レイチェル・ニュース #765
2003年3月20日
サンフランシスコ市
予防原則を市の政策として採用

ピーター・モンターギュ
Rachel's Environment & Health News
#765 - San Francisco Adopts the Precautionary Principle,
March 20, 2003
by Peter Montague
http://www.rachel.org/?q=en/node/5656

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2003年6月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_03/rehw_765.html


2003年6月18日発行

 サンフランシスコ市評議会は市及び郡の政策として2003年6月17日、予防原則をとり入れた。これは、アメリカの環境政策における全く素晴らしい、前例を見ない快挙である。8対2の投票で採択された。

 6月17日の投票結果に至るまでの長い道のりの端緒は、サンフランシスコ市長ホワイル・ブラウンがジェアード・ブルメンフェルドを市環境局長に起用したことにある[1]。ブルメンフェルドの指導のもとにサンフランシスコ市当局は、予防原則を市及び郡の政策にどのように織り込むかについて2年以上にわたり研究し、議論を尽くしてきた。
 サンフランシスコの政策に予防原則を取り入れるための政策立案者たちを招聘したのはブルメンフェルドである。

 しかし、予防原則を市政に実現するという夢の第一歩は、一人の乳がん患者、『乳がん基金(Breast Cancer Fund)』 のジョアン・ラインハルド・レイスにより始められていた。少なくとも3年前に彼女は、アメリカにおける予防原則の指導的提唱者である『科学と環境健康ネットワーク(Science and Environmental Health Network)』のキャロライン・ラッフェンスパーガーに電話した。レイスはまた、弁護士サンフォード・ルイスに連絡をとった。彼は政策の予備的原案を作成した。種はまかれた。

 初期の時点から、『環境健康センター(Center for Environmental Health)』のキャシー・シルバーマンはレイスと活動をともにし、サンフランシスコ市に予防原則の採用を働きかけた。2001年、レイスとシルバーマンはラッフェンスパーガーをブルメンフェルド環境局長に紹介した。動輪が力強く回り始めた。
 レイスとシルバーマンは『公共福祉(Commonweal)』のデービス・バルツの参加を得た。彼らは、湾岸予防原則作業部会を立ち上げた[2] 。

(中略:この運動に参加した多くの人々の紹介)

 環境局長ジェアード・ブルメンフェルドがサンフランシスコ市政の内部で予防原則を展開し、湾岸予防原則作業部会は非政府組織(NGO)諸団体との協力関係をつくり上げ、ブルメンフェルドらが作り上げた草案を吟味し、意見を述べた。
 サンフランシスコ市の予防原則に関する白書は、予防原則に関して今日、得られる最良の文書である。[4] White Paper - The Precautionary Principle and the City and County of San Francisco" (March, 2003)
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訳注:下記の当研究会日本語訳をご覧下さい
白書−予防原則とサンフランシスコ市及び郡−
 T.なぜ今、予防措置か (Why precaution now?)
 U.予防原則の歴史 (History of the Precautionary Principle)
 V.有機的な原則としての予防措置 (Precaution as an organizing principle)
 W.予防措置と経済性 (Precaution and economics)
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 NGOとサンフランシスコ市当局の双方は、『科学と環境健康ネットワーク(SEHN : Science and Environmental Health Network)』に対し、戦略的思考方法、表現及び支援に関し、しばしば協力を求めた。
 SEHNのスタッフであるナンシー・マイヤーズ、テッド・シェトラー、及びキャロライン・ラッフェンスパーガーはサンフランシスコ市が目標を実現するまでに多大な労力をもって協力した。
 しかし、最後は、NGO諸団体が連合した草の根運動の勝利であった。協力したNGOの一部を列挙する。(アルファベット順)

Bayview Hunters Point Community Advocates (San Francisco), Breast Cancer Action (San Francisco), The Breast Cancer Fund (San Francisco), Center for Environmental Health (Oakland), Citizens for a Better Environment (CBE, San Francisco), Clean Water Action (San Francisco), Commonweal (Bolinas and Oakland), Consumer Action (San Francisco), Environmental Research Foundation (New Brunswick, N.J.), Green Action (San Francisco), Physicians for Social Responsibility (San Francisco and Los Angeles chapters), Redefining Progress (Oakland), The San Francisco Foundation, Science and Environmental Health Network (Ames, Iowa), Urban Habitat (Oakland), and The Women's Cancer Resource Center (Oakland).

 あなたがこのサンフランシスコ市の政策を読んだ時に、もし自分の住む自治体も予防原則を公式に政策としてとり入れてくれるなら、自分の運動がやりやすくなると、あなたは考えるであろう。
 もしそうなら、自分の自治体に対するキャンペーンに着手しよう。



サンフランシスコ市の予防原則政策 (抜粋)


第1章 予防原則政策に関する声明

第100節 成果

市評議会は下記について成果として得たことを宣言する。

A すべてのサンフランシスコ市民は健康で安全な環境に対する平等な権利を有する。このことは、我々の大気、水、土壌、そして食物が十分に高い品質にあり、個人や共同体が健康で、満足のできる、そして尊厳の保たれる生活ができることを意味する。
 サンフランシスコの環境を高め、保護する責務は、市当局、住民、市民団体、そして産業界の肩に等しく、かかっている。

B 今までは、環境的に有害な行為は、それらが環境を著しく破壊する、あるいは人間に被害を与えることがはっきり証明された場合にのみ、中止された。例えば、DDT、鉛、アスベストなどの場合、実際に被害が出てから規制措置がとられた。有害であると最初にわかってから、それに対する適切な措置がとられるまでに時間がかかれば、それだけ人間の命を縮めることになる。

C サンフランシスコ市は最も環境に害を与えない代替案を選択し、それによりリスク評価についての従来の仮説に挑戦するリーダーである。統合害虫駆除条例、資源効率建築条例、健康大気条例、資源保護条例、環境適合購買条例、など多くの市の条例において、特定の市の購買や活動に対し予防的措置を適用する。国際的にはこのモデルは予防原則と呼ばれている。

D 市が既存の環境関連法規類を一つの環境法規に統合し、新しい法の枠組みを構築するにあたって、より健康的でサンフランシスコ市にふさわしい法にするために、市は予防的措置を取り入れる。それにより、市は、現在及び将来の世代のために健康で存続可能な湾岸地域の環境を作り出し、維持し、そして持続可能なモデルになるであろう。

E 科学及び技術は環境問題を防ぎ、軽減する新たな解決の道を見出してくれる。しかし一方で科学は、例えば母乳に入り込み新たな問題を引き起こす化学物質も作り出している。
 新しい法律はこのような情況を注意深く見る必要がある。予防原則は、新技術がもたらす負の、あるいは意図しない結果を排除し、環境的に健康な代替案を推進する助けとなる道具として意図されている。

F 予防的措置の真髄は、現在得られる最良の科学技術を用いて可能な代替案を注意深く評価することにある。代替案の評価では、異なる選択によって得られる異なる結果を人々に提示するために、選択肢を幅広く検証する。短期的及び長期的な影響またはコストの検討、各選択肢の有害な影響の評価と比較、本質的に有害性が少ない”何もしないこと”を選択するかどうか、などである。
 この代替案を検証するというプロセスによって基本的な問いかけに立ち戻ることができる。「この本質的に危険性をはらむ行為は本当に必要なのであろうか?」 そして 「どこまで被害を最小に抑えることができるのであろうか?」

G 代替案評価の過程は公開されなければならない。なぜなら、地域であろうと国際的であろうと人々は環境政策の決定が及ぼす生態的あるいは健康に関わる結果の影響を被るからである。
 広く人々が参加することで、多様な個人や団体からの情報に基づいて、あらゆる代替案が検討されるので、政府の施策はより強固なものになる。
 人々が検討されるべき代替案の範囲を決めること、及び短期長期の利益と不利益とともに道理に合った特定の代替案を提案することが可能となるようにしなければならない。

H この政策決定の公開という形は、市民が立法過程をつぶさに見ることを可能にするサンフランシスコの歴史的なサンシャイン条例と整合するものである。
 予防原則の目標の一つは、その政策決定が環境に及ぼす影響に関係ある市民を対等なパートナーとして参加させることにある。

I サンフランシスコ市は、市のエネルギーが再生可能な資源から生成され、我々の全ての廃棄物がリサイクルされ、我々の車が飲める水だけを排出し、湾岸から有毒物質がなくなり、そして海から汚染がなくなる時が来ることを期待している。
 予防原則は、輸送、建設、土地利用、水計画、ネネルギー、健康・介護、娯楽、購入、歳費等の領域において、将来の法律と政策を評価する時に、我々がこれらのゴールに到達するのを助ける手段を提供するものである。

J これらの目標を実現するために我々の社会を変革し、自然との境界を越えずにつつましく生きる社会を実現するためには、技術的革新とともに節度のある振る舞いが必要である。
 政策決定を行なう上で予防的措置を取り入れることで、サンフランシスコ市が環境病の治療法を見つけるという政策から環境病を防ぐという政策に切替えるスピードを上げることができる。

第101節 サンフランシスコ市予防原則

 下記をもってサンフランシスコ市及び郡の予防原則政策を構成する。市及び郡のすべての職員、評議会、委員会及び部局は、市及び郡の業務を遂行するにあたって、予防原則を実施しなくてはならない。

 予防原則では、広範囲な代替案について徹底的な調査と注意深い分析を行なうことが要求される。予防原則では、最良の科学を駆使して人間の健康と市の自然に与える脅威が最も少ない代替案を選択することが求められる。市民参加と透明で開かれた政策決定プロセスが代替案の発見と選択に欠かせない。

 甚大なあるいは取り返しのつかない被害を人や自然に与える恐れがある場合には、因果関係についての科学的確実性が十分ではないということを理由にして、環境破壊への措置や市民の健康保護の措置を遅らせてはならない。
 代替案の検証によって見出された科学的データの不一致は将来の研究の課題になるであろうが、市によって現在とられている予防的措置を妨げてはならない。
 新しい科学的データが有効になったなら、市はその採用を検討し、正当性があれば必要な調整を行なう。

 正当な根拠がある懸念に対し、政策決定に予防原則を適用することで、潜在的危険性の最も少ない代替案を選び危険性を減少させることができる。
 政策決定における予防的措置の重要な要素として、下記を挙げることができる。
  1. 先行措置
    危険を防ぐために先行措置をとる責務がある。市当局、産業界、及び共同体は、一般市民も含めて、この責務を共有しなければならない。
  2. 知る権利
    共同体は、製品、サービス、運用、計画に関連する人間の健康と環境への影響について、完全で正確な情報を知る権利がある。この情報提供の義務を負うのは計画を実施しようとする当事者であり、一般市民ではない。
  3. 代替案の評価
    全ての代替案を検証し人間の健康と自然に対し最も影響の少ない案を選択する義務がある。何もしないという代替案も選択肢に含まれる。
  4. 全コストの勘案
    潜在的な代替案を評価する時には、原料、製造、輸送、使用、手入れ、最終的廃棄、及び健康に関わる全てのコストを、例えそれらが当初の価格に含まれていなくても、勘案する義務がある。政策決定にあたっては短期的及び長期的なしき値を検討しなくてはならない。
  5. 市民参加決定プロセス
    予防原則を適用する政策決定においては、透明で市民参加型であり、最良の情報が提供されなくてはならない。
第102節 3年後の検証

 この法令が発効した後及び公聴会の後、3年以内に、環境委員会は評議会に対し予防原則政策の有効性に関する報告書を提出しなくてはならない。

第103節 全環境関連法令と決議のリスト

 環境局長は、サンフランシスコ市及び郡の全ての環境関連法規と決議のリストを作成し維持しなくてはならない。このリストは環境局のウェブサイトに掲載されなくてはならない。

第104節 福祉向上のみへの限定的責務

 健康や環境に影響を与え、特に重大な危害や取り返しのつかない被害を及ぼす可能性のある行為がとられる時には、全ての市職員と幹部が予防原則を考慮し代替案を評価するよう評議会は督励する。
 しかし、この法令は市職員と幹部に対し特定の行動をとるよう義務を課すものではない。この法令を採用し実施するにあたり、サンフランシスコ市と郡は一般福祉の向上だけを引き受ける。市当局は、市職員または幹部に義務を課すことは考えていない。不履行のために危害を被ったと補償を要求する人に対する一切の金銭的責務はない。またこの法令は職務執行令状あるいは裁判所の強制命令などの法的措置をともなうものではない。

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[1]See http://www.sfgov.org/sfenvironment/aboutus/director.htm .
[2] See http://www.breastcancerfund.org/pp_main.htm .
[3] See http://www.breastcancerfund.org/pp_precaution.htm .
[4] "White Paper - The Precautionary Principle and the City and County of San Francisco" (March, 2003). See http://www.breastcancerfund.org/pdfs/white_paper.pdf .



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