UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/4
財源と技術援助に関する概念的アプローチと
可能性あるテキストの提案

財源と技術援助に関する専門委員会の共同議長により提出された

水銀に関する法的拘束力のある文書に関する政府間交渉委員会第4回会合(INC4)
2012年6月27日〜7月2日 プンタデルエステ(ウルグアイ)

情報源:UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/4, 24 April 2012
Proposal for a conceptual approach and possible text on financial resources and technical assistance
Submitted by the co-chairs of the expert meeting on financial resources and technical assistance
Punta del Este, Uruguay, 27 June.2 July 2012
http://www.unep.org/hazardoussubstances/Portals/9/Mercury/Documents/INC4/K1280939%20-%20DTIE-HG-INC-4-4.pdf

掲載:2012年6月8日
安間武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/INC4/INC4_financial_resources_technical_assistance.html

事務局による覚書

1. 第3回会合(INC3)において、水銀に関する法的拘束力のある文書に関する政府間交渉委員会は、第4回会合のための会合間作業で財源と技術援助に関する更なる討議が行なわれることに合意した。したがって第3回会合の間に確立された財源と技術的及び実施の支援に関するコンタクトグループの共同議長は、事務局と政府間交渉委員会の議長の支援及び専門家の会合からの助言を得て、ドラフト水銀文書の第15条(財源とメカニズムに関連する)と第16条(技術援助に関連する)のための概念的アプローチとその後の可能性あるテキストからなるを提案を作成するよう求められた。

2. 委員会に要求されて、財源と技術的及び実施の支援に関するコンタクトグループの共同議長、アデル・シャフェイ・オスマン氏(エジプト)とヨハンナ・リシンガー・ペイツ氏(スウェーデン)が、概念的アプローチとその後の可能性あるテキストからなるドラフトテキスト第15条と第16条のためのを提案を作成した。

委員会による可能性ある行動

3. 政府間交渉委員会は、財源と技術援助に関する議論の焦点として共同議長の提案を使用することを考慮したいと望むかもしれない。


付属書

財源と技術援助に関する概念的アプローチと可能性あるテキストのための共同議長の提案

背景

1. 第3回会合(INC3)において、水銀に関する法的拘束力のある文書に関する政府間交渉委員会は、第4回会合のための会合間作業で財源と技術援助に関する更なる討議が行なわれることに合意した。

2. 同委員会は、会合間作業の一部として、第3回会合の間に確立された財源と技術的及び実施の支援に関するコンタクトグループの共同議長である我々に対し、事務局と政府間交渉委員会の議長の支援及び専門家の会合からの助言を得て、ドラフト水銀文書の第15条(財源とメカニズムに関連する)と第16条(技術援助に関連する)のための概念的アプローチとその後の可能性あるテキストからなるを提案を作成するよう求めた。

3. 同委員会は、専門家会合は我々(共同議長)が指揮し、次のように5つの国連地域グループのそれぞれからの専門家が参加することに合意した。アフリカ地域から3人、アジア太平洋地域から5人、中東欧地域から2人、ラテンアメリカ・カリブ海地域から3人、西欧及び他の諸国から6人。

4. 財源と技術援助に関する専門家会合は、2012年4月11〜13日にハンガリーのイナーチュ(Inarcs)で開催された。委員会の権限に従い、専門家会合は各地域から、ブラジル、カナダ、中国、コスタリカ、デンマーク、ガボン、ハンガリー、インド、日本、ヨルダン、マレーシア、メキシコ、ノルウェー、ロシア、南アフリカ、英国及び北アイルランド、タンザニア、米国、欧州委員会が指名された。しかし、インドからの専門家は辞退し、残念ながら同会合に参加することはできなかった。

5. 同会合は、交渉ではなく、専門家は財源と技術援助に関連する問題を議論するために個人的な能力に基づき指名され参加した。非公式なものとして開催された同会合は、問題のより良い理解を涵養することを狙いとしていた。

6. この提案を作成する際の我々の目的は、どのような結論をも制限する又は予断するものではなく、将来の水銀に関する法的拘束力のある文書の下における活動のために財源と技術援助の条項に焦点をあてた議論のための基礎を提供することであった。

I. 概念的アプローチ

7. 将来の水銀に関する法的拘束力のある文書のための条項を開発するにあたり、管理理事会は決議25/5の中で、法的拘束力のある文書の下である法的な義務を効果的に実施するためには開発途上国及び移行経済国の能力は能力構築と技術的及び適切な財政的援助に依存することを認めつつ、特に能力構築と技術的及び財政的援助のための取り決めを規定する必要性を認めた。

8. 我々の見解では、財源と技術援助へのどのような概念的アプローチも、支援を必要とする活動と、いつその支援がなされるべきかを特定して対応する条項を含むべきである。それはまた、だれが支援を受け、誰がそれを提供し、どのようにそれが引き渡されるのかに目を向けるべきである。そのような概念的なアプローチはまた、財源は広範な資源から引き出すことができるであろうが、それらが求められ提供される公式な構造を提供する必要があることを認めなくてはならない。従って、財政メカニズムを開発する必要がある。共同議長は、財政メカニズムは、主権国家間の独立した協力の監視(oversight)又は水銀文書の実施に関連する活動に参加する又は民間分野間の監視を行なうことはできないけれども、それらの協力を提案した。そのような支援と援助は広範な協力と参加を促進する法的拘束力のある文書中の条項が役に立つであろう。

9. 概念的アプローチを開発するときに、我々はいくつかの主要な用語について以下のような理解に基づいた。

(a) 財源:この文書の下に水銀に関連する活動を実施するために利用可能な全ての資源。財源は財政メカニズムから利用できるものに限らず、特に国内資源、多国間及び二国間協力を通じて提供される資源、国家予算及び開発戦略の本流、民間分野の関与を含めることができる。

(b) 財政メカニズム:水銀文書の中で確立され、締約国に説明でき、それに導かれ、又はその権限下にあるメカニズム。そのメカニズムは基金を含むであろう。そのメカニズムはまた、他の外部支援からも構成され得る。

(c) 技術援助:特に従来の南北協力、南北及び他の協力を促進するための取り組みの支援、国家及び地域の能力構築、及び技術移転を含む技術的なことがらに関する支援。

A. 資金調達されるべきことに関連する規定

10. 水銀文書が締約国により満たされるべき義務を規定するということは明らかである。しかし、これらの義務を満たすことを目的とする全ての活動に財政的及び技術的援助の資格があるのかどうか、又はそれらのある活動だけが適格なのかという疑問がある。また、資金調達はそのような適格な活動の全コストを支払うのに利用されるべきなのか又はその一部なのか、そして資金調達が利用可能な程度は活動の種類に依存して変化するのかどうかという疑問もある。資金メカニズムを通じて資金調達されるこれらの活動及び、特に、国家の計画と法を通じて決定される(国家予算の)本流及び民間の関与のような、より広い財源を通じて資金調達される活動は、明確に特定されるべきである。交渉が継続しているこの段階では、何が適格なのかについて決定することは不可能である。しかし、下記の広範な分類が適格であり、更なる説明が必要に応じて政府間交渉委員会又は締約国会議により提供されるべきことを提案する。

(a) 適格国が水銀の課題の特性と程度を決定するのを可能とするための範囲決定作業として実施される迅速な評価のような法律に基づく活動。

(b) 国家レベルでのものを含む能力構築。

(c) 下記活動についての締約国会議によって定義されるべき合意された全コスト/合意された漸進的コスト(脚注1)。
 (i) ある法的拘束力のある義務を満たすための活動。
 (ii) 世界的な環境の便益を提供するその他の活動。

脚注1:”合意された全”("agreed full")コストと、”合意された("agreed ")コストは異なり、既存の多国間協定の間でも異なるかもしれず、更に討議され水銀文書の脈絡の中で明確にされることが必要である。

B. いつ資金調達が利用可能となるべきかに関連する規定

11. 締約国の必要は、彼等が準備する時と、その後に実施する時では、水銀文書について時間経過とともに、個別に及び集合的に変化することは明らかである。それに関し、共同議長は、予想される外交会議での水銀文書の採択とその発効までの間の暫定期間は批准の準備とその後の実施にとって重要であると考えている。財政メカニズムは文書の発効後のみに効力を発するということを念頭に置いて、共同議長は、採択と発効の間の暫定期間に利用可能な何らかの財源と技術援助の必要があるであろうと考えている。その必要性を認識して、暫定期間の財源と技術援助の規定のためのオプションは文書が採択される最終的決議(final act)の中で概要を示すことができる。そのようなリソースと支援は自主的な貢献と既存の制度を通じて提供される必要があるであろう。しかし、暫定期間の財源と技術援助を提供する選択された制度は、この文書のための最終的な財政メカニズムとなる制度を予断するものではない。

12. 水銀文書が発効し財政メカニズムが確定したなら、締約国となることを求めているが、まだ文書を批准していない国の資金調達の適格性についての検討がなされる必要がある。

13. 従って、我々は財源と技術援助の規定のために二つの主要な段階を特定する。

(a) 文書が発効する前の第一段階、例えば、諸国が批准により生じる義務を満たすための活動を実施するための準備をするのを援助するための迅速必要評価(rapid needs assessments)や準備プログラム(readiness programmes)を支援すること。

(b) 文書の発効後の第二段階、すなわち財政メカニズムが実施活動を支援するために専用の援助を提供することができるとき。

14. 批准後いつ財源が必要かという問題に目を向ける水銀文書の規定は下記を考慮すべきである。

(a) 条約の寿命を通じて変化する必要と状況に対応する十分な柔軟性のための必要性。

(b) 批准次第、実施を援助するために、文書発効後であるが批准前の非締約国による財政メカニズムの時限的利用を許すために、文書への署名のような基準の必要性。

15. 水銀放出の早期削減を達成し、水銀曝露の長期的な遺産を最小にするために、文書発効後の早い時期に、比較的十分な財源と技術援助を提供することが望ましいかもしれないということに留意してもよい。

C. 財源と技術援助をどのように利用可能とすべきかに関連する規定

16. 財源と技術援助は、開発途上国及び移行経済国が文書から生じるある法的義務を効果的に実施するのを支援するために提供されるべきである。実施のために利用可能な財源は財政メカニズムを通じて提供される財源に限定されることなく、特に、国内財源、多国間及び二国間基金、国家予算の本流と開発戦略、及び民間の関与を含む。

17. 我々の見解では、財政メカニズムは透明で、使用が簡単で、容易に利用でき、特定された必要に対して敏感で、基金の時宜を得た割り当てと支払いを確実にし、明確な適格基準を持つべきである。そのメカニズムはまた、締約国会議に対して説明でき、それにより又はその権限の下に導かれ、既存の制度又は既存の運用構造を利用すべきである。そのメカニズム内の基金は水銀文書のために単一基金又はその文書に特化した割り当てを持つ基金であり得る。基金は補充を統制する規則を明確に定義されべきである。

18. 我々は、適切なら既存の運用又はその他の準備の使用による運用コストの節約のような、その価値の認識を超える基金の可能性について、ここでは詳細には議論しない。

D. 誰が財源と技術的援助を受けるべきかに関連する規定

19. 我々は、財源と技術援助への概念的アプローチを、いくつかの義務の関連性に相違があるので、必ずしも全ての締約国が同じ水銀の課題を持つわけではなく、あるいは国内の能力及び関連する資源が異なるかもしれないので、必ずしも援助のための同じ必要性を持つわけではないという理解をもって開発した。

20. 資金調達のための適格性に関する規定は下記を明確にすべきである。

(a) 全ての開発途上締約国と移行経済締約国。

(b) 特定された必要性のための目標を定めた支援の必要性。

(c) 後発開発途上国及び小島嶼開発途上国の特別な状況及び必要性。

E. 誰が財源及び技術援助を提供すべきかに関連する規定

21. 共同議長は、財源と財政メカニズムとの間には区別があり、財源は財政メカニズムより広い範囲から生じるということを認める。水銀文書のためのどのような財政的解決も長期的には資金調達源の拡大が役に立つ。

22. 水銀文書の下に財政メカニズムに関連する財源と、例えば財源の監督能力が異なる民間分野との更なる区別を明確にする必要がある。

23. 多様な財源と技術援助は、適格国が水銀文書の下における活動の迅速で効果的な実施の最も適切な支援を見つけることを可能にする。

24. 財政メカニズムはまた、基金と同じ規則によって統制される二国間協力のような外部支援を含む。

25. 共同議長は、財政メカニズムは、民間分野が水銀使用を最小にし、水銀排出を削減するための環境規制を順守するコストを内部化するために、例えば二国間協力による資金調達により、又は締約国が立法と執行を準備するのを援助することにより、その他の支援の提供を促進することに役割を果たすべきであると信じている。

26. 上記に照らして、我々は誰が財政メカニズムの基金に貢献すべきかを決定するための規定は、全てを網羅したわけではない下記のリストに示される代替を考慮する必要があると考える。

(a) 能力範囲内にある全ての締約国。

(b) 自主的な資金調達などに適格でない締約国。

(c) an indicative scale of assessed contributions and others on a voluntary basisに基づく資金調達を受けることに適格ではない締約国。

27. 我々はより広い脈絡における財源と技術援助のための潜在的なリソースを下記に特定する。

(a) 財源
 (i) 特に先進国の役割に留意しつつ、能力範囲内での全ての国による基金の準備。
 (ii) 国家の貢献。
 (iii) 民間分野の関与。
 (iv) 地域開発銀行及び国際基金制度。
 (v) 化学物質と廃棄物分野の強化された協力と調整。
 (vi) 多国間開発機関/計画(プログラム)や権限内の活動などその他のソース。

(b) 技術援助
 (i) 自主的にそのようにすべき立場にある先進国締約国及びその他の締約国。
 (ii) 多国間及び二国間開発機関計画(プログラム)及び、民間分野の関与を含むパートナーシップなどの活動。

28. 上記の主要な領域を示すときに、既に述べたように締約国会議は主権国家間又は民間分野参加の独立した協力を統制することはできないということが留意される。

II. 第15条と第16条のためのドラフトテキスト

29. 上記で概説した概念的アプローチに基づき、第15条と第16条のドラフトを開発した。

30. ドラフト条項は、更なる討議と交渉のための焦点を提供することにより、政府間交渉委員会第4回会合における進捗をはかることが意図されている。このドラフトテキストは、必ずしも財政的及び技術的援助に関する最終テキストの一部となるかもしれない全ての要素を含んでいるわけではなく、また概念的アプローチで議論された全ての要素を含んでいるわけでもない。

31. 発効前の財源と技術援助のための規定は、最終決議(final act)の一部とするという我々の提案する概念的アプローチに従い、ドラフトテキストでは規定されていない。

A. ドラフトテキスト第15条:財源及びメカニズム

1. 開発途上国及び移行経済国がこの水銀条約の下に生じるいくつかの法的義務を効果的に実施するための能力は、能力構築と技術的及び適切な財政援助に依存する。

2. 財源は全ての締約国により、国内リソース、多国間及び二国間基金、国家予算の本流及び開発戦略、及び民間分野の関与を含んで、条約の下における活動の実施ための能力範囲で、利用可能となるようにされなくてはならない。

3. 財源と技術援助の規定のためのメカニズムは、開発途上締約国及び移行経済締約国が、この条約の下に彼等の義務を果たすのを支援するために、ここに確立される。

4. メカニズムは、締約国会議によって決定されるその他のコストはもとより、条約の下における活動の合意された漸進的コスト、能力向上のコスト、活動を可能とするコスト、条約の下に生じるいくつかの法的義務のための技術的及び財政的援助を満たす基金を提供しなくてはならない。

5. メカニズムは、締約国会議に対して説明できるものでなくてはならず、その最初の会合で全体的方針が決定されなくてはならない。

6. メカニズムは基金を含まなくてはならない。それはまた、多国間、地域、及び二国間の財政的及び技術的援助のような他の手段を含むかもしれない。

7. メカニズムへの貢献は、全ての締約国によりその能力の範囲で行なわれなくてはならない。

8. メカニズムは、民間分野を含む他のソースからの財源の提供を促進し、それが支持する活動のためにそのようなリソースからの外部資金調達を探さなくてはならない。

B. ドラフトテキスト第16条:技術援助

1. 締約国は、開発途上締約国と移行経済締約国に、条約の下で彼等がその義務を実施するの支援するために、技術的援助と能力向上を提供することを協力しなくてはならない。

2. 技術的援助は、民間分野の関与を含む地域及び準地域のデリバリー・メカニズム、パートナシップ、及び二国間及びその他の多国間の手段を通じて提供されるかもしれない。

III. 結論

32. 我々は、交渉はまだ行なわれている最中であり、(水銀)文書の下における義務に関連する問題はさらに解決されなくてはならないということを認める。我々が上述した概念的アプローチは、財源と技術援助のための必要性を満たすことに関する議論に焦点を合わせることに役立てることができる。我々はこのドラフト条項がこれらの問題に関する継続する交渉のための適切なベースを提供すると信じる。



化学物質問題市民研究会
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