バーモント州 VTDigger, 2021年3月7日
20億ドル(約2,200億円)の和解金
ラウンドアップに暴露した移民労働者は除外

アマンダ・ゴッキー

情報源:VTDigger March 7 2021
$2 billion settlement likely excludes
migrant workers exposed to Roundup
By Amanda Gokee
https://vtdigger.org/2021/03/07/2-billion-settlement-likely-excludes-
migrant-workers-exposed-to-roundup/?ct=t(RSS_EMAIL_CAMPAIGN)


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年3月10日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_21/210307_VTDigger_
$2_billion_settlement_likely_excludes_migrant_workers_exposed_to_Roundup.html



 バイエルは先月(2021年2月3日)、除草剤ラウンドアップががんを引き起こすという将来の法的請求をカバーする20億ドル(約2,200 億円)の和解に達した(訳注1)。

 バーモント州の移民農業労働者は日常的に除草剤にさらされているが、今回の和解は彼らが補償金得るのを妨げる可能性が高いと専門家は言う。

 20億ドル(約2,200 億円)のバイエル和解により、今後 4年間で原告1人あたり 5,000ドル(約55万円)から 200,000ドル(約2,200万円)を支払う基金が設立される。 ラウンドアップへ暴露して、すでにがんを発症している人だけが申請する資格がある。

 しかし、活動家グループ”移民正義(MigrantJustice)”の主催者であるウィル・ランベックは、和解の条件は移民農業労働者が補償を受けることをほぼ不可能にする「主要な排他的要因(訳注:特定の人間、組織、主義主張だけを優遇して他を退けるという意味)」であると述べた。

 ”体内に毒素が蓄積して病気になった人は、症状が現れ始めるまで出身国にいた可能性が非常に高い”とランベックは述べた。

 ”誰かが働くことができない場合、治療を受けるためにバーモントに留まることに固執しないであろう”と彼は述べた。

 ランベックによれば、収入がなければ、労働者がバーモントに留まることは不可能である。

 環境健康と正義を研究しているバーモント大学教授のビンドゥ・パニッカルは、その懸念を繰り返した。 ”農業労働者を雇うときは、健常者を探す”と彼女は言った(訳注:病気になれば雇ってもらえず、収入がなくなるの意)。

 パニッカルは、問題の化学物質は潜伏期間が長いと述べた。 ”あなたががんにかかっていることに気付くまでには、おそらく数年かかるであろう”と彼女は言った。

 パニッカルによると、バーモント州でのグリホサートの使用は、農業労働者のもうひとつの暴露源である地下水供給に影響を及ぼしている可能性がある。

 製薬及び生命科学のドイツの多国籍企業であり、世界最大の製薬企業のひとつであるバイエルとの世界的な和解は、世界中の事件に対処することを目的としているが、多くの移民農業労働者はメキシコ南部の農村地域から来ており、そこでは彼らに情報が届く可能性はほとんどないとランベックは語った。

 バーモント州では、多くの移民労働者が酪農業で働いており、そこではラウンドアップは一般的にトウモロコシに散布されている。移民農業労働者はこの除草剤がまかれる畑の近くに住み、働いている。

 ”バーモント州は環境的にクリーンな状態であると認識されているが、実際にはそうではない”とパニッカルは述べ、化学物質が人間の健康に及ぼす悪影響について酪農業では議論されていないことを指摘した。

 ラウンドアップの使用は農民や隣人に懸念を引き起すが、パニッカルは、職業的暴露は主に畑や納屋で働く人々に降りかかると述べた。

’除草剤にどっぷりつかって’

 バーモント州農業庁によると、ラウンドアップの有効成分のひとつであるグリホサートは 42,125ポンド(約19トン)が2 018年に農地に撒かれ、そのうち約 29,000ポンド(約13トン)がトウモロコシ畑に撒かれた。

 ”我々は除草剤にどっぷりつかっている”と、1995年からグリホサートを研究している独立系環境保護論者であるシルビア・ナイトは述べた。

 グリホサートはバーモント州の農業で最も一般的に使用されているが、それだけではない。グリホサートを主成分として含有するラウンドアップのような除草剤は、林業、高速道路用地、芝生の手入れ、および公益事業の用地にも使用されている。それらは送電線下の用地でも定期的に散布されている。

 ナイトによれば、農業労働者を保護したり、農薬が散布されることを通知したり、あらゆる種類のことを要求したりするための規則はない。ナイトによると、バーモント州の法律では除草剤の使用量を減らすことが求められているが、実際には増えている。

 実際、グリホサートの使用は、農家がグリホサートの使用に耐えられるように遺伝子組み換えされたラウンドアップ・レディ・コーンを使用し始めた2008年から2009年にかけて劇的に急増した。

 州議会の下院議員ジェームズ・マッカロー(民主党−ウィリストン)が導入した法案は、深刻な健康と環境のリスクを伴う別の除草剤であるアトラジンと同様に、グリホサートの使用を禁止することを提案している。欧州連合ではアトラジンは禁止されているが、バーモント州では低コストのこの除草剤の使用が増えている。この法案はまた、ハーバード大学公衆衛生学部が”容易ならぬ”と呼んだ神経ガスである殺虫剤クロルピリホスを禁止するであろう。

 ドイツ、ベトナム、サウジアラビアはすでにグリホサートの使用を禁止している。米国のいくつかの都市はそれに続き、この除草剤の使用を制限している。

 しかし、バーモント州では、この法案に対してこれまで議会でほとんど行動を起こしておらず、ナイトはその見通しについて楽観的ではなかった。

 ”我々の農業システムは現在、グリホサートベースの除草剤の使用に基づいているため、法案がそのまま通過することは疑わしいと彼女は述べた。

’非常に目を見張るもの’

 グリホサートががんを引き起こすかどうかについての合意はない。 2018年にラウンドアップ開発者のモンサントを 630億ドル(約6兆9,300億円)で買収したバイエルは、ラウンドアップががんを引き起こすことを否定している。 2015年、世界保健機関[の世界がん研究機関(IARC)]は、グリホサートはヒトに対する発がん性がおそらくある(グループ 2A )と分類した(訳注2)が、トランプ政権下では、環境保護庁は同意しなかった。

 これらの意見の不一致にもかかわらず、バーモント州法科大学の環境プログラムの副学部長である法律専門家のジェニファー・ラッシュローは、以前の訴訟が今回の和解の基礎を築いたと述べた。 2018年、カリフォルニア州の陪審員は、末期がんを患っていた元学校のグラウンドキーパーであるドウェイン・ジョンソンに2億8,900万ドル(約318億円)を授与した(訳注3)。

 ”陪審員は、ラウンドアップがこの男性のがんを引き起こしたと確信したが、それは以前にはっきりとわからなかった”とラッシュローは述べた。

 ”それは非常に目を見張るものであった。モンサントと法曹界にとって、ここで予想される損害の規模については、私は考えている”と彼女は述べた。

 ラッシュローは、将来のラウンドアップ和解が移民農業労働者に補償すべき理由について書いている。しかし、彼女は、提案された和解は”大したものではない”と言う。

 20億ドル(約2,200億円)は多額のように聞こえるかもしれないが、個々の原告は最大でも 20万ドル(約2,200万円)しか受け取れず、一般にはわずか 5,000ドルしか受け取ることができない。これはジョンソンの場合よりも大幅に少ない金額である。さらに、個人はまた、ラウンドアップが彼らのがんを引き起こしたことを科学委員会に証明しなければならない。

 20億ドル(約2,200億円)の和解は、4年間有効であり、会社に対してまだ訴訟を起こしていない人にも開かれる。

 同社は和解基金についての情報を広めることを約束しているが、正規に登録されていない移民にどのように連絡するかは不明だとラッシュローは語った。

 和解の恩恵を受けることに対する他の障壁には、言語、法廷制度への参入に関する懸念、及び利用可能な保護に関する情報の欠如が含まれる可能性がある。これらの障壁にもかかわらず、移民農業労働者は過去に訴訟により補償を受けたことがある。バーモント州では、米国移民関税執行局(ICE)が移民正義(MigrantJustice)の活動家に嫌がらせをし、意図的に標的を絞った方法で拘束したと主張した 2018年の訴訟の後、”移民正義”は最近、米国移民関税執行局との10万ドル(約1,100万円)の和解に達した。

 今回のバイエルの和解はまだ承認されていない。和解案が最終的に確定するには、サンフランシスコの米国地方裁判所判事ヴィンス・チャブリアが和解案を承認しなければならない。

 ラッシュローによると、その決定までにどのくらい時間がかかるかについて、確立された工程表はない。そして、彼女は、和解案がまったく受け入れられないことがあり得ると述べた。そうなれば裁判を振り出しに戻ることになる。

 ラッシュローにとって、提案された和解は、化学物質にさらされている労働者にとって前向きな展開である。

 しかし、彼女は、”このような化学物質にさらされて病気になった人がたったの 5,000ドル(約55万円)しか得られないのなら、裁判の進行は遅すぎるように感じる”と述べた。

 ”それは正しい方向への一歩であるが、小さな一歩である”とラッシュローは述べた。


訳注1
訳注2
訳注3


化学物質問題市民研究会
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