Beyond Pesticides, 2020年2月6日
農薬ジカンバにより作物が被害を受けたと
農民がバイエル/モンサントを訴える


情報源:Beyond Pesticides, February 6, 2020
Farmer Takes Bayer/Monsanto to Court for Crop Damage
Caused by the Insecticide Dicamba

https://beyondpesticides.org/dailynewsblog/2020/02/
farmer-sues-bayer-monsanto-for-crop-damage-caused-by-the-insecticide-dicamba/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年2月8日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_20/200206_Beyond_Pesticides_
Farmer_Takes_Bayer-Monsanto_to_Court_for_Crop_Damage_Caused_
by_the_Insecticide_Dicamba.html


(Beyond Pesticides, 2020年2月6日) ミズーリ州の桃農家、ビル・ベーダーは、隣接する畑地からの揮発性除草剤ジカンバにより彼の作物が被害を受けた疑いがあるとして、巨大農薬会社を訴えた。ベーダー氏は、30,000本以上の果樹を失ったのみならず、残った果樹の桃は小さく、その生産性が低くなったと主張している。被害額は 2,090万ドル(約20憶円)に達すると言われ、彼はその賠償を求めている。その訴訟は、現在はバイエルが所有しているモンサントと、ドイツの提携会社 BASF は、彼らの製品の販売はドリフトにより作物に被害をもたらす結果となるであろうことを知っていたが、とにかくジカンバ耐性の綿花と大豆の種子を販売したと主張している。会社側はその主張を否定している。

 ジカンバは、植物組織により吸収されると、オーキシン(訳注1 主に植物の成長(伸長成長)を促す作用を持つ植物ホルモンの一群)様の植物成長調節効果を発揮し、最終的には成長し過ぎて栄養供給が追いつかなくなり、植物が枯れることになる安息香酸系除草剤である。元々 1950年代に開発されたジカンバは、雑草がグリホサートに耐性を持つようになるにつれて、再度、使用されるようになった。それは極めて揮発性が高く、広くドリフトする。大豆は特にジカンバに敏感であり、ドリフト被害は農村で近隣同士に摩擦を引き起こしている。従来の大豆では隣地で散布されるジカンバのドリフトにより作物被害を受けるリスクがあるので、農民はジカンバ耐性大豆種子を買わざるを得ない。作物被害に加えてジカンバのドリフトは生態系や鳥類の生息地を脅かす。

 訴訟は、モンサントと BASF は 2017年に揮発性がより低いジカンバを発表する以前の 2015年に、遺伝子組み換えジカンバ耐性の大豆及び綿花の種子を販売し、その新しい種子を購入した農民が従来の揮発性の高いジカンバを散布すれば、従来の大豆を栽培する近隣の農民は揮発性の高いジカンバのドリフトで害を被るので、影響を受ける近隣の住民は潜在的に耐性種子を買うことを余儀なくさせられることになるということをモンサントと BASF は理解していたと主張している。訴訟によれば、農民らは 2015年から2016年の間に BASF の古いタイプの耐性作物除草剤を違法に散布した。

 ”発生した被害は彼らの元々の戦略の一部であった”と原告側弁護士ビリー・ランドルズは冒頭陳述で述べた。”被害はこの製品を販売することににより必然的生じる本質的な要素であった”。ランドルズは、被告側はその問題を予想して徹底的に準備したので、社内の議論でドリフト影響を受けた人々を意味する”driftees”という言葉を思いついたということは、モンサントは彼等自身の温室で製品を管理することができていなかったとことを示唆するものであると、ランドルズは述べた。  調査報道記者カーレイ・ギラムはこの訴訟について次のように述べた。”ベーダーは、数百万エーカーの農地で栽培されている作物を長年台無しにしている、明確に予測できた化学的な大惨事の被害者であると主張するアメリカの農民の大きなそして増大しているグループの中の一人であるにすぎない”。同様な主張をする他の訴訟が、ミシシッピー、カンサス、ネブラスカ、イリノイ、及びいくつかの主要な農業州の農民を代理して、起こされている。

 これらの訴訟の結果として、アーカンサスやミズーリの様ないくつかの州は、夏の灼熱による極端な揮発を回避するために、使用のための期間を制定することを試みた。しかし多くの州はまだ政策が不十分であり、実施されても完全にはドリフトによる被害を防ぐことができない。農民と規制当局は、高い発生率と報告に関連する行動の欠如により、わざわざ報告することを止めさせるよう個人を追い込む”ジカンバ疲れ”現象の一部をなしている。

 ベーダー氏の枯れた桃の木の葉はテストでジカンバ陽性反応を示した。彼は 5,000エーカーの果樹園の全滅を回避すべく闘っていると述べている。彼の農園は、トウモロコシ、大豆、ベリー、リンゴ、及びトマトとともに 500〜600万ポンドの桃を生産している。

 バイエルの冒頭陳述を行った弁護士ジャン・ポール・ミラーは法廷で次のように述べた。”これらの損失は、拡張種子(Xtend seed)に対して散布されたジカンバとは何も関係がなく”、むしろ農場における根腐れ病によって引き起こされたものである。ジカンバ被害の典型的な症状である縮んでカールした葉は、たった二本の桃の樹にみられるだけである。”それらはカップ状になる。それらはカールする。それが桃の樹の葉が示すものである”。

 さらにミラー氏は、モンサントが自社の製品に対して十分なテストを実施しなかったという非難について、環境保護庁(EPA)の規制官による製品の最終的な承認を指摘して反応した。Beyond Pesticides がいつも述べているように、EPA の農薬承認は化学物質の”安全性”の防御としてしばしば使用されており、活動家らは大きな欠陥のある規制システムでは適切なテストを実施できないと言う。

 裁判で示された証拠は、 2015 年にモンサントの従業員らは十分な製品を持っていないと告げて、大学研究者らによる更なるテストを回避したことを示している。先週、裁判で議論されたある e-メールの中で、一人のモンサント従業員は技術開発チームの一人の仲間に e-メールを転送したときに、”アッハッハッ。フィールドテストのために十分な製品を製造するなんて無理だよ。アッハッハッ。たわごと言うな”。

 世界最大の缶詰トマト加工会社であるレッドゴールド社の農業ディレクターであるスティーブ・スミスは裁判で、モンサントはジカンバが農民に及ぼすリスクに関して多くの警告を受けていたとを証言した。スミス氏は、ジカンバに関するモンサントへの諮問委員会のメンバーであった。”我々はモンサントに何度も何度も、それはよい考えではないと告げた”とスミスはシエラによるインタビューで述べた。”彼らは、それは栽培者の教育の問題だと言い張った。しかし問題は教育ではない。問題は化学である”。それとは別にスミス氏の個人の果樹はジカンバのドリフトにより打撃を受けた。スミス氏は、その問題に対応するための政治的な連合を率いながら、新たなジカンバシステムに関してもっと厳格な制限を求めてロビー活動を展開した。

 2月3日、 BASF の役員がビデオを通じて証言をした。中西部担当の技術サービス地域マネージャのギャリー・シュミッツは裁判で、 BASF は農民たちに2017年にジカンバのドリフトに関連する収量低下はないであろうと助言したが、個人的には同社は散布者にどのようなドリフトも収量低下をもたらすであろうと述べた。

 シュミット氏は他の BASF 従業員への e-メールに、”私はいつも決して罪を認めるなと言われていた”と書いた。証言によれば、彼は、潜在的なドリフト被害者”driftees”からの意見を差し控えるよう調査官に告げることに関して、トレーニング文書を編集をしていた。シュミット氏はカップ状の症候があったとしても作物は収量低下の被害は受けないと異議を唱えた。

 裁判でシュミット氏は、アメリカにはドリフト訴訟の記録がたくさんあるのに、いまだにその主張を支持している。シュミット氏は BASF はイリノイ州シェルビービルにある製造工場に隣接する隣人らからが 12 以上の苦情を受けたことを認めているが、彼は問題は散布方法にあり、製品にあるのではないと主張している。モンサントの役員も同じように VaporGrip(R)技術を用いたXtendiMax(R)除草剤がラベルに従って散布されれば、それはどのような有害影響をも引き起こさないと主張した。

 声明とは対照的に、バイエルの地域作物栽培学のリーダであるボイド・カーレイ博士は先週、”我々はそれは起こるであろうと予想した”と証言した。

 裁判は今後3週間以上、延びそうだ。

 ジカンバに揮発性があるのだから、もっと多くの規制が必要であるということは明らかである。現在実施されている政策は再度、検証されなくてはならない。EPA は、承認する前に危害を評価するための措置をとりつつ、予防原則に従うことを始めなくてはならない。

 農薬トレッドミル現象(踏み車現象)と呼ばれる悪循環を断ち切って、これらの有害な化学物質の必要性、それらの混合、及びドリフトのリスクを排除しつつ、農薬耐性の循環を永続させない有機農業アプローをチ採用したいと望む農民を Beyond Pesticides は励ましている。農薬のドリフトにより影響を受けている人々は、農薬緊急事態に何をなすべきかに関する Beyond Pesticides のウェブページを参考にし、また追加の情報を得ることができる。同組織に聯絡することができる。

 この記事中で出典不明の全ての見解や意見は Beyond Pesticide のものである。
 出典:Sierra, Journal Star, In These Times


訳注:ジカンバ関連情報
訳注1

オーキシン/ウィキペディア
 主に植物の成長(伸長成長)を促す作用を持つ植物ホルモンの一群。



化学物質問題市民研究会
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