社会的責任を求める医師たち(PSR)
CDC 2005年暴露報告書のPSRの主要な検討結果
CDC 2005年報告書の手引き


情報源:Physicians for Social Responsibility
PSR's Key Findings from the 2005 CDC Exposure Report
A brief companion to CDC's 2005 National Exposure Report
http://www.envirohealthaction.org/environment/biomonitoring/articles.cfm?article_ID=224
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年3月27日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/psr/psr_cdc2005report.html

 ”我々は我々自身の巣を汚してしまった”−と小児科医師であり、「社会的責任を求める医師たち(Physicians for Social Responsibility (PSR))」のメンバーであるジェリー・ポールソン博士は、最近、米疾病管理予防センター(CDC)が発表した”ヒトの環境化学物質暴露に関する第3回報告書”について述べた。


 米疾病管理予防センター(CDC)の2年毎の「ヒトの環境化学物質暴露に関する全国報告書」は、ヒトの血液と尿サンプル中の化学物質濃度の測定を示している。このシリーズは、アメリカ国民を代表するサンプルの体内に見出される環境汚染物質とその他の化学物質を報告した2001年のCDCの画期的な取組がその源である。これらの報告書は人々が暴露している化学物質のタイプと量の”スナップショット”を与えてくれる。暴露は、産業からの排出、有害廃棄物処分場、汚染食物、タバコ又は薪燃料の煙、及び化石燃料の燃焼に由来する。

 科学者や医療専門家らはヒトの体内に見出される産業化学物質の多様さに懸念を表明していた。”我々は我々自身の巣を汚してしまった”−とポールソン博士は新たに発表されたデータをレビューした後にコメントした。彼は、”我々は環境を十分に汚染したので、子どもも大人も全ての人々の体内に潜在的に有害な物質を測定可能な量で持つようになった”−と説明した。

 CDCは今回の報告書では148種の異なる化学物質の汚染レベルを測定した。PSRはそれらのデータを検証し、我々の健康に対する最も著しい影響を示す11項目を主要検証結果として洗い出した。
  • 妊娠可能年齢の女性18人のうち約1人は、米環境保護庁(EPA)によって設定された安全基準である 5.8μg/L 以上のレベルでメチル水銀が検出された。水銀はアメリカでは主に石炭炊き火力発電所から排出され、水に堆積し、有機物質との混合によりメチル水銀に変換され、魚に摂取される。ヒトは魚の摂取を通じてメチル水銀に暴露する。

  • 平均鉛濃度はほとんどの集団で減少し続けている。鉛のレベルはCDCが1990年代の初期に設定した基準濃度と比べて、特に鉛暴露によって神経系発達脅かされる1歳から5歳の幼児において、著しく低くなっている。

  • 平均コチニン(ニコチンの代謝物)濃度は、CDCが1990年代初期に収集したデータに比べて低い。濃度は3歳から11歳の子ども、及び非ヒスパニック系黒人集団において相対的に高い。

  • アメリカ人20人に1人以上が、カドミウムを有害なレベルで持っている。その主要汚染経路はタバコの喫煙である。

  • 多くの一般的な蚊の防除剤中の活性成分であるディートはヒトのサンプルの10%以上から見出され、特に6歳から11歳の子どもの濃度が高かった。報告書によれば、”ディートへの過剰な暴露による有害影響はよくわからない。”

  • 1973年にアメリカでは禁止された農薬であるDDTの派生物DDEがヒトのサンプル中で見つかっており、メキシコ系アメリカ人は非ヒスパニック系白人より2.5倍以上高かった。メキシコでは最近までDDTは禁止されていなかった。

  • ピレスロイド系殺虫剤(特にゴキブリ用殺虫剤 Reid(商品名)で用いられているペルメトリンが最も有名)は国民の76%に検出された。ピレスロイド系殺虫剤の健康影響について多くは知られていないが、新たなCDCの調査結果では暴露が広範に及んでいることを示している。

  • クロルピリホスはヒトのサンプルの50%以上で検出され、6歳から11歳の子どもたちの濃度が高かった。クロルピリホスは、ヒトの神経系を損なう農薬である。主に食物摂取を通じて暴露が起きる。クロルピリホスは2000年に住宅での使用は禁止されたが、報告書によれば、”年間1,000万ポンド(約4,500トン)が農業用に散布されている。”

  • 化粧品、ピル、軟化プラスチックなどに含まれる化学物質のグループであるフタル酸エステル類は胎児及び幼児のホルモン系及び生殖器発達に影響を与える可能性がある。CDCによってテストされた12種のフタル酸エステル類のうち、11種は大人よりも子どもの方が濃度が高かった。濃度はまた、男性より女性のほうが高く、フタル酸エステル類が胎児の発達を損なう可能性を生み出している。

  • CDCによってテストされた多環芳香族類(PAHs)23種類全てがヒトのサンプルから検出された。多環芳香族類(PAHs)の発生源は、産業汚染物質(自動車排ガスと石炭炊き炉)であり、時には自然の汚染物質(火山の噴火及び山火事)である。報告書によれば、”暴露は大気、水、土壌、及び食物を通じて起こる。”それらはDNAと作用し、がんと関連があるかもしれないが、多環芳香族類(PAHs)の正確な暴露影響については多くは知られていない。

  • 2005年CDC暴露報告書は、臭素系難燃剤(PBDEs)、テフロン中に見出される過フッ素化合物(PFOA)、過塩素エステル(訳注1)、及びビスフェノールAなどの新規化学物質の多くに関する報告がない。CDCはこれらやその他のの新規化学物質に関するデータを収集しており、それらを2007年報告書で報告することが期待されている。



訳注1:
過塩素エステルは固形ロケット燃料中の爆発性成分であり、少なくとも全米35州で飲料水と土壌を汚染していることが問題となっている。汚染のほとんどは軍の基地及び軍需産業の施設からの汚染であるとされている。
参照:EWG プレスリリース 2006年3月3月 ホワイトハウス 調査結果の発表を遅らせる 有毒ロケット燃料 ほとんどのアメリカ人の体内を汚染

訳注2:
参照:米疾病管理予防センター(CDC)ヒトの環境化学物質暴露に関する第3回報告書 2005/エグゼクティブ・サマリー



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