白書
予防原則とサンフランシスコ市及び郡
2003年3月
V.有機的な原則としての予防措置

情報源:The Precautionary Principle and the City and County of San Francisco March 2003
III. Precaution as an organizing principle
http://www.sfenvironment.com/aboutus/policy/white_paper.pdf
訳:安間 武 /(化学物質問題市民研究会
掲載日:2003年7月2日


V.有機的な原則としての予防措置

 地方や地域での予防措置に関する取り組みはまだ初期の段階である。サンフランシスコの予防原則を取り入れた環境法の採用及び特定の実施政策は、他の自治体が予防措置を環境政策においていかに統一原則として用いるかのよいモデルとなるであろう。この原則は支配的な指針として用いられる時に、最も威力を発揮する。

 予防原則で実現される主要なことは危険に対する警戒であり、例え、科学的な不確実性があったとしても、次にタイムリーな行動を促がす。しかし予防原則だけでは環境と人間の健康を守るための政策にはつながらない。前述した多くの事例が示す様々なプロセスや行動規範が実施における参考となる。それらは有機的に絡み合っている。

A.民主主義と透明性

 危険に対し未然防止措置(preventive actions)をとるということは、誰かがその危険がどのようなものであるかを決定しなくてはならない。倫理的であり政治的であるそのような決定には、その危険を被るであろう人々が参加しなくてはならない。従って、透明性 (開放性と説明義務) と参加方式による政策決定の仕組みが重要となる。

B.予防的政策決定を支援する科学

 科学ではなく社会が政策に対する最終的な裁定者であるが、有効な科学は予防的政策にとって重要である。予防的科学のいくつかの特性は下記のようなものである。
  • 不確実性のもとでとられる未然防止措置(preventive action)においては、科学的な不確実性があるという認識を持つことが要求される。このことは透明で民主的な政策決定にとっても重要な事柄である。
  • 民主的なプロセスのような予防科学(precautionary science)は、できる限り多くの情報源からの情報収集と使用を前提とする。
  • 予防原則は複雑なシステム、それらの相互作用、及びその結果に関する科学的調査を奨励する。
  • 予防原則は、環境状態及びその変化の監視、危険に対する早期の報告、そして技術、プロジェクト、製品の影響に対する注意深い追跡が重要としている。
  • 予防原則は、生態学的に健全な技術の革新を支持している (Ackerman and Massey 2002)。

C.代替案の評価

 もし危険性がありうる製品や技術の必要性が疑わしいなら、あるいは、より安全な代替案があるのなら、社会はより良い代替案を選択することができるに違いない。
 単一の提案あるいは技術のメリットだけを評価すると、その行為は危険な影響を伴うかのどうか、どのくらい危険なのか、どの程度の危険なら許容できるのか、というような危険に対する視野の狭い問題提起に終わる。このような問題提起は結局、どのような行為も、もし危険性が高度の確実性をもって示されない限り許容できるという結論に容易に導くこととなる。
 リスク評価手法の本質は、”どのくらいの危険なら許容出来るか?”ということである。
 単純な比較を行なうことで、新たな問題が提起される。
  • もし他に代替案があるならば、これだけが本当に必要なのか?
  • なぜこのことをしようとしているのか?
  • これは最良の方法か?
  • いろいろな代替案で誰が利益を得るのか?
  • 誰がその危険の対価を払い、誰がその危険から被害を受けるのか?
  • 代替案によって、いかに被害を回避し、あるいは軽減できるのか?
  • 新たな科学によって、現在の実施方法を再評価する必要はないのか?
 サンフランシスコ市が、”環境的に望ましい購買条例”や”統合害虫駆除プログラム”で実施したように、代替案を評価する機会をもっと設ければ、その後、社会が危険な技術に巻き込まれる可能性は少なくなる。
 代替案を評価するということは、同じ様な選択肢の中から最良のものを選ぶというだけではなく、より大きな問いかけに立ち戻り、それについてよく考えることである。 − どのようにして最も安全で、もっとも栄養のある食品を作るか? 水と殺虫剤に依存する庭の芝生に替わる造園の代替案は何か? 代替案の評価を進めることで環境的に持続可能なプロセスと技術の開発を促進することになる。

D.責任所在の移行

 未然防止措置(preventive action)は、もし技術やその実施が ”有罪であると証明されない限り無罪” という危険を及ぼす側の論理に立つ限り成り立たない。このような仮定に基づくと、措置がとられる前に取り返しのつかない被害が起きることをしばしば許す。従って技術やその実施の企画者や提案者は、製品、プロジェクト、あるいは技術の安全性を実証し、維持し続ける責任を負わなくてはならない。
 透明性をもって事業を行い、製品の成分を完全に開示することはこの責任の重要な一部である。

E.目標

 目標を設定することは重要な予防メカニズムである。目標が設定されると、それに合わせて行動が修正される。目標が設定されることで、製品、技術、プロジェクトに関する政府や市民を含む企画者、使用者、関係者の責任が明確になり、各人は不適切な詮索や重箱のすみをつつくような管理をすることなく、説明責任を負うことが出来る。
 目標の設定は、クロロフルオロメタン(CFCs)の廃止や地球温暖化防止の努力といった国際的な条約や交渉において、主要な遂行手段である。スウェーデンは、危険であるとの証明がなされるかどうかに関わらず、母乳中から検出される全ての残留性有機汚染物質を排除するという目標を設定した。

 カリフォルニア州では、生物学的監視を通じて見出される化学物質による体の負荷を軽減すること、あるいは喘息やがんの発生を削減することが、予防的政策を要する目標として設定される可能性がある。

F.その他の予防的措置の機会

 好ましい予防的政策はこれらの全ての要件に基づくが、多くの政策や行為はこれらの要件の一部をある程度、実現している。包括的な政策が、環境と人間の健康及び安寧を目指した目標に導かれており、また責任と配慮の倫理に基づいている限り、行為の広い範囲が予防的となりうる。

 予防措置はそれだけ単独では機能しない。積極的なそして微妙なことであっても多くの措置を、技術やプロセスの開発段階や実施の段階の多くの時点でとることが出来るし、とらなくてはならない。それにより禁止や延期措置の必要をなくすことができるかもしれない。
 クリーン製造、すなわち廃棄物を最少にする、有毒物質の使用や排出をなくす、などは常に重要な予防的議題である。

 予防原則は、人間と環境に対する危険から守り、行為の結果についてもっと知り、適切に振舞うことに貢献する多くの行為、法律、政策に対していつでもドアーを開いている。この原則は不確実性の中で、より賢い政策決定を行なうための指針である。 (訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会)

他章の日本語訳については下記をご覧ください。
 T.なぜ今、予防措置か
 U.予防原則の歴史
 W.予防措置と経済性

サンフランシスコ市の予防原則採用については、レイチェル・ニュース#765をご覧下さい。


化学物質問題市民研究会
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