New Haven Independent 2011年7月1日
アメリカのナノ政策の”原則”
著者:ギネス K. ショー

情報源:New Haven Independent Jul 1, 2011
"Principles" Issued
by Gwyneth K. Shaw
http://www.newhavenindependent.org/index.php/archives/entry/small_steps_on_nano/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年12月9日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/NHI_110701_Principles_isued.html

 長い沈黙の期間を経て、ホワイトハウスと二つの連邦機関は最近、ナノテクノロジーがたどるであろう、この成長分野に関する連邦政府の政策を垣間見せた。

 今月(2011年6月)の初め、同日に発表されたこれら3つの文書には、規則も法律の提案もないが、ホワイトハウスの文書 (訳注1)は、これらの超微細な物質の影響を検討する機関を支援するための、いくつかの”原則”を提供した。

 食品医薬品局(FDA)の文書
は、本質的には同局がこの数年間言ってきたこと、すなわちナノベースの薬品及びその他の製品は新規として扱われるべきということを繰り返した。

 環境保護庁(EPA)の文書は、産業界支援者、学界、ナノ関連政策を追っているその他の関係者らからの強い関心をひきつけた。このEPAの文書は基本的には、ナノ物質を含む農薬を製造している者がその製品に入れているものについてもっとよく知り、そのための対話を持つためのいくつかの方法について討議したいとEPAが望んでいることをナノ農薬製造者等に伝えている。EPAはまた、通常ではないことであるが、すでに市場に出ているいくつかの物質の承認プロセスを、改めて適用する意図があることを示唆している。

 ”それは、明確な変化であり、全体プロセスの中で新しい展開である。そして、確かにこの分野においては、そのよう道もあり得るよう見える”とワシントンの法律事務所 K&L Gateでナノ関連顧客と働くロビーストであり、ナノビジネス商業化協会(NanoBusiness Commercialization Association)の政策アドバイザーである R. ポール・スティマーズ(R. Paul Stimers)は述べた。”私は、ホワイトハウスとEPAがそのような道を意図して調を図ったと思う”。

 ナノテクノロジーは、超微細な粒子のしばしば独自の特性をもって、驚くべき品質を持つ製品を作り出す推進力となる。これらの物質は、命を救うことができる医療機器や医療はもとより、より良いバッテリーや、軽くて丈夫なバイクの車体を作ることができる。それらは、”鉱物”ベースの日焼け止めから防汚ズボンまで、消費者製品中でますます一般的になっている。

 ナノ物質は、広範な分野での様々な応用について大きな可能性を持っていると信じられている。しかし、これらの物質が小さくなるとその特性が変わり、科学者らはその変化が危険をもたらすものなのかどうか、なぜそのようなことが起きるのかについて明らかにするために取り組んでいる。

 いくつかの研究は、重大な疑問を提起している。例えばナノ銀は、下水汚泥中に出現している。繊維状のカーボン・ナノチューブは、マウスの肺にアスベストとの比較をもたらすような炎症を引き起こすことができる。

 研究者らは遅れないよう研究を維持し、アメリカ政府と国際的パートナーは、ベビーベッドの中の幼いナノ産業を窒息さずに、どのようにして人々、動物、そして環境を守るかについて取り組んでいる。 消費者運動及び環境問題の活動家らは、具体的にナノ物質に対応する規則を求めて圧力をかけており、産業界は多くの不確実性がある中で規制されることを懸念している。結果として、多くの会議と研究がなされ、多くの金が使われたが、具体的な答えはほとんどない。

 それは恐らく、そうあるべきだからであると、連邦管理予算室の情報規制部門(OIRA)の副部門長ミカエル・フィッツパトリックは述べた。彼は、前述の、最近(大統領府から)発表されたガイドラインを統合することに関わったが、この文書は3月に発表されたものと同様な内容である。

 ”この文書は、注意深く、注意深くバランスをとろうとしている”とフィッツパトリックは述べた。”新たな技術が出現した時はいつでも、科学と理解がこの新たな技術に追いつこうと試みるための余分な時間が必要である”。

  ホワイトハウスのガイドラインは、ナノ粒子を公式に定義することにしり込みをしているが、ナノの定義は世界中の規制当局にとって現在継続中の問題である。その代わり、国家ナノテクノロジー・イニシアチブ(NNI)が、サイズが1から100ナノメートルまでのモノを”ナノスケール”物質であると考えているとホワイトハウスのガイドラインは言及している。それは、ナノの分野では大雑把な基準となっている。

 しかし、この文書は、安全性を厳密に調査する時には、サイズだけが問題ではないといい続けている。規制目的で”重要な論点は、ナノスケールで出現するそのような新たな又は変更された特性と現象が特定の応用におけるリスクと便益を生成又は変更するかどうか、するとすればどのようにするのかということである。ナノ物質で観察される新奇な特性と現象に焦点を合わせることは、サイズだけに基づく絶対的な定義よりも最終的には有用かもしれない”とこの文書は述べている。

 この原則は、科学的証拠に基づいて決定し、”純粋に科学的な判断を政治的判断から可能なかぎり分離するよう連邦機関に促しつつ、上記の全てのことを強調している”。

 彼等は、特定の物質に生じる実際のリスクは何なのかについての信頼性のある評価はもとより、公衆と産業界との間の透明性とコミュニケーションを強調している。

 ”ナノ物質は、科学的な証拠なしに、本質的に害が少ない又は有害であるとみなされるべきではない”と、同文書は述べ、”安全又は有害らしいという証拠があるところでは、対応する規制当局の行動は通常明確である”と指摘している。

産業界は喝采

 その文書で述べられていることは、産業界にとって特に歓迎されていると、ロビーストのスティマーズは述べた。

 ”我々が懸念することのひとつは、我々は、その構造に有害性があると断定する方向に連動するような規制プロセスとなることを望まないということである”とスティマーズは述べた。”それは、公平な議論の場ではない”。

 連邦管理予算室情報規制部門(OIRA)のフィッツパトリックは、政府がナノを推進することも全てのナノ物質は悪であるとすることも控えることが重要であると述べた。化学物質を例にとれば、多くの化学物質があり、あるものは有害であるが、一方他のものは有害ではない。アメリカの規制システムは、全ての化学物質は有害であるとみなすのではなく、前者(有害なもの)への曝露を最小にすることを狙っている。

 ”政府内では、このことを調査するために多くの取り組みが現在なされている”と、フィッツパトリックは述べた。”行動を起こすために決定することは非常に難しい・・・ある場合には、あるレベルの不確実性を受け入れなくてはならない”。

 しかし、政府は、”現在そのことをやっている最中である”と彼は述べた。

 ”あなたは、政府がさらに集中し、研究と科学に対する注目を増大させていることを見ている”とフィッツパトリックは述べた。”研究と科学は多くの注目を受けているが、それは適切なレベルである”。

遅すぎる?

 しかし、消費者運動と環境問題の唱道者らは、ナノ物質が可能とする製品のための規則を制定するための動きが余りにも遅すぎると述べている。 国際技術評価センター(ICTA)の政策ディレクターであるジャイディー・ハンソンは、最近の措置は、部分的には訴訟の脅威に対応するためのものであると考えると述べた。ICTAは、他の唱道グループと共にFDAとEPAの両方に対して、ナノ物質を含む製品の規制を開始するよう求めていた(訳注)。
訳注:
国際技術評価センター 2008年5月1日ナノ銀による環境と健康への脅威をEPAが規制しないことに対する申し立て(エグゼクティブ・サマリー)

 同グループらが、EPAはその権限を抗菌特性があるので価値があるとされるナノ銀を使用する農薬を規制するがめに用いるよう要求してから、すでに3年以上経過している。ハンソンは、失望はしているが、動きがないことには驚かされないと述べた。

 アスベストが重大な肺疾患を引き起こすという数十年来の証拠があるにもかかわらず、”我々は、EPAがアスベストを禁止するための十分なデータを持っていないと主張する国に住んでいる”とハンソンは述べた。

 ハンセンは、ヨーロッパはナノ関連政策に関してはアメリカより進んでいるが、それは一部には、規制当局、産業界、及び消費者団体の間にデータを共有し、共に解決を図ろうという意思があるからであると述べた。  ”我々のプロセスにある問題は、全ての人々が立場を譲らないということである”と彼は述べた。

  Porter Wright Morris & Arthur法律事務所のパートナーとしてナノテクイノロジー問題に取り組むジョン C. モニカは、どのような政策の変更も科学に基づくべきとするホワイトハウス原則の要はとくに新しいものではないと述べた。しかし、ホワイトハウスは明示的にそれを言うことは”役に立つ”と彼は述べた。またその文書が現在の法律に従うということは注目に値する。

 ”私は、その文書は既存の規制が十分であるということについて9回、言及していると思う”とモニカは述べた。”私は彼等がそこで表明を明確にしようとしていたと思う”。

 フィッツパトリックは、行政は、最終的には法律を制定する議会に従うためにその点を強調したと述べた。キャピトル・ヒル(米議会がある)にはナノテクノロジー産業、特に有害物質規制法(TSCA)に影響を与えるであろういくつかの法案(訳注)がある。
訳注:
プレスリリース2011年10月6日:マーク・ プライアー上院議員 ナノテクノロジー規制科学法201 (S. 1662)を提案
2010年1月21日 米上院法案 S. 2942 ナノテクノロジー安全法2010 の紹介 マーク・プライヤー上院議員提案

 ミシガン大学リスク科学センターのディレクターでリスク及び新たに出現している技術の専門家であるアンドリュー・メイナードは、最近の動きは興味深い警鐘であると述べた。それは、現在の問題として連邦政府機関内で行なわれている取り組みが進展すると、来年には何が起きるかということであると、彼は述べた。

 ”私の感覚では、ホワイトハウスのレベルでは、確かに何かが計画されている”とメイナードは述べた。”少し不明確なのは、連邦政府機関レベルで起きていることである”。

 そこにFDAとEPAの文書がやってきた。”産業へのガイダンス”と謳うFDAの文書は、基本的には製品が薬品、化粧品、あるいは他の用途であろうと、ナノ物質を含んでいるとみなすことができるかどうかを決定するためのいくつかの基準を規定している。それはまた、”ナノスケール”のための公式の定義を規定することを断っているが、FDAはサイズだけでなく、1,000ナノメートル(1μメートル)までの成分の特性と挙動を考慮するとFDA文書は述べている。

 フィッツパトリックは、サイズだけに焦点を合わせないという行政の決定は、サイズは必ずしも決定的ではないことを示すことが増えているためであると述べた。

 ”それは、もっと多くの現象の特性であり、物質の応用である”と彼は述べた。

 国際技術評価センター(ICTA)のハンセンは、FDAのトップから、詳細なタイムテーブルは得られなかったが、FDAは間もなく食品の安全に特に重きを置くことを計画をしているということを聞いたと述べた。ナノ物質は、あなたのスープにも使われている。この超微細な物質はまた、食品を新鮮に保ちバクテリアを殺す方法として期待が持たれている食品容器包装の世界でも切望されている。

 それが安全であるかどうかは別問題であり、革新と健康との間の綱引きの戦場となってきていることは確かである。

 EPAの計画は、拘束力はないが、もっと中身がある。EPAは、ナノサイズ成分についてもっと多くの情報を望んでおり、その権限を連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法(FIFRA)の下に使用することを意図しているということを製造者に伝えている。EPAは二つの方法を提案しているが、その主要な相違は”有害影響”という言葉が含まれるべきかどうかということである。

 EPAの報道官は、EPAは、連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法(FIFRA)の一部であるこれらの言葉を使用するオプションが好ましいと述べたが、その理由は、それが規制されるコミュニティにかける負担が少なく、より速く、そして製品中にどのようなナノ物質が存在するのかに関する最も正確で完全な情報を得ることを確実にするであろうからである。データセルイン(data call-in)として知られる第二の「オプションを使用することは、製造者にくり返しの質問を求めることになるであろう。

 EPAは、注意深く管理された許可を、特定のカーボンナノチューブ製品を含んで、あるタイプのナノ物質に与えた。EPAはまた、運動着中の抗菌剤成分として使用されているナノ銀ベースの農薬に暫定的な承認を与えるかどうか一年前から検討している。

 さらに、EPAは、二酸化チタンを含んで他のナノ物質の研究を広範に実施している。EPAはまた、有害物質規正法(TSCA)を用いて、ナノスケール化学物質のための他の報告規則を制定するために他の方法に取り組んでいる。

 しかし最新の文書は、例えそれが予備的であっても、EPAの今日までの最大の前進である。

 ”この発表は、EPAがナノスケール農薬に効果的にレビューと規制を行なうことを許すひとつの計画を始めて提案するものである”とEPAの報道官は述べた。

すでに承認された農薬も含まれる

 EPAの計画の中で興味深いことは、それらはすでにEPAによって承認されていた農薬を潜在的に含むということであり、その理由は、それらの農薬がすでに承認されている化学物質又は物質のナノサイズ版を含むからである。例えば銀は、サイズにかかわらず、水処理用途を含んで、農薬としての使用が承認されている。

 ”それは、出てくるものは全て遡及的であることを意味するので、大きな前進である”とメイナードは述べた。

 国際技術評価センター(ICTA)のハンソンは、EPAの決定のことで争いが起きることを予測している。もしこのプロセスが停滞すれば訴訟の可能性がアリとして、ICTAと他の団体は成り行きを監視している。

 ”我々は、EPAがすでに、これらのナノ化学物質を新たな化学物質として規制するための法的な権限をもっていると思う”とハンソンは述べた。”それは、正しい方向に動いているが、もし、その方向への動きを保持しないなら、我々は、他の救済策を求めるであろう”。  法律事務所のスティマーズとモニカもまた、この考えのある部分に産業側から強い反発があるであろうとよそくしている。

 ”EPAは、産業界に手を差し伸べ、ナノ粒子とナノ規制について、もっと理解するために産業側と協力するという適度によい仕事をしたが、それは現在進行中のプロセスであり、EPAが実際にビジネスにとって非常に困難な環境を作リ出す非常に大きな能力をもつプロセスなので、我々は特に、現在の経済に及ぼす影響を懸念している”とスティマーズは述べた。

 ”実際に、ナノテクノロジーが計画しているは基本的な進路は、一方で過剰な規制で会社を殺すことと、他方で何も規制をしないということとの間にある”とスティマーズは述べた。”その目標は、人々が安全な製品を得ていると自信を持つことができるがが、同時に、関与する規制は煩雑なものではなく、実際に何か良いことをするという中間の道を見つけることにある”。

 モニカは、彼は、多くの人々、特にナノ物質によって引き起こされる困難に特に対応するための新たな規制を求めていた主導者たちは、この文書によって失望させられたと確信している。しかし、彼は、行政が先を見越して注意深いことを称賛した。

 ”私は、ことの成り行きが遅いのは避けられないと思うし、あなたができることはたくさんある”とモニカは述べた。”毎日発明されているものよりは少ないいが、すでに外に出てしまったものに毒物科学が追いつく方法はない”。

 しかし、決定を開始するためには十分な証拠があるとハンソンは述べた。

 ”この技術のよいところは、その一部は非常に強力であり、非常に期待がもてることである”とハンソンは述べた。”しかし、我々は、これらの部分を非常に有害な部分から切り離すことを望む”。


訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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