The Independent 2019年5月18日
モンサント:がん賠償支払いと世界中の抗議は
この農薬会社の終焉の合図か?

モンサントはアスベスト製品製造会社
ジョンズ・マンビルの道をたどるのか?
フィービィー・ウェストン
情報源:The Independent, 18 May 2019
Monsanto: Do cancer payouts and global protests signal the end for this agrochemical company?
Could Monsanto follow the path of the asbestos-containing products manufacturer Johns Manville?
By Phoebe Weston, Science Correspondent
https://www.independent.co.uk/environment/monsanto-protests
-cancer-pay-out-gm-crops-weapons-a8919236.html


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

掲載日:2019年6月6日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_19/190518_Independent_Monsanto_
Do_cancer_payouts_and_global_protests_signal_the_end_for_this_agrochemical_company.html


 5月18日、数百の”反モンサント大行進(March Against Monsanto)”が世界中で行なわれることが予想される。抗議を支える同名のキャンペーン団体は、”モンサントの人道に対する犯罪について世界に知らしめること”を目指している。(訳注1

 数百万の人々をひきつけるそのような行進は今年で8回目である。数十年の間、モンサントは除草剤と遺伝子組み換え(GM)作物の影響について懸念する活動家らにより最悪の悪党とみなされてきた。

 論争は、米国に拠点を置く農業バイオテクノロジー会社が、ベトナム戦争中に米軍により使用されて壊滅的な影響をもたらした化学兵器、エージェント・オレンジの主要な供給者となった1962年に始まった。

 1974年にモンサントはラウンドアップを市場に出した。有効成分としてグリホサートを含むその除草剤は安全に雑草を枯らすことができると宣伝されたが、それ以来その主張は世界的な議論を引き起こした。その除草剤は世界中で使用され、会社に毎年数億ドル(数百億円)の収益をもたらしている。

 1996年、モンサントは GM 作物を栽培する最初の会社のひとつになり、今日、全市場の約 90%を占める遺伝子組み換え種子の世界最大生産者となった。

 しかし、2015年に小さいが極めて重要な判断が世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)によってなされた。すなわち IARC は、グリホサートは、”ヒトに対する発がん性がおそらくある (Probably carcinogenic to humansv((Group 2A))”であると評価した

 これは、その除草剤への暴露が自分たちのがんを引き起こしたと主張する人々に怒りのはけ口を開いた。世界中の農民、造園業者、及びグランド整備員らが、その除草剤が彼等や彼らの愛する人々を病気にしたと主張した。最初の一人はカリフォルニアの運動場整備員のドウェイン・ジョンソンで、サンフランシスコの陪審員は彼は末期がんを患っているとしてモンサントから 2憶8,900万ドル(約318憶円)に支払うようモンサントに命じた。(訳注2

 先週、カリフォルニア州陪審団は同社に対する最大の一撃、ラウンドアップのためにがんになったと主張する夫婦に 20億ドル(約2,200憶円)の支払いを裁定した。

 原告らは、同社が彼らにその除草剤のがんリスクを警告することを怠ったと述べている。モンサント側の弁護士はその除草剤は安全であると言い、同社に対する訴訟は”論理的根拠の乏しい科学(ジャンク科学)”に基づいていると述べている。

それでは誰が正しいのか?

 ラウンドアップには”発がん性がおそらくある”という事実は、それがこれらの各原告のがんを引き起こしたということを意味するものではない。2017年に、欧州食品安全委員会もまたグリホサートを審査し、実際の暴露レベルは公衆健康へのリスクを示さなかったと言った。

 コネチカット大学のリチャード G. スティーブンス教授によれば、この研究は国際がん研究機関と同じ証拠の多くを考慮したが、それを違ったふうに解釈した”。がんの”特定の原因”は、ほとんど証明することはできないとスティーブンス教授は 『The Conversation』 の記事に書いた。

 ”大量喫煙は肺がんのリスク高めるが、生涯非喫煙者であっても時には肺がんになることがあるので、個々の喫煙者の肺がんを喫煙のためと証明することはできない”と彼は述べた。”個々のがんの具体的な原因を特定するための信頼できるラボ・テストはない”。

 しかし、モンサントはまた、科学的論文に疑義のある掛かり合いを持っていたことを見つけられた。原告らは同社が”ラウンドアップは安全であると政府機関、農民および一般公衆を説得するために意図的な誤報キャンペーンを延々と行っていた”と主張した。

 モンサントは、グリホサートは発がん性がおそらくあることを見出した2015年の IARC 論文に反論するひとつの科学的レビューに関係があった。モンサントの科学的公開物における未申告の掛かり合いについて他の多くの事例が明らかになってきた。

 学者らのあるものは、モンサントは悪い評判のために後で痛い目にあったと信じている。”モンサントと遺伝子組み換え生物に対する敵意が、最近の陪審の決定に科学をはるかに超えて影響を及ぼしたかもしれないということはあり得ることである”と アデレード大学(オーストラリア)のイアン・マスグレーブ博士は述べた。ひと目を引く裁判の結果として、ロサンゼルス郡は明確な証拠が利用可能になるまで、ラウンドアップの使用を禁じた。

 スティーブンス教授によれば、モンサントは現在、1880年代にアスベスト含有製品の製造を開始したジョンズ・マンビル社の道をたどる可能性がある。”多くの疫学的研究がアスベストへの暴露が非常に高い確率で肺がん−主に腹膜中皮腫−を引き起こすことを示し、多くの訴訟が起こされた後、同社は1982年に(事実上)倒産した。”同社の資産はマンビル基金”として再編されたが、それはアスベストにより被害を受けた人々への賠償金にあてられている”と彼は述べた。(訳注3

 モンサント訴訟がどのような影響を持つのか、ラウンドアップの使用に急激な変化をもたらすのかを知るのは時期尚早である。

 しかし、同社の販売の70%は、 1,700 の特許種子に由来する。アメリカではトウモロコシ、大豆、綿花、及びてんさいの90%が遺伝子組み換えである。これらの大部分はモンサントの特許種子から栽培されている。

 同社の除草剤については懸念があるが、遺伝子組み換え作物については急増する世界の人口に食料を供給するために、その需要は増えているらしい。したがって、この農薬の巨人が解体されるということは、当面ありそうにない。


訳注:関連情報
How Monsanto manipulates journalists and academics By Carey Gillam (The Guardian, 2 Jun 2019 by Carey Gillam)

訳注1
反モンサント・バイエル世界同時アクション @東京
Thousands gather in France, worldwide for annual march against Monsanto (France 24, 19/05/2019)

訳注2
The Guardian 2018年8月11日 一人の男の苦難がモンサントの秘密を暴露

訳注3
ワークショップ D:アスペスト訴訟 2004年世界アスベスト東京会議 ジョンズ・マンビル社に対する補償請求/遠藤直哉(弁護士、桐蔭横浜大学法学部[日本])

訳注:参考情報


化学物質問題市民研究会
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