2010年1月21日 米上院法案 S. 2942
ナノテクノロジー安全法2010 の紹介
マーク・プライヤー上院議員提案

情報源:STATEMENTS ON INTRODUCED BILLS AND JOINT RESOLUTIONS
(Senate - January 21, 2010)
Senator Mark Pryor (D-Ark) introduced S. 2942
http://thomas.loc.gov/cgi-bin/query/R?r111:FLD001:S50125

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年1月27日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/US_Congress/Nanotech_Safety_Act_2010.html

プライヤー氏(彼自身及びカーディン氏):

法案 S. 2942. 連邦食品医薬品化粧品法をナノテクノロジー・プログラムを確立するために修正
健康・教育・労働・年金委員会

 プライヤー氏: 議長、私は本日、カーディン上院議員と共に、ナノテクノロジー(訳注:以降ナノテク)に基づく医療と健康製品に関する食品医薬品局(FDA)による科学的調査プログラムを公認するナノテクノロジー安全法2010を紹介いたします。

 ナノテクは、医療費のコスト削減を図りつつ、新たな医療、ドラッグ・デリバリー、整形外科的体内埋めなどの開発に大変革を起こす素晴らしい約束をするものです。しかし、議会とFDAは公衆に対し、ナノテク・ベースの製品は安全で効果的であることを請合わなくてはなりません。ナノテクノロジー安全法2010は、ナノ物質がヒト体内にどのように吸収されるのか、ナノ物質が抗がん剤を目標細胞にどのように運び腫瘍を殺すのか、ナノスケール骨材埋め込みがどのように接合部を強化し感染の恐れを低減するかに関する適切な研究をFDAが実施することを可能にします。

少なくとも1次元が1〜100ナノメートルの物質を操作するナノテクノロジーは、挑戦的な科学的領域です。このサイズを理解する参考として、ヒトの髪の毛は約80,000ナノメートルです。

 ナノ物質はもっと大きなバルク物質として使用されるときよりも、化学的、物理的、電気的、生物学的な特性が異なります。例えば、ナノスケールの銀は、感染症や傷の治療のための独特な抗菌特性を示します。ナノ物質は通常の物質の場合よりもはるかに大きい表面積比(重量に対する)を持っています。物質の表面で生物学的及び化学的反応は起きるので、ナノ物質は通常のバルク物質よりもより高い反応性持つことが期待されます。

 ナノ物質の新規な特性は、通常の物質のために開発されたリスク評価はナノテクに基づく製品の健康と公衆の安全を明らかにするために使用が限定されるかもしれないことを意味しています。

 FDAは、ナノテクベースの医療と健康製品が安全であり効果的であることを公衆に請合うために、ツールとリソースを必要とします。医薬品、医療デバイス、及び食品添加物中のナノ物質の使用のための規制の枠組みの開発は、特定の技術と製品についての科学的知識とデータに基づかなくてはなりません。確固とした科学的枠組みなしには、どのようなデータを収集すべきかについて知る術もありません。12以上の物質特性が比較的単純なナノ物質について提案されています。ナノ物質とヒト体内でのそれらの挙動についてのよりよい科学的知識なしに、私達はどのようなデータを収集し、検証すべきかについて知ることはできません。

 2007年にFDAナノテクノロジー・タスクフォースは、医薬品、医療デバイス、生物製剤、補助食品におけるナノテクノロジーに目を向けるために、FDAの科学的プログラムと規制権限を分析する報告書を発表しました。同報告書の一般的な発見は、ナノスケール物質は、他の新規出現技術を用いた製品が提起したのと同様に、新たな規制的課題を提起しているということです。しかし、これらの課題は、ナノテクはFDAが規制するほとんど全ての製品を製造するために使用される可能性があるので、もっと大きく広がるかも知れません。

 タスクフォースは、特に上市前承認要求の対象とならない製品に関する規制の有効性を確実にすることに役立たせるために、ナノテクの科学的知識を改善することにFDAが焦点を当てることを勧告しました。

 FDAは既にいくつかのナノテクベースの製品をレビューし、承認しています。今後数年でFDAは、医薬品、デバイス、生物製剤、化粧品、及び食品中におけるナノスケール物質の使用が著しく増加することを予測しています。このことは、FDAがもっと多くの注目をナノテクベースの製品に向けるよう求めることになります。

 ナノテクがすでにヘルスケアーに適用されているふたつの領域について数分間紹介させてください。

がんの早期発見と多機能治療
 がんの早期発見は人間のヘルスケアーの著しい改善とコストの削減をもたらすことが出来ます。ナノテクは、既存の従来の技術に限界があるような場合にも、がん検出のための重要な新たなツールを提供します。

 現在のがん早期発見の障害は、がんの発症の早期段階で分子レベルの変化を直接検出することが既存のツールでは出来ないことです。ナノテクは、”知的”な造影剤や、一個の細胞やナノスケールの組織の画像をリアルタイムで得るツールを提供することが出来ます。

 ナノテクは最低侵襲医療診断技術の受容を約束し、もっと多くの研究が、超高感度ラベリング及び検出技術を目指しています。インビトロの領域でナノテクは、がんをもたらす細胞と組織の基本的な変化を反映するプロセスを意味する分子署名(molecular signature)によってがんを定義することに役立てることが出来ます。既に、研究者らは、異なるタイプの腫瘍についてゲノム変化を分析し正常な細胞と悪性細胞を区別することができる新しいナノスケールのインビトロ技術を開発しました。

 インビボ領域では、臨床腫瘍学における最も緊急の必要性があることのひとつが、今日の技術で可能とするよりはるかに小さな腫瘍を特定することが出来る造影剤です。このレベルの感度を達成するためには、造影剤のよりよいターゲッティングとより大きな画像信号の生成が必要であり、ナノスケールデバイスがこの両方の達成を可能にします。

 恐らく、多機能治療の最大の直近影響は、腫瘍ターゲッティングとがん治療の領域です。ナノテクは選択された組織と細胞をよりよくターゲットとするドラッグ・デリバリーの新たな手法を開発し、細胞質と細胞核中での薬品の作用の効率を改善するために用いることが出来ます。ドラッグ・デリバリーの応用は、細胞内デリバリーの可能性と共に、溶解性の問題の解決を提供するでしょう。

 多機能医療へのナノテクの導入はまだ初期開発の段階です。ナノスケール多機能医療はがん細胞の非常に正確な場所特定ターゲッティングを可能にします。ドラッグデリバリーのためのもっと複雑な”スマート”システムは、特定の化学物質を検出し反応するよう開発されなくてはならず、個々の患者のために特別に作られる必要があります。多機能治療デバイスは同時に、検出、診断、治療、及び療法に対する反応の監視を開発する必要があります。例えば、がんを探し出し、必要な時に内容物を放出するために、様々なナノ物質が、薬品、目標とする分子、及び造影剤と関連して作ることが出来ます。

 FDAは、既にナノテクのヒト健康影響と安全の理解のためにリソースを割り当てることをはじめています。FDAのジェファーソン・アーカンサス研究所にナノテクノロジー・コア・ファシリティが設立されています。国立毒性学研究センターと、FDAの一部門であるアーカンサス研究所の専門性を統合しつつ、この新たなナノテクノロジー・コア・ファシリティはナノテク毒性政研究を支援し、複雑なマトリクス中のナノ物質を定量化するための分析ツールを開発し、FDAの規制対象品中のナノ物質の特性化のための手順の開発するでしょう。

 結論として、ナノテクノロジー安全法2010は、FDAによって規制されるナノテクベースの薬品、デリバリーシステム、医療デバイス、整形外科的埋め込み、化粧品、及び食品添加物の安全性と効果を科学的に研究するために必要な権限をFDAに与えるものです。この法案は、21世紀にヒト健康を改善しコストを低減するナノテクの約束への健全な投資です。

 議長、私はこの法案の全文が議事録に記載されることについて全会一致の合意を求めます。
 反対がないので、この法案の全文は下記のように議事録に記載されることが決定しました。

S. 2942

米国議会上院及び下院により制定されるべき法案

第1節 ショートタイトル

 この法はナノテクノロジー安全法2010として引用してもよい。

第2節 ナノテクノロジープログラム

連邦食品医薬品化粧品法(21 U.S.C. 391 et seq.)第 X 章はその末尾に下記を追記することにより修正される。

第1011節 ナノテクノロジープログラム

(a) 一般:

 ナノテクノロジー安全法2010の制定後、180日より遅れることなく、米健康福祉省長官は農務省長官と協議の上、そのようなナノ物質の潜在的な毒性学、そのような物質の生物学的システムへの影響、及びそのような物質の生物学的システムとの相互作用に目を向けるために、食品医薬品局内に、FDA規制対象品中に含まれる又は含めることを意図したナノスケール物質の科学的調査のためのプログラムを確立しなくてはならない。

(b) プログラムの目的:

 (a)項の元に確立されるプログラムの目的は以下であること:

 (1) 一般的ナノスケール物質の生物学システムとの相互作用、及び食品医薬品局が関心を持つ特定のナノスケール物質に関する科学的文献とデータを評価すること。

 (2) 生物学的システムとのナノスケール物質のクラスの挙動の一般化された原則の形成を可能とするデータベースとモデルを使用する情報を開発し組織すること。

 (3) 毒性に寄与するかもしれないナノスケールにおける新規の特性の科学をさらに理解するために、局内プログラムを推進し、共同の取り組みに参加すること。

 (4) ナノスケール物質のための即英と検出手法をさらに理解するために、共同の取り組みを推進し参加すること。

 (5) ナノスケール物質と生物学的システムとの相互作用に関連する科学的情報とデータを収集し、合成し、解釈し、広めること。

 (6) 局内にナノスケール物質に関する科学的な専門性を構築すること

 (7) 時宜を得た情報に基づく最新の科学の検討を確実にするために、局内のセンター内で現状の訓練を確実すると共に、局内でより広く、新たな情報の普及を確実にすること

 (8) 同局が国際的及び国の合意標準活動に参加するよう積極的に働きかけること。

 (9) 長官が決定するその他の活動で上記 (1) 〜 (8) で記述された目的達成に必要であり、それらと矛盾しない活動を実行すること。

(c) プログラム管理:

 (1) プログラムマネージャー
  プログラムを実行するに当り、長官は、プログラムの企画、管理、及び調整を監督するプログラムマネージャーを指名しなくてはならない。

 (2) 義務
  プログラムマネージャーは以下を実施しなくてはならない。

  (A) このプログラムのための特定の短期的及び長期の技術目標を達成するための詳細な戦略的計画を開発すること。

  (B) その戦略的計画を食品医薬品局及び国家ナノテクノロジーイニシアティブに参加しているその他の省庁部局と調整し統合すること。

  (C) 局内プログラム、契約、合意メモ、共同基金合意、長期課題に合致しプログラムの特定の技術的目標を達成するために必要とするその他の共同合意を開発すること。

(d) 報告:

 2012年3月1日及び2014年3月1日より遅れることなく、長官は、健康・教育・労働・年金委員会、上院歳出委員会、エネルギー・通商委員会、下院歳出委員会に本節の下に実行されたプログラムに関する報告書を提出すること。そのような報告書は下記を含むこと。

 (1) プログラムの特定の短期及び長期目標のレビュー

 (2) プログラムの現在、及び提案された資金調達レベル。そのような資金調達レベルがプログラムの活動を支えるために適切であるかどうか評価を含む。

 (3) プログラムの下における活動及び国家ナノテクノロジー・イニシアティブに参加する他の省庁部局との調整のレビュー

(e) 歳出の承認:

 本節を実行するための充当金は2011年から2015年までの各会計年度で$25,000,000(約20億円)が承認される。この項により充当される総額は使い切るまで有効である。


訳注:関連情報
Nanotechnology Law Report The Nanotechnology Safety Act of 2010 / posted on January 25, 2010 by Robert Oszakiewski



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