【第一章 疼痛緩和法の概要理解のために】


#1

【1.1】「疼痛対策プログラムのモデルによる概要の説明」


 以下の疼痛対策プログラムのモデルは、疼痛緩和法の概要をご理解いただくため、筆者(真野)が「箕面市立病院Cancer Pain Relief Programme (第9版)」(ターミナルケア(1999),Vol9,No6,434より)をベースとして、作成したものです。
 このモデルは癌疼痛緩和の基本部分のみから構成されており、各項目には本文への参照タグが設けてあります。
 これから癌の疼痛管理について勉強を始めようとされる先生方は、まずこちらで疼痛緩和法の概要を理解したうえで、本資料集を利用することをお勧めいたします。

 

【1.2】「疼痛対策プログラムモデル」


 

【1.2.1】「一般的注意」


 

【1.2.1.a】「鎮痛薬使用の原則」

 癌性疼痛の治療にあたっては、鎮痛薬・鎮痛補助薬を、内服薬・坐剤といった使用しやすい剤型で、副作用対策を講じながら、計画的かつ定期的に与薬することで、24時間を通した痛みの緩和・消失を得るように努力する。患者の痛みの訴えに応じた鎮痛薬の頓用的与薬は(レスキューとして以外は)すべきではない。

      参照→【3.1】「鎮痛薬使用の原則」
      参照→【3.1.8】「レスキュー」

 

【1.2.1.b】「ソセゴン注を使用してはならない」

 ソセゴン(ペンタゾシン・ペンタジン)注射薬は、連用によって精神作用が生じやすいため、癌性疼痛の治療薬としては不適当である。これは、WHOの見解でもある。

      参照→【5.11】「ソセゴン(ペンタゾシン)」

 

【1.2.1.c】「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の使用」

 以下で述べる鎮痛ラダーの第1段階で、主薬となる非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は、胸焼け・吐き気・食欲低下などの胃腸症状が生じやすい。第2・第3段階で主薬がよく効いたときは、減量・中止してもよい。ただし、非ステロイド系抗炎症薬は、癌病巣に併存する炎症とその痛みに対してしばしば切れ味のよい鎮痛効果を発揮するので、癌の鎮痛治療ではなくてはならない薬物である。とりわけ、癌の骨転移痛の治療には、理論的にも経験的にも効果が期待でき、重要な役割を演ずる。副作用が比較的少ないCOX 2選択性阻害薬(レリフェン・ハイペン)、プロピオン酸系薬剤(ナイキサンなど)とそのプロドラッグ(ロキソニン錠、ロピオン注など)、長期連用に関して大きな実績がありかつ切れ味のよいボルタレン錠・坐剤などを自家薬籠中のものにしておく。サイトテック200μg錠2〜4錠分2〜4は、非ステロイド系抗炎症薬の胃腸障害の予防と治療に有効であり、原則として必ず併用する。

      参照→【6.2.4】「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)」

 

【1.2.1.d】「神経圧迫性の痛みにステロイド」

 腫瘍が神経を圧迫して生ずるしびれ感を伴った痛み(神経圧迫性の痛み)に対しては、ステロイドの思い切った大量与薬が効果的である。デカドロン0.5mg錠、デカドロン4mg注(リンデロンでもよい)の8〜16mg/日、メドロール4mg錠16〜32mg/日をまず7日間運用し、効果を認めたらゆっくりと漸減して少量で維持する。
 全身状態の悪い時期にこのような大量のステロイドを用いることには、危惧をもつ人も多いが、ステロイド潰瘍などの重篤な副作用はきわめて稀である。副作用として気をつけることは、高血糖、感染症の遷延、気分の変調(うつ、不眠)などで、実際には「気分の高揚、食欲の改善、鎮痛薬の効果増強、肛門からの漏出液の減量など」の好ましい副次作用をみることが多い。

      参照→【6.2.12】「ステロイド

 

【1.2.1.e】「神経因性疼痛に鎮痛補助剤」

 腫瘍や手術操作が神経を損傷して生ずる神経損傷性疼痛は、ひりひりした火傷を思わせるような不快な持続痛と、差し込むような痛み発作が特徴であるが、これには、Naチャネルブロッカーとしての作用を有する抗不整脈薬(メキシチール100mgカプセル3カプセル分3)。三環系抗鬱薬(トリプタノール10mg錠眠前、ノリトレン25mg錠眠前)、抗痙攣薬(テグレトール100mg錠2錠 分2朝と眠前)などが有効である。以上は、初回与薬量であり、メキシチール以外の、三環系抗鬱薬、抗痙攣薬は症状と副作用をみながら漸増していく。
 オピオイドは効きにくいことが多いが、効くこともあるので、鎮痛ラダーに従って併用する。


      参照→【6.1.2.c】「ニューロパシックペイン(神経因性疼痛)」
      参照→【6.2】「鎮痛補助薬」
      参照→【6.2.8】「抗鬱薬」
      参照→【6.2.9】「抗痙攣薬」
      参照→【6.2.10】「抗不整脈薬」

 

【1.2.1.f】「骨転移痛」

 骨転移の痛みには、アレディアが時に奏効する。初回投与は30mg/bodyないし、45mg/bodyが適当である。基本的には、15〜45mg/body/weekが骨転移ないし骨浸潤による癌性疼痛に対し疼痛軽減効果が期待できる至適投与量である。
 骨転移痛の治療は、放射線照射が第1に考慮されるべきだが、それが何らかの理由で困難なときは、1.NSAIDs 2.オピオイド 3.破骨細胞抑制剤の3者併用療法を行う。


      参照→【6.1.2.b】「骨転移痛」
      参照→【6.4.2】「放射線療法」
      参照→【6.2.4】「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)」
      参照→【6.2.6.a】「ビスホスホネート(アレディア、ビスフォナールなど)」

 

【1.2.1.g】「強い痛みには第3段階より開始」

 初診時、すでに強い痛みを訴える患者では、鎮痛ラダーの第3段階より開始する。また、第2段階から、硬膜外鎮痛療法その他の神経ブロックを適宜併用する。

      参照→【3.1.5】「WHO癌疼痛治療指針について」
      参照→【3.2.9】「モルヒネの硬膜外投与法」
      参照→【6.4.1】「神経ブロック療法」

 

【1.2.1.h】「モルヒネとソセゴン・レペタンは併用しない」

 オピオイド療法では、ミュー拮抗性鎮痛薬・部分作動薬(ソセゴン注、ソセゴン錠、セダペイン注、レペタン坐剤、レペタン注、レペタンカクテルなど)とミュー作動薬(モルヒネ、フェンタネスト)は「原則として」併用しないこと。これは、互いが鎮痛効果を打ち消しあってしまうおそれがあるからである。実際には、ミュー作動薬の使用量が少ない間は、拮抗性鎮痛薬・部分作動薬は、相加的に鎮痛効果を強めるようである。

      参照→【第五章 モルヒネの代替薬】

 

【1.2.1.i】「せん妄・錯乱・抑鬱・不安・焦燥・不眠など」

(1)せん妄・錯乱:セレネース5mg注1Aとアキネトン5mg注1/2 Aの筋注、または生食ピギー50mL に薄めて点滴静注する。テトラミド30mg錠1〜2錠を夕食後に内服。
(2)抑鬱状態:デジレル25mg錠3〜6錠(分3)毎食後すぐ服用。ドグマチール50mg錠3錠(分3)毎食後すぐ服用。両者が無効のとき、トリプタノール25mg錠3〜6錠(分3)毎食後すぐに服用。
(3)不安・焦燥感:セルシン2mg錠3〜6錠、コンスタン0.4mg錠3〜6錠、セパゾン1mg錠3〜6錠を(分3)で内服。
(4)不眠時:ベンザリン5mg錠1錠、レンドルミン0.25mg錠1〜2錠、ハルシオン0.25mg錠1〜2錠を内服。なお、セレネースは顆粒球減少症をおこしやすく、ほかはいずれも眠気、ふらつき、口渇が見られるので注意すること。

      参照→【4.6】「モルヒネの副作用としての混乱、幻覚、せん妄」
      参照→【7.22】「不安」
      参照→【7.23】「適応障害、パニック障害」
      参照→【7.24】「抑鬱」
      参照→【7.25】「不眠」

 

【1.2.1.j】「痛みにプラセボを使ってはならない」

 痛みを精神的なものと判断した場合、痛みの判定にプラセボを使うことは、医療側の無知であり、絶対にしてはならない行為である。

      参照→【2.1.4】「痛みにプラセボを用いるのは医療者の無知」

 

【1.2.1.k】「疼痛以外の症状の緩和」

 癌終末期には疼痛以外にもさまざまな症状により患者は苦しめられる。このため、適切な方法を用いて症状の緩和を図る。

      参照→【第七章 緩和医療】

 

【1.2.2】「鎮痛ラダー」


 

【1.2.2.a】「第1段階(NSAIDsあるいはパラアミノフェノール誘導体)」

ボルタレン25mg錠4錠分4(毎食後と眠前)
ボルタレン25mg坐剤2個(朝と眠前)
レリフェン400mg錠2〜4錠分2〜3
ハイペン200mg錠2錠分2
ナイキサン300mgカプセル2カプセル分2
ロキソニン60mg錠4錠分4
 NSAIDsは長期投与により胃腸障害が出現しやすいため、患者の状態によってはレリフェンまたはハイペンのいずれかをベースとして、疼痛増強時ボルタレン25 mg坐剤を適宜併用する方法が勧められる。
 NSAIDsを使用する際は、サイトテック200μg錠2〜4錠分2〜4を併用することを原則とする。
サイトテックの併用によりNSAIDsの胃腸障害は効果的に予防・治療されるが、サイトテック併用によっても胃腸症状が強い場合は、パラアミノフェノール誘導体であるアセトアミノフェン40mg/kg/日(大体2400mg/日)を分4(毎食後と眠前、あるいは6時、12時、18時、22時の4回)で服用する。アセトアミノフェンは、アスピリンと同程度の鎮痛効果をもつが、抗炎症作用がないことと、胃腸・障害がないことが大きく異なる。ちなみにアスピリンの使用量は、40〜60mg/kg/日分4内服である。

      参照→【6.2.4】「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)」
      参照→【6.2.5】「アセトアミノフェン」

 

【1.2.2.b】「第2段階(第1段階+ミュー拮抗性鎮痛薬・部分作動薬)」

(必ずしも第2段階を経る必要はなく、第1段階の次に第3段階にステップアップしてかまわない)

(1)(リン酸コデインを用いる方法)
 WHOでは、リン酸コデイン1回30〜130mgを1日4〜6回服用(必ず非オピオイド系鎮痛薬を加える)としている。
(第1回目の処方)
  リン酸コデイン  30mg(高齢者では20mg)
  ピリナジン   500mg
  以上1回分。1日4回(食後と就寝前)
 投与開始後12〜24時間以内に患者の反応を問診する。維持量が決まるまでは1〜3日分の処方とし、その患者の痛みが十分除かれるまで増量する。
 リン酸コデインの増量の方法は、1回30(20)→40→50→60→80→100mgとする。併用するアスピリンなどは一定としておいたほうが、リン酸コデインの鎮痛効果が判定しやすい。
 1日量80〜300mgでコントロールされる例がほとんどである。鎮痛効果の有効限界は1日量で500〜600mgであるが、経験上300mgを超える頃よりモルヒネ製剤への転換を考慮するとよいようである。本段階に固執するあまり、鎮痛が不十分のままの状態におかぬよう注意も必要である。


      参照→【5.7】「リン酸コデイン」


(2)(レペタン坐薬を用いる方法)
 レペタン0.2mg・0.4mg坐剤を2個 分2(12時間ごと)ないし3個 分3(8時間ごと)用いてもよい。

      参照→【5.8】「レペタン(ブプレノルフィン)」


(3)(ソセゴン錠を用いる方法)
 第1段階で用いた薬剤に加えてソセゴン25mg錠を1回2錠内服させる。痛みの強さに応じて、1日1回痛みの増強する時間帯の前に服用することから始めて、4錠分2、6錠分3、8錠分4、12錠分4と増量していく。12錠(300mg)でも痛みの緩和が得られないときは、すみやかにモルヒネ製剤(第3段階)に移行すること。
 ソセゴン錠は、ソセゴン注射薬と異なり、連用によっても精神症状を生ずることはないようである。ただし、胸焼け、吐き気などの消化器症状が与薬開始当初に強い。消化器症状は、連用開始後数日以内で自然に軽減・消失するようである。

      参照→【5.11】「ソセゴン(ペンタゾシン)」

 

【1.2.2.c】「第3段階(第1段階+ミュー作動薬=麻薬性鎮痛薬)」

(1)(モルヒネの開始)
 第1段階で用いた薬剤(NSAIDs)に加えて、モルヒネ散あるいはモルヒネ徐放製剤(MSコンチン錠、モルペス細粒)を副作用対策を講じながら漸増する。初回使用に当たっては、第2段階で内服していた鎮痛薬をモルヒネ内服に換算することから始める。
 リン酸コデインを内服していた場合、その1日量の1 /10量がモルヒネの1日内服量である。
 レペタン坐剤を使用していた場合、その50倍量がモルヒネ内服量である。
 ソセゴン錠を内服していた場合は、そのl/5量がモルヒネ内服量である。
 経験的には、第2段階から第3段階に移行するとき、モルヒネ1日内服量30mg程度に相当していることが多い。
 また、第2段階を経ずに最初からモルヒネを用いる場合も、1日内服量30mgから開始することを原則としている。全身衰弱の程度、年齢、肝機能などを勘案して、少な目(18mg/日程度)から開始することもある。
 モルヒネ内服の初回処方例:モルヒネ散30mg分5(6時、l0時、14時、18時に各5mg, 22時に10mg)
 散剤が服用しにくい場合は、水溶液(モルヒネ水)にするか、モルヒネ水を冷凍庫でシャーベット状にしてスプーンで食べさせるとよい。
 モルヒネ内服は、4時間ごとの与薬を原則とするが、22時の分を倍量にすると、多くは深夜2時の与薬を省略できる。
 上記を初回量として、2〜3日ごとに与薬量を3〜5割増量して、痛みを十分に緩和できる量を決定する。通常、7〜10日で適当量を決定できる。


      参照→【3.1.2】「モルヒネの開始時期」
      参照→【3.2.1】「経口塩酸モルヒネ(散、水、速効錠)、オプソ」


(2)(モルヒネには上限がない)
 半数以上の人では、モルヒネ内服1日量100mg程度で疼痛の緩和が得られるが、少数ではあるが、1日数百mgから1000mg以上を必要とする人がいる。モルヒネには、拮抗性鎮痛薬や部分作動薬でみられる「鎮痛効果の天井効果」がなく、最大有効限界量がないので、モルヒネ反応性の疼痛であれば、痛みの緩和が得られるまでいくらでも増量できる。


      参照→【6.1.1】「モルヒネは十分に投与されているか」


(3)(モルヒネが効かない痛みがある)
 ただし、120mg/日を超える時にはモルヒネ反応性の痛みかどうか、今一度確認をする(モルヒネ増量時に血中濃度のピーク時間で痛みの減衰があるか確認を行なう)。
 モルヒネ反応性の疼痛でない場合は増量を中止し、上記の【1.2.1】「一般的注意」にある【1.2.1.c】〜【1.2.1.g】の鎮痛補助薬を適宜併用する。


      参照→【2.2.4】「モルヒネの大量投与とその是非」
      参照→【3.1.6】「モルヒネ増量のターニングポイント」
      参照→【6.1.2】「疼痛の分類(モルヒネの効かない痛みがある)」
      参照→【6.2】「鎮痛補助薬」


(4)(モルヒネの副作用)
 また、増量過程における副作用対策がモルヒネ療法の成否を決定することになるため、副作用の予防には注意を払う。モルヒネ療法中の主な副作用は、眠気、吐き気、便秘の3つで、これをモルヒネの3大副作用という。他に、発汗、全身のかゆみ、尿閉、もうろう状態などがある。便秘以外は、通常、数日から10日程度で自然に消退する。


      参照→【4.1】「モルヒネの副作用一般について」


 便秘には、緩下剤(テレミンソフト10mg坐剤、プルゼニド12mg錠、ピコベン2.5mg錠。ラキソベロン0.75%液=5滴がピコベン錠1錠に相当)を予防的かつ積極的に用いる。

      参照→【4.2】「モルヒネの副作用としての便秘」


 吐き気の予防にはノバミン5mg錠3〜6錠分3、出現してしまった吐き気にはセレネース内服0.75mg12〜24時間毎が有効である。

      参照→【4.3】「モルヒネの副作用としての嘔気、嘔吐」


 眠気は、気にしない人が多いが、リタリン10mg錠を朝と昼に1錠づつ服用することで眠気はかなり消失する。リタリン錠は、夕方以降は用いない。眠れなくなるからである。

      参照→【4.4】「モルヒネの副作用としての眠気」


(5)(モルヒネを鎮痛で使う場合には精神的依存はない)
 癌の痛みの消失を目的に定期的にモルヒネを服用させる限り、精神的な依存は形成されない。耐性もほとんど生じないことがわかっている。
 身体依存(休薬により退薬症状が出現すること)は容易に形成されるが、これは副作用というより「薬理学的正常反応」というべきものであり、必要なモルヒネをきちんと提供する医療の現場で、これによってモルヒネ療法が支障を受けることはない。


      参照→【2.4.4】「モルヒネにより薬物依存症になるのではないか」


(6)(モルヒネ即効製剤から徐放製剤へ変更+レスキュー)
 モルヒネの1日必要量が把握できたら、患者QOLを考慮し、同量のモルヒネ徐放錠(MSコンチン錠、モルペス細粒、カディアン)に処方を変更してもよい。
 この際、痛みの急増に備えて、1回につき1日量の1/6〜1/10量のモルヒネ散またはオプソ(即効性であり服用後10分くらいで鎮痛効果が発現する)を別途に処方しておき、患者に痛みの急増があったとき、あるいはその予感がしたとき、遠慮なく服用するように指導しておく。3〜4時間空ければ、次回分も服用可としておく。このように、別途用意する緊急用モルヒネを「レスキュー」という。


      参照→【3.2.2】「MSコンチン」
      参照→【3.2.3】「モルペス細粒、MSツワイスロン」
      参照→【3.2.4】「カディアン」
      参照→【3.1.8】「レスキュー」


(7)(オピオイドローテーション)
 また副作用対策を十分に行った上で、嘔気、便秘などのコントロールが出来ない場合に限りデュロテップパッチに変更することも可能である。本剤は使用方法も簡便でかつ副作用も少ないが、欠点としてはレスキューをモルヒネでおこなわざるを得ないこと、微量の調節がむずかしいこと、モルヒネへの逆換算ができないことがあげられる。


      参照→【5.3】「デュロテップパッチ」

 

【1.2.2.d】「第4段階(内服が困難になったとき)」

(1)(アンペック坐剤)
 内服困難になったとき、まず、アンペック坐剤に変更してみる。モルヒネ内服の1日量の7割くらいの量が坐薬の1日量であり、これを分2か分3で挿肛する。頻回の挿肛では、肛門が荒れてきて挿入時痛が出たり、すぐに便意を催して排泄していまうようになる。したがって、アンペック坐剤を中心にしてモルヒネ療法を実施できる期間はそれほど長くはない。


      参照→【3.2.5】「アンペック坐剤」


(2)(モルヒネ持続皮下注入法またはモルヒネ持続静注法)
 内服薬も坐薬も使用困難になったら、第3段階で用いていたモルヒネ内服1日量の1/3量を持続皮下・静脈内注入量として、24時間を通してコンスタントに注入する。専用の微量持続注入器が必要である。当院では、ディスポーザブルのバルンインフューザー(バクスター)とPCA機能を有するバッテリー駆動の携帯用注入器(デルテックポンプ、バードPCAポンプ)を用意して、患者の状態に応じて使い分けている。


      参照→【3.2.7】「モルヒネ持続皮下注入法」
      参照→【3.2.8】「モルヒネ持続静注法」

 

【1.2.2.e】「第5段階(第4段階まででどうしても痛みのコントロールができないとき)」

 (ケタラール持続静注法)
 それまで使用していたモルヒネ持続注入に加えて、微量のケタラールとドルミカムを追加注入する方法である。
 ケタラールはO.1〜0.2mg/kg/時、ドルミカムは0.02〜0.04mg/kg/時を用いる。ドルミカムの量を調節することで、「就眠状態」から「傾眠状態で痛みを訴えないが呼べば反応がある」という状態までさまざまな状況を作り出すことができる。
 鎮静にはこれ以外にさまざまな方法がある(参照→【7.35】「鎮静」)。
 患者の意識を積極的に調節する方法であり、患者が「もう疲れたから眠りたい、意識をとってもらいたい」という意味の意志表示をしない限り決してしてはならない方法である。最後の手段である。

 
 
 
 

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