2012年10月23日 NGOs/労組共同声明
欧州委員会のナノ物質に関する
第二次規制レビューへの
欧州利害関係者の反応


情報源:Stakeholders' Response to the Communication
on the Second Regulatory Review on Nanomaterials
Brussels, 23 October 2012
http://www.etuc.org/IMG/pdf/Nanomaterials_joint_letter_23_10_2012_ETUC.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年10月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ngo/121023_NGOs_Response_to_EC_on_Nano.html

あて先:
Mr Antonio Tajani, 欧州委員会副委員長、産業企業総局委員長
Mr Laszlo Andor, 雇用社会問題包括委員長
Mrs Amalia Sartori, 欧州議会ITTRE 委員会議長
REACH及びCLP 監督当局メンバー(CARACAL)

委員長殿

 我々の組織は、2012年10月3日に発表された欧州委員会のナノ物質に関する第二次規制レビュー(第二次規制レビュー)に対する極めて大きな失望と深い懸念を表明するために、これを書いています。

 下記に詳細を指摘しましたが、欧州委員会のアプローチは、その作業用資料(Staff Working Paper (SWP))に示されているとおり、自身の分析とも矛盾しています。さらにその作業用資料(SWP)自身が全ての利用可能な科学的情報を考慮することを無視しており、SWPの結論はそこで報告されている調査とも矛盾しているように見えます。
 SWPは、ナノ物質への曝露に起因する可能性あるリスクの存在を認めており、REACHは、懸念を評価する又は目を向けることを可能にする適切な又は信頼できる情報を現在与えていないと考えています。さらにSWPは、どのような既存のツールも、市民がナノ物質のハザード、リスク、及び使用について知る権利を行使することを妨げることを意味する現在の知識のギャップに対して、信頼できる方法で対応していないことに留意しています。

 これらの結論にもかかわらず、欧州委員会はREACHの附属書(annexes)に限定された修正を行なうことだけを考えており、それだけでは既存の抜け穴をふさぐのには不十分であり、製品中のナノ物質に関する現在の情報の欠如を克服するためには明らかに不十分です。ある物質の毒性に関する情報が欠如しているときには、データがないことは有害性がないとするのではなく、欧州委員会は予防的アプローチを強化し、製造とデータの収集を規制し、懸念ある物質を適切に制限し、禁止し、又は厳しく上市を規制すべきです。

 懸念する全欧州レベルの市民を代表する環境NGOs、労働者及び消費者団体として、私たちは欧州委員会の文書の内容と結論には同意することができず、したがって、選択された不均衡なアプローチを問題にし、異議を唱えます。社会の幸福より産業の利益を優先することにより予防的アプローチの実施を拒否すれば、欧州委員会はナノ物質に関連するハザードとリスクに関する包括的なデータの収集をさらに遅らせ、同様に必要な場合のリスク管理措置の設計と採用を遅らせることになるでしょう。

 私たちは欧州委員会が上述した矛盾に基づく分析を正し、ナノ物質の規制と安全な管理のための法的枠組みにある抜け穴をふさぐ効果的な方法を検討するよう求めます。欧州委員会の文書の修正はこの書簡の付属書1で詳説しています。

 どうぞよろしくお願いいたします。

Jeremy Wates, Secretary General, European Environmental Bureau - EEB
Bernadette Segol, Secretary General, European Trade Union Confederation - ETUC
Monique Goyens, Director General, The European Consumers’ Organisation - BEUC
Laura Degallaix, Secretary General, European Environmental Citizens's Organisation for Standardisation - ECOS
Stephen Russell, Secretary General, The European Consumer Voice in Standardisation - ANEC
Sascha Gabizon, Executive Director, Women in Europe for a Common Future- WECF
David Azoulay, Managing attorney, The Centre for International Environmental Law-CIEL
James Thornton, CEO, ClientEarth
Olaf Bandt, Director Policy and Communications, BUND e.V. (Friends of the Earth Germany)
Agnieszka Komoch, Head of Operations & Acting Director, Friends of the Earth Europe

CC:
Mrs Maire Geoghehan-Quinn, European Commissioner responsible for Research, Innovation and Science.
Mr Janez Potocnik, European Commissioner for the Environment.
Mr Maros Sefcovic, European Commissioner responsible for Health and Consumer Protection.
Mr Bjorn HANSEN, Deputy Head of Unit, Chemicals, Biocides and Nanomaterials, DG Environment, European Commission
Mr Philippe Martin, Risk Assessment Unit, DG SANCO, European Commission.
Mr Matthias Groote, Chair of the European Parliament ENVI Committee.
Mr Malcom Harbour, Chair of the European Parliament IMCO Committee.

附属書1


1. ナノ物質は明白な特性を持っており、全ての利用可能な科学的証拠は欧州委員会により検討される必要がある。
 第二次規制レビューの主要な結論は、ナノ物質は通常の化学物質/物質と同様であると述べている。これは、物質の物理的及び化学的特性はサイズとともに変化するかも知れず、潜在的な毒性は主に化学的元素ではなくサイズと形状に関連する要因によることを認めている作業用資料(SWP)と矛盾している。さらに、作業用資料(SWP)は、ナノスケールの粒子は、同じ化学的組成のより大きなサイズの粒子とは異なる、生態毒性を含む特性を持つかもしれないということを示す既存の科学的証拠の大部分を無視している[1]。一連の動物実験は、ナノスケールの粒子は、重量当りの表面積が大きいために、より大きなサイズの物質に比べて生物学的活性が大きく、より多くの摂取を示しつつ、より有毒であることを予測している[2]。

 例えば作業用資料(SWP)は、いくつかの工業用ナノ物質(カーボン・ブラック、二酸化チタン(TiO2))は毒性が低いことを示していると述べている。しかし、この文書は国際がん研究機関(IARC)が動物実験でカーボン・ブラック、二酸化チタン(TiO2)の発がん性についての十分な証拠を見つけたことを認めている。さらにカーボン・ブラックのナノ粒子の点滴注入により、マウスの肺と肝臓に持続する炎症と遺伝毒性を誘引し[3]、非ナノ形状のものとは異なり高用量の投与より低用量で人のリンパ球に遺伝毒性を示した[4]。

 超微粒子との類似が欧州委員会の文書中で正しく強調されているが、現在のアプローチが人の健康と環境をの保護するのに十分であるとするこの類似性からの影響に対する結論は、超微粒子は既に健康と環境への深刻な問題を特に都市部や飛行場の周辺で引き起こしているのだから、全く間違いであるように見える。空中に浮遊するナノスケールの粒子の潜在的な毒性はもっと高いと現在は考えられている[5, 6, 7]。

 作業用資料(SWP)によれば、欧州委員会(EC)は、既存のリスク評価手法はナノ物質に適切であり、多くの不確実性があるにもかかわらずナノ物質について警告を発する理由はないと結論付けている。対照的に、ナノ物質の有害影響から人と環境を守るために予防的アプローチを正当とする十分な科学的な情報が利用可能であるというのが私たちの見解である。


脚注

1 これらの相違は、肺内沈着の高い割合、肺から全身の部位への移動、及び高い炎症の可能性を含む。国連食糧農業機関(FAO)の『食品及び農業分野におけるナノエtクノロジーのリスク評価とリスク管理に関連する取り組みと活動に関する最先端(2012年)』http://www.fao.org/fileadmin/templates/agns/pdf/topics/FAO_WHO_Nano_Paper_Public_Review_20120608.pdf

2 Yokel, RA et al. (2011) Engineered Nanomaterials: exposures, hazards and risk prevention. Journal of Occupational Medicine and Toxicology 2011, 6:7 doi:10.1186/1745-6673-6-7.

3 Bourdon, JA (2012) et al. Carbon black nanoparticle instillation induces sustained inflammation and genotoxicity in mouse lung and liver. http://www.particleandfibretoxicology.com/content/9/1/5

4 Ghosh et al. (2010) Genotoxicity of Titanium Dioxide (TiO2) nanoparticles at two trophic levels: Plant and human lymphocytes.

5 ナノスケールの粒子は、汚染度の高い一般の集団中でのより高い死亡率、ぜん息と肺がんの悪化、心臓血管系影響、ヒューム熱、及び重大な不可逆的呼吸器系疾患を示唆している。吸入したナノ粒子の発がん性はも Roller, M (2009) 『吸入ナノ粒子の発がん性』で認められている。

6 BAuA (2007) Nanotechnology: Health and environmental risks of nanomaterials. Research strategy. http://www.baua.de/en/Topics-from-A-to-Z/Hazardous-Substances/Nanotechnology/pdf/research-strategy.pdf;jsessionid=CDCF19DB15C9C04EFCB9937F12021152.1_cid246?__blob=publicationFile&v=2

7 特定されたハザードは、あるナノ物質の潜在的な毒性影響や慢性肺毒性(炎症、線維症)を示しており、ナノ粒子から”マイクロ粒子”(微粒ダスト)を通じての腫瘍の形成は、特定の曝露条件における動物実験で観察されている。BauA (2006)  BauA (2006) http://www.baua.de/cae/servlet/contentblob/717964/publicationFile/48609/draft-research-strategy.pdf


2. 信頼できる情報源と情報生成に焦点を合わせることが重要である。
 第二次規制レビューは、適用可能な法令が高いレベルの健康、安全、及び環境の保護を確実にしなくてはならないことを指摘し、この脈絡で、ナノ物質とナノ物質を含む製品に関する情報の透明性が本質的に重要であると述べている。ナノ物質及びナノ含有製品に関する情報を含む既存のデータベースを見直した後、第二次規制レビューは、それらは広範な製品の体系的なデータ収集に基づいていないので、信頼できるものはひとつもなく、ナノと称している製品が本当にナノ物質を含んでいるかどうか確かではない。欧州委員会はまた、今までに実施されたどのような自主的な報告制度も完全に失敗であったと述べている。

 これらの明確な結論にもかかわらず、欧州委員会によって見越される唯一の行動は、全ての関連する情報源を参照するウェブ上のプラットフォームの構築だけである。ナノ物質に関する信頼できる情報の生成が全くないことを示唆するこの結論は、上述の作業用資料(SWP)の結論と矛盾がある。ナノ物質の使用、ハザード、およびリスクについて知る市民の権利を確実にすることをしない明白な不作為があるにもかかわらず、欧州委員会は市民の利益と彼等がどのような化学物質にどのくらい曝露しているのかを知る権利への透明性に対する産業側の拒否に賛成して、現状を維持しようと試みている。


3. 職場における健康と安全に関してして提起されている疑問
 第二次規制レビューは、ナノテクノロジーに関連する直接雇用は欧州連合(EU)で300,000〜 400,000件であると推定している。欧州委員会が参照するもともとの情報源はこの推定にいたるのに用いられた方法論的アプローチを開示しておらず、雇用市場の構造的な変化を含めているようには見えず、そのことは、この推定とこれらの不確かな数値を使用することの背景にある意図の両方に疑問が生じさせる。

 さらに、作業用資料(SWP)は、ナノ物質への曝露と利用可能な曝露モデルに関するデータが少ししかないことが、安全データシート(Safety Data Sheets)中にナノ特有の情報が存在しないこととともに、使用段階における雇用者と労働者が、ナノ物質への特定の曝露を評価し、適切な防護措置を実施することをしばしば困難にしている。第二次規制レビューが、職場で使用されるナノ物質のリスクを評価するために立証責任を雇用者と労働者に移すことは容認できない。このことは、もしナノ物質が製品中に存在するのに彼等に知らされないということは特にやっかいなことである。


4. REACH適用の提案は全く不十分である
 作業用資料(SWP)は、使用段階での消費者と環境への曝露、さらには廃棄段階での曝露については、曝露する場所でリスク管理措置を通じて管理することは困難であり、しばしば不可能であると述べている。このことは、REACHがナノ物質安全管理のために適切な情報を収集するべき要となる法令であるという言明を強化するものである。

 しかし、ナノ物質の今日までの登録は極端にまれであり、安全使用に向けた情報は不完全で、不明確で、非常に限られたものしか含まれていないという認識と、この状況を改善するためといわれる提案との間には厳然たる差異がある。第二次規制レビューは、登録のための詳細なガイダンスと附属書の一般的記述の欠如を非難することを選択して、利用可能な情報の不足を発見するふりをしている。この状況は、3年前の第一次規制レビュー以来、実際に産業界以外の全ての利害関係者らにより予測され、避難されていたことである。そのような状況の原因は、さらに REACH 条項の不適切さ(REAH 文書中に定義が不在、重量閾値の不適切さ、ナノ物質の大多数のためのフェーズイン(既存化学物質)規則の不適切な実施、など)、さらには透明性のあるメカニズムの採用と実施に対する産業界の組織的な拒絶にまでさかのぼる。

 大多数の利害関係者の見解を無視し、利用可能な科学的及び法的分析、及び過去3年間の経験と矛盾して、産業界の見解を厳格に採用することにより、第二次規制レビューは必要な情報の収集をさらに延期し、今後数年以上の間、利用可能適切なデータなしにナノ物質の製造と上市を自動的に許すという危ういことをしている。欧州委員会は、REACHの”ノーデータ・ノーマケット原則”を、欧州条約に埋め込まれている予防原則とともに、直接的に反対している。


訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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