ScienceAlert 2022年8月24日
世界で最も人気のある除草剤が
線虫類に劇的な痙攣を引き起こす

情報源:ScienceAlert, August 24, 2022
World's Most Popular Herbicide
Causes Dramatic Convulsions in Worms

By Carly Cassella
https://www.sciencealert.com/worlds-most-popular-
herbicide-causes-dramatic-convulsions-in-worms


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年8月31日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/news/220824_ScienceAlert_
Worlds_Most_Popular_Herbicide_Causes_Dramatic_Convulsions_in_Worms.html



 悪名高い除草剤であるラウンドアップは、もともとモンサントによって製造され、バイエルによって買収されたが、線虫類(roundworms)に発作のような痙攣を引き起こすことが発見されていた。

 土壌に生息する種である線虫類 Caenorhabditis elegans)が、消費者の使用に推奨される最低濃度の 300分の1 という非常に希釈されたラウンドアップのサンプルにさらされた時、研究者らはその除草剤が長期の発作を線虫類に誘発することを発見した。

 線虫類モデルの 3分の1 で、ラウンドアップとその主成分であるグリホサートの毒性効果は、薬物介入によってのみ停止できた。

 研究者らは、彼らの調査結果は”かなり劇的”であり、バイエルとラウンドアップの将来にとって重要な時期に来ていると述べている

 フロリダ・アトランティック大学の神経科学者アクシャイ・ナレインは、”グリホサートが神経系に与える影響を我々はほとんど理解していないことが問題であると”述べている

 ”グリホサートへの暴露がどれほど蔓延しているかについて、ますます多くの証拠が増えているため、この研究が他の研究者にこれらの発見を拡大し、我々の懸念がどこにあるべきかを明確にすることを願っている”。

 グリホサートは、世界で最も一般的に使用されている除草剤である。米国の最近の連邦報告書(訳注1)は、この除草剤の痕跡が子どもと大人の尿サンプルの 80% 以上に見られるることを発見した。

 しかし、そのような広範囲にわたる暴露の健康への影響は、非常に議論の余地がある。

 モンサントと現在のバイエルの経営幹部らは、ラウンドアップは人間にとって安全で発がん性がないと主張している。しかし近年、科学者、政策立案者、及び一般市民は、独立した科学的調査ではなく、企業主導の研究に基づく傾向があるこれらの主張に疑問を呈し始めている

 バイエルは現在、ラウンドアップを使用してがんを発症したと言う人々とのいくつかの法廷闘争に巻き込まれている(訳注2)。最近、英国は、特定の成分である POE タローアミンが、その潜在的な毒性効果を知った後、ラウンドアップの商標登録された処方で使用することを禁止した。

 しかし、米国はラウンドアップ又はその成分に対して何の措置も講じていない。 2020 年、環境保護庁 (EPA) は、ラウンドアップの適切な使用による人間の健康へのリスクはないと再度判断した。

 2年後、一部の批評家は納得していない。最近、連邦裁判所は、このトランプ時代の決定は、ラウンドアップの毒性効果に関する重要な新たな証拠を見落としていたと判決を下した(訳注3)。

 EPA は現在、10 月までにその決定を再検討しなければならない。同時に、欧州連合も 2022 年以降にグリホサートの使用を再認可するかどうかを検討している。

 線虫に関する今回の研究は、たとえそれが動物モデルに基づくものであっても、検討する価値がある。多くの研究がラウンドアップの発がん性に焦点を当てているが、神経毒性の影響もあるかもしれない。

 ある研究は、線虫の脳で測定された毒性のレベルが哺乳類の神経毒性と高度に相関していることが以前に発見していた

 それのことが、今回の調査結果を非常に懸念させることの一因である。

 フロリダの研究者が米国版のラウンドアップを線虫でテストしたところ、グリホサート単独の効果のほぼ 2倍の長さである 1分強の痙攣を引き起こすことがわかった。

 英国の処方もまた、グリホサート単独よりも多くの発作を引き起こした。これは、ラウンドアップには他の化学物質と相互作用して動物の脳を過剰に刺激する他の危険な成分が存在していることを示唆している。

 研究者らが GABA-A 受容体(訳注4)のない(without GABA-A receptors)線虫を繁殖させると、グリホサート又はラウンドアップにさらされても発作を起こさなかった。

 これは、化学物質が運動に関連する脳内の受容体に作用して発作を悪化させていることを示唆している。興味深いことに、これらの受容体を標的とする薬物は、ヒトの一般的な抗てんかん剤として治療に使用される。

 ”現時点では、グリホサートとラウンドアップへの暴露が、てんかんやその他の発作性疾患と診断された人間にどのように影響するかについての情報はない”と、フロリダのノバ・サウスイースタン大学の神経科学者ケン・ドーソンスカリーは説明している

 ”我々の研究は、運動に重大な混乱があることを示しており、さらなる脊椎動物の研究を促す必要がある。”

 米国でのグリホサートの使用は将来 200 倍に増加すると予測されているため、一部の科学者らは当然ながら、独立した研究がほとんど行われていないことに懸念を抱いている。

 グリホサートとラウンドアップへの暴露の神経毒性効果を調査した研究はほとんどない。

 今年初めに発表されたバフテイル マルハナバチ (Bombus terrestris) に関する研究では、グリホサートを含んだ砂糖水を摂取したミツバチは、幼虫を孵化させるのに十分なほど巣箱を暖かく保つことが困難であることがわった。

 2018 年に発表された別の研究は、グリホサートがミツバチのマイクロバイオーム訳注5)に影響を与えたことを示唆した。このことは蜂群崩壊症候群(colony collapse disorder)訳注6) の要因となっているかもしれないと研究者らは述べた。

 雑草を枯らす除草剤の餌食になっているのはミツバチやミミズだけではないかもしれない。我々はもっと知る必要がある。

 この研究は Scientific Reports に掲載された(訳注7)。

 
訳注1:米国の最近の連邦報告書
訳注2:モンサント裁判
訳注3:連邦裁判所のグリホサート判決
訳注4:GABA受容体
  • GABA受容体(脳科学辞典)  GABA は成熟した中枢神経系における主要な抑制性神経伝達物質で、GABA 受容体にはイオンチャネル型の GABAA 受容体と代謝型の GABAB 受容体がある。
訳注5:マイクロバイオーム
  • 医療を変える「マイクロバイオーム」(シスメックス学術セミナー)
    「マイクロバイオーム」ってなに?
     ヒトの体に共生する微生物(細菌・真菌・ウイルスなど)の総体のことです。これらの微生物が消化器・皮膚、口腔、鼻腔、呼吸器、生殖器など人体が外部環境に接するあらゆる場所には、それぞれ特徴的な微生物群集が常在しています。特に腸に生息する細菌(腸内細菌叢)は約1,000種類、約100兆個といわれています。近年の研究からヒトマイクロバイオームが健康や疾患に密接に関係することが次々と明らかになってきています。
訳注6:蜂群崩壊症候群
  • 蜂群崩壊症候群/ウィキペディア
     蜂群崩壊症候群(ほうぐんほうかいしょうこうぐん、英語: Colony Collapse Disorder, CCD)とは、ミツバチが原因不明で大量に失踪する現象である。
     ヨーロッパ、アメリカ合衆国、日本、インド、ブラジルなどで観察されている。フランス政府は、科学的根拠が無いものの、殺虫剤の成分とミツバチ失踪の因果関連を踏まえて、予防原則に基づき、一部の農薬を使用禁止にした。
訳注7:オリジナル研究
    Roundup and glyphosate's impact on GABA to elicit extended proconvulsant behavior in Caenorhabditis elegans (scientific repores 23 August 2022)
    https://www.nature.com/articles/s41598-022-17537-w
    Akshay S. Naraine, Rebecca Aker, Isis Sweeney, Meghan Kalvey, Alexis Surtel, Venkatesh Shanbhag & Ken Dawson-Scully
    ラウンドアップとグリホサートが GABA に与える影響は、線虫類(Caenorhabditis elegans )で長期の痙攣誘発行動を誘発する

    概要 (Abstract)

     毎年 30 億ポンド(約136万トン)の除草剤が農地に散布されているため、殺虫剤が人間と他の動物の両方の神経学的健康と生理学にどのように影響するかを理解することが不可欠である。大多数がグリホサート自体を調べるため、研究はしばしば一次元的である。農業従事者や一般市民は、グリホサートに加えて無数の化学物質類を含むラウンドアップなどの市販製品を使用している。現在、グリホサートに対して提案されている神経学的標的はなく、ラウンドアップとの比較はほとんどない。これを調査するために、グリホサートとラウンドアップが線虫の痙攣行動にどのように影響するかを比較し、グリホサートとラウンドアップが発作様行動を増加させることを発見した。我々の最初の仮説の鍵は、抗てんかん薬による治療が長引く痙攣を救ったことである。また、ラウンドアップにさらされた線虫の 3 分の 1 以上が痙攣から回復しなかったことも発見したが、薬物治療により完全に回復した。特に、これらの影響は、消費者の使用に推奨される最低濃度よりも 300 倍以上少ない除草剤を使用して、神経毒性の以前の調査結果の 1,000 倍希釈である濃度で発見された。我々の観察の背後にあるメカニズムを探ると、グリホサートが GABA-A 受容体を標的とするという重要な証拠が見つかった。有効量以下のグリホサートと GABA-A アンタゴニストを組み合わせた薬理学的実験では、アンタゴニスト単独と比較して非回復が 24% 増加しました。 GABA 変異株の実験では、GABA-A 枯渇株では効果が示されなかったが、グルタミン酸デカルボキシラーゼ枯渇株では有意な増加した効果が示された。我々の調査結果は、グリホサートの痙攣の悪化を特徴付け、観察された生理学的変化の神経学的標的として GABA-A 受容体を提案する。また、グリホサートが抑制性神経回路を調節不全にする可能性も強調している。



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