UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/6
水銀添加製品及び水銀が使用される製造プロセスの
廃止に向けての可能性のある過渡的措置に関する情報

水銀に関する法的拘束力のある文書に関する政府間交渉委員会第4回会合(INC4)
2012年6月27日〜7月2日 プンタデルエステ(ウルグアイ)

情報源:UNEP(DTIE)/Hg/INC.4/6, 5 April 2012
Information on possible transitional arrangements pending phase out of mercury-added products and manufacturing processes in which mercury is used
Intergovernmental negotiating committee to prepare
a global legally binding instrument on mercury Fourth session
Punta del Este, Uruguay, 27 June.2 July 2012
http://www.unep.org/hazardoussubstances/Portals/9/Mercury/Documents/
INC4/4_6_transitional_arrangements.pdf


掲載:2012年6月5日
安間武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/INC4/INC4_possible_transitional_arrangements.html

事務局による覚書

1. 2011年10月31日〜11月4日までナイロビで開催された第3回会合(INC3)で、水銀に関する法的拘束力のある国際的協定書を準備するための政府間交渉委員会は、第4回会合で委員会の検討用に、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(訳注1)及び残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(訳注2)を含んで、第3回会合で述べられた考え方及び他の多国間環境協定に関する情報を含んで、現在使用されている製品及びプロセスに対処するに当り、水銀添加製品及び水銀が使用される製造プロセスの廃止に向けての可能性のある過渡的措置に関する情報を提供するよう事務局に要求した。締約国がそのような過渡的措置をどのように管理することができるかについてのオプションに関する情報もまた含まれることになる。事務局は委員会の要求に応えて本文書を作成した。

背景

2. 水銀に関する法的拘束力のある国際的協定書を作成するための政府間交渉委員会は、国連環境計画第25回管理理事会により、決議 25/5の中で製品中とプロセス中の水銀の需要を削減する条項を含む文書を作成することを付託されている。その決議は、提案される行動の移行期間及び段階的実施を可能とするために、適切なら、水銀を使用しない代替製品及び代替プロセスの技術的及び経済的利用可能性とともに、特定の分野の特性に合わせたアプローチを委員会は考慮すべきことを規定している。

3. 製品とプロセス中の水銀の需要を削減するための措置を検討する際に、第3回会合で委員会により検討されたドラフト・テキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.3/3, annex I) (訳注3)は、水銀添加製品のための4つのオプション、水銀が使用されるプロセスのための3つのオプションを規定した。第3回会合で、いくつかの製品の管理に関する過渡的措置又は免除を特定する必要性とともに管理が必要な製品とプロセスの範囲に関する議論があったが、製品中及びプロセス中の水銀の需要削減のための最良のメカニズム又は可能性ある過渡的措置のどちらに関しても合意に達しなかった。議論をさらに高めるために事務局は、水銀添加製品及び水銀が使用される製造プロセスの廃止に向けての可能性のある過渡的措置に関する情報を提供することを求められた。

4. 本文書の目的のために、考慮される移行期間は、条約発効から条約の下の全ての措置が全ての締約国によって施行され得る時までである。しかし、そのような措置が完了しないうちに製品の製造又は他のプロセス中での水銀の使用がなくなることがあるかもしれない。”過渡的措置”という言葉は、製品の製造及びプロセス中の水銀使用に関する管理及びそのような製品の製造及びプロセス中での使用からの放出を管理するため措置;水銀の使用が許されるかもしれない製品及びプロセスを特定するための措置;制度的な措置又は締約国会議で開発されるべき指針と共にそのような措置を実施するために必要な国内法の採択のような、その他の要求の特定の行動を含む。過渡的措置は条約発効時に適用され、締約国が条約の目的達成に向けて移行することを可能にする規制措置を考慮するであろう。それらは条約中で明記される措置及び締約国会議で決定されるべき措置を含む。

5. 可能性ある移行措置は以下で議論される。第T節及び第U節はそれぞれ、モントリオール議定書及びストックホルム条約で運用された移行措置に関する情報を提供し、第V節は水銀条約の下における移行措置に対応する考慮を議論する。

T. オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書における移行措置

6. モントリオール議定書は1987年に署名が開始、1989年1月1日に発効、それ以来数度の調整(adjusted)と改正(amended)が行なわれている。オゾン層保護に関するウイーン条約に対する議定書として採択された同議定書は、廃絶を最終目的として、オゾン層を破壊する物質の世界の放出量を公平に管理するための予防的措置を採ることにより、オゾン層を保護するために確立された。同議定書は、開発途上国の開発の必要性を念頭に置きながら、追加的財源と関連技術へのアクセスの必要性に対応しつつ、技術的及び経済的配慮を考慮することが意図されている。オゾン層を破壊する物質の最終的な廃絶に向けて取り組むために、規制措置は段階的な実施によるよう設計されている。

7. モントリオール議定書は、指定された基準年における製造と消費の比較に基づき、消費の廃止期間より少し長い製造の廃止期間をもって、管理された物質の製造と消費の段階的な削減と最終的な廃絶により排出を管理する。様々な管理された物質の廃止のスケジュールやその他の側面は、議定書の統制主体である締約国会議によって、議定書の調整(adjustments)の採択を通じて更新されている。締約国会議はまた、議定書の改正(amendments)の採択を通じて議定書の範囲に物質を追加してきた。締約国会議は、そのような調整や改正を採択するかどうか決定するときに、議定書評価委員会と技術的オプション委員会からの報告書を検討する。議定書は、必須用途(essential uses)や重要用途(critical uses)を含んで、その規制措置に対する多くの免除を規定している。

8. 議定書の廃止アプローチの下に、各締約国は定められた期間内に適用できる制限値に従うために規制物質の製造、消費、輸入、輸出を管理しなくてはならない。特定の状況の下で締約国は、事務局に届け出れば、他の国に製造許容量のある部分を譲渡(transfer)してもよい。

9. 議定書はまた非締約国との貿易に関する規制措置を含んでいる。その様な措置は規制物質の非締約国からの輸入の禁止を含み、禁止発効日は対象となる物質により変わる。さらに締約国はどのような非締約国に対しても規制物質の輸出を禁止されている。輸入と輸出の禁止はまた、もしそのような機器が封じ込め、回収、リサイクル、又は分解を改善するものでなければ、又は代替物質の開発に貢献するものでなければ、又は規制物質の排出削減に寄与するものでなければ、ある(certain)規制物質の製造に役立つ製品、機器、プラント、技術の国境を越える移動を制限する。これらの措置は、締約国が非締約国で製造される規制物質を無届けで消費することがないことを確実にするのに役立つ。

10. 同議定書は、製造と消費に関する規制措置の順守を10年遅らせることを許す開発途上国の特別な状況を反映する条項を含む。

11. 同議定書はまた、同議定書の規制措置の評価とレビューに関する条項を含むが、それは必要に応じて専門家委員会の設立を含んで、彼等のレビューのための時間枠とメカニズムを規定している。新たな規制措置の採択には、締約国会議による議定書の改正(amendment)が必要であり、そのような改正のためのどのような提案も、それが採択のために提案される会合の少なくとも6ヶ月前に締約国に提示されなくてはならないということに留意すべきである。締約国は、議定書を改正するための提案について、全員一致で合意に達するようあらゆる努力をすることを求められるが、もしそのような努力に失敗したなら、最後の手段として、出席し投票する第5条1節の適用国(parties operating)の過半数以上及び、出席し投票する非適用国(parties not so operating)の過半数以上からなる、出席し投票する加盟国の3分の2以上の賛成により採択してもよい。

12. 議定書の改正は批准されなくてはならず、批准していない国には効力を及ぼさない。これに対して、付属書(annex)の改正は、寄託者(Depositary)による告知から6ヶ月以内に明確に反対した締約国を除く全ての締約国に対し、採択のための寄託者(Depositary)による告知から6ヶ月後に自動的に発効する。議定書本体の改正に関わる付属書への改正については例外があり、この場合には議定書の改正が発効したときにのみ、効力を発する。

13. 上述の通り、モントリオール議定書の下にオゾン層破壊物質の製造と消費を廃止する義務は、締約国が、彼等の製造と消費の基礎レベルに比較して削減のある目標値を満たすことを求める。したがってこのことは、締約国が彼等の義務を果たしていることを示すために、十分な基礎レベルデータと年間の消費、製造、輸入、輸出について、監視し報告する能力を持つことを求める。規制物質の製造と消費を計算する方法は、議定書のテキストに規定されているが、それは製造、消費、輸入、輸出に関する報告のための要求である。

14. 議定書は開発途上国に対する財政的及び技術的支援の必要を認め、締約国会議が財政メカニズムを確立することを義務づけた。そのメカニズムは、他の多国間、地域、及び二国間協力と共に、モントリオール議定書の実施のための多国間基金からなり、第4回会合で締約国会議により確立された。この協定の下における資金調達は、オゾン層破壊物質の製造と消費の廃止に関わる全ての局面を含んで、議定書の義務を順守する適格締約国を支援するこを狙いとしている。

15. 全体として、モントリオール議定書は、個々の製品タイプの管理ではなく、個々の物質の製造と消費に目を向けた物質ベースの管理システムを規定する。それは、順守問題に目を向けることに強い関心を持ち、廃止義務を満たすためそれらの国を支援する重要な要素である、いくつかの(第5条)開発途上締約国に利用可能な財政的メカニズムを持つ。第5条国の実施遅延とともに製造と消費の段階的廃止を含んで、多くの過渡的措置が規定されている。議定書は、ある基準年のパーセンテージとして計算されたリスト物質の製造と消費の国家削減に焦点を当てている。それは、各国が特定の年間におけるリスト物質の国家使用量を知っていることを求め、それから規定された削減目標を満たすことを確実にするために製造と使用を注意深く追跡することを求める。初期の基準ラインを確立するために現状の監視と使用データの報告のために求められる情報は、ある固有のコストを負担して締約国によって収集されなくてはならない。

U. 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約における移行措置

16. ストックホルム条約は2001年に署名が開始され2004年に発効したが、2009年に多くの新たな物質を条約の下に管理される物質リストに追加することにより改正された。この条約は、人の健康と環境を残留性有機汚染物質から守るために確立された。

17. 同条約は、残留性有機汚染物質の非意図的な製造とともに意図的な製造と使用による放出を削減又は廃絶するための措置を含む。意図的に使用される物質については、条約は締約国が、それらの製造、使用、輸入、輸出を禁止する及び/又は廃絶するために必要な法的及び行政的措置を求めている。 それはまた、規制物質が環境的に適切な処分のため又は許可された用途のためだけに輸入され、環境的に適切な処分のためだけに、又は締約国に対する許可された用途のためだけに又は条約の規定に矛盾しない方法で取り扱うであろうことが確認された非締約国だけに輸出されることを確実にするための措置を締約国がとることを求める。新たな農薬又は新たな産業用化学物質のための管理及び評価スキームを持つ締約国はまた、条約で規定される基準を考慮しつつ、残留性有機汚染物質の特性を示す新たな物質の製造と使用を防止する目的をもって管理することが求められる。開発途上国のための財政的支援は財政メカニズムを通じて利用可能であり、地球環境ファシリティ(GEF)(訳注4)は暫定期間中の主要な実体である。開発途上国が条約における約束を効果的に実施する程度は、財源、技術的支援、及び技術移転に関連する約束の開発途上締約国による効果的な実施に依存することが同条約第13条で認められている。

18. 条約の付属書AとBは、条約の管理規定の対象となる二つの主要な物質グループをリストしている。すなわち、付属書Aは廃絶されるべき物質をリストし、付属書Bは制限されるべき物質をリストしている。締約国は意図的な製造からの放出を削減する又は廃絶するべき彼等の義務を実施するためにある時間が必要かもしれないという認識のもとに、条約は、締約国が登録してもよい特定の免除を含んで過渡的措置を含んでいる。これらの特定の免除は付属書A及びBで規定されている。加えて付属書Bは、付属書の規定に従って使用してもよい指定された物質のための”許容目的(acceptable purposes)”を規定している。

19. 特定の免除システムは、時限的に設計されており、全ての免除は、延長が要求されない限り5年後に終了する。延長を要求する締約国は、締約国会議による検討用に免除の継続必要の正当性を示さなくてはならない。締約国会議は、延長要求を検討するときに、開発途上国と移行経済国の特別な状況を考慮しつつ、最大5年の期間で免除を授与するかもしれない。締約国は、いつでも免除登録を撤回することが許され、ある免除のための登録をする締約国がなくなれば、その免除は消滅し最早使用されないかもしれない。

20. 付属書Aは、5つの部分に分かれている。パートTは、付属書の対象となる化学物質をリストしており、それらのいくつかに関連する特定の免除も示されている。パートVは物質の二つのグループに関連する定義を規定しており、パートU、W、Xは、条約の管理規定の遅延の影響を持ついくつかの物質に特有な条項を規定する。

21. パートTにそれらがリストされたときに、アルドリン、クロルデン、ディルドリン、ヘプタクロル、ヘキサブロモビフェニルエーテル、へプタブロモジフェニルエーテル、へプタブロモジフェニルエーテル、ヘキサクロロベンゼン、リンデン、マイレックス、PCBs、テトラ・ブロモジフェニルエーテルは特定免除の対象であった。しかし、2009年5月までに、アルドリン、クロルデン、ディルドリン、ヘプタクロル、ヘキサクロロベンゼン、マイレックスの免除登録をした国はなかったので、これらの免除は終了した。他のものは有効である。

22. 付属書AのパートUは、締約国会議のレビュー対象であるが、機器中(例えば、トランス、コンデンサー、liquid stocksを含むレセプタクル)の PCBs の廃止期限として2025年を設定している。付属書AのパートWは、ヘキサブロモビフェニルエーテルとへプタブロモジフェニルエーテルを含む成形品の環境的に適切なリサイクルのための免除を規定している。パートXは、テトラ・ブロモジフェニルエーテルとペンタ・ブロモジフェニルエーテルを含む成形品も同様である。両方の免除は締約国会議による定期的なレビュー対象であり、2030年より早く終結するとする同会議による決定がなければ、2030年に終了する。

23. 同条約の付属書Bは、継続の必要性を認めれた物質をリストする。現時点ではDDT(1,1,1-trichloro-2,2-bis(4-chlorophenyl)ethane)とペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とその塩類、及びペルフルオロオクタンスルホンフッ化物だけを含んでいる。そのようにする(継続する)ことを登録する締約国は、これらの物質を許容される目的のため及び付属書に規定される特定の免除に従い製造及び使用してもよい。締約国は世界保健機関と協議して、利用可能な科学的、技術的、環境的、及び経済的情報に基づき、少なくとも3年ごとに、疾病媒介管理のためのDDTの継続の必要性を評価し、またPFOS及び関連する物質の必要性を、第1回目を2015年までに、その後は4年ごとに、レビューする。

24. 全体として、ストックホルム条約は、特定の用途に焦点を当てた時限免除に従属する物質ベースの規制措置を採用している。この免除スキームは、締約国が当初の5年という期限を越えて免除を延長することを望まなければ締約国による詳細な情報の提出を要求しない。しかし、締約国は批准時に特定の物質の必要性を知っていなくてはならないのだから、条約への不順守となることを回避するようタイムリーなやり方で免除を登録することを確実にすることが求められる。免除延長のためのメカニズムは、代替物質の採用のための時間を許しつつ、登録する国がない場合の免除終了とともに規制物質への依存性を削減することの必要性に関する強いメッセージを提供する。特定の免除に加えて、ある長期の使用が求められそうであることが認められる場合には、規制物質の許容目的のための使用のための規定もある。これらの場合は、焦点は使用を最小化し環境への放出を制限することに置かれる。

V. 水銀添加製品及び水銀が使用される製造プロセスの廃止に向けての可能性のある過渡的措置に関する情報

25. 政府は製品及びプロセスでの水銀の需要を削減するために多くの方法を提案してきた。 提案されたアプローチの間には相違があるが、合意されたいくつかの領域もある。管理理事会決議 25/5と矛盾なく、政府は製品及びプロセスでの水銀の需要を削減するという彼等の意図を確認した。さらに、いくつかの用途について水銀添加製品と水銀が使用される製造プロセスの一時的な継続使用を許すために過渡期間が求められるであろう。過渡期間の長さは経済的及び技術的に実現可能な代替物質の利用可能性に依存するであろう。

26. 過渡期間の必要があるなら、政府は、この水銀文書が発効してから全ての締約国がそのような規制措置の全てを実施することが可能となるまでの間、水銀添加製品と水銀が使用される製造プロセスの規制措置を管理するための準備を考慮する必要があるであろう。過渡的準備の二つの異なるタイプが上述のモントリオール議定書とストックホルム条約ので述べられている。

27. この問題を水銀を含む製品の製造における水銀の使用と製品自身の使用とを分けて検討することが有益かも知れない。規制されるべき物質はひとつなのに水銀を含む製品はたくさんあるからである。これらの製品は限られた国でのみ製造されているにもかかわらず、非常に広く普及しており、貿易で自由に移動する。これらの水銀添加製品の多くはまた、”最終用途”製品ではなく、むしろ他の製品の要素である。従って、サプライチェーンの比較的早い時点の製品に着目することは最終用途の段階で対応するより簡単であろう。したがって、水銀添加製品の製造の規制はそのよう製品を規制するための措置の中に含めことができるであろう。

28. 代替物質利用可能性と共に、広範な水銀添加製品と水銀を使用するプロセスに関し、過去において情報が利用可能となっている(UNEP(DTIE)/Hg/INC.2/11 and UNEP(DTIE)/Hg/OEWG.2/7/Add.1を特に見よ)。水銀放出目録作成に着手してる国はあっても、その領土内で利用可能な水銀添加製品の全容に関する情報を完備している国はほとんどない。この知識の欠如とそのような製品の広範な普及は規制を難しくするであろう。多くの水銀添加製品と水銀使用プロセスについて実現可能な代替がある。しかし、特定の用途又は応用のためのそのような代替の適切性の周知は限られているかもしれない。

29. 現在のドラフト文書における水銀文書の発効に関する条項の下において発効は、30か国(又は50か国、又は他の数、参加国の選択による)の批准、受諾、承認、又は加入(accession)の文書の寄託日から90日後に生じるであろう。しかし、水銀文書の下におけるどのような個別国の義務も、その国の批准に基づき、その国について文書が発効するまで、生じないであろう。2013年に署名が開始されるこの文書について、他の条約における文書の発効の経験に基づけば、2016年の後半又は2017年以前に生じることはありそうもない。

30. 文書が発効するまでの時間は多くの有効な方法で使用することができる。政府は、その領土内の水銀添加製品と水銀使用プロセスについての知識を高めるために、また代替のための選択肢を調査するためにその時間を使うことができるであろう。彼等はまた、そのような製品の製造者に水銀を使用しない製品の需要増大に備えるよう働きかけるために使うことができるであろう。その時間はまた、現在は実現可能な代替がない水銀添加製品と水銀使用プロセスの代替に関する研究と開発のために使用することができる。

31. 製品中の水銀使用に関する規制を時間経過とともに段階的に導入することが必要であるという一般的な合意があるなら、発効前の期間のひとつの用途はストックホルム条約のもとに運用されているものと同様な免除スキームを実施することである。水銀の許容できる用途は、水銀文書の中、おそらく付属書の中で規定することができるであろう。締約国は批准時に免除の登録をすることを求められ、免除は裏づけ資料とともに締約国から事務局に提出された要求書を締約国会議が評価した後に延長することができるであろう。主要な検討すべき点は、水銀添加製品のための免除要求は製品が製造された国によって提出されるのか、又はそれが使用される国によってなされるのかということである。水銀添加製品は広範囲に普及し継続的に使用されており、多くの国でそれらの使用の全貌についての知識が不足しており、全ての国が条約義務を順守することを望むなら、製品が使用されている国に免除を求めると、多くの国が批准時に免除要求を提出するという結果になるかもしれない。このことは、そのような要求を提出する国と事務局の両方はそれらに対応する必要があるのでリソース影響があり、したがって条約実施のコストに加わることになる。

32. 水銀添加製品へのもうひとつのアプローチは、条約発効後の最初の数年間、全ての製品とプロセスの短期間免除を提供することであろう。このことは、批准後の製品に関連して条約の条項に従っていることを確実にする一方で、締約国がさらに継続する必要がある製品とプロセスを特定する機会をその後に与えることを許す管理的に簡単なメカニズムとなり得るであろう。免除は、(ストックホルム条約の下における免除と同様な方法で)免除の必要性を正当化するために要求国から提出された情報を評価した後に、免除は、定義され限定された期間、延長される得る。免除の延長は、事務局又は関連グループのどちらかによりなされる分析に基づき、締約国会議によって決定されるであろう。免除は最大期間、おそらく5年間、授与されることができ、登録する国がなければ終了する。このことは特に、多くの国が免除を求める可能性がある条約発効直後の期間に、免除プロセスを規制するための効率的でコスト効果のあるメカニズムとなる可能性がある。暫定的な免除に関して、強いメッセージを提供することが有用であると考えられるなら、初期免除期間は比較的短くし、免除要求は2回目の会合で締約国により検討されるということにすることができる。初期免除の範囲を広げることは批准時における締約国への要求を削減し、免除要求の提出を怠った時に締約国が不遵守状態になることを回避し、実施の初期段階で事務局への管理上の負荷を軽減することになるであろう。

33. 過渡期における製品及びプロセスでの水銀使用へのもうひとつのアプローチは、上記のアプローチと統合することができるが、水銀含有製品の製造とプロセス中での水銀使用による環境への影響を最小にすることに焦点を当てることであろう。そのようなアプローチは、水銀添加製品中の水銀削減に関する指針の開発と実施と、環境への放出を最小にするための製造における利用可能な最良の技術の使用に焦点を当てることができる。製造現場を持つ国の数が比較的少ないなら、比較的限定された数の国による行動の結果、顕著な世界的な便益をもたらすかもしれない。それはまた、寿命の尽きた製品が著しい環境汚染をもたらさないことを確実にするために水銀含有廃棄物の環境的に適切な管理に関する指針の実施と統合することができる。そのような管理原則は、どのような場合でも、既に寿命の尽きている製品を規制するために、条約の下で求められるであろう。

34. 最後に、過渡的期間へのひとつのアプローチは、モントリオール議定書の下に採用されたものと同じように開発することができる。このことは参加国が条約案の協議期間中に、特定の製品とプロセス中の水銀使用の削減のための初期目標に同意することを求める。目標が達成されるべき期日は絶対的な期限(すなわち特定の年)又は、条約案の発効後又は参加国にとっての発効後の特定年限のどちらかで規定することができるであろう。目標は締約国会議により定期的に見直される必要があるであろう。モントリオール条約の場合には、諮問団体(subsidiary bodies)が、締約国会議が目標期日を決定するのを支援するために助言を提供している。このアプローチは、目標期日の改正と製品又はプロセスを新たに含めることを反映するために条約本文と付属書の定期的な調整を求めることになる。特にこの目的のためのプロセスは水銀条約案に含めることことができるし、又は委員会が完全な改正プロセスが適用可能であるということを決定することができる。後者の場合は、締約国会議により合意された文書への改正は、参加国にとっての発効の前に各国にる批准を求めることになるであろう。各国はまた、基準線を確立するためにその領土内で使用される水銀の量の分析を行なうことを求められ、その後で、条約順守を実証するために領土内で使用される水銀量を年間ベースで評価することができる。そのような分析の開発は恐らく財政的支援が必要であるということに留意すべきである。

35. 上記で概要を述べた全てのアプローチは、締約国会議が適切な技術的、経済的、社会的情報に基づいて決定することができることが必要であることを暗示している。そのような情報は、締約国会議又はそのような情報を収集し分析し締約国会議に報告することを義務付けられた諮問団体により確立される特別措置を通じて提供されることができる。

36. 過渡期間を通じて、許容される水銀を含有する製品と水銀を使用するプロセスの製造者に水銀を供給する必要がある。許容される用途のために意図された水銀は他の用途に転用されないことを確実にする必要がある。さらに、水銀を含有する製品が製造され市場にある限り、廃棄物の流れを管理し、廃棄物の流れからの水銀を回収してそれを保管し、水銀曝露の結果として生じる公衆の健康問題に対応するために、公衆の知識向上と締約国会議による指針の開発によることを含んで、放出と曝露を削減する必要があるであろう。製品製造と水銀使用のプロセス中の水銀の使用を監視することが条約の効果を評価するために必要となるであろう。締約国間の貿易、及び締約国と非締約国間の貿易が行なわれる場合には、特別の関税コードの使用が考慮することができる。その様なコードの割り当てと使用には時間がかかるので、世界税関機構(WCO)との協議が早期にもたれるべきであることが示唆される。

IV. 委員会のための可能性ある検討

37. 水銀添加製品と水銀が使用されるプロセスを規制するために水銀条約中に含まれるべき措置の検討の一部として、委員会は、本ノート中で提示された可能性あるアプローチを検討することを望むかもしれない。そのときに、委員会は、実施のコスト、実施の相対的な速さ、条約の条項を順守するための各締約国のの能力への影響、及び人の健康と環境へのリスクに及ぼす可能性ある影響のような各アプローチの要素を検討することを望むかも知れない。これらの検討の後、そして製品とプロセスに適用可能な規制措置と討議されているドラフト水銀条約案のその他の条項(特に供給、貿易、保管。廃棄物、及び汚染サイト)を同時に検討しつつ、委員会は、過渡的措置への適切なアプローチを開発するために、可能性あるアプローチのひとつ、又はそれらの組み合わせを使用したいと望むかもしれない。


訳注1

訳注2

訳注3
訳注4


化学物質問題市民研究会
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