60〜80%ときわめて高い。投与量と鎮痛効果の関係では、モルヒネと同様に有効限界はない。
オキシコドンはμ受容体に作用し、嘔気、便秘、鎮静、呼吸抑制を生じる。癌疼痛患者において問題となる重篤な呼吸抑制にならないことは、モルヒネと同様である。
吐き気やせん妄の頻度は、モルヒネに比べて少ないとされている。
オキシコドンは肝で代謝され、おもにオキシモルフォンとノルオキシコドンに代謝される。ノルオキシコドンは弱い鎮痛活性を持つが、その血中濃度はきわめて低く、鎮痛作用は未変化体の作用が主と考えられている。このほかの代謝物は尿中に排泄されるため、腎機能障害患者ではそれぞれの血中濃度が上昇するが、モルヒネにみられるような腎機能障害患者での傾眠が問題になることは少ないと考えられている。
モルヒネ製剤を使用していて問題になることのひとつは、腎機能障害と傾眠の関係である。鎮痛薬の投与を受けながら化学療法を受ける症例は確実に増えてきており、腎機能低下の影響を受けにくい薬剤の登場は歓迎するべきことである。多くの患者のQOLの改善に期待が大きい薬剤であろう。
,ターミナルケア(2003),13,1,12
#2
【5.4】
(歴史)
最初、オキシコドンはアスピリンまたはアセトアミノフェンとの配合錠としてアメリカなどで抜歯後の急性痛などに短期的に使われており、医師と市民にとり馴染みのある薬となっていた。しかし、配合された非オピオイド鎮痛薬の有効限界がオキシコドンの長期反復投与に必要な最適量への増量調整を妨げたため、弱オピオイド鎮痛薬とみなされていた。
1963年に非配合のオキシコドン坐剤の反復投与ががん患者の痛みに優れて有効であり、鎮静や幻覚がモルヒネより少ないと報告されたことなどから、オキシコドンが十分に活用されていなかったことが示唆された。それによりオキシコドン単剤の速放製剤が製造され、強オピオイド鎮痛薬として主としてアメリカでがん疼痛および非がん疼痛に対して長期反復投与されるようになり、今では50ヵ国にオキシコドンが導入されている。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,42
#2
【5.4】
(開発の経緯)
欧米において、オキシコドンは、アスピリン、フェナセチン、カフェイン、アセトアミノフェンとの配合剤として普及していった。アスピリン等は、増量による鎮痛効果の上限(天井効果:Ceiling effect)をもっているため、配合剤にも上限が存在した。そのため、WHO『がんの痛みからの解放』(初版)においてオキシコドンは、基本薬リストで「弱オピオイド」に分類されていた。
ところが、1997年に米国で、1998年にドイツでオキシコドンCRが導入され、オキシコドンは単剤としての使用が可能になったことで天井効果がなくなり、モルヒネ代替薬として注目されるようになった。WHO『がんの痛みからの解放』(第2版)では、オキシコドンは「強オピオイド」に見直された。 2003年4月、我が国でもがん疼痛の鎮痛に対してオキシコドンCR(オキシコンチン)が承認され、今後モルヒネの代替薬として期待される。
,日本病院薬剤師会雑誌(2004),40,1,79
#2
【5.4】
WHOの3段階除痛ラダーは、初版の時にはオキシコドンだけが第2段階と第3段階の両方にありました。昔のオキシコドンは単昧で製剤化されたのではなく、オキシコドン+アスピリン、オキシコドン+パラセタモールという配合錠でした。そして、混じっている非オピオイドの方の副作用が出てくることから、投与量の限界があったために、弱オピオイド程度の使い方が米国で続いたのです。それで弱オピオイドの中にもオキシコドンが入ってきた。しかし、オキシコドンはceiling effectがない薬ということがわかっていたので、オキシコドン単味の錠剤が出て、それが徐放化されてきたという歴史的過程があります。
,がん患者と対症療法(2003),14,1,76
#2
【5.4】
オキシコンチン錠は徐放錠でありながら、経口投与後12分で吸収が始まり30分〜1時間で鎮痛効果が発現しますので、徐放錠で用量設定を始めても即効製剤と同程度の早さで至適用量が得られます。ただし、オキシコドンの即効製剤(現在開発中)は国内で使用できませんので、レスキューはオキシコンチン錠1日投与量の4分の1量(mg)のモルヒネ即効製剤を1回量の目安とします。
,「最新のがん疼痛治療の基礎と実際」(2003),,,15
#2
【5.4】
オキシコンチンの鎮痛効果は、投与後1時間から鎮痛効果が認められ12時間持続するため、1日2回分割投与での疼痛コントロールが可能である。
初回投与(1日投与量)は、オピオイド系鎮痛薬を使用していない場合には10〜20mg、オピオイド系鎮痛薬を使用している場合には、モルヒネ経口投与に換算した時のモルヒネ製剤1日投与量の2/3を目安として開始する。経皮フェンタニル貼付剤に変更する場合には、モルヒネの1日投与量に換算し、換算表に基づいて変更する。
増量の目安は、使用量の25〜50%増であり、減量では退薬症候が現れることがある。服用中の疼痛の増強や突発性の疼痛に対しては、ただちにモルヒネの追加投与(レスキュードーズ)が必要である。
,日本病院薬剤師会雑誌(2004),40,1,79
#2
【5.4】
(薬理と特徴)
「1.受容体への親和性の違い」
オキシコドンは、κ受容体とμ受容体のアゴニストで、μオピオイド受容体を作用点としている。μ受容体に対するオキシコドンの親和性は、モルヒネの親和性の1/10〜1/40といわれる。
「2.経口バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が高い」
経口投与されたオキシコドンのバイオアベイラビリティは高く、健康成人で約60%(がん患者では87%)と報告されている。一方、経口モルヒネでは約30%である。この高いバイオアベイラビリティは、3-メトキシ置換基があるために、肝臓における広範囲のファースト・パスとしてのグルクロン酸抱合が妨げられるため、と考えられている。
「3.徐放錠で開始できる」
鎮痛効果発現までの時間は、モルヒネの徐放錠では約3時間であるが、オキシコドンCRでは約1時間足らずである。モルヒネで速やかに鎮痛効果を得るためには、速放性製剤で1日必要量を決定してから徐放性製剤に変更する必要があるのに対し、オキシコドンではCRから開始することが可能である。また、WHO三段階がん疼痛治療ラダーの第二段階および第三段階の鎮痛薬として、中等度から強度のがん性疼痛に幅広く使用可能である。
「4.代謝産物の影響を無視できる」
オキシコドンは主な代謝産物が鎮痛作用をもたないという点でモルヒネと異なる。モルヒネはグルクロン酸抱合を受けるが、オキシコドンはCYP2D6で主に代謝される。
「5.腎機能障害への影響」
オキシコドンの排泄は腎臓からの尿中排泄であるから、腎機能障害がある場合には、鎮痛作用および副作用が増強する可能性がある。しかし、モルヒネと異なり代謝物の大部分に活性がないため、腎機能障害があっても投与量の減量や投与間隔の延長という工夫によって比較的安全に使用できると考えられる。
「6.肝機能障害への影響」
肝硬変や肝疾患末期など肝機能障害がある場合のオキシコドンの使用には、鎮痛作用および副作用が増強する可能性があるため、投与量の減量や投与間隔の延長等の配慮が必要である。
肝移植によって肝疾患の末期でのオキシコドンの平均除去半減期が、13.9h(4.6〜24.4h)から3.4h(2.6〜5.1h)まで回復したという報告もある。その他、オキシコドンには抗不安作用があり、ヒスタミン遊離作用はモルヒネよりも弱いとされている。
,日本病院薬剤師会雑誌(2004),40,1,80
#2
【5.4】
(海外での臨床試験)
アメリカ、オーストラリア、フィンランドなどでのオキシコンチン錠の臨床試験報告の多くはMSコンチン錠(硫酸モルヒネ徐放錠)、モルヒネ速放製剤、オキシコドン速放製剤との比較試験である。いずれの試験でもオキシコンチン錠の鎮痛効果はモルヒネと同等であり、主な副作用は眠気、嘔気、便秘であったが、オキシコンチン錠でやや軽度との報告とモルヒネと同等との報告がある。モルヒネによるせん妄がオキシコンチン錠への切り替えにより改善したとの報告や、腎障害時の蓄積によるせん妄がモルヒネより少なかったとの報告もある。総じて言えば鎮痛効果はモルヒネと同等であり、副作用はモルヒネと同じあるいはモルヒネより少ないとの結果であった。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,45
#2
【5.4】
(臨床試験成績)
5mg錠は日本で開発され、その臨床試験は、痛みに対して非オピオイド鎮痛薬が効果不十分な22名のがん患者におけるPK/PD試験として行われ、5mg錠1錠の初回投与1時間後には有意な痛みの緩和が得られ、12時間後まで鎮痛が維持され痛みの緩和の程度は血中オキシコドン濃度と同様の経時的変化を示した。この結果は、オキシコンチン5mg錠の1日2回(12時間ごと)の経口投与が弱オピオイドクラスの鎮痛薬としても役割を果たすことを示した。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,45
#2
【5.4】
オキシコンチンの治験はモルヒネを対照薬として行われているため、全く独立した鎮痛効果というよりも同等性の評価でした。力価で1.5〜2倍ぐらいの強さということはわかっているのですが、副作用がわずかに少ないかなという印象はもちました。モルヒネで強い吐き気が出た場合に、薬剤を変えることで吐き気が弱くなり鎮痛が維持できるというような場合にも使えると期待しています。
もちろん、オキシコドンにもモルヒネと同じような副作用があります。しかし、モルヒネですと患者さんたちは麻薬のイメージが強く、鎮痛薬を使うという説明の中で副作用が出るといわれると、いくら予防すると説明しても懸念されます。長い間それを使うとなると不安が強くなる。最初にモルヒネを使うことが不安で、モルヒネとは仲良くなれないという場合にオキシコドンを上手に導入すると、選択肢が増えて患者さんたちも受け入れやすくなると期待しています。
,がん患者と対症療法(2003),14,1,73
#2
【5.4】
(臨床薬理)
mg単位で比べると、オキシコドンの鎮痛効力はモルヒネの1.5〜2倍大きい。日本における治験はモルヒネ:オキシコドンの鎮痛効力比を1:1.5として行われた。
オキシコドンによるせん妄や嘔気の発現はモルヒネよりやや少ないか同等で、消化管蠕動抑制作用(便秘)はモルヒネ同様であるが、モルヒネよりやや強いとの記載もある。十分な鎮痛作用が得られる適切量への増量で呼吸抑制作用が出現することはきわめて少ない。呼吸抑制作用への耐性形成は一般に早く、一部の患者では1日で形成される。抗不安作用や緊張弛緩作用もあり、ヒスタミン放出作用(痒み)はモルヒネより小さい。アメリカでの経験では、乱用される危険性はモルヒネ注射剤と同程度であるとされている。
腎不全患者では単回服用後の末変化体AUCは約60%上昇し、血中半減期が1時間ほど延長するため、鎮静作用が起こる可能性があるが、この可能性はモルヒネより小さいとみられている。肝機能障害患者では未変化体およびノルオキシコドンのAUCが約90%上昇し、オキシモルフォンのAUCは低くなる傾向を示した。オキシコドンには腎毒性や肝毒性は報告されていない。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,44
#2
【5.4】
(臨床応用)
モルヒネは依然として中心的な役割をもつと考えられる。しかし、モルヒネに起因する有害事象、特に幻覚を伴うせん妄がある場合はモルヒネからオキシコドンに変更(オピオイド・ローテーションまたはオピオイド・スウィッチング)したほうがよいと多くの研究者が述べている。臨床的には、腎機能障害を有する患者の場合、オキシコドンを選択した方がよいとされている。また、モルヒネに対する偏見がある患者の場合も、「モルヒネではない」ことがオキシコドンを使用するのに有利かもしれない。
,日本病院薬剤師会雑誌(2004),40,1,81
#2
【5.4】
(オキシコンチン錠の使い方)
レスキュー・ドーズとして使う速放製剤は未導入である。それまでは、モルヒネの速放製剤を投与中のオキシコンチン錠1日量の1/4量をレスキュー・ドーズとして使うほかない。なお、オキシコドン速放製剤1回分が吸収されるのは41分であるが、オキシコンチン錠中のオキシコドンの38%は投与後46分で吸収され、オキシコンチン錠のlag time が比較的短いとされている。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,46
#2
【5.4】
(オキシコンチン錠の使い方)
「推奨投与開始量と鎮痛至適量への増減調整」
1)痛みが中等度で、非オピオイド鎮痛薬が効果不十分の場合:12時間ごとに5〜lOmgの経口投与を開始する。
2)痛みが中等度以上ないし高度の場合:12時間ごとにlOmgの経口投与を開始する。
3)経口モルヒネから切り替える場合:12時間ごとにモルヒネ1日量の2/3量のオキシコンチン錠の経口投与を開始する。
,がん患者と対症療法(2003),14,2,45
#2
【5.4】
軽度〜中等度の肝機能障害患者のデータから、オキシコドンおよびノルオキシコドンの最高血漿中濃度は、健常被験者よりもそれぞれ50%および20%、AUCはそれぞれ95%および65%高いことが示されている。オキシモルフォンの最高血漿中濃度およびAUCは、30%および40%低い。こうした差は一部の薬物作用の増強を伴うが、増強されない作用もある。これらの肝機能障害患者では、消失半減期が2.3時間長い。したがって、通常用量の1/3〜1/2で治療を開始し、タイトレーションを慎重におこなう必要がある。肝機能障害に応じた用量調節の必要性は、モルヒネなどの経口bioavailabilityが低いオピオイド鎮痛薬よりオキシコンチン錠では少ないと考えられる。
肝機能障害患者に対する経皮吸収型フェンタニルに関してはエビデンスが整っておらず、使用を推奨できる段階ではない。
,緩和医療学(2005),7,1,6
#2
【5.4】
(オキシコンチンの副作用)
オキシコドンの副作用は、オピオイドによる幻覚が少ないことを除いて、モルヒネによる副作用とほぼ同様である。モルヒネが嘔気を起こしやすいのに対し、オキシコドンは便秘を起こしやすいといわれている。
,日本病院薬剤師会雑誌(2004),40,1,81
#2
【5.4】
モルヒネは鎮痛量に達する前の少量投与で吐き気や便秘が出現することが動物実験で確かめられているが、非常に少ない量のオキシコドンが鎮痛作用を出す前に吐き気を催したり、便秘だけが起こることがあるかどうかエビデンスとしては十分に得られていない。ただし、5mgぐらいの即効性のオキシコドンが抜歯後の痛みなどにはとても良く効くと聞いている。
,がん患者と対症療法(2003),14,1,76
#2
【5.4】
アメリカの資料によると、オキシコドンの速放性製剤は6時間ごとに投与するとなっており、1回の投与量はモルヒネのmg数の半分でいいということでした。副作用の頻度に多少の差があるが、モルヒネと同じものが起こる。特に消化器系の副作用、吐き気と便秘についてはモルヒネ投与時と同じような対策をしておいた方がいい。しかし、モルヒネでたくさん消化器系の副作用が出る人がオキシコドンでも同じように副作用が起こるとは限らない、その逆もある。
,がん患者と対症療法(2003),14,1,74
#2
【5.4】
副作用の頻度はモルヒネと大差ないと思われる。せん妄の発現率は文献的には少ないとされている。少なくともモルヒネ以上に副作用が強いことはなく、モルヒネに比べて若干メリットがある可能性もある。
,がん患者と対症療法(2003),14,1,73
#2
【5.4】
オキシコドンは、κ-オピオイド受容体アゴニストでもあるが、モルヒネと同じような特性を持つμ-オピオイド受容体アゴニストである。
鎮静効果、せん妄、嘔吐、かゆみの出現率がモルヒネに比べて少ないと思われるが、便秘の出現率は高い。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,55
#1
【5.4】
オキシコドンは、副作用の点ではややモルヒネより少ない程度とされているが、最も簡単な投与経路である経口投与の徐放錠がはじめに市販される予定であり、患者にとっては自己管理が行いやすい。また、海外では少量から始めることで第2段階の薬剤としても使用されており、第2、第3段階を一括して使用できると考えられる。このことは、途中でオピオイドの種類を変更する必要がなく、薬剤の変更時の疼痛の増強や副作用の出現などのストレスなく鎮痛が維持できる可能性を示している。
しかし、オキシコドンもフェンタニル同様の問題を抱えている。疼痛時に使用できるレスキューの不在である。先にオキシコドンと塩酸ヒドロコタルニンの複合剤(パビナール注)について述べたか、いつでも使用できる剤形ではないため、レスキューとしては使用状況に制限がある。入院などの状況下では有用であり、モルヒネの副作用対策としてフェンタニルパッチに変更した症例でのレスキュー、特に腎機能障害の症例では有用性が高いと思われる。
,ターミナルケア(2003),13,1,14
#1
【5.4】
オキシコドンの鎮痛作用は投与経路によりモルヒネと逆転する。経口投与ではオキシコドンの方がバイオアベイラビリティーが高く、モルヒネの1.3〜2倍の鎮痛効果を持つ。静脈内投与では慢性痛に対しモルヒネの0.7倍、急性痛に対し1.3倍といわれている。皮下投与は癌性疼痛でモルヒネによる中毒症状が生じた場合のオピオイドローテーションとして用いられる。くも膜下投与では、オキシコドンがモルヒネの1/14、硬膜外投与では、1/10の鎮痛効果と報告されている。現在日本で入手可能なオキシコドン注射液は、塩酸ヒドロコタルニンが含まれる複合体であるが、ヒドロコタルニンの詳細な作用はわかっていない。
副作用に関しては、癌性疼痛では、モルヒネの方が悪心・幻覚等は強いという報告があるが、術後鎮痛対策に経静脈的に投与した場合は、モルヒネと差がないという。概してオキシコドンはどの投与経路でもモルヒネと比較して副作用は同等あるいは、少ないとされる。モルヒネとオキシコドンの徐放剤の比較では、有効性においては差はみられないとされている。一般にオキシコドンはモルヒネよりも幻覚の出現頻度は低いと報告されているため、モルヒネに起因する幻覚を伴うせん妄がある場合はオキシコドンヘの変更が薦められる。また、オキシコドンはモルヒネに比べて腎機能障害を持つ患者には使いやすいと指摘されている。近々わが国でもオキシコドン徐放剤が市販される予定であり、癌性疼痛管理においてモルヒネ製剤に並ぶ治療選択肢の一つになるものと期待されている。
,ペインクリニック(2002),23,12,1663
#2
【5.4】
【オキシコンチン錠の概算レスキュー開始量】
徐放製剤 | レスキュー製剤 |
| モルヒネ速放剤(塩酸モルヒネ錠、末、内服液) |
オキシコンチン錠1日量 | 1回: モルヒネ換算1日量の1/6 |
(1)モルヒネ換算1日量=オキシコンチン錠1日投与量×1.5倍
,緩和医療学(2005),7,1,26
#1
【5.5】
オキシコドンを含んだ製剤(パビナール注)はすでに市販されており、癌疼痛に対して使用可能である。
パビナールは塩酸オキシコドン8mgと塩酸ヒドロコタルニン2mgを含有する注射液で、激しい疼痛に対する鎮痛・鎮静、激しい咳そう発作に対する鎮咳、麻酔前投薬としての適応がある。
塩酸ヒドロコタルニンは、アヘンアルカロイドであるが、非麻薬であり、モルヒネ、オキシコドン、コデインの効果を増強する作用がある。それ自身が鎮痛、鎮咳、呼吸抑制作用を有する。
パビナールによる癌疼痛への応用例の報告は少ないが、活性代謝物かきわめて低い濃度であり、モルヒネによる副作用が問題になる腎機能低下例で有用性が高いと考えられる。
パビナールは、これらの患者において疼痛時のレスキューを担うことができる薬剤である。自験データでは、腎機能障害患者の疼痛時のレスキューとしてモルヒネとパビナールの比較では、客観的にも主観的にもパビナールの方が傾眠や眠気が少ない結果が出ている。オキシコドンとモルヒネの換算はすでに確立しているため、レスキューとしてもモルヒネの代替薬として有用である。
,ターミナルケア(2003),13,1,13
#2
【5.5】
トラマドールとオキシコドンは、経口投与した薬が循環血液中に達する割合(oralbioavailability)が大きいので、経口投与したときの鎮痛効果が大きくなる。非経口投与時のモルヒネとの鎮痛効力比は、トラマドールでは1/10、オキシコドンでは3/4である。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,425
#1
【5.6】
塩酸ペチジン:合成オピオイドで、末、錠、注射液がある。モルヒネとほぼ同じ薬理作用をもつが、抗コリン作動性作用もあり、強い痛みに使われる。鎮痛効力はモルヒネの8分の1であるが、投与量が多くなるとリン酸コデインよりも大きい鎮痛効果が得られる。痛みに対しては3時間ごとの投与が必要であり、大量(100mg/回)の反復投与では中間代謝産物ノルペチジンの蓄積による振戦、トゥイッチング、けいれんなどの中枢神経系副作用が多くなる。このため癌疼痛治療の場合のような長期反復投与は推奨されていない。
,オピオイドのすべて(1999),,,85
【5.6】
塩酸ペチジン(オピスタン)は鎮痛効果はモルヒネの1/8で、効果の持続は2〜4時間である。筋注、皮下注、経口、直腸内投与のいずれの経路でも有効。経口投与では筋注や皮下注の1/3の効果。鎮咳作用なし。胆管やOddi括約筋に対する痙攣作用はモルヒネより弱い。便秘もより軽少である。トランキライザーとの併用では合併症を生じやすい。注射70〜100mg以上を数時間以内に繰り返し投与すると振戦、興奮、痙攣を生ずる可能性あり、腎機能障害の患者では危険性が更に高くなる。大量が必要な場合はモルヒネに切り替える。
,痛み治療マニュアル(1993),,,62
#1
【5.6】
塩酸ペチジンはモルヒネより作用時間が短く、鎮咳作用はないが、胆道やオディ括約筋などの平滑筋に対する痙縮作用が少ないので、胆道の疝痛にはモルヒネより好都合で、汎用される。
縮瞳せず、アトロピン様作用があり、便秘を起こさせない。代謝産物のノルペチゾンが蓄積されると、特に腎障害時、振戦や痙攣などの中枢神経系の興奮が起こる。
,疼痛コントロールのABC(1998),,,76
#1
【5.6】
鎮痛目的としてのペチジン注射は、1回35〜50 mg皮下注、筋注(適宜増減)で、必要に応じて3〜4時間ごとに追加する。
,疼痛コントロールのABC(1998),,,78
【5.6】
ペチジンの大量投与はコデインよりも鎮痛効果は大きいが、モルヒネと同効量のペチジンを用いた場合、嘔吐や呼吸抑制などの副作用も同程度出現する。特にペチジン200mg以上を3時間毎に投与した場合、中枢神経系に対する副作用(振戦、筋痙縮など)の頻度が著しくなるという。また、腎障害時には中枢神経系に対する副作用が多くなるため、ペチジンの投与は控えるべきである。このようにペチジンがモルヒネのすべてを代替できるわけではない。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,101
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,105
#1
【5.6】
人気がある薬剤で世界的に知られているメペリジン、ペチジンは問題がある。世界的に慢性疼痛に関しては、ペチジンを使用しないようにする方がよいと言われている。何日間か、あるいは数週間か継続的にペチジンを持続投与すると、中枢神経系の興奮が引き起こされ、それによって、振戦、筋の攣縮、痙攣、興奮を起こす。したがって、ペチジンは、2〜3日の投与であれば大丈夫かもしれないが、長期投与には向かない。
また日本では、ペチジンは注射薬だけで用いられており、経口投与としては用いられていないが、慢性疼痛の場合には、できるかぎり経口投与により用いるようにする。
,ホスピスケアのデザインPART2 疼痛と告知(1993),,,48
【5.7】
現在、癌における疼痛治療にモルヒネは不可欠となってきたが、麻薬投与に対する抵抗感、麻薬中毒に対する不必要なおそれと不安が、患者側はもとより医療者側にも根強く残存していることも事実である。
このような観点からWHOの3段階癌疼痛治療指針を見直すと、その第2段階である弱い作用のオピオイドであるコデインによる治療の適応となる症例は実際より多いと推察される。
(処方の実際)
WHOでは、リン酸コデイン1回30〜130mgを1日4〜6回服用(必ず非オピオイド系鎮痛薬を加える)としている。
(例1) (第1回目の処方)
リン酸コデイン 30mg(高齢者では20mg)
ピリナジン 500mg
以上1回分。1日4回(食後と就寝前)
投与開始後12〜24時間以内に患者の反応を問診する。維持量が決まるまでは1〜3日分の処方とし、その患者の痛みが十分除かれるまで増量する。
リン酸コデインの増量の方法は、1回30(20)→40→50→60→80→100mgとする。併用するアスピリンなどは一定としておいたほうが、リン酸コデインの鎮痛効果が判定しやすい。
1日量80〜300mgでコントロールされる例がほとんどである。鎮痛効果の有効限界は1日量で500〜600mgであるが、経験上300mgを超える頃よりモルヒネ製剤への転換を考慮するとよいようである。本段階に固執するあまり、鎮痛が不十分のままの状態におかぬよう注意も必要である。
なお、経口投与においては、リン酸コデイン30mgはアスピリン650mgとほぼ同等の鎮痛効果を有する。
(副作用)
リン酸コデインはモルヒネと同じオピオイド系鎮痛薬であるので、出現する副作用の種類もモルヒネ使用時と同様である。しかし、その発生頻度はモルヒネ使用時より少ないと思われる。その処置はモルヒネ使用時と同様である。
(治療効果)
報告では、この段階で治療された例の約30%は本法のみで完全に除痛され、約14%は不完全ながら十分満足のゆく鎮痛が得られていた。残りの約6割の症例では、一度良好な鎮痛を得たものの再び増強したり、リン酸コデインを増量しても満足のゆく鎮痛が得られず、WHO方式の第3段階に移行した。
(モルヒネへの移行)
リン酸コデインの鎮痛効果はモルヒネの約1/6〜1/12程度であるので、本剤からモルヒネ製剤への移行時にはこの値を考慮するが、リン酸コデイン300mg/日以下の状態でモルヒネ製剤に移行する場合には、モルヒネ製剤60mg/日からはじめて良好な鎮痛を維持している。
,臨床と薬物治療(1990),,58,89
#1
【5.7】
リン酸コデインは、原末、10および100倍数、20mg錠に加え、桜皮エキスを含有する液剤(10mg/mL)も人手可能で、鎮痛目的に使用する場合は1回量として30mg以上の投与を必要とし、ceiling effect(有効限界)は130mg/回ほどである。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,222
【5.7】
リン酸コデインで十分な除痛が得られている場合でも、4時間ごとの投与を繁雑と感じる場合がある。この場合はMSコンチンへの移行を考えた方がよい。この場合でも、いったんモルヒネの水溶液の4時間ごとの投与を経てからMSコンチンへ移行した方が安全である。なぜなら除痛力価を等しくした量のリン酸コデインとモルヒネにも除痛効果や副作用に相違がみられるためである。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,57
#1
【5.7】
わが国において、WHOによる3段階疼痛治療法は医療従事者に対してかなり普及したが、一般市民への普及は十分ではない。麻薬に対する不安や恐怖心は依然として強く、「モルヒネは安全な優れた鎮痛薬です」との説明を受け入れない患者も多い。激しい痛みに苦しみながらもモルヒネを強く拒否する患者に対しては、リン酸コデインの服用を勧めている。
「薬局でも市販されている咳止め薬です。何年も服用している結核の方もいますが、中毒になることはありません。」
また、痛みが若干でも緩和されれば次のように説明している。
「薬局の咳止め薬に含まれているものですが、病院では麻薬として取り扱います。」
「リン酸コデインは痛みも取りますが、咳を止める作用が強い薬です。一方、モルヒネは咳も止めますが、痛みを止める作用が強い薬です」
「リン酸コデインは体の中で一部がモルヒネになることも研究からわかってきました。○○さんの痛みにあった痛み止めを試してみませんか? 痛みはずっと楽になると思います。」
具体的な説明方法の1例を記述したが、コデインはあくまでも麻薬に対する不安を払拭し、スムーズにモルヒネヘ移行するためのステップと考えている。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,250
#2
【5.7】
コデインはモルヒネの約1/10の鎮痛効力であり、モルヒネの部分的プロドラッグである。
人口の約10%にあたる人々はコデインを体内でモルヒネに変換できない。コデインによって鎮痛効果がほとんど得られない患者でも、副作用は同じ頻度で発生する。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,39
#2
【5.7】
(リン酸コデインの代謝)
主となる鎮痛作用はチトクロームP-450(アイソザイム2D6 : CYP2D6)の触媒下に、0-脱メチル化を受け産生されるモルヒネが、さらにグルクロン酸抱合を受けたmorphine-6-glucuronide (M-6-G)による。この代謝経路はコデイン代謝全体の10%以下と非常に少ない
,緩和医療と薬物相互作用(2003),,,65
#1
【5.8】
ブプレノルフィンはモルヒネの代替え薬として中等度〜高度の強さの痛みの治療に用いられる。
モルヒネは気管支収縮作用があるため、気管支喘息発作中の患者には禁忌となっているものの、ブプレノルフインは気管支喘息を有する患者への投与が可能である。
,麻酔科診療プラクティス 4癌性疼痛管理(2001),,,28
【5.8】
癌性疼痛にはじめてレペタンを持続皮下注する場合1日0.2〜0.4mgから始める。すでに経口や坐薬で投与されていた患者はその量の半分の量から始める。
,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,148
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,173
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,39
#1
【5.8】
レぺタン注(ブプレノルフィン)
オピオイド共通の副作用である悪心、嘔吐、眠気、呼吸抑制の頻度はモルヒネ注よりやや少ないとされるが、吐き気や嘔吐の出現がモルヒネよりも多い印象がある。
耽溺性、依存性はペンタシン注より生じにくい。
血圧上昇、血管抵抗上昇など循環への影響もペンタジンより少ないので心筋梗塞の強い痛みにも用いられる。
単回使用では鎮痛効果、副作用ともモルヒネ注より長く持続する。
μ受容体の部分作働薬であるが、モルヒネよりはるかに受容体への親和性が高いので、モルヒネと併用すると部分的に競合し、ペンタシンよりも強い抵抗性を示す。したがってモルヒネとレペタンは原則として併用しない。
過量投与による呼吸抑制はナロキソンで拮抗されにくいのでドプラム(ドキサプラム)を使用する。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,92
【5.8】
(癌性疼痛に対するレペタン持続皮下注入法)
開始時に0.04mg〜0.06mgを早送りし、1日0.2〜0.4mg程度の注入速度より開始する。鎮痛効果を見ながら1日3〜5割ごとに増量する。最大投与量は1日2mgまでとされる。
,がんの症状マネジメント(1997),,,40
【5.8】
(レペタン持続皮下注入法)
開始時に血中濃度を上昇させるために、0.04〜0.06mgを皮下に早送りしてから開始する。0.2mg/日程度の速度より開始し、必要に応じて1日投与量の3〜5割の増減を目安として調節する。レペタン坐剤は経口投与量とほぼ同量でよいと考えている。
,ターミナルケア(1995),7,1,46
【5.8】
(癌性疼痛に対するレペタンの持続静注投与量)
レペタンは0.05〜0.1mgを急速注入して血中濃度を上昇させた後、0.48mg/日を標準量としているが、肝腎機能障害、高Ca血症の存在、高齢者など副作用が予想させる場合はこの半量から開始する。さらに副作用への予防的な対応が必要な場合には生食やプリンペランで2倍に希釈し0.12mg/日から開始。一般的な増量法は0.48-0.72-0.96-1.44-1.92mg/日である。疼痛時は0.05mgを急速注入する。
,がんの症状マネジメント(1997),,,88
【5.8】
(レペタン持続皮下注入法開始のマニュアル)
レペタンによる持続皮下注入法を行う際には、本法の施行に先行して行われていた鎮痛法を検討することから始める。
以下は、それぞれの場合における開始法のマニュアルである。
(1)WHO方式癌疼痛治療法の第1段階が行われていた場合は、レペタン0.1mg皮下あるいは筋肉内に注射して、引き続いて0.2mg/日の持続皮下注入を開始する。
(2)WHO方式癌疼痛治療法の第2段階が行われていた場合は、コデインの1日内服量(mg)の1/750量(mg)のレペタンを1日量として持続皮下注入を開始する。この際も注入開始に先立って、レペタン0.1mgを皮下あるいは筋肉内に注射する。
コデインの代替剤としてレペタンの坐剤が用いられていたときは、1日坐剤与薬量(mg)の1/2量(mg)のレペタンを1日量として、持続注入法を開始する。
レペタンの内服が用いられていたときは、1日内服与薬量(mg)の1/5倍量(mg)のレペタンを1日量として、持続皮下注入を開始する。いずれの場合も注入開始に先立って、レペタン0.1mgを皮下あるいは筋肉内に注射する。
(3)ソセゴン、スタドール、レペタンといった拮抗性鎮痛薬の頓用注射を受けていた患者は、鎮痛効果を安定したものにするためにレペタンの持続皮下注入法にした方がよい。この場合の初期投与量はどの程度の量の鎮痛薬を用いていたかによって異なるが、一応の目安としては、レペタン0.1mgの皮下注射に引き続いて、レペタンを1日量として0.2〜0.4mg持続皮下注入する。
,癌の痛みハンドブック(1992),,185
【5.8】
(癌性疼痛に対するモルヒネ、レペタンの持続静注)
レペタン、モルヒネとも、24時間後の除痛効果と副作用によって判定し増量するが、疼痛時の急速注入が3回/日以上必要な場合には1日量を増やしている。
,がんの症状マネジメント(1997),,,89
#1
【5.8】
(レペタン筋注)
臨床的には筋肉内投与の場合、投与後30分で作用が現れ始め、最大効果は3時間後にみられ、鎮痛効果持続時間は6〜9時間に及ぶ。したがって、この場合は8時間ごとに投与することが望ましい。
坐剤を直腸内に投与した場合は、筋肉内投与に比べ血漿中濃度の上昇は緩やかで、用量反応性がみられる。効果発現時間は投与後約30分からみられ、その作用は約8〜12時間持続する。したがって8〜12時間ごとに反復投与することが望ましい。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,106
#1
【5.8】
(レペタン坐薬)
軽度から中等度の癌疼痛を有する患者を対象として、ブプレノルフィンの坐剤0.2mgと注射薬0.2mgとを投与し、鎮痛効果について二重盲検法に基づいて比較検討を行った結果によると、両群間において疼痛程度の推移に差が認められていない。つまりブプレノルフィンは同量であれば坐剤も注射剤も鎮痛効果は同等と考えられ、切り替えは同量でよいといえる。 一方、経口投与の場合はbioavailabilityが13%と低く、肝臓で速やかに代謝されるため効果が不十分とされている。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,106
【5.8】
レペタンは経口投与が有効であるが、経口では初回通過により代謝を受けるので舌下投与に比べて投与量を多くしなければならないと考えられている。0.2mgの舌下投与は同量の筋注あるいは0.05mgを硬膜外投与した場合と同等の鎮痛効果があると報告している。
,ターミナルケア(1998),8,2,128
【5.8】
レペタン内服液は注射剤を精製水で薄めて1回量5〜10mLとなるように調製する。その特徴は長時間作用性で精神神経系副作用が少ない(レペタンによる混乱は非常に稀である)。
1回0.1mg/5mL、1日4回より開始。
鎮痛効果をみながら1〜3日毎に3〜5割増減。
(1日量0.4mg→0.6mg→0.8mg→1.2mg→1.6mg→...)
経口の最大投与量は4.0mg/日
,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,26
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,27
【5.8】
レペタンの経口投与では、起床時、12時、17時に各0.1mg、就寝時に0.2mgの計0.5mgを初回1日量とする。増量は0.5→1.0→1.5→2.0→3.0→4.0(有効限界)mg/日とする。
経口不能な場合、注射薬を舌下投与することにより同様に鎮痛効果を得ることが出来る。
,今月の治療(1996),4,4,22
【5.8】
レペタンカクテル(内服)は1回投与量を10mL、1日投与量は40mL/分4を基準とする。患者の嗜好によってバニラ味、レモン味等を選んで味付けする。
レペタン注 2mL(2A)
レモンシロップ 4mL
パラベン 適量
常水 適量
−−−−−−−−−−−−−−−−−
1日分 40mL
レペタンの投与量が多いときは上記のレペタンの量のみを変更する。
,がん終末期の症状コントロール(1995),,,187
#1
【5.8】
経験的に、レペタン内服の鎮痛力価はモルヒネ内服の10〜20倍であり、鎮痛効果持続時間は数時間程度と考えているが、レペタンカクテルは、ときに強い嘔気・嘔吐のため継続困難になることがある。1回量あるいは1日量の天井効果は不明であるが、1回量が1.0mg以上では吐き気のために使用できないことが多い。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,68
【5.8】
レペタンの副作用として、船酔いのような嘔気・めまいがあり、高頻度で出現するので、予防的にノバミンを投与する。30mg分3で使用しているが、経口不能の場合は点滴内に追加する。
,今月の治療(1996),4,4,23
【5.8】
レペタンはモルヒネに比べ嘔気、嘔吐、混乱、便秘の出現率が低く、一方、めまいはレペタンに特徴的な副作用と考えられる。
,ターミナルケア(1995),7,1,45
【5.8】
レペタンは注射より経口の方が、目眩や吐き気などの副作用が弱い印象がある。
,治療(1995),77,3,168
#1
【5.8】
ブプレノルフィンの心臓血管系の作用は、心拍数の減少、血圧低下などであるが、モルヒネと同様に健常人にはほとんどみられない。
通常量のブプレノルフィンは非経口投与のモルヒネ10mgと同程度の呼吸抑制があるが、発現はより遅く効果時間はより長くなる。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,73
#1
【5.8】
筆者には、レペタンは他のオピオイド鎮痛薬に比べて吐き気、嘔吐、めまい、幻覚、もうろう状態などの副作用発現の個体差が大きな鎮痛薬という印象がある。例えば、モルヒネでは吐き気はみられても実際に吐くことは少ないのに、レペタンでは吐き気が生ずるとその程度は強くしばしば吐いてしまう。また、レペタンの効果持続時間(8時間以上ときに10数時間)が塩酸モルヒネ(数時間)よりもずっと長い分、一度吐き始めると、半日以上にわたって断続的に嘔吐するような状況に陥ることもある。
漸増しても疼痛緩和傾向がみられなかったり、副作用が強くて患者の不満が大きいときは、レペタンに拘泥せずに速やかに中等度から高度の痛みに用いるオピオイド鎮痛薬であるモルヒネに切り替える。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,69
【5.8】
レペタンの過量投与時の呼吸抑制にはナロキソンは無効である。このためドプラムを使用する。
(中枢神経抑制剤による中毒時のドプラムの使用法。0.5〜2mg/kgをゆっくり静注する。必要に応じて通常量を5〜10分間間隔で投与し、ついで1〜2時間間隔で投与を繰り返す。点滴静注の場合は1.0〜3.0mg/kg/時の速度で投与する。,ドプラム添付文書より)
,痛み治療マニュアル(1993),,,59
#1
【5.8】
ブプレノルフィンにより生じる呼吸抑制は、ナロキソンをあらかじめ投与することで予防することはできるが、呼吸抑制が生じた後のナロキソン投与では拮抗させることができない特徴がある。
,ペインクリニックで用いる薬100+α(2002),,,13
【5.8】
レペタンが効果不十分でモルヒネに切り替えるときはレペタンの1日投与量(mg数)を100倍した値を6等分して、モルヒネ投与開始1回量(mg数)とする。
,モルヒネの副作用対策(1990),,2
,最新医学(1990),45,4,823
【5.8】
(モルヒネからレペタンへの切り替えは禁忌)
モルヒネの投与を受けている患者にレペタンを投与すると競合的に拮抗してモルヒネの作用を減弱する。長期にわたってモルヒネの大量投与を受けている患者では退薬症状を生じる可能性もあり禁忌である。
逆にレペタンからモルヒネへの切り替えにはこのようなリスクはない。
,痛み治療マニュアル(1993),,,63
#1
【5.8】
一般的にブプレノルフィンはモルヒネの代わりに、持続皮下注で用いられる。第3段階の第1選択薬はモルヒネであるが、副作用などによりモルヒネが使用困難な場合にはブプレノルフィンを用いることがある。しかし、数日に渡りモルヒネを投与している場合や、大量のモルヒネを処置した後にブプレノルフィンを投与すると、モルヒネに拮抗して激しい疼痛を訴えたり、退薬症候(離脱症状)を誘発することがあるので、このような場合には使用してはならない。
ブプレノルフィンのオピオイド受容体に対する結合性が非常に強いため、その薬理作用は麻薬拮抗薬であるナロキソンでも容易に拮抗することはできない。たとえば、ブプレノルフィンの投与により呼吸抑制から呼吸不全、呼吸停止に至ったという報告があるが、このような場合にナロキソンの効果は確実でない。対応としては人工呼吸、ドキサプラムが有効(ただし、心筋梗塞症にはドキサプラムは投与不可)である。(参照→【3.1.14】(レペタンとモルヒネの相互作用))
,ターミナルケア(2003),13,1,35
【5.8】
レペタンからモルヒネへの変更は、レペタンの有効限界に達する以前でも効果が不十分な場合や、レペタンの嘔気が強い場合に行われる。また、まれにモルヒネで便秘に難渋する場合レペタンへの変更もあり得る。
,がんの症状マネジメント(1997),,,90
参照→【3.1.14】(レペタンとモルヒネの相互作用)
【5.9】
(スタドール持続注入法)
これらの薬剤には有効限界があること、そしてモルヒネへの変更時に精神障害が出現したり、鎮痛効果が不安定になったりすることがあるため、適応が限定される。適応として使用期間が限定されるような場合(手術や放射線療法で痛みの軽減が期待できる場合のつなぎ)や、副作用のためモルヒネの使用を断念せざるを得ないような場合などである。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,70
【5.9】
レペタン、スタドール持続注入法における両剤の使い分けは、鎮痛作用と吐き気で決めている。催吐作用はレペタンが強く、鎮静作用はスタドールが強い。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,71
【5.9】
(癌性疼痛におけるレペタン、スタドールの経口投与法)
どちらも経口剤がないため、注射薬1Aにワインと水を加えて経口投与している。2剤とも内服ではリン酸コデインとほぼ同程度の鎮痛力と考えられている。
2剤を比較すると、レペタンは鎮痛効果も大きいが副作用も強く、スタドールは副作用も少ないが、鎮痛効果はレペタンには劣ると思われる。長期連用の場合に耐性や依存性の発生はスタドールの方が少ない傾向が見られた。
,痛みの薬物療法(1990),,,203
【5.9】
スタドールはペンタゾシンと作用は似ていて、天井効果もあるが、効果持続時間が長い(半減期6時間)、精神作用が少ない、組織障害性が少ないなど、ペンタゾシンより好ましい点がある。ただ、呼吸抑制はより強い。
,治療(1995),77,3,170
【5.10】
セダペインはソセゴンとほぼ同等の鎮痛効果を持ち、嘔気、便秘、呼吸抑制、幻覚、不快感などがほとんど見られない。患者が肝機能障害、腎機能障害、電解質異常、高齢、高カルシウム血症などの状態でモルヒネや拮抗性鎮痛薬投与で副作用が予想されたり、実際に副作用が出現した場合はセダペインが好ましい。
持続皮下注入法や持続静注法で投与し、開始量は18〜36mg/日。増量は36→54→72→108→144mg/日とし、これ以上はレペタンまたはモルヒネへ移行している。疼痛時早送りは0.25mL(3.75mg)/回。
,今月の治療(1996),4,4,23
#1
【5.10】
セダペイン注(エプタゾシン)
オピオイド受容体のうちκにのみ作用すると考えられているオピオイド鎮痛薬。耐性、依存性の形成はほとんどみられず、呼吸抑制、悪心、嘔吐、眠気など、オピオイドに特有の副作用も非常に少ない。モルヒネの吐き気を嫌がる患者などで代替薬として使用できる。静注、筋注、皮下注、硬膜外注入のいずれも可能で応用範囲が広い。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,92
#1
【5.10】
(セダペイン皮下注入)
投与経路を皮下注入に変更する際、モルヒネやレペタンの内服が少量であったり、副作用が強くて増量できないでいたような症例では、セダペインの皮下注入も考える。セダペインは吐き気や過度の鎮静、便秘などの副作用をほとんど起こさない。モルヒネ皮下注に対する換算量は2〜4倍であるから、モルヒネ1日60 mgの内服症例では、40〜120 mg/日のセダペイン持続皮下注ということになる。セダペインによる鎮痛には天丼効果があると思われるが、有効限界量については定説がない。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,53
【5.10】
レペタンで嘔気、嘔吐が強い場合、またはモルヒネ、フェンタネストで副作用がコントロール困難な場合にセダペインが有効である。本剤は副作用は非常に軽微である。ただし、鎮痛効果はソセゴンと同等。このため、一時的な副作用回避の手段としては確実だが最終的にはレペタン、モルヒネ、フェンタネストへの変更が必要になる場合が多い。
,がんの症状マネジメント(1997),,,90
#1
【5.10】
オピオイド導入時に副作用のコントロールができない場合、セダペインを選択する方法もある。本剤は嘔気、呼吸抑制、幻覚、不快感などはほとんど見られない。注射剤の経口投与は苦みが強く困難だった。
,今月の治療(2000),8,3,44
【5.10】
(癌性疼痛に対するセダペインの投与)
セダペインは3.25〜7.5mgを急速注入した後、18mg/日または36mg/日より開始する。レペタン、モルヒネから変更した場合は、36mg/日または54mg/日より開始している。増量は18-36-54-72-108-144mg/日としている。疼痛時は3.25mgを注入。有効限界についての報告はないが、150mg/日で効果が不十分な場合レペタン、フェンタネスト、モルヒネなどに変更している。
,がんの症状マネジメント(1997),,,91
【5.10】
セダペインは通常原液にて18mg/日、小児や高齢者の場合には2倍希釈液にて9mg/日を開始量とするのが原則である。ただし、その前に使用していたモルヒネの量によっては増減してかまわない。増量法は18-36-54-72-90-108-126-144-162-180-198-216-234-252-270-288mg/日とする。
,ターミナルケア(1995),7,1,49
【5.10】
セダペインはソセゴンと同等の鎮痛効果で、ソセゴンの副作用を除去した薬剤である。モルヒネに比べ、眠気、嘔気、混乱、便秘などの副作用が著しく少ないが、鎮痛効果は弱い。モルヒネで副作用が出現した患者さんや、副作用が予想される患者さんへの対応としては有用である。ただし、セダペインで副作用回避は期待できるものの、除痛が困難な場合は、フェンタネストの持続静注法を使用する。フェンタネストはモルヒネに比べて嘔気や眠気、便秘が少ない。
,ターミナルケア(1995),7,1,42
【5.10】
セダペインに有効限界は288mg/日の範囲では存在しないと思われる。ただし、セダペインはモルヒネ、レペタンと比較して、鎮痛効果が劣るため、急速に増量しても除痛が不十分な場合は、モルヒネ、レペタンに再度切り替えるか、フェンタネスト、ケタミンなども考慮しなければならない。
,ターミナルケア(1995),7,1,50
【5.10】
セダペインは副作用はほとんどない。一部の患者が眠気を訴えるが、ほとんど問題になることはない。
,ターミナルケア(1995),7,1,50
#1
【5.11】
(ペンタジン注<ペンタゾシン>)
オピオイド共通の副作用はモルヒネより少ない。麻薬指定外であるため煩雑な使用手続きがいらず、多用される傾向にあるが、他のオピオイドに比べ耽溺、依存性(とくに精神依存)を起こしやすく、過度の鎮静、幻覚、錯乱など好ましくない精神作用や、血管抵抗の上昇、血圧上昇など循環刺激作用を起こしやすい。
大量連用の後、急に中止すると振戦、興奮、動悸、冷汗などの禁断症状を生じる。
また高齢者など、生理機能の低下しているものでは呼吸抑制が強く現れ、死に至ることもある。ペンタジンによる呼吸抑制は、ナロキソンで拮抗できる。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,91
#1
【5.11】
ペンタゾシン(ソセゴン錠)
(1)薬理
薬物動態学的には、生体内利用率20%と低く、最高血中濃度に到達するまでの時間は1時間、半減期は3時間、作用時間は2〜3時間、コデインに対する力価比は1と報告されている。
(2)特徴
経口投与量は50mg分2または75mg分3から開始し、最大投与量は300mgとされている。副作用は、眠気、発汗、めまい、頭痛、血圧上昇、頻脈、嘔気などがある。しかし、嘔吐はモルヒネと比較して少ない。高用量では呼吸抑制が生じるが、ナロキソンによリ拮抗させることができる。慢性疼痛などでは依存性が認められ、かつ反復する筋注(ソセゴン注)は筋肉や皮下組織の広範な線維化を引き起こす。
,ペインクリニック(2002),23,12,1630
#1
【5.11】
ペンタゾシン錠は、各種癌疼痛に対する鎮痛を目的に使用される。1回25〜50mgを投与し、必要に応じ追加投与する場合には3〜5時間の間隔をおく。当初、ペンタゾシン錠はWHO方式癌疼痛治療法の3段階除痛ラダーにおける第2段階のコデインの代わりに使用することを目的に開発された。しかし、日本では第2段階を経ずに第3段階に進むことが多く、第2段階が定着していないこと、またペンタゾシンは麻薬拮抗作用、精神症状、さらに鎮痛効果が弱く、天井効果を示すことから使いにくい薬物であるとされ、現在あまり使用されることはない。また、第3段階において、ペチジン、ペンタゾシン、ブトルファノールはモルヒネの代わりとしての利点は少ないといわれている。
ペンタゾシンに過敏症の患者、頭部傷害または頭蓋内圧が上昇している患者、さらに重篤な呼吸抑制状態または全身状態が著しく悪化している患者には禁忌である。
(ペンタゾシンの問題点)
重大な副作用として、ショック(顔面蒼白、呼吸困難、チアノーゼ、血圧下降、頻脈、全身発赤など)、呼吸抑制(0.42%)、神経原性筋障害(脱力、歩行困難〈大量連用による四肢の筋萎縮〉)、中毒性表皮壊死症などを示すことがある。呼吸抑制が発現した場合には人工呼吸を行い、必要に応じ酸素吸入も行う。さらに、ドキサプラムの投与も有効であるが、麻薬拮抗薬(レバロルファン)は無効とされている。
さらに、重大な副作用として依存性がある。基礎研究において、ペンタゾシンは頻回投与することにより明らかな身体依存を形成し、モルヒネよりは弱いがモルヒネ様の退薬症候を示すことが報告されている。さらに、薬物自己投与法や条件づけ場所嗜好性試験において、明らかな精神依存を誘発することも報告されている。このように、ペンタゾシンは明らかな精神および身体依存を形成するため、法的には麻薬および向精神薬取締法の向精神薬第2種として取り締まられている。
臨床においても、使用中の快感が誘因となって強迫的薬物探索行動を生じさせ、精神依存を形成することがある。また、大量連用後の急な中止により、手指振戦、不安、興奮、悪心、動悸、冷感、不眠、まれにせん妄などの自律神経症状を主とする退薬症候(離脱症状)を起こすことがあるので、中止する場合は徐々に減量する。したがって、安易な使用や漫然とした使用を避け、さらにドクターショッピングなどにも十分注意する必要がある。また、残念なことにペンタゾシンもブプレノルフインと同様、医療者の乱用が多いことから、使用後のバイアルの残りの処分や盗難などにも厳重な注意を払い、厳重な保管管理を行わなければならない。
ペンタゾシン錠には、乱用防止のため麻薬拮抗薬ナロキソンが配合されている。本錠剤を経口投与すると、配合されているナロキソンは初回通過効果を受けて不活性化され、ペンタゾシンのみ薬理効果(鎮痛作用など)を示す。しかし、本錠剤を粉砕し、生理食塩液に溶解し、その上澄みを静注で乱用すると、ナロキソンがペンタゾシンに拮抗してまったく効果を示さない。また、麻薬依存患者が投与した場合には退薬症候(離脱症状)を誘発し、さらに肺塞栓、血管閉塞、潰瘍、膿瘍を引き起こすなど、重度で致命的な事態を生じることがある。このような機序でペンタゾシン錠は乱用防止をはかっている。
,ターミナルケア(2003),13,1,37
#1
【5.11】
ペンタゾシンは軽度ないし中等度の痛みに用いるが、長期反復投与を行うと精神症状が現れることが多いので、American Pain Society (1987)は癌患者の痛みへの長期反復投与を避けるように勧告している。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,222
【5.11】
ソセゴン内服錠の鎮痛効果は、モルヒネの1/3〜1/6程度、本剤50mgの経口投与はソセゴン筋注15mgとほぼ同程度であると報告されている。
副作用は悪心、嘔吐など約10%にみられるがモルヒネに比べて少ない。
本剤50mgを投与した場合の鎮痛効果発現時間は約1時間、持続時間は約7時間と報告されているので、6時間毎の定期的な投与が望ましい。
,臨床と薬物治療(1998),17,1,65
#1
【5.11】
ペンダゾシン内服は1回量100〜150mg程度(4〜6錠)で鎮痛効果の上限に達するようであるが、十分な使用経験がない現在、ペンタゾシン1日9錠でも十分な鎮痛が得られないときは、モルヒネに切り替えることにしている。
余談だが、ペンタゾシン注射薬依存症の患者に対して、ペンタゾシン錠が同一成分であることを十分に説明したうえで内服に切り替え、ペンタゾシン注射薬依存症から離脱できた症例を1例経験している。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,67
#1
【5.11】
ペンタゾシン錠は鎮痛作用が発現するまで60分かかる。鎮痛効果の持続時間は数時間である。3か月以上の長期の定期的連用によっても精神症状がでることはないようである。主な副作用は、使用開始初期に、吐き気や胸焼けなどの消化器症状やめまい・頭がボーッとする感じが、内服1時間くらいで発現することが多い。これらは、安静にしているとさらに1時間くらいで軽減消失する。このような副作用自体、服用開始1週間以内で通常消失する。以上のことから、筆者は、リン酸コデインの代替薬として使用できると考えている。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,66
#1
【5.11】
ペンタゾシン25mg錠の鎮痛力価は、ペンタゾシン筋注5mg、モルヒネ筋注2mg、モルヒネ内服5mg、リン酸コデイン内服30 mg程度に相当すると考えている。
WHOは、連用により精神症状が出やすいこと、鎮痛効果に上限があること(天丼効果)、鎮痛効果持続時間が短いこと、連用により筋に非常に硬い硬結(ときに注射も困難となるほどである)をつくることなどから、ペンタゾシン注射薬を癌疼痛治療薬として用いることには否定的である(WHO方式癌疼痛治療法の鎮痛薬リストにペンタゾシンは記載されていない)。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,65
#1
【5.11】
ペンタゾシン内服で満足のいく疼痛管理が行えない場合には、リン酸コデインもしくはモルヒネの内服に変更するべきである。われわれはペンタゾシンを1日量200mg程度まで増量して効果が認められない場合には上記薬物に変更している。ペンタゾシンのpotencyがモルヒネの1/6であることからペンタゾシン1日量250mgを内服している場合には、モルヒネの1日量は約40mgに換算される。
,麻酔科診療プラクティス 4癌性疼痛管理(2001),,,31
【5.11】
ペンタゾシンは持続性の疼痛の治療には不適当である。経口的に投与すると50mgでもコデインとアスピリン(2錠)併用よりも効果が弱い。これよりも多い量を数週間規則的に与薬すると、悪心、嘔吐、下痢、めまい、悪夢、幻覚および不快などの耐え難い副作用が生じる。ペンタゾシンは習慣性にならないような、あまり激しくないような短期間の痛み、特に手術後の痛みに有効である。
,終末期ケアハンドブック(1993),,,105
【5.11】
ソセゴンは超短時間型作用薬で、部分的拮抗薬であるため、他剤に変更する際は非常に危険である。また、不快感や幻覚も起こしやすい。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,38
【5.11】
急性痛に対しソセゴンを使用した場合の精神症状の出現頻度は、7〜10%であったと報告があるが、末期癌患者においては、これより多く出現すると考えられている。また、鎮痛持続時間が短い点、数回使用しただけでも爽快感や多幸感などが現れる可能性がある点などを考慮して、癌治療には適さないとの報告もある。一般病棟では現在でも癌性疼痛に対して筋注頓用薬として頻用されているが、上記の理由からできるだけ避けるべきである。
,ターミナルケア(1998),8,2,130
#1
【5.11】
ペンタゾシンの中枢神経抑制作用にはナロキソンの投与が有効である。
また、ペンタゾシンはセロトニン神経系賦活作用を有する抗鬱薬(アミトリプチリンや塩酸サフラジン)の作用を増強することがあるので、併用には注意が必要である
,ターミナルケア(2003),13,1,38
#1
【5.11】
ソセゴン錠の副作用として嘔気、眠気などが報告されノバミンの予防投与が有効と考えられる。有効限界は12錠/日(300mg)で、6錠/日のステップでモルヒネへの移行をした方がよいと考える。
,今月の治療(2000),8,3,45
#2
【5.11】
(ソセゴンとサリチルアミドの相互作用)
機序としては、ともにグルクロン酸抱合を受けるため、相互の併用でグルクロン酸トランスフェレーゼの抱合を競合するとされている。これにより、ペンタゾシンのCmaxが2倍上昇し、サリチルアミドのCmaxが2.5倍上昇する
,緩和医療と薬物相互作用(2003),,,75
#2
【5.11】
(ソセゴンとノイロトロピンの相互作用)
鎮痛薬の作用を増強することがあるため、鎮痛薬の減量等慎重投与が必要となる。マウスにおいて、ペンタゾシンとノイロトロピン併用により、鎮痛効果の協力作用が認められ、鎮痛作用の持続時間が延長したと報告されている
,緩和医療と薬物相互作用(2003),,,75
#1
#1
【5.12】
トラマドール(クリスピン)
(1)薬理
生体利用率は70%と高く、最高血中濃度に達するまでの時間は2時間、排泄半減期は6時間、鎮痛効果の作用時間は4〜6時間、コデインとの力価比は2である。またモルヒネとの力価比は、注射では1/10、経口では1/5である。
(2)特徴
トラマドールは同じ鎮痛効果を発揮するモルヒネ量と比較した場合、便秘や呼吸抑制の発現が少ない特徴がある。高血圧、うっ血性心不全、腎不全患者においても使用可能である。本邦では注射薬のみ利用可能である。通常1回量100〜150mgを用いる。以後必要に応して4〜5時間毎に投与する。経口薬は約100カ国で発売されており、本邦でも現在、癌疼痛と術後疼痛について経口薬の治験が進行中である。
,ペインクリニック(2002),23,12,1630
#1
【5.12】
トラマドール(クリスピン注1号)は中枢作用の合成鎮痛薬であり、オピオイドの特性と非オピオイドの特性の双方を特っている。消化管で迅速に吸収され、全身循環系に達する割合は約7O%である。経口投与したコデインやモルヒネとの効力比については議論があるが、トラマドールはコデインの約2倍、モルヒネの約5分の1の効力を持ち、非経口投与したときにはモルヒネの約10分の1の効力を特つと考えられている。
トラマドール(クリスピン注1号)の代謝産物には薬理作用があり、この代謝産物はトラマドールの2〜4倍の効力を持ち、その血中半減期は約6時間である。よく使われる50〜lOOmg/回を4〜6時間ごとに経口投与したとき、トラマドールによる便秘と呼吸抑制の発生頻度は、同効量の他のオピオイド鎮痛薬によるよりも低い。依存性が弱いことから、トラマドールは麻薬には指定されていない(訳注:日本ではトラマドールは注射剤のみが入手できる)
,がんの痛みからの解放-WHO方式がん疼痛治療法-第2版,,,26
#1
【5.12】
トラマドールは癌性疼痛に対して、WHOが提唱するガイドラインのステップ2において推奨される鎮痛薬の一つである。静脈内および筋肉内投与において、トラマドールの50〜150mgは、モルヒネの5〜15mgと同等の鎮痛効果をもち、硬膜外投与では、モルヒネの1/13といわれている。開胸術後の鎮痛効果は、硬膜外モルヒネ群(0.2mgボーラス投与 0.2mg/時間)と、静注トラマドール(150mgボーラス投与450mg/日)が同等であり、胸部硬膜外腔にカテーテルを留置する必要性がなく有用であると報告されている。
副作用は、めまい、悪心、鎮静、口渇、発汗等2.5〜6.5%においてみられるが、臨床的に使用される量(0.5〜2mg/kg)において、呼吸抑制や循環動態の変化は問題とならないといわれている。モルヒネなどのオピオイドに比べ、副作用も頻度は低く、耐性や身体依存、乱用等も生じにくいといわれている。
,ペインクリニック(2002),23,12,1663
#2
【5.12】
トラマドールには2つの作用機序がある。1つはオピオイド受容体を介した作用機序、もう1つは(三環系抗鬱薬のように)シナプス前神経細胞におけるセロトニンとノルアドレナリン(ノルエピネフリン)の再取り込みを阻害する作用機序である。
しかし、トラマドールは三環系抗鬱薬のような抗ムスカリン作用と抗うつ作用を持っていない。トラマドールの2つの作用機序は相乗的である。オピオイド様副作用はコデインやモルヒネに比べて有意に少ない。便秘の発生も少ない。
トラマドールは他のオピオイドに比べ、神経因性の痛みに対して有効性が高いかどうかはまだ明らかではない。アロジニアに対して有意に効果があったとする研究報告がある。痙攣閾値を下げたとの状況的な報告があるので、てんかんの既往がある患者や三環系抗鬱薬あるいは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)などを服用中の患者での投与には注意が必要である。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,41