New Haven Independent 2011年12月1日
米EPA ナノ農薬を初めて承認
著者:ギネス K. ショー

情報源:New Haven Independent Dec 1, 2011
EPA Grants 1st Approval For Nanopesticide
by Gwyneth K. Shaw
http://www.newhavenindependent.org/index.php/archives/entry/
epa_grants_1st_approval_for_nanopesticide/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年12月6日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/NHI_111201_EPA_Grants_Nanopesticide.html

 本件について1年以上決定がなかったが、米環境保護庁はこのたび、線維製品中で使用されるナノスケール物質に基づく農薬であるスイス製のナノ銀抗菌剤に初めて承認を与えた。

 EPAは、木曜日(12月1日)に、HeiQ Materials 社のAGS-20 に4年間の”条件付登録”を与えることで事態の進展をはかっているが、この製品は本質的にはナノ銀とナノスケールのシリカとの混合物である。2008年に初めて出された HeiQ 社の申請によれば、AGS-20 は布製品に組み込まれる。

 ナノ銀は、汗による悪臭に対処すると称して運動着などでますます使用されるようになっている。

 EPAは、要求されるテストの長たらしいリストをつけた条件付登録を2010年8月に提案し、パブリックコメントにかけた。その後、この超微細な物質に鋭い焦点を当てているEPAから青信号を得た潜在的にナノが実現する(nano-enabled)製品を含むナノ物質を使用する製造者からもっと多くの情報を求めることを計画しているという今年の夏のEPAの発表以外は、沈黙が続いていた。

 ナノ観察者(Nano-watchers)らは、この動きがナノ銀を含んでナノ物質が監視され規制される方向に大きく動く信号なのかどうか、EPAの決定を固唾を飲んで見守っていた。

 ナノテクノロジーは、超微細な粒子がしばしばもつ独自の特性により、驚くような品質もった製品を作り出す推進力となる。これらの物質は、命を救うことができる医療機器や医療はもとより、より良いバッテリーや、軽くて丈夫なバイクの車体を作ることができる。それらは、”鉱物”ベースの日焼け止めから防汚ズボンや藻類の生育を防ぐボートの塗料に至るまで、消費者製品中でますます一般的になっている。

 ナノ物質は、広範な分野での様々な応用について大きな可能性を持っていると信じられている。しかし、これらの物質が小さくなるとその特性が変わり、科学者らはその変化が危険をもたらすものなのかどうか、なぜそのようなことが起きるのかについて明らかにするために取り組んでいる。

 HeiQ 社の最高経営責任者(CEO)カルロ・セントンゼは声明の中で、同社は、”EPAが HeiQ AGS-20によって提供される潜在的な便益を認めたことを喜んでいる”と述べた。彼は、EPAの承認の理由の一部には、微生物によって引き起こされる悪臭や汚れの生成をより長い間防止する一方で、環境中への銀の放出を減らすことができるということがある”と、彼は述べた。

 ワシントンのBergeson & Campbell法律事務所でナノテクノロジー会社に対する規制プロセスのコンサルタント業務を行なっている弁護士リン・バーガソンは、”EPAによってわくわくさせられるが、それがEPAによるさらなる次の行動の前兆であるのかどうかわからない”と述べた。

 ”このことが、これを承認するために、この決定以外の何かが早い時期に決定されたことを意味するのか、EPAが注意深くコメントを検討したか、その決定に固執しようとしているのか、について推定することは本当に非常に難しい”と、HeiQ の代表ではないバーガソンは述べた。

 EPAは、ナノ銀、及び同一物質でもっと大きなサイズのものを農薬とみなしており、連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法(FIFRA)の下に評価している。同法によれば、農薬は市場に出す前に登録されなくてはならない。

 EPA当局は、木曜日(12月1日)はコメントする時間がなかったが、動きを伝える簡単なプレスリリースだけは発表した。(EPAが210年イ提案した規則を読むためにはここをクリック)。

 ナノ銀は、科学者ら及び規制当局から多くの注目を浴びた。それは、靴下はもとより歯ブラシなどで抗菌剤として広く使用されている。研究が、ナノ銀は下水の汚泥中に現れ、またサイズの大きな銀物質からも遊離することを示しており、一体どのくらいの量の銀が我々の周囲にあるのか、そして、これらの新た製品は新たな影響をもたらすのかどうかについての疑問を提起している。

 環境団体やその他の運動家らは、ナノ銀は、水、土壌及び海洋生態系に蓄積することにより、あるいは我々の周囲にいる微生物をかく乱することにより、環境に問題を引き起こす可能性があると警告している。他の人々は、ナノ銀の使用が広がると人及び微生物の両方にナノ銀に対する耐性ができるのではないかと懸念している。

 銀産業界は、数世紀にわたり殺菌に使用されてきているこの金属は、どのようなサイズであっても安全であるという立場を取っている。

 声明の中でセントンゼは、HeiQ 社は全てEPAの要求に従うであろうと、次のように述べた。”科学的な発見を生成し、新たな政策と環境的発見にリスク評価を適合させようと取り組むEPAやその他の規制当局と情報を交換することは、我々のいつもの取り組みである”。

 国際技術評価センター(ICTA)の政策ディレクターであるジャイディー・ハンソンは、EPAがナノスケール農薬のための幅広いガイドラインへの取り組みを完了させる前に、HeiQの申請を受け入れることを決定しことに失望したと述べた。ICTAは、他の唱道団体と共にFDAとEPAの両方に対して、ナノ物質を含む製品の規制を開始するよう求めていた。

 会社は、登録プロセスを経るためにしかるべき評価を受けるべきであるとし、他の製造者等はEPAの厳密な調査を回避するためにナノ農薬の成分を隠そうとしているように見えると述べた。

 しかし、EPAは少なくとも条件付登録の下に求められる毒性テストの結果を得るまで待つべきであったとハンソンは述べた。

 それは、”OK! 馬を放しても良いよ。多分、我々は後で連れ戻すことができるだろう”というようなものだと、ハンソンは述べた。

 ”もし、全ての布製品にナノ銀をしみ込ませるようなことになれば、深刻な環境問題になるであろうと”彼は述べ、EPAの決定に触発されて、もっと多くの会社がナノ銀農薬の登録を申請するようになることが予測されると付け加えた。

 HeiQの申請とEPAの条件付登録のための提案は、産業界、環境団体、消費者団体、及び公衆から様々なコメントを引き出した。(背景情報をの全てを見るためには、ここをクック)その多くは、否定的であり、それらがEPAの決定に影響を与えたのか、もしそうなら、どのように、どいう点に影響を与えたのかは不明である。

 ”私は、EPAが本当にコメントに注意を払ったのかどうを知る前に、我々はEPAの新たな規制を見ることになるのではないかと思う”とハンソンは述べた。

 バーガソンもまた、ナノ農薬の申請が今後、もっと多く出ると推測している。試行期間の4年後にEPAはそれを市場からの引き上げる可能性もあるので、登録の条件付という特性は商業用製品については理想的ではない。しかし会社はストップをかけられるよりはましだろうと彼女は述べた。

 この決定のための待機は、”EPAは今、ナノ製品に関して落しどころを探しているという、農薬申請者らに対する信号であった”と彼女は述べた。”いよいよ最終登録が発行されれば、EPAはもっと自信をもち、農薬登録者等はもっと希望を持つことを期待できると私は思う”。


訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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