【第七章 緩和医療】


 
【7】
 (緩和医療の目的)
 ターミナル前期における緩和医療はあくまで時間的延命を目標とするのではなく、症状の緩和を目的として行うべきである。たとえば貧血のために全身倦怠感が強いときに、輸血によって改善されることがそれに相当する。輸血は全身状態が比較的よい時に実施すると有効なことが多いが、全身衰弱が進み生命予後が短くなってきた時には心臓に負担をかけ、また無効なことが多いので実施しない方がよい。
,緩和医療学(1997),,,89

#2
【7】
(末期の癌であるからと言って症状緩和をあきらめない)
 末期がん患者に向き合うことになる医師に必要なことは、末期のがんであるから、ある程度の苦痛はやむをえないと簡単にあきらめずに、症状緩和のための最新の治療や考え方を学び求める姿勢である。
 病気が治癒できなかったとしても、人は最後までその人らしく在りたいのである。しかし苦痛症状が放置されれば、それは患者の人格まで崩壊させることがある。
 たとえ病気が治らないとしても、だれでも苦痛のなかではなく、尊厳と安らぎのなかで最後の時を過ごしたいと願う。その願いにこたえるための症状緩和であることを忘れてはならない。

,薬の知識(2003),54,6,2



【7.1】「緩和医療とコミュニケーション」

 
#2
【7.1】
 最大限の支援的姿勢をとるためには,一人の人間としての患者をケアすること、また身体的症状にのみ関心を抱いているのではないことを示す必要がある。診察を自由回答式の質問で始めるのも、その一つの方法である。
 例えば:
 「どこから始めましょうか」
 「今日の気分はいかがですか」
 「その後はどんな具合でしたか」
 ときには、家族がどうしているかなどと尋ねれば、患者は、医師が全体的な事柄に関心や懸念を持っていると解釈してくれる。
 そして、診察を終わるとき、何か質問がないかと患者に必ず尋ねる

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,1

#1
【7.1】
 (症状の性状や強さを診断するときにいつも行うべき質問)
(1)症状が患者の日常生活にどんな影響を与えているか。
(2)症状が身体的機能状況や移動動作にどんな影響を与えているか。
(3)症状を軽減させる因子は何か。例えば、特定の体位、動作、食べ物、薬など。
(4)症状を悪化させる因子は何か。
(5)症状がどんなときに悪化するのか。例えば、昼間か、夜間か。

,終末期の諸症状からの解放(2000),,,4

#1
【7.1】
 (予後の予想)
 予後は現代の医学で確実に知る手立てはない。経験と推測でしかない。後1年と伝えたとしよう。実際には2ヵ月で亡くなった時、患者はやるべきことを先送りしていたかもしれない。何か決定しようとする時の判断を誤らせてしまう恐れがある。だから、予後は何カ月という表現は避けるべきで、幅を持たせた月単位の病状変化(多くは1ヵ月から1年の予後)、短めの月単位(1ヵ月から2、3ヵ月)、週単位(1週間から1ヵ月)、日単位(数日から1週間前後)という表現を用いることを勧める。

,死をみとる1週間(2002),,,40

 
【7.1】
 医療者は末期癌患者に「がんばりましょうね」などの安易な励ましをしがちであるが、患者は弱音や訴えを聴いてほしいという気持ちがあるものである。「がんばりましょうね」と言われた患者は「はい、がんばります」としか言えない。会話がここで途切れてしまう。この言葉は医療者の自己満足でしかない。さらに言えば一番がんばっている患者にさらにこれ以上がんばるように強制していることにもなる。
 このようなときは患者の言葉を自分の言葉に変え、それを返してあげることすると良い。いわゆる理解的な態度で接するべきである。実際には「今あなたの言われたことはこういうことだと思いますが、これでいいでしょうか?」と問い返せば良い。

 以下に具体的な例を示す。医=医療者 患=患者

医「いかがですか?」
患「私はもう駄目なんじゃないでしょうか?」
医「なんか、こう、ひょっとしたら治らないんじゃないかな、そんな気がするんですね?」
患「そうなんです。段々この頃弱るような気がします」
医「そうですか、次第次第に衰弱していく、そんな感じですね」
患「そうなんです。もう入院して半年でしょう」
医「早いものですね。もう6ヶ月になりますね」

このような会話を続けていくと、何処へ連れて行かれるかわからないと言う不安がこちらに起こってくる。医療者はここで安易な励ましをして会話を中止してしまいたいという気持ちになる。
 しかし、患者はある程度弱音を吐けば、もうこれでいいという気持ちに大体なってくるものである。自然に自ら会話を納めることの出来る力を持っているので医療者は不安を乗り越え理解的な態度を取り続けることをして行かなければならない。
,ターミナルケアとコミュニケーション(1992),,35

 
 

【7.2】「末期における補液の意味」


 
【7.2】
 末期における輸液は慎重に検討する必要がある。
 まず、輸液を単なる時間的延命のための手段としてはならない。末期癌患者にとって輸液を行うこと自体が、非常に苦痛であったり、癌患者の苦痛を無意味に長引かせたりする事になるからである。
 輸液を行う際には、その目的と意味を明確にする必要がある。
 末期における輸液の目的は、症状のコントロールである。つまり輸液によって患者が楽になることを目標とし、輸液することで、かえって苦痛を与えることにならないようにする。

,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,163
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,188
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,227

#2
【7.2】
(脱水のマネジメント)
 終末期患者は、しばしば全身状態の悪化とともに食欲を失う。衰弱した患者は水分を摂ることにも関心を失うことが多いが、定期的に口腔ケアを行い、口を湿らせるようにすると辛さが少なくなる。
 一方、嘔吐、下痢、多尿などによって急激な脱水に陥った患者は、口渇を辛いと感じ、非経口的水分補給が必要になる。しかし、このような状況になっても点滴を望まない患者がおり、その意思は尊重されるべきである。次のことを忘れてはならない。目的は症状緩和であって、電解質と水のバランスに関する表の記入内容が完璧となることではない。
 間欠的な皮下大量輸液が持続的静脈内輸液よりも好ましい場合がある。5%ブドウ糖液か生理的食塩液のいずれかが用いられる。注入量は24時間に500mL〜2Lとし、25ゲージ針で3〜12時間かけて注入する。例えば、これらの経路を使って頭頸部癌患者に数か月間輸液することが可能である。
 輸液にヒアルロニダーゼを混入することがあるが、快適さや吸収を増進するわけではないので、必要ではない。せん妄がある患者では、水分補給によって精神症状が改善することがある。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,95

#1
【7.2】
 終末期の輸液はいかなる意義があるのか、いまだに一定の見解が得られていない。
 著者らは輸液療法と血漿浸透圧、口渇、口内乾燥感などの関連を検討するために、死亡前4日以内まで血清クレアチニンが2.0mg/dL未満で、輸液療法を施行していた18名について、死亡前16〜12日(2週値)と死亡前4〜0日(臨死値)の血漿浸透圧(mmOsm/kg=2Na+ブドウ糖/18十BUN/2.8)を測定した。全例輸液療法(680〜1550mL/日)を継続していたにもかかわらず、2週値は268〜365 (296.06±22.07)、臨死値は271〜402(320.11±33.42)で有意に臨死値が高値であり(p<0.001)、終末期においては、輸液療法は脱水改善(少なくとも浸透圧補正)には無効であると思われた。また、死亡14日以前から口渇・口内乾燥感を訴えていた11名についても輸液による症状改善は認められず、3名において肺水腫が、2名に全身浮腫が出現した。
,ターミナルケア(2001),11,2,95


【7.2】
 死を目前とした静脈内輸液の欠点として以下のものが上げられている。
・尿量増加による失禁、尿器、尿道カテーテルの必要。
・気道分泌増加による咳嗽、肺鬱血、窒息および溺水感。
・消化管分泌増加による嘔吐。
・浮腫、腹水、胸水の増加。
・水分補給による尿素窒素の低下は意識レベルを上げ疼痛を増加させる。
・生命を延長させることなく苦痛の期間が長引く。
・患者の死に対する家族の心理的準備を妨げる。
・患者と家族との身体的接触を妨げ、障壁を生む。

,緩和ケアハンドブック(1999),,,41

#2
【7.2】
(緩和ケアにおける非経口的水分補給)
 一般に、次の基準をすべて満たすべきである:
・脱水がもっとも大きな原因と思われる症状(例えば、口渇、倦怠感、せん妄)がある。
・経口摂取の増加が見込めない。
・非経口的水分補給が症状(例えば、高度の嚥下困難、嘔吐、下痢)を軽減させる見込みがある。
・比較的全身状態が良好(例えば、頭頚部腫瘍患者)。
・患者が非経口的水分補給を希望している。
・患者と家族が目的は治療ではなく、症状緩和であることを理解している。
・はじめに非経口的水分摂取の暫定的な期限を、例えば、2〜3日と決めたほうが賢明である。それが有効でなければ中止する。

禁忌
・患者が侵襲的な手法を拒否している場合
・非経口的水分補給の負担が、利益を上回る場合
・脱水以外の理由で死が差し追っている場合
 患者の最大の利益とならないなら、単に何かをしてほしいとこだわる家族に満足を与えるために、非経口的水分補給を実施すべきではない

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,95

#2
【7.2】
(ターミナル中期以降に輸液をしない場合)
 輸液をあまりしないでいるとどうなるのでしょうか。
 経口摂取ができなくなると、脱水が進行します。通常血管内脱水が進み、静脈圧が低下すると、周囲の組織から水分が流れ込みます。徐々に痩せてきます。この状態で輸液を負荷しすぎると、組織に流れ込む水分が増えて浮腫が起こります。
 あまり輸液をしないで脱水が進みますと、次第に血圧は低下し、尿量が減って眠っている時間が多くなります。
 がん性疼痛があっても感じにくくなり、鎮痛剤の量も通常は減らせます。
 そして苦痛もあまりなく、眠ったように逝くことが多いのです。

 この時期には患者さんとご家族の会話も成立しにくくなりますが、時々霧が晴れたように意識レベルが上がることもあります。
 だんだんと眠っている状況にご家族が慣れ、死に対する必要以上の防御反応を薄れさせ、愛する者との別れを受け入れていきます。
 この時期になると、言葉をかけるかわりに手足をさすったり、頭をなでたりといった身体的接触がとても大事になってきます。
 このようにして、輸液をあまりしないことの意義を本人と家族にくり返し説明していくことがとても大事です。

,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,51

#2
【7.2】
(緩和医療における輸液の功罪)
 ホスピスに来て驚いたのが、輸液の功罪でした。外科医は食事がとれない患者にIVHを実施し、末期になったからと減量することは非常に抵抗があります。治療を放棄することと同じと感じるからです。
 IVHをつけて入院される患者さんにまずすることは輸液の減量です。これだけで、腹満や息苦しさ、全身の浮腫が改善します。腹水穿刺の回数が劇的に減ります。
 輸液の功罪は私にはショックでした。
 今までどれほど患者さんを苦しめていたのだろうと思います。
がんの末期は全身浮腫で亡くなるものだと思っていたのですから。
 がん末期は病態が変化していることを認識し、緩和医療は新しい医療分野ではないでしょうか。

,緩和医療学(2004),6,1,73

#1
【7.2】
 ターミナルの輸液の必要性については、さまざまな考えがある。しかしながら本当の終末期では、エネルギー、輸液量ともに少ない方が、苦痛は少ないといわれている。しかし、長らく続けてきた患者さんにとって、輸液は生きる望みであり、それを止めることはとてもつらいことである。また、それまで栄養のことを聞かれても、「輸液に十分含まれているから大丈夫」と説明している場合はなおさらである。輸液を減らす、止めるということは、栄養を取れないことであり、ますます不安を増長する。その患者さんにとっては何事もはじめての経験であり、いくら言葉で伝えても、仮に頭では理解できてもいざ中止しようとすると、その決心はなかなかつかないものである。
 この場合にも、不必要な輸液は、癌だけに栄養を与えることや、患者さんの苦痛を増すことを伝えるしかない。また、患者さんのなかには高カロリー輸液の大型のソフトバックから、維持液や5%ブドウ糖液の小さな容器に変わることを極端にいやがる人がいる。その場合はチームで患者さんと相談して、薬局の無菌調剤室でハイカリバッグに維持液などを充填し直すこともあった。その患者さんにとっては、輸液の中身より、目の前に大型のソフトバックがぶら下がっていることの方が重要であったと思えた。
,ターミナルケア(2002),12,1,24

#1
【7.2】
 (点滴に対する患者・家族の意識)
 患者さんがだんだん衰弱していき動けなくなったときに、まず家族に芽生えるのは「もっと何かできるのではないか」「何かをしてやりたい」、あるいは「何かをしてほしい」という感情です。その“何か”が点滴になってしまうのです。「もう食べられないし動けないが、点滴をすれば少しは元気になるのではないか」という家族の気持ちを理解することは大切なことです。
 しかし、点滴をすることだけがすべてではない、ということを家族に気づいてもらうことも重要です。「今あなたのお父さんにとって点滴をすることが本当にいいことかどうか」ということを、医師も家族もお互いに考えることが大切だと思うのです。「点滴をするより、氷を持ってきてあげたり、シャーベットをあげたり、手を握ってあげたり、マッサージをしてあげることのほうが、お父さんにとって大切だと思います」と提案し、家族の了解が得られれば問題は解決します。つまり、家族の「何かをしてあげたい」という気持ちを十分に理解したうえで、点滴ではない別の提案をすることが大切なのです。

 しかし、患者さん自身が点滴を希望する場合は問題が難しくなります。患者さんの気持ちは基本的には家族と同じだと思います。自分が衰弱し動けなくなってきたときに、「何かしてもらえれば、もう一度元気になるのではないか」、あるいは「今のこの状態から抜け出すことがてきるのではないか」と思うわけです。これは自然な感情だと思います。そういった患者さんの気持ちを十分に理解し、われわれはその気持ちを理解しているということを患者さんに伝えることが大事だと思います。そのうえで、「あなたにとって点滴をすることが本当にいいことかどうか」ということについて話し合うしかありません
 私が経験した例でいえば、以前に点滴をして楽になった経験のある患者さんは、どんなに説明したところで納得されません。そこで、やむなく点滴を実行することになります。
 しかし、その際に大事なことは、必ず翌日に病室に足を運び、「点滴をして楽になりましたか」と患者さんに聞くことです。そして、患者さんに、点滴をこのまま続けるかどうかを尋ねると、「やめたい」という人もいるし、「続ける」と答える人もいます。「続ける」と答えた人は、医学的な理由からだけではなく、点滴をすることが自分の命をつないでいるという心理的な理由からかもしれません。したがって、その希望を断ち切る権利は私たちにはありません。たとえ喘鳴が増えようが、浮腫がひどくなろうが、腹水が増えようが、われわれは点滴を続行せざるを得ません。しかし、予後が週単位、それも日単位に近くなった患者さんは、点滴をしても決して楽にはなりません。患者さんに特に希望がなかったり、口腔ケアがきちんとされているような場合には、患者さんの予後が日単位の段階で輸液を続ける意味はないと思います。

,ホスピスケアの実際(2000),,,166

#1
【7.2】
 (輸液について話し合う時間が必要)
 輸液を減量しなければならなくなった時期になって初めて輸液減量の話を持ち出すのは、患者さんにとっても家族にとってもまったく予期していないことで、不安が増すのは当然だと思われます。そこで緩和ケア病棟では、入院された段階で「このような段階で、このような治療を行う」旨を説明するようにしています。そして、その時期が近づいてきて、患者さんが苦痛を訴えたときに、「そろそろ点滴の量を減らしていったほうがいいのではないでしようか」と話をします。そして、患者さんから了解が得られた段階で、点滴の量を減量していくようにしています。
 また、家族に医師がいるような場合ですが、多くの場合、日頃あまり面会にも来られないわけです。それで、緩和ケアがどのように行われているかについてもあまり理解されていないことが多いのです。それでいて、たまに面会に来られたときにクレームが出ることも少なくないわけです。特に身内に医師がいるような場合には、早目にどの段階で説明をしなければならないかを配慮しながらケアにあたる必要があると思います。
,ホスピスケアの実際(2000),,,167

#1
【7.2】
 近年、ホスピス、緩和ケアの臨床的な経験から次のような考え方も主張されるようになってきた。「患者に人工的水分補給を行うべきか否かに間しては、画一的に判断すべきではない。患者に死が差し迫った時期での人工的水分補給は、生存期間や症状緩和に影響を与えない。末期患者の口渇や口内乾燥は薬剤が原因のことがしばしばあり、人工的水分補給はこれらの症状を改善しない。一方、利尿剤や鎮静剤の過剰投与、嘔吐、下痢、高カルシウム血症など治療可能な原因による脱水の場合は、人工的水分補給が適切な緩和ケアの処置となることもある」。
 輸液療法を実施する場合、緩和ケアの観点から多面的に検討してみる必要がある。その場合、次の6つの観点が重要である。
(1)輸液や人工的な栄養補給は、死に行く過程を尊重した行為かどうか。
(2)輸液や人工的な栄養補給は、死を早めることにも、死を遅らせることにも関与しないかどうか。
(3)輸液や人工的な栄養補給は、痛みや症状の緩和に寄与しているかどうか。
(4)輸液や人工的な栄養補給は、患者の精神的・心理的な負担となっていないかどうか。
(5)輸液や人工的な栄養補給は、患者の生きる希望につながるかどうか。
(6)輸液や人工的な栄養補給は、家族を援助することにつながるかどうか。
 そして、疼痛やそれ以外の症状マネジメントと同様に輸液療法の有効性と問題点を常に検討する必要がある。

,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,289

#1
【7.2】
 終未期にすべての患者に輸液が必要であるということも、患者は誰も輸液を必要としないということも間違いであろう。患者のなかには終末期であっても、輸液が必要な人もいるし、必要としない人もいるというのが真実であろう。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,290

#1
【7.2】
 輸液を考える場合、中心静脈投与を第一選択と考えることが多い一方で、皮下投与経路の方が単純で苦痛が少ないことが多い。大腿前部の皮下に静脈用の細いゲージのエラスタ針を挿入し、生食または5%ブドウ糖液を入れる。スプラーゼは不要で、筆者の経験では、左右それぞれの大腿に12時間毎に1リットルまで注入可能である。
,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,33


【7.2】
 死が近い末期患者で経口水分摂取が不可能になった場合、皮下注入による水分補給を行うことがある。意識状態の維持が重要で、症状がよくコントロールされている患者に適応となる。しかし、死を目前とした患者の食物や水分摂取の減少はおそらく死の準備として正常な生理学的機序である。最期の数日間、空腹や口渇は非常にまれで、この時期の輸液は医学的に不必要であり、実際、悪影響を及ぼしうるという証拠が優勢である。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,41


【7.2】
 皮下補液とは、水分を皮下に注入することである。静脈内の注入に比べて確かな利点がある。簡単にできる。在宅でも簡単かつ安全にできる。皮下補液の場所は数日間続けて使用可能(最大7日まで)容易に中止することができ、患者の行動が拡大するときは、はずすことが可能。
,エドモントン緩和ケアマニュアル(1999),,,69

#1
【7.2】
 皮下への大量補液の際、補液は生理食塩水がよい。ブドウ糖液は吸収が悪いため使うべきではない。必要なときには1リットルあたり最大40mmolのカリウムを補液中に追加する。1時間あたり200mLまでの速度で投与できる。1時間あたり50mL以上を注入する場合には、スプラーゼを1リットル当たり600単位加える。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,74

#1
【7.2】
 (アルブミン投与の是非)
 末期になると高カロリー輸液によっても悪液質に対抗できず、貧血や低アルブミン血症が出現するのが常であるが、このような際に血液製剤を使用すべきであるかは悩むところである。厚生省の制定した使用指針では、生命尊厳の観点からまた、アルブミン投与による延命効果は明らかにされていないことから、末期患者へのアルブミン投与は不適切な投与であるとしている。
,Medical Practice臨時増刊(2000),17,,346


 

【7.3】「高カロリー輸液の問題点」


#1
【7.3】
 多くの施設では、末期癌患者の食事摂取量が低下すると高カロリー輸液を始める。ターミナル前期のある時期までは体力維持につながり有効であるが、ターミナル中期以降の患者では代謝低下や悪液質の状態となっており、高カロリー輪液は無効である。また、高カロリー輸液を行っても、血清アルブミン値などの栄養状態の改善につながることはほとんどない。また、高カロリー輸液自体が食欲不振、口渇、嘔気・嘔吐、高血糖、電解質異常、感染、循環動態異常、胸水や腹水の増加、全身浮腫の原因となって、患者を逆に苦しめる結果となっている。
 この場合、高カロリー輸液を中止して維持輸液に変更するだけで、食欲が改善したり他の症状が緩和されたりすることがある。現在「高カロリー輸液が末期癌患者の栄養状態や悪液質を改善して延命効果になる」という明らかな臨床データはない(逆に命を短くすることになっている場合がある)。

,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,83

#1
【7.3】
 「食事がとれないから点滴する」前に、なぜ、その患者が食事をとれないのかを評価することが不可欠である。患者は、輸液を受けることよりも、自分の口でものを食べることを望んでいる。いたずらに輸液を開始する前に、適切な評価、および、緩和治療を行うことが重要である。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,106

 
【7.3】
 高カロリー輸液は予後が数ヶ月期待できるときは継続するが、以下のような場合には、普通の輸液に変更する
(1)ターミナル中期以降(予後が数週間)
(2)高血糖(耐糖能の低下)
(3)胸水・腹水の貯留
(4)肝・腎機能低下
(5)末期癌特有の全身倦怠感が著明なとき
(6)高カロリー輸液を2週間続けて施行しても、全身状態や栄養状態の改善が見られない場合。
 患者の状態によって輸液量を調節し、場合によっては中止する。輸液を施行する場合も、ヘパリンロックを行いできるだけ輸液チューブ類から解放される時間を設定する。高カロリー輸液を施行する場合、ヘパリンロックを行いできるだけ輸液チューブ類から解放される時間をつくる。

,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,164
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,189
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,228

#2
【7.3】
(ターミナル中期以降の高カロリー輸液)
 輸液をすると、尿量が増加し、失禁が起こり、さらには尿道カテーテルが必要になり、逆行感染が問題になります。気道内の分泌物が増加するために咳が増え、がからみます。痰をうまく出せないと窒息感、さらには溺れるような感覚が生じ、非常な不安感が増すことになります。
 吸入したり口腔内吸引をされたり、一日中輸液ボトルに繋がれる上に、カテーテルも挿入され、血圧のコントロールのための微量点滴セットスタンドがコトコトと音を立てているような環境は、癒しからはほど遠いのです。
 また、消化管液が増加し、下痢、嘔吐、腹水、胸水が溜まりやすくなります。肺鬱血から心臓に負担がかかり心不全、さらには肝不全ともなります。
 ターミナル中期以降では、1日の輸液量を1000mL以下に仰えた方が、楽に過ごせる印象があります。
 高カロリー輸液は、外科の手術後やターミナル前期までは有効ですが、中期以降では意味がないばかりか、かえって害をなすものです。中期以降の患者さんでは、がん性悪液質と呼ばれる状態にあり、高カロリー輸液自体が吐気、電解質異常、循環動態異常、全身浮腫、高血糖、感染などを引き起こします。命を長引かせるのではなく、悪い状態で、しかも命を短くしていることが多いのです。

,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,50

 
【7.3】
 癌末期患者に高カロリー輸液を施行するのは疑問である。実際には経口摂取不能患者に輸液を施行すると浮腫が起こり、むくんだ状態のまま死亡することが多い。QOLの観点から輸液療法が末期癌患者にとって有効な治療であるという報告はみられない。たとえ輸液療法が患者に幾ばくかの延命をもたらすにしても、しばしば延びた寿命はそのまま癌による苦痛の延長になる可能性が高い。
 末期癌患者の多くは経口摂取できなくなると一週間以内に死亡する。脱水の進行とともに血圧は徐々に下がり、患者はだんだんと眠っている時間が長くなる。骨転移や神経浸潤などのコントロールが困難な癌性疼痛もあまり訴えなくなる。やがて1日のほとんどをうつらうつらと過ごし、最後には眠った状態でこの世を去る。このときに患者の表情に苦痛の色を見ることはまれである。
,退院後のがん患者支援ガイド(1995),,,68

#1
【7.3】
 筆者は原則として、ターミナル中期(生命予後が1ヵ月以内と考えられる時期)以降の高カロリー輸液は行わないことにしている。この時期の消化管閉塞患者の場合、輸液は通常の維持輸液がよく、輸液量は経験的に1000 mL/日以上にすべきではないと考えられる。症状によっては500mL/日以下にしたほうが患者の安楽が得られる。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,183

#1
【7.3】
 癌患者に対する高カロリー輸液とACS(食欲不振-悪液質症候群)の関係を調査した研究が、とくに周術期において複数なされている。これらの研究において、高カロリー輸液を受けた患者群は多くのカロリーを摂取することは可能であるが、対照群とくらべて栄養学的な指標や機能に有意差はみられなかった。そればかりか合併症が増加し生存期間の減少がみられたと結諭づけられている。つまり、現在のところ高カロリー輸液によって明らかにACSが改善するというエビデンスは存在しない。むしろ合併症によって生存期間が減少してしまう可能性がある。
,TECHNICAL TERM 緩和医療(2002),,,163

#1
【7.3】
 末期患者に高カロリー輸液が好ましくないことは多くの医師に認識されてきたが、急性期医療に慣れた医師にとって高カロリー輸液を中止することには抵抗感がある。輸液の減量で腸管分泌も減り、腹部症状も全身浮腫なども軽減し、症状緩和されることが期待できるので常に輸液の減量・中止を考えておくことが重要である。輸液の目的、意味や欠点を患者家族に説明して、残された時間のなかで何を優先するか、共に考えることが重要である。仮に輸液の意義が不明確なときは、数日間輸液を半減あるいは中止して、患者の安楽が増すか試すことを提案すると良いと思われる。こうして、患者の希望で輸液を中止し、レペタンの舌下のみで最期の数日を看取った経験がある。
 輸液を減量しても、口渇を訴えることは意外に少ない。訴える場合は、少量の水分の経口摂取を許可する。患者によっては、時々自分で吐くことを前提に水を飲むことを選択する人や、自分で1日数回胃管を挿入して吸引後抜去することができる人、経鼻胃管の持続留置が苦痛でないとする患者もある。
 水分補給の方法として、過去に行われていた大量皮下注入が、持続点滴のラインが不要で管理しやすく、在宅患者のQOLが高いとする報告があり、また、死亡前3日間に輸液しない方針でもQOLの低下がみられなかったという報告もある。末期状態での輸液のあり方は、再検討する必要がある。
,ターミナルケア(2002),12,6,459

#2
【7.3】
(癌患者の栄養管理)
 癌患者の低栄養状態が罹患率や死亡率の増加と関連していることから、積極的に経静脈栄養を施行すれば、腫瘍の治療反応性、患者の耐薬性や生存率が改善すると信じられてきた。しかしながら、無作為化臨床試験の結果は、この仮説を支持しなかった。経静脈栄養を癌患者の化学療法、放射線療法、外科的手術などの補助的手段として、どのように使用すべきであろうか。
 化学療法を受けた癌患者に対する経静脈栄養の効果を調査した12の無作為化試験に対し、メタアナリシスを試みた結果 、3ヵ月生存率で0.74、全生存率で0.81のオッズ比を示した。このように、経静脈栄養施行群の生存率はわずか81%、また、3ヵ月間では74%にすぎないのである。経静脈栄養施行群の治療反応性は、コントロール群の68%であった。また感染率を比較すると、経静脈栄養施行群はコントロール群と比べ、4倍の値を示した。したがって経静脈栄養は、減少した生存率、治療反応性の悪化、感染性合併症の増加、消化管や血液関連の障害に対して有効な臨床効果を示さない、というのがベストな判断と思われる。
 American College of Physiciansでは、「化学療法を受けている患者に対し、日常的に経静脈栄養を使用することは避けるべきである」としている。
 低栄養状態により生命の危機にさらされている癌患者に対して、経静脈栄養を実施するかどうかを判断する場合には、危険性がさらに増加することを考慮しなければならない。
,臨床と薬物治療(2001),20,12,65

#2
【7.3】
(癌患者の栄養管理)
 癌患者への経静脈栄養は、骨髄移植患者を除き、重篤な消化管障害が1週間以上継続する場合に施行し、栄養状態が良好、軽度の低栄養状態の場合には、日常的に使用する必要はない。
,臨床と薬物治療(2001),20,12,63

 
 

【7.4】「緩和医療における向精神薬の使用上の注意」


 
【7.4】
 向精神薬(抗精神病薬、抗不安薬、抗鬱薬、精神刺激薬)を投与すると少数の患者で逆の作用が現れる(例、ジアゼパムで苦痛が大、トリプタノールで不眠、不穏)。また、ある薬剤ではまったく効果がないが他の薬剤に代えると十分な効果が出る場合もある。進行癌患者には比較的少量を投与するのが一般原則である。とくにモルヒネや他の向精神薬をすでに投与している患者には少量を用いる。
 最初に少量の試験的投与を行い、比較的急速に(2〜3日ごとに)増量し、副作用が現れる量または十分な効果が得られる量にまで達する。ついで減量が必要になることが多い。薬の蓄積の結果である。投与開始から数日間は、原則として鎮痛薬投与の場合と同じ様な密着した監視が必要となる。
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,106

 
【7.4】
 末期医療においてメジャートランキライザーを使用する際には、肝臓で代謝されることを念頭において少量より開始し、増量に際しても緩徐に行う。使用する薬剤の特徴を理解し、患者の身体状態に応じて使用することが肝要である。
,がんの症状マネジメント(1997),,,315


【7.4】
 錐体外路性薬物(フェノチアジン系など)によるアカシジアは男性より女性に約2倍の頻度で、中年患者に多い。発症は、原因薬物の開始後5〜60日後。管理は原因薬物の減量。重度の不穏が続く場合、ワイパックス1mg、1日3回。さらに不穏が続く場合は、インデラル【適応外】10〜20mg、1日2〜3回のようなβ遮断薬を加える。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,236

 
【7.4】
 セレネースによるアカシジアには原因薬の減量や中止、また抗コリン作動性抗パーキンソン薬を併用する。
アキネトン内服1回1mg、1日2〜3回
アキネトン注射1回2.5〜5mg、点滴静注
,ターミナルケア(1995),7,1,24

 
【7.4】
 セレネースの投与量が多量となりまた長期にわたる場合には、錐体外路症状が現れることがあるので抗パーキンソン薬を用いて予防することが望ましい。
アーテン 1日2〜10mg 3〜4回内服
アキネトン 1日5〜10mg 点滴静注
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,127
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,136

 
【7.4】
 セレネースは一過性の低血圧を起こすことがある。
,癌の痛みハンドブック(1992),,134

 
 

【7.5】「口腔内ケア」


【7.5.1】「口内炎」


#1
【7.5.1】
 (口内炎による疼痛管理)
(1)非ステロイド系抗炎症薬による含嗽:ケトプロフェン(メナミン)【適応外】 1Aを水100mLで溶解し、1回25mLを使用し含嗽する。疼痛のために食事摂取が困難な場合は食前に施行する。
(2)局所麻酔薬(4%リドカイン(キシロカイン)液)の患部への塗布や、4%リドカイン(キシロカイン)液を100倍希釈し含嗽する。しかし、含嗽では苦味による苦痛が強い以外に、味覚・温度感覚の低下を伴うため、食前や口腔ケア前の綿棒による局所的な塗布がQOLの向上・維持に効果的である。咽頭痛による嚥下困難に対しては食前に、2%リドカイン(キシロカインビスカス)をスポイトを使用し、舌に触れないように投与することで、食事摂取を可能にする。
(3)激しい頑固な疼痛に対しては、定期的または24時間持続的なオピオイド投与が必要となる。

,がん治療の副作用対策と看護ケア 第2版(2000),,,125

#1
【7.5.1】
 口内炎にたいする院内製剤として、ケトプロフェン(メナミン)を使った薬剤がある。鎮痛・解熱作用がある非ステロイドの抗炎症剤の注射剤であるメナミン1アンプルを水100mL で溶解し、1回当たり25mL 使用する。1回に100mL使っても問題はないので、いったん25mLでうがいをし、それでも取れないようなら再度使用するようにする。今までの経験では、だいたい25mLで痛みは取れているようである。ただし、舌のしびれ感を伴い、使用を拒否する患者もいるので、第一選択にはしていない。
,ホスピスケアの実際(2000),,,90

#1
【7.5.1】
 (口内炎に対するインドメタシン水溶液による鎮痛法)
 筆者らは、インドメタシン1.252%水溶液を調剤している。使用方法 スプレー、スポイトまたは綿棒塗布などで薬液を局所に少量付着させる。一般的には携帯用小型スプレーが便利である。効果は数分〜10分程度で発現し、3〜数時間持続する。使用頻度は数回〜10回/日程度となる。痛いとき、食前、口腔ケア前に使用するとよい。

,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,103

#2
【7.5.1】
末期癌患者の口腔内潰瘍(アフタ)
 最近、当院では非ステロイド性消炎鎮痛薬の少量を局所に投与する目的でインドメタシン水溶液をスプレーや局所塗布(綿棒またはスポイトで滴下)で試している。この方法は鎮痛効果が良好で発現も迅速かつ口内炎の治癒も促進して患者満足度が高い。効果持続時間は症状にもよるが3〜数時間である。現在、水溶液製剤として発売されていないため当院では薬剤部の協力により、びまん性汎細気管支炎の吸入療法用の処方に基づきインドメタシン水溶液(1.252%)を調剤してもらっている。1.252%溶液は炎症部位に付着した瞬間に剌激痛を感じるが、5倍希釈(0.25%)に調整したものは滲みることがなく最も多く用いられている。またキシリトールで仄かに甘味をつけて使用感を良くするなどの工夫をしている。5倍希釈液でも滲みる場合は10倍希釈(0.1252%)液とするが鎮痛効果および効果持続時間は幾分短縮する。炎症の程度(発赤の程度、アフタの数、痛みの強さ、飲水・食事摂取困難度)により濃度を使い分けると良い。投与回数は患者自己、評価でVAS 5以上に痛みが戻る前および食前に使用するように指導しているが、通常数回/日で十分である。痛みが緩和すると食事と口腔ケアが十分にできるようになり、次第に使用回数は減少して中止に至る。化学療法を繰り返す場合には炎症が軽度の初期に用いると症状は悪化しにくい。副作用で胃腸障害など特に問題となるようなものは観察されていないが、さらに製剤の安定性や効果持続時間の延長などについて検討を重ねていく必要がある。

,ペインクリニック(2001),22,7,1008

#1
【7.5.1】
 (口内炎予防、乾燥に対するケア)
 国立がんセンター東病院では、熱処理済み白ゴマ油の塗布を積極的におこなっている。患者に100mLのゴマ油と滅菌綿棒を渡し、頻回に(起床時、毎食後、眠前、夜間覚醒時、その他乾燥したとき)口腔全体に塗布する。無味無臭であるため、患者に不快を与えることはほとんどない。
,がん治療の副作用対策と看護ケア 第2版(2000),,,123

 
【7.5.1】
 化学療法や癌終末期の口内炎で痛みの強いとき、2%キシロカインビスカスとマーロックスを等量混ぜ、これを10mLずつ3時間ごとに口に含み2分間そのままにしてから吐き出すとよい。
,がん終末期の症状コントロール(1995),,,98


【7.5.1】
 口腔粘膜の潰瘍に、アルサルミン【適応外】1gを口腔内に広げる。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,99

#2
【7.5.1】
(化学療法に伴う副作用対策)
 口腔内のセルフケア(歯ブラシとポビドンヨードなどによるうがい)の必要性を理解していただいたうえで、励行をお願いする。メトトレキサート使用時のロイコボリン含漱、 5-FU使用時のアロプリノール含漱などの予防策には、明確なデータが乏しい。
  5-FU急速静注時の口腔内冷却法(oral cryotherapy)は有効性が知られている、5-FU開始約10分前から30分間ほど口腔内に氷片を含む。冷却に伴う局所血流低下により同薬剤の粘膜への暴露が低下するためと考えられている。
 本法は簡単に実施できてコストもかからないが、 5-FU持続静注の場合は実施が困難である。また、他の薬剤での有妨性は証明されていない。
,緩和ケアのための臨床腫瘍学(ターミナルケア2003年10月増刊),,,32

#2
【7.5.1】
(難治性の口内炎)
 難治性の口内炎を発症している患者に対して、口内炎に効果があるといわれるZnをはじめとする微量元素とビタミンが豊富な栄養剤(ブイ・クレスα 1日1本)を投与したところ、劇的な口内炎の改善を認めた。
,薬の知識(2003),54,5,12

      参照→【7.16】「モルヒネの局所投与」
 
 

【7.5.2】「口渇」


#1
【7.5.2】
 口渇感は輸液をしてもしなくても発生する。しかし、患者が衰弱していけば水分の経口摂取は難しくなりがちになるので、看護師は水分補給の方法を考える必要がある。常にベッドサイドに水や氷水、綿棒などの口腔ケアをする用具を用意しておくとよい。水分補給には氷が最適だと思われる。たびたび口にできるよう看護師が介助していくことが大切である。
,ホスピスケアの実際(2000),,,167

#1
【7.5.2】
 市販されているシャーベットにはかなり糖分が含まれ、後味が悪いようです。そこで、緩和ケア病棟では、ボランティアや看護師が果汁や、日本茶、抹茶、100%果汁のジュース類などをシャーベットにして患者さんに差し上げるようにしています。これはかなり好評です。患者さんがいちばん好むのは、シンプルなかき氷です。冬場は人手が難しくなりますので、病棟にある製氷機でできるザラ目状の氷でかき氷を作るようにしています。シロップやブランデー、梅酒などをかけると、食べやすいと好評です。そのような工夫を試みながら、少しずつでも水分補給ができるように心がけています。
,ホスピスケアの実際(2000),,,168

#1
【7.5.2】
 人工唾液(サリベート)は頻回に使用しても、アレルギー以外には主だった副作用はみられないが、特有の臭い、味、粘りが不快だとする患者が多く、使用を中止してしまうことが多いのが問題。就寝前だけでも噴霧するよう指導してもよいが、冷蔵庫で冷やしてから用いると不快感がなくなることもあるので試してみるのもよい。
,口内炎、口腔乾燥症の正しい口腔ケア(2001),,,45

#2
(口内乾燥のマネジメント)
【7.5.2】
 抗ムスカリン作用が少ない、あるいは、ない薬に変更する。例えば、アミトリプチリン(トリプタノール)に代えて選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs;パキシル)を処方し、プロクロルペラジン(ノバミン)やクロルプロマジン(ウインタミン)に代えてハロペリドール(セレネース)を処方する
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,80

#2
【7.5.2】
口内乾燥のマネジメント(薬以外の治療法)
 パイナップル片は有効である。アナナーゼ(訳注:蛋白質分解酵素)を含有し、キャンディーのようにしゃぶると口を清潔にする。新鮮なパイナップルは缶詰のパイナップルよりもアナナーゼを多く含むが、どちらを使ってもよい。
 死が差し迫った患者では、スプレー、スポイト、スポンジスティックを用いて30分ごとに水を与えたり、氷片を口の中に入れることによって口を湿らせる。加えて:
 ・4時間ごとに軟らかい白色パラフィン軟膏(白色ワセリン)を、口唇に裂け目ができるのを避けるために塗る。
 ・空気が乾燥していたり、暑いときには、室内加湿器やエアコンディションを使用する。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,81

#2
【7.5.2】
口内乾燥のマネジメント(唾液分泌の刺激)
 口内の固形物や酸味には、唾液分泌刺激作用がある。例えば、
・氷片
・チューインガム
・酸っぱいドロップ、レモンドロップ、ハードキャンディ(果物風味の硬い飴)、刺激の強い飴
・少量の冷たい飲料と炭酸レモン飲料、またはどちらか一方
・少量の2%クエン酸溶液
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,81

      参照→【4.12】「モルヒネの副作用としての口内乾燥」
 
 

【7.5.3】「口臭」



【7.5.3】
 口腔内感染で、最も多いのはカンジダであるが、カンジダの感染のみで口臭の原因となることは少ない。齲歯に嫌気性菌感染があるとしばしば口臭が起こる。経口フラジール【適応外】400mg 1日2回が有効である。
,緩和ケア実践マニュアル(1996),,,175


【7.5.3】
 すべての癌患者に口腔内の清潔の保持を欠かせてはならない。定期的な義歯の洗浄。できれば0.2%ヒビテンを使う。充分な飲水も必要。口臭の原因が明らかでない場合は、経験上、フラジール200mgを1日3回、5日間使用するよう勧めたい。
,緩和ケア実践マニュアル(1996),,,176

#1
【7.5.3】
 義歯を使用している患者に口腔内カンジダ症、口内乾燥、不十分な口腔内ケアのいずれかが起こった場合、義歯を毎晩はずし、完全に清掃し、1%次亜塩素酸ソーダ液に翌朝まで漬けておく。または義歯を8時間にわたって乾燥させる。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,78


【7.5.3】
 胃内容物の停滞による食道への逆流は、口臭の原因になる。プリンペラン(10mgを1日4回)、ナウゼリン(10〜20mgを1日4回)が有効である。
,緩和ケア実践マニュアル(1996),,,176

#2
【7.5.3】
口臭のマネジメント(胃内容の停滞)
 直ちに蠕動促進薬、例えばメトクロプラミド(プリンペラン) 10mgの皮下注射や24時間あたり40〜100mg の持続皮下注入を行う。効果があればメトクロプラミド10〜20mg1日4回の内服とする。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,78

#2
【7.5.3】
口臭のマネジメント(感染)
 ・口腔内カンジダ症の治療。
 ・痰の細菌培養を行い、適切な抗生物質を処方する。
 ・癌組織の壊死や嫌気性細菌感染を疑う場合は、メトロニダゾール(フラジール) 400mg 1 日2〜3回を10日間経口投与。
 ・肺カンジダ症(まれ)には、ケトコナゾール(訳注:日本には経口製剤がない)200mg を1日2回経口投与、またはフルコナゾール(ジフルカン) 100mg を7日間経口投与
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,78

#2
【7.5.3】
口臭のマネジメント(歯と口腔の衛生)
 ・歯ブラシと歯磨き粉による歯の清潔の保持(1日2回)
 ・糸ようじの使用
 ・適切な水分摂取
 ・爽快感のある口腔内洗浄液の使用
 ・起床時、食後、就眠前の次を用いたうがいおよび口腔内洗浄:とくに厚い舌苔や壊死した腫瘍があるときに行う。
  (発泡りんご酒(シードル)とソーダ水を1対1で混合した液)
  (6%過酸化水素水)
  (1%ポピドンヨード(イソジン))
 ・ニンニク、タマネギを除くなどの食事の調整
 ・禁煙
 ・口内乾燥が著しいときは人工唾液を使用する
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,78

 
 

【7.5.4】「その他の口腔内症状」


#1
【7.5.4】
 舌苔で舌が真っ白になると、オキシドールを20倍に薄めた含嗽水でうがいを行う。舌苔がひどければ、ゴム製のブラシで舌を1〜2回ブラッシングするときれいにとれる。出血がみられる場合には、トランサミンが最適である。錠剤でもアンプル剤でもかまわないが、これを20倍ぐらいに薄めて含嗽すると止血効果がある。
,ホスピスケアの実際(2000),,,93


【7.5.4】
 ステロイドを使用している患者の口腔内カンジダ症で問題となるのは主に経静脈的投与であるが、内服でも同様である。筆者の経験によれば、およそプレドニン20mg以上、デキサメタゾン4mg以上のステロイドを2週間以上にわたって投与している患者の場合は注意が必要である。この場合、投与に先立って口腔内の状態を観察し、記録しておく必要がある。また、症状消失後はさらに2週間程度観察を継続し、口腔内培養の結果をみて観察記録、含嗽などを中止する。
,ターミナルケア6月増刊号(1999),9,,88

#2
【7.5.4】
口腔内カンジダ症のマネジメント
 抗真菌薬の全身投与は、ナイスタチンの局所使用よりも簡便であり、投与時に義歯をはずす必要もない。ただし、固着した感染性の汚れを取り除くために毎日義歯をはずして洗浄することは重要である。全身投与には、いずれのイミダゾール系抗真菌薬も使用可能である。
・フルコナゾールカプセル(ジフルカン) 150mg を直ちに;
 治療効果および再発率はケトコナゾールとほぽ同等であるが、高価である。免疫低下患者には(はっきり定まってはいないが)1日1回100〜200mg を投与する。ある医療センターではカンジダ症発生の危険因子の大きい患者には50mg単位の投与を続く期間においても続けている。
・ミコナゾール125mg/5 mL のゲル(フロリード:2%ゲル)を1日4回ティースプーンで投与し、舌を使って口腔内に拡散させるようにするが、主な効果は全身性である。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,89


【7.5.4】
 唾液漏は口腔内腫瘍によっておこる悲惨な状態である。食道の腫瘍で唾液を嚥下できない場合も、これと同様に流涎が多くなる。苦みの強いビールやみょうばんの含嗽薬、2%アトロピン数滴を使用すると、唾液の分泌を抑制することができる。アトロピン錠0.6mg、1日2回の経口投与も有効であろう。口唇や顎の保護用には、保護クリームを用いたり、唾液を拭くために柔らかな古い麻布を十分に用意しておくことも重要である。
,終末期ケアハンドブック(1993),,,136

#2
【7.5.4】
よだれ(流涎)のマネジメント
 抗ムスカリン薬を処方する。
 ・プロパンテリン(プロ・バンサイン)
 ・三環系抗鬱薬
 ・フェノチアジン系の薬
 ・ベラドンナ・アルカロイド 例えば、スコポラミンもしくはアトロピン
 唾液腺のムスカリン受容体の感受性は非常に強い。唾液分泌への作用は、抗ムスカリン薬が持つ他の抗ムスカリン作用が発現しない少量で得られるため、副作用が少なくてすむ。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,83

 
 

【7.6】「食欲不振」


#1
【7.6】
 食欲不振を訴える患者を目のまえにした時、まず行なうべきことは、食欲不振の原因は何かを考えることである。
 鬱病のスクリーニングをルーチンでおこなうことも必要で、「近頃気分が落ちこんで憂鬱ではありませんか?」と全員に尋ねることが重要である。この質問は癌患者の鬱病の診断において100%の感度をもつといわれており、非常に有用である。「ノー」と応えた場合は鬱を否定でき、「イエス」と応えた場合はさらに詳細な鬱に関するインタビューが必要になる。

,TECHNICAL TERM 緩和医療(2002),,,162

 
【7.6】
 食欲不振、癌悪液質症候群に対する有効で、我が国で使用可能な薬物は、第一選択としてプリンペラン、第二選択としてヒスロンH、第三選択としてステロイドである。
,緩和医療学(1997),,,111

#1
【7.6】
 予後による薬の使い分け。
(1)予後が3〜4カ月以上期待されるときにプリンペラン、プロマック。
(2)予後が1から2カ月以上期待され、プリンペランやプロマックでは効果不十分なときはヒスロンH【適応外】。
(3)予後が1〜2カ月以下の場合ステロイドが適応となる。ステロイドの効果は投与後1〜2カ月を過ぎると減弱する。

,誰でもできる緩和医療(1999),,,85

#1
【7.6】
 (食欲不振に対する消化管運動促進剤の使用)
 癌悪液質によって引きおこされる自律神経障害にともなう胃や腸の運動障害は、食欲不振や慢性嘔気の原因となる。メトクロプラミドはこのような自律神経障害を改善することにより、消化管運動を促進し有意に癌患者の慢性の嘔気と食欲不振を改善することがRCTsによって証明されている薬剤である。ドンペリドンやシサプリドに関しては癌患者の嘔気や食欲不振を改善するという明確な根拠はない。
,TECHNICAL TERM 緩和医療(2002),,,163

#1
【7.6】
 (食欲不振に対するプロゲステロン製剤の使用)
 プロゲステロン製剤についてはメドロキシプロゲステロン(MPA)、メグステロールアセテート(MA)を用いて10以上のRCTsがなされており、ACSの治療に非常に有用であることが証明されている。最新の系統的レビューによれば、11個のRCTsのメタアナリシスをおこなった結果、食欲の改善と体重増加に関する効果は明確にされている。
 プロゲステロン製剤の効果は用量依存性があるといわれているが、1日量がMAの場合800mgで、その効果もプラトーになるといわれている。しかしながら、プロゲステロン製剤による体重増加は脂肪沈着によるものであることが知られており、必ずしも体重の増加が栄養状態の改善によるものであるとはいいきれない。効果と比例して、プロゲステロン製剤の副作用も用量依存性に増大するとされており、代表的なものとして浮腫、高血糖、高血圧、深部静脈血栓症、クッシング症候群などが知られている。標準的なMAの投与量は1日800mgであるが、1日量400mg程度の比較的低用量のMAの投与により、体重増加はみられないが有意に食欲と全身倦怠を改善するという研究結果も複数みられ、副作用も低く抑えることができることから、低用量での使用も検討すべきであると考えられる。わが国ではMAが発売されていないが、MPAは使用可能で、標準的な使用量は400〜1200mg/日である。
 近年、MPA800mgとデキサメ夕ゾン3mg、 男性ホルモンであるフルオキシメステロン20mgの3アームを用いたRCTsがおこなわれている。MPAとデキサメ夕ゾンは食欲の改善と体重増加に関しては同様の効果をもつが、デキサメ夕ゾンは副作用が多く、副作用のための治療の中止がMPAにくらべ有意に多いと結諭づけられている。
,TECHNICAL TERM 緩和医療(2002),,,163

 
【7.6】
 食欲不振・癌悪液質症候群に対するステロイド投与開始は予後が1〜2ヶ月以内と考えられる時期に、投与量はリンデロン1〜2mg/日の少量で開始し、必要に応じて徐々に増量するのがよいと考えている。
,緩和医療学(1997),,,112

#1
【7.6】
 ステロイド投与が1/3以上の患者に食欲の改善や体力回復感をもたらす。しかし、3〜4週間で効果をあげなくなる。ステロイドは食欲不振と悪液質の背景にある代謝異常を回復させることはない。ステロイドとしては、デカドロンを2から4mg1日1回またはプレドニン15から30mg1日1回を経口投与する。投与を開始して7日たっても効果は明らかでないときには中止する。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,13

 
【7.6】
(食事摂取の衰えに対する食欲刺激剤の使用法)
プレドニゾロン10〜30mg/日
デキサメタゾン2〜4mg/日
トリプタノール25〜50mg夜1回
ペリアクチン4mg1日3回
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,51

 
      参照→【6.2.12】「ステロイド」

#2
【7.6】
 食欲不振を訴える患者で食欲促進薬が有効な場合は少ない。投与するならば、注意深く患者を観察し、1〜2週間でその効果がない場合には投与を中止する。
 ・コルチコステロイド 例えば、プレドニゾロン(プレドニン)1日15〜30mg、もしくはデキサメタゾン(デカドロン)1日2〜4mg:患者の約50%で有効であるが、通常その効果は数週間程度しか持続しない
 ・プロゲストーゲン系の薬 例えば、メゲストロール(訳注:日本には類似薬として酢酸メドロキシプロゲステロン〔ヒスロン〕がある)1日160〜800mg : その効果は数か月持続し、一般に体重が増加する。
 食欲促進薬は食欲不振を伴わない早期飽食感に対しては禁忌である。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,94
 
#1
【7.6】
 メドロキシプロゲステロン(ヒスロンH)【適応外】
 錠剤:1回200〜400mg、1日3回
 最近、癌による食欲不振に対して、プロゲステロン製剤が有効であると報告されている。プロゲステロン製剤は、コルチコステロイドに比べて全身倦怠感に対する効果は弱いが、安全性は優れている。コルチコステロイドのような免疫抑制はなく、感染症があっても安全に使用できる。生命予後が長く、コルチコステロイドの長期投与となる可能性が高い場合、まず試みてみる価値がある。
 副作用には、軽度の満月様顔貌、性器出血、耐糖能異常、血栓症(稀)がある。
 禁忌は、手術後1週間以内の患者、脳梗塞、心筋梗塞、血栓性静脈炎、心臓弁膜症、心房細動である。糖尿病などの血栓症のリスクが高いと考えられる場合には、アスピリンなどの血小板疑集抑制薬などを併用するのがよい。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,76
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,82

 
【7.6】
 黄体ホルモン剤であるヒスロンHが最近、癌患者の食欲不振に有効であると海外で報告され注目されている。抗腫瘍効果に関係なく食欲増加、体重増加、疲労感・倦怠感の改善があると報告されている。投与量は400〜1200mg/日。副作用には満月様顔貌、性器出血、耐糖能異常、まれに血栓症がある。副作用がステロイドと比較して少なく、比較的体力があり、生命予後も厳しくない患者の多くに有効であるという印象がある。
,緩和医療学(1997),,,111


【7.6】
 食欲不振に対するヒスロンHの投与は、患者の80%において食欲の著明な改善を示す。悪心や嘔吐の著しい減少が50%以上に生ずる。味覚異常がしばしば減少し、体重増加は最も末期の患者を除くほとんど全ての患者でしばしば認められる。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,105

#1
【7.6】
 プロゲストゲン系の薬は食欲不振悪液質症候群に対する効果が証明された最初の薬である。プロゲストゲン系の薬による有害事象は少ないが、時に水分の体内貯留を起こす。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,13

#1
【7.6】
 食べ始めるとすぐ飽食が起こる患者では、プリンペランのような消化管の蠕動を促進する薬が有効である。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,14

#1
【7.6】
 患者の家族は「食べなければ体が弱り、死んでしまう」と考え、患者に無理に食事をとらせようとすることがある。そのような場合、楽しみであるはずの食事がかえって患者の負担になってしまう。癌末期状態で患者の食事摂取量が減少することは避けられないことであり、患者にとっては”好きなときに”、“好きなものを”、“好きなだけ”食べることが最もよいことを伝える。
 また、患者に対しても、安静状態では、多くの量を摂取する必要がないことを伝える。
 さらに、栄養士と協力し、食欲を増すような工夫をする。
,緩和ケアテキスト(2002),,,110

#2
【7.6】
 食欲不振は病期によらず、多くみられる症状である。患者も家族も、食事をすることが健康である証であると考えているため、食欲がなくなってくるとあせって無理に食べようとする。家族も必死になって患者に食事をとらせようとすることもあり、それが患者にとって大きな負担になり、かえって食欲がなくなることもある。
 “無理して食べる必要がない”と説明するだけで、食べられるようになることもある。
,ペインクリニシャンが関わる緩和医療(2002),,,109

#2
【7.6】
(食欲不振の非薬物療法)
 患者に対しては”無理に食べる必要はなく、好きなもの、口当たりのよいものを、好きなときに、好きな量だけ食べるだけで十分である”ことを説明し、家族に対しては無理に食事を強いないように、本人の前で説明することも治療になることが多い。
,ペインクリニシャンが関わる緩和医療(2002),,,110

#2
【7.6】
食欲不振のマネジメント(薬以外の治療法)
 誰にとっての問題か? 患者か? 家族か?
 患者と家族が食欲不振を受け入れ、どう対応していくかを手助けすることがしばしばマネジメントの焦点になる。
 ・家族が恐れていることに耳を傾ける。
 ・家族に次のことを説明する。
 「このような状況(死が近づいている状況)ではわずかな食事の量で満腹になってしまうのは普通のことである。患者が食べたいと思ったときすぐに食べものが用意できるようにする。」(電子レンジはこのようなときに便利である)
 ・少量の食事を小さな食器に盛ったほうが患者にとって心地よい。
 ・個別的な食事指導。とくに早期飽食感の患者で必要。
 ・「食べなければ死んでしまう症候群」という誤解を解く。
   終末期患者にとってはバランスのとれた食事をしっかり摂る必要がないことを強調する。
 「患者さんが好むものを少量あげるようにしてください」
 「水分を摂ってくれたことだけでも喜ばしいことです」
 ・「食べもの=愛情症候群」、「患者に食べさせることが仕事だ症候群」を理解し、そのことをきっかけに配偶者やパートナーと病状の進行について話し合うよい機会にする。
 ・食事は社会的習慣である。誰でも、服装を整えてテーブルにつくと、よく食べられる。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,93

#2
【7.6】
 食欲不振になったからすぐIVH(中心静脈高カロリー輸液)というのはターミナルケアの世界では最も下手なやり方である。
 まず献立の工夫である。元来糖尿病のために食事のカロリー制限をしていた患者に、衰弱が進んで定時の食事を半分も食べられないがアイスクリームなら食べられるといった場合でもおやつを厳重に制限している病院がある。塩分制限でも同じで、患者の好きな梅干や塩辛を許可したらたちまち食欲が回復したというような例は多い。
 倦怠感のところでも述べたステロイド剤も多くの患者に有効である。他の消化剤や食欲増進剤でも出される食事の2、3割しか食べられなかった患者が、ステロイド剤によって今までの倍量くらい食べられるようになる例は多い。

,ターミナルケア・ガイド(2003),,,144

#2
【7.6】
(食欲不振・悪液質症候群に対する輸液の使用)
 WHOは「終末期の諸症状からの解放」という勧告文書の中で、食欲不振・悪液質症候群に対して「高カロリー輸液は必要ない」、「経管栄養は慎重にすべきである」として、「この病態に関しては患者に対する説明が非常に重要である」としています。高カロリー輸液を投与しても、脂肪、蛋白質、炭水化物の代謝を正常にすることはできないので、悪液質を改善することはできないと結論しています。
 終末期における食欲不振は自然の経過であり、本来治療できない性質のものです。この状態を改善しようとして食事を強制することや、栄養輸液を多量に行うことは患者さんのQOLを損なう結果に終わることが多いのです。

,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,49

#2
【7.6】
 胃や腸の問題のために食物摂取ができない場合に高カロリー輸液が必要になることはあるが、進行がん患者の場合に過度のカロリー、アミノ酸、水分の投与は患者の疲労感や浮腫を増大させる結果に終わることが多く、一般に低栄養の状態にしておいたほうが経過がよいことが多い。この場合、胆嚢炎や腸粘膜萎縮を予防するため、少量ずつでも経口的に食物摂取させたほうがよい。
,緩和ケア(2000),,,223

      参照→【7.3】「高カロリー輸液の問題点」
      参照→【7.7】「悪液質」

#2
【7.6】
(食欲不振の疼痛管理に対する影響<)br>  食欲不振は鎮痛薬のためと考えられやすく、とくにオピオイドの場合にはそれに対する偏見も伴って、患者が痛みを我慢しながら服薬を拒むこともある。ていねいな説明が必要である。
,ペインクリニシャンが関わる緩和医療(2002),,,111

#2
【7.6】
 漢方薬の十全大補湯補中益気湯は癌悪液質による食欲不振に、しばしば著効を示し、前者は心身ともに衰弱した症例、後者は不眠や不安の強い症例に用いる。向精神薬や抗ヒスタミン薬は抗セロトニン作用により食欲を改善することが期待できる。
,緩和ケア(2000),,,222

#2
【7.6】
 食欲を低下させる薬物の投与はないか?
 抗がん剤、ジギタリス製剤などは中枢性に、キサンチン誘導体、抗生物質、鉄剤、消炎鎮痛薬などは胃腸障害により食欲を低下させる。
,緩和ケア(2000),,,222

#2
【7.6】
【食欲不振の治療】
1.薬物投与      
 ・食欲増進薬 ベタメタゾン(リンデロン)、デキサメタゾン(デカドロン)
 ・消化管運動改善薬 ドンペリドン(ナウゼリン)、イトプリド(ガナトン)、
メトクロプラミド(プリンペラン)
 ・漢方薬 十全大補湯、補中益気湯
 ・向精神薬 クロルプロマジン(コントミン)、ハロペリドール(セレネース)
 ・抗鬱薬 アミトリプチリン(トリプタノール)
 ・抗不安薬 ジアゼパム(セルシン)
 ・抗セロトニン薬 アザセトロン(セロトーン)、オンダンセトロン(ゾフラン)、
グラニセトロン(カイトリル)、ラモセトロン(ナゼア)
 ・抗ヒスタミン薬 シプロヘプタジン(ペリアクチン)
2.強制栄養 高カロリー輸液、経管・経腸栄養
3.口腔内ケア 口腔内の加湿、洗浄、含嗽
4.食事の工夫 ルームサービス型食事、献立の工夫、
適度な飲酒
5.精神的援助 気分転換、外食、外泊
6.環境調整 リラックスできる環境づくり
,緩和ケア(2000),,,223
 


【7.7】「悪液質」


#2
【7.7】
 悪液質は進行癌患者の50%以上に起こる。発生率は消化管原発癌あるいは肺癌でもっとも高い。筋肉がおおむね保たれる飢餓の場合と異なり、悪液質では筋肉、脂肪の双方が著明に減少する。筋肉の減少は、蛋白分解促進因子の増加が原因である。
 悪液質の発生は食事量とも癌の病期とも相関しない。癌の臨床診断に先立って起こることもあり、小さな原発巣のみがあるときにも起こりうる。悪液質・食欲不振症候群はさまざまな因子によって引き起こされる腫瘍随伴症状である。
 サイトカイン産生は慢性炎症性の因子があることを示唆しており、このことはイブプロフェン(ブルフェン)が効果をもたらす患者がいることによって説明されている。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,96

#2
【7.7】
 悪液質・食欲不振症候群の基本的な症状:
 ・著明な体重減少
 ・食欲不振
 ・脱力感
 ・倦怠感
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,96

#2
【7.7】
 悪液質は社会面に対する影響と身体的合併症の改善に努力すべきである。
 ・定期的な体重測定をしてはならない。
 ・褥瘡の危険性とスキンケアの重要性について患者と家族を教育する。
 ・可能なら、自尊心を高めるために新しい服を買う。
 ・咀嚼機能や容貌の改善のため義歯を調整する
   :簡単な調整ならベッドサイドでもでき、3か月はもつことが多い。
 ・自立の維持を助ける道具を用意する。例えば、便座を高くしたトイレ、ポータブルトイレ、歩行器、車椅子など

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,98

#2
【7.7】
(悪液質の薬による治療法)
 プロゲステロン系の薬である酢酸メゲストロールが有効であるが、高価なので適応を考えて使うべきである。至適量は800mg 1 日1回投与であるが、コストも考え160〜320mg 1 日1回の低容量から始めるとよい。プロゲステロン系の薬の効果は、イブプロフェン1日あたり1200mgあるいは他の非ステロイド性消炎鎮痛薬の併用により増強することがある。
 サリドマイドは、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)と他のサイトカインの作用を阻害し、100〜200mgの就寝時投与で悪液質患者の体重減少を止める。魚油に含まれるエイコサペンタエン酸は、筋肉を蛋白分解促進因子から守ることが証明されているが、この双方の投与については研究が進行中である。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,98

#2
【7.7】
 悪液質は、代謝の異常が起こっているため、経鼻胃管による積極的栄養補助や高カロリー輸液は、進行癌患者の悪液質に対してほとんど意味がない。
 しかし、とくに味覚異常を伴う場合には食事指導が重要である。粉末や液状の栄養補助剤や体重のわずかな増加が心理的効果をもたらす場合がある。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,97

      参照→【7.6】「食欲不振」


【7.8】「味覚障害」


#1
【7.8】
 医薬品として認められている唯一の亜鉛製剤であるポラプレジンク(プロマック、レモック)は、現在胃潰瘍のみが保険適応(1日2包)となっているが、もし味覚異常の治療に用いるとすれば、1日4包くらいが必要であろう。1日も早い味覚障害治療薬としての保険適応が望まれる。
 最近、亜鉛含有を謳った栄養補助食品が出てきたが、筆者は1粒中の亜鉛含量が明らかであり、味覚異常患者への投与実験でも有効性を実証したので、「ソルティア」(ベンファクト社輸入品)という海藻食品(1日3〜4粒)を、味覚異常の治療にもっぱら用いている。
 腸管からの亜鉛の吸収をよくするために、亜鉛製剤と同時にビタミンCとたんぱく質を摂取することを勧めている。逆に、カルシウムや食物線維、フィチン酸の多い食事は、亜鉛を難溶性にして吸収を妨げるので、同時摂取を避けるように指導している。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,196

#1
【7.8】
 味覚異常に対する亜鉛投与の効果は、血清亜鉛値が上昇安定化(100〜130μg/dL)して2〜3週後に現れてくる。効果判定は自覚症状に頼らず、濾紙ディスク法を施行すべきである。経口摂取のできない患者には、中心静脈栄養用にミネラリンやエレメンミックがある。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,196


【7.8】
 味覚変化に亜鉛220mg 2回/日内服を考慮する。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,100

 
 

【7.9】「嚥下困難」


#1
【7.9】
 (嚥下障害を来す薬剤)
 抗コリン剤、プリンペラン、セレネース、ナウゼリン、ベンザリンなどが原因となる場合がある。
,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,22

#1
【7.9】
 嚥下痛がある場合は、適切な治療を行う。放射線療法、手術療法、レーザー治療、化学療法も考慮すべきである。食道癌の患者に対して、食道内腔1回照射を行うことで、その70%の患者が約50週以上にわたって嚥下困難をコントロールできたという報告もある。また内視鏡的食道ステント挿入術も考慮すべき方法である。
,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,24


【7.9】
 嚥下困難が認められ完全閉塞の場合、唾液分泌抑制剤としてハイスコ【適応外】(注射:0.5mg、内服:注射液0.15〜0.25mg/回を1日1〜4回内服あるいは舌下投与、持続皮下注:0.5〜2mg/日)を使用して誤嚥に気をつける。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,104

 
 

【7.10】「嘔気・嘔吐」


#1
【7.10】
 持続的な嘔気は患者にとって耐え難いが、ほとんどがコントロールが可能である。まず嘔吐と嘔気を除去することが第一の目標だが、第二の目標は1日1〜3回程度に嘔吐を減らすことである。嘔吐が時々あっても嘔気が持続することよりはましだと患者は考えることが多い。抗ヒスタミン作用のある制吐薬を用い、嘔気が続くようであればさらにセレネース【適応外】を用いる。抗ヒスタミン薬の代わりに抗コリン薬を試みるか、サンドスタチンを使うことを検討する。
,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,35

#1
【7.10】
(各制吐剤の特徴と投与量)

・(ノバミン)【適応外】
錠剤1回5mg、1日3〜4回。
モルヒネ使用時の嘔気予防、他の薬剤性や代謝異常の制吐に有効である。眠気や抗コリン作用の副作用はほとんどない。

・(セレネース)【適応外】
液剤1回0.5mg、1日3〜4回。
錠剤1回0.75〜1.5mg、就寝前。
注射 2.5〜5mg/日、持続皮下注または持続点滴静注。
CTZを非常に強力に抑制し、フェノチアジン系薬剤より心血管系の副作用が少ない。少量の場合、副作用としての錐体外路症状が出現することは稀である。

・(ピーゼットシー)【適応外】
錠剤1回2〜4mg、1日3回。
フェノチアジン系。制吐作用もより強力であるが、鎮静作用も強い。少量から様子を見ながら投与する。

・(プリンペラン
内服1回10〜20mg、毎食前と就寝前。
注射60〜180mg/日の持続皮下注か持続点滴静注。
末梢性(消化管)および中枢性(CTZ)の制吐作用がある。肝腫大、腹水、腹部腫瘍、癌性腹膜炎などによる胃内容停滞のときに有効である。高度の消化管閉塞の場合は疝痛を誘発する恐れがあるので注意する。

・(ナウゼリン
錠剤1回10〜20mg、毎食前と就寝前。
坐剤1回30〜60mg、1日2〜3回。
上部消化管とCTZに作用し、抗ドパミン作用にて効果発現する。脳血液関門は通過しにくいため、錐体外路症状は出現しない。

・(ハイスコ)【適応外】
注射液の舌下投与、1回0.15〜0.25mg、1日3〜4回。
持続皮下注    0.5〜2mg/日。
抗コリン作用を有し、前庭神経や嘔吐中枢に直接作用して制吐作用をもたらす。消化管閉塞のときの嘔気や疝痛に有効である。特に”唾液の上がる感じ”や”生水の上がる感じ”、”からえずき”のときに効果的である。また、唾液、腸液の分泌を減少させる。
副作用がかなりあり少量から慎重に投与。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,89

#1
【7.10】
 抗ヒスタミン薬は、内耳迷路と嘔吐中枢に選択的に作用する。動揺病(乗物酔い)やメニエル症候群に有効である。副作用として眠気、頭重感、全身倦怠感などがある。ノバミン、セレネース、プリンペラン等をまず試みて、効果が不十分の場合に抗ヒスタミン薬を考慮する。プロメタジンは、中枢神経抑制作用、鎮静作用、抗コリン作用が強いので、少量から開始する。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,90

#1
【7.10】
 体動時の吐き気・嘔吐に対応するための外用剤が日本にはない。院内製剤で対応できる施設は以下の処方を参考にされたい。
●処方
 ロラゼパム(l210mg)
 塩酸ジフェンヒドラミン(15.13g)
 ハロペリドール(2420mg)
 プロピレングリコール(135mg)
 PEG400(600mg)
 PEG600(550mg)
 PEG8000(700g)
以上、坐剤として1100個分。
 ロラゼパム(ワイパックス)は予測性の嘔吐、塩酸ジフェンヒドラミンは体動時の嘔吐、ハロペリドール(セレネース)はCTZ刺激による嘔吐を緩和する目的で配合した製剤である。この製剤はMD Anderson Cancer Centerの処方であり、モルヒネ以外にも抗癌剤の吐き気・嘔吐にも有用である。ただし、日本人向けに用量を変更する必要がある。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,273

#1
【7.10】
 コルチコステロイドは抗癌剤による嘔吐(特に遅発性嘔吐)に対して有効であることが認められている。作用機序は、アラキドン酸の遊離抑制、酵素誘導によるセロトニン量の減少、催吐物質の血液脳関門通過の抑制などが考えられるが、詳細は不明である。脳浮腫(頭蓋内圧亢進症)や腫瘍による消化管閉塞の解除に有効なことがある。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,91

 
【7.10】
 悪心・嘔吐に対するプリンペランの使用は、肝腫大、腹水、腹部腫瘍、癌性腹膜炎などによる胃内容停滞の時に有効である。高度の消化管閉塞の場合は、疝痛穿孔を誘発する恐れがあるので注意する。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,85
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,90

 
【7.10】
 経口の抗癌剤やホルモン剤が嘔気の原因と考えられたら一度中止してモルヒネのコントロールを優先すべきである。過去の化学療法で嘔気が強く出現した患者さんは、嘔気に対する不安も強く、モルヒネを始めるときは予防的に制吐剤を併用した方がよい。
,ターミナルケア(1995),7,1,7


【7.10】
 ターミナルケアにおける悪心と嘔吐の治療には単剤の増量で、過鎮静を招くより、違った種類の薬剤を組み合わせて使うこと。たとえば、セレネースとポララミンなど。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,54

#1
【7.10】
 ゾフランとカイトリルは化学療法による嘔吐と腹部への放射線照射に続く嘔吐には効果があることが証明されているが、セレネースやナウゼリンなどの治療で効果を上げられなかった嘔気、嘔吐に対しては、さほどの効果がないことは分かっている。また、複合させて投与した場合に効果が上がるかどうかは分かっていない。進行疾患に単独で使用した場合、高価な割に効果が少ないことから緩和ケアにおける評価は定まっていない。
,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,20

#1
【7.10】
 胃内容物のうっ滞の患者には、ガスコンが効く。これは消泡薬として作用し、胃内部の空気を吐き出させる働きをする。ステロイドを大量投与すると、腫瘍周囲の浮腫が小さくなるので、胃の排出障害の場合は内腔を広げ、腫瘍や肝臓肥大によるスクワッシュ、ストマック症候群の場合は腫瘍や肝腫張による圧迫を弱めることができる。
,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,20

#2
【7.10】
よく用いられる制吐薬(嘔気・嘔吐)
(1)蠕動促進性制吐薬(処方の約50%)
 胃炎、胃内容停滞、機能的腸閉塞(蠕動不全)による場合:直ちにメトクロプラミド(プリンペラン) 10 mg を経口投与したのち、1日4回の投与を継続する。あるいは、直ちに10 mg を皮下注射したのち1日量として40〜100 mg を持続皮下注入し、1回10 mg のレスキュー・ドーズは1日4回までとする。
(2)主に化学受容体トリガーゾーンに作用する制吐薬(処方の約25%)
 大部分の化学物質誘発性嘔吐、例えば、モルヒネ、高Ca血症、腎不全などによる場合:ハロペリドール(セレネース) 1.5〜3mgを発生時直ちに、続けて就寝時に経口投与する。あるいは、直ちに2.5〜5mg皮下注射し、1日2.5〜10 mg を持続皮下注入し、レスキュー・ドーズは1回2.5〜5mgを1日4回までとする。
(3)鎮痙作用と分泌抑制作用をもつ制吐薬
 腸疝痛の緩和や消化管の分泌を抑制するために使う薬:直ちに臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)20 mg を皮下注射し、1日80〜200 mg を持続皮下注入する。レスキュー・ドーズは、1時間以上の間隔をあけて1回20 mg を皮下注射する。
(4)多様な作用をもつ制吐薬 
 器質性腸閉塞や他の制吐薬の効果が不十分のとき:直ちにレボメプロマジン(ヒルナミン)6〜12.5 mgを経口投与または皮下注射し、次いで就寝時に投与する。レスキュー・ドーズは同量を1日4回までとする。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,437

#2
【7.10】
(一般に用いられる制吐薬が効かないとき)
 一般に用いられる制吐薬が効かないときには、以下の制吐薬を使用してみる。
コルチコステロイド
 腸管閉塞時の制吐薬の代替薬として。またはすべての制吐薬が無効のとき:直ちにデキサメタゾン(デカドロン)8〜16 mg を経口投与または皮下注射した後、1日1回投与する。7日後には減量を検討する。
セロトニンタイプ3受容体拮抗薬
 腸のクロム親和性細胞または血小板からのセロトニンの大量放出時、例えば、がん化学療法、腹部放射線照射、腸閉塞(腹部膨満)、腎不全のとき:直ちにトロピセトロン(ナボバン)を5mg経口投与または皮下注射、その後は1日1回投与。
ソマトスタチン誘導体
 鎮痙作用のない分泌抑制薬であり、スコポラミンが無効な腸閉塞に用いる:直ちにオクトレオチド(サンドスタチン:訳注:消化管に対する適応承認を検討中)100μgを皮下注射、その後は1日量250〜500μgを持続皮下注入。レスキュー・ドーズは100μgを1日4回まで。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,439
 
#2
【7.10】
 サンドスタチン200〜400μg/日、持続皮下注。モルヒネなどとの混注が可能です。
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,42
 
      参照→【4.3】「モルヒネの副作用としての嘔気、嘔吐」
 
 

【7.11】「消化管通過障害・腸閉塞」


#1
【7.11】
 イレウスは、その発生原因により、(1)機械的イレウスと(2)機能的イレウスに大別される。(1)機械的イレウスとは、腸管がなんらかの原因で器質的に内腔が狭窄、閉塞されることによって起こるものをいい、単純性(閉塞性)イレウスと複雑性(絞扼性)イレウスに分類されている。これに対し、(2)機能的イレウスとは、腸管に器質的な閉塞の原因が見当たらないにもかかわらず、通過障害を生じたものをいう。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,224

#1
【7.11】
 腸閉塞では、狭窄をきたした部位により症状に大まかな違いがみられるので、症状を観察することで、狭窄部位を大体想定することができる。
 すなわち、上部消化管が狭窄した場合は、腹部膨満ははっきりせず、腹痛はあっても多くは軽度だが、食物摂取後間もなく未消化な食物塊や胃十二指腸液を激しく嘔吐する。
 一方、下部消化管の狭窄の場合、無理に経口摂取を続けると、日を追って腹部膨満は著明となり腹痛や疝痛も強いことが多いが、嘔吐は当初は比較的軽症であり、食後かなり時間を経てから、通常、夕方から夜間にかけて生ずる。しかし、狭窄が強まり閉塞状態となると、糞臭のある吐物を昼夜の別なく頻回に吐出するようになる。
 狭窄が強まるにつれ、狭窄の部位にかかわりなく、患者はたえず吐き気に悩まされるようになる。嘔吐そのものより、吐き気の方が苦痛であるという患者が多い。

,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,135

#2
【7.11】
(腸閉塞の内科的治療)
 手術的アプローチが禁忌である患者においては、薬を用いて適切に症状を改善することが可能である。経鼻胃管や輸液が必要なことはほとんどない。
 まず嘔気と嘔吐の緩和を主眼とする。疝痛がなく、腸内ガスがまだ通過している場合には、蠕動亢進薬が第一選択薬であるが、強い疝痛のある患者には、蠕動亢進薬は禁忌である。その代わりに分泌抑制薬と鎮痙薬を処方する。例えば、臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン) 。
 膨張性緩下薬、浸透圧性緩下薬、接触性(刺激性)緩下薬は中止すべきである。適切な症状緩和が得られるまでの数日間は薬の変更が必要である。症状の背景にがんによる持続性の痛みがある場合には、モルヒネやヘロインを継続投与すべきである。患者がメトクロプラミド(プリンペラン)、臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)を非経口的に投与されている場合、オピオイドも持続皮下注入する。
 便秘が腸閉塞の原因となっている可能性があり、緩下薬(例えば、ジオクチルソジウムスルホサクシネート(バルコーゼ)100〜200mg 1 日2回)が処方されている場合、リン酸塩浣腸を行うべきである。
 コルチコステロイドが手術不能な患者に有用なことがある。少なくとも1/3の患者には自然解除が起こるので、あまり早いうちからコルチコステロイドを処方しないことが重要である。上述のように治療して7〜10日後になっても閉塞が解除されない場合には、3日間のコルチコステロイドの投与を試みるべきである。例えば、
 ・デキサメタゾン(デカドロン)10mgを皮下注射
 ・メチルプレドニゾロン(ソル・メドロール) 40mg の1時間以上かけての静脈内注射
 改善が得られた場合、少量のコルチコステロイドを内服で継続するか、もしくは中止とするが、長期的に投与する必要性の有無についても検討する。
 コルチコステロイドの作用は、おそらく閉塞局所の浮腫を減少させ、腸管腔内の通過をよくすることに寄与している。コルチコステロイドは、腸管壁内の神経への圧迫を減少させ、神経の機能を改善させ、これに関連した機能的閉塞を改善する。これらの作用はコルチコステロイドの制吐作用とは別の作用である
 一般に、臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)200mg の持続皮下注入で嘔吐が改善しない場合、オクトレオチドの使用を考慮する。しかし、オクトレオチドは鎮痙薬ではないので、疝痛が持続する場合には臭化ブチルスコポラミンを併用すべきである。腸管内圧の上昇によって腸管壁の腸管クロム親和細胞からセロトニンが放出されるので、患者によってはセロトニンタイプ3(5HT-3)受容体拮抗薬が有効である。減圧のための胃痩造設は、進行がん患者の症状緩和のために必要となることはほとんどない

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,124

#2
【7.11】
(十二指腸閉塞の治療)
 十二指腸の閉塞の原因は、一般に膵頭部がんである。多くは機能的なもので、十二指腸の蠕動運動が途絶することによる。
 ・メトクロプラミド(プリンペラン)1日量60mgの持続皮下注入を試みる
 ・有効であれば、1日量100mg まで増量する。一般に、高用量となると注射器を12時間ごとに取り替えなければならず、あまり実際的ではない
 ・嘔吐の増悪は、機械的閉塞を示唆するので、メトクロプラミドを中止し、その代わりに抗ヒスタミン薬か臭化ブチルスコポラミンを処方する
 ・メトクロプラミドが多少とも有効であった場合には、デキサメタゾン10〜20mgの経口投与または皮下注射1日1回を3日間行う。症状の改善は、腫瘍による局所の炎症性浮腫が原因となっている可能性を示唆する
 ・上述の方法が無効なときには、経鼻胃管留置または排液のための胃痩造設を患者と相談する
 上部消化管閉塞の場合、嘔吐を完全に消失させることは難しい。実際的な目標は、嘔吐回数を1日2〜3回に減らすことである。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,127
 
#1
【7.11】
 (イレウスの治療のポイント)
 予後が2カ月以上見込めて全身状態がよい場合は、まず手術の適応を考える。3大症状である腹痛、嘔吐・腹満の改善に努める。予後が短いと考えられる場合、ステロイド、サンドスタチンの投与を考える。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,54

 
【7.11】
 イレウス状態でのモルヒネの使用は悩むところである。イレウスが可逆的であれば、腸管蠕動促進剤を点滴で使用しながら、モルヒネの持続注射を行う。しかし、イレウスが癌性腹膜炎などで不可逆的であれば、腸管が動かなくなることを覚悟した上でモルヒネを使用してもよいと考える。ただし、制吐剤を多めに使用することによって嘔吐の回数を減らしたり、1日持続している嘔吐を軽快させる努力は必要である。サンドスタチンがイレウスの嘔気・嘔吐に有効との報告がある。
,ターミナルケア(1995),7,1,7

 
【7.11】
 腸閉塞・イレウス患者へのモルヒネの投与については判断の分かれるところである。モルヒネの鎮痛効果と腸管の蠕動運動抑制を勘案して、投与の是非を決定することが必要であると思われる。なお、疼痛の激しいときのみ、速やかに吸収される剤形にてモルヒネを頓用で使用する方法や、オピスタン(ペチジン)の使用も考慮に入れることが出来る。オピスタンの鎮痛作用はモルヒネより弱いが、平滑筋に対する鎮痙作用も有することから内臓痛にも有効であるとされる。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,215
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,225

 
【7.11】
 (消化管閉塞患者の症状コントロール)
 保存的治療に反応しない場合、胃管によって一時的症状緩和が得られることがある。しかし、長期になると苦痛が増加するので患者のQOLは低下する。したがって胃管挿入はあくまで一時的な処置と考えるべきである。
 胃管の挿入が長期化する可能性がある場合は、経内視鏡的胃瘻造設を考慮する。内視鏡の挿入が可能な患者であれば、手技は比較的容易であり、患者の苦痛も軽度である。また、合併症はほとんどないと考えられる。

,緩和医療学(1997),,,115

#1
【7.11】
 経鼻胃管による吸引では、86%の患者で消化管閉塞に伴うさまざまな症状のコントロールはできない。したがって、緩和ケアにおいては限られた用途しかない。
,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,35

#1
【7.11】
 イレウス管は非常に苦痛を伴う方法であり、末期癌患者には行うべきでないというのが著者の個人的意見である。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,59

#1
【7.11】
 胃管の挿入が長期化する可能性がある場合は、経内視鏡的胃痩造設を考慮する。内規鏡の挿入が可能で、胃を切除していない患者であれば、適応がある。手技は比較的容易であり、患者の苦痛も軽度である。また、合併症は少ない。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,183

#1
【7.11】
 PEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)の適応
 最も多いPEGの適応は長期間の経腸栄養路としての胃痩造設である。その対象例の多くは、脳血管障害や痴呆のため十分に摂食できない高齢者である。また、癌などによる幽門狭窄例で、減圧目的に造設されることも少なくない。
 このような症例に対して、従来わが国では経鼻胃管が留置されることが常であったが、数々の理由から胃痩の優位性は明らかである。したがって、一定期間(30日)以上経鼻胃管留置が必要と思われるすべての症例はPEGの適応とされている。

 また現在では、 PEGを応用したさまざまな消化器治療手技もおこなわれている。
,TECHNICAL TERM 緩和医療(2002),,,186

#1
【7.11】
 PEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)の現況
 医療技術の適正な評価と監視の目の厳しい米国では、開発後数年で一般診療にとりいれられ、毎年40万件以上のPEGが施行されている。わが国ではようやくここ数年PEG有用性が認識され、また在宅医療へのシフトが重要視されるなか、現在では年間10万件近いPEGがおこなわれるようになった。
,TECHNICAL TERM 緩和医療(2002),,,186

#2
内視鏡的胃瘻造設術(PEG)
 上部消化管閉塞に対する内視鏡的胃瘻造設術(以下、PEG)は、近年その簡便性や医療経済的効果により広く普及した。特に、嚥下障害を有する高齢者においては、標準的治療になりつつあり、今後適応の拡大が予測される。
 がん患者におけるPEGの目的は栄養供給路と減圧路の確保に大きく二分される。その特性およびターミナル期患者に対する適応について考える。
(1).栄養供給路としての胃瘻
 わが国ではがん患者に対する栄養療法は、可能なかぎり経口摂取で行われている。特にターミナル期における過度の栄養補給は腫瘍の増殖能を高めるという見解もあり、脱水を防ぐ目的の最小限の補液のみが行われることが多い。
 がん患者の栄養補給に関しては異論の多いところであるが、脱水をくり返し入院する例や内服ができず治療に難渋する症例にとっては、PEGを導入することで在宅での治療を継続できるといったメリットがある。一般のPEG患者と異なり、本人が意志決定能力を有している事、PEGによりQOLの向上が期待できるかが造設の基準となる
(2).減圧路としての胃瘻
 ターミナル期の患者にとって、嘔気、嘔吐といった消化器症状はQOLを損なう大きな要因となる。特に進行、再発消化管がんにおいてはこれらの症状に悩まされる事が多い。横浜市立大学医学部附属市民総合医療センターの統計では消化器がんにおける最終入院の理由は、消化管がんの実に3分の1以上が嘔気、食欲不振といった消化器症状であった。
 「食べられなくなったら死んだ方がましだよ」、外来で患者さんからこういった言葉を聞く事は多い。日々食べるということは人間の根源欲であり、動物にとっては生きることそのものといっても過言ではない。また、絶え間ない嘔気というのは想像以上に辛いものである。
 PEGによる減圧ドレナージは消化管狭窄症状による嘔気、疼痛を緩和し、流動物ではあるが経口摂取を可能にする。イレウス症状で身動きのとれない患者が消化管減圧をすることにより活気を取り戻す事が多い。われわれは、消化管狭窄症状を有する症例に対し積極的に導入している。
,緩和ケアのための臨床腫瘍学(ターミナルケア2003年10月増刊),,,146

#1
【7.11】
 緩和手術の適応がないときは、以下の手順で対応を進める。
 経口摂取(あるいは経管栄養)を中止し、点滴静注により水電解質と栄養を補給する。この際、癌終末期では、全身衰弱により健康時に比して水の必要量が低下しているので、健康人の基準で水を補給すると通常水過剰状態となる。水の過剰は、病変部の浮腫を強め、唾液その他の消化液の産生を高め、心肺機能に負担をかけるなど、癌終末期の患者にとっては一般にマイナスに働く。水補給は絞りぎみにして患者をドライにすると、自覚症状の緩和にも役立つことが多い。同時に、制吐薬により吐き気のコントロールを行う。腸閉塞では、一般にプリンペランやナウゼリンの適応がなく、むしろ禁忌であることは上述した。制吐薬としては、ノバミン、ウィンタミン、セレネースを使用するが、効果はあまり期待できない。
 癌による腸管内腔狭窄は、必ず炎症性浮腫を伴いこれが狭窄を強めている。炎症性浮腫にはステロイドが奏効することがあり、ときに狭窄の程度を軽減し、自覚症状を大幅に改善することがある。ステロイドとしては、長時間作用性で電解質作用のないデカドロン(テキサメタゾン)あるいはリンデロン(ベタメタゾン)16〜24 mg/day を連日1週間に点滴静注し、以後漸減、2〜4 mg/day で維持する。H2ブロッカー(あるいはM1ブロッカーとH2ブロッカーの両方)を必ず併用する。これはステロイドによる胃障害を予防するとともに、胃液の産生を抑制するためである。

,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,135

#1
【7.11】
 モルヒネの投与により手術適応のない腸閉塞がある場合には、抗ヒスタミン性制吐薬(シクリジン、ジメンヒドリナートなど)を用い、消化管分泌を抑制するためには抗コリン薬(臭化ブチルスコポラミンなど)を用いる。
,疼痛治療の現状と展望(2000),,,126

#1
【7.11】
 消化管閉塞は内臓痛、鼓腸、嘔気、嘔吐など閉塞症状を伴う。手術が不可能で放射線治療の選択も困難なとき薬物療法を考慮する。消化管閉塞の症状にはオピオイドは効きづらい。抗コリン薬、オクトレオチド(ソマトスタチンアナログ)、副腎皮質ホルモン製剤(デキサメサゾン8〜60mg/日、メチルプレドニゾロン30〜50mg/日等)を使用し、疼痛の緩和および患者の苦痛を伴うドレナージや経鼻胃管、経皮カテーテルの必要性を低くする。
,緩和ケアテキスト(2002),,,54

#1
【7.11】
 (腸閉塞への対応)
 米国のマニュアルでは、腸閉塞患者に対する典型的な持続皮下注入として、モルヒネ60mg、ハロペリドール1.5mg、オクトレオチド0.3mg、ヒドロキシジン(アタラツクスP)25mgの混合液の24時間投与が紹介されている。
,ターミナルケア(2002),12,6,459

#1
【7.11】
 内科的治療法によって腸閉塞が改善することが、ときにはある。下部大腸内を食塩水浣腸などで空虚にしたときなどである。ピーナツ油などの停留浣腸が宿便または大腸の狭窄あるいは双方による閉塞を解除することがある。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,75

#1
【7.11】
 完全閉塞でなければ、糖類下剤であるラクツロース、流動パラフィンや酸化マグネシウムなど投与してみる。ただし効果がなく腹満が増悪する場合は中止する。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,96

 
 

【7.11.1】「腸閉塞による疼痛(疝痛と内臓痛)」


 
【7.11.1】
 消化管閉塞特有の疝痛発作と腫瘍による持続的な内臓痛とは区別して考える。
持続的な腹痛の場合は、モルヒネやレペタンなどの持続注入を行う。
疝痛発作の場合は以下のように考える。
 1.プルゼニドやラキソベロンなどの蠕動を促進するような下剤は中止する。
 2.プリンペランなどの制吐剤は上部消化管の蠕動を亢進するので中止する。
 3.モルヒネなどは持続皮下注で投与する。
 4.鎮痙剤であるブスコパン(60〜120mg/日)あるいはハイスコ(1〜3mg/日)の持続皮下注入を行う。後者は鎮静効果がある。

,緩和医療学(1997),,,116


【7.11.1】
 腸閉塞の患者には、持続的な痛みと周期的・発作的に痛む疝痛の2種類がある。疝痛は腸閉塞患者の75%にみられ、閉塞部位から近位側の腸蠕動亢進により出現する。上部消化管閉塞の場合に、より強い痛みが出現しやすい。疝痛に伴いグル音亢進が聴取される。鎮痙薬であるブスコパンが疝痛の治療に有効である。
,最新緩和医療学(1999),,,98

 

【7.11.1.a】「腸閉塞の疝痛」


#1
【7.11.1.a】
 腹痛は、その機序から(1)体性痛(腸壁や腹膜などに分布する知覚神経の伝達による痛み)、(2)内臓痛、および(3)関連痛の3種類に分けて考えられる。
 このうち、鎮痛薬は、主として(1)体性痛に用いられるが、体性痛の場合は一般的に外科的治療の適応である場合が多いとされる。腸閉塞の場合にも、腹痛の増強は手術適応となるので、鎮痛薬を投与せずに経過観察するのが普通であり、鎖静薬程度にとどめるべきであるとの意見もある。
 腸閉塞時の腹痛に対する救急処置として、麻薬の使用を含めて鎮痛薬の投与は成書に記載されている。しかし、添付文書中にも慎重投与の対象に、麻痺性イレウスを有する患者が含まれており、モルヒネの薬理作用である腸管の蠕動運動抑制が当該患者において不利益に作用することも危惧される。以上より、モルヒネの鎮痛効果と腸管の蠕動運動抑制を勘案して、投与の是非を決定することが必要であると思われる。
 なお、疼痛の激しいときのみ、速やかに吸収される剤形にてモルヒネを頓用で使用する方法や、塩酸ペチジン(オピスタン)の使用も考慮に入れることができる。合成麻薬である塩酸ペチジンの鎮痛作用はモルヒネより弱いが、平滑筋に対する鎮痙作用も有することから内臓痛にも有効であるとされる。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,224


【7.11.1.a】
 腸閉塞による疝痛性疼痛は閉塞患者の75%に生じる。発作性の疼痛が生じ、その間には比較的痛みがない。閉塞が高度なほど、疼痛がより強い。疝痛発作は、聴取可能な腹鳴を伴う。麻痺性イレウスでは、疝痛を認めない。疝痛はオピオイドにより緩和されにくいが鎮痙薬は緩和を生じうる。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,148


【7.11.1.a】
 腸閉塞による疝痛の管理には刺激性緩下剤の中止、胃運動性を高める薬物の中止、鎮痙剤を投与する。経口摂取できる場合ロペミン2mg内服1日4回。
 経口摂取できない場合、スコポラミン経皮パッチ1.5mgを耳介後部に3日毎に適応。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,151

 
【7.11.1.a】
 腸閉塞による疝痛の内科的治療にはブスコパンの持続皮下注入(60〜120mg/日)やハイスコの持続皮下注入(0.5〜2mg/日)が有効。
 完全閉塞でなければ、ラクツロース、流動パラフィンや酸化マグネシウムなど投与してみる。ただし、効果が無く腹満が増悪する場合は中止する。大腸刺激性下剤は腸蠕動を亢進させて、疝痛を誘発させることがあるので使用を控える。持続的な痛みがあればレペタンやモルヒネの持続皮下注入を施行する。

,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,96

#1
【7.11.1.a】
 臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)は腸管攣縮の腹痛がある場合に用いる。疝痛発作の回数が少ないうちは頓用方式(10〜20mg/回、皮下注)でもよい。痛みが持続する場合は持続投与(静注・皮下注、10〜60mg/日)にする。
,ペインクリニックで用いる薬100+α(2002),,,121

 
 

【7.11.1.b】「腸閉塞の内臓痛」



 腸閉塞による持続性疼痛は閉塞患者の90%に生じうる。腫瘍による圧迫や肝皮膜の進展、腹部緊満による定常的な疼痛。通常モルヒネに反応する。重度の持続痛は、腸管の絞扼を示す場合がある。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,148

 
 

【7.11.2】「腸閉塞による嘔気・嘔吐」


#1
【7.11.2】
 イレウスによる嘔気・嘔吐の薬物療法は次のようなガイドラインによって行う。
(1)嘔気・嘔吐の原因を同定する。
(2)腸閉塞以外の原因を除外する。
(3)神経伝達経路を確認し、神経伝達物質を推定する(消化管閉塞の場合は、迷走神経を介することが多く、神経伝達物質としてはアセチルコリン、ヒスタミンが主体)。
(4)嘔吐中枢におけるレセプターに対する親和性の高い薬剤を選択する。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,61

#2
【7.11.2】
嘔気・嘔吐の診断(評価)
・それが嘔吐であるか否か、単に口の中にたまった唾液を吐く、あるいは単なる逆流ではないことを明らかにする
・腹部を診察する
・宿便の可能性があるなら直腸指診を行う
・原因が明らかでないなら、脳転移あるいは頭蓋内圧亢進症状がないか、中枢神経系を調べる
・以下の血中濃度を検査する
  クレアチニン
  カルシウムとアルブミン
  カルバマゼピン
  ジゴキシン
・使用中の薬を見直す。最近処方され始めた薬が原因ではないか? 例えば、非ステロイド性消炎鎮痛薬? あるいはオピオイド?
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,119

 
【7.11.2】
 腸閉塞による悪心の内科的治療にはセレネース【適応外】の持続皮下注入法が第一選択になる。少量から開始して効果をみながら増量する。ブスコパンの持続皮下注入により嘔気や疝痛が緩和される。これだけで効果が不十分であればハイスコの持続皮下注入法を少量から開始する。プリンペランは、疝痛や嘔吐を誘発することがあり、完全閉塞の場合では避けるようにする。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,95

#1
【7.11.2】
 (嘔気・嘔吐に対する薬物的治療)
(1)抗コリン作用薬
・臭化水素酸スコポラミン(ハイスコ)【適応外】の持続皮下注入(0.5〜2mg/日)あるいは0.125〜0.25mgを1日3〜4回舌下投与。抗コリン作用により、直接嘔吐中枢に作用する。消化管閉塞の嘔気・嘔吐に対しては第一選択。高齢者や衰弱の強い患者ではせん妄に注意する。
(2)抗ヒスタミン薬
・プロメタジン(ピレチア)【適応外】の筋注(5〜25 mg/回)。
・塩酸ヒドロキシジン(アタラックス)【適応外】の筋注または静注(25〜50mg/回)。
 抗ヒスタミン効果(H1受容体拮抗剤)。
(3)ドパミン(D2)受容体拮抗薬
・メトクロプラミド(プリンペラン)の持続皮下注あるいは持続静注(30〜60mg/日)
 上部消化管の停滞に適応。末梢性および中枢性(抗ドーパミン作用)に作用する。完全閉塞の場合には疝痛や穿孔を起こす可能性があるので注意する。錐体外路症状の出現する可能性あり。
・ドンペリドン(ナウゼリン)の坐薬による投与(1回30〜60mg、1日3〜4回)。
 メトクロプラミドと同様の作用であるが、錐体外路作用は少ない。
・ハロペリドール(セレネース)【適応外】の持続皮下注入(5〜15mg/日)。
 ブチロフェノン系薬剤で、CTZ(D2レセプター)に作用する。
(4)5-HT3拮抗薬
・グラニセトロン(カイトリル)【適応外】3mgを点滴静注。
・オンダンセトロン(ゾフラン)【適応外】4mgを点滴静注。
 嘔吐中枢、CTZにおいて5HT-3レセプターを拮抗する。薬価が高いのが難点。
(5)その他の薬剤
・ベタメタゾン(リンデロン)2〜4mgを静注、またはヒドロコルチゾン(ソルコーテフ)100〜200mgを点滴静注する。
 ステロイドの制吐作用ははっきりしていないが上記にて効果が不十分なときに用いる。
・オクトレオチド(サンドスタチン)【適応外】の皮下注射または持続皮下注または持続静注(0.2〜0.6mg/日)。
 オクトレオチドは腸液の分泌を抑制し、腸管の減圧を行うことにより、嘔気・嘔吐を抑制する。

,誰でもできる緩和医療(1999),,,60

#1
【7.11.2】
 著しい膨満を伴う腸閉塞患者の嘔気・嘔吐には、ゾフランカイトリルがことに有用なことが多い。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,73


【7.11.2】
 末期腸閉塞患者における悪心嘔吐管理の目標は、悪心を全く生じさせず、嘔吐をせいぜい1日1〜2回に減少させることである。
・「高位閉塞」:セレネース1.5mg±アタラックスP25mg±サンドスタチン0.3mgを24時間皮下注入(シリンジポンプ)。
・「低位閉塞」:セレネース1.5mgまたはプリンペラン60mg±アタラックスP25mg±サンドスタチン0.3mgを24時間持続皮下注(シリンジポンプ)。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,151

      参照→【7.11.2.a】「腸閉塞による嘔気・嘔吐に対する抗コリン薬の使用」
      参照→【7.11.2.b】「腸閉塞による嘔気・嘔吐に対するサンドスタチンの使用」

#2
【7.11.2】
 強い嘔気を抑えるため、メトクロプラミド(30〜60mg/日の経口投与、または持続皮下注)、ハロペリドール(O.75〜4 mg/日の経口投与、または10 mg/日の持続皮下投与)、プロクロルペラジン(10〜40mg/日の経口投与、または10〜40 mg/日の持続静脈内投与)。消化管の分泌抑制のためのオクトレオチドが有効とされている。消化管の蠕動の低下、分泌抑制のために臭化ブチルスコポラミン(60〜120 mg/日の持続皮下注入)も有効であることが多い。
,ペインクリニシャンが関わる緩和医療(2002),,,113

#2
【7.11.2】
 セロトニンタイプ3(5HT3)受容体拮抗薬は、腸管のクロム親和細胞あるいは血小板から大量にセロトニン(5HT)が放出されている場合にとくに有効である。例えば、がん化学療法、腹部への放射線照射、腸閉塞(腸が拡張している場合)、腎不全などである。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,121

#2
【7.11.2】
 デキサメタゾンは他の薬がすべて効果がなかったときに、しばしば制吐薬の「附加薬]として使用される。また、がん化学療法による嘔気に対して広く使われ、消化管閉塞による嘔気に対しても効果がある。デキサメタゾンはおそらく化学受容体トリガーゾーンと催吐物質の血液脳関門透過を低下させ、脳幹部ニューロン内のγ‐アミノ酪酸(GABA)を減少させることにより作用する。また、デキサメタゾンは消化管閉塞において障害部における炎症性浮腫を減少させ、狭窄部を広げることにより効果をあげる。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,122

【7.11.2】
 末期腸閉塞患者の管理に経鼻胃吸引は通常推奨されない。経鼻胃吸引は咳嗽を妨げ、誤嚥、食道炎を生じうる。患者にとって不快であり、患者と家族間に障壁を生む。このため、2週間以上にわたって経鼻胃管が必要な場合、経皮的胃瘻術を考慮する。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,150

      参照→【7.11】「経皮内視鏡的胃瘻造設術」


【7.11.2.a】「腸閉塞による嘔気・嘔吐に対する抗コリン薬の使用」



【7.11.2.a】
 腸閉塞に対して、まずブスコパンで悪心、嘔吐、疝痛を改善。これで効果不十分な場合はハイスコ【適応外】に変更。ハイスコは鎮静作用もあるので少量から。副作用として錯乱やせん妄を起こしやすい。
,最新緩和医療学(1999),,,101

 
【7.11.2.a】
 癌終末期において消化管の通過障害で嘔吐がある場合は抗コリン薬として、ハイスコ【適応外】0.25mg筋注か静注3〜4回/日。
,がん終末期の症状コントロール(1995),,,110


【7.11.2.a】
 ハイスコは抗コリン作用により、直接嘔吐中枢に作用する。消化管閉塞の嘔気・嘔吐に対しては第一選択である。高齢者や衰弱の強い患者ではせん妄に注意する。持続皮下注入(0.5〜2mg/日)、あるいは0.125〜0.25mgを1日3〜4回舌下投与。
,ターミナルケア6月増刊号(1999),9,,65

#2
【7.11.2.a】
 抗ムスカリン薬は、胃や小腸の蠕動促進作用をコリン作動性回路を介して阻害する。抗ムスカリン薬との併用は、メトクロプラミド(プリンペラン)の蠕動促進作用を阻害する。したがって、両者の併用は回避する
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,439

 
【7.11.2.a】
 ハイスコには副作用として抗コリン作用の口渇、鎮静、目のかすみ、排尿遅延などのほかに呼吸や循環抑制もみられることがあるため、全身衰弱の著明な患者では少量から開始して慎重に投与する。また、持続投与した場合、せん妄を誘発しやすいので注意する。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,86
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,91

#2
【7.11.2.a】
 腸閉塞の治療のための抗ムスカリン薬投与と水分摂取の減少とが口内乾燥と口渇をしばしば引き起こす。これらの症状は一般に丁寧な口腔ケアで緩和される。30分ごとの数mLの水分摂取、可能ならば氷片を口に含むことも、しばしば有用である。輸液療法の必要性はほとんどない。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,126

#1
【7.11.2.a】
 ハイスコの有効限界は1日あたり5Aとされ、それ以上投与しても効果の増強はみられない。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,193

 
 

【7.11.2.b】「腸閉塞による嘔気・嘔吐に対するサンドスタチンの使用」


 
【7.11.2.b】
 サンドスタチン【適応外】は近年、進行末期癌患者の消化管閉塞における難治性の嘔気・嘔吐、下痢を緩和する作用があることが知られてきた。
 サンドスタチンはソマトスタチンの合成類似物質で、投与2時間後に作用は最大となり、約12時間持続する。投与方法は持続皮下注か持続静注あるいは12時間おきの皮下注でもよい。サンドスタチンはモルヒネ、レペタン、セレネース、プリンペランなどと同一のシリンジに混注しても効果は変わらないとされる。
 投与は200μg/日から開始する事が可能と思われる。維持量は600μg/日以上に増量してもそれ以上の効果は得られないとされる。副作用はほとんど問題とならない。口渇が起こりえるが、24時間以内に消失するといわれる。
 また、インスリン分泌が抑制されるために食後高血糖が起こることがあるが、一般に消化管閉塞がある患者は経口摂取量が少ないのでほとんど問題とならない。しかし、耐糖能異常のある患者への投与は慎重にすべきである。むしろ、本剤を急激に中止した場合の低血糖が問題になることがあるので注意を要する。すなわち、本剤を中止する場合は投与量を漸減する必要がある。

,緩和医療学(1997),,,116

#2
【7.11.2.b】
サンドスタチン
【効能又は効果】
1. 下記疾患に伴う諸症状の改善
消化管ホルモン産生腫瘍(VIP産生腫瘍、カルチノイド症候群の特徴を示すカルチノイド腫瘍、ガストリン産生腫瘍)
2. 下記疾患における成長ホルモン、ソマトメジン-C分泌過剰状態及び諸症状の改善
先端巨大症・下垂体性巨人症(外科的処置、他剤による治療で効果が不十分な場合又は施行が困難な場合)
3. 進行・再発癌患者の緩和医療における消化管閉塞に伴う消化器症状の改善

【用法及び用量】
1. 消化管ホルモン産生腫瘍及び先端巨大症・下垂体性巨人症の場合
通常、成人にはオクトレオチドとして1日量100又は150μgより投与をはじめ、効果が不十分な場合は1日量300μgまで漸増し、2〜3回に分けて皮下投与する。
なお、症状により適宜増減する。
2. 進行・再発癌患者の緩和医療における消化管閉塞に伴う消化器症状の場合
通常、成人にはオクトレオチドとして1日量300μgを24時間持続皮下投与する。
なお、症状により適宜増減する。

<用法及び用量に関連する使用上の注意>
1. 進行・再発癌患者の緩和医療における消化管閉塞に伴う消化器症状について、本剤の投与量の増量と効果の増強の関係は、確立されていない(「1.重要な基本的注意(5)」の項参照)。
2. 進行・再発癌患者の緩和医療における消化管閉塞に伴う消化器症状に対して本剤を継続投与する際には、患者の病態の観察を十分に行い、7日間毎を目安として投与継続の可否について慎重に検討すること。

1. 重要な基本的注意
(5) 進行・再発癌患者の緩和医療における消化管閉塞に伴う消化器症状に対して必要時増量投与を行う場合は、低体重、悪液質等の患者の状態に注意し、慎重な監視のもとで投与すること。

,サンドスタチン添付文書〔2004年10月改訂(第6版)〕

#1
【7.11.2.b】
 イレウスに対してサンドスタチン【適応外】(注:2004年10月より適応追加)は最初に100μgを皮下注射し、効果を判定する。はっきりしない場合は、12時間ごとに1〜2回追加する。効果が認められたら、12時間ごとに皮下注射するか持続皮下注を行う。維持投与量は1日600μg以上に増量してもそれ以上の効果得られないという報告が多い。現在のところ、筆者は維持投与量300μg/日以下としている。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,62

#2
【7.11.2.b】
 オクトレオチド(サンドスタチン)は、消化管全体の分泌抑制作用を持つ。高価なのにもかかわらず、いくつかの医療センターでは、分泌抑制薬として好んで使用されている。オクトレオチドは通常、持続皮下注入する。標準的な投与量は24時間あたり250〜500mgで、ときにはそれ以上を投与することがある。
 最大の効果が得られるのは、臭化ブチルスコポラミンの72時間後に比べ、オクトレオチドで24時間後と早い。腸内容物を減少させ、腸の膨張を軽減することによって疝痛と嘔吐を改善する。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,126

#1
【7.11.2.b】
 イレウスに対するサンドスタチンの与薬(200μg/day点滴静注で開始して効果をみながら600μg/day点滴静注まで漸増。多くは200〜300μg/dayの連用で十分な効果をみる)により、与薬翌日には吐き気と嘔吐の明瞭な改善が自覚されることが多い。
 わずかながら腸管が開存しているときは(サブイレウス)、サンドスタチンの与薬をすると、ほとんど残滓の出ないエレメンタルダイエットは摂取可能になり、患者の「何か食べたい」「食べることは生の証」という要求にも応えることができることがある。サンドスタチンは、モルヒネやステロイドとともに持続皮下注入が可能である点も利点といえる。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,136


【7.11.2.b】
 (腸閉塞に対するサンドスタチンの効果)
 腸閉塞が起こると腸内容が停滞し、腸管が拡張する。この結果、腸管内腔の表面積が増大して、電解質や水をより多く分泌しさらに腸管が拡張するという”悪循環”が起こる。本剤は腸上皮細胞レベルに作用し、電解質や水の分泌を抑制し、それらの吸収を促進するので、この”悪循環”を断ち切れると考えられている。また、本剤は腸管蠕動を抑制して、腸管の緊張を緩和し痛みを軽減する。
,最新緩和医療学(1999),,,100

 
【7.11.2.b】
 近年、サンドスタチンが消化液分泌の抑制作用、消化管運動の抑制や水分および電解質吸収などの消化管機能に作用することが報告されている。そして、消化管閉塞に伴う消化器症状に対して症状緩和の効果が予想されている。報告によると、既存治療に不応の消化管閉塞に伴う嘔気・嘔吐を訴える患者にサンドスタチンの持続皮下注入を行ったところ改善率は75%であった。
,がんの症状マネジメント(1997),,,181


【7.11.2.b】
 消化管閉塞による嘔気・嘔吐の治療において、サンドスタチンの副作用はほとんど問題とならない。唾液の分泌が抑制されるため、口渇が起こり得るが、24時間以内に消失するといわれる。また、インスリンの分泌が抑制されるために食後高血糖が起こることがあるが、一般に消化管閉塞がある患者は経口摂取量が少ないので、高血糖が問題になることは希である。しかし、耐糖能異常のある患者では、注意すべきである。むしろ、本剤を急に中止した場合の低血糖が問題となる場合があるので注意を要する。
,ターミナルケア6月増刊号(1999),9,,67

#1
【7.11.2.b】
 イレウスの場合、腹痛、嘔気・嘔吐、腹満といった症状一つ一つに対応していく必要がある。サンドスタチンは鎮痛薬、制吐薬、ステロイドといった薬剤と併用してはじめて効果を発揮する。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,63

#1
【7.11.2.b】
 米国のマニュアルでは、腸閉塞患者に対する典型的な持続皮下注入として、モルヒネ60mg、ハロペリドール1.5mg、オクトレオチド(サンドスタチン)0.3mg、ヒドロキシジン(アタラックスP) 25mgの混合液の24時間投与が紹介されている。
,ターミナルケア(2002),12,6,459


【7.11.2.b】
 サンドスタチンは上部消化管閉塞には十分な効果はない。
,ホスピス・緩和ケア白書(1998),,,27

 

【7.12】「下痢、腸炎」


#1
【7.12】
 (下痢の鑑別診断)
 食事より下痢が誘発され、夜間睡眠中にはほとんどない場合は消化、吸収不良による浸透圧性下痢が考えられる。一方、感染性の下痢や、消化管粘膜に器質な障害が起こり下痢をきたす場合には、下痢は夜間にもしばしば認められる。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,72


【7.12】
 癌患者の下痢において、既に痛みのコントロールがモルヒネによりついている場合、モルヒネを増量ではなく、ロペミンを加えるとよい。1回の最大投与量は16mgであるが、重症の下痢の時には、安全にもっと増量できる。実際に用いる量を制約するのは患者が服用できるカプセル数である。
,緩和ケア実践マニュアル(1996),,,199


【7.12】
 サンドスタチン【適応外】はホルモン性あるいは非ホルモン性の重篤な分泌性下痢に対して有効である。100〜250μg 8〜12時間毎に皮下注{(消化管ホルモン産生腫瘍)100〜150μg/日、(効果不十分な場合)300μg/日まで2〜3回に分けて皮下注}
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,65


【7.12】
 放射線性腸炎は通常、放射線治療の2週間後に生じ、治療終了後2〜3週間持続する。
 化学療法、特に5-FUは、白血球が最低となる場合に下痢を生じる。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,156


【7.12】
 放射線腸炎5FU後腸炎は通常自然治癒する。放射線腸炎にはアスピリン【適応外】やブルフェン【適応外】などのNSAIDsが有効である。必要により、アヘンチンキを投与する。
 化学療法による重度の腸炎では、サンドスタチン100μg皮下注1日2回を行う。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,158

#2
 高用量のロペラミドやオピオイドに対する反応が乏しい場合には、オクトレオチド(サンドスタチン) 24時間あたり250μgの持続皮下注入を試みるべきである。すべての患者が反応するわけではないが、オクトレオチドは放射線性下痢に対してジフェノキシレートの24時間あたり10mgより有効である。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,142


【7.12】
 癌患者の下痢に対し、イギリスでのロペミンの最大投与量は、16mg/日となっている。
,最新緩和医療学(1999),,,108

#1
【7.12】
 下痢が1日5回以上あり、体力の消耗により床上排泄を強いられる患者に対して、従来は頻回な便器の挿入あるいは紙おむつを利用していた。しかし頻回な便器の挿入や紙おむつの交換は患者に身体的・精神的苦痛を与える。また、肛門周囲の皮膚障害も起こりやすい。このような状況の患者にはインケア・フィーカル肛門装具の使用が有効である。
,がん治療の副作用対策と看護ケア 第2版(2000),,,144

 
 

【7.13】「便秘」


#1
【7.13】
 (5段階の便秘治療手順)
 合併症状のない便秘に下記の方針を適用するよう勧めたい。まず、腸閉塞と宿便がないことを確認する。
(1)最初に接触性刺激性下剤、例えばセンナ15mgを1日1回か2回投与する。
 〔日本にはセンナ製剤としてセンナエキス(アジャストA)、センノシッド
  (プルゼニド、アローゼンなど)があるので、これらの通常量を用いるとよい〕
(2)これが無効なときには、センナを22.5 mgに向けて増量し、4〜12時間ごとに投与する。
(3)これも効果をあげないときには、浸透圧性下剤、例えばラクツロースシロップ(5mL中に3.3 g含有)15〜30mLを1日1〜2回経口投与する。
 〔日本にはラクツロースがあるが、下剤としての保険上の適応がない〕
(4)これも効果をあげないか、受け入れがたい副作用が起こったときには、浸透圧性下剤を中止し、水酸化マグネシウムの流動パラフインエマルジョン液を開始する(10〜30mLを1日1〜2回)。
(5)これらすべてが無効なときには、最後の手段としてビサコジル坐剤(テレミンソフト)10〜20mgを加える。これも効果をあげなければ2時間後に塩類浣腸(リン酸塩かクエン酸塩)を行い、必要に応じて3日間繰り返す。

,終末期の諸症状からの解放(2000),,,34

#2
【7.13】
便秘の治療(一般的な治療法)
・便秘の原因となっている薬を中止する、あるいは、減量する
・可能なら、患者に身体を動かしてもらう
・便意の訴えには適切に対処し、トイレに行くのを介助する
・ベッド用便器ではなく、ポータブル便器を用いる
・腹圧をかけやすいよう患者の足を足台にのせて支える
・ひとりで排便しやすいように自宅の便座を高くし、手すりを設置する
食事の調整
・食事摂取量を増やす
・食事にふすまを混ぜる
・水分摂取を増やす
・果汁を摂るよう勧める
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,128
 
#1
【7.13】
 緩和ケア病棟では、大腸刺激性下剤のラキソベロンと塩類下剤の酸化マグネシウムを組み合わせて処方している。この組み合わせで有効性がみられない場合にはパントシン散を組み合わせている。
,ホスピスケアの実際(2000),,,141

#1
【7.13】
 クエン酸マグネシウム(マグコロールP)【適応外】
 散剤:1回1包 コップ1杯の水に溶解して内服。強力な塩類下剤で腸管内に水分を移行させ腸内容を軟化増大させる。もともとは大腸検査用薬剤である。あらゆる下剤に抵抗し、消化管閉塞がない場合に適応になる。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,101

#2
【7.13】
(マグネシウム塩類下剤)
 クエン酸マグネシウム(マグコロール)や硫酸マグネシウム(硫苦)などの水溶性マグネシウム塩類がある。大腸検査や大腸手術の前処置として用いられる強力な下剤で、他のどの方法でも成功しない便秘でも完全腸閉塞以外であればほとんど成功する。マグコロールは飲みやすいが通常の便秘は保険適用にならない。しかし硫苦は味が苦いが安価で、1回5〜15gでたいていは便通を得られる。筆者らはカルピスなどで味を調節して、硫苦をしばしば用いている
,ターミナルケア・ガイド(2003),,,150

#2
【7.13】
(グリセリン浣腸)
 通常はグリセリン液(50%溶液)60mLで行ない成功率は高い。しかし便がS状結腸よりも上方にあり、直腸まで下りてきていない場合には、通常のやり方では便通を得られないことがある。このような時には骨盤の下に座布団かクッションを当てがい5〜10p骨盤高位としたうえで、グリセリン120mLを用いて浣腸すると、グリセリンは下行結腸あたりまで逆流して、重症の便秘が一挙に解決することがある。ただしこの方法の場合、血圧が下がっている時にはあらかじめ充分な水分負荷をしておいたほうが安全である。
,ターミナルケア・ガイド(2003),,,148

      参照→【4.2】「モルヒネの副作用としての便秘」

 

【7.14】「しゃっくり」


 
【7.14】
 癌終末期のしゃっくりの治療として以下のものがある。

(1)吸引チューブで咽喉を刺激する、胃管を挿入する。硫酸アトロピン【適応外】を静注するなどを試みる。経口摂取が可能な場合は「柿のへたの煎じ薬」が効果を示すことがある。(柿のへた10gを水約100mLで30分沸騰させ煎じ、この煎液に水を加えて100mLとしたものを1日分とし、1日3回食間とする)効果はばらつきが大きいが、しゃっくりが始まって早期に与薬したときにはよく効くようである。これで効果がないときには以下の治療を試みる。
(2)全身状態が比較的よい患者の場合、ウインタミン【適応外】0.25mg/kgを生食100mLに混入し、15分間で点滴静注する。全身状態が悪くない患者では、この方法で血圧が変動することはまずないが、施行中は頻回に血圧を測定する。患者は軽い眠気を訴え、時には眠ってしまう。上記量で、しゃっくりが止まらないときは、さらに同量追加する。
(3)全身状態が不良の患者の場合、鍼などの治療が第一選択となる。鍼治療で止まらないときは、ウインタミンを上記の量用いるが、血圧の下降に厳重な注意が必要である。

,がん終末期の症状コントロール(1995),,,88

#1
【7.14】
 しゃっくりの機械的刺激法(迷走神経および舌咽神経を直接または間接的に刺激)
 (1)頭を低くして逆様になって、コップの向こう側から冷水を息を止めながらできるだけ多く飲む。
 (2)咽頭刺激:カテーテルを鼻孔から10cmほど(第2頚椎の位置まで)挿入し、細かく動かす。
 (3)その他:a、軟口蓋中央部を綿棒にて約1分間刺激する、b、舌の牽引、c、米・硬いパンを飲み込む、d、食塩水の吸入、e、バルサルバ法、f、眼球圧迫、g、直腸マッサージ、h、鼓膜刺激、i、大さじ1杯のグラニュー糖を飲み込む。

,がんの在宅医療(2002),,,178

#1
【7.14】
  「しゃっくりの薬以外の治療法」
 多くの家庭療法があるが、これらは咽頭への刺激や血中の炭酸ガス濃度を上昇させることに基盤をおいた方法である。

・咽頭への刺激によって作用する方法
   飲む側と反対側のコップの縁に口をつけて冷たい水を飲む。
   5mLのスプーン山盛りのグラニユー糖2杯を急いで飲み込む。
   綿球で軟口蓋をマッサージする。
   くしゃみをする。

・血中の炭酸ガス濃度を上昇させる方法
   息こらえ
   紙袋を顔にあてての呼吸

  「しゃっくりの薬による治療法」
 可能な限り背景にある原因を治療する。単純な薬以外の治療法でしゃっくりが止まらなかったら、次のような薬で治療するとよい。

(1)活性化ジメチコンを含有した制酸薬(マーロックスプラス)【適応外】を4〜6時間ごとに使用し、効果があるなら回数を増やす。
(2)この制酸薬が無効なときには、これに加えてメトクロプラミド(プリンペラン)10〜20mgを4〜6時間ごとに経口投与する。
(3)それでもしゃっくりが続くなら、メトクロプラミド(プリンペラン)からバクロフェン(ギャバロン)5〜lOmgを6〜12時間ごとの経口投与に切り替える。

 ジメチコンは抗鼓腸薬であるが、げっぷを促す作用がある。げっぷにより胃の膨満が軽減する。メトクロプラミド(プリンペラン)は胃内容物の小腸への移動を促進し、バクロフェン(ギャバロン)は横隔膜を弛緩させる。

{抗精神病薬}
 クロルプロマジン(ウインタミン)【適応外】は、上記の薬による治療法が無効のときにのみ使う。10〜25 mgを6時間ごとに経口投与または筋肉内注射で数日は続けるべきである。
 クロルプロマジン(ウインタミン)とメトクロプラミド(プリンペラン)を併用すべきではない。ブロルプロマジン(ウインタミン)がメトクロプラミド(プリンペラン)の胃の運動を促進する作用をブロックするからである。さらに、双方とも抗コリン作動性作用の薬であるため、併用は錐体外路系の有害事象(例えば、痙性斜頸、運動不穏)の発生を増加させる。
 ハロペリドール(セレネース)【適応外】はクロルプロマジン(ウインタミン)より鎮静作用が小さいので、クロルプロマジン(ウインタミン)の代わりに使われることがある。推奨されている投与開始量は1〜5mgの経口投与または皮下注射、引き続いて1〜5mgの就寝時ごと、あるいは12時間ごとの投与を行う。

,終末期の諸症状からの解放(2000),,,64

#2
【7.14】
(しゃっくりに対する医学的方法)
 ・0.9%生理的食塩水の吸入(5分以上かけて2mL)
 ・催吐反射を起こすほどに舌を強く引っ張る
 ・胃管チュープを中咽頭まで挿入して振動させる
 硬口蓋と軟口蓋の境界部を綿棒でマッサージすることは、しゃっくりを抑える機序の効果的誘発法である。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,189

#2
【7.14】
(しゃっくりの薬による治療法)
 ジメチコン含有制酸薬
 シテイ(柿蔕)
 メトクロプラミドを4〜8時間ごとに経口投与。
 バクロフェン10mg/回、頓用または1日3回。
 クロルプロマジンは上記の薬が無効なとき使用する。10〜25mg/回を6時間ごとに経口投与(または筋肉内注射)。
,がん緩和ケアに関するマニュアル(2002),第5章U2.3)


【7.14】
 (しゃっくりの薬物療法)
 プリンペラン2分以上かけ10mg筋注、または4時間毎に繰り返す。セレネースは2〜5mg筋注、維持には1〜4mg経口1日3回。セレネースは有効率が高い。ウインタミン25〜50mg筋注。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,114

 
【7.14】
 しゃっくりの薬物治療として以下の方法がある。
ランドセン 1回0.5mg、頓用【適応外】
キシロカイン 1回1〜2mg/kg(2%注射液で)、生食500mLに溶解し点滴静注、頓用【適応外】。
 キシロカインの注射は淀川キリスト教病院ホスピスでは良く行われており、比較的有効率が高い。効果があれば継続投与することもある。持続皮下注入の場合は、10%注射液を使用して800〜1200mg/日を投与する。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,162

#2
【7.14】
しゃっくりを止めるための咽頭刺激
第2頸椎に向かうように鼻腔カテーテルを8〜12 cm 挿入する。
往復させるとすぐにしゃっくりが止まる。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,190

 
 

【7.15】「痒み」


#2
【7.15】
補正できる点を補正する。
 患者が使用中の薬を見直す。
 ・薬疹によるかゆみなのか?
 ・最近オピオイドが処方されたか?
 原因が薬と思われるときには、可能なら中止する。
 かゆみのある進行がん患者のすべてに、乾燥した皮膚がみられるという事実がある。原因が明確に内因性であるときでも皮膚に再び水分を与えると特異的な治療法は必要なくなる
 胆汁うっ滞によるかゆみは、総胆管にステントを挿入して黄疸が解決すれば緩和する。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,342

#2
【7.15】
(局所投与)
 一般的に局所への薬の使用は、朝身体を洗った後に行い、夜身体を洗った後にも再び行う。
 ・水性クリーム+1%メントール
 ・油性のカラミンローション(0.5%フェノール含有)±0.5%フェノール
 ・バリアクリーム
 ・発赤(炎症)を示すとき、クリオキノール・ヒドロコルチゾン含有クリームあるいはヒドロコルチゾンクリームの単独使用
 10%クロタミトン(オイラックス)クリームは抗疥癬作用を持っているにもかかわらず、かゆみ止めとしてはプラセボをしのぐ効果がない。
 抗ヒスタミン薬は局所に使用しないほうがよい。使用が長引くと接触性皮膚炎を起こすからである。もし抗ヒスタミン薬が皮膚に炎症を起こしたら中止し、炎症が消退するまで1%ヒドロコルチゾンクリームを使う。

(全身投与)
・皮膚に炎症があり、掻きむしった結果としての感染がなければ、コルチコステロイドを使う。例えば、デキサメタゾン2〜4mg起床時あるいはプレドニゾロン10〜20 mg起床時 
・胸壁に浸潤して可動性のなくなった乳がんの局所にかゆみを伴うときには非ステロイド性消炎鎮痛薬:腫瘍に関連するプロスタグランジンの産生を減少させる。プロスタグランジンは神経終末のかゆみ誘発物質に対する感受性を高める
・抗ヒスタミン薬(ヒスタミンタイプ1受容体拮抗薬)クロールフェナミン(ポララミン) 4mgを1日4回:抗ヒスタミン薬が有効か否かを確かめるには急速な増量が役立つ
 セチリジン(ジルテック) 5mgを1日2回または10 mg を1日1回:非鎮静性の点が有用である。
  プロメタジン(ピレチア)25〜50 mg を1日2回
  ヒドロキシジン(アタラックス)10〜25 mg を1日2〜3回、または25〜100 mg を就寝時
  アリメマジン(アリメプラジン)5〜10 mg を1日2〜3回、または10〜30 mg を就寝時
  レボメプロマジン(ヒルナミン) 12.5mgを皮下注射、有効なら6〜25 mg の就寝時の経口投与に切り替える
・パロキセチン*、ミルタザピン*

 かゆみのある進行がん患者の多くでは、皮膚のケアが適切に実施されている限り、抗ヒスタミン薬あるいは他の薬を全身投与する必要がない。また、皮膚のケアが行われていなければ、薬が効果をあげることはない。
 胆汁うっ滞性によるかゆみでは、胆道閉塞の解除に成功しないとき、代わりに薬による治療法が必要となることが多い。皮膚のケアがかゆみを緩和しないときには、次の薬を考慮する。
 ・オンダンセトロン(ゾフラン) 4 mgを1日2回:通常5〜6時間で胆汁うっ滞によるかゆみが緩和し、8mgの静脈内投与では30分後には緩和するが、高価である
 ・アンドロゲン、例えば、スタノゾロール(ウィンストロール)5mgを1日4回、あるいはメチルテストステロン(エナルモン) 25mgの1日2回の舌下投与(訳注:日本には舌下錠がない) 最大効果を得るのに5〜7日かかる 作用機序は不明 黄疸を進行させる可能性があるが、進行がんでは、これが問題となることはない 男性化が問題となることもない
 ・ リファンピシン(リファジン) 150 mg を1日2回、酵素を誘導することによって作用する
 ・経口投与できるオピオイド拮抗薬ナルトレキソンが、いくつかの医療センターで使用されている。かゆみの程度を緩和させるが、完全に緩和させることは通常ない。そのうえ高価である。痛みの緩和にオピオイドを用いている患者には使用されるべきではない。
 コレスチラミンは、胆汁酸と結合する陰イオン交換レジンであるが、使用は推奨されない。しばしば無効であり、味が悪くて口に合わず、下痢の原因にもなる

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,343

#1
【7.15】
 (胆汁うっ滞性のかゆみ)
 胆汁うっ滞あるいは胆道閉塞による黄疸のある患者の多くで、強いかゆみが大きな問題となる。ときには胆道閉塞部の手術が可能であり、手術後にかゆみが消失する。胆汁うっ滞性のかゆみに使うべき薬には次のものがある。

・アンドロゲン系の薬:スタノゾロール(ウインスタノール)【適応外】5〜1Omgを1日1回経口投与あるいはメチルテストステロン(エナルモン)25mgの1日2回の舌下錠〔日本では舌下錠は入手できない〕として投与するが、効果が現れるまでに5〜7日かかる。
・リファンピシン(リファジン)【適応外】150mgを12時間ごとに経口投与。
・オンダンセトロン(ゾフラン)【適応外】の8mgの静脈内注射は、急速な緩和をもたらす(30分後)。維持量は4mgの12時間ごとの経口投与である。

〔注〕コレスチラミンは一般に無効で、胆汁うっ滞性のかゆみの治療には推奨されなくなった。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,104

#1
【7.15】
 パロキセチン(パキシル)【適応外】も痒みに対して効果が早く、数か月にわたり有効性が保たれる。シナプスや血小板においてセロトニンの再取り込み阻害として働く。副作用としては投与初期に吐き気がみられる。しかし、投与を継続していくとシナプス後膜の受容体がdownregulateされ、セロトニンの遊離は減少する。この受容体が抑制性であれば、このdownregulationは神経発火の増加を2〜3週以内に招く。これがおそらくパロキセチンの有効機序である。もし、受容体が興奮性であれば、downregulationは抑制性の働きをする。後者がおそらくパロキセチンのかゆみに対する影響であると考えられている。これはオンダンセトロンの5-HT3受容体に対する影響と同様である。抗鬱効果と抗かゆみ効果の解離は、5-HT3のdownregulationが通常のセロトニン受容体のものと比べ著しく早いと思われる。
,鎮痛・オピオイド研究最前線(2002),,,87


【7.15】
 閉塞性黄疸の患者は極端な皮膚掻痒症に苦しめられることがよくある。キュウリを液状にして1日3回皮膚に塗布すると、ほとんどすべての黄疸患者のかゆみを除去できる。副作用はない。
,終末期ケアハンドブック(1993),,,148


【7.15】
 うっ滞性黄疸の場合、メチルテストステロン【適応外】は時に黄疸を増悪させるが、激しい痒みに有効なことがある。
,ターミナルケア医学(1989),,,194

#1
【7.15】
 腎不全が関連したかゆみには、ゾフラン【適応外】が有用なことがある。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,103

      参照→【4.10】「モルヒネの副作用としての掻痒感」
 

【7.16】「悪臭のある腫瘍、皮膚潰瘍」


#1
【7.16】
 (臭い管理の実際)
 癌性悪臭の管理のポイントは、(1)溶出液の管理、(2)腐敗・感染の管理の2点であり、メトロニダゾール軟膏クリンダマイシン軟膏を使用して効果を上げている。

     処方および使用方法
(1)基本処方
0.8%メトロニダゾール軟膏
   処方:100g中
    メトロニダゾール          0.8g
    マクロゴール#400         20.0g
    マクロゴール軟膏          69.2g
    リドカインゼリー          10.0g

3%クリンダマイシン軟膏
   処方:100g中
    クリンダマイシン         3g力価
    マクロゴール#400         20.0g
    マクロゴール軟膏          60.0g
    リドカインゼリー          10.0g 

(2)調製法
 メトロニダゾールをマクロゴール#400、リド力インゼリーの順に混合し、最後にマクロゴール軟膏と練合均質化し製する。練合する順序をかえてしまうと、うまく混ざらないことがあるので注意を要する。リドカインゼリーは患部の接触痛を考慮し、混合している。必要性がなければ処方からこれを除き、その分マクロゴール軟膏を増量する。
 クリンダマイシン軟膏は、ダラシンカプセル(1カプセル=150 mg力価)20カプセルを開封し、マクロゴール#400と混合、以下メトロニダゾール軟膏と同様に製する。

(3)容器および貯法
 気密容器にて室温保存する。

(4)使用(有効)期限
 安定性試験は行っていないので、品質を考慮し、1週間以内に使用可能な量を毎回用時調整としている。

(5)用法・用量
 強酸性水で創部を十分に洗浄したあとに、本軟膏の適量をガーゼにのばし、1日1〜2回創部に貼付する。臭気の程度、溶出液の量などに応じて処置回数などを考慮する。

(6)使用上の注意点
 一般に創部の潰瘍面は溶出液や血液などの分泌物が多く、軟膏基剤としては液体成分を吸湿する水溶性軟膏のマクロゴールを使用している。機序としては、創部の潰瘍面の分泌物を吸湿し、これをドレッシング剤で受け止めるかたちになる。したがって、溶出液が多く、臭気の管理が不十分となるようであれば、軟膏の使用量を増やし、ドレッシングを強化するか、処置の回数を多くするなどの工夫が必要である。
 また、創部が持続性の出血を伴うようであれば、止血作用のあるアルギン酸ナトリウム末(アルト、改源)を5%の濃度になるよう軟膏に混合し、対処している(メトロニダゾール、アルギン酸ナトリウム末、リドカインゼリーの順に混合する)。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,240

#2
【7.16】
 癌性悪臭の主たる原因は、癌病巣の壊死過程における代謝産物により発生する脂肪酸類を中心とした腐敗臭と考えられている。悪臭には嫌気性菌が関与しており、薬剤療法としてクリンダマイシン、リンコマイシン、メトロニダゾールなどの抗菌薬の全身投与(経口)の有効性が報告されている。これらは投与後3日から10日ほどで効果を示すが、胃腸障害など副作用から長期の使用には不向きである。さらに、十分な血流が保持されない壊死病巣においては、全身投与による薬剤の効果は限界がある。
 現在では多くの施設で癌性悪臭に対する外用剤による臭気管理が試みられている。特にメトロニダゾール軟膏の有用性が報告されているが、軟膏としての市販品がなく、院内製剤としてのみ供給されているのが現状である。
 基材として吸湿性の高いマクロゴール(ソルベース)軟膏を用いることにより患部の溶出液の減少効果がある。癌性悪臭管理においては、感染防止と溶出液の管理が重要であり、病巣の状態に応じてガーゼドレッシングの方法や処置回数を工夫する。患部の接触痛が強い場合はリドカインゼリーを加えると有効である。実際には、メトロニダゾール錠を粉末状にし、洗浄・消毒後の病巣全体に振りかけ、その上からマクロゴール軟膏あるいはポリミキシンB軟膏を塗布したガーゼで覆いドレッシングする方法を試み、十分な消臭効果が得られている。院内製剤は安定性や保存期間が問題となるが、この方法では薬剤をあらかじめ混合せずに使用できる利点がある。

,モダンフィジシャン(2003),23,3,383


【7.16】
 悪臭のある腫瘍に多量で膿状の浸出を伴う場合、滅菌生理食塩水による充分な洗浄を行う。非常な悪臭を生じない限り、抗生物質を含む洗浄液や次亜塩素酸塩を使用してはならない。これらは肉芽組織に対して毒性を有する。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,55


【7.16】
 悪臭のある腫瘍に対し、ポピドンヨードや次亜塩素酸ナトリウムのような消毒液による定期的な洗浄が悪臭コントロールに十分な場合がある。フラジールの局所投与や経口投与(200〜400mgtid)が有効。フラジールゲルが入手できないか、耐えられない場合はマーロックス、ヨーグルトを皮膚の充分な洗浄、乾燥後に適応する。活性炭被覆材が悪臭創からの臭気吸収に有効。また、ハチミツも臭気コントロールに有効であり、創傷治癒を促すと報告されている。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,56

#2
【7.16】
 活性炭を使用したドレッシングの効果には疑問がある。
 家庭用の芳香性防臭剤は十分な成果をもたらさない。防臭剤の臭いで悪臭を置き換えるだけだからである。
 天候が許せば窓を広く開けて新鮮な外気を入れることが最良の選択肢である。
 エアフィルターシステムの使用は実際的でないことが多く、継続的使用は費用がかかりすぎる。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,365


【7.16】
 皮膚に出来た潰瘍にマーロックス【適応外】やヨーグルトを使用すると灼熱感がしばしば緩和される。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,56

#2
【7.16】
(モルヒネの局所投与)
 侵害刺激を伝える末梢性神経線維もオピオイド受容体を持っているが、局所に炎症がないと活性化しない。
 この特性から、関節の手術に際して手術直後のモルヒネ関節内注入法が開発されている。モルヒネの局所投与は、皮膚潰瘍に伴う頑固な痛み、他の方法では緩和しない仙骨部の褥瘡の痛みに対して使用される。一般に、0.1%(1mg/mL)のゲル(Intrasite*を用いる)として使用する。次の状態にはもっと高濃度、例えば、 0.3〜0.5%が必要な場合がある。
 ・口内炎
 ・瘻孔による膣の炎症
 ・直腸潰瘍。
 使用するゲルの量は、潰瘍の大きさや場所によって変える。典型例では、5〜10mL を1日2〜3回局所投与し、次によって被う:
 ・非吸収性のパット。例えば、オプサイト
 ・ワセリンガーゼ

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,67

 
 

【7.17】「腹水、腹部膨満感」


#1
【7.17】
 腹部膨満感は、我が国では臨死期に多く見られる症状で、消化器系の癌に多発している。腹部膨満感の原因は一つではない。腫瘍の増大、腹水、腸閉塞、便秘、腸内ガスの貯留、ステロイド長期投与の副作用などで、腹部が張ってくることもある。まず、腫瘍の増大に対しては、十分な量のオピオイドを使うことが大切。肝腫大などに対しては、コルチコステロイドが膨満感を解消することもあるので、コルチコステロイドを併用している。
 腹水に対しては、必要であれば利尿剤を併用し、また、コルチコステロイドも腹水の減少に役立つ。特に癌性腹膜炎の場合には、モルヒネとコルチコステロイドは症状を緩和する方向に働く。そのうえで輸液を減量、あるいは中止する。以前は、先端のやわらかい穿刺キットを留置して腹水を抜く方法をとっていが、現在ではほとんど行っていない。
 腹腔穿刺をしない理由は、輸液量を適切に調整することによって腹水の増加を抑えることができるからである。特に低タンパク血症を伴っているような場合には、輸液量は腹水量とかなり関係する。終末期患者の低タンパク血症がどのような病態を引き起こすのかということは十分解明できておらず、今後の研究課題でもある。
 現状では、浸透圧の高い高カロリー輸液から維持輸液へと替えていく方法をとっている。高カロリー輸液の適応の目安は、経口摂取不可能で患者の予後が月単位の段階で、しかも3か月以上の予後が見込まれるような場合である。
 予後が週単位と判断した場合には、高カロリー輸液を新たに始めるようなことはしない。また、維持輸液については、患者の予後が週単位の段階で1日1000mL を目安に実施している。ただ、これは経口摂取量にもよる。経口摂取がまったくできない、あるいはかなり頻回に嘔吐しているような場合には、だいたい1000mLを目安にしている。日単位になれば維持輸液も中止する。薬剤の投与のためにどうしても必要な場合には、500mL以下を目安に行うこともある。
 輸液の減量を試みても、腹水がどんどん増えていくケースもある。したがって、輸液量が腹水の増量に本当に結びついているかどうかは不確定である。筆者は月単位から週単位に変わっていく過程においては、2000mL以上の輸液を実施するのは患者にとって害あっても益なしと考えている。

,ホスピスケアの実際(2000),,,161

#2
【7.17】
(利尿薬の活用)
 輸液療法を併用した利尿薬投与は、適切に副作用を管理することができれば、腹水管理を行ううえで大きな武器になる。基本的には、ループ利尿薬カリウム保持利尿薬を血清カリウムの濃度に注意しながら、経口ないし静脈内投与するのが一般的なやり方となる。しかしながら、進行がん患者は低蛋白血症や貧血などで、血中の膠質浸透圧は低下しており、結合組織間に有効利用されない形(いわゆる浮腫)で貯留させることが多く、反対に血管内の水分とナトリウムは減少していることが多い。このような病態では、作用発現も持続時間も短いループ利尿薬を単独で使用していると、効果が上がらないだけでなく副作用が強く出てしまうこともあり、注意が必要である。その点で浸透圧利尿薬は、目に見える効果は少ないが、時間をかけて無理なく水分を組織から血管内に移動させやすいという利点を有しているので使いやすい。
 しかし、いずれの利尿薬でも、すでに大量に貯留してしまった腹水を効率よく、バランスも崩さないで排出させるとはいいがたいので、便通管理と同様に、少量の貯留が確認された段階から使用し始めるほうが、QOLを長期間維持するのに役立つと考えるべきである。また、ほかに利尿薬の副作用として注意しなければいけないのは、血栓形成血糖異常である。進行がん患者の血液の状態は基本的には脱水状態にあると考えてよく、それに腫瘍が産生するTNFなどのホルモン用物質は、凝固活性を異常に亢進させやすく、DIC準備状態をつくり出していると考えられている。このような状態を利尿薬で増悪させると、血栓形成をきたして、脳梗塞や中心静脈血栓症などの思わぬ病態をまねく場合もある。さらに、急速な脱水症の進行は、突然の高血糖状態をきたして、昏睡状態の原因となることもあるので、糖尿病の合併がある患者は慎重な血糖管理も合わせて行う必要があることも知らなければならない。

,緩和ケア(2000),,,243


【7.17】
 軽度の腹水や苦痛症状を生じない腹水に、静注ボーラス投与によるラシックスは、腹水患者のGFRを減少させるが、持続投与(100mgを24時間で)は著しい利尿と腹水の著しい改善をもたらすとの報告がある。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,162

#1
【7.17】
 肝硬変の腹水に対しては、塩分、水分制限また利尿剤投与は有効であるが、癌性腹水にはほとんど無効である。また進行性癌の患者はすでに食欲が減退しており、さらに塩分制限を強いることはかえって栄養状態を悪化させ低蛋白血症を助長させる。利尿剤についてもあまり効果は期待できないが、大量のアルダクトンA150〜450mg/日の有効性の報告があり、試みる価値はある。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,68


【7.17】
 肝硬変による軽度の腹水や苦痛症状を生じない腹水の治療に用いられる塩分及び水分制限は、死にゆく患者にとって不必要な不快を生じさせる。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,162


【7.17】
 急速に再発する腹水には腔内療法(ブレオマイシン)などを考慮する。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,163

 
 

【7.18】「貧血(輸血)」


#2
【7.18】
緩和ケアにおける非緊急輸血
適応
 一般に、次の基準すべてに適合しているときに行うべきである:
 ・貧血を原因とした症状、例えば、努力すると疲労感、全身衰弱感、息切れが起こり、それらが患者にとって煩わしい。日常活動を制約する。輸血により是正できる可能性がある。
 ・輸血の効果が得られ、その効果が2週間は持続すると期待できる。
 ・患者が輸血と必要な血液検査を望んでいる。

禁忌
 ・既往の輸血で利益が得られていない。
 ・終末期で、患者の死が差し追っている。
 ・患者の死を遅らせるだけという表現が当てはまる輸血。
 ・何かしなくてはならないと思う家族からの要求を根拠とした輸血。

 輸血は、元気さ、体力、息切れの点で75%の患者を助ける。ヘモグロビン値が8g/dL以下の患者にも、8〜11g/dL の患者にも、同じ程度の利益をもたらす。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,255

#1
【7.18】
 貧血に対しては以前は経験的にHb10g/dlを目安に輸血が行われていたが、輸血の副作用が注目されるに従い軽度〜中等度の貧血に対する輸血は行われなくなった。現在は一般的にHb7〜8g/dl以下で、貧血による症状(呼吸困難やふらつき、めまいや動悸)を認めるまでは輸血は行わなくなってきている。あくまで輸血の目的は症状緩和であって、ヘモグロビン値を維持させることではない。
,がんの在宅医療(2002),,,184

#1
【7.18】
 従来の医療界には、「貧血=輸血]という治療パターンが定着していたようであるが、筆者はこれを問題視している。ヘモグロビンの基準値は1Og/dL 以上と信じている医師が多いようだが、末期の癌患者の場合では平均8g/dL というのが現状である。臨床的経験でいえば、8g/dL台であれば、治療対象になることは少ない。
 8g/dL以下である場合には、出血や骨髄抑制が疑われる。胃潰瘍や十二指腸潰瘍、癌の消化管浸潤が原因で、じわじわと出血しているような場合には、そのようになることがある。これは明らかに貧血による症状であり、輸血で改善する可能性が高いといえる。輸血後2週間以上の余命が予測されるような場合には、輸血という方法が勧められる。

,ホスピスケアの実際(2000),,,45

#1
【7.18】
 輸血の適応はヘモグロビン値ではなく、貧血の症状の有無によって決められる。したがって個々の症例に合わせて輸血の使用基準を考える必要がある。参考値としてのヘモグロビン値は7g/dLを切ってくれば、自覚症状が多くなることから、輸血の時期を考慮し、5g/dL以下になる前には輸血を行う。また何か特別な行事への参加に輸血を合わせると予想以上に疲労感が軽減することがある。なお高度な貧血患者への輸血で注意すべき点は、循環血液量の荷重負荷による心不全である。MAP赤血球を使用し、輸血速度は毎時1mL/kgに制限し、1回の輸血は1〜2単位にとどめる。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,92

 
【7.18】
 終末期患者においては、貧血が起きているから輸血するというパターンは一考を要する。老人の場合は徐々に貧血状態になったとき、輸血をすることによって心臓に負担がかかり、死期を早めることもある。経験から言えば、末期の患者はやや貧血気味であった方が長生きできて、一番楽である。またすこし栄養状態が悪い方が楽である。
,ターミナルケアとコミュニケーション(1992),,,53

 
【7.18】
 輸血は全身状態が比較的良い場合に実施すると有効なことが多いが、ターミナル中期以後、全身衰弱が進み生命予後が短くなってきた時には心臓に負担をかけ、また無効なことが多いので、実施しない方がよい。経験を積んだ医師が複数で総合的に判断する事が重要である。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,3
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,20

 
【7.18】
 ターミナル前期においては必要に応じて緩和治療を考慮することが重要である。これらは、あくまで時間的延命を目標とするのではなくて、症状の緩和を目標として行うべきである。たとえば貧血のため、全身倦怠感が強いときに、輸血によって改善されることがそれに該当する。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,3
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,20

#2
【7.18】
(貧血の治療)
 検査データを治療するのではなく、患者を治療する。
 がんは疲労感や全身衰弱感を起こすが、これらの症状に貧血が関与しているときには、輸血を試みる適応がある。
 輸血の代わりにエポエチン(遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン:エスポー皮下用)を使うことができる。一般に週3回投与するが、一部の患者では週1回の注射が十分な維持投与量である。
 エリスロポエチンは赤血球産生を刺激する。エリスロポエチンの血清中濃度はがん患者、とくにがん化学療法中の患者で低いことが多い。

 エポエチン(エスポー皮下用)150〜300IU/kg の週3回の投与により次のような効果がもたらされる:
  ・50〜60%の患者で、ヘモグロビン濃度が2g/dL 以上増加する
  ・ヘモグロビン濃度が12 g/dL 付近まで上昇すると、患者の生活状況がさまざまな点で改善する

 エポエチン(エスポー皮下用)の投与がとくに有用なのは、次のような患者である:
  ・血中エリスロポエチンが低値の患者(100mg/mL以下)
  ・骨髄機能を十分に保持している患者(好中球数1500/mm3以上、血小板数10万/mm3以上)
  ・エポエチン(エスポー皮下用)投与開始4週以内にヘモグロビン濃度が1g/dL以上の上昇を示す患者

 エポエチン(エスポー皮下用)は高価な薬である。赤血球数の過剰増加は次によって回避できる:
  ・ヘモグロビン値が1か月あたり2g/dL 以上上昇したら、投与量を25%減とする
  ・治療目標のヘモグロビン値を女性患者では11g/dL、 男性患者では12g/dL とする
  ・ヘモグロビン値が15g/dL以上となった場合には、投与を中止する

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,254

#2
【7.18】
【非緊急輸血とエスポーの比較】
エリスロポエチンと
輸血の比較
エリスロポエチン 輸血
ヘモグロビンの増加 長期的 一時的(2〜4週)
効果が得られる速度 4〜6週 即効的
安全性 副作用はまれ、
かつ一般に軽度
輸血反応と感染の危険
患者にとっての不便さ 皮下注射 静脈内点滴
費用 週あたりの費用が
100〜250ポンド
1回の輸血の費用が
500〜750ポンド
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,256

 
 

【7.19】「血糖管理」


#1
【7.19】
 末期癌患者では、低血糖や高血糖による症状の緩和が重要である。低血糖の原因は、インスリンや経口血糖降下薬の過量投与が大部分で、稀にダンピング症候群や、重篤な肝障害のときにみられる。極力インスリンや経口血糖降下薬を最小限の使用にとどめて、低血糖を起こさないように注意する。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,78

#1
【7.19】
 末期癌患者では許容される血糖値は広くなり空服時に100〜200mg/dL、非絶食時に150〜350mg/dL程度が目標となる。頻回にわたる血糖値の測定はできるだけ避けるようにする。 コルチコステロイド誘発性糖尿病の場合、まずコルチコステロイドの減量を考慮する。次に、食事療法で治療を行い、どうしても十分にコントロールできないときにインスリンまたは経口血糖降下薬を最小限に使用する。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,78

 
 

【7.20】「高カルシウム血症」


#1
【7.20】
 嘔気・嘔吐だけでなく、傾眠、口渇、多飲、多尿、全身倦怠感、食欲不振、便秘、せん妄などの症状がみられたら、まず高カルシウム血症を疑うことが重要である。肺癌や食道癌、頭頚部腫瘍などの扁平上皮癌、乳癌や多発性骨髄腫によくみられる。高カルシウム血症と骨転移との間には相関関係はない。治療で改善する場合があるが、治療するかどうかは総合的に判断する必要がある。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,88

#2
【7.20】
 高Ca血症はすべてのがんにおいて骨転移の有無にかかわらず発生するが、がんによる高Ca血症患者の80%には骨転移がある。骨転移の程度と高Ca血症の程度との間には相関関係はない。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,238

#1
【7.20】
 高カルシウム血症による意識障害では患者は傾眠傾向になることも多く、このことが苦痛に対する閾値を上昇させる。したがって、治療を行うと逆に意識レベルが上がり、全身倦怠感などの苦痛が増強することもよく経験される。
 加齢やステロイドによる骨粗鬆症に対して投与されているビタミンD製剤が、病状の進行による衰弱や脱水によってビタミンD中毒を引き起こし、高カルシウム血症が出現することがある。高カルシウム血症を認めた患者で、ビタミンD製剤が投与されている場合には、まずこれを中止する必要がある。
 生命予後が厳しい場合には、カルシウムの是正が逆に患者の苦痛を増す場合がある。患者の全身状態と生命予後をナースを含めたチーム全体で判断し、治療方針を決定する必要がある。

,誰でもできる緩和医療(1999),,,102

#2
【7.20】
(高カルシウム血症治療の適応条件)
 治療に先立ち、立ち止まって考えてみる! 死が差し迫った患者に起こった致命的な合併症を補正することは、患者のために正当なことなのか?
 次のすべてが、高Ca血症の治療の適応条件である:
 ・血清Ca補正値が11.3mg/dL を超える
 ・高Ca血症による症状
 ・初回発生、あるいは前回の発症から長い期間を経ての発生
 ・これまでの生活状況が(患者自身の目からみて)良好
 ・(前回の治療経過から判断して)医学的に治療効果が持続するとの期持
 ・治療に際しての血液検査と静脈内注射についての患者の同意 

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,241

#2
【7.20】
 生命予後が月単位と予測される患者に高カルシウム血症が発生した場合、ビフォスフォネート製剤による治療が有効である。ビフォスフォネートが有効なときには血清カルシウム値が24〜48時間後から低下し始める。
 しかし、生命予後が週単位から日単位と予測される患者では、ビフォスフォネート製剤を投与しても、患者の症状マネジメントにつながらないことがある。したがって高カルシウム血症と診断したら、治療するか否かは患者の全身状態、生命予後などを総合的に判断する必要がある。
,がん緩和ケアに関するマニュアル(2002),第5章U4.2)


【7.20】
 水分補給と生食による利尿は高カルシウム血症治療の基本。ラシックスは循環血液量不足の危険性増大および低k血症、低Mg血症、アルカローシスの原因となり、有用である証拠はない。しかし必要な水分負荷に耐えられない患者には有用な場合がある。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,263


【7.20】
 高カルシウム血症に対する薬物療法として、アレディアが最も有用であるが、効果発現まで数日かかるので、緊急時にはカルシトニンの投与を行う場合がある。重度の高カルシウム血症患者の場合、カルシトニンとアレディアを併用することにより早期に高い効果が期待できる。カルシトニンは効果発現が速やかで、投与後数時間で効果が認められる。しかし、数日以上投与すると、効果が減弱する場合が多い。また作用自体も弱く2mg/dL以上の減少は望めないことも多い。
,最新緩和医療学(1999),,,160

#1
【7.20】
 エルシトニンは速効性は認めるものの効果が長期に保たれない(エスケープ現象)。ビスフォスフォネートが使用されるようになってからは、緊急時の数日間のみの投与としている。
,緩和ケアテキスト(2002),,,111

#2
【7.20】
(カルシトニンによる高カルシウム血症の治療)
 カルシトニン(鮭由来)(カルシトラン)は、血中Ca濃度を低下させる即効的作用があり、2時間以内に作用が発現する。破骨細胞を抑制するとともに、腎尿細管でのCaの再吸収を阻害する。通常、皮下か筋肉内に注射するが、直腸内投与でも有効である。最大効果は1日100 IU の投与で得られ、作用が2〜3日間は続く。
 カルシトニンは、主としてビスホスフォネートと併用して速やかに早期効果を得るために使われている。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,243


【7.20】
 高カルシウム血症に対するアレディアの投与は十分に脱水が補われ、十分な尿量を示すまで投与してはならない。最大効果は4〜5日後に認められる。発熱を予防するため、ピリナジン500mgの内服と併用するのが最適である。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,263

#2
【7.20】
【高カルシウム血症に対するアレディアの投与量】
血清カルシウム濃度補正値(mg/dL) 投与量
<12mg/dL 30mg
12〜14mg/dL 30〜60mg
14〜16mg/dL 60〜90mg
>16mg/dL 90mg
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,242


【7.20】
 高カルシウム血症に対するアレディアの使用。本剤は腎での再結晶化を予防するため、4時間以上かけて点滴する。血清カルシウム値は24〜48時間後より低下し始め、5〜7日目で最も低下する。この効果は7〜14日間ほど持続する。
,最新緩和医療学(1999),,,160

#2
【7.20】
(アレディアによる高カルシウム血症の治療)
 ・最大推奨量は90mg/回、静脈内注射
 ・注入速度は60mg/時間を超えないこと(腎障害患者での注入速度は20mg/時間とする)。
 ・溶解濃度は60mg/250 mL を超えない
 ・初回投与に対する反応が不十分なときには、1週間後に再投与する 
 ・血中Ca濃度をみながら3〜4週間隔での投与を継続する。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,242

 
【7.20】
 悪性腫瘍における高カルシウム血症において最も注目すべきは中枢神経系の症状で、情緒不安定、傾眠などがみられ、原因不明のまま放置あるいは誤診されれば昏睡から時に死に至る。悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症とそれに伴う臨床症状の特徴は原発性副甲状腺機能亢進症の場合と異なり急速に出現することであり、迅速な治療が必要で、これによって、たとえば意識は静明となり、QOLの面からも極めて重要である。
,緩和医療学(1997),,,120

#1
【7.20】
 コルチコステロイドは腫瘍に対する直接的な増殖抑制作用や、PTH-rPやサイトカインの産生を抑制することによって高カルシウム血症に効果を示す。特に、リンパ腫、骨髄腫、転移性骨腫瘍、乳癌、前立腺癌、ビタミンD中毒は有用である。効果が出現するまで数日を要する。
 ベタメタゾン(リンデロン
 錠剤:1回1〜2mg、1日1回朝または1日2回朝・昼。
 注射剤:1回2〜4mg、1日1回静注または点滴静注
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,141

#2
【7.20】
(ステロイドによる高カルシウム血症の治療)
 コルチコステロイドは、今では推奨されていない。効果が少ないからである。しかし、カルシトニンの皮下注射時の補助薬としては有用である。
 他に有効な治療法が使えない場合には、乳がん、腎がん、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫などの患者の高Ca血症にプレドニゾロン(プレドニン)60mg、 または、デキサメタゾン(デカドロン) 8mgを1日1回投与する。これより少量では効果があがりにくい。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,244

#2
【7.20】
(サンドスタチンによる高Ca血症の治療)
 オクトレオチド(サンドスタチン)はソマトスタチンの誘導体である。神経内分泌腫瘍による高Ca血症が他の高Ca血症の治療法に抵抗を示したときに有効であったという。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,244

 
 

【7.21】「頭痛」


#1
【7.21】
 転移性脳腫瘍による頭痛の場合、通常の消炎鎮痛薬は効果がないことが多い。頭蓋内圧亢進は腫瘍自体の容積というより周囲の脳浮腫によることが多いので、高浸透圧輸液(グリセロール、マンニトールなど)を6〜8時間ごとに用いるとともに、ステロイドを静注で用いるとかなりの効果が得られる。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,111


【7.21】
 脳腫瘍に伴う頭痛が強い場合、クリアミンが意外に奏功することがある。また、下垂体腺腫のなかでも成長ホルモン産生性の腺腫は激烈な頭痛や四肢痛を訴えることが知られている。この痛みには、サンドスタチンが特異的に奏功する。
,今月の治療(1997),5,12,28

 
 

【7.22】「不安」


 
【7.22】
 不安は痛みのある患者によくみられるが、治療で十分に疼痛が除去されれば解消することが多く、抗不安薬をすぐ必要とする事はまれである。何よりも患者の話に傾聴し共感することが重要である。
 しかし、強い不安や恐れによって痛みや呼吸困難などの身体症状が増強されている場合セパゾンを1回1〜2mg、1日3回投与が非常に有効なことがある。レキソタンは抗不安作用のほか恐怖症や脅迫症状のみられる患者に有効で、1回2mgを1日3回投与する。メレックスは、不安によって動悸などの循環器症状のみられる患者に有効で1回0.5mgを1日3回投与とする。セレナールは、副作用が少なく高齢者や全身衰弱の見られる患者が適応となる。また、少量のジアゼパムが筋の攣縮や緊張を和らげるのに有効なことがある。

,癌疼痛治療におけるモルヒネの使い方(1991),,214

#1
【7.22】
 クロキサゾラム(セパゾン
 錠剤:1回1〜2mg、1日2〜3回。強い不安や恐れによって、痛みや呼吸困難などの身体症状が増強されている場合、クロキサゾラムの投与が有効である。抗不安作用が強く、作用時間は長い。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,185

#1
【7.22】
 ジアゼパム(セルシン
 錠剤:1回2〜5mg、 1日2〜4回。ベンゾジアゼピン系抗不安薬の標準薬とされる。筋弛緩作用や抗痙攣作用か強いので日中の使用には注意を要する。少量のジアゼパムが筋の攣縮や緊張を和らげるのに有用である。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,185

#1
【7.22】
 ブロマゼパム(レキソタン
 錠剤:1回1〜2mg、 1日3回。プロマゼパムは抗不安作用のほか、恐怖症や強迫症状のみられる患者に有効である。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,186

#1
【7.22】
 オキサゾラム(セレナール
 錠剤:1回5〜20mg、 1日3回。オキサゾラムは副作用が少なく、高齢者や体力低下のみられる患者が適応となる。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,186

 
【7.22】
 (癌終末期の不安に抗不安薬を使う場合)
 通常の不安にはワイパックスを初回3mg分3、6mg分3まで増量可。ジアゼパムは急性不安、発作性不安に1回5〜10mgを開始量とし1回10mg1日2〜3回まで使用可能。
,癌の痛みハンドブック(1992),,,120


【7.22】
 不安には、心理的援助が必要だが、不安が強い場合には、さらに薬物療法が必要になる。不眠、緊張した表情、焦燥感などが初期症状。セルシンを6mg→15→30→40mg/日まで増量し、同時に抗鬱薬の就寝時投与を加えて睡眠のパターンをコントロールする。さらに強い不安にはウインタミンを25mg/日→50→75mg/日に増量して投与する。
,癌患者の症状のコントロール(1991),,,119

 
【7.22】
 抗不安薬は精神安定のみでなく、筋緊張性の痛みにも有効であり、患者が「これがよく効く」と好んでいる場合には、薬剤の変更や中止はかえって不安を覚えるので注意する。ジアゼパムは眠気に影響するが、ワイパックス、デパス、リーゼは軽度である。
,ターミナルケア(1995),7,1,27

 
【7.22】
 心理的な要因がモルヒネの作用を阻害することがある。モルヒネ投与は包括的な身体的心理的ケアの手段の一つとして行うべきものである。心理的要因を無視すると痛みが治療に反応しにくくなってしまう。MSコンチン6000mgを12時間ごとに投与されても除痛できなかった患者がMSコンチン30mgの12時間ごとの投与とジアゼパム10mgの就寝前経口投与で除痛でき退院もできた。
 このようなことを実現させた鍵は患者と医療者のコミュニケーションであった。このような場合、治療の第一目標は、痛み、不眠、疲労、痛みの増強、興奮という悪循環を断ち切ることにある。夜間の良眠が得られるようにするには、少なくとも対応の初期には就寝時に抗不安薬とモルヒネの併用が必要である。
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,186


【7.22】
 コンスタンの末期ケアでの常用は、強い依存が生じるため避ける。末期に近づき量を減らさなければならないとき、重症の退薬症状や痙攣が起こる。静注も同様に勧められない。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,66

#1
【7.22】
 不安に対してベンゾジアゼピン系の薬が無効な場合には、フェノチアジン系の薬が有用である。例えば1回2〜5mgでセレネースを開始し、続いて就寝前に投与する。メレリルウインタミンも鎮静効果が大きく、代わりに使うことのできる有用な薬である。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,20


【7.22】
 癌の受容に至るまで十分な怒り十分な嘆きをだしていくことも大事である。そのために「癌」に対し逃げることなく対峙していくことも大切である。今までのベンゾジアゼピン系抗不安薬は、逃避に近い側面がある。その点セディールは意識していない不安、緊張を消退させ、抑鬱状態を解消していく。それは癌患者の内面の不安、抑鬱を消退させ、受容のプロセスをスムーズに進展させていく可能性がある。さらには、精神状態の安定化は免疫機能を高め、癌治療に対してもよい効果をもたらす可能性がある。
,今月の治療(1998),6,6,113

 
【7.22】
 モルヒネ使用中に抗不安薬を投与する必要が生じた場合は、アタラックスPがもっともよいと思われる。なぜなら抗不安作用、鎮静作用だけでなく、モルヒネの鎮痛作用増強とともに抗ヒスタミン作用、制吐作用などモルヒネの副作用にも効果がある。また、経口・静注双方の薬剤があり、しかも循環・呼吸系への影響が少ないので、全身状態が悪化している患者にも使用できる。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,82


【7.22】
 テノーミン【適応外】25〜50mg/日は不安による身体症状に、鎮静もなく効果があることが多い。
 バルビツール酸系薬剤は不安に対するベンゾジアゼピン系薬剤への反応が悪くなったときの代用によい。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,67

#1
【7.22】
 不安に伴う発汗や振戦などの身体的症状は、インデラル【適応外】の10〜20mgの投与(投与間隔8時間以上)で消失するが、既往に喘息のある患者には使うべきではない。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,20


【7.22】
 患者に不安が生じた際、可能なときは常に不安症状を生じる薬物を中止する。たとえば、抗コリン薬、アミノフィリン、β作動薬、大量のプリンペランなど。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,242

#1
【7.22】
 不安を抱く患者は、抑鬱を示していることが多い。不安を伴う抑鬱には抗鬱薬投与が有効であるが、ベンゾジアゼピン系の薬は無効なため、診断に際しては不安を伴う抑鬱の把握が重要である。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,17

 
 

【7.23】「適応障害、パニック障害」


#1
【7.23】
(適応障害)
 適応障害とは、強い心理的ストレスのために、日常生活に支障をきたす(仕事や家事が手につかない、眠れないなど)程度の不安、抑鬱などを呈するもので、いわゆる反応性の疾患である。通常は、鬱病や全般性不安障害(いわゆる不安神経症)などの他の精神疾患を除外することによって診断されるが、癌患者においては、特に先行する精神疾患の既往がない場合、鬱病、せん妄を除外すればほぼ十分であることが多い。なお、癌患者においては、不安、抑鬱両者が混在するものが多い。
 適応障害の治療は概ね精神療法と薬物療法に大別されるが、とりわけ精神療法は不可欠である。また、背景に適切にコントロールされていない身体症状(特に痛み)や家族の問題などが存在することも少なくないため、常に包括的なケアを念頭におく必要がある。

(1)適応障害の支持的精神療法
 最も一般的で、そして有用なのは支持的精神療法である。支持的精神療法は、癌に伴って生じた役割変化、喪失感や不安感、抑鬱感をはじめとした情緒的苦痛を支持的な医療者との関係、コミュニケーションを通して軽減することを目標とする。その基本は、患者の言葉を非審判的な態度で支持し続けることにある。最も重要なことは、患者をよく理解することであり、この理解することこそが、患者のために医療者がなしうる最も支持的なことである。したがって、患者に対する理解を深めるために、現在の問題、過去の問題、そしてこれまでの患者が歩んできた人生の歴史を十分に聴くことが重要である。持に癌患者とのコミュニケーションにあたっては、個々の患者における病気の意味に視点を置くことが重要であり、これらを通して、病気が患者の生活史に与える衝撃の意味を理解し、患者の感情と苦しみは今まさに正しく理解されつつあると患者に言語的あるいは非言語的に伝えることが治療的に働く。
 実際的には、「病気を受容すること]を目標にするのではなく、その人なりの方法で病を理解し適応していくことを援助することが有用であることが多い。このために医療者はまず、病気とその影響について患者が抱いている感情の表出を促し、それらを支持・共感しながら現実的な範囲で保証を与えていく。自分の感じるままを言葉にしても常に支持しようとする医療者に接することは、癌患者にとって非日常的な体験であり、患者の自己評価を高め、対処能力を強化する。“病気に負けないで頑張りなさい”と安易に励ますことは、患者の精神的負担や自責感をかえって増幅してしまうため好ましくない。
 また、癌患者は比較的高齢であることが多く、癌に罹患することはそれ以前に経験された喪失に喪失を重ねることでもあるため、自己評価を高めるために、面接により人生を振り返ることを通して、これまでの人生で達成してきたこと、誇りに感じていることなどを再確認する手助けをすることが有効であることも多い。

(2)適応障害の薬物療法
 薬物療法は、精神療法のみでは効果が不十分である時や患者の苦痛が著しく強い時に考慮する。抑鬱、不安など顕在化している精神症状や患者の身体状態によって選択薬剤が異なるが、抗鬱効果も期待でき、また半減期の短い抗不安薬アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)から投与することが実際的である。例えば、アルプラゾラムを0.4〜1.2mg/日程度の少量から開始し、適宜増減する。アルプラゾラムで効果が十分得られない場合、抑鬱気分を主体とした適応障害であれば、鬱病治療に準じて抗鬱薬への変更または併用を行い、不安が優位な適応障害であれば他剤への変更を考慮する。
 いずれの場合も、少量から開始し、眠気やふらつきといった副作用の出現などの状態をきめ細かく観察しながら、状態に応じて適宜漸増していくことが原則である。抗不安薬による副作用の代表的なものは眠気とふらつきであるが、時としてせん妄を惹起することもあるので、特に高齢者や衰弱した患者においては注意が必要である。抗不安薬に関しては、症状が改善すれば、漫然と継続使用することなく、徐々に減量していくことが望まれる。
,がんの在宅医療(2002),,,189

#2
【7.23】
(パニック障害)
 パニックとは、大きな恐怖に遭遇したとき、それと”闘う、または逃れる”という防衛反応に失敗したときに起こる発作的病的状態である。パニック状態では、すべての既存構造や現実検討が失われてしまう。死が近づいたとき、運命に圧倒される感覚や絶対的な絶望感が訪れる。パニックはさまざまな自立神経症状を示す。パニックは生理学的に引き起こされるので、漠然と続くことはあり得ない。したがって、パニックは発作的に生じ、発作は群発することがある。
(1)パニック障害の薬物療法
 直ちに治療するにはベンゾジアゼピン系の薬を使用する。どのベンゾジアゼピン系の薬も使用できるが、アルプラゾラム(ソラナックス)やクロナゼパム(リボトリール)など効力の大きな薬のほうが有効性が大きいようである。クロナゼパム(リボトリール)は、半減期が長く、効力も大きいため、よく選択されるベンゾジアゼピン系の薬である。1日2回投与が最良で、悪化やリバウンド的な再発を防止する。
 患者によっては、プロプラノロール(インデラル)20mg を直ちに経口投与すると、しばしば有効である。器質的な原因が疑われるときや錯覚や幻覚のような精神病的な症状を伴っているときには、ハロペリドール(セレネース)やチオリダジン(メレリル)などの抗精神病薬が適応である。
 維持療法は、ベンゾジアゼピン系の薬または選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)またはその双方の併用である。初期の不安の再燃を防ぐために選択的セロトニン再取り込み阻害薬を開始したときには、数週間にわたりベンゾジアゼピン系の薬を継続するのが一般にもっともよい方法である。このような理由から低用量の初回量、例えばセルトラリン25mgの1日1回での開始がときに推奨されている。この開始量を必要に応じて1〜2週間ごとに50〜100mg に向けて増量する。その代替薬は、鎮静効果と選択的セロトニン作動効果のあるミルタザピンである。息切れがあり、短い予後しか期待できない患者では、ベンゾジアゼピン系の薬が治療選択肢となるであろう。

(2)パニック障害のマネジメント
                 選択的セロ卜ニン再取り込み阻害薬
          (ステップ 3)±ベンゾジアゼピン系の薬(長期的)
          
     (ステップ 2)ベンゾジアゼピン系の薬(短期的)
     
(ステップ 1)薬以外の治療法(短期的)

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,207


 

【7.24】「抑鬱」


#2
【7.24】
 進行がん患者の5〜15%が病的な抑鬱を発生する。その他の10〜15%が何かの抑鬱症状を示すが、しばしば適応障害であり、また絶え間ない辛い症状による士気の喪失によるものである。
 抑鬱を診断することは、とくにその80%以上が通常の治療法によく反応することから、重要である。
 抑鬱を治療しないと次が起こる:
 ・他の症状が増強する
 ・社会的な引きこもりにつながる
 ・患者が未完成の仕事を片付けることを妨げる。

 抑鬱は次の理由から診断されずにいることがある。
 ・気分の落ち込みは”理解できない”あるいは”反応性である”として医師や看護師に無視される
 ・1日のうちの早い時間帯に比べ、医師の診察を受ける時間帯におけるほうが患者の気分が良いことが多い(日内変動がある)
 ・社会的な適応によって抑鬱が隠される(微笑みうつ病)
 ・抑鬱が痛みのような身体的症状として表現されている(身体表現性)
 ・抑鬱が、併発している不安の症状によって隠されてしまう
 ・例えば、注目を引きたいといったような人格的な素質の悪化として抑鬱が現れている。

 一方、悲しみを感じているすべての患者やときに泣き出す患者が抑鬱であるとの過剰診断を受けている。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,213

#1
【7.24】
 抑鬱と悲しみとを混同してはいけない。悲しみは、終末期に至ったと知ることに対して起こる通常の反応であるが、抑鬱は特定の病的状態であって、異常である。
 抑鬱は終末期患者の5〜10%に起こるが、治癒可能である。がん、エイズ、その他の疾患の終末期の患者における抑鬱を対応不能な症状とみなすべきではない。患者が悲しくなり、悲嘆に苦しむことがあってもよいが、生涯の最期の日々に起こる抑鬱を治療せず、患者が抑鬱に耐えている状態に陥らせたままにしておいてはならない。

,終末期の諸症状からの解放(2000),,,50

#1
【7.24】
 終末期に至っていない患者では、睡眠パターン、疲労、便秘、食欲不振などの身体的変化が抑鬱の診断に結びつくが、終末期患者では、これらの症状が普通にみられるため、抑鬱の有無の判断の指標にはならない。したがって、抑鬱は次のような心理学的特徴を根拠に診断するとよい。
・少なくとも1日の半分の時間は抑鬱的な気分となり、それが2週間以上続いている。
・普段なら喜ぶべきことが起こったときや喜ぶべき人々に出会ったとかに関心を示さない。
・社会面の活動から遠ざかっている。
・自分の身だしなみに関心がない。
・顔に表情がない。
・集中力が低下している。
・泣くことが多い。
・絶望感に陥っている(残りの人生の中でやるべきことが何もなくなったと感じている)。
・死んでしまったほうがよかったとの気持ちになっている。
・罪悪感を持っている。
・自分には価値がないと思い、自尊心が低下している。
・自殺念慮がある(これが自殺を試みたり、安楽死を求めることにつながることがある)。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,50

#1
【7.24】
 たとえば、自分の病状を知っている患者が「死にたい。早く逝きたい」と訴えることはよくある。これはspiritual painが原因になっている場合もあるが、抑鬱が引き金となっていることもある。抑鬱が現れたら、抗鬱薬で積極的に治療をしたほうがよい場合がある。
,ホスピスケアの実際(2000),,,41

#2
【7.24】
抑鬱の診断(評価)
 身体的に衰弱している患者では、抑鬱の診断が困難である。
 ある患者は抑鬱に陥っているようにみえるが、単に死期が近いので活力が枯渇し、それに伴って生活の楽しみも喪失しているのが現実である。一方、激しい痛みなどに遭遇していない活力のある患者では、個人的な環境の変化などに起因した悲しみなどの重症適応障害と抑鬱との鑑別が必要である。
 抑鬱による身体的症状が、がんによる身体的症状と重なり合っているという事実は、抑鬱の診断をいっそう難しくしている。家族を含むもっとも親しい人々からの情報は、患者の感情状態を診断するためには信頼性が低い。
【悲しみと病的な抑うつの鑑別】
共通した特徴 抑うつに多くみられる病像
・関心の喪失
・集中力の減退
・涙もろさ
・不安
・唾眠の減少
・疲労感
・食欲不振
・自殺念慮


・生活全般にわたるすべての感情や喜びの喪失
・社会的引きこもり
・気晴らしができない(日内変動がある)
・易刺激性
・不安の身体的症状(発汗,振戦,パニック発作)
・絶望感、無価値感
・過度な罪責感(とくに家族や友人に関して)
・治療が難しい痛み
・安楽死願望
・自殺企図
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,214

 
【7.24】
 ターミナルにおいて、持続する癌性疼痛により、疼痛そのものより治療困難な鬱状態を生じることが多い。このような疼痛の治療に抗鬱薬を使用し、疼痛を軽減し鎮痛薬を全く中止し得る場合がある。投与方法は内服ではトフラニールを50〜75mgで開始し効果により150〜255mgまで増量し維持量とする。筋注では1回25mgを1日2〜3回投与する。効果発現まで3日あるいは4週間以上を要する。治療がうまくいった場合、患者は「疼痛はあるが余り気にならない」状態になる。これはトフラニールに特徴的な鎮痛効果である。
,臨床薬学マニュアル(1990),,242

#1
【7.24】
 (抑鬱の薬物療法)
(1)軽症の抑鬱であれば、抗不安薬のアルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン:0.4〜1.2mg/日)が第一選択薬となる。選択的ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)であるミルナシプラン(トレドミン:50〜150mg/日)も薬剤相互作用が少ないので使用しやすい。
(2)中等症の抑鬱に対しては、比較的副作用の少ない選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)であるフルボキサミン(ルボックス、デプロメール:50〜200mg/日)やパロキセチン(パキシル:10〜40mg/日)を用いる。
(3)重症の場合(とくに自殺念慮を有する場合)には、鎮静作用の比較的強い抗鬱薬であるトラゾドン(デジレル、レスリン:75〜200 mg/日)、あるいは三環系抗鬱薬のノルトリプチリン(ノリトレン)、アミトリプチリン(トリプタノール)、クロミプラミン(アナフラニール)など(75〜200mg/日)が頻用される。
(4)経口摂取ができない場合には、三環系抗鬱薬のクロミプラミンあるいはアミトリプチリン(12.5〜50mg/日)を7〜10日間程度、緩徐に点滴静注する。

,TECHNICAL TERM 緩和医療(2002),,,144

#1
【7.24】
 (抑鬱の支持的精神療法)
 抑鬱を呈した患者への精神療法的アプローチの基本は、まず安易な励ましや早すぎるアドバイスは避け、患者の気持ちを素直に言葉に表わすようにうながし、その言葉に真剣に耳を傾け、批判や解釈を加えることなく患者の言葉に対して肯定的に接し、それまでの患者の言動を強力に支持することである。
 また、抑鬱患者に最低限話しておくべき治療的説明としては、(1)抑鬱は待てば必ず回復することを保証し、(2)静養と服薬を心がけるように伝え、(3)重要な事柄(退院、治療放棄、退職、離婚など)の決定をひとまず保留・棚上げにし、(4)(とくに自殺念慮の強い場合、口頭でよいから)絶対に自殺にしないと約束させること、の4点が肝要である。
,TECHNICAL TERM 緩和医療(2002),,,145

#2
【7.24】
抑鬱の説明(患者指導)
 説明の仕方は、患者の身体的心理的状況によって異なる。抑鬱は恥ずかしいことではないと伝えると、患者の心はしばしば助けられる。例えば次のように行う。
 「私には、あなたは気分が落ち込んでいるようにみえるのですが…身体の病気を抱えるということは大変な労力が必要ですし、感情面でも大変疲れるものです。今抱えているストレスが脳のある種の化学物質を減少させるので、抑鬱が引き起こされたのです…抗鬱薬はこのような化学物質を補充する働きをする錠剤です」
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,217

#1
【7.24】
 イミプラミン(トフラニール
 錠剤:1回10〜25mg1日3回。
 クロミプラミン(アナフラニール
 錠剤:1回1O〜25mg 1日3回。
 注射剤:1回12.5〜25mg 点滴静注(2〜4時間)。

 抑鬱に対してアナフラニール注射液は1回12.5〜25mg、ブドウ糖液500mLに溶解し、2〜4時間かけて点滴静注。即効性があり点滴静注が可能なので、経口投与が困難な場合に有効である。抑鬱気分、悲哀感、絶望感の強い場合は、気分高揚化作用のあるイミプラミンクロミプラミンを使用する。イミプラミンは最も早く発売された標準的抗鬱薬であり気分高揚作用が強いが、効果発現は遅い。これに対してクロミプラミンは気分高揚作用が強く、速効性があり、点滴静注が可能である。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,54
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,190

#2
【7.24】
(抑鬱における第一選択抗鬱薬)

・三環系抗鬱薬アミトリプチリン(トリプタノール):ノルアドレナリンおよびセロトニン再取り込み阻害薬
 ・世界中で広く入手でき、安価
 ・初回、就寝時に10〜25 mg を投与し、25〜50 mg まで増量
 ・2週間投与して無効のとき、段階的に75〜150 mg まで増量
 ・増量を制約する主な副作用は、口内乾燥と鎮静など

・選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)パロキセチン(パキシル):
 ・ある程度の抗ムスカリン作用を持つ;投与初期の不安増強が起こりにくい;離脱症状を起こしやすい
 ・投与開始量は10〜20 mg を起床時、できれば朝食後に服用(昼間の眠気が強く現われたときには就寝時に服用)
 ・2週間投与して無効の場合、20〜30 mg、ときに40 mgまで増量
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,444

#1
【7.24】
 アミ卜リプチリン(トリプタノール
 錠剤:1回 10〜25mg、就寝前。
不安、焦燥、内的不穏を主とした抑鬱に有効である。アミトリプチリンは抗コリン作用が最も強い。鎮静作用が強いので、就寝前に服用させることが有効である。強い不穏や激越状態にある比較的若い患者が適応となる。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,191

#1
【7.24】
 マプロチリン(ルジオミール
 錠剤:1回10〜25mg、 1日3回。
 ミアンセリン(テトラミド
 錠剤:1回10〜30mg 就寝前。
四環系抗鬱薬は副作用としての眠気が少なく、抗コリン作用も少ない。高齢者や体力低下の著しい患者に使用しやすい。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,191

#1
【7.24】
 トラゾドン(デジレル
 錠剤:1回25mg1日3回。
セロトニンの再取込みの抑制があり、抗コリン作用は弱い。副作用が少なく、高齢者や身体疾患のある患者にも投与可能である。不安、焦燥、睡眠障害の強い鬱病に有効である。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,191

#1
【7.24】
 フルボキサミン(デプロメール、ルボックス
 錠剤:1回25〜75mg 1日2回。
選択的セロトニン再取り込み拮抗薬(SSRI)であるフルボキサミンは、三環系抗鬱薬と同等の効果があり、かつ副作用が極めて少なく、全身状態の悪い末期癌患者においては使用しやすい。シサプリド(アセナリン)とチオリダジン(メレリル)との間に併用禁忌があり、同時には使用しないよう注意する。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,191

#2
【7.24】
(SSRIと三環系抗鬱薬の相互作用)
 フルボキサミンはCYP1A2を強力に阻害するため、三環系抗鬱薬の脱メチル化を阻害し血中濃度を上昇させる。フルボキサミン100〜300mg/日とクロルプラミン、アミトリプチリンを併用すると、クロミプラミン、アミトリプチリンの血中濃度が約2〜8に倍上昇したとの報告がある。
,緩和医療と薬物相互作用(2003),,,91

#1
【7.24】
 メチルフェニデート(リタリン
 錠剤:1回1O〜20mg、1日1回朝または2回(朝、昼)。
生命予後が数週の末期状態の場合、三環系抗鬱薬などは効果発現までに充分に時間がなく、また副作用を考えると適応となりにくい。このような場合には、鬱病やナルコレプシーの治療薬であり、中枢神経刺激薬であるメチルフェニデートが有用である。この薬剤は、精神賦活作用があり集中力や注意力、食欲、全身倦怠感、疲労感、オピオイド投与に伴う眠気などを改善する。また、三環系抗鬱薬と比較して数時間から数日内に効果がみられるという速効性が特徴的である。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,192


【7.24】
 抑鬱状態にリタリンは三環系抗鬱薬より速効性がある。これまではオピオイドの鎮静作用に拮抗させる目的で使われてきた。本剤が奏効すれば、三環系抗鬱薬も奏効することが多い。副作用には悪夢、不眠症、不安がある。投与量は5〜10mg 1〜2回/日。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,72

 
【7.24】
 抑鬱気分が強いと判断したら、速効性で副作用の少ないドグマチールから開始する。効果が不十分ならレキソタンを加えるのがよいと思われる。次いで、本格的な抗鬱薬の投与を行う。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,128

 
【7.24】
 癌末期患者におけるステロイド大量間欠投与の効果。ステロイドには投与中に多幸感などの精神的高揚が見られることがある。落ち込み、沈痛状態にある患者に、この作用を利用した治療を行った報告がある。使用薬剤はソルコーテフ2000mg/日、5日間連続。
,終末期医療(1991),,0,81

#1
【7.24】
 薬物療法としては、抗鬱効果も期待できるコンスタンから投与するのが実際的である。たとえば、0.4〜1.2mg/日(分1〜3食後)程度の少量から開始し、適宜増減する。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,143

#1
【7.24】
 ベンゾジアゼピン系の薬は抑鬱を悪化させることが多いが、コンスタンは、不安と抑鬱とが混在している患者が夜間の鎮静を必要とし、抗鬱薬による抗コリン作用に耐えられないときに有用な薬である。しかし、高度な抑鬱に単独で投与してはならない。本剤を長期投与したときには突然に中止してはならず、また他のベンゾジアゼピン系の薬に安易に切り替えてもいけない。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,54

#1
【7.24】
 癌患者に多く認められる軽症の抑鬱に対しては、抗不安薬から投与する。
,Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドライン(2000),,,144


【7.24】
「ここもあそこも、そこもどこも痛む」とベラベラと訴える患者には抗鬱薬が効く。鬱状態かどうかを確認した後に投薬すると、多くは劇的に効く。このような状態の患者さんは嘘かと思えるほどいろいろと訴える。癌の全身転移かと思ったとき、抗鬱薬の使用を検討したい。
,JIM(1992),2,6,497

#2
【7.24】
 セントジョーンズワート(St. John's wort ; オトギリソウ抽出物)はどこでも手に入る店頭販売(OTC)の抗鬱薬である。中等度の抑鬱に対してイミプラミン(トフラニール)やアミトリプチリン(トリプタノール)と同程度の有効性を示し、副作用が少ない。しかしOTCのオトギリソウが、処方された抗鬱薬と併用されると、中枢性セロトニン作動性症候群、すなわち活動型せん妄、頻脈、ミオクローヌス、反射異常亢進が、またおそらく高熱(40℃以上)が発生する危険性がある
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,220

#2
【7.24】
(精神的苦悩のために鎮静を希望する場合)
 精神的な苦悩が強く、どんな表現にしろ鎮静を希望される患者さんの場合、「この患者さんはうつ病ではないか」「外傷後ストレス障害はないか」と精神科の医師として、まず念頭に置くことにしています。
 鎮静を希望する表現の裏に抑鬱気分、意欲や興味の低下、睡眠障害などがみられ、アメリカ精神医学会診断基準第4版(DSM−IV)でうつ病の基準をみたす場合、鎮静をする前にまず患者さんに対して抑鬱気分が前景にたっており、今の辛い状況が薬物療法で改善する可能性があるとお伝えしています。
 経口摂取が可能な患者さんには抗うつ剤の処方を行い、経口摂取が不可能な患者さんには抗うつ剤の点滴を行っております。抗うつ剤の投与により、訴えが消失した患者さんを診察しますと、うつ病の苦しみが身体的な苦痛に重なり、鎮静の要求になっていることもあり、うつ病を適切に診断・治療することの必要性を感じます。
 うつ病を経験したがん患者さんに話を伺いますと、「あれはもう経験したくない」「死ぬほどくるしいですね」と言います。うつ病は本当に苦しいものであると熟知しておくことが必要だと考えています。
,ターミナルケア(2003),13,6,452

      参照→【7.35】「精神的苦悩のために鎮静を希望する場合」
 
 

【7.25】「不眠」


#1
【7.25】
 日中のうとうとした仮眠状態のために睡眠自体は足りており、そのため、夜間眠れなくなる場合、家族や医療スタッフが頻繁に出入りし、テレビやラジオから絶え間なくさまざまな映像や音声が流れている日中のほうが眠りに誘われやすいようである。刺激が極端に乏しくなる午後9時以降の夜間帯に目が冴え渡るのである。自分自身の症状と家族の将来が唯一の関心事となる翌朝の6時まで、このような人は長い長い夜を過ごしている。ナースコールを頻繁に眠らして(日中はほとんど苦にしなかった)比較的軽度の症状を執拗に訴えたり、眠りたいと訴えたりする。このようなとき、大量の睡眠薬を用いて強引に入眠させることもできるが、予想外の短時間で覚醒し以後もうろう状態になることが多く、睡眠薬に頼るのは得策とはいえない。このような際には、セレネース1A 5 mgをアキネトン1/2A2.5mgとともに、生理食塩水50mLピギーバッグに混入し、30分ほどかけて点滴静注すると効果的なこともある。精神科があれば、このような高度の不眠の場合は、リエゾンを依頼するのがよい。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,81

 
【7.25】
 死亡前3〜5週間前、いわゆる終末期にはモルヒネによる鎮痛効果が低下してくる。このような場合モルヒネの増量を行っても、夜間の睡眠を確保することができなくなることがある。この場合、モルヒネの投与にケタミン・ドルミカムの持続注入を追加する方法がよいと考えられる。ただし、副作用として不快な浮遊感の経験が30%くらいに見られ、また、気管、口腔内分泌物の増加が見られるので気道狭窄などに注意する必要がある。なお、それまで行われていたモルヒネの投与は必ず継続する。ケタミン500mgとドルミカム50mgを5%ブドウ糖液440mLに溶解し、20時から24時までは深い眠りを期待して20mL/時間で持続静注、24時に10mL/時間に減量して4時に中止する。日中も鎮静する場合には、20時から4時のみ20mL/時間で注入し、それ以外は10mL/時間を保持する。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,76

      参照→【6.2.11】「ケタミン」

 
【7.25】
 癌末期モルヒネ使用中で、昼間は眠く夜間は熟睡感が得られないような患者には、就寝前にドロレプタン5mgとロヒプノール1mgの点滴静注を行うと熟睡感が得られる。このように睡眠薬だけより、向精神薬を少量併用すると熟睡感が増強する事が多い。
,癌の痛みハンドブック(1992),,,118

 
【7.25】
 内服困難な不眠患者の場合、セニラン坐剤1.5〜6mg就寝前か、ドルミカム10〜50mgを生食100mLに溶かし夜間から早朝にかけてゆっくり点滴静注するとよい。
,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,115
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,131
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,136

#1
【7.25】
 夜間に睡眠を確保するための睡眠薬の使い方は、経口投与が難しいときは、夕方からドルミカムの持続皮下注射を始め、早朝5〜6時くらいに止め、8〜9時には患者が目覚めるような状況を作る。また、最近では、入眠時にセ二ラン坐薬を使用し夜間に目が覚めたらもう一度使用したり、昼間でも非常にだるいときには、坐薬を使って睡眠を確保する方法をとっている。
,ホスピスケアの実際(2000),,,55

 
【7.25】
 不眠に対し、ドルミカムを使用開始して間もない頃は、少ないmg数で導入維持が図れるが、しばらくすると耐性が出来、増量が必要となる。しかし、生食100mLにドルミカム100mgを混入した濃度のものでも、睡眠の導入維持が困難であれば、コントミンの併用や変更を検討している。
,がんの症状マネジメント(1997),,,320


【7.25】
 意識障害の存在が確認されない患者の不安・焦燥・不眠状態に対しセレネースを投与することは、適切でない場合がある。セレネースは、興奮を鎮静する効果は比較的高いが、催眠効果はあまり高くなく、かつ、血中半減期が24時間であり、きわめて長時間、鎮静効果をあらわす。このことは、睡眠を改善させる効果が不十分なだけではなく、日中の精神活動をも抑制し、かえって患者の焦燥感を高める結果にもなる。
,ターミナルケア6月増刊号(1999),9,,154

 
 

【7.26】「眠気」


 
 モルヒネの使用の有無に関わらず、末期で眠気がある場合(肝機能障害など)にリタリン【適応外】は非常に有効である。リタリンはもともと眠気のこない唯一の抗鬱薬として発売されていたため、これを上手く使っていくことが大切である。
,がん疼痛緩和とモルヒネの適正使用(1995),,,92

      参照→【4.4】「モルヒネの副作用としての眠気」
 
 

【7.27】「倦怠感」


 
#2
【7.27】
全身倦怠感の診断
 全身倦怠感とは、「身体的、精神的、認知的にエネルギーが減少したと感じる主観的な感覚」である。したがって、「だるい」と表現される全身的な脱力や衰弱感のほかに、注意力や集中力の低下、不眠あるいは傾眠、倦怠感に伴うイライラ(焦燥感)や悲しみ(悲哀感)などがみられることがある。
 終末期では、全身倦怠感が休息や睡眠によって回復しないことが特徴のひとつである。原因は、がんの進行に伴う悪液質をはじめ、低カリウム血症や低ナトリウム血症などの電解質異常、貧血、肝不全などの臓器不全、感染、脱水、さらに抑鬱や不安など複数の因子が関連している。また、全身倦怠感はがん化学療法や放射線照射の副作用として生じることがあるが、その場合は治療終了後2週間程で回復することが多い。
,がん緩和ケアに関するマニュアル(2002),第5章U4.1)


【7.27】
 ターミナル前期の後半から中期になると食欲低下や全身倦怠感が出現する。このようなときにはステロイドが非常に有効である。また、鎮痛補助薬としてもその適応は非常に広い。長期にわたって使用するとステロイド特有の副作用が現れるが慎重に投与する限りメリットの方が大きい。
,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,6
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,6
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,23

 
【7.27】
 癌終末期の全身倦怠感にはステロイドが効果的なことがある。デカドロンあるいはリンデロン2〜4mg、ソルメドロール40〜80mgを連日内服か点滴で投与する。
,がん終末期の症状コントロール(1995),,,73

#1
【7.27】
 全身倦怠感の治療に副腎皮質ホルモンの与薬が効果的なことがある。デカドロンあるいはリンデロン4〜8mg、メチルプレドニゾロン(メドロール、ソルメドロール)16〜32 mgを連日(内服か点滴で)与薬すると与薬3、4日目から目立って精気が回復してくることはしばしば経験することである。このようなときは最初の1週間は初期量を続行し、以後漸減して維持する。ステロイドがときに効果的なことからも、癌経末期の全身倦怠感の原因の一部は、何らかの毒性ホルモンによるという臨床的な印象をもっているが、ステロイドが無効のことも多く、今後の課題である。ステロイドが効果的な場合も効果持続期間は3週間程度であることが多い。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,106

 
【7.27】
 癌終末期で疲弊して倦怠を訴える患者にステロイドを投与すると一時的に驚くほど精気がよみがえることがあるが原因は不明である。また、ステロイドを投与しても何ら臨床的な有効性を示さないことも多く、ストレス潰瘍や出血をきたしやすいこの時期に、ステロイド療法をやるのはかなりの冒険である。現実には他にすることがないため、上手くいったらもうけものといったレベルでステロイドを投与することが多い。
,がん終末期の症状コントロール(1995),,,95

#1
【7.27】
 全身倦怠感に対する副腎皮質ホルモンの使用
 終末期の癌の倦怠感に対して最も使用されている薬剤であるが、倦怠感に対する有効性について臨床試験において十分な実証がなされていない。
,TECHNICAL TERM 緩和医療(2002),,,167

#2
【7.27】
(全身倦怠感緩和剤としてのステロイド)
 リンデロン1〜2mg/日から使用し、漸増してゆきます。ターミナル中期から後期にかけて効果は速やかに現れ、1ヵ月から2ヵ月続きます。
 余命が1週間前後になると効果が見られなくなり、かえって副作用が表に現れますのでこの場合は中止します。

,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,67

#1
【7.27】
 (コルチコステロイドの使用時期について)
 大部分の患者は、おおよそ使用1か月以内で一時的に元気を回復している。しかし亡くなる1〜2週間前ぐらいから反応がみられなくなる。特に、コルチコステロイドをのんでいて全身倦怠感が増悪してきたような場合には、日にち単位で投与する必要がある。使用量は1日当たり1〜2mgから開始し、4〜8mg/日が目安である。内服が困難な場合には、注射や皮下注射で補う。ベタメタゾンで約16 mg/日投与するが、時には20〜24 mgも投与することもある。ただし、量を増やしすぎると反応がみられなくなることもある。
,ホスピスケアの実際(2000),,,48

#2
【7.27】
 薬物療法に関してはエビデンスの高いものはなく、経験的にステロイドによる治療が行われている。デキサメタゾンまたはベタメタゾン2〜4 mg/日、プレドニゾロン15〜30mg/日を経口投与する。抑鬱が考えられる場合には抗鬱薬の投与も必要であるが、精神科医へのコンサルテーションが必要であると考えている。現在、メチルフェニデート、アンフェタミンなどの臨床研究が行われている。
,ペインクリニシャンが関わる緩和医療(2002),,,109

      参照→【6.2.12】「ステロイド」

#2
【7.27】
(ステロイドによる倦怠感)
 予後がある程度残されている時期にはステロイドはきわめて有効である。しかし、死亡時期の迫り、悪液質が相当に進行した状態では、ステロイド継続投与は、かえってせん妄や耐えがたい倦怠感を増強させてしまう可能性を、今後の課題として提案したい。いくつかの限界はあるが、当院の結果から推測されることとして、ステロイドをある時期から減量・中止することは、持続的な鎮静を最小限にして自然な最期を迎える援助につながると考える。

,ターミナルケア(2003),13,6,465

#1
【7.27】
 (全身倦怠感に対するプロゲステロンの使用)
 ホルモン感受性癌などで使用されているが、食欲増進作用が知られており、終末期癌患者にも使用される。悪液質改善作用によって倦怠感が緩和されることが期待されているが、これもいまだ明らかでない。
,TECHNICAL TERM 緩和医療(2002),,,167

#2
【7.27】
倦怠感の治療(心因性反応)
 病名や病状の告知、症状の急激な変化、職員や他の患者・家族との対人関係のトラブルなどによって心因性反応を起こすことがあるが、その結果として倦怠感を起こすことがある。
 軽症ではマイナートランキライザーを少量投与する。ジアゼパム(セルシン等)がよく用いられる。重症ではメジャートランキライザーを用いるが、よく用いられるのはハロペリドール(セレネース)やクロルプロマジン(ウインタミン)などである。
 心因性反応に対する有効な治療法としてカウンセリングがあるが、専門家が行なえば非常に有効である。しかし専門的訓練を受けていない者が見よう見まねで行なうと、かえって症状を悪化させることがある。
 専門家によるカウンセリングができない場合でも、患者の話に心を傾けて聴く(傾聴)ことにより、よい結果を得ることがある。
,ターミナルケア・ガイド(2003),,,140

#1
【7.27】
 癌患者の全身倦怠感は抑鬱が原因になっていることもある。抑鬱に関しては、従来は過小評価され、診断を見逃す傾向があった。末期癌患者が鬱気分や鬱状態に陥るのは当然であり、自然の反応であると受けとめられてきたわけである。しかし最近では、患者にとって不必要な精神的苦痛の軽減を図るために、抗鬱薬が積極的に使われるようになった。
,ホスピスケアの実際(2000),,,41


【7.27】
 オピオイドが使用されている患者にリタリンを投与すると眠気や全身倦怠感が改善すると報告されている。リタリン【適応外】は眠気や抑鬱を主体とした全身倦怠感に有効なことがある。ただし、末期ではまどろめる状態の方が望ましい場合もあるので総合的に判断する。
,緩和医療(1999),1,1,23

#1
【7.27】
 メチルフェニデート(リタリン)は軽度の抑鬱症状を伴った倦怠感に対して有効と考えられるが、逆に焦燥感やイライラ感か強くなることもあるので注意する。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,274

#1
【7.27】
 肝不全(高アンモニア血症)による全身倦怠感や眠気に対しては、分枝鎖アミノ酸製剤(アミノレバン)の点滴が有効なことがある。ときにこの点滴で意識レベルが改善し、逆に苦痛を増強させる場合があるため慎重に施行する心要がある。他の臓器不全の場合、治療可能な場合はそれを行うが、ターミナル後期の場合、セデーション以外に苦痛を緩和することが困難になる場合がある。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,78

#2
【7.27】
倦怠感の治療(原因不明の場合)
 疼痛や呼吸困難でモルヒネを使用することは多いが、これらの症状がなくても倦怠感がある場合に少量のモルヒネを投与して効果の認められることがある。モルヒネは末期がんにあっては非常に使い勝手のよい薬剤である。
,ターミナルケア・ガイド(2003),,,142

#2
【7.27】
倦怠感の治療(脱水・電解質異常)
 経口的に水分さえも飲めなくなると急速に全身倦怠感・脱力感が進行するのが普通であるが、1日500〜700mL程度の輸液で改善される。胸水・腹水・浮腫などがある患者に1日1000mL以上も輸液すると、これらの症状を悪化させて患者を苦しめることがあるので、注意しなければならない。
 低ナトリウム血症では125mEq/L以下、低カリウム血症では3.0mEq/L以下の場合補正を行なったほうがよい。経口的に食品として摂れない場合には輸液の中に加える。高カルシウム血症は多発性骨転移の場合などに起こることが多いが、予想される余命が1ヵ月以上あるようならビスフォスホネートの点滴を用いると効果がある。2、3週間に1回程度点滴する。これも患者の希望が前提である。
,ターミナルケア・ガイド(2003),,,137

#2
【7.27】
倦怠感の治療(低栄養)
 経口的に食事をとれる患者では、献立の工夫とか栄養食品(ハイビアとかMA8なと)を組み合わせることが効果的である。問題は経口的に食べられなくなった患者に対してであるが、病状からみて予想される余命が1ヵ月以上あるようなら少量の糖質・アミノ酸類の点滴を行なうことにより倦怠感を解消できることがある。カロリーとしては1日500kcal以下で充分である。患者の同意が前提である。
,ターミナルケア・ガイド(2003),,,137

#2
【7.27】
倦怠感の治療(低酸素血症・呼吸不全)
 倦怠感の原因となるような低酸素血症は、慢性期では酸素飽和度SPO2 90%以下、急性期では95%以下と考えてよい。したがって酸素吸入に際しての流量はこれ以上になることを目標とするが、酸素をやり過ぎることが多いので注意が必要になる。酸素吸入だけで改善できない時には50〜100mLの生理食塩水中にステロイド(プレドニンとして10mg程度)とテオフィリン(ネオフィリンとして250mg程度)を混入して1日1〜3回投与する。
,ターミナルケア・ガイド(2003),,,138

#2
【7.27】
倦怠感の治療(発熱)
 感染がなくてもがん末期になると、腫瘍熱と総称される発熱を認めることが多い。微熱でも倦怠感の原因となることがあるので次のような対策をとる。
 まず実施するのはクーリングで、氷枕・氷嚢などを用いて冷す。それでも充分でなければ内服剤・坐剤・注射剤などの解熱剤を用いる。優先順位としては非ステロイド性消炎鎮痛剤NSAIDsを用いるが、ステロイドが非常に有効なので余命が非常に長い場合以外は投与をためらう必要はない。プレドニンとして1日量5〜15mg、場合によってはそれ以上でも差し支えない。
,ターミナルケア・ガイド(2003),,,138

#2
【7.27】
倦怠感の治療(貧血)
 末期がん患者に見られる慢性貧血の多くは無症状であり、血色素Hbが8g/dL以上であればほとんど治療の対象とはならない。しかしHbが7g/dL以下で、貧血によると思われる症状があれば、患者の意思を確認したうえで造血剤による治療を考慮する。Hbが5g/dL以下で、自覚症状が強い時には、患者の強い希望があれば少量の輸血(濃厚赤血球)を実施する場合がある。通常1カ月に1回400mL以下をめどにする。ホスピスケアでは大量出血に対する大量輸血は行なわない。
 造血剤は内服では1日1錠、注射では1回2筒を週2回を標準とするが、明らかな出血がなければHbで1ヵ月に1g/dL程度改善する。
,ターミナルケア・ガイド(2003),,,136

 
 

【7.28】「咳」


#1
【7.28】
 (咳の治療方針)
(1)乾性のせき
 腫瘍による乾性のせきは、気道や肺自体には強い炎症や感染がない場合であって、腫瘍や腫瘍周囲の炎症が、気管、気管支、胸膜、横隔膜を圧迫したり刺激したりするときに起こる。除外診断として、気管支喘息でないことをまず確認する。気管支喘息であれば、気管支拡張薬やステロイドの与薬など、喘息に対する治療を行う。以下に述べるオピオイド(コデインやモルヒネなど)を主体とする治療は禁忌なのでこの確認は大切である。
 癌終末期の腫瘍による乾性のせきは、抑え込むのが原則で、躊躇することなく強力な鎮咳薬(コデイン、モルヒネなどのオピオイド)を使用する。オピオイドで効果が見られないときは、局所麻酔薬(キシロカイン、マーカイン)【適応外】のネブライゼーションを試みる。
(2)湿性のせき
 湿性のせきは、抑制するのではなく、むしろこれを促して分添物を喀出させることを原則とする。ただし、湿性のせきであっても、患者の負担になるほどせきが激しいときは、オピオイドを用いてせきを抑制するのもやむを得ない。

,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,112

#1
【7.28】
 乾性咳嗽に対して、(1)吸入療法:モルヒネ2.5〜5mg+デキサメタゾン2.Omg+O.9%生食2.5 ml、 重症では2%リドカイン2ml+O.9%生食2.5 ml、 (2)口すぼめ呼吸が挙げられる。
 湿性咳嗽に関しては、(1)加湿療法、(2)吸入療法:サルブタモールO.5ml+生食2.5 ml、 アトロピン1〜2mg+モルヒネ2.5〜5mg±デキサメタゾン2mg、(3)排痰法(排痰体位、咳嗽の介助法、Huffing)、が挙げられる。

,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,169

 
【7.28】
 癌終末期の乾性の咳は押さえ込むのが原則で、躊躇することなくコデイン、モルヒネを使用する。麻薬で効果がみられないときには局所麻酔薬のネブライザーを用いる。腫瘍の種類によっては、放射線照射によってこれが小さくなり咳が治まることもある。湿性の咳は抑制するのではなく、むしろこれを促して、分泌物を喀出させることを原則とする。すなわち、吸入気を加湿し、気道粘液溶解剤を使用し、咽喉頭刺激や胸部理学療法を行って分泌物が喀出しやすいようにする。
,がん終末期の症状コントロール(1995),,,83

#2
【7.28】
(咳の3段階治療法)
「湿性の咳」
          (ステップ 3)去痰薬±鎮咳薬
          
     (ステップ 2)痰喀出の援助(理学療法、生理食塩水の吸入)
     
(ステップ 1)原因の治療


「乾性の咳」
          (ステップ 3)粘膜表面保護薬±鎮咳薬(オピオイド)
          
     (ステップ 2)粘膜表面保護薬(シンプル・リンクタス)
     
(ステップ 1)原因の治療

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,173

#1
【7.28】
 (オピオイドによる咳の抑制)
 まずリン酸コデイン末30〜60mg分3内服を処方する。これでおさまらないときは、120 mg分4まで増量する。さらに、おさまらないときはモルヒネ散30mg分6内服に処方を変更し、以後痛みに対してモルヒネを処方するときと同じ要領で、効果があるまで漸増する。痛みあるいは呼吸困難のため、すでにモルヒネを使用している患者では、リン酸コデインは無効であり、始めからモルヒネを使用する。とりあえず、モルヒネの使用量を5割増しとし、以後効果があるまで増量する。

,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,112

#1
【7.28】
 (モルヒネの鎮咳薬としての使用法)
 1回量3〜5mgを1日4〜5回投与する。すでにモルヒネを内服している場合には使用量を50%増量し、効果があるまで増量する。1日量30mgまで増量して効果がなければ無効の可能性が高い。
,ペインクリニックで用いる薬100+α(2002),,,5


【7.28】
 肺癌の強い咳(乾性)にコデインを用いても効果が足りない場合はモルヒネ吸入療法に素早く切り替える。モルヒネ末を蒸留水で溶いて5〜10mg、ステロイドは水溶性のリンデロンなどを用い、場合によってはビソルボンやアレベールを入れて合計2mLとして2〜3回/日吸入させる。
,臨床と薬物治療(1999),18,3,20

 
【7.28】
 癌患者の咳止めにモルヒネコデインの併用は同じ薬理作用を持つもののため、意味がない。鎮痛目的でモルヒネを投与中の患者に咳がある場合は、コデインを追加するのではなく、コデインと同効量のモルヒネを追加増量して対応する。
,癌患者と対症療法(1996),7,,62

 
【7.28】
 癌終末期において咳を抑える場合は、すでにモルヒネが使用されている患者の場合はリン酸コデインは無効であり、始めからモルヒネを使用する。とりあえず、モルヒネの使用量を5割増しとし、以後効果があるまで増量する。鎮静効果ばかり全景に出て、もうろう状態となりながら咳が止まらない場合はモルヒネを減量、中止せざるを得ない。
 激しく痙攣様にせき込んで、十分な吸気ができなくなることがある。これは緊急事態でありモルヒネの静注を行う。モルヒネを10mg/10mLに希釈し、1mg静注しては2〜5分観察することを繰り返して、咳が十分弱くなるまで追加する。咳が治まったときには呼吸はしばしば強く抑制されている。規則的に呼吸を促す号令をかけながら、呼吸停止に対する厳重な注意の元、経過を観察する。このようにして咳嗽発作を抑制するのに成功した場合は、抑制するのに要したモルヒネの量と咳が再発するまでの時間を参考にモルヒネの1日の必要量を決定する。
 癌性リンパ管炎による咳や、腫瘍周囲の炎症性浮腫が気道を刺激して起こっている咳にはステロイドが有効なことがある。これを疑ったら、まず比較的大量のステロイド(デカドロン8mg/日、ソルメドロール250〜500mg/日)を与薬し、有効であれば、漸減し維持量を決定する。効果がなければ中止する。

,がん終末期の症状コントロール(1995),,,84

 
【7.28】
 癌性リンパ管症の強い咳ステロイドとモルヒネを併用する。リンデロン1〜2mg朝昼2回、モルヒネは5〜20mgを4時間毎に内服させる。咳のための不安定な精神状態には、ジアゼパム5〜10mgを経口投与し、次いで5〜10mgを夜1回投与する。高齢者や全身衰弱で体重減少の著しい患者では2〜5mgとする。
,緩和医療学(1997),,,98


【7.28】
 乾性咳嗽に対し、すでにオピオイドが投与されている患者では、モルヒネとデカドロンをネブライザーにより投与する。可能ならばフェイスマスクでなくマウスピースを介して投与する。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,173

#1
【7.28】
 乾性咳嗽が持続して起こると、呼吸困難を悪化させることがあるか、これは室内の湿度を上げることで軽減する。他の方法としては、局所麻酔薬である2%のlignocaineを1〜2時間毎にスプレーにより吸入する(これが原因で嚥下困難になることはまずない)か、ネブライザーなどを使って、2%のlignocaine5mLを15〜20分間吸入することなどがある。使用後1時間は誤嚥防止のため絶食する。
,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,62

 
【7.28】
 0.25%塩酸ブピバカイン(マーカイン)【適応外】のネブライザー吸入は、気管支までに原因がある咳嗽(特に乾性)に有効なことがある。1回3〜5mL、1日3〜4回(1日30mL)まで。味が不快であったり、口や喉にしびれ感がみられたり、吸入後数時間は誤嚥の恐れがあったりするため経口摂取は避けなければならないので、他の方法が無効なときに考慮する。
,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,106
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,120
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,126


【7.28】
 リン酸コデイン等の投与でも鎮咳効果がない場合には、4%キシロカイン5mL+生食水5mLによる吸入も試みられるべきである。
,ターミナルケア医学(1989),,,174


【7.28】
 乾性咳嗽が頻発し、重篤な場合は2%リドカイン2mLと生理食塩水1mLをネブライザーにより10分間、1日3回。投与後1時間は禁飲食。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,173

#1
【7.28】
 局所麻酔薬は、なめる形で用いられ、咽頭の刺激によって起こる咳に有効である。ネブライザーにより気道内に直接的に投与してもよく、ネブライザーによる投与は気管支内に腫瘍があるときに特に有用である。最初に使うときには、気管支けいれんが起こる可能性があるため蘇生器具を用意しておく必要がある。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,40

#1
【7.28】
 局所麻酔薬のネブライザーは、せきの抑制には効果的であるが、局所麻酔薬は気道内面から大変速やかに吸収されるので、局所麻酔薬中毒(血中濃度の急上昇によるoverdose intoxication)を起こす危険があり、多弁、舌や口角のふるえ、頻脈などの症状(これらは、局所麻酔薬中毒の初期症状である)を認めたらネブライゼーションをすぐに中止する。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,114

#2
【7.28】
(局所麻酔薬のネブライザー)
 ある医療センターでは、局所麻酔薬のネブライザーを行っている。咳反射に関連している知覚神経を麻酔することによって作用するが、次に制約される:
 ・不快な味
 ・口腔や咽頭のしびれ感
 ・気管支収縮の危険性
 ・短い作用時間(10〜30分)
 がんが原因である咳に対する局所麻酔薬ネブライザーの効果評価は、まだ確立されていない。他の方法で効果がない場合に限って使用すべきである。示唆されているネブライザーによる投与量は、2%のリドカイン(キシロカイン) 5mLあるいはO.25%ブピバカイン(マーカイン) 5mLの6〜8時間ごとである。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,178


【7.28】
 ブピバカインやモルヒネの吸入療法が難治性の乾性咳嗽に有効な場合があるとされるが、有効性は証明されていない。誤嚥を避けるために局所麻酔吸入後1時間は飲食を控える。また両者とも気管支スパズムを生じることがあるため、喘息の既往に注意する。
,ターミナルケア6月増刊号(1999),9,,112

 
【7.28】
 あらゆる鎮咳剤やオピオイドに抵抗する咳嗽に対してキシロカイン【適応外】の持続皮下注入が有効な場合がある。使用方法は鎮痛補助薬としての方法と同様で、800〜1200mg/日でよい。急な咳嗽に対しては、1〜2mg/kgを50mLの生食に溶解して投与しても効果的である。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,121
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,126


【7.28】
 湿性咳嗽で排痰可能な患者の場合、蒸気吸入器かネブライザーによる加湿。ベネトリン0.5mLと生理食塩水2.5mLをネブライザーにより1日3回投与。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,173


【7.28】
 湿性咳嗽で排痰不能な患者には、中枢性鎮咳薬。アトロピン1〜2mg+モルヒネ2.5〜5mg±デカドロン2mgをネブライザーにより投与、1日4回。ドルミカム2.5〜5mg筋注。吸引を避ける。咽喉出血や劇症肺水腫、大量の分泌物を伴う気管切開患者に限って吸引を用いる。末期の泡沫状分泌物には、アトロピン1〜2mg筋注/静注またはスコポラミン0.3〜0.6mg筋注/皮下注4時間毎を用いる。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,173

 
【7.28】
 全身状態が不良で痰を喀出できない場合は、鎮咳剤の投与やスコポラミン(0.3〜0.6mgを4時間毎に皮下注)【適応外】や痰の吸引を行う。乾性の咳の場合には、鎮咳剤の投与やマイナートランキライザーの投与を行う。また、癌性リンパ管症による呼吸困難を伴う頑固な咳嗽に対しては、プレドニゾロンの1日10〜20mg内服投与が有効なこともある。
,ターミナルケア(1997),7,2,116


【7.28】
 分泌物を喀出できない衰弱した患者の湿性咳にスコポラミン0.125〜0.25mg舌下または0.5mg皮下注4時間毎。または、アトロピン【適応外】を錠剤0.3〜0.4mgか吸入(アトロベント)【適応外】で
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,81


【7.28】
 終末期癌患者の頑固な咳嗽に対する治療として気道吸引を繰り返すことは苦痛をもたらすだけではなく気道粘膜の損傷・気道閉塞・不整脈などの合併症があるため、ハイスコ【適応外】の使用により分泌液を抑制することが勧められる。
,ターミナルケア6月増刊号(1999),9,,112

#2
【7.28】
 実施可能な他の治療法には次が含まれる:
・バクロフェン(ギャバロン):10mg を1日3回、または20mgの1日1回の内服で、健常被験者に鎮咳効果があった:最大効果を得るためには2〜4週間の継続投与が必要である
・メキシレチン(メキシチール):300mg の内服が咳感受性を低下させるが、臨床的な効果は不明である
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,178

 
 

【7.29】「呼吸困難」


#1
【7.29】
 呼吸困難は癌末期患者のおよそ30〜70%にみられるとされているが、Reubenらは死亡前6週間に70%の患者にみられ、死亡に近づくに従いその頻度が増してくるとし、Meursらは死亡直前に90%近くに達すると報告している。呼吸困難の適切な対応はまずその原因を推定することである。腫瘍による肺、胸腔、胸郭への浸潤が呼吸困難をもたらすことが多いが、この他にも基礎疾患としてCOPDや心疾患にも注意する必要がある。
,緩和ケアテキスト(2002),,,95

#1
【7.29】
 呼吸困難は主観的症状であるので、痛みの場合と同様、その評価は患者自身の言葉によりおこなうこと、患者の訴えを信じることが基本である。本人による症状の評価と他者(医療スタッフや家族)による評価を比較検討した研究では、疼痛・倦怠感などにくらべ、とくに呼吸困難において、他者評価でのばらつきが大きく、また、過小評価されやすいことが報告されている。とくに医師は、家族やナースにくらべ、呼吸困難を過小評価しているという結果は注目に値する。症状を評価する際のポイントは、(1)量的評価(どの程度息苦しいか?)、(2)質的評価(どのような息苦しさか?)、(3)インパクト評価(生活にどのような影響を与えているか?)である。 (1)量的評価の目的は、患者が感じている呼吸困難の程度を数字などの量的指標に置き換えることによって、認識を共有することである。評価時点だけでなく、過去24時間以内(または1週間以内など)の最高値・最低値・平均値を、必要に応じて評価する。
,緩和医療(2001),3,3,10

#1
【7.29】
 末期癌患者の呼吸困難の対策には、(1)呼吸理学療法を行う、(2)元気づける、(3)顔に冷たい微風をあてる、(4)吸入療法(進行癌の呼吸困難には最も有効):モルヒネ2.5mg+デキサメタゾン2.Omg+O.9%生食2.5 mL、 必要によりモルヒネの投与量を増加(5〜1O mg)、経口・非経口モルヒネ投与の患者にも有効(吸入モルヒネの15〜2O%が全身に吸入されるが、モルヒネによる呼吸抑制はほとんど起こらない)、(5)酸素投与、(6)胸水の除去、(7)鎮静薬の投与、(8)抗不安薬の投与、などが挙げられる。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,169

#2
【7.29】
(呼吸困難の薬物療法)
 腫瘍の圧迫、がん性リンパ管症にはコルチコステロイドが使用され、有効なことがある。デキサメタゾンまたはベタメタゾン4〜8mg/日、あるいはプレドニゾロン30〜60mg/日を経口投与、静脈内投与、皮下投与する。
 抗不安薬が奏効することもある。アルプラゾラム0.4 mg、 エチゾラム0.5mg、ロラゼパム0.5 mg、など眠前に1回投与から開始する。
 対症的な方法としてはモルヒネが有効である。モルヒネは肺内の受容体に働き、呼吸困難を改善することが知られている。疼痛緩和に使用される量よりも少ない量で、有効性がみられるといわれている。呼吸困難に対する利尿剤であるフロセミドの吸入の有効性が報告されている。
,ペインクリニシャンが関わる緩和医療(2002),,,115

#2
【7.29】
(呼吸困難の非薬物療法)
 口すぼめ呼吸冷風の送風なども有効とされている。また夜間に不安が増強することが多く、夜間の不安を和らげることも重要である。呼吸困難は悪化すると患者は起坐位をとりやすく、不眠を訴える場合もある。体位の工夫と薬物療法が必要である。
,ペインクリニシャンが関わる緩和医療(2002),,,115

#2
【7.29】
(終末期の息切れ)
 患者は、しばしば窒息死を恐れる。終末期の息切れの緩和については、家族や同僚に対する前向きのアプローチが重要である。
 ・息切れは不快であるが、息切れに苦しみながら死を迎える患者はいない
 ・終末期の息切れを緩和できないのは、薬による治療が正しく行われていないためである
 ・オピオイドと鎮静性抗不安薬を同時に非経口投与する。例えば、モルヒネとミダゾラム(ドルミカム)の持続皮下注入ないし頓用を行う
 ・患者に興奮あるいは混乱がみられる場合(ときにミダゾラムにより増悪する)、ハロペリドール(セレネース)またはレボメプロマジン(ヒルナミン)を加える
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,169

#2
【7.29】
息切れ(呼吸法の再訓練)
 患者には次のようにアプローチする:
緊張緩和療法:ゆっくりとした規則的な深い呼吸を促す
横隔膜呼吸:吸気時の横隔膜が下がっている間に、腹壁を意識的にふくまらせる呼吸法を患者に教える。片手を腹部に、もう一方の手を胸にあてておくと、外へ向かって腹壁がふくらむのを感じることができる。仰臥位で1回10〜20分間、1日3回、6〜8週間行うと、呼吸のパターン、血液ガス、呼気の筋力などを改善できるが、横隔膜呼吸が呼吸機能や息切れにもたらす有益性は未だ明示されていない
口すぼめ呼吸:鼻から息を吸って、吸気の2倍くらいの時間をかけて口をすぼめて吹くようにして息を吐く呼吸方法である。患者によっては、この方法をすぐに取り入れる。換気が増えたときに、この方法を勧める。慢性閉塞性肺疾患患者の呼吸パターン、呼吸筋機能、血液ガスを改善に向かわせるが、息切れの改善度はさまざまである
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,164

#1
【7.29】
 気管支喘息やうっ血性心不全による呼吸困難に対して効果があるとされるフロセミド(ラシックス)の吸入が、癌による呼吸困難に対しても検討されており、呼吸困難が改善したとの報告もある。その報告によると、β刺激剤やテオフィリン製剤の併用を行わず、20mgのフロセミド注射剤を原液のまま単剤で使用し、ネブライザーで霧状にし、症状に関係なく1日4回の定時吸入を行っている。その結果、吸入開始後には強い呼吸困難の発作は認められず、呼吸困難を訴えていない状態(安静時)における呼吸回数は有意に低下したものの、労作時の呼吸困難の改善は認められなかった。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,248

#1
【7.29】
 フロセミド(furosemide:ラシックス)【適応外】の吸入は喘息患者の症状改善に効果があると報告されてきたが、最近の報告ではフロセミドの吸入が肺のイリタント受容器の抑制と肺伸展受容器の興奮を介したメカニズムの関与が示されている。フロセミドの吸入療法は投与量や投与法が確立していないが、著効する場合もあり、適応と投与法について検討中である。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,157

#2
【7.29】
(呼吸困難に対するフロセミドの吸入療法)
 フロセミドの吸入により、気管支上皮のNa+・K+・2Cl-の共輸送体が抑制され、受容体周囲の細胞外液にNa+とCl-が増加する。そのため、肺伸展受容体活動の増加と、肺イリタント受容体活動が低下し、呼吸困難が緩和される。また、会話や嚥下に重要な息ごらえ時間を延長するという。
 フロセミド20mg/Aに生理食塩水を加え吸入する。副作用はほとんどみられない。副腎皮質ホルモン依存性の難活性喘息に対する有効性の報告はあるが、末期がん患者の呼吸困難に対しては、いまだコンセンサスを得るに至っていない。最近、期待がもたれている治療法である。
,薬の知識(2003),54,6,11

#1
【7.29】
 北里大学におけるフロセミド吸入の調査では、1日4回、1回20mg(1A)の定期投与を行った。施行された症例では、開始後1日目には呼吸困難感の程度、呼吸回数ともに低下した。また、デカドロンとエピネフリン入りのネブライザーでは明らかにフロセミドを効果的と評価した。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,157


【7.29】
 ネブライザー治療希釈液には、気管支収縮を生じるため、滅菌水ではなく、常に注射用生理食塩水を使用する。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,169


【7.29】
 呼吸困難の薬物療法として、ドルミカム5〜10mg筋注または緩徐に静注。モルヒネ5〜10mgネブライザーまたは静注。ウインタミン25mg経口または筋注。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,169


【7.29】
 腫瘍による気管支閉塞による呼吸困難には放射線療法(症例の90%まで呼吸困難を改善する)やステロイドの経口。扁平上皮癌による肺実質の占拠にはエトポシドによる化学療法を行う。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,169

#1
【7.29】
 (末期癌患者の呼吸困難の対策としての口すぼめ呼吸)
 最も楽な体位をとらせたら、吸入療法や高濃度の酸素吸入を併用しながら口すぼめ呼吸をしてもらう。口すぼめ呼吸は口をすぼめて、{f}あるいは{s}という音をさせながら息を吐き、吸気と呼気の比は1:3〜5程度、呼吸数10回/分程度を目標にしてゆっくり吐かせる。

,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,170

#1
【7.29】
 緩和困難な呼吸困難がみられたら鎮静を必要とする場合がある。呼吸困難感に対して鎮静を始める時期については、緩和ケア病棟では次のような条件を設定している。
(1)モルヒネ、ステロイド、抗不安薬などを併用して、可能な限り呼吸困難の緩和を図り、ハイスコなども使用して痰に対する対処をしている。
(2)残された時間が週単位から日単位で、モルヒネによる効果が限界にきている。
(3)患者または家族の了解を得ている。
 呼吸困難に対するセデーションは、まず浅いセデーションから始める必要がある。これは、患者の不安が非常に強まり、さらに呼吸筋が緊張のため疲労している場合、それにより呼吸困難が悪化していることがあるからである。このような場合には、抗不安薬を使うことで、かなり軽減されることがある。

,ホスピスケアの実際(2000),,,12

#1
【7.29】
 患者の依頼と家族の同意がある場合は、鎮静も選択肢の一つになり得る。十分量のオピオイドがベースに使用されている場合、ドルミカムは、初回は0.5〜1.0 mgを静注しては1分間様子を見るという方法で、入眠するまで追加していく。2〜3mgで入眠することが多い。以後、睡眠を維持するには0.04 mg/kg/hr(1日5A)の注入速度が標準的注入量であるが、個人差が大きいので、鎮静状況を観察しながら増減することになる。
,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,110

#1
【7.29】
 最近、肺癌や食道癌の治療のために縦隔への放射線治療が増えてきているが、縦隔へ放射線をあてて、気管粘膜の繊毛が破壊されたような場合には、痰は途中まで上がってくるが、すべり落ちてしまう。したがって、痰を出そうとしても出せずに非常に苦痛を伴う。予後が月単位で、ある程度体力がある人なら、自力で痰を出すことができるが、週単位の見通しの場合、自力で出すことが困難なときがある。喀痰がひっかかって苦しいときには、ハイスコを舌下で使うようにしたほうがよいと思われる。
,ホスピスケアの実際(2000),,,180

#1
【7.29】
 気道狭窄については、最近「エクスパンダブル・メタリック・ステント]という「金属性ステント」が開発され、緩和ケア病棟でも使用経験がある。症例によっては有効な場合もあるが、適応のある症例はそれほど多くない。すべての気道狭窄に勧められる方法とはいえない。気道狭窄はやはりモルヒネとコルチコステロイドを使う必要がある。また、ゼロゼロと痰が上がってくるのに出し切れないような喀痰貯留に対しては、臭化水素スコポラミン(ハイスコ)の1/2Aの舌下投与がかなり有効。
,ホスピスケアの実際(2000),,,180

 
 

【7.29.1】「呼吸困難に対するモルヒネの使用」


#1
【7.29.1】
 モルヒネの呼吸困難感に対する使用法はこの10年間に広まったもので、今では呼吸困難感に第一に選択すべき薬となっている。
,ターミナルケア(2000),10,6,426

 
【7.29.1】
 呼吸困難におけるモルヒネの使用は、息切れの軽減を目的とし次の点を考慮する。
 ・心不全、気管支痙攣のような可逆的な呼吸困難増悪因子が適切に治療されている。
 ・呼吸困難への対応方針が患者に伝えられている。
 ・抗不安薬が投与されている。
(投与量)
 1回5mg、4時間ごとで投与開始し、就寝時は5〜10mgとする。翌日になっても効果がなく、副作用もないときは10mg、4時間ごと、就寝時15〜20mgに増量する。
 効果はあるが安静時呼吸数が24以下にならなければ2〜3日後にさらに増量する。必要なら、さらに2〜3日後に15〜20mgの4時間ごとの投与とする。
 除痛のためにすでにモルヒネを服用している患者では、モルヒネを50%増量する。治療目標はチアノーゼのない精神的に安定した苦痛のない状態にすること。

,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,214

 
【7.29.1】
 (呼吸困難に対するモルヒネの投与法)
「目標」:息苦しさの軽減(呼吸の過剰促進の緩和)
(1)他の呼吸困難増悪因子が除去されていること
(2)呼吸困難への対応方針が患者に伝えられていること
(3)抗不安薬が投与されていること
  (ジアゼパム5〜10mg/夜)
(4)呼吸数 30回/分以上
(5)投与量
 a.5mg/4時間毎 経口(就寝時には5〜10mg)で開始 5-10-15-20-30-40-60-80-110-150mgの順に増量
 b.注射:(酸素4リットル/分 経鼻カニューラで吸引下) 2.5-5-7.5-10-15-20-30-40-55-75mgの順に増量
(6)呼吸数30回/分以上で増量、12回/分以下で減量

,緩和医療学(1997),,,95


【7.29.1】
 (呼吸困難への標準的なモルヒネ投与法)
 モルヒネは疼痛治療に用いる半量から開始する。すでにモルヒネが投与されている場合は20〜50%の幅で増量していく。治療効果の判定は、患者本人の呼吸困難感の程度を基準とし、1分間の呼吸数を参考とする。

,ターミナルケア(1999),9,1,24

#1
【7.29.1】
 呼吸困難に対しモルヒネを投与する際には原則が3つある。
 第1は、呼吸困難感のみの場合は痛みに対するモルヒネ投与量の1/2量で解消するということである。筆者は、1回あたり3〜5mgの開始量で、それを1日4回投与する方法をとっている。 3mgにするか5mgにするかは、その患者の全身状態による。たとえば、ある程度体力のある人なら、5mgから投与する。しかし、高齢で衰弱がかなり進んでいるような人に1回5mg投与で、かえって眠気が出てしまうこともある。
 第2は、モルヒネ量の増量は細かく少量ずつ行うことである。疼痛コントールを目的にモルヒネを使う場合の増量方法は20〜50%増しで行う。しかし、呼吸困難感の場合、筆者は20〜30%の幅で増量していく漸増法を選択している。
 第3は副作用のコントロールをすることである。モルヒネによる副作用で重大視されるものにしばしば呼吸抑制が挙げられる。呼吸困難感の緩和のためにモルヒネを投与する場合には、呼吸抑制に先行して眠気が出るということに注意を要する。眠気が出た時点で投与を中止するか、減量する必要がある。もう一つ気をつけなければならないのが呼吸数である。健康人は15〜16回/分呼吸をしているが、それより少し多い20回前後が目標。呼吸数が1O回以下になってしまうと呼吸抑制を起こす可能性が高いので、20回前後にコントロールされた時点で投与量を固定したほうがよいと思われる。
 モルヒネを継続投与すると便秘が出現する。呼吸困難感が出現した場合、便秘は緩下剤だけでは解決が難しくなる。特に生命予後が週〜日単位になってくると、自然排便はます無理である。したがって、週に1〜2度は浣腸や坐薬を用いて排便をコントロールする。
 呼吸困難に対してレスキュードーズが有効かどうかは十分に検討されていないが、臨床的には有効だと思われる。筆者の経験では、たとえば1回あたり5mgのんでいるケースでは、呼吸が苦しくなったときに1回量を追加すると効果を得られている。

,ホスピスケアの実際(2000),,,177

#1
【7.29.1】
 オピオイドによる呼吸困難改善の主な作用機序は、呼吸抑制作用、すなわち「呼吸数を減らして呼吸努力要求感を軽減すること」と考えられている。その有効率は国立療養所西群馬病院では68%であった。著者らは普及のために、さらにdose escalation study を行い、副作用が少なく有効例を拾い出す方法を推奨している。すなわち、経口塩酸モルヒネを少量(9mg/日程度)から開始し、効果がなければ副作用をみながら、30mg/日まで増量し、30mg/日までに効果が認められなければ、無効例の可能性が高いので中止することを推奨している。
,がんの在宅医療(2002),,,173

 
【7.29.1】
 英国などではホスピスでの臨床経験からモルヒネ、コルチコステロイド、マイナートランキライザーの組み合わせが呼吸困難の緩和に有効とされている。
,ターミナルケア(1995),5,4,271

 
【7.29.1】
 モルヒネを使った呼吸困難の治療は、主として頻呼吸の場合が適応となる。初回量を痛みの治療の場合の半分くらいから始めて、呼吸数が落ち着くまで増量する。すでに痛みでモルヒネが使われている場合は、呼吸がおちつくまで増量する。またモルヒネに加えて、ジアゼパムなどの抗不安薬やリンデロンかプレドニンを使うとよい。
,がん疼痛緩和とモルヒネの適正使用(1995),,,93

 
【7.29.1】
 モルヒネは非常に少量で呼吸困難に有効である。鎮咳作用もある。頻呼吸にもよい。臨床的に重大な呼吸抑制を起こさずCO2の蓄積は通常起きない。痛みのためモルヒネを使用している患者は3〜5割増しにするとよい。
,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,100
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,114
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,119

 
【7.29.1】
 モルヒネ剤は、心臓喘息の場合、中枢の換気刺激に対する興奮性を低めて呼吸困難を消失させるが、肺性呼吸困難には適さない。ことに高炭酸ガス血症が存在し、CO2感受性の低下した閉塞性障害時にモルヒネで呼吸中枢を抑制するとCO2ナルコーシスを発生させるので禁忌である。
 ただし、肺癌などの末期症状による肺性の呼吸困難には有効な対処法がなく、モルヒネを使用せざるを得ない場合がしばしばある。
,臨床医の注射と処方-第6版(1993),,,147

 
【7.29.1】
 Cohenらは、酸素療法や非オピオイドの投与、または、オピオイドの間欠投与によっても呼吸困難の改善のみられなかった患者に対して、モルヒネの持続静注の効果を検討した。初めにモルヒネ1mgまたは2mgを5〜10分ごとに、呼吸困難が改善されるまでone shot静注し、その総投与量の50%を1時間あたりの注入量として、持続静注を開始した。効果がない場合は、副作用の指標として鎮静の発現を観察しながら24時間ごとに投与量を25%増量した。その結果、8名のうち6名で症状が改善し、1名が中等度、他の1名は改善が見られなかった。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,133
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,143

#1
【7.29.1】
 モルヒネが呼吸困難感を緩和する理由には次の3つがある。
(1)呼吸数を減らす作用:
 筆者の研究結果によると、モルヒネを投与する前の呼吸数の平均数は25〜26回であったが、飲んだ後24時間以内では15〜18回に落ちた。呼吸回数が落ちるだけで、患者はかなり楽になるようである。
(2)呼吸困難感の中枢を鈍くする作用:
 呼吸困難感を感じる中枢の位置は明らかにされていないが、大脳皮質の一部にあると考えられている。モルヒネはその中枢の閾値を上げる作用があるといわれている。
(3)気管支拡張作用:
 気管支が広がることにより、呼吸困難感が緩和されると考えられている。
,ホスピスケアの実際(2000),,,33

#2
【7.29.1】
「モルヒネの呼吸困難患者に対する安全性」
 末期がん患者より換気が悪くC02ナルコーシスに陥りやすい慢性呼吸不全患者においても、モルヒネの有効性と安全性が確認されている。通常、呼吸困難に対して用いられるモルヒネの量は、疼痛に使用される量の半分以下であり、疼痛にモルヒネを使いこなしている医師にとっては、副作用を恐れる必要はない。さらに、呼吸困難は呼吸抑制に対して拮抗的に働くので、呼吸困難が強いうちは呼吸抑制が起こりづらい。また、呼吸抑制はいきなり生ずることは少なく、その前に強い眠気(話している最中に寝てしまうなど)が生じていることが多いので、注意すれば回避できる。重篤な呼吸抑制を認めたら、麻薬拮抗薬ナロキソン(0.2mg/1mL/A)を間歇的に静注し、10回/分以上の呼吸数を保つようにする。
,薬の知識(2003),54,6,11

#1
【7.29.1】
 吸困難感の緩和にモルヒネを使う場合には、できるだけ早期の段階で開始することが大切。具体的には、患者が「動くと、やや苦しい」「体を動かすと、かなり苦しい」と訴える段階で始めるようにする。「体を動かすと、かなり苦しい」状態とは、階段の昇降が目安になる。階段を昇り降りするときに苦しければ、モルヒネ水を使い始める。モルヒネ水を使うことに患者が躊躇するような場合で、咳を伴っている場合はコデインを導入のために使い始めても構わない。コデインは咳止めのイメージが強い薬なので、まったく咳が出ないようなときには使用しにくいが、咳を伴っている場合、コデインを使うことで呼吸困難が緩和されることがある。コデインは体内で代謝されると一定の割合でモルヒネの未変化体となる。
,ホスピスケアの実際(2000),,,11

#1
【7.29.1】
 時間の余裕があれば、安全のため弱オピオイドから開始するという方法もあるかもしれない。たとえばリン酸コデイン120mg/日、分3または分4から開始して増量し13対1で換算し、経口モルヒネに切り替える。すでにモルヒネが投与されている患者ではそれまでの量より33〜50%多い量から始める。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,43

#1
【7.29.1】
 (呼吸困難感に対するモルヒネの使い方)
 治療目標は患者と家族の双方にとっての苦痛と恐怖を緩和することであり、1分間に50回以上となった頻呼吸を1分間25回以下に減少させることである。目標に到達するまで漸増していく。ジアゼパムやコルチコステロイドの併用が勧められている。
,オピオイドのすべて(1999),,,81

#1
【7.29.1】
 モルヒネの全身投与が呼吸困難を改善する機序は十分解明されていないが、呼吸中枢の感受性の低下・呼吸数減少による酸素消費量の減少・鎮咳作用・中枢性の鎮静作用などが関与するとされる。一般に、疼痛に対する使用量より少量で効果があるとされ、また作用時間は、鎮痛効果より短いとされるため少量で開始し、微調整しながら必要量と回数を決定する。
 モルヒネは呼吸数・1回換気量を減少させるため、呼吸抑制に注意が必要とされるが、少量から開始し呼吸回数をモニターすれば、通常臨床的に重篤な問題となることはない。しかし、呼吸機能低下例、腎機能低下例、高齢者に対しては、開始時・増量時に必ず呼吸回数をモニターする(8〜10回/分以上が目安)。全身状態が不良な症例に対して大量で開始したり、急激に増量することが呼吸抑制の事故につながるため、全身状態が比較的良好で呼吸困難が軽度な段階からモルヒネを開始しておくと、スムーズに増量の微調整ができる。 モルヒネの吸入療法は、全身性の副作用が少なく、即効性があるとされるが、有効性は確立されていない。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,152

#1
【7.29.1】
 Twycrossらは、モルヒネや他のオピオイドを投与されたことのない患者については、モルヒネ5mgを4時間ごとに経口投与することから開始するよう勧めている。投与量の増量は、鎮静などの副作用の程度を観察しながら検討する。効果のない場合は投与2日目に、モルヒネをlOmgに増量して4時間ごとに投与する。その結果、依然として呼吸困難が継続(呼吸数が24回/min以上)するならば、さらにモルヒネを15〜20mgに増量して4時間ごとに投与する。就寝前の投与量を増量する方法も有効といわれている。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,142

#1
【7.29.1】
 柏木らは、塩酸モルヒネ製剤ならば1回3〜5mg、1日4〜5回から開始し、硫酸モルヒネ徐放錠(MSコンチン錠)を用いる場合には1回10mgを1日2回から開始する方法を勧めており、志真も塩酸モルヒネ水溶液を用いて1回3mgを4〜6時間ごとから投与を開始した後、必要に応じて5mg→7mg→lOmg→と増量する方法を標準的に採用している。すでに疼痛治療を目的としてモルヒネが投与されている場合には、投与量を20〜50%増量することにより呼吸困難の改善を図る。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,142

#1
【7.29.1】
 呼吸困難緩和のためのモルヒネ使用の普及のためには、副作用なく有効例を効率よく拾い出せる投与法を開発することである。そこで筆者らは、経口塩酸モルヒネによるdose escalation study (3日後毎に9→12→18→24→30→36→42→48mg)を試行し、至適量の検討をおこなった。そして、(1)9mg/日(有効例の32.4%が得られる)から30mg/日(有効例の97.3%が得られる)までは増量により有効例が増加したが、それ以上では増量効果が著しく減少すること、(2)減量・中止に至る副作用は18mg/日まではなく、24mg/日で1例出現し、36mg/日からはある程度の割合で出現するという結果を得た。
,緩和医療(2001),3,3,18

#2
【7.29.1】
「全身状態の悪い呼吸困難患者における副作用の少ないモルヒネの投与法」
 呼吸困難緩和治療にモルヒネ使用を普及させるためには、副作用なく有効例を効率良く拾い出せる投与法を開発することである。そこで著者らは、経口塩酸モルヒネによるdoseescalation studyを施行し、至適投与法の検討を行った。
 その結果、“経口塩酸モルヒネを少量(9mg/日程度)から開始し、効果がなければ、副作用をみながら30mg/日まで増量する。そして、30mg/日までに効果が認められなければ、無効例の可能性が高いので中止する“ことが、副作用が少なく有効例を拾い出す投与法と考えられた。なお、すでに疼痛緩和の目的でモルヒネが使用されている場合は、現在投与量の1.5倍までの増量で判定し、静脈内投与、皮下注では経口投与量の1/2量を相当量とすることで対処ができる。またモルヒネ開始と同時に、悪心・嘔吐に対しハロペリドール、便秘に対しピコスルファートナトリウムの予防投与を行うことも重要である。
,薬の知識(2003),54,6,11

#1
【7.29.1】
 志真は呼吸抑制に対するモルヒネの投与法として、24時間持続皮下注法を提唱しており、0.5mg/hrから開始し、 l.Omg/hr→1.5mg/hr→と増量していく方法を示している。同様に、斎藤もモルヒネの呼吸困難緩和効果に個人差が大きいことを述べ、呼吸困難が軽度のうちに持続皮下注法で開始し、少量投与からの段階的増量が望ましいと報告している。具体的には、6mg/日程度から開始し、効果がなければ3mg/日程度の増量を行っていくが、急な発作に対応するためのrescue doseとしては0.5〜2mg/回程度で設定する。さらに、増量による緩和効果は30mg/日を超えると急激に減少するため、30mg/日までに効果が認められなければ、無効例の可能性が高いと考える。なお、モルヒネの持続皮下注と持続点滴静注における血中濃度の比較では、両者に差がないことが確認されている。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,143

#1
【7.29.1】
 持続静注時に呼吸困難が悪化した場合には、モルヒネの注入速度を速めるよりも必要時にモルヒネを追加投与する方が有効である。また、鎮静が生じた場合は症状が回復するまで投与を中止し、再開時は最初の投与量の50%量で開始されることが勧められている。
「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,144

#1
【7.29.1】
 モルヒネの皮下注や持続静注または吸入などの投与法は、死亡直前の高度な呼吸困難例では無効なことが多く、良好な症状緩和を得るためには、呼吸困難が軽度な時期から開始するべきである。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,142

#1
【7.29.1】
 近年、癌患者の呼吸困難に対するモルヒネの吸入の有効性が広く検討されている。欧米では約10年前から癌終末期にモルヒネの吸入が用いられてきた。現在までその使用法は確立されていないものの、呼吸困難の治療法の1つとして有用である可能性が示唆されている。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,144

#1
【7.29.1】
 モルヒネ吸入療法の利点は、速効性があり、全身性の副作用が少ないこと、簡便で自己調節が可能なことである。モルヒネの吸入の安全性については、Farncombeらが、54人の呼吸困難を有する患者に、各種オピオイドの吸入をおこない、簡便で、副作用が少なく、有効であると報告している。一般にモルヒネの全身投与にくらべて、吸入のほうが副作用が少ない理由は、局所効果が主体で、吸収による全身への影響が少ないためと考えられる。しかし、特異体質として、モルヒネの吸入でヒスタミンの遊離が誘発されるために生ずる気管支攣縮の可能性が指摘されており、気管支喘息の患者に対する吸入には、フェンタニルの吸入のほうが安全性が高いといわれている。
,緩和医療(2001),3,3,20

#1
【7.29.1】
 吸入モルヒネの吸収による全身への薬物動態、および静脈内投与の薬物動態を検討したMasoodらの検討では、吸入モルヒネの最高血中濃度(Cmax)までの時間(Tmax)は10分以内で、経口投与モルヒネのTmaxより短かったと報告している。また、吸入モルヒネによる血中最高濃度(Cmax)は、筋肉内注射の1/6とされている。塩酸モルヒネ10mgの吸入は、塩酸モルヒネ1mgの静注投与に、塩酸モルヒネ2mgの経口投与に相当する。
,緩和医療(2001),3,3,20

#1
【7.29.1】
 斉藤らがおこなった呼吸困難を有する末期癌患者20例を対象とした、塩酸モルヒネ5mg吸入療法のpilot studyの成績は、(1)著効は10%で、その緩和率は30%であり、呼吸困難の程度が軽度な症例で有効率が高く、(2)症状改善までの平均時間は10分と短時間であり、(3)有効例の吸入方法の患者選択では、労作前の吸入効果は認められず、患者は労作後に頓用で吸入することを好む傾向があり、(4)副作用発現率はきわめて低いものであった。
,緩和医療(2001),3,3,20

#1
【7.29.1】
 Masoodらの慢性閉塞性肺疾患における運動時の息切れに対しての二重盲検試験、Leungらの慢性の肺疾患の患者の労作時の息切れに対しての無作為二重盲検試験、Nosedaらの無作為比較試験では、モルヒネ吸入による呼吸困難緩和効果について、否定的な成績が報告されている。われわれの検討でも、はじめは有効であったが回数を重ねると効果があらわれなくなる症例が存在し、再現性に問題があった。
,緩和医療(2001),3,3,20

#1
【7.29.1】
 モルヒネの吸入投与法として、塩酸モルヒネ5mgに生食水を加え、2〜5mLまたは5〜10mLとして吸入する方法が報告されており、米国の報告でも、硫酸モルヒネ5mg(0.5mL)を生食水4.5mLに希釈し吸入している。溶解液として蒸留水および生食水のいずれが適切かについては明らかになっていない。通常、効果は約15分以内に現れ、副作用もほとんど認められない。しかしながら、末期癌患者が呼吸困難を呈してくる時期は終末期であることが多いので、副作用の少ない吸入であっても確実性の高い治療法であるべきであり、今後、さらなる検討が必要といえる。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,248

#1
【7.29.1】
 野村らは、呼吸困難に対するモルヒネ吸入を初期には有効であるとしながらも、病状の進行とともに効果が減弱すると報告しており、角川らは無作為化比較試験を行った結果、モルヒネ全身投与との併用により、呼吸困難感の改善がみられたと報告している。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,144

#1
【7.29.1】
 斎藤らは別の報告で、1回5mgの塩酸モルヒネに生理食塩液を加えて5〜1OmLとし、ネブライサーで霧状にして吸入する方法を標準的に用いていると示している。継続的に使用する際には4時間ごとの吸入を基本とするが、末期癌の呼吸困難は、咳嗽発作時、労作時、粘液による気道閉塞時、不安発作時など、間欠的に起こる場合が多いため、定期的投与よりも必要に応じた間欠的投与の方が理論的であり、実際には頓用で使用することが多いと報告している。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,144

 
【7.29.1】
 呼吸困難に対するモルヒネの吸入投与法として、塩酸モルヒネ5mgに生食水を加え2〜5mLとして、これを吸入する方法が報告されており、米国の報告でも、硫酸モルヒネ5mg(0.5mL)を生食水4.5mLに希釈して吸入している。通常、効果は約15分以内に現れ、副作用もほとんど認められない。ただし、溶解液として蒸留水および生食水のいずれが適切かについては明らかになっていない。
,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,229
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,248

#1
【7.29.1】
 呼吸困難が解消しない場合、モルヒネネブライザー吸入も効果があるが、安全のため安定化剤や添加剤を使用していない薬剤でなくてはならない。オピオイドのネブライザー吸入は、オピオイドを全身投与されている場合でさえ間質性肺疾患には効果がある。
,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,62

 
【7.29.1】
 肺癌あるいは癌末期の肺炎などによる呼吸困難に対してモルヒネはかなり有効であるが、不十分なことがある。このような場合にテオフィリン系薬剤の併用は、相互作用により患者の自覚症状の改善に役立つ。
,臨床と薬物治療(1990),,58,76

#1
【7.29.1】
 モルヒネは呼吸面積が減少することによって生じる呼吸困難に有効だと考えている。気道が狭くなって起きる呼吸困難にもある程度有効であるが、多くの場合には、呼吸面積が減少した場合に有効である。
,ドクターサロン(1999),43,4,20

#1
【7.29.1】
 末期癌の呼吸不全患者の場合、呼吸困難に駆られ努力して呼吸し、呼吸筋が疲労しているので、モルヒネによって楽になると呼吸が減弱ないし停止してしまうという状況を時々見受ける。この場合、穏やかに最期を迎えるのであればそのまま見守るだけで良いかもしれない。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,44

#1
【7.29.1】
 適切に使用されたモルヒネは重篤な呼吸抑制を起こさずに呼吸困難感を緩和する。特に、急性肺水腫や急性左室不全に伴う呼吸困難感に用いると劇的に奏効する。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,43

#2
【7.29.1】
(息切れ)
 オピオイドは高炭酸ガス血症、低酸素血症、体操に対する換気反応を低下させることによって、呼吸努力息切れを緩和する。μ-オピオイド受容体およびδ-オピオイド受容体の活性化は、興奮性グルタミン酸系の促進効果を抑制して1回換気量と呼吸数を減少させる。
 モルヒネは4時間ないしそれ以内にわたり息切れの程度を20%ほど緩和する。一般に、労作時のみの息切れよりも、安静時の息切れに大きな効果がある。
モルヒネの少量(2.5〜5mg)を頓用で開始し、反応や効果持続時間、副作用を観察しながら投与量を調整する。
・24時間以内に2回以上の投与が必要であったら、定時的なモルヒネ投与とする
 すでに痛みの治療のためにモルヒネを服用している患者に、重篤な息切れが発生した場合には、4時間ごとの鎮痛目的の投与量の100%増またはそれ以上の増量が必要となることが多い。軽度の息切れであれば4時間ごとの鎮痛目的の投与量に25%相当の量を足せば十分なことが多い。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,166

#2
【7.29.1】
息切れ(モルヒネ吸入療法)
 ネブライザーによるモルヒネ吸入重篤な息切れに対して行っている医療センターがある
 ・典型的な初回投与量は、モルヒネ(注射液を使用)10〜20mgを0.9%生理的食塩水5mLに希釈し、4時間ごとあるいは頓用としてネブライザーを行う
 ・報告では、70〜100mgまでの増量が行われている
 しかし、息切れのあるがん患者におけるプラセボを用いた無作為二重盲検試験では有用性が示されていない。
 さらに、モルヒネの吸入には、次のリスクがないわけではない:
 ・モルヒネは肥満細胞のヒスタミン放出を促し、気管支収縮を引き起こすことがある
 ・すでに経口モルヒネを投与されている患者における4mgの投与が呼吸抑制発生につながり、数時間にわたり人工呼吸器による管理を必要としたとの事例報告がある。
現時点では、モルヒネのネブライザー(吸入療法)は推奨できない。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,166

 
 

【7.29.2】「呼吸困難に対するハイスコ・ブスコパンの使用」


 
【7.29.2】
 気道内分泌物が非常に増加している呼吸困難の場合、抗コリン作用があり、分泌物生産を抑制するハイスコが有効である。鎮静作用もあり、苦痛緩和になる場合もあるが、全身衰弱が強い患者では意識低下や呼吸.循環抑制があるので慎重に使用する。単独投与の場合は舌下(0.15〜0.25mg、1日1〜4回)を行うが、頻回の投与が必要な場合は持続皮下注入(0.5〜1.5mg/日)を行うとよい。
 代替薬としてはブスコパン【適応外】20〜60mg/日、持続皮下注入がある。

,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,121

#1
【7.29.2】
 臭化水素酸スコポラミン(ハイスコ)【適応外】は、死前喘鳴、つまり死亡24〜48時間前にみられる喉でゼロゼロする症状に使われる薬剤だが、痰が多くて気道分泌物のために苦しいという場合、もっと早い時期においても有効である。
 緩和ケア病棟では、痰に対する対処を次の3段階に分けて考えている。
 第1段階では「自力で出せる」よう援助を行う。たとえばネブライザーやタッピング、去痰剤などを使用し、室内の保湿を図る。
 第2段階は「自力で出せない状態」で、吸引を併用して痰を取り除く。
 第3段階では、痰を吸引することもかなり負担になってくる場合、ハイスコを使う。この場合は、いきなり皮下注で始めるのではなく、注射液の舌下から開始する。1アンプルは1mgだが、0.5 mgでも効果があり、体の小さな人は0.3mgぐらいから始めでもよい。1日4〜5回投与し、その後持続皮下注入法を行うようにすると、患者の負担が軽減する。

,ホスピスケアの実際(2000),,,11

#1
【7.29.2】
 (呼吸困難に対するハイスコの投与量)
 臭化水素酸スコポラミン(ハイスコ)【適応外】
  舌下:1回注射剤0.15〜0.25mg(0.3〜0.5mL)、1日1〜4回。 注射剤:O.5〜1.5mg/日、持続皮下注入
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,121

#1
【7.29.2】
 (呼吸困難に対するブスコパンの投与量)
 臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)【適応外】
  注射剤:20〜60mg/日、持続皮下
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,121

#1
【7.29.2】
 ハイスコの有効限界は1日あたり5Aとされ、それ以上投与しても効果の増強はみられない。ハイスコの効果は気管および気管支での気道分泌の抑制である。このため肺炎などに伴う喀痰の抑制には効果は見られない。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,193

 
 

【7.29.3】「呼吸困難に対するステロイドの使用」


#1
【7.29.3】
 ステロイドは抗炎症作用や浮腫改善作用により、中枢気道狭窄、上大静脈症候群、癌性リンパ管症、間質性肺炎などに伴う呼吸困難に有効である。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,45

 
【7.29.3】
 (呼吸困難に対するステロイドの投与法)
 肺腫瘍の周囲の浮腫や癌性リンパ管症には大量のステロイドが有効である。デカドロンあるいはリンデロンを1日8〜12mg数日間経口投与し、その後1日2〜4mgに減量する。またはリンデロン1〜2mg/日の経口投与や、プレドニン15〜30mg/日などの方法もある。
 放射線肺炎では、ソルメドロール1gを1日1回点滴静注し、3日間連続するパルス療法が行われている。

,緩和医療学(1997),,,96

#1
【7.29.3】
 ベタメタゾン(リンデロン)
  錠剤:1回1〜4mg、1日1回朝または1日2回朝・昼
  注射剤:1回2〜8mg、1日1〜2回静注または点滴静注
 コルチコステロイドは癌性リンパ管症、癌性胸膜炎(胸水貯留)、肺炎、気管支炎などの炎症を抑えたり、気管、気管支の狭窄、上大静脈症候群などの腫瘍周辺の浮腫を軽減させたりして呼吸困難を改善させる。また、気管支痙攣や喘息にも有効である。呼吸困難の程度や予後を考慮しながら少量から開始する。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,120

      参照→【6.2.12】「ステロイド」
 
 

【7.29.4】「呼吸困難に対する抗不安薬の使用」


 
【7.29.4】
 (ジアゼパムによる呼吸困難感の軽減)
 ジアゼパムは急性、慢性を問わず、呼吸困難感の軽減に有用である。効果発現は、不安感の軽減によるところが大きく、不安感が原因でないような呼吸困難感では効果がないとする意見もある。就寝前5〜10mg程度の経口投与が通常量である。症状軽減が不十分であれば、1回投与量を少なく設定して分割投与したり、症状の軽減が見られるまで繰り返し投与していくこともできる。

,がんの症状マネジメント(1997),,,317


【7.29.4】
 呼吸困難感の解消に最近ではジアゼパムを多用している。特に苦しくなりはじめると、それが不安になってパニックの悪循環を形成する。ジアゼパムの注射剤の舌下を行うと5分ぐらいで効果が現れてくる。
,ホスピス・緩和ケア白書(1998),,,25

#1
【7.29.4】
 抗不安薬を使うことで呼吸のパターンが胸式呼吸から胸腹式に戻ることもある。北里大学では呼吸困難の患者にジアゼパム(ホリゾン)の注射液を1/2 A 舌下で投与している。この方法では、呼吸困難によるパニック発作の状態が15分くらいで楽になるといわれている。
,ホスピスケアの実際(2000),,,181


【7.29.4】
 呼吸困難には死の恐怖を伴っていることが多いので、まず十分な説明をなし、呼吸を整えるよう助ける。ジアゼパム2〜10mgの内服、不眠傾向があればトリアゾラム0.25〜0.5mgをあたえるのもよい。
,ターミナルケア医学(1989),,,178

#1
【7.29.4】
 ジアゼパムは急性、慢性を問わず呼吸困難感の軽減に有用である。効果発現は、不安感の軽減によるところが大きく、不安が原因でないような呼吸困難感では効果がないとする意見もあるが、二酸化炭素に対する反応性の変化や、筋弛緩作用によって呼吸筋の過剰な緊張が低下することも関連している。
 ジアゼパム舌下投与については慢性肺疾患患者についての報告がされてきたが、北里大学病院ではジアゼパムの注射剤(ホリゾン注)2.5mgを舌下投与し、16例中10例(62.5%)で著効(楽になった〜苦しくなくなった)を示している。呼吸回数は投与前が42.4±7.5回/分であったが、投与後には29.3±7.6回/分(投与15分後)に減少した。効果発現までは症状の改善が認められた12例で4.9±1.2分(3〜7分)であった。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,157

#2
【7.29.4】
息切れ(抗不安薬)
 患者の不安が強い場合には、ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)を投与する。例えば、2〜10mg で開始し、5〜20mg 就寝時、2〜5mgの頓用とする。薬の蓄積により、眠気が発生するときには減量する必要がある。ある医療センターでは、ロラゼパムの舌下錠1日2回および頓用を行っている。急性増悪時にパ二ックに陥った患者は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)も必要とすることがある
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,167

 
【7.29.4】
 呼吸困難では窒息や死への不安が強く、抗不安薬であるクロキサゾラム(セパゾン)などの投与が有効である。ジアゼパムも有効であるが眠気が強いので注意を要する。
,がんの症状マネジメント(1997),,,232


【7.29.4】
 筆者らは呼吸困難の治療の第一選択にクロキサゾラム(セパゾン)の1回1〜2mg、1日3回経口投与を選択している。
,最新緩和医療学(1999),,,121

#1
【7.29.4】
 ワイパックスの舌下錠0.5〜1mgが、呼吸不安発作の緩和に理想的な薬である。長期投与に有用なのはセルシン5から10mgの就寝時の経口投与である。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,62


【7.29.4】
 内服困難な患者に対するドルミカムの少量持続皮下投与法を試みて、有用なことを経験している。患者の呼吸困難の程度が強度であり、生命予後も週単位〜日単位の見通しの場合、モルヒネを併用しながら、ドルミカム持続皮下注法の適応となる。ドルミカムは開始時に2.5〜5mg/回くらい早送りしてから持続皮下注法を始め、1日量10〜20mgを目安に投与する。それにより不安状態が改善されるだけでなく、呼吸困難が改善されることもある。
,ターミナルケア(1999),9,1,25

#1
【7.29.4】
 モルヒネをどんどん増やしても、不安の軽減はうまくいかない。また、息苦しいときに、抗不安薬を経口投与するのは困難である。そこで緩和ケア病棟では、ミダゾラム(ドルミカム)の持続皮下注入法を少量から開始してセデーションを行っている。もし患者の不安が呼吸困難感の増悪を招いているなら、ミダゾラムを使用して不安を軽減すれば、症状が改善し、日単位であった患者の病状が週単位に回復することもある。
,ホスピスケアの実際(2000),,,12

#2
【7.29.4】
 呼吸困難では窒息や死への不安が強く、抗不安薬であるロラゼパム(ワイパックス)やアルプラゾラム(ソラナックス)を使用することもある。
 しかし、夜間に呼吸困難の訴えが頻回になると、抗不安薬や睡眠薬を投与したくなるが、不安の軽減には薬物投与の前にまず患者の訴えをよく聴くことが重要である。患者の話をよく聴くと「眠ってしまうとそのまま目が醒めなくなってしまうようで不安だ」ということもあり、薬の内服を拒否することもある。患者のつらい気持ちを”分け持つ”姿勢が必要である。
 直接的な症状緩和の方法が見出せなくても、体位、排泄、環境の調整など、看護婦が常に何かを工夫している姿は、患者にとって「自分のつらい気持ちをわかってくれている」という安心感と、「これから起こってくる苦しみにもきっと手をさしのべてくれるだろう」という信頼感を与えることになる。
,緩和ケア(2000),,,210

 
 

【7.29.5】「呼吸困難に関する問題点」



【7.29.5】
 胸水による呼吸困難に以前はトロッカーという太いチューブで胸膜癒着術を行っていたが、患者の負担となるため、柔らかく細い中心静脈用カテーテルを胸腔内に留置し間欠的に1日400〜800mL繰り返し抜く方法をとる場合がある。安全に負担が少なく抜けるし、うまくいけば胸膜癒着術もできるので、呼吸困難の軽減に非常に有効である。
,ホスピス・緩和ケア白書(1998),,,25

#2
【7.29.5】
(癌性胸水に対する胸膜癒着術)
 硬化剤には、炎症を惹起する薬剤や抗がん剤、抗生物質、タルクなどが用いられる。歴史的に欧米では、テトラサイクリン(tetracy-cline ; TC)が第一選択だったが、製造中止にともない、ドキシサイクリン(doxycycline ; DOXY)、ミノサイクリン(minocycline ; MINO)が使用されるようになり、いずれも成功率70%前後であった。抗がん剤ではブレオマイシン(bleomycin ;BLM)の使用頻度が高く、局所制御効果はテトラサイクリンよりも優れると報告にある。また欧米ではタルクの使用も一般的で、成功率が最も高く、コストが安いことから標準的な治療のひとつである。タルクの使用法については、胸腔鏡下で行う方法よりも胸腔留置カテーテルからの注入が入院期間を短縮できたと報告されている。本邦では、免疫賦活剤であるOK-432(抗悪性腫瘍溶連函製剤)の有効性が確認されており、発熱以外の副作用が少ないため使用頻度が高い。
 他に、ミノサイクリン、ドキソルビシン(doxor-ubicin)、シスプラチン(cisplatin)などの使用報告があるが、いずれも効果に明らかな差はない。最近では、 OK-432、ミノサイクリン併用(有効率100%)、 OK-432、ドキソルビシン併用(有効率85%)でより高い効果が報告されてきたが症例数は少ない。タルクについては、本邦での使用経験が少なく、現段階では一般的な治療ではない。
,緩和ケアのための臨床腫瘍学(ターミナルケア2003年10月増刊),,,210
 

【7.29.5】
 酸素投与は呼吸困難の改善方法として、今日では一般的に用いられている。しかし、癌の進行に伴って生ずる呼吸困難に対する酸素投与の有効性は証明されていない。あくまで臨床的な経験に基づいて行われている。
,ターミナルケア(1999),9,1,22


【7.29.5】
 呼吸困難に対する酸素吸入は本当に低酸素血症がない限りあまり有効でない。いくらかのプラセボ効果はあるとしてもそれほどの費用をかける値打ちがあるだろうか。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,79


【7.29.5】
 酸素吸入において、フェイスマスクや酸素テントは近年ほとんど使用されていない。フェイスマスクは患者にとって圧迫感が強く好まれない。また、鼻カニューレによる酸素投与では毎分4〜5リットル以上になると局所の不快感が増すため、患者にとっては負担になる。したがって、漫然と多量の持続的酸素投与を行う前に、その有効性について十分な検討を行うべきである。
,ターミナルケア(1999),9,1,23

#2
【7.29.5】
息切れ(酸素吸入)
 ・中程度から重篤な低酸素血症(動脈内酸素分圧8.0 kPa 以下;酸素飽和度90%以下)の患者では、通常の空気吸入よりも酸素吸入が望ましいので、酸素吸入を準備する。
 ・軽度の低酸素血症(動脈血中酸素分圧8.0〜9.3 kPa ; 酸素飽和度90〜94%)の患者では、酸素吸入の価値の評価が難しい。鼻孔からの酸素カニューレの挿入で、かなり改善する患者がいるが、これを有益と感じさせている重要な側面は空気が流れているという感覚である可能性が示唆されている。酸素吸入を開始する前に、窓を開け、扇風機を使用して、部屋に冷たい空気を入れてみることの有益さを点検してみる必要がある。
 鼻孔からの酸素カニューレを一定期間試用してみるのも良い方法である。パルスオキシメータを用いて、酸素吸入によって酸素飽和度の客観的数値が改善するか否かを識別することができる。患者が酸素吸入を有用と感じるなら、酸素吸入を続け、効果に疑問があるなら中止すべきである。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,168

 
【7.29.5】
 肺癌が進行し気管支を狭窄し、喘鳴が生じる場合がある。β2刺激剤の吸入や吸入ステロイドは一時的には効果が期待できるがやがて無効となる。ステロイドの経口投与も同様である。
,癌患者と対症療法(1995),6,1,32

 
【7.29.5】
 癌終末期では、動脈血ガス分析の値が通常なら人工呼吸補助をするような場合であっても、原則として気管内挿管による人工呼吸はしない。これをしても、患者の呼吸困難が改善することがないからである。一時的に血液ガス分析値が改善し、意識レベルが多少向上することはあるが、あくまで一過性のものであるし、意識混濁がようやく患者を苦悩から解放したというのに、再び苦悩を味合わせることになるからである。とは言うものの、予想を超える早さで呼吸状態が悪化したときなど、挿管して人工呼吸をすることもある。しかし、意識レベルが上昇してくると(これ自体一過性である)、人工呼吸器と不同調を来たして患者は激しく苦悶し、これを押さえるために鎮痛薬と抗不安薬の大量を与薬して意識をとってしまうという、矛盾した結果となることがある。結局、患者のためというより、医師と家族のための人工呼吸となってしまう。できれば患者が昏睡に向かって、全体として自然な経過を見せているときは、経過を見守るだけで良いと考えている。
,がん終末期の症状コントロール(1995),,,79

#2
【7.29.5】
(窒息)
 食事中の食べものの誤嚥や夜間の唾液の誤嚥による窒息は苦痛が大きい。患者は再び起こるのではないかと極端な恐怖心を抱いている。これには、息が詰まって死ぬことはないことを患者が信じられるようにする戦略が必要である。
 飲水や食事によって咳き込み始めた患者、気管にたまっているものを咳によって排出することが難しい患者には、スコポラミン0.3mgの舌下投与を行うことができる。スコポラミンは即効性があり、おそらく鎮静薬としても作用する。舌下投与のときに舌の真下に置く必要はなく、頬の内側や歯肉の脇に置いても有効性は同等である。約1/3の患者がスコポラミンの舌下投与を必要とする。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,407

 
 

【7.30】「気道閉塞時のパニックにおける鎮静」


 
 気管が切迫した閉塞の危機にさらされ、患者がパニック状態になったとき、救命処置を進めるため患者を不動化する必要がある。ジアゼパム(5〜20mg)、ケタミン(1〜2mg/kg)の静注や吸入麻酔薬で麻酔導入する方法がある。
 バルビタールやモルヒネを静注して睡眠導入するのは、これらの薬物の呼吸循環抑制作用とヒスタミン遊離作用を考えると感心しない。

,がん終末期の症状コントロール(1995),,,81

 
 

【7.31】「尿失禁、排尿困難、膀胱痙攣など」


#1
【7.31】
 緊張性尿失禁にスピロペント
  錠剤:1回10〜30μg、1日2回
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,148

#2
【7.31】
不安定膀胱(頻尿、尿意切迫、切迫性尿失禁)
 選択すべき薬は抗ムスカリン薬であるが、副作用が使用を制約する。
 ・オキシブチニン(ポラキス) 2.5〜5mgを1日2〜4回。膀胱粘膜に対する局所麻酔効果も持っている。頻尿を24時間あたり約2回、失禁を24時間あたり1〜2回減らす。
他の抗ムスカリン薬として望ましい薬は:
 ・イミプラミン(トフラニール):25〜50 mg を就寝時
 ・アミトリプチリン(トリプタノール):25〜50 mg を就寝時;不眠を併発している患者に有用な代替薬
 ・プロパンテリン(プロ・パンサイン):15 mg を1日2〜3回
 抗ムスカリン薬投与に耐えられない患者には、次の薬を考慮する:
 ・排尿筋に作用する薬:例えば、フラボキサート(ブラダロン):200〜400 mg を1日3回
 ・交感神経作用薬;例えば、テルブタリン(ブリカニール) 5mgを1日3回
 ・非ステロイド性消炎鎮痛薬:例えば、フルルビプロフェン(フロベン) 50〜100 mg を1日2回、またはナプロキセン(ナイキサン)250〜500 mg を1日2回
 ・局所的鎮痛薬:例えば、フェナゾピリジン・100〜200 mg を1日3回(イギリスでも入手できない)
 抗利尿ホルモン誘動体(デスモプレシン)200〜400μgの経口投与または20〜40μgの就寝時の点鼻スプレー。煩わしい夜間多尿に有用である。低ナトリウム血症の合併がありうるので、血清ナトリウム値を監視する必要がある。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,328

#1
【7.31】
 膀胱痙攣に膀胱内注入としてO.25〜O.5%塩酸ブビバカイン(マーカイン)【適応外】
 注射剤:1回20mLを15〜20分間、膀胱内に注入(1日2回)
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,153

#1
【7.31】
 (排尿困難に対するアドレナリン遮断薬の投与量)
プラゾシン(ミニプレス)【適応外】 錠剤:1日1.0〜1.5mg、 1日 2〜3回。
タムスロシン(ハルナール)【適応外】 錠剤:1日1回0.2mg。
ウラピジル(エブランチル) 錠剤:1回15〜45mg、1日2回。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,145

 
【7.31】
 治療に苦渋する夜間の尿失禁デスモプレシン点鼻【適応外】(1回5〜10μg、就寝前)が有効となる。特に高齢者の場合、尿濃縮力が低下していることが多く、本剤の投与により夜間尿量が減少し、良好な睡眠が確保されることがある。日中には少なくとも500mLの尿量があることが重要であり、そうでない場合には水中毒が起こりうるので注意する。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,149


【7.31】
 頻回の尿意と尿失禁に対し、尿道括約筋の緊張を高めるための薬物療法として、トフラニール10〜25mg 2〜3回/日、またはエフェドリン【適応外】15〜30mg 経口8時間毎。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,90


【7.31】
 溢流性尿失禁には、投与薬物を見直し、抗コリン薬を可能な限り中止する。ウブレチドを試みる。
 排尿筋不全による溢流性失禁にはフロベン【適応外】50〜100mg、1日2回が尿意切迫や頻尿を軽減しうる。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,193

#2
【7.31】
 尿失禁の原因としては老人性痴呆や意識障害の他に、下半身麻痺による膀胱直腸障害によるもの、前立腺肥大等による溢流性のもの、咳やくしゃみに伴う腹圧性のもの、膀胱膣瘻などいろいろある。繰り返すものに対しては清潔保持のためにバルーンカテーテルによる持続導尿を必要とすることも多い。意識のある患者では精神的苦痛が大きいので、充分な配慮が必要となる。薬剤による治療は難しい。
,ターミナルケア・ガイド(2003),,,152


【7.31】
 留置尿カテーテルは、閉塞したり内腔に付着物がある場合に限って交換する。十分なケアが行われているカテーテルは、通常、4〜6週間留置可能である。日常的なカテーテル交換は不必要であり、有害な可能性がある。カテーテルは日常的に洗浄してはならない。滅菌生理食塩水によるカテーテル洗浄は、閉塞や閉塞に近い状態に限って適応となる。カテーテルを有するほとんどすべての患者は、細菌尿を生じる。無症候性の細菌尿を治療する必要はない。症状を伴う患者に限って抗生物質を投与する。浮遊物が問題になる場合は、尿を酸性化するシナール500mg 1日2回内服する。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,195


【7.31】
 進行癌患者における血尿の管理で、トランサミンを投与してはならない。これは膀胱から除去しにくい固い凝血を生じるからである。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,197

#2
【7.31】
(頻尿)
 利尿剤を用いていて尿量が多い時の頻尿は心配はない。尿量が少ない時の頻尿は膀胱炎・腎孟炎あるいはがんの膀胱尿道への浸潤を考える。高齢者に多い前立腺肥大ではがんでなくても排尿困難を伴う頻尿を認めることが多い。前立腺が原因であればその治療薬を用いる。
 尿路感染やがん浸潤を否定できるのに頻尿がある時には、多くは心因性のものなので、精神安定剤としてジアゼパム(セルシン等)を用いると効果的である。
,ターミナルケア・ガイド(2003),,,152

      参照→【4.11】「モルヒネの副作用としての排尿困難、尿閉」
 
 

【7.32】「脊髄圧迫」


#1
【7.32】
 骨転移が生じる可能性の高い癌患者で、背部痛や下肢の異常感覚が生じた場合には、病院に早く連絡するように注意・教育をしておく。患者が歩行可能な段階で治療が開始できれば、治療後に歩行を維持できる可能性が70%ある。麻痺が進行してしまった段階で治療を行った場合に、歩行が可能になる患者は5%にすぎないからである。上記の訴えがあれば、担当医は脊髄圧迫を第一に疑い、緊急に診断を進める必要がある。
 麻痺症状の進行が早い場合には、担当医は検査結果を待たずにデキサメタゾン16mgを点滴静注し、放射線冶療医、整形外科医と治療方法を検討する。一般的には放射線治療は整形外科的手術と同様の結果が得られるため、手術適応が明らかでない場合、照射を直ちに開始する。外科的減圧術の適応となるのは、病理組織診断がついておらず、生検が必要な場合、照射施行後に麻痺が進行する場合、椎体の破壊された骨自体が後方に突出し、脊髄を圧迫している場合、頸髄病変の場合である。

,ターミナルケア(2001),11,6,422


【7.32】
 脊髄圧迫が起こりかかっているときには、放射線治療専門医、整形外科医、脳神経外科医に相談すべきであるが、その前に、デカドロンやリンデロンを1日16mgを分割投与しておく。これらの薬剤の投与は脊髄圧迫の初期の緊急処置として有用性が証明され、この投与によって診断に必要な時間が少し余分にとれることになる。
,緩和ケア実践マニュアル(1996),,,32

#2
 脊髄圧迫は、緊急治療を必要とする。不全対麻痺の患者は、完全対麻痺となった患者と比べて治療成績が良い。馬尾(=末梢神経)の圧迫は脊髄圧迫よりも回復が期待できる。膀胱括約筋の障害は予後不良を示す症状である。
 24〜36時間以内に急速に進展した完全対麻痺の予後は不良である。予後不良の原因は、脊髄が腫瘍に圧迫されると通常起こる脊髄梗塞や脊髄動脈血栓である。
 治療選択肢としては次の2つがある:
 ・コルチコステロイド
 ・放射線照射
 これら2つの治療選択肢はお互いに作用機序が異なるので併用できる。コルチコステロイドは腫瘍周囲の炎症性浮腫を軽減させて神経症状と痛みを速やかに改善させる。放射線照射は腫瘍を縮小させ、緩徐に症状を回復させる。デキサメタゾン(デカドロン)投与は大量で開始する。使用法を例示する:
 ・直ちに12mgを経口投与し、24mgを1日1回、3日間経口投与する
 ・直ちに100 mg を静脈内注射し、24 mg を1日4回、3日間経口投与する
 デキサメタゾンは1日1回12〜16 mg へと速やかに減量し、その後は、効果の発現の速さ、症状改善の程度に応じて漸減していく。治療が奏効したときにはデキサメタゾンを中止することができる。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,298

#1
【7.32】
 骨転移は時に神経や脊髄圧迫を伴い、難治性の刺すよう痛みを惹起する。このような場合はプレドニン30〜60mg/日、テグレトール200mg就寝前を併用する。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,27


 

【7.33】「持続性の不穏、せん妄、混乱」


【7.33】
(せん妄とは)
 末期患者における錯乱状態の報告では,特異性を欠いた”錯乱”が共通してみられる。錯乱したとされた患者は見当識障害や不適切な行為、幻覚を感じられ、痴呆やせん妄の医学的診断をされている。医療従事者間の記達を円滑にするため,患者が体験している認識や行為の変化をもとに,常に錯乱の意味を限定しなくてはならない。
 ”錯乱”とされた行為の出現は,急性のせん妄症候群を示す。せん妄は末期患者を管理するうえで深刻な合併症である。せん妄は痴呆とは異なり、十分治癒可能なので,迅速な診断と処置が必要である。
,エンドオブライフ・ケア(2004),,,364

#1
【7.33】
 せん妄は急性に発症し、数時間から数日間持続する、一過性かつ通常可逆性である、全般的認知機能の障害を特徴とする。末期癌患者の3割にせん妄がみられる。特に、高齢者や脳腫瘍・脳血管障害のある患者や、全身衰弱が進行した患者ではせん妄が出現しやすい。
 この際、原因を鑑別することが重要となる。特に、高カルシウム血症によるせん妄が見逃されることがあるので注意する。また、薬剤性のせん妄にも十分注意する。薬剤性のせん妄は原因薬剤の減量・中止で改善する。淀川キリスト教病院ホスピスでの調査では、モルヒネと抗コリン作動薬である臭化水素酸スコポラミン(ハイスコ)によるものが多かった。

,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,26

#1
【7.33】
 せん妄は急性に発症し、数時間から数日間持続し、一過性かつ通常可逆性で、全般的認知機能の障害を示すことを特徴とする。せん妄がみられたら第一に、使用薬剤を入念に検討する。せん妄出現以前に、新たに薬剤を開始したり使用薬剤を増量していないかを確認して、せん妄の原因となりうる薬剤がないかを確認する。緩和医療においては、モルヒネ抗コリン薬が多いとされている。薬剤性が疑われる場合、その薬剤を中止もしくは他の薬剤に変更する。薬剤性が除外されたら、他の器質的な原因を探し、可能ならば原因治療を行ってみる。高カルシウム血症や感染症、脳転移、高血糖などは見逃されやすいので注意する。器質的な原因を除去することが難しい場合には、以下のような向精神薬を投与する。
 (1)セレネース1日0.75〜4.0mg 分1寝前〜分2朝寝前または1回5mg 1日 1〜2回点滴静注または皮下注
 (2)ウインタミン1日12.5〜50mg 分1寝前〜分2朝寝前または1回12.5mg 1日1〜2回点滴静注

,死をみとる1週間(2002),,,27

#2
【7.33】
せん妄の発見法
 危険性の高い患者においては、せん妄初期の症状の確認が適切な治療開始の遅れを防止し、危機を予防する。自分の名前や住所が正しく書けないのを見つけることは、長時間かかる押しつけがましいテストと同じくらいの感度で初期のせん妄の発見に役立つ。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,228

#1
【7.33】
 癌患者のせん妄は病因論的には非特異的で、さまざまな原因により引き起こされる脳の全般的な機能不全であり、その原因に、代謝障害、感染、心血管系の疾患、頭部外傷、脳腫瘍などの身体的要因や、抗不整脈薬、抗生剤、抗コリン性薬物、抗けいれん剤、降圧剤、抗パーキンソン薬などの薬剤性の要因がある。
 進行・末期癌患者におけるせん妄の増加は、癌の進行に伴う身体症状の悪化やそれに伴う治療内容の変化などの複数の要因が複雑にからみあった結果であり、そのため半数以上が原因の同定が不能である。
 一方、判明した主要因として、Brueraらは薬剤性のものが最も多かったとしている。癌治療の現場で使用される薬物では、メソトレキセート、フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ブレオマイシン、カルモスチン、シスプラスチン、L-アスパラギナーゼ、インターフェロンなどの抗癌剤や、種々のステロイドなどは、せん妄の原因となることが知られている。
 モルヒネをはじめとした強オピオイドや神経因性疼痛の緩和に用いられる三環系抗鬱薬も、せん妄を引き起こすことが知られている。三環系抗鬱薬は、強い抗コリン作用を有するためにしばしばせん妄の原因となる。通常は100mg/日以上の高用量で発症することが多いが、全身状態が不良な癌患者では、低用量でも発症することがある。
,麻酔科診療プラクティス 4癌性疼痛管理(2001),,,153

#2
【7.33】
「マネジメント補正できる点を補正する」
 せん妄は一般に可逆的な症状であり、原因を探しあて適切に治療すべきである。よくみられる原因は、感染や薬である。薬の例としては、向精神薬、オピオイド、コルチコステロイドがあげられる。せん妄を示す進行がん患者の半数以上では、せん妄の原因が固定できない。

 
  譫妄の原因:
  環境の変化
  慣れない過度な刺激
   暑すぎ
   寒すぎ
   濡れたベッド
   ベッドの中のパンくず
   シーツのしわ
  全身状態の悪化
  疲労感
  不安
  抑鬱
  痛み
  宿便
  尿閉
  感染 
  脱水
  脳腫瘍
  生化学的異常
   高カルシウム血症
   低ナトリウム血症
  薬によるもの
   オピオイド
   抗ムスカリン薬
   コルチコステロイド
   がん化学療法
    シスプラチン、5-FU、イホスファミド、メソトレキセート
  免疫調節薬
   インターフェロン、インターロイキン
  離脱症状
   アルコール
   ニコチン
   向精神薬
  チアミン(B1)欠乏
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,229

#1
【7.33】
 近年、終末期の過活動型せん妄が鎮静以外の手段によって緩和されうることが示唆されている。エドモントン緩和ケアチームは、終末期においても、モルヒネのクリアランスを促進するための輸液とオピオイド・ローテーションを積極的におこなうことで、過活動型せん妄に対する鎮静を減らすことができたと報告している。聖隷ホスピスにおいても持続的な深い鎮静の施行率は4年間に15%から5.9%に低下している。オピオイド・ローテーション、(体液過剰による苦痛のバランスがとれるならば)輸液、および、標準的な精神医学的治療は、過活動型せん妄に対する鎮静の必要性を減らす有力な手段の一つになりうる。
 その根拠としては、以下の点が上げられる。
(1)腎不全が多くの終末期患者のせん妄に併存していること
(2)腎不全ではモルヒネ代謝産物の蓄積により神経筋過敏症候群を生じる可能性があること
(3)薬剤(とくにモルヒネ)の関与したせん妄は過活動型せん妄を生じやすいが治療に反応すること
(4)フェンタニルやオキシコドンはモルヒネにくらべて認知機能に与える影響が少ない可能性があること
(5)せん妄に対する抗精神病薬の有用性は確立されていること
 せん妄は、たとえ終末期であっても、原因が取り除かれるならば治療可能な病態である。疼痛に対する治療では、必要とされるモルヒネが投与されていないこと(under-treatment)が強調されてきたが、効果が乏しいにもかかわらずモルヒネが盲目的に疼痛に対して投与されせん妄を生じていること(over-treatment)を問題視する見解が近年増えている。
 過活動型せん妄は鎮静の対象症状の一つであるが、鎮静を施行する前には、すでに発刊されているガイドラインにしたがって治療可能な要因について十分検討し、精神医学的治療をおこなうことが必要であると考えられる。

,緩和医療(2001),3,3,32

#1
【7.33】
 (せん妄、混乱の治療)

(1)内服可能な場合
 軽症の場合には、抗鬱薬のレスリン25〜50mgあるいはテトラミド1O〜30mgを夕食後ないし就寝前に一括あるいは分割投与する。薬物代謝の遅延が予想される重症患者や高齢者に対しては、血中半減期の短いグラマリール25〜100mgも使用しやすいが、副作用としてパーキンソン症候群が現れることがあるので、多少注意を要する。
 中等症以上の場合には、鎮静効果のより強い抗精神病薬を選択する。従来は、セレネース1〜3mgの夕食後ないし就寝前に一括あるいは分割投与が一般的であったが、最近は副作用のパーキンソン症候群がより少ない第二世代の抗精神病薬であるリスパダール1〜4mgが頻用される傾向にある。いずれの場合にもベンゾジアゼピン系の睡眠薬を併用してよいが、鎮静作用よりもむしろ逆説的にせん妄を助長することがあるので、その場合には中止したほうがよい。

(2)内服困難な場合
 経口摂取ができないような身体状態にある場合には、血圧は若干低下するものの呼吸抑制がほとんどないセレネース1アンプル(5mg)を、生理食塩水100mLで希釈して緩徐に点滴静注する方法が最も安全である。心拍呼吸モニタリング下であれば、せん妄の重症度に応じて1日4アンプル(20mg)程度まで増量可能である。セレネース投与が1週間以上にわたる場合には、副作用としてのパーキンソン症候群による嚥下障害から誤嚥性肺炎につながりやすいので、抗コリン薬のアキネトン1〜2アンプル(5〜10mg)を併用点滴してパーキンソン症状を予防するようにしたほうがよい。
 セレネースを増量しても入眠が得られない場合には、それに追加してドルミカム5〜10mgあるいはサイレース1〜2mgを生理食塩水100mLで希釈して入眠が得られるまで緩徐に点滴静注する。ただし、これらの薬剤には呼吸抑制作用があるため、心拍呼吸モニタリング下での投与が原則である。

,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,301

#2
【7.33】
(せん妄の薬物療法)
 症状が著しくなり、持続し、患者や家族にとり辛い負担となる前に、治療をできるだけ早く開始する。次を考慮する。
 ・薬の減量
 ・チアノーゼがあれば酸素吸入
 ・脳腫瘍の場合は、デキサメタゾン(デカドロン)8〜16mg を起床時
 ベンゾジアゼピン系の薬は、せん妄を悪化させる恐れがあるので、単独で使用するべきではない。この原則の例外はアルコール離脱に関連したせん妄の場合で、このときにはベンゾジアゼピン系の薬が第一に選択されるべきである。しかし一般には、せん妄に第一に選択すべき薬はハロペリドール(セレネース)である。
 ハロペリドール(セレネース)の初回投与量は、既往の服薬歴、体重、年齢、症状の程度によって異なる。以後の投与量は初回投与量への反応によって決める。1日1〜2回の維持投与が望ましいが、もっと回数を増やす必要がある場合もある。
 焦燥感のある活動型せん妄患者において鎮静が必要なときには、ハロペリドール(セレネース)5mgをベンゾジアゼピン系の薬、例えばジアゼパム(セルシン、ホリゾン)あるいはミダゾラム(ドルミカム)10mgと併用すると効果的である。定時的な向精神薬投与を受けている患者では、もっと高用量が適応である。例えば、ロラゼパム(ワイパックス)1mgを1日3回を投与している患者には、直ちに切り替えて開始すべきジアゼパム(セルシン、ホリゾン)の投与量は20mg である。ロラゼパム(ワイパックス) 1mgはジアゼパム(セルシン、ホリゾン)5mgと同効だからである。
 まれなことであるが、活動型の患者が自分を傷つける危険があるときには、患者の意思に反した注射で薬を投与する必要がある。状況や既往の服薬歴によって異なるが、ハロペリドール(セレネース)5〜10mg とミダゾラム(ドルミカム)10mg を皮下注射か筋肉内注射することは一般によい選択となる。患者に注射を強制することは必要性のある場合にのみ正当化される侵襲的行為である。このような行為は最終手段とみなされ、チームの同僚と状況をよく話し合ってからのみ行うべきである。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,231

      参照→【7.35】「鎮静」

#1
【7.33】
・ハロペリドール(セレネース)
本剤は、興奮を伴う患者に第一に選択すべき薬である。通常の投与開始量は1〜2mgの経口ないし皮下注射による投与であり、必要に応じて投与を繰り返す。就寝時のみ、あるいは12時間ごとの定時投与がしばしば有効である。ときには24時間にわたる投与量の総計が30mgほど必要なことがある。

・クロルプロマジン(ウインタミン)
鎮静効果が必要なときには本剤が使われる。通常の投与開始量は経口ないし筋肉内注射(クロルプロマジンは刺激性があるので皮下注射すべきではない)で10〜50mgである。患者の状態が落ち着くまで1時間ごとに投与を繰り返し、次いで8〜12時間ごとの投与に移行する。

・レボメプロマジン(ヒルナミン)
本剤はクロルプロマジン(ウインタミン)よりも鎮静効果が大きい。外来患者ではしばしば体位性低血圧が起こるので、就床したままの死に近い患者でもっとも有用と心得ておく。興奮を示す患者での標準投与開始量は10〜25mgで、必要なら患者の状態が落ち着くまで1時間ごとに投与を繰り返す。その後の維持量は12時間ごとで十分なことが多い。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,48


【7.33】
 ドルミカム重篤な不穏や苦痛に対して世界的にますます広く用いられるようになってきている。オピオイドやスコポラミンと同等の作用があるが皮下組織に刺激性がない。速効性かつ短時間作動性。痙攣、不安、呼吸困難、攣縮に有用。ドルミカムの強力な呼吸抑制作用に対する注意が必要。
(1)5〜10mg皮下注、筋注のワンショットがまず勧められる。
(2)ついで1.5mg/時で持続皮下注を開始。
(3)30〜60分で期待されるほどの症状緩和または鎮静が得られないときには、3mg以上のワンショットを行い、注入速度を0.5〜1mg/時上げる。
(4)典型的な最終使用量は1〜3mg/時であるが20mg/時にまで増量した例が報告されている。
(5)早急に効果を得るには、経験あるスタッフが最初に集中して効果をモニターし、使用量の調整を行うことが必要である。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,104

#1
【7.33】
 (末期における混乱にセレネース)
内服:1回0.5〜1mg、1日3〜4回。
持続皮下注又は持続点滴:10〜30mg/日。少量から開始して、状態をみながら投与量を調節する。しかし、筆者らの調査では向精神薬を投与しても有効率は1/4であった。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,197


【7.33】
 ヒルナミン持続性の不穏に対し鎮痛、制吐、鎮静作用を併せ持つので有用。用量は20mg筋注を30分ごとに繰り返すか、60mg筋注を8時間毎必要に応じて。50〜150mg/日で点滴静注可能。呼吸抑制が問題になる場合でも呼吸抑制がない。高価。外来では起立性低血圧を起こすこともある。皮下組織に刺激性を持ちうる。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,104

#2
【7.33】
(終末期における譫妄の薬剤による治療)
 軽症の場合はチアプリドが血中半減期も短く、25〜100 mg を夕食後や就寝前に使用する。中等度以上の場合はハロペリドールの有効性が多くの報告で支持されており、0.5〜5mgをその状態に応じて経口、皮下、筋肉、静脈内投与する。近年錐体外路症状の副作用が少ないリスペリドンが使用可能であり1〜3mgから開始する。他にはクロルプロマジン、チオリダジンなども用いられる。ロラゼパムとハロペリドールの併用の有効性が報告されているが、ベンゾジアゼピン使用は意識低下をきたし、逆にせん妄を悪化させることがあるため、使用には注意が必要である。
,モダンフィジシャン(2003),23,3,402

#2
【7.33】
(ステロイドによるせん妄、倦怠感)
 予後がある程度残されている時期にはステロイドはきわめて有効である。しかし、死亡時期の迫り、悪液質が相当に進行した状態では、ステロイド継続投与は、かえってせん妄や耐えがたい倦怠感を増強させてしまう可能性を、今後の課題として提案したい。いくつかの限界はあるが、当院の結果から推測されることとして、ステロイドをある時期から減量・中止することは、持続的な鎮静を最小限にして自然な最期を迎える援助につながると考える。

,ターミナルケア(2003),13,6,465

#2
【7.33】
(ステロイドによるせん妄)
 ステロイドが終末期の過活動型せん妄の促進因子であることは同定されており、ステロイドの過剰投与が鎮静を促進している可能性はある。鎮静とはやむなく行うlast resortであり、鎮静を必要とする苦痛(特に、呼吸困難、過活動型せん妄)を生じさせない手段についていっそうの努力と研究が必要である。

,ターミナルケア(2003),13,6,470

#2
【7.33】
(最期の日々のせん妄)
 最期の日々のせん妄は、進行性多臓器不全を伴っていることが多く、通常、不可逆的であるが、薬による治療法が必要である。抗精神病薬が第一選択薬である。
 ・ハロペリドール(セレネース) 5mgの経口投与または皮下注射。
 ・30分後、患者の状態が解決していなければ追加投与を行う。
 ・さらに30分たっても解決がみられないときには、倍量を投与する。
 ・ときには、10〜20 mg の経口投与、皮下注射あるいは静脈内注射が必要である。
 ・解決がみられないときに、ミダゾラム(ドルミカム)10 mg を皮下注射する。

 患者の興奮を抑え、死が訪れる時までの大部分の期間、あるいはほとんど全期間にわたって患者を眠らせるために深い鎮静が必要となる場合が、ときにある。ある研究では、活動型せん妄に対して深い鎮静を行った割合は3%である。この場合には、ベンゾジアゼピン系薬1剤と抗精神病薬を併用するのが最良の治療法である。
例えば、
 ・直ちに、ミダゾラム(ドルミカム) 10〜20 mg の皮下注射とハロペリドール(セレネース) 10〜20 mg の皮下注射
 ・ミダゾラム(ドルミカム) 24時間あたり30〜60 mg とハロペリドール(セレネース) 24時間あたり20〜30 mg の持続皮下注入
 ・そのうえで、ミダゾラム(ドルミカム) 10 mg の皮下注射とハロペリドール(セレネース) 5mgの皮下注射の頓用

 (最期の日々の不可逆的な活動型せん妄の治療薬)
            (ステップ 4)フェノバルビタ―ルまたはプロポフォール
            
        (ステップ 3)レボメプロマジン+ベンゾジアゼピン系
        
    (ステップ 2)ハロペリドール+ベンゾジアゼピン系
    
(ステップ 1)ハロペリドール

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,416

      参照→【4.6】「モルヒネの副作用としての混乱、幻覚、せん妄」

 

【7.34】「その他の諸症状」


【7.34.1】「アカシジア」


#2
アカシジアが薬によるパーキンソニズムでない場合には、抗パーキンソン薬は役に立たない。
 ・できれば、原因となる薬をできる限り中止、または減量する
 ・抗ムスカリン作用の強い定型的抗精神病薬または非定型的抗精神病薬に切り替える
 ・必要に応じて、抗アカシジア薬、できれば脂溶性β-アドレナリン受容体拮抗薬を追加処方する:
   プロプラノロール(インデラル) 20〜60 mg、 1日2回
   メトプロロール(セロケン)50〜100 mg、 1 日2回
 ・代替薬としてセロトニン2a拮抗薬を処方する。 
   ミアンセリン(テトラミド)1日量15〜30 mg
   シプロヘプタジン(ペリアクチン)1日量8〜16 mg
   リタンセリン 1日量5〜20 mg

 プロプラノロール(インデラル)は高脂溶性の非選択的β-アドレナリン受容体拮抗薬であり、メトプロロール(セロケン)は脂溶性β1-アドレナリン受容体拮抗薬である。両者は同効である。一方、アテノロール(テノーミン)は水溶性β1‐アドレナリン受容体拮抗薬であり、効果がない。
 患者の苦しさが著しいときには、ベンゾジアゼピン系の薬を数日間にわたり追加処方する。
   ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)5〜10mg/日
   クロナゼパム(ランドセン) 0.5〜1 mg/日
   ロラゼパム(ワイパックス)1〜2 mg/日
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,316



【7.34.2】「てんかん大発作」


#2
 注射用フェノバルビタールナトリウムは90%プロピレン(200 mg/mL)で調製されているので、持続皮下注入するときは水で希釈する必要がある。持続皮下注入できる薬のうち、フェノバルビタールナトリウムと混和できるのは、ヘロインとスコポラミンのみである。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,309



【7.34.3】「ヘパリンによる血小板減少症(HIT)」


#2
 ヘパリンは、血小板減少症の原因となる。ヘパリンを投与し始めると、とくに外科手術後では、早期(4日以内)に血小板数が軽度に減少するが、この変化はヘパリンを使用し続けても自然に回復し、症状を現わすことがない。しかし、ときどき免疫機序による血小板減少症がヘパリン依存のlgG抗体と関連して発生する。この抗体が血小板第4因子と複合体を作り、血小板表面に結合し、血小板を破壊し、凝固促進物質が放出される。
 これはヘパリン投与開始後4週間以内に起こりうる現象で、致命的となりうる静脈内あるいは動脈内の血栓や塞栓の発生につながる。血小板数が劇的な減少を示すときには直ちにヘパリン投与を中止する。もし抗凝固療法の継続が必要なときには、ヘパリン類似物質(ヘパリノイド)、例えば、ダナパロイド(オルガラン)またはヒルジンを使用すべきである。交叉反応はまれである。
 ヘパリンによる血小板減少症発生の危険は、予防的な投与(少量投与)では、治療目的の投与(大量投与)におけるよりも少なく、低分子ヘパリン使用時のほうが未分画ヘパリン使用時よりもかなり少ない。典型的にはヘパリン投与開始後5〜8日後に起こるため、いくつかの医療センターでは、この時期に血小板数を検査している。

 比較的元気な患者では次を考慮する:
 ・コルチコステロイド、例えばプレドニゾロン1mg/kg、 または、血小板の自己免疫的破壊があるときには、免疫グロブリン製剤1g/kgの輸注
 ・デスモプレシン(デスモプレシン) 0.3μg/kgの30分かけた静脈内点滴、または1回150μgの点鼻:デスモプレシンは血小板機能を強化するが、定時的な使用は水の蓄積と血栓症の危険を招く
 ・ヘマトクリット値を30%以上に上昇させる目的の輸血
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,258



【7.34.4】「ミオクローヌス」


#2
 発生後間もない場合、服用中の薬を見直し、原因となる薬を可能な限り減量ないし中止する。死が差し迫った患者では次を考慮する:
 ・直ちにジアゼパム(セルシン、ホリゾン) 5mgを直腸内投与し、次いで就寝時に5〜10 mg を直腸内投与する(訳注:ジアゼパム注射液を直腸内投与できる)。または
 ・頓用でミダゾラム(ドルミカム) 5mgを頬粘膜投与ないし皮下注射したのち、1日量として10 mgを持続皮下注入する
 1日数回の臨時服用が必要であれば、1日量を増量する。
 難治性の一次性ミオクローヌスの場合には、発生後の経過が長い場合もクロナゼパム(ランドセン) 5mgの就寝時投与を試みるとよい。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,305

      参照→【4.13】「モルヒネの副作用としてのミオクローヌス」


【7.34.5】「気管支漏」


#2
 気管支漏とは1日の痰喀出量が100mL以上の状態のことである。この異常は細気管支肺胞上皮癌の終末期の特徴的症状として認められる。
 細気管支の炎症反応は、次の薬の使用で軽減すると言われている。
 ・コルチコステロイドの経口投与または吸入
 ・フロセミド(ラシックス)20mgの吸入を1日4回
 ・インドメタシン(インダシン)を2mL中に25mg を含有した液(重炭酸ナトリウムでpHを7.4に調整)を4〜8時間ごとに吸入。コルチコステロイドが無効な場合にも効果がある。
 ・マクロライド系抗生物質、例えば、エリスロマイシン(エリスロシン)、クラリスロマイシン(クラリシッド)。
 分泌を抑制する薬として、例えば、臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)やグリコピロニウム(ロビナール、目下製造中止中)が有効との学会報告がある。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,179



【7.34.6】「抗利尿ホルモン分泌異常症(SIADH)」


#2
 テトラサイクリン誘導体の1つであるデメクロサイクリン(レダマイシン)が第一選択薬で、1回300mg を1日2〜4回経口投与する。デメクロサイクリン(レダマイシン)の内服がしっかりとできない患者には、デメクロサイクリン(レダマイシン)をメチルセルロース5mLに混和して直腸内に投与する。この薬は腎性尿崩症を誘発させる。すなわち腎尿細管に対するADHの作用を阻害する作用がある。
 デメクロサイクリン(レダマイシン)の効果は、3〜5日後に認められるようになり、投与中止後も数日間は効果が持続する。治療中は水分摂取を制限する必要がない。副作用には尿毒症があり、とくに大量投与時に起こる。嘔気や光過敏症などもある。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,247



【7.34.7】「体表の出血」


#2
 体表の出血は、非ステロイド性消炎鎮痛薬の血小板に対する作用によって増強する。この場合には、非アセチル酸系のサリチル酸系の薬(最優先;例えば、ドロビッド)、選択的チクロオキシゲナーゼ2(COX-2)阻害薬(ナブメトン〔レリフェン〕、エトドラク〔ハイペン〕など)、あるいはアセトアミノフェン(カロナール)に切り替える。他の治療法としては:
 ・理学的治療法
 ・止血薬、例えば、トラネキサム酸(トランサミン
 ・放射線照射
 トランサミンの最大投与量は1回1.5gの1日4回であるが、少量でもしばしば満足な効果が得られる。2〜4日以内に改善効果が現れる。出血が止まったら投与を中止、あるいは1週後に500mgの1日3回に減量する。再出血があれば投与を再開する。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,262



【7.34.8】「直腸からの出血、膣からの出血」


#2
 進行がんにおける直腸または膣からの出血の多くは、局所の腫瘍ないしその放射線照射に関連して起こる。血性の下痢は、例えば、子宮頸がんや前立腺がんなどの骨盤内腔浸潤への放射線照射の合併症である。直腸やS字状結腸の粘膜の急性炎症性の損傷によるものであり、その程度には限度があることが多いが、わずらわしい程度となれば、次の停留浣腸で治療する:
 ・ブレドニゾロン20mg を入れた100 mL の液の1日1〜2回の停留浣腸、または
 ・ブレドニゾロン5mgとスクラルファート(アルサルミン) 3gを入れた15 mL の液(地域の薬局で調製する)の1日2回の停留浣腸
 プレドニゾロンは放射線照射後の慢性乏血性直腸大腸炎による出血には効果がない。このときには次の処方が有効なことが多い。
 ・トラネキサム酸(トランサミン)の経口あるいは直腸内投与
 ・エタムシラート(アグルミン)の経口投与
 ・スクラルファート(アルサルミン)縣濁液の直腸内投与
 これらの治療法により1〜2週以内で出血が止まるのが一般的であるが、さらに1週間投与を続けてから、中止すべきである。
 患者の死が2〜3週以内と予測される場合を除き、直腸の腫瘍または膣の腫瘍からの出血には症状緩和目的の放射線照射を考盧すべきである
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,269



【7.34.9】「幽門狭窄」


#2
 胃がんにより幽門狭窄が起こり、手術適応がない場合は:
 ・消化液分泌抑制薬を処方する。例えば、臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)60〜120mg/日、またはオクトレオチド(サンドスタチン)1日量250〜500μgの持続皮下注入
 ・デキサメタゾン10〜20mg の皮下注射1日1回を3日間
 ・経鼻胃管の留置か、排液のための胃瘻の造設を患者と相談する
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,127



【7.34.10】「無尿」


#2
 がん末期には尿量が減り、時に無尿になることがある。飲水か点滴で水分を負荷しても尿量が1日500mL以下になったら、利尿剤としてフロセミド(ラシックス)を用いるが、1日80mgを用いても尿量が300mL以下になったら早晩尿毒症様症状を呈して死亡する。
 尿毒症(重症腎不全)では意識レベル低下が必発なので、むしろ患者は苦しまないで最期を迎えることができる。
,ターミナルケア・ガイド(2003),,,152
 


【7.34.11】「リンパ浮腫」


#2
(在宅でできるリンパ浮腫のケア)
 リンパ浮腫を抱える患者にとって、セルフマッサージ、セルフバンデージの指導を受け、セルフケアの仕方を生活の中で実践することは、予後をより良い状態で保つために非常に重要である。
 治療が開始され、何回かマッサージ療法や包帯療法を受けると、要領やコツが理解できるようになる。自分でケアができると、日々変化するむくみの状態に注意深く対応でき、安心して日常生活が送れるようになる。外来治療では、治療開始初期に1週間に1〜数回を目安とするが、症状が改善されてくると2週間に1回に、さらには3ヵ月に1回、半年に1回に、というように施設内での治療間隔が空いてくる。その後も、炎症時の対応法やセルフケアの仕方を再チェックをするなど、医師やセラピストによる継続的なサポートが必要である。
,ターミナルケア(2003),14,2,113



【7.34.12】「癌化学療法の副作用」


#2
【7.34.12】
抗癌剤の副作用(消化器症状に対する漢方薬)
 抗がん剤の投与では、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐などの消化器症状が高頻度にみられるが、これらに対しては十全大補湯が奏効する。この十全大補湯では、貧血や白血球減少などの骨髄障害や不定愁訴、倦怠感、易疲労感などの改善も併せて期待できる。
 また、塩酸イリノテカンを用いている場合に強度の下痢をきたすことがあり、これに対しては半夏瀉心湯が有効である。これは半夏瀉心湯に含まれるbaicalinが腸内細菌のβ‐グルクロニダーゼを阻害するものと考えられている。その他、抗がん剤の投与中には、補中益気湯、人参養栄湯、柴苓湯、などの処方頻度が高い。
,ペインクリニシャンが関わる緩和医療(2002),,,95

#2
【7.34.12】
(癌化学療法の副作用としての末梢神経障害)
 残念ながら現在に至るまで、明らかに末梢神経障害を直接的に改善する治療法は存在しない。多くの場合、可逆的で治療終了後数カ月から数年の単位で改善が認められるが、個人差が非常に大きい。多くの場合は治療終了後3〜4年で日常生活に支障をきたすほどではなくなる。治療中に重度の症状が出現した場合には、治療を中断もしくは治療法の変更をせざるをえないこともある。一般に、下記のような注意が必要であるが、経過観察が待てない場合、下記のような薬剤が試みられることもある。しかし、一番重要なことは上述のように患者の状態を十分に把握して重症化を防ぐことである。
,がん患者と対症療法(2003),14,1,40

 
【7.34.12】
 末期の固形癌に有効な化学療法は、特殊な方法を除いてほとんどないにもかかわらず、一般的な方法がまれならず行われているのが現状である。
 この場合、効果はないが、副作用は確実に現れることが多く、患者のQOLの低下はもちろん、死期を早めることもある。このような意味のない、あるいは有害ともいえる固形癌末期における化学療法は、患者側の「藁をもつかみたい」気持ちと、医師側の不勉強、および「効果は疑問であるが、何か治療を施さなければ」という思いに対する自己満足が相交じり合って行われているのが現状といえよう。

,緩和医療学(1997),,,151

 
 

【7.35】「鎮静」


 
【7.35】
 ターミナル後期になると意識を保ったまま苦痛を緩和することが困難になることがある。こんなときは家族とよく話し合って、鎮静が唯一かつ最善の方法であること、そして鎮静によって生命が短くなることはないことをよく説明してから鎮静の手段を実行する。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,27

#1
【7.35】
 セデーション(鎮静)開始時のチェック項目
 (1)標準的な症状緩和を試みても緩和不可能な症状か
 (2)死期が迫った病状か
 (3)患者または家族の同意があるか
 (4)スタッフ間での合意がなされたか

,死をみとる1週間(2002),,,45

#2
【7.35】
(セデーション開始の条件)
1.患者に堪え難い苦痛が存在し、これを除去・緩和するための手段が尽くされても十分ではなく、患者本人から「眠りたい」との希望が明確であること。
2.患者が疾患のターミナルであり、回復の見込みがなく、余命が短いと予想されること。
3.患者本人・家族の了承があること。
4.患者本人の不穏・混乱が強く、本人の同意が取れない場合は、家族の主たるケアギバーの同意があること。
5.スタッフ間で充分に協議し、セデーションの必要性が確認・了承されること。

,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,57


【7.35】
 臨終間際の倦怠感、呼吸困難で患者がなんとかして欲しいと訴えたとき、まず、通常の睡眠時間を除いた時間帯における間欠的な鎮静法を提案してみる。ドルミカムの点滴などを用い数時間の鎮静を行うと、覚醒後安定した時間が過ごせる場合が少なくない。だが、やがて覚醒している限り耐え難い苦痛を感じ続けるような状態になる患者も多い。その時点から、持続的な鎮静が有効な治療法となる。
,ターミナルケア(1998),8,1,7

 
【7.35】
 末期における鎮静で使用する薬剤について以下に示す。

・(ドルミカム)【適応外】
持続皮下注や持続点滴で使用できる。持続皮下注入の場合、モルヒネやレペタンと混合しての使用が可能である。
作用発現が速やかで半減期は約3時間と短い。
投与量は20mg/日程度より開始する。
持続皮下注入で100mg/日以上投与しても十分な鎮静が得られない場合、可能であれば持続点滴に変更する。持続点滴が不可能であれば、持続皮下注入でさらに増量する。

・(セレネース)【適応外】
持続皮下注や持続点滴で使用できる。
呼吸抑制が生じにくい。
投与量は10〜15mg/日程度より開始する。
50mg/日まで増量しても十分な鎮静が得られない場合、他剤への変更あるいは併用を考慮する。

・(ハイスコ)【適応外】
持続皮下注法で使用する。
死前喘鳴のある場合、分泌抑制作用もあり、特に有効である。
血圧低下や呼吸抑制があるため、少量より注意しながら投与する。
投与量は1.0mg/日程度より開始する。
3.0mg/日まで増量しても十分な効果が得られない場合、他剤への変更あるいは併用を考慮する。

・(ジアゼパム)
持続点滴で使用できるが、皮膚への刺激が強すぎるため持続皮下注では使用しない。
抗痙攣作用がある。

・(モルヒネ、レペタン)
痛みで既に使用している場合、投与量を増加することで鎮静効果が得られる。
投与量が多くなりすぎると著明な呼吸抑制が出現するので、その時は減量する。

#2
【7.35】
(最期の日々のせん妄)
 プロポフォール(ディプリバン)は超即効性の麻酔薬であるが、第2の選択肢となる薬である。プロポフォール(ディプリバン)を1%溶液(1mLあたり10 mg)とし、1時間あたり5〜70 mg、 (0.5〜7mL)の範囲でコンピュータ制御された用量調節型の注入ポンプを使用して静脈内注射する。1時間あたり10 mg(1mL)は典型的な開始量であり、15分ごとに1時間量である10 mg ずつで増量し、満足できる鎮静レベルに至る。増量変更すると効果が5〜10分以内に現れる。急いで鎮静を強めたいときには、20〜50 mg を単回投与し、2〜3分かけて1分あたり1mLの割合で増量すれば達成できる。鎮静が深すぎる場合には、持続注入を2〜3分間止め、次いで前より少ない量で注入を再開するとよい。薬のカセットが空になったら直ちに補充することが重要である。そうでないと、数分で鎮静が浅くなってしまう。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,417

#2
【7.35】
直腸内投与
 ブロマゼパム(セニラン)3mg/個、1個から1/2個を使用。薬効が切れそうな時期に追加してゆきます。
 効果はやや不確実ですが、在宅などでの使用に便利です。
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,59,

#1
【7.35】
(1)浅いセデーションを行う場合
ハロペリドールの持続皮下注入法:セレネース(1アンプル:5mg 1mL)を0.75〜1.25mg/時より開始し、症状を観察しながら2.5 mg/時まで増量する(セデーションの効果は十分でないことが多い)。

(2)中等度のセデーションを行う場合
ミダゾラムの持続皮下注入法:ドルミカム(1アンプル:10 mg 2mL)を2〜2.5mg/時より開始し、症状を観察しながら4mg/時まで増量する。

(3)深いセデーションを行う場合
フェノバルビタールの持続注入法:フェノバール(1アンプル:100 mg 1mL)【適応外】を25〜50mg/時より開始し、症状を観察しながら80mg/時まで増量する(十分な効果発現までには6〜12時間かかり遅いが確実性は高い)。(最近、フェノバールの溶媒が気化して注入ポンプのプラスチックを脆くする可能性を報告されている。したがって、使用する場合には溶液が漏れないよう注意する必要がある。)

(4)急速にまたは間欠的セデーション
ミダゾラムの持続点滴法:ドルミカム 10mg を生理食塩水液100mL に希釈する。これを15〜25mL/時(ミダゾラムとして1.5〜2.5mg/時)より開始し、症状を観察しながら30〜50mg/100mL(ミダゾラムとして7.5〜12.5mg/時)に増量する。

(5)直腸投与によってセデーションを行う場合
ブロマゼパム、ジアゼパム、フェノバルビタールの坐剤の使用:まず1個を挿肛し効果を観察する。その後、患者の状態に注意し苦痛が再出現しそうな時間に挿肛するように指導する。1日2〜6個定期的な挿肛で十分なセデーションが得られることが多い。しかし、頻回の挿肛が患者に苦痛を与える場合には、持続皮下注入法への変更を考慮する。

,ホスピスケアの実際(2000),,,125

#1
【7.35】
(1)浅い鎮静を行う場合
セレネース0.25〜0.5mg/時の持続皮下注入より開始。症状を観察しながら2.5mg/時まで増量。鎮静の効果は十分でないことがある。
フェノバール5〜15mg/時の持続皮下注入より開始。患者の苦痛が高度でなければ少量投与が有効である。呼名で覚醒し応答が出来るレベルが得られる。

(2)中等度の鎮静を行う場合
ドルミカム2〜3mg/時の持続皮下注入より開始。症状を観察しながら4mg/時まで増量。

(3)深い鎮静を行う場合
フェノバール10〜20mg/時の持続皮下注入より開始。症状を観察しながら、50mg/時まで増量。十分な効果が発現するまで12〜24時間を要する。確実性は高い。

(4)急速又は間欠的な鎮静を行う場合
ドルミカムの点滴静注。1〜2mg/時より開始する。症状を観察しながら増量し10mg/時まで増量する。

(5)坐剤による鎮静を行う場合
ブロマゼパム(セニラン)、ジアゼパム(ダイアップ)、フェノバルビタール(ワコビタール)などの坐剤:1/2〜1個を直腸内投与。症状を観察しながら必要時に追加。1日必要量がわかれば定期的使用。在宅ターミナルなどで使用。頻回に使用することが患者・家族にとって苦痛であれば、持続皮下注入法に変更。

,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,236

#2
【7.35】
(鎮静の具体的方法)
「1.Cyclic sedation (夜間のみ)」
  ・夜間の混乱や不穏を認めるが強い苦痛を訴えない状況にある。
  ・余命が週〜月程度と予測される。
 [使用薬剤]
  ・ハロペリドール2.5〜10 mg iv or div or cis
  ・ミダゾラム10〜20 mg/生食100 m/ div or cis (4〜6hr)
  ・オピオイド鎮痛剤 適宜
「2.Conscious sedation
  ・昼間に応答可能な鎮静レベルと十分な鎮痛を維持したい希望がある。
  ・余命が日〜週単位と予測される。
 [使用薬剤]
  ・ケタミン100〜200 mg〜 div (24 hr)
  ・ハロペリドール5〜20 mg iv or div or cis
  ・ミダゾラム20〜40 mg/生食200 mL div or cis (6〜10hr)
  ・フェノバルビタール5〜15 mg/hr cis
  ・オピオイド鎮痛剤 適宜
「3.Deep sedation
  ・激しい苦痛がコントロール困難な状況にある。
  ・余命が時間〜日単位程度と予測される。
 [使用薬剤]
  上記薬剤を病状と鎮静の程度によって調整する。
,モダンフィジシャン(2003),23,3,405

#1
【7.35】
 不眠や不穏でセデーションが必要な場合にはブロマゼパム(セニラン)の坐剤1.5〜6mg/日、またはフェノバルビタール(ワコビタール)の坐剤100〜400mg/日を必要に応じて使用する。
 全身倦怠感が強い場合には、ベタメタゾン(リンデロン)坐剤を必要に応じて使用する。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,230

 
【7.35】
 ターミナル後期における、鎮静には様々な手段があるが、淀川キリスト教病院ホスピスではドルミカムの持続皮下注入法や持続点滴法またはフェノバールの持続皮下注入法を行っており有効である。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,27

#2
【7.35】
中等度以上のセデーション
 ミダゾラム(ドルミカム)1〜2mg/hrから点滴静注。
 具体的には、生理食塩水100mL+ドルミカム1Omg開始時に早送りして就眠後、10〜20mL/hr前後で維持します。
 状態を見ながら、増減していきます。耐性が生じれば、ドルミカムを増量します。
 コントミンなどを混注することもあります。
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,59,

#1
【7.35】
 ミダゾラムはくり返し投与しても血漿濃度は安定しており、蓄積傾向もみられない。一方、ジアゼパムはくり返し投与により蓄積傾向が認められる。心血管系および呼吸器系に対する副作用はチオペンタールにくらべ非常に少なく安全であり臨床的に問題となることは少ない。しかしながら、高齢者、心不全、肝・腎機能障害患者ではt1/2は健常者の2倍以上になることや、持続的に静脈内投与した場合の血中濃度は非常に個人差が大きいことなどより、終末期癌患者において、その投与初期には持続的な観察が必要であると思われる。
,緩和医療(2001),3,3,41

#2
【7.35】
 緩和医療におけるセデーションにおいては、ミダゾラムによる報告が最も多い。しかし、ベンゾジアゼピン系薬剤には耐性形成と脱抑制の報告がみられ、個々の患者の状態をよく観察し、きめ細かに投与量と投与速度を調節する必要がある。また、バルビツール系薬剤の場合には蓄積を起こすこともあり、長期投与になった場合には注意する必要がある。
,ターミナルケア(2003),13,6,447

#2
【7.35】
(患者の同意・家族の同意)
 緊急を要するような場合には間欠的なセデーションを行い、その後の覚醒時に再度、意思を再確認するなどの配慮が必要になってくる。しかし、間欠的なセデーションから持続的なセデーションに移行する場合、間欠的なセデーションから覚醒する時期には、程度の差はあるがいくぶん意識障害が残り、それが本人の意思決定能力を低下させる可能性もある。しかし、十分な覚醒が得られるまで鎮静状態からの回復を持つと、再び強い苦痛が出現し、再度間欠的なセデーションが必要になることも少なくない。このように一度、間欠的なセデーションを開始した場合、その後の意思確認が難しくなることもあるので、注意が必要である。また、「再び目が覚めないような状況になる可能性」や「セデーションに伴って全身状態が急速に悪化する可能性」について、患者に対し説明することの精神的負担も、実際にセデーションを開始するうえでの課題として残されている。
,ターミナルケア(2003),13,6,445

#2
【7.35】
 持続皮下注入の場合には患者への侵襲はより少ないものの、皮下からの吸収には時間が必要であり、きめ細かな鎮静水準の調節は難しい。
 したがって、間欠的なセデーションを行う際には、おもに点滴静注が行われることが多い。
,ターミナルケア(2003),13,6,447

#1
【7.35】
 (フェノバルビタールによる鎮静)
 ミダゾラムで耐性ができ、より深い鎮静が必要なときは、フェノバルビタール(フェノバール)を使用する。持続皮下注入法で10〜20mg/時より開始し、症状を観察しながら50mg/時まで増量する。持続注入器でO.lmL〜0.2mL/時で注入開始とする。十分な効果発現まで12〜24時間を要するが、確実性は高い。深いセデーションが目的ではあるが、茅根らは少量のフェノバルビタールの持続皮下注入法(240〜360 mg/日)は、末期癌患者の耐え難い苦痛を軽減し、かつ患者と会話可能なレベルにセデーションが得られる可能性があると報告しており、「意識のあるセデーション」は今後の検討課題の一つである。
,死をみとる1週間(2002),,,47

#2
【7.35】
 Conscious sedation と呼ばれる中間的な方法がある。夜間のみの睡眠剤や鎮静剤の投与でコントロールできないつらさが出現した場合に行われるが、完全な意識低下をきたさないので、患者との意思疎通が可能であるという利点を有している。従来の完全な意識低下をきたす鎮静に比べて、医療を行う側や家族にとって心理的な抵抗感が少ない点や急激な症状変化をきたしにくいという点が特徴的であるが、意識が保たれることが精神的ケアの面で有用に作用するのかどうか、といった点などについて今後の検討が必要と考えられている。筆者の経験では、通常レベルの緩和医療においては、この二つの方法で対応が可能な患者がほとんどで、意識低下をきたすような深い鎮静を必要としなくなってきているとの印象を持っている。
 しかしながら、当然のことながら、患者の病状によって意図せざる深い鎮静を招来する危険は存在するし、死亡数日前の医療行為の危険性について検証することなく安易に施行することは避けなければいけない。すなわち、 Conscious sedationは深い鎮静と同様に、十分な協議と準備を行ってはじめて許容されると認識すべきである。
,モダンフィジシャン(2003),23,3,405

#2
【7.35】
コンシャスセデーション(Conscious Sedation)
 「苦痛は緩和されているが、言語刺激により、応答できる能力が保たれている」
  フェノバルビタール(フェノバール)5〜15mg/hrで開始。
 名前を呼ぶと覚醒してうなずくことができるくらいのレベルの鎮静が得られます。本人の苦痛が強くなければ継続可能です。次第に苦痛が強まれば、20〜40mg/hrでより深いセデーションに移行することも可能です。
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,59

#1
【7.35】
 conscious sedation(会話が出来る程度の鎮静)を目標とした使用法においては、フェノバルビタールは持続皮下注入で投与する。投与量としては5〜10mg/時で開始し、1〜2日程度意識レベルを評価しながら5〜15mg/時で維持する。効果発現までには、0.5〜2日程度要するため、必要な場合にはドルミカムの点滴静注による間欠的な鎮静(セデ−ション)やブロマゼパムの経直腸投与などを併用する。
 フェノバルビタールの半減期は50〜15O時間であり、蓄積性も高いのて、いちど深い鎮静の状態になると減量しても短時間には回復しない。したがって、開始量は少量が望ましい。注射剤は有機溶媒に溶解されているので、他の薬剤との混注は不可能である。この有機溶媒は揮発性があり、プラスチックの腐食作用をもっているので、注入ポンプを使用する場合には注意し、投与ルートも一般の薬剤に比べて頻回に交換する必要がある。
 フェノバルビタールの坐剤も発売されており、1日10O〜200mgの投与で持続皮下注入と回様の効果が得られると考えられ、持続注入ポンプがない場合や在宅においては有用である。
,わかるできるがんの症状マネジメント2(2001),,,319

#2
【7.35】
「セデ−ションに使用される薬剤は適切か」
 問題は、時にセデーションにモルヒネを使用している医師がいることである。モルヒネをセデーションに使用する意図は、モルヒネの副作用である眠気効果を期待して使用するものと思われるが、眠気はモルヒネの鎮痛有効域よりも高い血中濃度によって出現する状態であり、これは従来から恐れられているモルヒネの副作用である呼吸抑制領域の血中濃度に近づくことを意味している。
 鎮痛や呼吸困難軽減目的ではなく、セデーション目的にモルヒネを使用することは危険であり、避けられるべきである。
 セデーションにモルヒネを使用することは、危険のみならず患者・家族にとってはまさに最後の薬を意味し、死亡間際に使用された薬剤ということになろう。また、衰弱した患者には確かに呼吸抑制を引き起こし、死を早めている可能性もある。
 いずれにせよ、そのような不幸なモルヒネ体験をもってしまった家族や遺族にとって、モルヒネはできれば使いたくない、また口に出してほしくない薬になってしまうだろう。これは疼痛コントロールにモルヒネ使用を薦める際にも大きな障害になり、患者は取れるはずの痛みに苦しむ原因にもなってしまうだろう。適切な薬剤の選択は大切なのである。

,ターミナルケア(2003),13,6,435


【7.35】
 死亡直前に出現する緩和困難な疼痛(消化管穿孔や肝腫瘍などの腹腔内出血、絞扼性イレウスなど)も鎮静の適応となる。鎮静施行下でも、それまで行われていた鎮痛治療は継続すべきである。一時的な入眠で症状が緩和されると考えられるときには、主に点滴静注によって間欠的な鎮静を行えばよい。
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,193
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,233

#1
【7.35】
 浅いセデーションとしてミダゾラムを使っても、患者の苦痛が軽減せず、「眠りたい」と訴えることもある。そのような場合には、やはり深いセデーションを選ぶべきである。深いセデーションの方法としては、ミダゾラムとハロペリドールの併用、あるいはフェノバルビタールの皮下注などがあります。英国の文献では、ミダゾラムを使っても呼吸・循環器系に対して大きな影響を及ぼすことはないといわれている。しかし量的な問題については明らかになっていない。ミダゾラム投与が大量になれば影響を及ぼす可能性もあるが、この点については今後の検討課題である。
,ホスピスケアの実際(2000),,,12

#1
【7.35】
 サイレースの副作用はベンゾジアゼピン系薬剤の副作用に準ずるが、とくに本剤にはヒスタミン遊離作用があり、静注後に急激な血庄低下を認めることがあるため、高齢者、脱水状態、終末期癌患者のように身体状態が極度に衰弱している症例などに使用する際には注意を要する。
,緩和医療(2001),3,3,42

#1
【7.35】
 大量喀血の死亡率は75%であるが、進行癌患者では蘇生術の実施は不適切である。ドルミカム5〜10mgあるいはセルシン10〜20mgを患者の意識がなくなるまで静脈内に投与すべきで、静脈路が確保できていないときには、セルシン10〜20mgを直腸内に注入する。看護師か医師が患者に付き添い続ける必要がある。他の部位からの大量出血が起こったときも、急性気管支圧迫が起こったときもこれと同じ方法をとる。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,62

#2
【7.35】
「スピリチュアルケアは適切になされているのか」
 患者はスピリチュアルペインのために、もはや生きる意味を見出せなくなり、「もう終わりにしてほしい」とか「ずっと眠りたい」などと訴えることがある。しかし、適切なスピリチュアルケアがなされれば、患者は再び生きる意味を見出すことも多い。スピリチュアルペインに対して持続的なセデーションが適応にならない理由である。
 医療者は、まずほとんどの患者がスピリチュアルペインを持っていることを認識し、それらがどのように表現され、どのようなケアが大切かを知る必要がある。そして、適切なスピリチュアルケアに取り組む必要がある。

,ターミナルケア(2003),13,6,434

      参照→【2.1.14】「スピリチュアルペイン」

#2
【7.35】
(精神的苦悩のために鎮静を希望する場合)
 精神的な苦悩が強く、どんな表現にしろ鎮静を希望される患者さんの場合、「この患者さんはうつ病ではないか」「外傷後ストレス障害はないか」と精神科の医師として、まず念頭に置くことにしています。
 鎮静を希望する表現の裏に抑鬱気分、意欲や興味の低下、睡眠障害などがみられ、アメリカ精神医学会診断基準第4版(DSM−IV)でうつ病の基準をみたす場合、鎮静をする前にまず患者さんに対して抑鬱気分が前景にたっており、今の辛い状況が薬物療法で改善する可能性があるとお伝えしています。
 経口摂取が可能な患者さんには抗うつ剤の処方を行い、経口摂取が不可能な患者さんには抗うつ剤の点滴を行っております。抗うつ剤の投与により、訴えが消失した患者さんを診察しますと、うつ病の苦しみが身体的な苦痛に重なり、鎮静の要求になっていることもあり、うつ病を適切に診断・治療することの必要性を感じます。
 うつ病を経験したがん患者さんに話を伺いますと、「あれはもう経験したくない」「死ぬほどくるしいですね」と言います。うつ病は本当に苦しいものであると熟知しておくことが必要だと考えています。

,ターミナルケア(2003),13,6,452

      参照→【7.24】「抑鬱」
#1
【7.35】
 生命を短縮しようという明確な意図がなかったとしても、鎮静の結果、生命予後が短縮するかは医療者にとって主要な倫理的ジレンマの一つになりうる。この点についてはいくつかの報告があり、Moritaらの観察的研究では、鎮静の対象症状それ自体、予後不良な臓器不全を反映していることが血液検査や画像診断の結果から支持された。また、鎮静を受けた患者と受けなかった患者において緩和ケアの開始から死亡までの予後を比較した予備的研究では、いずれも、生命予後に有意な差は認められなかった。オピオイドや鎮静薬の投与量によって生存期間に差があるかを検討した二つの研究においても、鎮静作用のある薬物と患者の生存期間には明確な関連はなかった。さらに、多様な予後の規定因子を統計学的に調節して比較した研究においても、鎮静薬の使用の有無は患者の予後に有意な影響を与えていないことが示されている。
 鎮静が生命予後を短縮するか否かは、厳密には、鎮静によってしか緩和されない苦痛をもった患者で鎮静を受けたものと受けないものとの予後を無作為化試験で比較検討しなければ結論することはできない。しかし、このような研究は明らかに非倫理的であり、現実に実施されることはないと考えられる。したがって、現在得られている知見を慎重に解釈することが次善の手段である。全体としてみると、鎮静が、臓器不全に伴うほかの手段によって緩和できない苦痛を対象としておこなわれているかぎりにおいて、患者の生命予後を意昧のある幅をもって短縮するとは考えにくい。適切な方法で鎮静薬を投与したにもかかわらず呼吸・循環抑制が生じ死亡につながる場合は存在すると思われるが、それはもし起こったとしても、「尊厳のある、容認できる生活状況を維持するのに必要な治療手段にさえ耐えられないほどに患者の状態が悪化していたこと」を意昧すると考えられる。
,緩和医療(2001),3,3,32

#2
【7.35】
「セデーション開始後のケアは適切か」
 持続的セデーション開始後、それまで使用していた薬剤や輸液をどうするかも問題になってくる。持続的セデーションは死亡前、数日以内に開始されることが多いため、通常輸液などはすでに減量されていることが多い。本来であれば、セデーション開始後にはさらなる減量や中止が適切と思われる。しかし、セデーション開始から臨終の時まで患者を見守ることになる家族にとって、セデーション開始と同時にそれまで行われていた医療が急激に減少していくことは、やむをえないと分かっていても辛いものがあるだろうと思う。医療内容、特に輸液などに開してはセデーション開始と同時に減量・中止などにするのではなく、その時々の変化をみながら家族が納得できる経過の中で減量していくことが大切と思われる。家族によっては、たとえ微量であってもゆっくりと滴下する輸液によって患者の死までのプロセスを見守ることができる場合もあるからである。
 あるいは、セデーションによって深い眠りに入った患者を、ほっとすると同時に呆然と見つめているだけの家族もいる。どうしてよいか分からないからである。医療スタッフは、たとえば聴覚は保たれているのでいつものように話しかけていいことや、患者の好きだった音楽をBGMのように流したり、手をにぎったり手足を軽く擦ったりのスキンシップは問題ないことなど、セデーション後でも家族には果たすべき大切な役割あることを説明して欲しい。セデーション中の家族の心情に思いを馳せるべきである。

,ターミナルケア(2003),13,6,435

#2
【7.35】
(ステロイドによるせん妄、倦怠感)
 予後がある程度残されている時期にはステロイドはきわめて有効である。しかし、死亡時期の迫り、悪液質が相当に進行した状態では、ステロイド継続投与は、かえってせん妄や耐えがたい倦怠感を増強させてしまう可能性を、今後の課題として提案したい。いくつかの限界はあるが、当院の結果から推測されることとして、ステロイドをある時期から減量・中止することは、持続的な鎮静を最小限にして自然な最期を迎える援助につながると考える。

,ターミナルケア(2003),13,6,465

#2
【7.35】
(ステロイドによるせん妄)
 ステロイドが終末期の過活動型せん妄の促進因子であることは同定されており、ステロイドの過剰投与が鎮静を促進している可能性はある。鎮静とはやむなく行うlast resortであり、鎮静を必要とする苦痛(特に、呼吸困難、過活動型せん妄)を生じさせない手段についていっそうの努力と研究が必要である。

,ターミナルケア(2003),13,6,470

#1
【7.35】
 (鎮静後のステロイド)
 ステロイドは、末期において倦怠感の軽減、食欲増進、気分の高揚、疼痛緩和など効果は多岐にわたり汎用する薬剤であるが、セデーション後は中止したほうがよいと考える。

,死をみとる1週間(2002),,,48

 
      参照→【7.4】「緩和医療における向精神薬の使用上の注意」
      参照→【7.33】「持続性の不穏、せん妄、混乱」


 

【7.36】「死亡直前期におけるモルヒネの投与継続の意味」


 
【7.36】
 末期癌患者では疼痛の訴えがなくなる場合もある。これは疼痛を感じなくなったのではなく、疼痛を訴える力がなくなったためであることが多い。たとえ訴えがなくても、顔をしかめたり、苛立ちを見せたりした場合、患者は痛みを感じているはずであるので、モルヒネの増量が望ましい。そして安らかな死を迎えさせるべきである。
,Cancer Pain Symposium in Tokyo(1994) より

 
【7.36】
 死期が近づいて患者の意識が障害され、疼痛を訴えなくなっても、モルヒネ投与を中止してはいけない。主な理由は2つある。
(1)痛みのある意識障害患者も痛みは感じているので、体動不穏を示す傾向がある。
(2)モルヒネを経口投与して数週間すると、身体的依存が発生しうる。その時モルヒネを突然中止すると、不穏、発汗、急に抑制がとれたための腸蠕動の増強に起因した便の失禁が出現する。
 このような時に、それまで投与していたモルヒネの1/4量を与えると、これらの退薬症状が消失する。

,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,,205


【7.36】
 患者が死の直前に半昏睡に陥っているときでも、できればモルヒネは通常量の約1/4投与し、不眠、発汗、下痢といった退薬症状を防止すべきである。末期患者では舌下投与でも薬物血中濃度が高くなる。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,40

      参照→【3.1.11】「モルヒネの退薬症状」

 
 

【7.37】「死亡直前期」


#1
【7.37】
 (死が近づいていることのおよその予測)
・死亡前1週間以内
 1)トイレに行けなくなる
 2)水分が飲めなくなる
 3)発語が減ってくる
 4)見かけ(general appearance)が急激に弱ってくる
 5)眼の勢いがなくなってくる(注視能力の低下)
 6)原因の特定しにくい意識障害・傾眠傾向が出現してくる

・死亡前48時間以内
 1)一日中、反応が少なくなってくる
 2)脈拍の緊張が弱くなり、確認が難しくなってくる
 3)血圧が低下してくる
 4)手足が冷たくなってくる
 5)手足にチアノーゼが認められる
 6)冷汗が出現する
 7)顔の相が変わる(顔色が変わる)
 8)唾液や分泌物が咽頭や喉頭に貯留し、呼気時にゴロゴロと不快な音が出現する  (死前喘鳴)
 9)身の置きどころがないかのように、手足や顔などをバタバタさせるようになる

,死をみとる1週間(2002),,,25

#2
【7.37】
(死亡直前期の判断)
 余命が24時間以内であることの判断は、慣れない間は迷うものだが、慣れてくるとある程度まで予測できるものである。例えば、血圧が60mmHg(最高値)以下が何回も続くようになるとか、呼吸数が1分間5回以下が続くようなら、先は短いと判断してよい。意識レべルも参考にはなるが、外れることが多い。
 尿がまったく出ない(無尿)状態が3日以上続いた時も死期は近い。

,ターミナルケア・ガイド(2003),,,296

#1
【7.37】
 (死亡前48時間の患者マネジメントの原則)
 1)苦痛緩和が最も重要であることに十分配慮する 
 2)不必要な医学的介入を避ける 
 3)定期的に全ての投与薬剤と症状を評価する 
 4)患者・家族との効果的なコミュニケーションを保つ 
 5)家族・介護者の援助も確実に行う

,死をみとる1週間(2002),,,26


【7.37】
 最期の数日間、食物や水分摂取の減少はおそらく死にたいする正常な生理的メカニズムである。空腹や口渇はこの期間ではまれである。患者がもはや確実に嚥下できない場合、腸管栄養を中止すべきである。理想的には輸液を投与してはならない。患者を軽度の脱水に導くことは、最期の数時間に苦痛をもたらす多くの問題を軽減する。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,286

#1
【7.37】
 予後の短い患者で日単位で病状の悪化が見られる場合、経口摂取は必ずしも必要ではない。生命の最終段階での脱水は苦痛ではなく、尿量の減少、気道分泌物や嘔吐の軽減や消失などの利点がある。死を前にした脱水は自然な経過である。
,フローチャートで学ぶ緩和ケアの実際(1999),,,30


【7.37】
 末期における脱水の管理には、まず患者の家族に輸液の害の説明を行う。説明にもかかわらず、家族が輸液の実施を望む場合は、静脈内または皮下に1〜1.5リットル/日を超えない速度で輸液を行う。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,286

#2
【7.37】
死亡直前期の症状(四肢の変化)
 手足に浮腫(むくみ)が出現します。特に足の末梢の皮膚がむくみます。出血班が出たりします。
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,62

#2
【7.37】
死亡直前期の症状(血圧の変化)
 次第に血圧が低下していきます。脈が触れにくくなりますが自然の経過です。
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,62

#2
【7.37】
死亡直前期の症状(呼吸パターンの変調)
 荒い呼吸、不規則な呼吸になることがあります。呼吸抑制が起こります。
 呼吸がゆっくりとなったり、逆に速くなったりします。
 喘鳴が出現し、ぜろぜろした音が喉ですることがあります。
 次第に肩呼吸や下顎呼吸になり、やがて呼吸が止まります
,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,61

#2
【7.37】
死亡直前期の症状(家族への説明)
 家族には、「死が近づくにつれて疲れやすくなリ、眠っている状態が多くなりますが、これは自然なことなのです」と説明します。今、起こっていることが自然なことであると認識できるようにくリ返し話します。
 そして、患者さんの状況ができるだけ穏やかで、快適であるようにしていきます。痛みや呼吸困難感の緩和に努めます。

,ベッドサイドの実践緩和ケア塾(2003),,,62

 
【7.37】
 死亡直前の患者を目の前にして、家族は何をしてよいかわからなくなる。患者の手足を撫でることや、呼びかけ(聴覚は最後まで残るため)を勧めるとよい。
,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,13
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,13
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,30

 
【7.37】
 患者が死亡する前に家族にとって気になる症状として、呼吸の変化と呻吟がある。患者自身は苦しみから解放されているので、家族には「衰弱が進むと、このような症状が出ますが、患者さんはもう苦しみから解放され、苦しくはありませんので安心してください」というような説明をするとよい。
,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,13
,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,13
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,29

#1
【7.37】
 死直前の大きな雑音を伴う頻呼吸は患者には感知されていないのであるが、患者の家族や他の患者にとって非常につらい体験となる。治療目標は、雑音を減らして、他の人々にとっての辛さを緩和することにある。そのために、モルヒネを10mgないしそれ以下の静脈内投与を行って呼吸数を1分間12〜20回に減らし呼吸の深さも減らす。すでに強オピオイドが投与されている患者の場合は投与量を2〜3倍に増量をする。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,63

#2
【7.37】
(臨終直前の騒々しい頻呼吸)
 臨終前の騒々しい頻呼吸(tachypnoea)は、患者の自覚がなくても家族や他の患者にとって聞くに耐えがたいものである。この症状は、回復の見込みのない終末期の呼吸障害±気道閉塞に対して患者の身体が最後に必死に反応している症状である。
 モルヒネを静脈内注射して、呼吸数を1分間10〜15回に減らし、騒々しい音を減らすことを考慮する。それまで十分な鎮痛効果が得られていた量の2〜3倍のモルヒネ量が必要であろう。まれに、肩や胸を大きく動かすこともあるが、この場合にはミダゾラム(ドルミカム)を併用するとよい。例えば、ミダゾラム10mg を直ちに、次いで必要に応じて1時間ごとに10mg を皮下注射する。
,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,187

 

【7.37.1】「死前喘鳴」


 
【7.37.1】
 患者が死に直面している場合や非常に衰弱した状態で喀痰を自力で出せない場合に、分泌物が下咽頭に溜まり、呼吸によって振動して雑音を発するようになる。これを死前喘鳴という。
 治療は体位の変換分泌物の吸引の他に、薬物治療として、スコポラミン【適応外】0.3〜0.8mg(皮下注)数時間ごとや、アトロピン0.3〜0.8mg(皮下注)がある

,癌の痛みハンドブック(1992),,,143

#1
【7.37.1】
 死前喘鳴が出現する頃になると、通常患者の意識は低下しているので、死前喘鳴は患者にとっては苦痛でないことが多い。しかし、患者の家族にとっては非常に苦痛であり耐え難い場合があり、治療の対象となる。このような場合、ハイスコが有効である。単独投与の場合は舌下(0.15〜0.25mg、1日1〜4回)を行うが、頻回の投与が必要な場合は持続皮下注入(0.5〜1.5mg/日)を行うとよい。ブスコパン注の場合は20〜60mg/日、持続皮下注入。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,131

#2
【7.37.1】
 抗ムスカリン薬を直ちに投与する。すでに存在する咽頭の分泌物には影響しないが、抗ムスカリン薬の速効性製剤を使用する必要がある。
 この薬は咽頭にたまった唾液に起因する喘鳴にもっとも効果的である。気管支分泌物(感染や水腫が原因)や胃内容の逆流に起因する喘鳴には効果がない。
 臭化水素酸スコポラミン(ハイスコ 皮下注1回量0.4〜0.6mg 持続的皮下注入量1.2〜2.4mg)、臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン 皮下注1回量20mg 持続的皮下注入量20〜40mg)、グリコピロニウム(ロビナール、製造中止中 皮下注1回量0.2〜0.4mg 持続的皮下注入量0.6〜1.2mg)などは喘鳴に対して同じ効果があり、1/2〜2/3の患者で喘鳴が軽減する。

,トワイクロス先生のがん患者の症状マネジメント(2003),,,186
 
#1
【7.37.1】
 臭化水素酸スコポラミン(ハイスコ)【適応外】
 制吐作用、分泌抑制作用があるので、ターミナル時に嚥下困難があって唾液分泌亢進により口からよだれがあふれ出してくるような場合や、咳、死前喘鳴の対策としても用いられる。
 投与方法は頓用方式(0.25mg〜0.5mg/回、4〜6時間毎、皮下注)または持続投与(静注・皮下注、0.5〜3.0mg/日)とするが、蓄積による効果増強に注意する。
,ペインクリニックで用いる薬100+α(2002),,,121

#1
【7.37.1】
 (死前喘鳴に対するハイスコの投与量)
 臭化水素酸スコポラミン(ハイスコ)【適応外】
 舌下:1回注射剤0.15〜0.25mg (0.3〜0.5mL)、1日1〜4回。
 注射剤:O.5〜1.5mg/日、持続皮下注入
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,131

#2
【7.37.1】
 臭化水素酸スコポラミンにより気道内分泌を抑制する。注射用製剤0.15〜0.25mg/回の1日1〜4回の舌下投与。頻回投与が必要なら0.5〜2.0mg/日を持続皮下注入する。肺炎や左心不全の場合には効果がないことが多い。
,がん緩和ケアに関するマニュアル(2002),第5章U2.4)

#1
【7.37.1】
 ハイスコの有効限界は1日あたり5Aとされ、それ以上投与しても効果の増強はみられない。
,誰でもできる緩和医療(1999),,,193

#2
【7.37.1】
 ハイスコの投与により、鎮静作用、意識低下、呼吸・循環抑制をきたすこともある。また、長期使用にて混乱や不穏がみられることがあるため慎重に投与する。
 輸液を行いながらの使用は効果がない

,緩和ケア(2000),,,215

#2
【7.37.1】
 臭化水素酸スコポラミンの使用により、口腔内の乾燥が起こるため、口腔内ケアを十分に行うことが重要である。
1)加湿器による湿度の調節と室温の調整
2)頻回の口腔ケア
  ・口腔清拭と綿棒による加湿、ごま油(太白)などの塗布
  ・口臭があれば、水に1〜2滴のハッカ油を混ぜて口腔清拭を行う。
,緩和ケア(2000),,,216

#1
【7.37.1】
 (死前喘鳴に対するブスコパンの投与量)
 臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)【適応外】
 注射剤:20〜60mg/日、持続皮下
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,131


【7.37.1】
 (死前喘鳴の薬物療法)
 ラシックス20〜40mg静注。アトロピン1〜2mg筋注。またはスコポラミン0.3〜0.6mg筋注/皮下注4時間毎。アトロピン2mg+モルヒネ2.5mg+デキサメタゾン2mgのネブライザーによる吸入。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,289

#1
【7.37.1】
 死前喘鳴の治療対応の主目標は、患者が楽になることで、患者に痰が出やすい半臥位をとらせる。中咽頭の痰の吸引は患者にとり不快なことなので、意識のない患者の場合にのみを行うのが一般的である。抗コリン作動薬は痰の分泌抑制作用があるので、早めに投与し始めると有用である。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,63


【7.37.1】
 死前喘鳴が生じ分泌物が多量である場合、吸引をやさしく使用するが、患者の苦痛を妨げるためにわずかにすべきである。
,緩和ケアハンドブック(1999),,,289

 
【7.37.1】
 喘鳴に対し吸引による痰の除去は出来ないことが多く、患者に苦痛を与えることになるため最小限にする。
,がんの症状マネジメント(1997),,,235