FoE オーストラリア 2011年10月21日
欧州委員会 産業側のナノ定義への圧力に屈し
人々と環境をリスクに曝す


情報源:Friends of the Earth
European Commission caves to industry pressure on nano definition,
leaves people and environment at risk
http://nano.foe.org.au/european-commission-caves-industry-pressure-nano-definition-leaving-people-and-environment-risk

掲載日:2011年10月23日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/FoE_au/FoE_au_EC_nano_definition.html

 欧州委員会により採択された新たなナノ物質の定義は、ナノリスクをもたらす製品を効果的に規制せず、人々と環境をリスクに曝す。

 数ヶ月に及ぶ協議の後、欧州委員会はナノ物質の定義を発表した。その定義は、激しい産業側の働きかけを反映し、科学委員会の助言を拒絶するものであった。"サンプル中のナノサイズ粒子数が50%以上"というナノ粒子含有の閾値を採用したが、それは、欧州委員会自身が設置した「新規の及び新たに特定された健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR)」の勧告(0.15%)よりも333 倍も大きな値である。欧州委員会の定義はまた、ナノ物質の上限サイズを100nmに固定するものであるが、SCENIHRはこの100nmという上限値には科学的根拠は何もなく、これまでのナノ毒性研究でこの値より大きな粒子においてナノ特有の毒性が見出されているということを警告していた。

 欧州委員会は、これらの定義は、ある製品がナノ特有の健康又は環境評価を受けるべきかどうかについての意思決定を含めて、将来のナノ物質の規制を強化するものであると勧告している。

 しかし、もしこれらの定義が規制に適用されるなら、例えば、サイズが 95nm の粒子数が45% 、105nm の粒子数が55% からなる物質は、ナノ物質として規制されないということを意味する。別の言い方をすれば、サイズが大きい時には示さなくても、サイズが小さくなると同じ材質でも新たな毒性を示すことが知られているナノ物質について、この定義に従えば、たとえ、ほとんど半分近くの粒子がナノサイズであっても、それは安全評価やラベル表示の対象とならないということを意味する。

 これらの粒子サイズを持った成分を使用するサンスクリーン、化粧品、食品、塗料、洗浄用品、布地添加剤、その他の製品の製造者等は、その物質がバルク(大きな粒子)形態で使用されていた場合には、新たな安全性評価を実施することも、成分が”ナノ”であることを示す必ことも、求められない。職場では、化学物質安全データシートがナノ特有の情報を提供することは期待されない。

 欧州委員会は定義の中で、この"抜け穴"について、"環境、健康、安全、又は競争力に関する懸念について正当化される場合には、50%以下の閾値にしてもよい"と述べているが、実際にはそれは無力である。あるナノ物質が危害を及ぼすだけでなく、さらにサンプル中の粒子のある特定の分率が危害を及ぼすことを人々が証明するのは、非常に大変なことであり、実際には不可能である。

 不確実性、安全科学のギャップ、ナノ物質の多様性、実生活での暴露についての情報の欠如があるので、特定のナノ物質に関連した危害を示すことは極めて難しい。そのような危害を引き起こすサンプル中のナノ粒子の分率を特定することは現在の科学的知識をはるかに越えるものである。

 地球の友オーストラリア(FoEA)はまた、欧州委員会が定義の中で100nmという上限サイズを支持したことを非常に懸念している。サイズが100nm以上の粒子でもナノ特有の毒性を示す(研究の引用1及び引用2)ことを認識して、地球の友オーストラリアを含む世界のNGOは、300nmのサイズまでの粒子をナノ物質の定義に含めるよう要求していた。何人かの上席毒性学者もまた、サイズのより大きなナノ粒子がナノ特有のリスクを及ぼすことを明確にしている。(例えば、2009年のケン・ドナルドソン教授の英国貴族院宛の書類)。

 ナノ製品の製造者らが、この狭い1-100nmというナノ物質の規制のための定義を悪用して、彼等の製品を再調整するであろうことはありそうなことである。我々は、いくつかのヨーロッパの化粧品会社と北アメリカの生体物質の会社が、1-100nmのサイズの物質に求められることになるであろう表示と安全評価の義務を逃れつつ、より大きなナノ物質(すなわち100nm以上)の新規の光学的、化学的、及び生物学的特性を利用するために、彼等の製品を再調整しているということを聞いている。

 この定義を支持するという欧州委員会による決定に対し、我々は今、ナノに特化した規制の開発が、新たなナノリスクから人々と環境を確実に保護することができるかどうか疑問である。

 バイオテクノロジーに対する世界中の反動に続いて、科学と技術のガバナンスにおける公衆の信頼低下が、新規技術に対する政府のアプローチを再考をするよう促しているように見える。一連の終わりのないワークショップと会議は、”何が悪いのか”を検証するためにささげられてきた。

 遺伝子組み換えの経験を繰り返すことを避けるために、政府は、ナノテクノロジーへの公衆の上流からの関与、健康と環境リスクの早期からの管理、基本的な安全リスクとともに社会的及び倫理的局面への対応という前例のない約束をした。今回は、技術開発は産業側の利益を反映するだけでなく、公衆の選択と優先、そして、”バランスを正しく取る”という約束に導かれるであろうと我々は確信していた。

 英国の王立協会の上席科学者らと世界的再保険会社スイス・レはすでに2004年に、ナノテクノロジーに対する強い予防的な行動を声を大にして求めていた。王立協会は、ナノ物質は新たな化学物質として規制され、製品中で使用される前に安全評価が行なわれ、義務的な表示が行なわれ、工場と研究所室ではナノ物質を危険なものとして扱うことを要求していた。

 スイス・レ社は、ナノテクノロジーが、曝露後数十年してから明らかになる深刻な危害により、アスベストの悲劇を繰り返すことを警告した。スイス・レ社は、”ナノテクノロジーの確立から生じる社会への危険の観点から、そして科学の周辺に不確実性が現在、広くいきわたっているなら、予防原則がどのような困難にも適用されるべきである”とする警告を明示的に行なった。

 欧州委員会の定義は、ナノテクノロジー・リスクの予防的管理に対する主張をあざけるものである。科学を産業権益に売り渡したと見られることを避けたい国は、この定義の採択もまた避けるべきである。

欧州委員会2011年10月18日 ナノ物質の定義に関する勧告:
http://ec.europa.eu/environment/chemicals/nanotech/pdf/commission_recommendation.pdf
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/eu/EC_RECOMMENDATION_Nano_Definition.html

欧州環境事務局のプレスリリース:
http://www.eeb.org/EEB/index.cfm/news-events/news/nano-definition-too-narrow-says-eeb/

新規の及び新たに特定された健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR)の助言: http://ec.europa.eu/health/scientific_committees/emerging/docs/scenihr_o_032.pdf


訳注:世界のステークホールダーの意見
Veille Nanos / EUROPE - Adoption of the new definition of nanomaterials by the European Commission: first reactions and analyses
Veille Nanos:市民の立場からナノに関する情報を提供するフランスのウェブサイトであり、同サイトが紹介する下記ステークホールダーの意見にリンクを張リました。


化学物質問題市民研究会
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