白書
予防原則とサンフランシスコ市及び郡 2003年3月 U.予防原則の歴史 情報源:The Precautionary Principle and the City and County of San Francisco March 2003 II. History of the Precautionary Principle http://www.sfenvironment.com/aboutus/policy/white_paper.pdf 訳:安間 武 /(化学物質問題市民研究会) 掲載日:2003年7月2日 U.予防原則の歴史 A.国際法における新たな原則 1980年代、必ずしも科学的確実性はないが前例のない環境変化の証拠が積み上げられていく情況において、予防措置 (precaution) の概念が国際的な環境協定の中に現れ始めた (参照:Raffensperger and Tickner 1999, AppendixB )。例えば:
リオ宣言の後、予防原則 (Precautionary Principle) は国際法における新たな原則として、認められるようになった。例えば:
1980年代及び1990年代の国際的環境条約において、予防原則は一般的指示あるいは指針としての原則であった。しかし2000年に交渉が行なわれた二つの条約で、予防原則は初めて強制力のある措置として適用された。
”予防原則”という言葉はドイツ語の Vorsorgeprinzip の訳で、1970年代、ドイツ国民の間に高まった環境汚染に対する懸念、すなわち、火力発電所の排煙が酸性雨及び急速な森林破壊(Black Forest)と関係があるのではないかという疑いが生じた時に、ドイツの環境法と政策の中で発展した基本的な原則であった。 ドイツ国民は、健全な経済と持続可能な環境が共存できるドイツの将来のための新技術の急速な開発を望んだが、同時に、ドイツの環境を保護するための未然防止措置(preventive measures)を歓迎した(von Moltke 1988)。Vorsorge は文字通り、事前の保護(forecaring)を意味する。この言葉には”先見”と”準備”の意味があり、単なる”警告”ではない。それは、環境技術におけるリーダーとしてのドイツ発展の基礎となった。 危険物質の代替などを含む同様な原則が以前からスウェーデンとデンマークの国家政策に適用されている。リオ・サミット後、オーストラリア、ニュージランド、イギリス、オランダなど多くの国々が予防原則を法律と政策決定のベースにし始め、時には法廷においてもこの原則を引用し始めた。 D.アメリカにおける予防原則 アメリカも予防原則を含む国際条約に署名している。例えば、オゾン条約やその他の環境議定書、1992年リオ宣言 (先代ブッシュ大統領が署名)、ストックホルムPOP's条約 (2001年に現ブッシュ大統領が署名)。さらに、
残念ながら、アメリカの環境政策において、予防的行為(precautionary action)は法律原則ではなく、規則の例外であった。むしろ、予防的な意図や本質をもった法律さえ、歪曲され、無視され、十分に実施されることがなかった。例えば、職業安全衛生条例(OSHA)を適切に施行するには検査員が少な過ぎる。絶滅危険種条例は重大な危機が実際に起きた時にだけ実施されている。 E.予防的行為を支える他の法的概念 これらの法律や政策以外に、アメリカの法律における少なくとも他の二つの重要な要素が予防的行為(precautionary action)を支えている。 知る権利法 は政策決定における透明性に役立っており、予防原則を実施する上での主要な要素である。例えば、
公共信託の原理 (Public Trust Doctrine) はアメリカの州法廷で認知されている判例法における教訓である。公共信託の原理の下では、州は天然資源を公共と将来の世代のために保護しなくてはならない。例えば、カリフォルニア州最高裁は1983年に公共信託 (public trust) を ”川、湖、干潟にある人々の共通の遺産を保護することは州の義務であると宣言すること” と定義している。 予防原則と公共信託の原理は、公共の財産を守るという同じ倫理的基盤を共有している。公共信託の原理は州に偉大な財産として天然資源を保護する義務を与えており、予防原則及びその実施手段はその義務を実行するための方法を提供するものである。 F.州及び地方びおける予防原則 予防原則はアメリカにおいては1998年、ウィスコンシン州ラシーヌのウィングスプレッドでの会議の後に初めて公に導入された。この会議で出された声明が、本白書の冒頭に引用されている。 その声明では、科学的確実性が完全に満たされていなくても危害を守るために実行に着手するとする原則と、その原則を実施するための主要な方法、すなわち、民主的なプロセス、代替案評価、責任の移行、目標設定、とを初めて結びつけた (第V章参照) (Raffensperger and Tickner 1999)。 それ以来、地域と政府機関は、予防原則を検討し、州と地方の政策、法律、条例に明示的に導入するようになった。例えば、
カリフォルニア州のいくつかの法律は、予防的な意図を実現しているが、連邦政府あるいは国際的な法律や政策と同様に、本来の予防的手法よりも後退して解釈されたり実施されている。 1) カリフォルニア環境品質条例 1970 1970年、州議会は、予防措置立法の素晴らしいサンプルであるカリフォルニア環境品質条例(CEQA)を成立させた。CEQAの主要な目標は現在及び将来の環境を保護し、良好に保つことである。CEQAの下では、プロジェクトの提案当事者は、そのプロジェクトが環境に対し重大な影響を与えるかどうか、そして重大で有害な影響を与える場合には、その影響を最小にするあるいは除去するための実行可能な代替案(それにはプロジェクトを実施しないという代替案も含む)とともに、環境影響報告書の作成が必要かどうかを決定するために、公共機関からの承認を得なければならない。 2) 提案65 安全な飲料水と毒性条例 1986 1986年に有権者主導で立法化された”提案65”では、事業者は、製品あるいは排出物中に発がん性あるいは生殖毒として知られる化学物質が含まれる場合には、それらの製品あるいは排出物に対する環境または職場での暴露に対し、決められた記述による警告をしなくてはならない。 提案65はまた、これらの化学物質が飲料水中に混入することを禁じている。この警告要求により、消費者、作業者、その他は、彼らの購入または行為に関し選択する機会が与えられる。 警告を出すという要求は、事業者に製品を替えさせるか製造や排出をやめさせることを意図したもので、これによりこのような警告をしなくてもすむようにしようとするものである。 提案65はまた、政府がこの法律の履行を怠った場合には、市民は政府に対し法を実施させるよう法的措置をとることを認めている。 G.サンフランシスコにおける予防措置の判例 予防原則は、サンフランシスコですでに実施されている多くの政策を支える統一された一つの概念である。下記に示すものは人間の健康と環境を保護するために立法化された市の条例であり、政策決定における代替案手法を取り入れている (参照:the Appendix “Resolutions Adopted/Proposed by the Commission on the Environment” for relevant resolutions adopted by both the Commission and the Board of Supervisors.)。
訳注: 項目番号としてのF,項のダブりはオリジナルの白書の中でのダブりです。 他章の日本語訳については下記をご覧ください。 T.なぜ今、予防措置か V.有機的な原則としての予防措置 W.予防措置と経済性 サンフランシスコ市の予防原則採用については、レイチェル・ニュース#765をご覧下さい。 |