2012年6月27日(水)〜7月2日(金)プンタデルエステ、ウルグアイ
水銀条約第4回政府間交渉会議(INC4)
IISD 報告書 抄訳


情報源:International Institute for Sustainable Development (IISD) Monday, 5 July 2012
SUMMARY OF THE FOURTH MEETING OF THE INTERGOVERNMENTAL NEGOTIATING COMMITTEE TO PREPARE A GLOBAL LEGALLY BINDING INSTRUMENT ON MERCURY
27 JUNE - 2 JULY 2012
PDF版HTML版

紹介:安間武 (化学物質問題市民研究会)
掲載:2012年7月9日 INC4 レポート、セクション A, B, C, D
更新:2012年7月10日 セクションE, F
更新:2012年7月13日 セクションG
更新:2012年7月15日 セクションH
更新:2012年8月4日 セクションI, J
更新:2012年10月9日 INC4 の簡潔な分析 (12/10/09)
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/INC4_CACP/INC4_IISD_Report.html

INC4における本会議での討議を報告したIISDの報告書の一部を抜粋/抄訳して紹介します。

  項目
  ■INC4 レポート (12/07/09)
  ■セクションA 序文 (12/07/09)
  ■セクションB はじめに (12/07/09)
  ■セクションC 供給 (12/07/09)
  ■セクションD 水銀と水銀化合物の国際貿易 (12/07/09)
  ■セクションE 製品とプロセス (12/07/10)
  ■セクションF 人力小規模金採鉱(ASGM) (12/07/10)
  ■セクションG 排出と放出 (12/07/13)
  ■セクションH 保管、廃棄物、汚染サイト (12/07/15)
  ■セクションI 財源と技術的及び実施支援 (12/08/03)
  ■セクションJ 意識向上、研究と監視、情報伝達 (12/08/03)
  ■INC4 の簡潔な分析 (12/10/09)


水銀の世界的な問題点の簡潔な歴史
(省略)


INC4 レポート

 ウルグアイの子ども向けの短いパソコン・アニメーションの上映と、地域の子ども聖歌隊の合唱の後、INC議長フェルナンド・ルグリス(ウルグアイ)は、水銀は全ての人々の現実に適合されるべき世界的な解決を正当化する世界的な問題であると強調して、水曜日(6月27日)に会議を開会した。地球環境ファシリティ(GEF)最高執行責任者(CEO)兼評議会議長 Monique Barbut はいくつかのGEF水銀プロジェクトについて語り、GEFの第6回補充協議が現在行われていることを述べ、INCが水銀条約に必要なリソースに関してGEFにメッセージを送ることを検討するよう求めた。UNEP事務局長アキム・スタイナーはビデオメッセージで、最初の場所から動いて”テーブルの端まで行く”よう、交渉担当者らに求めた。ウルグアイ外務大臣ルイス・アルマグロは、水銀リスクから環境と人の健康をを守るために適切でダイナミックな制度を確立するために、INC5及び最終段階に向かって大きな歩幅で進むよう参加者に求めた。

 地域グループではまず、テンアメリカ・カリブ・グループ(GRULAC)は、特に拘束力があり自主的な(binding and voluntary)アプローチ;水銀使用に対する実行可能な代替によることを含んで規制措置を協力して実施できるような現実的なアプローチ;そして全ての開発途上国による遵守を可能とするような適切な財政的メカニズムを含む条約を支持すると述べた。中国とともにGRULACは、共通であるが差異のある責任原則を、国際POPs廃絶ネットワーク(IPEN)とゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(ZMWG)は汚染者負担原則を含めるよう、求めた。

 欧州連合(EU)は、大気排出、保管と廃棄物、及び遵守に関する提案を示すと述べた。アジア太平洋グループは、諸国の、特に開発途上国と小島嶼開発途上国(SIDS)の異なる能力を反映するために、効果的で現実的であり、自主的及び義務的(voluntary and mandatory)アプローチを取り入れた条約を求めた。キューバに支持されたジャマイカは、条約案の異なる部分で小島嶼開発途上国(SIDS)及び後発開発途上国(LDCs)の必要性に便宜を図ることの必要性を強調した。

 アフリカグループは、特に健康面(第20条bis)に関する条文を保持すること支持し、アフリカが”投棄場所”となることを防ぐために水銀含有廃棄物の輸出を管理するためのより良い国際的な取り組みを求め、具体的な削減目標のための強制的な義務を支持した。

 東欧グループはINC会合間の作業結果を歓迎し、これらがINC4における議論のベースとして取り上げられること希望すると述べた。

 アラブ・グループは、オイルとガスは水銀の著しい排出源であるとみなすことはできないと述べ、この点についてINC4で決着させるための議論を要求した。

 各国代表団およびNGOsもまた主要な懸念の論点を強調した。アメリカは条約の範囲内の全ての源からの大気排出を含めるよう求めた。IPENは、大気だけでなく、全ての媒体への水銀排出に対応し、水銀含有製品に対するより安全な代替を支持することを求めた。インドは、雇用の創出の必要性と健康及び環境の保護とのバランスが取れた、異なる水銀源への、一貫した、しかし柔軟性のあるアプローチを求めた。

 メキシコは実施方法に関する明快さの必要性を強調した。中国は、全ての開発途上国に対する財政メカニズムの重要性を強調し、スリランカは堅実な技術移転と適切な財政的援助の重要性を強調した。中国、インドネシア、キューバは独立した財政メカニズムを要求した。

 フィリピンは水銀含有製品の貿易は前回のINC以来、3倍近くになっていると強調し、貿易業者に責任を持たせ、彼等に廃棄処分費用を価格構成の中に含めることを求める貿易規制措置を要求した。ナイジェリアは、水銀を使用しない製品と水銀含有製品の引き取り制度の促進を要求した。チリは、柔軟性のある規制措置と共に、保管を含んで、アクセス可能で経済的に実行可能な利用可能な最良の技術と環境的に最良の実施(BAT/BEP)を求めた。ゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(ZMWG)は、特に水銀について”有害物質貿易をやめ”、一次水銀採鉱を廃止することを求めた。

 コロンビアは、自国が世界で最も水銀汚染された場所のひとつであることに言及しつつ、特に強い遵守メカニズムの採用と、批准を促進するために、非締約国との貿易の禁止を強く求めた。

 健康関連問題に関し、メキシコとチリは、人の健康に対する明示的な言及を含めることを支持した。世界保健機関(WHO)は、特にワクチンを冷蔵する能力のない諸国での重要な公衆健康キャンペーンとしてのチメロサール含有ワクチンの価値を強調する組織と、脆弱な集団の水銀を使用しないワクチンへの権利を認めることを求める組織との間に見解が分かれ、本会議でその使用についての議論がなされたワクチン中のチメロサールに関する規制的考え方に関する文書に注意が向けられた。歯科アマルガムに関しては、世界歯科連合(World Dental Federation)は適切な代替なしに短期に禁止することは長期的に健康影響を及ぼすであろうと警告した。国際歯科研究協会(International Association for Dental Research)は、現状の代替の欠陥を強調した。この主張とは反対に、水銀を使用しない歯科医療世界連合(World Alliance for Mercury-free Dentistry)はアマルガムの代替の利用可能性を強調し、国際口腔治療及び毒性学アカデミー(International Academy of Oral Medicine and Toxicology)はアマルガム代替品は最終使用者に同じコストで提供できると述べた。国際歯科製造者協会は同様に、歯科材料の環境的に適切なライフサイクル管理における経験を力説した。


水銀に関する世界的な法的拘束力のある条約の準備

 INC4は、本会議及びコンタクト・グループでドラフト条約条項 (UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3) (訳注:当研究会による日本語約版)の完全な精読を完了し、関連する条項の順に詳細を詰めた。下記のサマリーは 審議を記述し、それぞれのドラフト条項をINC4での決定事項としてまとめたものである。


■セクションA 序文

 水曜日にルグリス議長は、序文をINC5での討議まで残しておくことを提案し、INCは同意した。序文は全体がカッコつきであり、共通であるが差異のある責任原則及び健康と技術移転への言及を含んでいる。


■セクションB はじめに

水曜日にルグリス議長は、この部分をINC5での討議まで残しておくことを提案し、INCは同意した。彼はコンタクト・グループが彼らの作業に関連する定義に対応するであろうが、第2条(定義)はINC5で討議されるであろうと述べた。

第1条 目的
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3)は二つのオプションを含んでおり、ひとつは人の活動に由来する水銀放出から人の健康と環境を保護(protect)することを求めており、カッコつきで世界的な人間の活動に由来する水銀の大気、水、陸地への放出を最小にし、実現可能な場合には、最終的に廃絶することに言及している。もうひとつのオプションは、財政的及び技術的協力を通じて、リスク削減戦略の情報普及を促進することにより、水銀暴露による人の健康と環境に及ぼす有害影響を防止(prevent)することを提案している。

第1条 bis. 他の国際的な合意との関係
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3)はカッコつきであり、水銀条約と他の関連する条約との相互支援に言及している。

第2条 定義
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3)は条約中の主要な技術的用語に対応しており、利用可能な最良の技術(BAT);環境的に最良な慣行(BEP);環境的に適切な水銀、水銀化合物、及び水銀添加製品の保管についてカッコを含んでおり;条約の下で締約国に許容される用途に関する二つのオプションを含んでいる。


■セクションC 供給

 このセクションは、セクションD(国際貿易)に関連しており、以下のように討議された。


■セクションD 水銀[と水銀化合物]の国際貿易

 水銀供給と国際貿易に関するセクションは土曜日の本会議で議論され、カール・ブラハ(チェコ共和国)とアブドラー・アルラシード(サウジアラビア)を共同議長とするコンタクト・グループに引き取られた。同グループは土曜日と日曜日に会合を持ち、その審議を供給と貿易のための法的条文案を持つEU会議室ペーパー(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.7)に基づいて行った。

 事務局はドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3)中で、異なるオプションを持つ第3条(水銀供給源)、第4条及び第5条(国際貿易)及び付属書A(水銀供給源)と付属書B(国際貿易措置の対象となる水銀と水銀化合物)を含むことに言及しつつ、セクションCとDを提示した。EUは供給と貿易に関する提案(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.7)を示して注意を喚起したが、それは第3条、4条、5条をひとつの条項に統合し、付属書AとBを削除し、特に、各締約国は一次水銀採鉱を”許してはならない(shall not allow)”ことを求めた。EUの提案は国家の水銀ストックの目録に関する新たな第4条を提示している。

 アメリカは、自身の提案の概要を説明したが、それは一次採鉱を禁止することを含む簡単な文言からなっている。

 討議において、アフリカグループ、スイス、フィリピン、ノルウェー、日本、オーストラリアは一次採鉱を廃止することを支持した。アメリカは、締約国が許容される用途のための水銀を利用できることを確実にするために、柔軟なアプローチを採用する一方で、既存及び新たな一次採鉱の廃絶を支持し、環境的に適切な管理と処分を確実にするためにその他の供給源を特定することを支持した。アフリカグループは、代替の雇用を創出するための措置および、水銀ストックをもつ締約国のための財政的及び技術的援助を求めた。チリは、採鉱を禁止するためにMEAを使用することに反対し、その代わりに一次採鉱からの水銀を制限することの採用を提案した。中国は、許容された製品や塩化ビニル・モノマー(VCM)製造のようなプロセスのための水銀供給を確実にするための必要性を強調しつつ、水銀採鉱に関して、特に既存の鉱山に柔軟性を求めた。コンタクト・グループの討議では、少数の代表者らがいくつかの開発途上国で一次採鉱禁止の実施は困難であるという懸念を表明し、これらの諸国に柔軟性を与えることを考慮した。

 他の主要な水銀供給源に関して、ノルウェーは供給は廃止されるべきであると述べたが、日本は特定の用途については管理された供給を維持すること、及び水銀と水銀化合物の明確な定義を求めた。ノルウェーとイラクは、水銀と水銀化合物の国際貿易を管理するためにPIC手続き(訳注:事前のかつ情報に基づく同意の手続)を支持したが、カナダは、ストックホルム条約の下で用いられる”負荷の少ない”アプローチを好むとして、支持しなかった。フィリピンは、将来の条約事務局により維持される公的に利用可能な記録をもつ仲介業者とその他の関係者のために貿易認可システムを求めてIPENに支持されたが、中国の反対にあった。IPENは不法貿易の検討を強く求めた。

 特定の活動での副産物として放出される水銀及び水銀化合物の処分に対する要求に関して、いくつかの国は、このセクションの全体を削除することに賛成した。その他の諸国は、このことはいくつかのリサイクル活動に影響を及ぼすと強調して、非鉄採鉱と精錬操業をリストすることに反対した。ある参加者は、リストされている活動は著しい水銀供給源であり、締約国は条約の目的を達成するために過剰な供給を防ぐために働くべきであると述べつつ、この節(パラグラフ)の維持を強く求めた。

 非締約国との貿易に関して、多くの代表者は原則としてそのような貿易は禁止されるべきであり、この条約の下に厳格に管理されるべきとする条項を支持した。少数の他の国は、非締約国との貿易禁止の一般原則を支持することは出来ないと述べた。オーストラリア、カナダ、及び他の国は、WTO法の下の締約国義務と一貫性がなくてはならないと述べた。

 同グループはまた、人力小規模金採鉱(ASGM)の貿易関連面を考慮し、ASGMコンタクト・グループによって作成された文言中に含まれるASGMでの使用のための水銀貿易に関して3つのオプションを討議した。討議はASGMでの用途のための水銀貿易は許されるべきかどうか、もしそうなら、どのような条件の下で許されるのかという点に焦点を当てた。ある地域グループは、ASGMにおける水銀供給を管理することの難しさを強調し、一方もうひとつの地域グループは、当該締約国のための許容用途免除にしたがった実施が行なわれないなら、ASGMでの水銀禁止を支持するとした。同グループは、ASGMグループによって提示されたカッコつき文言をそのまま残した(以下のセクションF 第9条のASGMに関する結果を参照せよ)。

 月曜日の本会議において委員会(INC)は、コンタクト・グループ共同議長によって作成された同グループの議論をまとめた会議室ペーパー(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.28)を検討した。共同議長ブラハは、この報告書は第3、4、5条に関し簡素化した文言からなり、付属書AとBを削除したと述べた。彼はカッコはほとんど全てのパラグラフに残っており、委員会はこの文言を初めて討議したのだから、このことは予想されたことであると述べた。INCはこの修正された文言はドラフト・テキストにおけるセクションCとDを置き換え、INC5におけるさらなる討議のためのINC4最終報告書に添付されるべきことを決定した。

第3条 供給
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.28) は、全体がカッコつきとなっており、特に特に下記を含んでいる。
  • ”水銀”と”水銀化合物”の定義のためのオプション
  • 一次水銀採鉱を禁止するための要求、又は金属水銀の製造を禁止する見解をもって一次水銀採鉱を”規制するための措置を採択する”ための要求、又は一次水銀採鉱からの水銀または水銀化合物の”[許容用途のためのものを除く]”輸出、販売、又は流通を禁止するための要求を含んで、一次採鉱に関する規制措置のためのオプション
  • 水銀供給の主要源を特定し、これらの供給源からの全ての水銀が環境的に適切な方法で処分される、又はもし許容用途のために使用される又は輸出されることが意図されているなら、環境的に適切な方法で保管されることを確実にするための要求
 このテキストはまた、PIC手続きによること含んで、締約国と非締約国との貿易を管理するための代替オプション含んでいる。

第4条 水銀ストックの国家目録
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.28)は、同グループにより討議されておらず、また全体がカッコつきとなっており、その領土内の1ヶ所又はそれ以上の場所で50トンを超える水銀、水銀化合物、又は安定化水銀のストックをそれぞれ持っている締約国はこれらのストックを記録し監視する目的のための国家目録を確立しなくてはならないと規定している。この目録は、条約が発効次第、最初の目録は特にストックの場所と総量(トン表示)に関する情報を含んで、提示されなくてはならないであろう。目録は定期的に更新され公開されるであろう。

第5条
 この条項は第3条と統合された(上記を見よ)。


■セクションE 製品とプロセス

 セクションE は金曜日(6月29日)に本会議で議論され、バリー・レビル(オーストラリア)とデービッド・カピンドゥラ(ザンビア)を共同議長とするコンタクト・グループが、第6条(水銀添加製品)、第7条(水銀が使用される製造プロセス)、第8条(許容用途免除及び容認用途)、及び第8条bis(開発途上国の特別な状況)に対応するために立ち上げられた。このコンタクト・グループは、日本、ジャマイカ、ロシアによる提出文書に基づき第6条と第7条に集中して討議したが、この文書はINC3とINC4の間の作業をまとめたもので、”ポジティブ・リスト”と”ネガティブ・リスト”アプローチを一緒にしたものである(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.1)。また会合では、事務局により提示された”可能性のある過渡的措置に関する文書”(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/6 )(訳注:当研究会による日本語訳版)も検討した。

 このセクションにおけるアプローチに関する一般的コメントで、ジャマイカは全ての締約国に適用できる包括的な仕組みを求めたが、対応すべき製品の範囲を明確に定義し、製品とプロセスの変化に遅れずについていく見直しメカニズムを含める必要性を強調した。ラテンアメリカ・カリブ海グループ(GRULAC)とニュージランドは、代替品が開発され、利用可能となるのに合わせて水銀添加製品の段階的な廃止を求めた。ニュージランドは、煩雑ではなく国家のアプローチに適応できる実行可能性があり機能する輸出入制度の必要性を強調した。中国は、他の国は水銀製品とプロセスを後に残して”高速列車”に乗って行くが、中国はまだ”牛車”に乗って行くと警告しつつ、柔軟性と現実を知ることの必要性を強調した。彼はVCM(塩ビモノマー)製造における水銀を半減するという中国の計画を強調し、スリランカとともに、規制措置は伝統的な薬品で使用される成分を除外すべきであると述べた。いくつかの開発途上国は水銀を使用しないプロセスを採用するための能力が十分でない国への特別の配慮の必要性を強調した。ゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(ZMWG)は水銀添加製品と水銀使用プロセスの禁止を求めた。アフリカグループは製品とプロセスに関する提案を提示して水銀を使用しない歯科医療世界連合(World Alliance for Mercury-free Dentistry)により支持され、水銀添加製品はアフリカに輸出されないことを確実にする必要性を強調した。

 議論の中心となった主要な論点は、管理すべき製品及びプロセスを、主要な水銀用途だけに対応する”ポジティブ・リスト”に含めるのか、または、特定の用途では許容するが一般的には製品及びプロセス中での水銀使用を禁止する”ネガティブ・リスト”に含めるのかという点であった。

 スイスは、2012年4月に東京で開催されたINC間会合の結果(当会注:東京ペーパー)に基づくノルウェーとの共同提案を提示し、アフリカグループ、IPEN 及び セーフマインド(SafeMinds) が”ネガティブ・リスト”アプローチを支持した。それは製品とプロセス中での水銀使用を一般的に禁止するが、特別の場合には許可するというものである。アメリカとカナダは、主要な水銀用途だけを規制目標とする”ポジティブ・リスト”アプローチを支持した。アジア太平洋グループは、この地域の多くの諸国は猶予期間をもつポジティブ・リスト・アプローチを望み、”新規”製品の定義の明確化を求め、塩素アルカリ製造における水銀の廃止を支持した。韓国は、ポジティブ・リストに基づく”ハイブリッド・アプローチ”を支持し、過渡的措置が不遵守を防ぐのに役立つと述べた。日本は産業プロセスにおける水銀の一般的禁止を強く支持した。

 EUは、水銀条約は免除を含めるべきではないと述べ、フィリピンと共に、どのような許容用途免除も数量と期限で制限されるべきであり、厳格な見直しと管理メカニズムの対象とすべきであると述べた。

 代表者等はまた、特定の製品での水銀使用を議論した。WHOは、歯科アマルガム中での水銀使用とワクチン中でのチメロサール(訳注:殺菌作用のある有機水銀化合物)の使用に関する見解を示し、国際小児科学会とともに、混合ワクチンの代替は冷蔵が必要であり、高価になるので、多くの途上国では実行可能ではないと言及した。チメロサールを”沈没しつつある船”と呼び、”毒性のないワクチン”の利用を求めて、人権団体である”水銀を使用しない薬品連合(Coalition for Mercury-Free Drugs)”は、脆弱な集団が水銀に曝露することを防ぐ措置をとるようINCに求めた。

 世界歯科連合(World Dental Federation)と国際歯科研究協会(International Association for Dental Research)は、個別の国情が考慮されるなら、歯科アマルガムの使用の削減を支持するとした。セーフマインド(SafeMinds)は健康分野、特に医薬品及び歯科産業での水銀使用の禁止を求め、フェイズダウン・アプローチを支持した。欧州照明企業連合(European Lamp Companies Federation)は、”主流”照明機器での水銀制限は可能であると述べた。

 INC4の最終日、コンタクト・グループ共同議長レビルは、同グループは第8条及び第8条bisに対応する時間がなかったことに言及し、事務局がINC5での作業を容易にするために、それまでの間に関連文書を圧縮し単純化することを提案した。共同議長レビルは、同グループにとっての”最大の課題”は、INC4の開始時点にあった著しい数の未解決の政策(方針)にあり、条文案からカッコを取り除く前に広範な議論が必要であったと述べた。彼は多くの政策課題は残ったままであることに言及したが、妥協の精神が同グループが製品をリストするひとつのアプローチに集中することを可能にしたと述べた。

 第7条に関して共同議長レビルは、同グループは付属書Dにどのプロセスが含まれるべきかに関し、又は、例えば触媒中の水銀量を例として引用しつつ、カテゴリーの中で適切な特殊性のレベルに関して合意に達しなかったと述べた。

 月曜日(7月2日)、第6条及び第7条と付属書CとDを含むセクションEの修正文書(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.31)が本会議で示され、INCは会議報告書にそれを添付することに合意した。

第6条 水銀添加製品
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.31)は、多くのカッコがついており、世界的な利用可能性、入手可能性、及び技術的実行可能性についての考えに基づき、また各国特有の必要性を考慮に入れて、INCがテキストを草稿するであろうことを示す柱書き(chapeau)を含んでいる。このドラフト条項は、製造、輸入、輸出の制限;組み立て製品;新規製品;付属書Cでの製品リスティング(第6条1項の対象となる製品);報告;締約国による更なる取り組み;除外;及び歯科アマルガムに関する項を含む。付属書Cもまた、カッコが残っており、製品のリスティングに対するさらなる討議が待たれる。

第7条 水銀又は水銀化合物が使用されている製造プロセス
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.31)は、いたるところがカッコつきとなっており、使用制限;施設に対する措置;塩ビモノマー(VCM);新たな施設;情報交換;付属書Dの見直し(水銀又は水銀化合物が使用されている製造プロセス);及び定義の明確化によって構成されている。付属書Dの中で、第7条の下で許容されない製造プロセス、許容用途免除の可能性、及び廃止期日にカッコがついている。

第8条 許容用途免除[及び容認用途]
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.31)は、INC4では検討されなかったが、二つのオプションを含んでいる。ひとつは締約国が”許容用途(allowable-use)”免除を登録する手続きを規定しており、他のもうひとつは、水銀使用への代替の採用のために合理的な時間を許すよう設計された”必須用途免除(essential-use exemptions)”を規定している。

第8条bis 途上国の特別な状況
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.31)は、INC4では検討されなかったが、どのような開発途上締約国にも規制措置への遵守を10年間遅らせる権利を与えるとするカッコ付き条文を含んでいる。


■セクションF 人力小規模金採鉱(ASGM)

 水曜日(6月27日)、ルグリス議長はセクションF(人力小規模金採鉱)を本会議に導入し、INCはドラフト・テキストを完成させるために、ドナルド・ハンナ(ニュージーランド)とフェリプ・フェレイラ(ブラジル)を共同議長とするコンタクト・グループをINC3に続き、再度立ち上げた。コンタクト・グループは水曜日と木曜日に会合を持ち、第9条(ASGM)と付属書E(ASGM)の修正版を生成したが、それらは木曜日に本会議で発表され、最終的に法務グループに送られた。

 コンタクト・グループでの討議の間に、代表者等は第9条のテキストを分析し、合意が達しやすいであろう付属書中の項目から着手し、ASGM(付属書E)に関して国家行動計画(NAPs)に含めるべき要素を討議した。なかんずく、参加者等はASGMの国家行動計画(NAPs)は、子ども達と妊娠可能年齢の女性、特に妊婦を含んで脆弱な集団の水銀曝露を防ぐ戦略を含めなくてはならないということに同意した。彼等はまた、締約国はASGMにおける水銀使用を削減し、実行可能な場合には廃絶するための措置をとらなくてはならないということに同意した。本会議では、ナイジェリアが、ASGMが”重要ではないとはいえない(more than insignificant)”時には、それが決定されたならASGMに関する国家行動計画(NAPs)を策定する義務について言及しつつ、基準が開発されるべきかどうかを決定することに関する議論を強く促した。

 土曜日(6月30日)に、法務グループは第9条と付属書Eに関するテキストを提示した。共同議長スーザン・ビニアズ(アメリカ)は、報告義務のタイミングを決定することとともに、”処理(processing)”と”使用と消費”のような言葉の範囲を定義する必要性に言及した。INCはこの修正テキストを会議の最終報告書に添えることに同意した。

第9条 人力小規模金採鉱
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.20) は、締約国が鉱石から金を抽出するために水銀アマルガムが使用されるASGMとプロセスのための水銀と水銀化合物の使用を削減し、実行可能なら廃絶するために適用しなくてはならない措置を特定している。ASGMが”重要ではないとはいえない”これらの締約国は、国家行動計画(NAPs)を策定して実施し、彼等の実施の進捗に関して報告することが必要であろう。

 条項には、ASGMで使用する水銀の国際貿易に関して、3つのオプションがあり、それらの全てにカッコがついている。最初のオプションは、そのような貿易を例外として可能とする許容用途免除としてASGMを分類する内部のカッコ付きで、ASGMで使用する水銀の貿易を禁止する。二番目のオプションは、もし全鉱石アマルガム化及び他の実施を除外するために行動がとられるなら、そのような貿易を許す。三番目はASGMで使用される水銀について禁止を自主的に課している締約国との貿易を禁止する。この条項と付属書Eの下における措置の実施は、財源と技術的及び実施援助に関する規定に従属するとする項もまた、カッコつきである。

付属書E ASGMに関する国家行動計画(NAPs)に含まれるべき要素
 ASGMのための国家行動計画(NAPs)に関する付属書Eは、NAPsに含まれるべき行動を確立しており、それらには、国家目的と削減目標;人力小規模金採鉱者と彼らのコミュニティの水銀への暴露に関する公衆衛生戦略;及び脆弱な集団、特に子どもと妊娠可能年齢の女性、なかんずく妊婦のASGMで使用される水銀への暴露を防止するための戦略が含まれる。水銀及び水銀化合物のASGM及び処理(processing)の用途への流用を管理する又は防止するための戦略もまた、そのような水銀の輸入に適用するかどうかに関してはカッコがついたままである。


■セクションG 排出と放出

 木曜日(6月28日)に水銀の大気排出と陸地及び水への放出の問題が本会議で議論され、ジョーン・ロバーツ(イギリス)とジュアン・ミゲル(フィリピン)を共同議長とするコンタウト・グループに引き取られた。同グループは、木曜日から土曜日まで会合を持ち、二つのオプションを検討した。第一のものは分離された第10条([非意図的]大気排出)と第11条(水と陸地への放出);第二のものは統合された第11条alt(非意図的排出と放出)と付属書F([非意図的]大気排出)である。

 木曜日にINC3コンタクト・グループ共同議長ロバーツはINC間(INC3と4の間)に作成された排出と放出に対応する二つの可能性あるアプローチを記述した文書を紹介した(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/5)(訳注:当研究会による日本語訳版)。”アプローチA”は、各国の状況を反映するための柔軟性を許しつつ、排出を管理及び/又は削減するために特別の措置をとることを締約国に義務付けるものであり、”アプローチB”は、排出を管理及び/又は削減するために各国が決定した措置を作成することを締約国に義務付けるものであると、彼は述べた。

 EUは、共同議長の文書中の概念を規定するための提案(訳注:大気排出関連を規定する会議室内ペーパー(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.4))を説明したが、それは主要な要素としてBATを採用し、第10条と付属書Fのための新たな条文案を提案するものであった。インドは、中国との共同提案(訳注:大気排出関連を規定する会議室内ペーパー(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.11)を提示したが、それはアプローチBを奉じるものであり、柔軟性と共通ではあるが差異のある責任を強調した。彼は、石炭火力発電は開発にとって非常に重要であることを強調した。アフリカグループは、アプローチAを支持し、規制措置の実施のために新たな財源と技術的支援を要求した。アジア太平洋グループは、同地域の多くの国はアプローチAを支持し、”[非意図的]大気排出”に関する付属書Fを含んで、共同議長の文書に含まれていない要素の検討を求めた。ラテンアメリカ・カリブ海グループ(GRULAC)は、大気排出と陸地及び水への放出を全体的な方法で対応するために、ひとつの条項に統合する提案(訳注:会議室内ペーパー(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.12)を行なった。

 水銀排出とBATに関し、アメリカは新たな排出源のためのBATの使用は柔軟性のあるアプローチを反映するものであり、既存の石炭火力プラントの閉鎖を求めないと述べた。ノルウェーは、締約国の電力需要を認め、BATはかなりの排出削減を達成する重要な手段であると述べた。カナダは、大気排出を削減するための行動を記述する堅固な条項を支持し、削減を測定するためのベースラインの必要性を強調した。イラクはサウジアラビアとともに、BATの実施のために開発途上国への援助の必要性を強調し、本条約の下に規制されるべき水銀排出源としての石油とガス分野を除外することを求めた。

 水銀排出に関して日本とスイスは水と陸地への主要な放出に焦点を当てるよう促し、一方アメリカは、全ての締約国は全ての排出源からの大気排出を削減するよう求めた。IPENは、全ての媒体への排出と放出が対応されるべきであると述べた。ゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(ZMWG)は、ひとつの媒体から他の媒体への移動が管理されなくてはならず、もし含まれるなら、閾値が開発される必要があると述べた。イヌイット北極評議会(Inuit Circumpolar Council)は、北極圏の集団は世界的な排出と魚からの水銀に曝露しており、水銀の排出と放出を削減するための強い規制措置を採択するよう代表者らに強く促した。

 コンタクト・グループでは、締約国は大気排出を”削減(reduce)”すべきなのか、”管理(control)”すべきなのか;目録の開発は義務的なのか、もしそうなら財政的及び技術的援助の対象となるのか;BATはある閾値を越える新たな大気排出源について義務的なのか、又は、ある柔軟性が許されるべきなのか;大気排出は、陸地及び水への放出と関連して、又は別個に対応されるべきなのかが、議論の焦点であった。同グループは、合意に役立てるためのBATを定義し、付属書F([非意図的な]大気排出)と、ことによると付属書G(陸地及び水への水銀放出源)で規定されるであろう源についてより明確にする必要性を明らかにした。

 小さな技術サブグループがこれらの問題に関して条文案を作成することに同意し、BAT、付属書F及び付属書Gに関する3つのノンペーパーを同グループに提示した。同グループは、いくつかの未決事項を除いて、BATの定義については合意に達し、陸地と水への水銀放出源に関する情報ギャップを明らかにした。

 規制措置に関して、いくつかの諸国が、締約国は条約の”志(ambition)”として排出と放出を”管理(control)又は削減(reduce)”することを求められるべきであるとする懸念を表明した。BATに関して、少数の諸国は、大気水銀排出を削減するために新規の設置にBATを実施する要求への参照について懸念を表明し、二つのアプローチがあることを明確にする条文が導入された。すなわち、BATを実施する義務をもった”直接的”アプローチと、国家実施計画(NIPs)を通じて行動を決定する”間接的”アプローチである。ひとつの国は、もしもっと柔軟性のあるアプローチが用いられるなら、NIPsの主要成果としての環境的利益に参照がなされるべきであると強調した。参加者はまた、財政的援助、技術移転、及び能力構築への参照を含める可能性について討議した。

 日曜日(7月1日)、共同議長クナはBATの定義についての提案(訳注:(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.23)に注意を喚起したが、それは全体論的に水銀の大気、水、陸地への排出と放出に対応したものであると彼は述べ、それは3つのカッコが残っていた。INCはカッコ付きのない条文を求めてこの文書をリーガル・グループに送った。月曜日(7月2日)の本会議で、委員会は、排出と放出に関するコンタクト・グループの議論を共同議長がまとめた提案、及びBATの定義についてリーガル・グループによるレビューを受けた提案を検討した。

 チリは、メキシコとアルゼンチンとともに、共同議長のまとめの中にあるラテンアメリカ・カリブ海グループ(GRULAC)の立場、すなわち新規及び既存の大気排出源は異なった扱いがなされなくてはならないこと、及び付属書A(排出)中で特定されている非鉄金属排出源は個別にリストされるべきこと;について明確にするよう求めた。委員会は、これらの提案はチリにより修正されたように、INC5でさらに検討するためにINC4報告書に添付されることになった。アルジェリアはドラフト条約テキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3)に含まれる、資源利用を放棄した国が保有する水銀ストックの補償に関する規定を提案に含めるよう強く促した。ルグリス議長はアルジェリアのコメントはINC4報告書に含まれるであろうと述べた。

 月曜日(7月2日)の本会議で、共同議長ロバーツは、コンタクト・グループもまた、INC5への準備として、閾値に関する情報、及び排出と放出の源に関する情報の必要性を特定したと述べた。共同議長の提案に関して委員会は事務局に対し、INC5までの期間に、水銀の大気排出源の閾値の設定のための基準及び/又は経験に関する情報;及びINC5の作業を促進するために技術的情報と排出と放出の源に関する情報を提供するよう、政府及びその他の機関に要請するよう要求した。事務局は、2012年8月31日までに参照情報の提出を求める要請を送付するとした。

BATの定義
 まだ多くのカッコを含むBATの定義((DTIE)/Hg/INC.4/CRP.27)は、BATとは、任意の国又はその国の領土内にある任意の施設のための経済的及び技術的な考慮を検討しつつ、水銀の大気、水、陸地への排出と放出及び、全体としてのそのような排出と放出の環境への影響を最も効果的に”防止”又は”削減”し、それが実際的でない場合には、”削減”又は”管理”するこれらの技術を意味すると述べている。この条文はまた、”最良”、”利用可能”、”技術”という用語も定義している。INCで合意されれば、BATのこの定義は第2条(定義)に含められるであろう。

第10条及び第11条 排出と放出
 共同議長のこの件に関する報告書((DTIE)/Hg/INC.4/CRP.29)は、排出と放出に関するINC5におけるさらなる討議を促進し、INC4の議論のまとめを提供することが意図されている。それは下記の項目を含む。
  • 排出と放出の両方をカバーする条項
  • 大気への排出のための規制措置
  • 陸地と水への放出のための規制措置
  • 排出と放出の両方をカバーする更なる条項、すなわち在庫目録、報告、財源、技術移転、技術援助
  • 排出と放出のための条約テキストに関して、直接的アプローチと国家実施計画(NIP)に基づくアプローチを含んで、諸国により提出された提案の編集
  • BATを含んで、要求されるかもしれない定義のリスト
  • INC5での合意を促進するためのそれまでの可能性ある作業のリスト
 この文書は、この条約において共通の条項とするのかあるいは分離した条項とするかに関するどのようなINCの将来の決定をも侵害しないことを前提に、条項が共通であるような領域では排出と放出についての共通のテキストを、条項が異なるような他の領域では分離したテキストを含んでいる。


■セクションH 保管、廃棄物、汚染サイト

 このセクションは水曜日(6月27日)に本会議で議論され、水、木、金曜日にアン・ダニエル(カナダ)とアドエル・シャフェイ・オスマン(エジプト)を議長とするコンタクト・グループにより議論された。コンタクト・グループの議論はドラフト条約テキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3)に基づいた。

 第12条(廃棄物水銀以外の環境的に適切な[暫定的な]水銀の保管)に関して、EUは、締約国が水銀含有廃棄物の環境的に適切な保管のための要求に合意することができる特定の領域を示唆する提案を提示した。アフリカグループは、義務的な目録とサイト特性化要求を含めること及び地域社会の意識向上を求めた。定義に関してチリは、定義は条約の初めの部分に含めるべきと提案し、一方日本とオーストラリアはバーゼル条約との一貫性をの必要を強調した。スイスはコンタクト・グループに保管について定義することを求めた。非廃棄物水銀の環境的に適切な保管についての”ガイダンス”又は”要求”に言及する文言に関し、ある開発途上国グループは、”要求”は保管サイトを持たない諸国に不遵守をもたらすかもしれないと述べて、”要求”の採用に反対した。他の代表者等は拘束力のある要求は、締約国が水銀保管に対応するための明確なステップをとることに拍車をかけるであろうと示唆し、行動のための特別な要求を記述する付属書を含めるよう推し進めた。

 アフリカ・グループとともにアメリカは、商品水銀に関するガイダンスは未解決の問題であり、保管に関する地域的な協力の重要性に言及した。フィリピンは、INCに水銀の非締約国への移動に対応するよう求めた。IPENはゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループとともに汚染者負担原則を含めることを支持した。

 第13条(水銀廃棄物)に関して、定義に関わる事柄について合意に達することができなかったが、バーゼル条約の下に開発されるガイドラインを検討すること、及びこれらのガイドラインの廃棄物の定義を使用することに同意したが、それらのことはINC3後の会合間の期間に採択されていた。

 第14条(汚染サイト)に関して、イラクはこの問題に特別の注意を払うよう求め、IPENとともに汚染サイトの目録を作成するようINCに求めた。代表者等は締約国会議(COP)が汚染サイト管理の諸原則に関するガイダンスを策定する及び/又は採択するのかどうかについて議論した。いくつかの国は、定義されたガイドラインをCOPが採択することを希望し、他の諸国は自由なガイドラインがよいとした。

 コンタクト・グループの作業結果は、リーガル・グループに送られ、リーガル・グループは月曜日(7月2日)に本会議でセクションHに関する最終条文を発表した。ルグリス議長はこの条文案を会議報告書に添付することを提案し、INCは同意した。

第12条 廃棄物水銀以外の環境的に適切な暫定的な水銀の保管
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.32)は、水銀廃棄物の定義範囲を規定し、条約で許容される使用が意図される非廃棄物水銀と非廃棄物水銀化合物の保管に関し、締約国により採用されるべき措置についての文言を含んでいる。それは締約国に対し、非廃棄物水銀と非廃棄物水銀化合物の環境的に適切な保管のための能力構築を強化するために、適切なら、他の締約国及び関連する政府間組織及び他の団体と協力することを規定している。そのような水銀及び水銀化合物の環境的に適切な保管に関するガイダンス又は要求の採択に言及する文言はカッコ付のままである。

第13条 水銀廃棄物
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.32)は、バーゼル条約におけるの定義を適用するかどうかに関する文言はカッコ付となっている。それはまた、バーゼル条約の下に開発されるガイドラインを考慮しつつ、水銀廃棄物の環境的に適切な管理についての締約国の責任に関する文言、及び廃棄物施設の場所、設計と運用、及び最終処分前の適切な処理に関連する要求に言及しつつ、COPにより採択されるかもしれないカッコ付文言を含んでいる。

第14条 汚染サイト
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.20)は、水銀又は水銀化合物で汚染されたサイトを特定し評価するための適切な戦略を策定するよう努力する(endeavor)こと;及びCOPが特にサイトの特定と特性化に関するアプローチを含んで、汚染サイトの管理に関するガイダンスを採択すること;公衆の関与;人の健康と環境の評価−を求めている。汚染サイトを特定し、評価し、優先付け、管理し、適切なら修復するための戦略を策定し行動を実施することについて締約国が協力することを働きかける文言に関して、能力構築と財政的及び技術的援助の条項を含んで、これらの活動に言及する文言にはまだカッコが付いている。


■セクションI 財源と技術的及び実施支援 (12/08/04)
 セクション I は、木曜日(7月28日)に本会議に導入され、二つの討議に分けられた。ひとつは財源と技術的支援であり、もうひとつは実施と遵守であった。

財源と技術的支援
 この条項は木曜日(7月28日)に本会議に導入され、その後、共同議長フェリプ・フェレイラ(ブラジル)とヨハンナ・パイツ(スウェーデン) によるコンタクト・グループで木曜日から土曜日まで検討された。コンタクト・グループは、修正ドラフト・テキスト第15条(財源とメカニズム)、第16条(技術支援)、及び第16条bis(パートナーシップ)、及び財源と技術援助に関する概念的アプローチと可能性あるテキストの提案(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/4) (当研究会日本語訳)に基づき議論した。彼らはまた、イランによる技術移転に関して分離した条項を求める提案を討議した。

 INC間の共同議長アデル・シャフェイ・オスマン(エジプト)とパイツは本会議でこの条項に関するINC間作業に関して報告し、また第15条と第16条のための財源と技術援助に関する概念的アプローチと可能性あるテキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/4) (当研究会日本語訳)を提案した。

 コンタクト・グループでの作業後、合意されカッコつきのテキストを含むこれらの条項の修正版(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.24)が、技術移転に関する分離条項と共に本会議で発表された。月曜日(7月2日)の本会議で、ルグリス議長は、コンタクト・グループにより作成されたこれらの条項を会議報告書に添付することを提案し、承認された。

 第15条(財源とメカニズム)に関して、代表者等は財政メカニズムは単独とすべきか、又は既存の制度に依存すべきかについて討議した。GRULAC は、単独の財政メカニズムを求める提案を導入した。アフリカグループ、中国、ジャマイカ、フィリピン、ヨルダン、ゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(ZMWG)もまた専用の基金を支持した。日本は単独メカニズムに反対し、アメリカ、EU、ノルウェー、及びいくつかの先進国はGEFを用いることに賛成したが、その他の諸国は”既存のメカニズム”への参照を支持した。

 潜在的な基金又はメカニズムへの寄与に関して、日本及びその他の国は全ての締約国が基金に寄与すべきであると述べたが、ジャマイカ、ネパール、及びその他の国は、 後発開発途上国(LDC)及び小島嶼開発途上国(SIDS)は寄与する立場にないと強調した。アメリカは、全ての国の自主的な寄与を含める必要性を強調し、ヨルダンとアジア太平洋グループとともに、民間分野の寄与を動員することの重要性を強調した。ある開発途上国はINCが基金の割り当てのためのタイムテーブルを確立する必要性について強調した。アジア太平洋グループとアフリカグループもまた、条約発効前に利用可能な財源を求めた。アメリカとスイスは、基金の利用可能性を実施義務の条件とすることに反対した。ZMWGとIPENもまた汚染者負担原則と拡大生産者責任原則を引用しつつ、民間分野の関与を強く促した。

 第16条(技術支援)に関して、アルジェリアは、水銀生産をする途上国が条約の実施のためのコストを相殺するための能力構築支援と技術移転を求めた。コンタクト・グループにおいて能力構築と技術支援に協力するための締約国の責任が議論されたが、代表者等は義務が全ての国に適用されるべきなのか、先進国だけに適用されるべきなのかについて合意することはできなかった。また技術移転の提供は、これらの技術が通常、政府ではなく民間組織が保有しているので、知的所有権の懸念が生ずるであろうということの強調もあり、技術移転は”促進”されるべきなのか、又は”提供”されるべきなのかに関して見解が分かれた。技術支援を提供する方法に関して代表者等は、化学物質や廃棄物など他分野の多国間環境協定(MEAs)による協力と調整とともに、地域、準地域、及び国家レベルにおける協定又は引渡しメカニズムを通じての提供の規模を議論した。

 第16条bis(パートナーシップ)は、締約国によるパートナーシップの確立、パートナーシップに関する締約国会議(COP)ガイダンス、及びパートナーシップの枠組みを規定する。コンタクト・グループでは多くの代表者が、この条項は個別の条項ではなく、技術支援に関する条項に反映することができることを認めた。代表者等はこの提案に同意し、条約実施のために民間分野を含んで、パートナシップの重要性を認める文言を第16条に加えた。

 技術移転に関して、いくつかの開発途上国は、イランの提案は他の条約中で先例とされていると強調しつつ、条約の下における技術移転メカニズを確立する分離した条項にするというイランの提案を支持した。一方これに対して多くの先進国は、技術支援の下に技術移転を扱うという一般的なやり方を強調した。コンタクト・グループはまた、締約国会議(COP)が開発途上国が直面している技術的課題を考慮し技術移転を促進するために緊急に行動を起こすことを求めるオリジナルの提案に対する代替の文言を検討した。ある先進国は技術移転への対応について意見を保留すると述べた。この問題については合意に達せず、カッコ付のままとなった。代表者等は第15条及び第16条を反映するコンタクト・グループの議論の報告書をINC5における更なる討議のためにINC4報告書に添付することに同意した。

第15条 財源とメカニズム
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.24)は、条約の下における法的義務の実施のためのそのような財源の重要性を認めつつ、水銀に関する財源とともに財政メカニズムが採用する形態に関し非常に多くのカッコを含んでいる。この条項はまた、次の事項に目を向けている。開発途上締約国の寄与を反映するカッコ付条文のある財政メカニズムへの寄与;”遵守を可能にする活動の増加するコスト”に関連する基金の規定をもつメカニズムの機能に関する条文;及び、”いくつかの法的な義務の実施のための合意されたコスト”。それはまた条約に関連するメカニズムの構造に関するオプションを含んでいる。例えば、説明責任がありCOPの権限の下に運用する;独立した基金を含む;GEF又はひとつ又はそれ以上の既存の機関に委託する。

第16条 技術的支援
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.24)は、全ての締約国又は先進締約国だけが開発途上国に技術的移転/技術的支援及び能力構築を促進する又は提供すべきであるかに関してカッコを含んでいる。カッコはまた、地域、準地域、及び/又は国家レベルにおける協定及び/又は引渡しメカニズムを通じての提供に関して残ったままである(以前の第16条bis)。

第16条bis 技術的移転
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.24)は、全体がカッコ付であり、実施能力を強化するために、条約の下における開発途上国への技術移転のためのメカニズムの創設に関する提案を含んでいる。それはまた、水銀関連技術の代替の開発、及び締約国が技術移転を促進することに協力するためのオプションと機会の特定を求める代替の条文を含んでいる。

実施と遵守
 この問題は木曜日(7月28日)に本会議に導入され、共同議長ツオモス・コッカネン(フィンランド)とジメナ・ニエト(コロンビア) によるコンタクト・グループで金曜日から日曜日まで検討された。コンタクト・グループの議論は、ドラフト条約テキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3)に基づいていた。

 木曜日の本会議で事務局は第17条に関する二つのオプションを示した。すなわち、実施又は遵守委員会を設立するという”オプション1”、及び財政支援、技術支援、能力向上及び実施に関するひとつ又はそれ以上の委員会を設立するという”オプション2”である。オプション1を支持するEUは、条約のテキスト中で遵守委員会と財政メカニズムに同じ重みが与えられるべきであると述べ、日本は遵守委員会は速やかに設立されるべきであると述べ、スイスとアメリカは実施に焦点を当てるべきであると述べた。オプション2を支持する中国は、遵守メカニズムの文脈はその効果を決定するものであり、インド、ブラジル、キューバとともに遵守と、財政的及び技術的支援及び技術移転に関する約束の関連性を力説した。アルゼンチンは義務と要求される財源が合意される前に遵守を議論するのは早すぎるかもしれないと述べた。カナダは代表者等が遵守メカニズムの確立のための根底にある理由を検討するよう求めた。

 GRULAC、コロンビア、中国は、容易で、罰則がなく、対決的でないアプローチを強調した。多くの国は、他の MEAsからの教訓、特に化学物質と廃棄物分野からのものを考慮に入れてメカニズムを討議するよう求めた。代表者等は、採用されるであろうきっかけ、構成、意思決定及び措置に関する条項が、参照に関して、又は手続きの規則に関して、条約テキストの中で最良の検討がなされたかどうかを討議した。条約の下における義務を最終的なものにする前に、これらを議論することは早すぎるのかどうかに関して見解が分かれた。

 コンタクト・グループで代表者等は、特に条約がメカニズムと委員会又は委員会を検討するメカニズムを確立すべきかどうか、又は実施を促進すべきかどうかに関して合意することはできなかった。代表者等はまた合意によって条約テキスト中に含めることができる要素を特定することを目指して、”ビルディング・ブロック”として収束の、及び”箇条書き”としての分岐の問題を規定する”ノン・ノンペーパー”を議論した。”ビルディング・ブロック”は条約テキスト中に実施/遵守メカニズムの確立と、それは容易な特性のものであるべきとすることを含めた。次に、含めるべき要素のリストに目を向けたが、メカニズムの特性、委員会のメンバーシップ及びその適格性、トリガー、手続き、意思決定、実施の促進、会合、事務局支援を含んで、何も合意に達しなかった。コンタクト・グループは、議論に基づき、新たな第17条を草稿するために、共同議長のテキストに基づいて作業を行なった。

 月曜日(7月2日)の本会議でINCは遵守に関するコンタクト・グループの作業(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.26)は議事録に添付されることに合意した。

第17条 実施/遵守
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.26)は、二つのカッコ付オプションを含む。最初のものは、ひとつのメカニズムを確立し、締約国会議(COP)の付属組織としてひとつの委員会を含み、取り決め事項を採択する最初のCOP会合に仕事を割り当てるという条文に重厚にカッコが付いている。第二のものは、もしCOPによって決定されなければ委員会の委員、きっかけ、手続きの要素を提供するカッコ付条項とともに、メカニズムと付属委員会を確立するという同様な条項を含んでいる。カッコ付条文はまた、委員会の構成、及び、委員会勧告の採択のための手続きに関してそのまま残っている。テキストの幾つかのセクションにはコンタクト・グループでは協議されなかったという脚注が付いている。


■セクションJ 意識向上、研究と監視、情報伝達 (12/08/04)
 ドラフト条約テキストのこのセクションは、ドラフト条約テキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3)に含まれる第18条(情報交換)、第19条(公開情報、意識向上、教育)、第20条(研究、開発、監視)、第20条bis(健康面)、第21条(実施計画)、第22条(報告)、第23条(効果の評価)を含んでいる。本会議はこれらの問題を週を通じて検討した。アレジャンドロ・リベラ(メキシコ)とダニエル・ジーゲラー(スイス)を共同議長とするセクションJのコンタクト・グループが水曜日(6月27日)に設立されて、会合を持った。コンタクト・グループにより検討された条項のテキストは、一週間を通じての更なる仕上げのためにリーガル・グループに送られた。月曜日(7月2日)の本会議で、代表者等はコンタクトグループの作業の結果から得られたセクションJの新たなバージョンを採択したが、それはINC4の最終報告書に添付されるであろう。

 代表者等は、第18条と第19条を一緒に検討した。IPENとZMWGに支持されてEUは、水銀に関連する健康リスクに関連する情報は決して秘密とされるべきではないと強調し、他の化学物質関連条約や国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)と連携した文書を組み入れるよう提案した。日本は、化学的健康ハザードに関する情報を国際社会で直ちに共有することに関する文書を維持することに賛同し、アフリカグループは広範な情報共有アプローチを強調し、タンザニアはラベル表示要求に焦点を当てた。討議の後、INCは第18条及び第19条に関する修正テキストをリーガル・グループに送った。リーガル・グループは修正テキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.20)を本会議で示し、INCは議事録に添付することに同意した。

 第20条(研究、開発、監視)に関し、EUは、研究と監視のための条項は既存のプログラムの上に構築すべきと述べた。IPENは、監視はリスクある全ての集団に向け、食物と汚染サイトを考慮すべきであると強調した。WHOは、監視方法論の重複を避けるよう提案した。討議の後、INCは第20条に関する修正テキストをリーガル・グループに送付することに同意した。リーガル・グループは修正テキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.18)を本会議で発表し、INCはそれを議事録に添付することに同意した。

 第20条bis(健康面)に関し、GRULAC は、締約国は特に職業曝露の防止に関するプログラムを実施し、水銀曝露により影響を受ける集団に対し、健康介護への適切アクセスを確保しなくてはならないとする提案を行なった。アフリカ・グループといくつかの諸国及びNGOsは、この提案を支持した。IPENは、”脆弱な集団”を参照するよう力説し、国際インディアン条約協議会やその他もまた先住民を具体的に参照するよう求めた。

 ニュージランド、モルドバ、アメリカ、EUは、健康面に関する単独の条項は必要なく、条約の様々なセクションで健康面に対応する方がよいと述べた。カナダは、条約が人の健康に関する国家政府の責任の代わりをすべきではないと強調し、スイスと共に、この提案は条約の範囲を超えていると述べた。日本は、この提案と他の条項、及びWHOの作業との間に重複があると述べた。WHOは、どの締約国でも GRULAC 提案で述べられている国家レベルの支援を要求することができると述べた。

 コンタクト・グループの中で代表者らは、第20条bisに関する一般的な議論にかかわり、健康面に関する単独条項の必要性に関して見解が分かれた。いくつかの開発途上国は、健康面は、ASGMに関する付属書Eのような他の条項の下で最もよく対応されていると主張し、条文の中でWHOと国際労働機関(ILO)との協力を強調することを提案した。多くの開発途上国は、健康面に関する単独条項は健康規定の実施を優先付け、環境的に適切な水銀の管理への包括的なアプローチを確実にするであろうと主張した。そのような条項の主権の意味合いについての懸念に対して彼等は、提案されたテキストは強硬な義務を含んでおらず、むしろ対話を促進していると強調した。

 INCは、GRULACの提案(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.19)のカッコ付テキストをINC5での検討用に言及することに同意し、委員会はこの問題に関して初めの討議をしただけであり、そのテキストを協議したり、このテキストを単独の条項に含めるかどうかに関して合意に達したわけではないと説明する注釈をつけることを許諾した。INC4はまた、この件に関する非公式なINC間協議を持つことを支持し、新たなドラフト条項に現われ、またこのドラフト条約の他の部分にも現われるこれらの規定を特定するために、事務局に対してWHOと協力して文書を準備するよう要請することに同意した。

 第21条(実施計画)に関して、アメリカは批准に先立ち実施計画を準備する必要性を強調したが、一方EUとカナダは、国家実施計画(NIPs)は自主的であるべきと述べた。メキシコ、チリー、及びその他の国は、NIPsは国内での水銀使用の状態を診断し、有害性に対応するための行動を協議するために重要であると述べ、一方、ニュージランドは国家行動計画(NAPs)が既に条約テキスト中にあることを強調した。アルゼンチン、ブラジル、アフリカ・グループ、チリー、IPENもまた、開発途上国のNIPs策定のための財政的支援の必要を強調した。

 コンタクト・グループで、共同議長リベラとジーゲラーは条約の下における実施計画の役割に関する意見交換を主導した。いくつかの開発途上国は、実施計画の策定は実施の優先度を決め、例えば保健省と環境省、民間分野と市民社会を含んで、主要な組織を動員することができる本質的に重要な実施行為であり、国家実施計画(NIP)は財政支援を確保する上で重要な一歩であり、ドナー国が優先度を決めるために使用されると強調した。参加者等はまた、NIPsは全ての締約国に拘束力があるべきかどうか、及びNIPsのタイミング、とりわけ開発途上国にとって批准前にNIPsを完成させることの実行可能性に関して討議した。意見交換はまた、特定の条項の下での国家行動計画(NAPs)のための要求、及びどのようにしてこれらがNIPプロセスに関連するか関して、目を向けた。

 共同議長は、UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3中の第21条にリストされている二つのオプションからのテキストを保持している新たなテキストを導入し、共通の要素にしたがい、次のようにまとめた。計画の開発;意図の表明;文案のひな型及び基準;計画の更新と見直し;実施計画の伝達;国家利害関係者の協議;締約国会議(COP)の役割;締約国の社会的及び経済的状態。共同議長により編集されたこのテキストについての討議の後、同グループは、ドラフト条約テキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3)中の第21条のオリジナル版をINC5に送ることを選んだ。

 第22条(報告)に関し代表者等は、ドラフト条約中の第22条のための二つのオプションを削除した共同議長のテキストに基づき作業を行ない、報告の様式を決定する時に、報告に関する条項を実施するための開発途上国と移行経済国の能力は能力構築と適切な財政的及び技術的支援の利用可能性に依存するということを認めつつ、締約国会議(COP)への委託を議論した。

 いくつかの脚注とカッコを含む、議論から得られた第22条のための修正テキストは、最終の仕上のためにリーガル・グループに送付され、月曜日(7月2日)にINCはそのテキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.33)をINC5での検討用に会議議事録に添付することに同意した。

 本会議で、グアテマラ、EU、カナダは、第23条(効果の評価)中に含まれる条項を支持すると表明した。EUは評価基準と指標の採用を支持し、ストックホルム条約を良い事例として引用しつつ、INCが効果の評価に関して他のMEAsから教訓を得るよう求めた。カナダは、研究と開発は効果の評価への入力であり、行動の代わりとしてみなされるべきではないと強調した。

 第22条と第23条に関するコンタクト・グループの討議で、代表者等は定期的な条約の効果評価で検討されるであろう情報に関して議論した。参加者等は、財政的情報と遵守と実施に関する情報が評価の中で検討されるべきかどうかに関して同意しなかった。同グループは、使用する方法論と評価を実施するための手段を含んで概念的な問題と評価のタイミングについて議論した。同グループはまた、監視データの役割を含んで評価のための基準と方法論を議論し、テキストを作成したが、それは効果評価のための手はずを決めるというより、関連するMEAsの下における効果の評価を考慮しつつ、締約国会議(COP)が評価のための基準と方法論を採用するための規定であった。

 いくつかの脚注とカッコを含む、議論から得られた第22条と第23条のための修正テキストは、最終の仕上のためにリーガル・グループに送付され、月曜日(7月2日)にINCはそのテキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.33)をINC5での検討用に会議議事録に添付することに同意した。

第18条 情報伝達
 このドラフト条項(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.20)は締約国が、特に以下の情報交換に役立てるために規定する。
  • 毒性学的、生態毒性学的、及び安全情報を含んで、水銀と水銀化合物に関する科学的、技術的、経済的、及び法的情報

  • 水銀及び水銀化合物の製造、使用、排出、及び放出の削減又は廃絶に関する情報

  • そのような代替の健康と環境リスク及び経済的及び社会的コストと便益に関する情報を含んで、水銀添加製品、水銀が使用される製造プロセス、及び水銀又は水銀化合物を排出又は放出する活動及びプロセスに対する技術的及び経済的に実行可能な代替に関する情報

  • WHOとの密接な協力による水銀及び水銀化合物への曝露に関連する健康影響に関する疫学的情報
 人の健康と安全及び環境に関する情報は各国の国内法によれば秘密とみなされることができるかどうかに関し、及び貿易、製品とプロセス、研究、開発、監視、及び健康面を含んで、条約の他の部分における未解決の問題に関連する条項に関し、カッコが残っている。

第19条 公開情報、意識向上、教育
 ドラフト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.20)は、各締約国が、特に利用可能な情報の公開、水銀の健康と環境影響、及び水銀の代替への準備を促進し、人の活動を通じて放出又は処分される水銀及び水銀化合物の年間量の見積りに関する情報を収集し広く知らせることを規定する。

 カッコは、水銀曝露の影響に関する教育、訓練、及び公的周知に関連して脆弱な集団/リスクある集団の呼称とともに、貿易;製品とプロセス;研究、開発及び監視;及び健康面に関連するセクションの未決の条項のテキストに残っている。

第20条 研究、開発、監視
 ドラフト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.20)は、締約国は既存のネットワーク上に構築し、特に次のことに協力すべきと述べている。水銀と水銀化合物の使用、消費、人的活動による大気排出と水と陸地へ放出の目録;脆弱な集団と環境媒体中の水銀レベルのモデル構築と地理的に代表する場所の監視;環境的サイクル、移動及び歴史的な堆積からの再移動。商業及び貿易に関する情報への言及は、ドラフト条約の他のセクションが未決でありカッコ付となっている。

第20条bis 健康の側面
 ドラフト(NEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.19)は、INCはこの問題に関して初めての討議をしただけであり、そのテキストを協議したり、このテキストを単独の条項に含めるかどうかに関して合意に達したわけではないと説明する注釈をつけることを許諾した。それは締約国が特に、水銀及びその化合物への曝露に対して脆弱な集団/リスクのある集団を特定するためのプログラムを確立し実施すること;職業的曝露の防止に関するプログラム、勧告、及びガイドラインを実施すること;及び、水銀及びその化合物への曝露により影響を受ける集団に対する健康介護への適切なアクセスを容易にし、確実にすることを規定している。それはまた、締約国会議(COP)が、条約の下に科学的、技術的、及び財政的な資源を確保することを規定している。

第21条 国家実施計画
 ドラフト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/3)は、二つのオプションを示している。オプション1は、カッコ付の実施計画を締約国会議(COP)提出する期限とともに、下記をどうするかを含んでいる。
  • 締約国会議(COP)は、実施計画策定のためのメニュー形式のひな型を作成すべきか?
  • 締約国は条約の下に彼等の義務に合わせるための計画を開発し実施してもよい又はしなくてはならないか?
  • 締約国会議(COP)は、開発途上国からの実施計画のレビューと評価をし、計画中に示される活動に資金調達するために十分な財政メカニズムからの財源の準備を裏書しなくてはならないか?
 オプション2は、締約国が条約発効後5年以内に実施計画を策定し、研究と科学的及び技術的進歩からの発見を考慮しつつ、計画を更新することを検討することを規定する。オプション2はまた、締約国会議(COP)が実施計画策定のための基準を決定し、詳細な措置は締約国の社会的及び経済的状況を考慮して実施されなくてはならず、遵守は、締約国の必要と優先度についての自身の評価に従い、締約国における十分で予測可能で適切な財源の動員、技術移転、能力構築に求められる協力の準備を条件としなくてはならないと述べている。

第22条 報告
 ドラフト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.33)は、締約国は条約を実施するためにとられた措置に関して締約国会議(COP)に報告しなくてはならないということを明確にしている。実施計画の内容を検討するためのこれらの報告書を規定する参照はカッコ付のままである。この条項はまた、報告義務を含む条項をリストするためのカッコ付の場所確保(placeholde)を含んでおり、締約国会議(COP)は、他の関連する化学物質や廃棄物の条約との調整の望ましさを考慮しつつ、その最初の会合で報告書の提出時期と様式を決定するよう求めている。この条約を実施するための開発途上国と移行経済国の能力は、能六構築とt期せつな財政的及び技術的支援に依存する又は依存するかもしれないということを認める文言は、カッコ付のままである。

第23条 効果の評価
 ドラフト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/CRP.33)は、締約国会議(COP)が定期的に条約の効果を評価するよう規定している。評価を開始すべきは条約発効後、3年、4年、又は8年かに関してカッコが付いている。この条項は又、利用可能な科学的、技術的、及び経済的情報に基づいて実施されるべきことを規定している。またそれは財政的情報に基づき実施されるべきとする条文の周囲についている。それはまた、含めるべき情報のいくつかをリストしており、条約の所定の場所に規定されている財政支援、技術移転、及び能力構築の手はずの運用に関する報告書とその他の関連情報を含めるための情報を規定する文言の周囲にカッコが付いている。

 締約国会議(COP)によるこの目的のための基準と方法論の採択に関し、これらが締約国会議(COP)の最初の会合又は2回目の会合で採択されるべきか、及び基準と方法論は監視データの収集を含めるべきかどうかに関してカッコが付いている。


■INC4 の簡潔な分析 (12/10/09)
 「水銀に関する法的に拘束力のある世界条約」を制定するための第4回、そして最後から2番目の交渉に入るに当り、経験豊かな多くの代表者等は、10年以上前の残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約の交渉との比較を引き合いに出した。POPs交渉の間に生じた課題を反映させることで、何人かはINC4における小さめな課題には進展が見られるであろうと予測したが、一方2013年1月のINC5における交渉プロセスの結論に先立ち克服されるべき最も顕著な課題が明らかになってきた。実際にINC4の議事録はこれらの多くの期待で満ちていた。コンタクトグループは、いくつかの条項における”カッコ付”文言を推敲し、カッコを外すことに成功し、選択範囲を狭めたので、ある場合には急速な進捗が見られた。しかし、INC4ではまた、多くの延々と続く困難な議論が繰り広げられ、広い範囲で見解と利害への各国の強いこだわりが明らかになった。

 INC4の結論として、最も議論のある論点は、最終条約テキストに含まれるであろう3本の堅固な糸で結び付けられた難題、すなわち、実施と遵守に関するメカニズム;資金及び技術支援と移転のための条項;広範な規制措置である。この条約が水銀汚染の全ての形態と影響に対応する包括的な条約なのか、あるいは最も著しく世界的に影響を及ぼす水銀の汚染源だけをとらえるひとつのアプローチに焦点を合わせるのかについて、決定することを代表者らに求めつつ、これらの糸の全ては、条約の最終的な範囲に関する疑問に複雑に結びつけられていく。多分、中心的論点の実質的な検討を行なう前に条約の範囲を決定することの困難さを反映して、委員会は目的と定義に関する協議を最終交渉会合まで延期することに合意した。範囲の問題は、INC4では解決されないであろうことは初めから明らかなことであった。

 この簡潔な分析は、中心的論点の議論の背景にぼんやりと見えるこの範囲の問題が、水銀に関する法的拘束力のある条約を制定するための交渉にどのように影響を及ぼしているのかについて、検証するであろう。そして、この結び目をほどき、INC5における最終条約テキストに関する合意を可能とするために、目を向けられるべきことを議論するであろう。

中心的論点の結び目

 実施と遵守に関するメカニズム;資金及び技術支援と移転のための条項;広範な規制措置の間の相互関係は、どのようなひとつの問題に関する進展も他の問題の進展に依存しているということを意味しており、実際に、参加者らは、”全てが合意されるまでは、何も合意されたことにならない”という公理の引用をくり返し聞かされてきた。コンタクト・グループの込み合った厳しいスケジュールは、6日間の会合を最大限有効に使用させ、参加者のアイデアと対話を促進した。多くの場合、代表者らは問題の本質に迫り、お互いの立場を完全に理解することを確実にしようとしたので、問題の複雑さがテキスト、カッコ、選択、及び考えについての縺れ(もつれ)を導いた。多くの代表者等は、中心的論点に関する議長テキストを作成するという難しい仕事を任されたINC議長フェルナンド・ルグリスをうらやまないとコメントした。参加国及びコンタクトグループ議長並びに地域グループ間の協議を通じての会合間作業が、代表者らがこの結び目を解きほぐすことを可能にするために極めて重要である。

実施と遵守

 実施と遵守に関するコンタクト・グループは、他の世界的条約の下でこれらの問題に対するアプローチを策定する広範な経験を持つ代表者らを集めた。特に、締約国がいまだに不遵守手続きに合意しなくてはならない国際貿易におけるいくつかの有害化学物質と農薬のための「ストックホルム条約」と情報に基づく事前同意(PIC)手続きに関する「ロッテルダム条約」;及び条約採択後13年後の第6回締約国会議まで、実施と遵守を促進するためのメカニズを確立することに締約国が合意に達しなかった有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関する「バーゼル条約」がくり返し引用された。

 関連する条約におけるそのような経験は、促進的な条約テキスト自身の中の実施/遵守メカニズムを確立する概念への急速な合意を可能にした。しかし、この基本的な合意を超えて、この糸を他のもっと大きな問題の結び目にある他の糸に相互接続することが収束を阻害した。ある代表者等は、最終的な条約の他の条項は強く効果的な遵守メカニズムを確立することと関係がないと主張したが、他の多くは同意しなかった。そのようなメカニズムは、条約の最終的な範囲の下で全ての義務を取り扱うという合意があったが、資金の役割は、特に発展途上国によってなされた規制措置に関連する義務を伴う彼等の遵守は技術移転はもちろん資金及び技術援助の条項に関連する義務を伴う先進国の遵守が条件となるとする主張の結果、分裂的であった。よく練習したダンスのように、他の多国間環境条約の遵守システムの設計に豊富な経験を持つ何人かの参加者が、コンタクトグループ内に比較的効率的な作業をもたらした。しかし、資金と規制措置に関するグループ内でなされた遅い進展への公然の言及は、代表者等のあるものはINC5で合意されるかもしれないどのような最終的パッケージにも影響を及ぼすために用いることができる重要な取引材料として遵守の問題を見ていることが明らかした。

資金及び技術援助

 この多国籍環境条約の交渉は確かに、資金及び技術援助と遵守が主要な論点となった初めてのものではなく、遵守コンタクト・グループの交渉担当者らがストックホルム条約及びロッテルダム条約の下で直面した難題を回避しようとまさにしているように、資金と技術の援助に関する議論はに他の条約で確立された先例によって明らかに影響を受けた。INC4では、発展途上国と先進国の間の良く知られた意見の相違に誰も驚かされなかった。オゾン層破壊物質に関するモントリオール議定書の下の多国間基金のモデルに倣って、発展途上国は締約国会議の権限の下に自立型資金メカニズムの確立を求めたが、先進国は地球環境ファシリティを用いた協定を望んだ。この意見の相違にもかかわらず、資金と技術援助に関するコンタク・トグループは2012年4月にハンガリーのイナールチュ で開催された資金源及び技術援助に関する専門家の会合間会合で準備された概念的アプローチ上で構築する作業を開始することができた。

 資金援助の規模、展開している技術は、条約の範囲に関する代表者の決定と合意される規制措置の特性と時機に依存するということも、広く認識されている。この脈絡の中で、技術移転は激しい議論の焦点であった。代表者等は、水銀関連排出の制限に関する議論を、利用可能な最良の技術(BAT)及び新たな技術を開発しそれらを他の諸国に利用可能とする公的及び民間部門の役割とに関連付けた。

 この問題に関して非公式な協議が続くので、諸国は次のような主要な疑問に答えるために、もっと具体的な情報をINC5に持ちよる必要があることは明らかである。
  • 提案される措置と技術のコストはどのくらいか?
  • 増加コストはどのくらいであると見積もられるか?
  • 条約発効前に活動を可能にするために、どのような約束が求められるか?
  • 地域の健康と世界の環境を含んで、水銀条約の下でとられるべき措置の副次的利益(コベネフィット)は何か?
  • それらは、資金メカニズム及び措置の定義の中で、どのように説明されるのか?
 代表者等がINC5に持って行く答は、少なからず規制措置の選択に関して条約の範囲を決定するのに重要な役割を果たすであろう。そのような規制措置は、いくつかの歯科団体が追加コストなしに代替が利用可能であると主張をしている歯科詰め物のための水銀アマルガムの廃止から、産業プラントのもっと高いコストでの改造までの広い範囲にある。共通の土台を達成するために、ある人々は諸国は水銀管理のコストを検討するだけでなく、削減される水銀微粒子や大気汚染のような水銀削減技術の実施によりもたらされる副次的利益、そして回避できる水銀汚染の人の健康と環境のコストについても再考する必要があるかもしれないと主張する。

規制措置と対象となる活動

 同様に、どのようにして規制措置が義務付けられるかということは、資金に関する決定に大きく影響され、また、この条約が水銀に関連するリスクから人の健康と環境を成功裏に守る程度をも決定するであろう。規制措置及び対象となる活動は、他の多くの課題より決定が近い人力小規模金採鉱(ASGM)や廃棄物の保管と輸送に関連するいくつかの具体的な活動と義務を含んで、ドラフト条約案の多くの条項の中で目が向けられている。

 健康分野の討議、及びテキストを通じて健康関連の懸念を織り込むか、あるいは脆弱な集団の為に水銀関連健康の促進に関する国家計画の実施に関する独立した条項を含めるかどうか、に関する議論はINC4で特に感情的であった。健康影響に関連する規制措置は二つの明白な局面に分けられる。第一は、規制措置は製品中の水銀に依存している体温計やその他の水銀含有計器、及び保存剤として水銀含有チメロサールを使用するワクチンのような健康関連分野である。第二は、規制措置のための厳格さと期限が人の健康に関わる水銀排出の地域及び世界に及ぼすであろう影響である。これらの局面の両方は、遵守問題と資金問題が絡みあう。一番目は、代替ワクチン保存剤の利用可能性と価格的な手ごろさは、特に、病気のリスク増大を集団に曝さずにこの比較的マイナーな水銀源に対応するために重要である。二番目は、この条約が既に生じている水銀曝露の健康影響、特に脆弱な集団(妊婦、子ども、特定分野の労働者、及び先住民)に対応する程度は、潜在的に高い値札が付けられるであろうということである。これらの局面の両方において、他の政府間機関が重要となりそうであり、現在進行しているWHOによる活動を含んで、これらの局面に関する会合間作業の成果は、これらの課題に関する様々な決定の影響を明確にする情報を提供し、それにより参加者がどの行動を条約に含めることが正当かを決定するのに役立つかもしれない。

前進し、結び目を緩める

 代表者等がプンタデル・エステのコンラッド・ホテルのホールを離れるときに、多くの人々が集中した生産的な作業に1週間、関わったことに満足の意を表した。また同時に、彼等は、最終協議のための準備に”宿題をする”という圧力を認めた。何人かの参加者は、2013年の1月中旬にジュネーブで開催される交渉の最終会合への再召集に先立つ、非公式の会話の継続、会合間作業の実施、及び地域及び地域間の交渉への関与を強調した。

 2013年2月に開催されるUNEP第27回管理理事会/グローバル閣僚級環境フォーラム(GC27/GMEF)に交渉の結果を提出するというINCの本来の任務をもって、代表者等は全ての諸国の必要(ニーズ)に十分に対応し、それらに合致する一貫した措置をともなう明確な目的を提示し、既存の制度、取り組み、及びメカニズムに価値を付加し、意味のある環境と健康の便益を創出し、実施と遵守を促進する制度的な枠組みを適切に設けるパッケージを作り上げることに挑戦するであろう。彼等はまた、国家が条約の発効に備えるために必要な、暫定的な資金計画と技術的作業のようなメカニズムと活動の確立に取り組むであろう。条約の範囲が最終的に明らかになり、この交渉プロセスの文書を提供するのは、参加者が資金、規制措置、保健、及びその他の中心的課題への答に磨きをかけたときである。



化学物質問題市民研究会
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